自作小説を載せるスレ Chronicle.2 

このエントリーをはてなブックマークに追加
1創造主
自作小説を載せるスレです。

――――決まり
@過剰な叩きを受けても『怒らない』『泣かない』『文句をいわない』
逆切れなんて言語道断だ!!

A途中で投げ出さない
最後まで貫くんだ!

 まあこんなとこかな。あ、次スレはいきなりで悪いんだけど>>2

NG推奨 
・『現代が生み出した害虫』 age虫 別称 糞虫、ゴミ、馬鹿、無視虫
只のスレ保守係。
文に何の面白みも無く、それなのに永遠と作品を書き続け、文句を言われると逆上
利口な様に口を聞くがその実態は屁理屈ばかりの駄目やろう。
『分かり辛い』のづとずさえも間違える。
専用スレ(悪く言えば隔離版)まで建てられているという始末。
と言う事でNG推奨。消えても何ら影響は無い。
2名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 15:11:20
――――決まり
@過剰な叩きを受けても『怒らない』『泣かない』『文句をいわない』
逆切れなんて言語道断だ!!

A途中で投げ出さない
最後まで貫くんだ!

B創造主は責任を持ってスレの創造主として寿命まで書き込み続けること。

>A途中で投げ出さない
>最後まで貫くんだ!

>>1である創造主はAは特にまもるように!最後まで創造主として書き込むように!
これも決まり
3名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 15:17:46
怒っても、泣いても、文句いってもいいけど、
このスレに期待をするとか、何かそういう気持ちを抱いてはいけない。
4創造主:2006/05/23(火) 15:39:07
>>2
次スレ頼んだ
52:2006/05/23(火) 15:46:49
>>6頼む
6創造主 ハゲムシ:2006/05/23(火) 16:06:13
名らん!!な乱ぞ!!
氏名を忘れたのか?


ここでるるーへんこ→

次レスつけたやつがしょうせつかく。うん最高だ俺てんはぃ
7名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 20:50:12
ハゲー
8名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 21:34:22
>>1
「永遠と」ってなに?
「延々と」だろ?

正しい日本語を使おうね。
9名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 22:25:28
>>8
変換ミスの可能性もあるだろうがwなんでそうやって人の揚げ足取っては馬鹿にしたがるのかね?
102:2006/05/23(火) 22:34:00
>>9
そもそも>>1の書き込みでバカにした言い回しが含まれている所に問題がありそう。
11名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 22:52:40
>>9
「えいえん」と「えんえん」では変換する前から違うんだけど?
12名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 22:53:24
まぁ確かに。
でも俺はあげ虫がウザくてウザくてたまらないから別に何とも思わない
13名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/23(火) 22:54:23
>>11
んなことしるか
14あげ虫(σ・∀・)σ:2006/05/23(火) 22:57:09
下等な言い争いだな。
全くなんて愚劣な奴等だ。
お前らみたいなのって社会のゴミなんだよね



さっさとシネ
15あげ虫(σ・∀・)σ:2006/05/23(火) 23:16:00
あげ虫〜
あげ虫(σ・∀・)σをよろしくお願いします〜(^-゜)ノ
16取巣樋:2006/05/24(水) 00:09:11
もう2枚目ですか。
ペンネーム適当過ぎるので変えようかと思ってます。

17名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/24(水) 00:10:54
>>13
ま、結論として>>1はage虫並みの馬鹿だとw
18アゲ虫:2006/05/24(水) 00:39:42
>>16
変えるのはかまわないけど……誰?w
19日本文学の革命:2006/05/24(水) 04:22:48
こんにちは
「日本文学の革命」という文学運動をやっている関場というものです

「日本文学の革命」とは、衰退状態にある現在の日本文学の状況を打破し、日本文学を復活して、
新たに前へと前進させてゆくことを目指す文学運動です

日本文学には、いまだ未開発の大きな可能性が眠っています
これを発掘して実現することができたら、文化や文学はもちろん、
日本社会にも多大の利益をもたらすことができるような可能性です
しかしこのままではこの未開発の可能性を実現できないまま
日本文学は衰亡しかねないのです
それを防ごうと日本文学の復活のために立ち上ったのが
この「日本文学の革命」運動なのです

「革命」の成否は、この運動の知名度を上げられるかどうかにかかっています
「日本文学の革命」のホームページを見て「これは広める価値があるな」と思われたなら
あるいは日本文学の現状を見て「これじゃダメだ。何らかの変革が必要だな」と思われたなら
どうか皆さんの知人や友人やネット仲間に「日本文学の革命」のことを口コミ的に教えて、「革命」の手助けをしてください
お願いします



http://www5a.biglobe.ne.jp/~rjltof/
20名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/24(水) 08:14:58
>>16
サイト持ってないの?
21名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/24(水) 08:33:55
>>19
「〇〇は衰退状態にある」というデマゴーグで危機感を煽るやつって全然説得力ないよね。
22名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/24(水) 10:01:16
終わりなき告発


「では今回の議案について鮮人会議の裁定は決定したニダ。全ては日帝残渣の悪影響であり、全責任は日帝にあるニダ」
「そうニダ!そうニダ!」
「ウリは最初からそうだと思っていたニダ!」
「日帝め!許せんニダ!」
「……だが、我々は何でも日帝のせいにし過ぎではないニダか?」
「う……」
「……では、次の議案は「なぜ我々は何でも日帝のせいにするのか」を徹底討論するニダ!」

(1時間の激論の末、最初に戻る。以下無限ループ)
23あげ虫(σ・∀・)σさま:2006/05/24(水) 21:14:22
誰か書こうぜ
24名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/14(水) 00:40:52
突発的だが、乗せてみるよ。
ショートショートで申し訳ないんだが、みんなの意見を参考にしたいから、
なにか気づいた奴は感想でもいいからカキコしてくれ。
もちろん、駄目だしのほうが嬉しいけどなw
25名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/14(水) 00:43:04
彼女は綺麗だった。
誰に対しても優しかった。
ガキだったあの頃の俺が、ケシゴムを拾ってもらったというベタなイベントで落ちてしまうのも、納得できることだった。
それでも、クラスの誰にも俺の気持ちは話さなかった。
俺はこの思いをずっと胸に秘め、
悪友達とバカをやり、
そのままなぁなぁで3年間を過ごし、
そして卒業式の日を境に、彼女と別れた。
その彼女が今、純白の衣装をまとって俺の目の前にいる。
隣には、俺の知らない男。
名前も知らない、どこぞの馬の骨。
それでも彼女はとても幸せそうに笑っていて、
俺は華やかなヴァージンロードの赤さから逃げるように、その場を去った。


「Marry me」
26名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/14(水) 00:44:28
「おめでとう。」
そんな祝福の言葉が、あたりを飛び交う。
彼女はそれを一身に受け、ただ感謝の意を込め笑っていた。
本当に、幸せそうな笑顔。
今の俺には、痛いぐらいの。
「どうした、こんなところで。」
俺が人目を避けるようにして煙草をすっていると、昔の友人が声をかけてきた。
ほぼ新郎新婦の親戚と同級生で埋まった教会は、懐かしい旧友と顔を見合わせるのには最適の場所だ。
「ああ。別に。少し目が疲れただけだ。」
昔小柄だったその男は、はちきれそうなくらいのベルトに手を当てて快活に笑った。
「ははは。まぁ確かに、あの真っ白な衣装はすこし眩しいな。」
そういうと男はちらりとあちらに目をむけ、そして視線を戻し、大きなため息。
「はぁー。これで独身の奴は俺とお前だけか?」
「いや、クニの奴もそうだ、あとは女子が数人。」
「もう女子って呼べる歳でもないだろう。」
俺は不適ににやりと笑ってみせ、
「そういうな、せっかくの厚化粧を温かく見守ってやろうじゃないか。」
男はまた聞こえのいい笑いを見せ、その後で真剣な眼差しで話しかけてきた。
「お前さ、あいつの事好きだっただろ。」
その言葉に多少なりとも驚きつつ、平静を装いながら答える。
「まぁ、な。」
「悔しいか?」
「まさか。」
そういいながら、俺は重い煙草を口に運んだ。
紫煙が自分の体の中を犯していくのが分かる。
思えば、煙草をすい始めたのもちょうどあの頃からだった。
最初はかっこつけのつもりで軽く手を出して辞めるつもりだったが、十数年たった今でもやめられずにいる。
「まぁ、驚きはしたな。まさか皆次々と結婚していくとは思わなかったから。」
「でもまぁ、田舎の学校の人数なんてたかが知れてるし、割合的に言ったらこんなもんなのかも知れんな。」
男のそんな言葉を聞きながら、くすぶっている右手をボーっと眺めた。
2724:2006/06/14(水) 00:45:43
「なぁ。」
「うん?」
「実はさ、俺あいつの事好きだったんだよ。」
男は少し黙った後、短く、うん、とだけ返事をした。

「あいつ、かなり可愛かっただろ。」

「うん。」

「誰に対しても優しかったし。」

「うん。」

「だから勘違いしちまったんだよ。」

「うん。」

「ばかだなぁ。」

「うん。」

「皆と同じ態度なの、気づいてるのにさ。」

「うん。」

「あきらめられねぇんだよ。」

「うん。」

「ばかだなぁ。」

「うん。」
2824:2006/06/14(水) 00:46:36
「でも、あいつは違うんだな。」

「うん?」

「あいつの隣にいる、いけすかない馬の骨だよ。」

返事はなかった。

「あいつは、違う優しさを受けてるんだろうなぁ。」

「・・・うん。」

「本当に。」

「うん。」

本当に、あの馬の骨には俺にはない何かを持っているのだ。
そしてその何かで彼女を惹きつけ、今日のこの日まで持ってきたんだ。
「まったく、かなわねぇよなぁ。」
「うん。」
うん、そうだな、と男はつけたし、
「そろそろ戻るか。流石にこれ以上サボってると、女子達がうるさい。」
俺は自嘲気味にふっと笑い、
「そうだな、あいつらの努力の結晶でも拝みに言ってやるか。」
そうこなきゃ、と男は笑い、先に華やかな集団の中へと戻っていった。
「ほんと、かなわねぇよ。」
俺はそう呟き、すっかりフィルターまで焦げてしまった煙草を力強く壁に押し当て、携帯灰皿を取り出し、
大事に大事にしまったあと、そっと胸ポケットの中に隠した。
2924:2006/06/14(水) 01:11:27
訂正
2P下から4行目
最初はかっこつけのつもりで軽く手を出して辞めるつもりだったが、十数年たった今でもやめられずにいる。
                     ↓
最初はかっこつけのつもりで軽く手を出しただけだったが、十数年たった今ではすっかり暇つぶしの道具と化している。
にしてください。
30名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/14(水) 22:25:45
これからSFになるの?
3124:2006/06/15(木) 00:49:21
そのつもりです。
SFというよりは、リアルファンタジー、か?
プロローグ見たいな感じで受け取ってもらえれば。
やっぱり、あらかじめ書いといた方がよかったかな・・・。
前述でショートショートって書いたけど、なんか書いてるうちに長くなりそうだから、中編物ぐらいにします。
続きがケリのいいところまででき次第、乗せてきたいと思います。
3224:2006/07/15(土) 23:33:14
核戦争が終結したのは、約1000年も前のことだそうだ。
今となっては何がどうなって戦争が起こったのかは曖昧であるが、とにかく核戦争が終結したときにはもう、
人類の約三分の二は死に絶えていたという。
地上は放射能が充満し、その影響で太陽光がさえぎられ、「核の冬」と呼ばれる長い長い氷河期が始まった。
人類は何とか生き残るすべを模索しながら、地獄のような毎日を送る羽目になったのである。

だがその200年後、さまざまな障害を乗り越えて、遂に人類は生き延びる手段を発見した。
それが、「天上計画」だったという。
「天上計画」とは、放射能によって地上が汚染されてしまったのだとしたら、その影響が届かない遥か上空に新たな大地を築いてしまおう
という、途方もないプロジェクトであった。
始動した当初は、「浮遊する大地を人工の手によって作り上げることなど不可能」として、数少ない学者連盟の全てから猛反発をくらった
そうだ。
だが、プロジェクトチームの努力により様々な技術が確立されていくと、いつの間にか「助かる手立てはこれしかない」と、全世界の人々
が思い込むようになるまで、研究は急速に進んでいったのだという。
人類がそのプロジェクトを実現させるまでに、そう時間はかからなかった。
そして2267年、「天上計画」成功、浮遊大地「airth(エアース)」完成。
開発者グループは絶大な感謝と賞賛を受け、それを称えて企画草案者「リョウコ・アイバラ」の家系を王族として立憲し、王政復古。
こうして「エアース王国」が誕生した。
3324:2006/07/15(土) 23:34:24
・・・というのが、この国の成り立ちらしい。
まぁ、つまり。
俺達の立っている大地の下には、今も核兵器によって汚染された地上が存在している、ってわけだ。
そんな途方もない話、信じられるだろうか?
俺が今まで見てきた全ての物が実は人工的に作り出された物で、自然界のものなど端から一切存在していないなど、信じられるだろうか?
それに、もしそんなに大それたことが実現可能なら、何でこの世の中はこんなに不便なんだ?
大地を浮かせることができるなら、車を浮かせることだって可能だろう。
王政復古をしたはずならば、王族による独裁政治をしていてもおかしくはない。
地上にいた人類が皆この国に移住しているのだとすれば、もっと経済は活発に変動しているはずだろう。
だが実際に、車はいつまでも地べたを這いずり回り、王族がいながらも民主政治が主体で、経済活動は常に一定のGDPを保ち続けている

おかしい。
何かがおかしい。
ファンタジー小説の主人公でありながら、普通の三流企業に通っているサラリーマンのような、「ズレ」を感じる。


俺がその陰謀を知る羽目になったのは、あの結婚式の翌日の出来事であった。
3424:2006/07/15(土) 23:40:32
一ヶ月以上もかかってしまいましたorz
でも、あらかた内容は決まったので、これからはもうちょい早めにいけると思います。

っていうか、GDPがはたしてあっているのかどうか不明。
そして改行が変になってしまっている・・・。
分かりづらい&見づらくてスマソ。
35名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/10(木) 04:37:14
設定はまあまあなのに文章力は小学生並だな
36こうですか? わかりません:2006/08/15(火) 21:19:00
 僕はずっと、彼女にあこがれていた。
 その芽吹いたばかりの双葉のような生命力、若い鹿のような躍動感、
風に身を寄せる黒百合の髪には、神々しささえ感じていた。
 この手にするのがいつになるか、僕は恐れ、望み、待っていた。
 そう、そして君は困ったように髪をかきあげる。まずは自分の部屋を
見回す。ブルーグレイのベッド、レースのカーテン、メタリックカラー
のキッチン。懐かしみ、確認するように君は見回す。
 ああ、やがて朝になる。毎朝、確かここの玄関を君の友人が挨拶しに
戸を叩くね。きっと一番は、彼女になるだろう。
 君がそれを望むなら、そのときまで待っても構わない。僕はずっと、
ずっと待っていたのだから、今更数時間、どうってことは無い。
 答えは分かっていた。君は迷わず来てくれる。
 本当は迷っているのかもしれないね。そういうことは、頑固に隠し
通す子だから。
 良いのかと聞けば、君はすぐに返すだろう。良いわけが無いだろう
と。そういうさばさばしたところにも、僕は惚れ込んだのだから。
 さ、そろそろ夜明けだ。もう行かなきゃならないね。君は最後に、
もう一度だけ自分の部屋を見回す。ブルーグレイのベッド、レースの
カーテン。苦しげな顔でその端を掴む、君自身の亡骸。
 さよならと短く告げて、君は僕の手を取った。
 うん、行こう。
 僕はこのときを恐れてた。
 僕はこのときを待っていた。
37名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/18(金) 19:30:24
投稿しようと思ってるんすが…
投稿者の名前は書いてたほうがイイ?
38名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/19(土) 10:08:47
話が長めならあった方がいいと思われる
39魔王 ◆2MAOWwLwiA :2006/08/19(土) 16:18:46
age
40名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/20(日) 10:03:12
誰か書くんだ!!
41名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/21(月) 14:49:55
小説書いてみたいんで、文章書くのにいいフリーソフトとか教えてもらえると
うれしいです。ちなみにOSはMEですw
42名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/21(月) 15:14:03
43名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/21(月) 16:54:33
わけ解らん
44名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/22(火) 08:24:57
中三の夏休み


プロローグ

行ってらっしゃい、気をつけてね。
 そう言ってオロナミンCを俺達3人にわ渡してくれたこのメガネをかけたこの人は、タケルのお婆ちゃんだ。
 タケルとは俺の友達で、髪の毛が長めの色男であり、メガネ好きだ。メガネをかけてる女はかけてない時の3倍カワ
イイ。とか言ったり、授業中に急に奇声を発したりする変な奴だが、なぜか結構モテる―――やっぱり顔がいいからだ
ろうか。
 ありがとうございます。と言って、ちょっと炭酸がキツい薄黄色の栄養ドリンクを飲むと、こんどはスポーツドリン
クとオニギリを持ってきて、喉が渇いたらこれ飲みなね。と言って俺達に一本ずつペットボトルを持たせた。
 俺達はちょっと白くに濁った青いラベルがついているスポーツドリンクを、自転車のフレームに付いているドリンク
フォルダーに装着し、オニギリを自転車の横に付いているサイドバックに入れて、ありがとうございます。と言うと、
家の中からガタイのいい30歳中盤くらいの男がでてきた。ここはタケルの父親の家の駐車場兼庭である。

45名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/22(火) 08:26:39
 タケルの父親は警察官で、たしか階級(?)は部長である。時々釣りとかキャンプに連れて行ってくれる。
 タケルの親は離婚していて、自転車で5分くらいのところにタケルとタケルの母親と姉が住んでいる家がある。タケ
ルの母親はタケルが父親の家に泊まりに行くことなど気にしていないようだった。まあ俺にはプラスになることはあ
ってもマイナスになることはないからいいけどな。(タケルの父親の家は広くて、なぜかジュースとお菓子が沢山常備
されていて、食べ放題飲み放題だったし、タケルの婆ちゃんがご飯もつくってくれる。)
 「タケル、気をつけろよ、お前よく転ぶからな。」タケルの父親はそう言って言って眠たそうな目を擦っていた。
―――そう今は朝の4時過ぎですこし薄暗い。それなのにクソ暑い。まあ寒いよりいいが。 
 アルーといって駐車場の横にある柵のなかにいるアルと言う名前の(一応血統書付きらしい)ダルメシアンとあそんで
いる吊り目の髪が短めの男はシュウジと言う。シュウジは普段は普通(でもないが、普通ということにしておこう。)の
やつだが、怒ると釣りに使う錘を投げたりする。しかも何かと人のせいにする。道に迷ったときも賛成していたはずな
のに、「だからこっちじゃないっていったじゃねえか」とかいう。しかも自分の選んだ道が間違っていたりしたら「だ
ったら付いてこなければいいじゃねえか」と言う。うあまり期限を損ねると危険な人物だ。シュウジの親はシュウジを
いい子だと思っているが俺達のグループのなかでは一番アブナイ。自分はケンカが強いと思ってるが、本当は加減を知
らないだけなのを本人はしらない。些細なことですぐ殴ったりする。(でも殴られ役はタケル)。    
 そして俺はタケルほどではないが、髪は長めの男である。人はみな自分は普通だと思うらしいのだ。つまり俺は自分
のことを普通だと思っているので、他に書くことは無い。
 俺達は自転車にまたがるとタケルの父親の家を出発した。
 そう、俺達はいまから旅にでるのだ。旅といっても神奈川一週釣りの旅という数日で終わる旅の予定だったが。俺達
はこの数日で旅で夏休みの思い出を作るつもりであった。

 ―――だが、この旅は数日では終わらなかった。
なぜだ? 
それは後で語ることにする。

ヒマつぶしでかいた。反省はしていない
46名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/22(火) 14:02:42
下手すぎ
語学を学びなおせ
47名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/22(火) 17:56:29
最初は友達に見せた方がいいぞ、小説。それで自信が付いたらネットに進出すればいい。
最初の小説をネットで酷評されて筆を折るよりはずっといいと思うんだが……
48名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/22(火) 18:04:04
そだな
けど
俺は自信がなかったからネットに貼って
友人達に見せたら好評だたよ
その後少し広まってた…
49名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/23(水) 00:08:53
優しいか、甘いか、低脳か
50名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/23(水) 17:48:22
文句だけはちゃんと書くんだなここの板の住人は
51名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/23(水) 18:00:31
反応があるだけでもありがたく思わんと…
52名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/23(水) 19:45:55
自分小説を作っているのですが、
親友に殺されるシーンを作りたいんです。
けど殺され方が思いつかず行き詰っています。何か案はありませんか?
出来れば身近な道具使用希望(箸で目を刺すとか)。
53名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/23(水) 19:59:12
>>52
目を開かせて、そっと安全剃刀で目の表面を裂く。目は普通に痛いが、精神的ショックは満点。
瞼を切る。するとまばたきができず、目が猛烈な痛みに襲われる。
逆に瞼を縫い付ける。そこで激しい音を出す。神経衰弱を起こす。
舌をナイフで二枚に裂く。
粘膜という粘膜にハバネロを塗る。
1円玉を大量に詰めた皮袋で叩きのめす。
空焚きした鍋に顔を突っ込ませる。

以上の拷問の準備が整っていることを相手に教える。絶望に顔を歪ませたところを安心させて、そこでボールペンを首の頚動脈に刺す。
この時の絶望も安心もない、痴呆じみた表情は、もっともそそられる表情である。
5424:2006/08/26(土) 01:08:59
その日はいつも通りの時間に起きた。
ピーピーと騒がしい目覚まし時計を黙らせ、少し布団の中でもぞもぞと動く。
低血圧のため中々布団から抜け出せない俺にとって、それは毎朝の儀式のようなものであった。
シーツを手繰り寄せたり枕を抱いてみたりしているうちに、意識が次第に覚醒してくる。
そうなると重い体を無理矢理起こして、それから再び時計を見やるのだ。
時刻は6時34分。
予定通りの時刻に満足した後、ゆっくりと立ち上がり顔を洗いに台所へと向かう。
と、向かう途中で机の上に作りかけのカップラーメンを発見した。
・・・いつの間に?
そう思いながらも恐る恐るふたを開けてみる。
すると何の前触れもなく麺がもさぁ、と飛び出してきた。
慌ててふたを閉める。
び、びっくりした・・・。
恐らく昨晩作ったまま忘れて寝てしまったのだろう。
何故だかは・・・覚えていない。
酔っていたからだろうか。
そんな事を考えつつ歯ブラシを手に取り、口の中を丁寧に磨く。
その後口をゆすぎ、少しの水を手に汲み取り顔を洗う。
冷たい水で完全に意識が覚醒すると、ようやく頭がガンガンと響いてきた。
どうやら二日酔いらしい。
とりあえず何か食うものが無いかと辺りを探してみるが、残念なことに朝食というにはあまりにお粗末なものしか集まらなかった。
軽く舌打ちをした後、壁にかけてあった背広を手に取る。
今日は近くの蕎麦屋で済ませよう。
そう思い一頻り着替え終わり靴を履いて玄関の戸を開けると、眩しいくらいの朝焼けが俺を照らしてきた。
まだ外は、寒い。
5524:2006/08/26(土) 01:09:34
「では次のニュースです。先日の国会において提出された王族廃止案をめぐって、今日、飯島首相を含めた各党代表会議が開かれる模様で

す。」
俺は目の前に置かれた蕎麦を飢えたゴリラのようにむさぼりつつも、わずかな神経を流れるニュースへと向けていた。
店のおばちゃんは備え付けられたテレビに向かって「大丈夫かねぇ」と言っていたが、馬鹿な俺には何を危惧しているのかすら分からない


王族があろうがなくなろうが、俺の仕事の給料に関係してくるわけでもない。
たぶん。
「おばちゃん。蕎麦湯。」
「はいよ。」
おばちゃんはすぐさまヤカンを出してくれた。
さすがに常連客相手だけあって、その対応はすばやい。
「ありがとう。」
「はいはい。」
おばちゃんはそう言いつつにっこりと笑ったが、すぐさま不安そうな顔に戻した。
「それにしても、王族廃止になったら由紀様は大丈夫なのかしら。」
そうか、さっきはそのことを言っていたのか。
「由紀様って、あの『病弱だから』とか言って監禁されてる?」
「ええ。」
「そりゃ、そこら辺はお国も考えているんじゃないか?」
さすがにまだ12歳にもならない病弱な少女を見殺しにするほど、お国も残酷ではないであろう。
それにそんなことになったら世論の反発を買うこと必死だ。
「そうだといいんだけど。」
それでもおばちゃんの表情は曇り空のままだ。
大体、王族だからといって何で俺らが他人の家の子供の心配までしなきゃならないんだ。
他所様のことに対してあんまり深く考えないほうが、双方にとって最良の方法であるのは明白だろう。
「ごちそうさん。おいしかった。」
「あらどうも。今日はちゃんと出勤するんだよ。」
「分かってるよ。」
俺は500円玉を一枚配膳と共に渡すと、席を立って店を出た。
5624:2006/08/26(土) 01:13:20
まだこの時間帯は辺りのビル街も従来の静けさを取り戻して閑散としていた。
二日酔い特有のけだるさと頭痛が、いまだに襲ってくる。
俺は胸ポケットから煙草を一本取り出し、火をつけた。
それと同時に昨日の結婚式の事が脳裏に浮かぶ。
「・・・結構、本気だったんだけどな。」
今更彼女が好きじゃなかったなどとはいわない。
卒業してからもそれなりに悩みもしたし、告白しようとした事だってあった。
しかし、結局出来なかった。
俺は最後まで逃げ続け、自分の気持ちに嘘をつき続けた。
彼女の隣にいたあの男のように、自らの胸中を語ることは無かった。
怖かったから。
拒絶されたら耐えられそうに無かったから。
・・・情けない。
俺は吸った紫煙を大きなため息と共に吐き出した。

そのときだった。
5724:2006/08/26(土) 01:14:13
前方で大きな爆音が轟き、それと同時に固いアスファルトが小刻みに揺れた。
危うくバランスを崩しそうになるが何とか片足でこらえ、慌てて目の前に意識を集中させる。
何だコレは!?何が起こった!?
次の瞬間、俺はそこに映った光景を疑った。
銃を持った男達がすばやく列をなし、ビルの中から出てくるではないか。
そしてなにやら隊長格のような人物が後ろの隊員に声をかけ、自分はトランシーバーで現在の状況を大まかに説明しだした。
「金松ビル破壊完了。隊員二名死亡。一般人も数名。数は不明。目標は尚も逃走中。引き続きトレースを続行する。」
隊長がトランシーバーを口から放すと、ものすごい速さで機関銃の音が響いた。
同時に、生々しい悲鳴も聞こえてくる。
「砲撃やめるな!撃て!」「くそっ。もう追いついてきたか。」「姫様はそのままお逃げください。」
何だ何だ。何なんだ一体!?
奴らは何でいきなりビルを破壊しだした!?
っていうか死亡?!
俺はパニックに陥っていた。
蕎麦屋から出たらそこは戦場でしたなんて、どこのギャグ漫画だ。
冗談にしてはたちが悪すぎる。
そして破壊されたビルの名前を心の中で復唱してみた瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。
金松ビル?それって・・・。
「俺の、会社・・・。」

二日酔いはどこかへ行ってしまった。
5824:2006/08/26(土) 01:19:13
更新遅くなってるし・・・。
文章を書いていると、いかにプロの作家達が凄いか分かる。
低脳な俺ではこれが限界だよ・・・。

>>35
文章力が小学生並でスマソ・・・。
でも設定がまぁまぁってことは、まだいけるって事・・・かな?
文章力の向上目指してがんばるよ。
すぐには無理だけど・・・。
59名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/26(土) 14:07:46
24

文章は普通レベルな上に設定はパクリ+無理がある

「神の眼の衝突により粉塵が空に舞い、長い氷河期が訪れた。人々は凍えから生き残るために、神の眼を構成する結晶体を用いて、大地を空に上げ、天上を作った。」
TODのパクリですか?
60名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/26(土) 19:06:59
文章が


無料ゲームサイト[モバゲータウン]って、おもしろいよ!登録してみてね〜 http://mbga.jp/AFmbb.vevA1958fd/
6124:2006/08/26(土) 22:30:36
>>59
核兵器をテーマにしたかったので、核の冬ははずせないと思いました。
その上で偽りの平和のようなものも用意したかったので、必然的にTODに似たようにはなってしまいましたが・・・。
でも無意識のうちに影響されてるところはあるとおもいます。
TODと違うところは、神の眼のような超越的な存在が無いというところでしょうか。
設定に無理があるのは・・・これから明かされていくって事でorz
62KANNNA:2006/09/01(金) 02:54:02
書いてみたら、我ながら脈絡が無い…。
「ねぇ、僕たちの人生って一体なんなんだろうね…」
「何だよ、それ。『人は何処から来て何処へ行くのか』的な話か?」
「うん、それもあるけど。ほら、人の一生って短いじゃない」
「ああ、確かに。人間…どれだけ頑張っても百ン歳までしか生きられないもんな」
「そう。もし仮に将来『長生きできるようになる薬』なんてのが発明されたとしても、たかが知れてるだろうしね。それだって、永遠に生きられる訳じゃない」
「まぁ、そうだろうな。科学がどれだけ発達したところで人間の限界なんて見えてる」
「だね。で、ここで僕が言いたいのは、そんな『短い人生』の中で、一体何を為すかって事なのさ」
「ん?それって、一生を終えた時点で果たして自分が何を残せるかって事か」
「うん。人間、生まれたのには必ず意味がある…ってな訳じゃないけど、何かひとつでも目的やら意義が欲しいでしょ?」
「ああ、なるほど。そういう事か。けど、それってそもそも前提として間違ってないか?」
「え、どうして?」
「だって、その疑問って…この世界自体に意味があるっていう仮定の元に成り立ってるだろ」
「あ、そうか。無意味の上に意味は成り立たないんだ」
「そゆこと。ま、無意味って決まったわけでもないんだが。けど、それだと『人は何故死ぬのか』って問題にまで首を突っ込んじまうからな」
「この際だから、神様を引け合いに出すのは?」
「ハッ、柄じゃねえやな。まぁ、そこらへんは『永遠の謎』ってやつで…」
「うん。結局、『ただひとつの答え』なんて無いんだろうしね」
「一つだけでも答えがあるかどうかってのも怪しいもんだがな」
「けど、それでも僕は信じるよ。自分が何かを為せるってね」
「ははは。まぁ、自分が納得できるようになるまで好きにすればいいさ。時間は短いけれど、人独りにとっちゃ零れそうなくらいにあるんだから」

63KANNNA:2006/09/01(金) 16:13:14
「夢」

夢を見ている。
終わらない夢、醒めない夢、永久に続く夢を、どこまでもどこまでも…。
例えば、古ぼけた映画館。
ガラ空きの席、観客は自分独り、画面にはノイズ雑じりの遠い記憶。
例えば、縁日のお祭り。
石畳に響く下駄の音、浴衣姿で駆けてゆく子供たち、ふわふわ揺れる綿菓子。
幼い頃の自分、何も知らなかった自分。
夢見る頃はとうに過ぎて、それでも夢は終わらない。
ずっと、ずっと、続いてゆく………。
64名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/01(金) 18:41:25
通常DNAは二重らせん構造だが、世界中で少なくとも5人の人間がリング型の構造のDNAをもっていて、その構造は不老不死の構造となっているために病気や事故以外では死なない。しかし生殖機能がない。
65KANNNA:2006/09/01(金) 20:59:48
テキトーな話だったらでっち上げられるんで、要望なにかあったらどうぞw
66名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/02(土) 08:04:33
なんだよ要望って…
67KANNNA:2006/09/02(土) 13:18:41
ん〜、『こんな感じの話がいい』とか。
68名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/02(土) 14:11:54
職業小説家じゃないんだから、自分の好きなもの書けば?
あと、でっちあげの小説でウケ取れるほど住人は甘くないよ
69KANNNA:2006/09/02(土) 15:23:20
左様でございますか。う〜ん、短編でも書いてみようか・・・。
70KANNNA:2006/09/02(土) 16:35:02
『瓦礫の街』

「お一人かの?」
と、馬車の中で居合わせた紳士が尋ねた。
いかにも高級そうなタキシードとシルクハット、黒いステッキに片眼鏡まで身につけた、絵に描いたような老紳士である。
客は他にも数人いるにはいるが、眠っているのか、俯けたまま顔を上げようとしない。
時刻は宵の口。窓から見える風景は、砂礫の大地と昏い夜空で二分されていた。
ゆらゆらと、吊るされた石油ランプが揺れる。
「そちらさんは、何処まで行くつもりだね?」
再び、老紳士は尋ねる。
先程は無視されたにもかかわらず、柔らかな態度を崩そうともしない。
私は外の景色を眺めていたかったのだが、仕方なしに彼と向き合って答えを返した。
「この先に私の故郷の町があるのです。十年前に出て行ったきり一度も戻ったことはありませんでしたが、久々に帰郷しようかと思いまして…」
「それはそれは…」
何が可笑しいのか、老人は皺枯れた声でくつくつと笑う。
私は何故かは解らないが不愉快になって、彼から顔を背けてまた窓の外を見始めた。
それから、どのくらいの時間がたったのだろう、笑うのを止めた老人は唐突に語りだした。
「これは少し前に聴いた噂なんじゃがのう、この先には昔…とある町があったそうな。機械の町とでもいうのかのう。そこでは機械人形があたかも人のように生活しておったという話じゃ」
「………」
私は無言でその言葉に耳を傾ける。
「その街は一人の男の手によって創られたそうじゃ。彼が何を思ってそんなことをしたのかは知らん。じゃが、ある日…彼は忽然と姿を消したそうな。
そして、気がつけば町は滅びていた。いや、もしかすると彼が消えた時点で既に滅びておったのかもしれん。町全体に火事にでもあったような焦げ痕が残っとるらしいからのう。まぁ…なんにせよ今ではもう、そこは終わってしまった瓦礫の町だという話じゃ」
語りを終えたらしい老人は、ふうと大きく息をついて私に尋ねた。
「お前さんはどう思うかいのう、その男と町の話を。よかったら聞かせてはくれまいか?」
私は少し思案した末、こう応えた。
「それは良かった。これで私はやっと眠ることが出来る」

馬車は走る。朝焼けの大地を目指して。瓦礫の町を目指して―――
71KANNNA:2006/09/02(土) 16:36:56
続きいる?
72名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/03(日) 03:33:29
>>70
続きくれ
73KANNNA:2006/09/03(日) 04:38:43
「それは良かった。これで私はやっと眠ることが出来る」
そうして、脇においてあった毛布を肩に掛け、帽子を深めに被り、顔を俯かせた。
目蓋を閉じて、自己の中に埋没し、思案する。
傍から見たら、今の私も他の乗員たちと同じく眠っているように見えるだろう。
けれど、実際は違う。
明確に保たれた意識の中では、かつて見た光景が次々と浮かんでは消えていった。
過ぎた日の残滓。
失ったものと新たに得たもの。
過ちの記憶。
終わらない慟哭と燃え盛る火炎。
あの日、あの時、私は火の海の中で泣いていたのだろうか―――。

そうして、馬車はその場所に着いた。
無人の街。かつてそこには、一人の男と大勢の機械人形たちが暮らしていた。
今は廃墟。残されたものは瓦礫の山と焼け焦げた建造物の一部のみ。
私はそこで馬車を降りた。
他に降りる乗客などいない。
当たり前だ。こんな辺鄙な場所で、荒野の真ん中で馬車から降りるなど、死に行くものでしかありえない。
馬車は再び走り出す。
地平線の彼方。
その先にある、遠い遠い、人のいる街を目指して―――。

私は瓦礫の町並みをゆっくりと進む。
所々に壊れた機械人形の、手やら足やら身体の一部が無造作に転がっていた。
ひとつ、手に取ってみる。
長い時間をかけて風化しかけたソレは、少しだけ強く握ると、いとも簡単に砕け散った。
こんなにも、あっさりと。
まるでそんなもの、最初から存在しなかったみたいに。
細かな破片となって散らばってゆき、手には色ととりどりのコードだけが残された。
ソレを―――。
それを見つめながら、私は古い記憶に思いを馳せた。
74KANNNA:2006/09/03(日) 13:29:10
周囲の人々のことを思い浮かべる…。
親しかった友人たち。仕事仲間。見知った顔の誰彼。
家族のことを思い浮かべる…。
妻と娘。近所でも評判になるほど私たちは仲が良く、決して裕福ではなかったが穏やかに暮らしていた。

私は機械技師の仕事をしていた。
細かい作業を行うのが得意だったからだ。
中でも歯車仕掛けの、カラクリ人形を作るのが好きだった。
小さなものから大きなものまで。様々な形の人形を作っていた。
その当時、私の夢は人間と機械人形が共生できる社会を作り上げることだった。
時に機械が人の僕として、友人として、家族として、人間と共に歩めるようにと…。
そして、私はその為の実験を行った。
作成した機械人形のひとつに擬似人格を植えつけたのである。
実験は成功し、その人形は人格を持つに至った。
人格の基盤には私の娘のデータを用いて、外見もできるだけ娘に近づけた。
娘と機械人形を引き合わせると、二人とも手に手をとって喜んだ。
まるで、双子みたいだ、と…。

しかし、期せずして悲劇は起こってしまった。
二人を会わせてからしばらくすると、娘と人形は互いを嫌悪するようになった。
私が理由を尋ねると、二人とも声を揃えてこう言うのだ。
「まるで鏡を見せられているようで、気分が悪い」と。
娘と人形は、人格の面に関しては、ほぼ同一の存在。
つまり彼女らは双子などではなく、機械人形はまるっきり娘のクローンと言えた。
75KANNNA:2006/09/03(日) 14:08:53
二人はやがて、敵視し合うようになり、そして―――。
機械人形が娘を殺した。
私はそのことがきっかけで妻と別れ、機械人形と一緒に街を追放された。
我々は当ても無く荒野を彷徨い、この場所にたどり着いた。
かろうじて水脈があり、近くには鉱山も存在する。
此処に第二の我が故郷を。
機械人形の街を作ろう、と。
連れて来た機械人形たちと共に家々を建て、街を作り上げ、彼らに…かつて親しかった人々の人格を植え付けた。
しばらくはそれで幸せに暮らしていた。
しかし、ある時…ふと思ってしまったのだ。
これは嘘だ。
こんなのは間違っていると。
疑念は日に日に大きくなり、ついに私はこの街を壊すことを決心した。
家屋に火を放ち、街を焼き尽くした。
私は走った。追いすがる娘や妻の悲鳴から、彼女たちと同じ姿をした機械人形から。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げた―――。

そして、10年。
今、街にかつての面影は無い。
私が戻ってきたのは街が滅びたことを確認するため、そして―――。
この場所で、最後の時を迎えるためだ。

私は地面に仰向けに寝転んだ。
どうせ死ぬために来たのだから、服が汚れても構わない。
遥かな地平からは日の出が覗き、空は青く澄み渡ってゆく。
日が昇れば、私などものの数時間で干からびてしまうだろう。
それでいい、と。
此処で機械人形たちと同じように朽ち果てるのが、私にはお似合いだと。
そう呟いて、私はゆっくりと目を閉じた―――。

                       《終》
76KANNNA:2006/09/03(日) 14:11:47
あ〜、書いてみて思ったけど、2チャンネル受けする話じゃないような…。
77名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/04(月) 04:03:37
キノっぽい、でも好き
78名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/04(月) 08:15:11
なかなか楽しめた。というか前スレと現スレの中では一番面白い。
79KANNNA:2006/09/04(月) 13:56:06
ありがとうございます。
一応、童話っぽくなるように意識したから、構想がキノと似てるっぽいw
80名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/04(月) 16:23:13
オリジナル小説です。
まだ途中ですが、ゲルドリックの活躍にご期待ください!
http://title07.blog70.fc2.com/
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 巨乳!巨乳!
 ⊂彡
81名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/04(月) 17:02:24
主人公が変態みたいで読む気うせる。
読んだ人感想書いてくれ。楽しかったら読む
82名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/05(火) 04:14:19
>>80
日本語ができてない。推敲するべし。話はそれからだ
83さんさん:2006/09/15(金) 22:39:37
超短い小説です。ほんわかした物語を作ろうと思ったらこんなのになってしまいました。

「お父さんはね、空に行ってお星さまになったのよ。」
母親が子に告げた。
「お星さま?いつ帰ってくるの?」
子が母親に聞き返す。
「・・・それがお母さんにもわからないのよ。」

それから3週間が過ぎた。
それでも父親はまだ帰ってきてはいなかった。
「お父さん遅いな〜。早く帰ってこないかな?」

それから2週間ほど経ったある日、少年はお父さんに会いにいこうと考えた。

お母さんは、お父さんは空に行ってお星さまになったと言った。
それなら僕も空に行ってお星さまになればいいんだ!

少年は星の出てる夜に自宅の屋根へと登った。
「あの月を掴んで空に登るぞ」
夜空にぽっかり浮かぶ満月を見て考えた方法だった。
「う〜ん」
だが、月に手を伸ばしてみたが一向に届かない。
「届かないな・・・そうだ!」
今度は自宅の倉庫から脚立を取り出し屋根の上まで持っていく。
「よし、これなら届くはずだ!」
少年は屋根の上に置いた脚立に登り月を掴もうと手を伸ばした。
それでも、少年の手は月までは届かなかった。
「これでもだめか・・・もうちょっとで届きそうなんだけどな〜」
少年は諦めると、星の出ている夜空を見てこう思った。
「お父さんはどうやってお星さまになったんだろう?」
84さんさん:2006/09/15(金) 22:40:28
(つづき)

次の日、少年はお母さんに聞いてみた。
「お母さん、お父さんはどうやって空まで行ったの?」
少年の質問にお母さんは、
「お父さんはね・・・事故だったのよ。あの日、仕事でとあるビルの窓拭きをやっていたわ。あのひとは・・・バカね。誤って20階ぐらいの高さの所から落っこちてしまったわ。」
と呟いた。
「あら、私ったら・・・」

高いところから落ちて空に行ったの?
高いところから落ちれば空にいけるの?
少年は考えた。


それから後日


ビルの上から飛び降りた小さな子供の死体が見つかったのを母親は聞いた。
85名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/17(日) 14:32:02
同じ展開の話を見たことある。

こっちより、そっちの話の方が楽しかったけど。
86名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/02(月) 02:02:01
ここの住人はつくづく辛口にしたがるよなwもう少し正直になったほうがいいのではww
87名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/02(月) 23:15:56
よーし評価難易度下げよう
88名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/06(金) 02:01:03
友達と一緒に作りました。感想判に感想お願いします
http://story.awalker.jp/emon/
89名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/06(金) 03:24:44

      ,. -─ '' "⌒'' ー- 、 ハ°カ !    __,,. -──- 、.
    ./ ,r' ´  ̄ ̄ `'' ‐-r--、     r=ニフ´  ̄ ̄ ~`` ‐、 \
   /      ,r--‐''‐ 、.._,,二フ-、  ,. -‐゛ー-‐ ''、'ー--''-_、    \
 /       /     , '´    ,.イVヽ__     }ノ´二 -‐ヽ._    \
        {       i     >∴∴∴L    ,'ー 'ー ''´ ̄}
         ト、     !.     〈∴∴∴/ }    /      ,.イ
         ヽ、___ヽ、  ./\∴ /    ̄レ'   _, ‐'
  、             " `,二ヽ!  /∴ .|      r''二  ̄
    ` ‐- 、..__,. -‐─┴─'  /∴∴|       ゛─‐'--''─- 、..___,.  
                  /∴∴ \
                 /∵∴∵∴\
                /∵∴∵∴∵∴\
               /∵∴∴,(・)(・)∴|
               |∵∵/   ○ \|
               |∵ /  三 | 三 |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |∵ |   __|__  | < うるせー馬鹿!
                \|   \_/ /  \_____
                  \____/
90名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/07(土) 00:17:40
>>88には何というツッコミをすればいいのだろう……この文は劇か何かの台本か?というか内容が酷すぎる。こんなの読ませるな。

って、もしかしてこれって釣り?
91名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/08(日) 14:05:37
>>90
素だと思われ。携帯ホムペではよく見るレベル
以前、1ページ(全角500字位)毎に後書きがある自称小説を見たことがあるよ……ざっと欠点指摘したら、一日後にはページが無くなってたw
92名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/09(月) 11:18:51
>>91

それ素晴らしすぎるw
93名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/11(水) 18:33:26
あの女マジウゼー。陰湿ないじめが大好きなのはわかったから、そろそろその醜い自己主張は止めてさっさと死ねよ。あ〜殺してー。ブスの癖に仲間連れて粋がってんじゃねぇ。もう耐えるのは我慢の限界なんだよ。死ねやブタ女。
94名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/11(水) 19:36:14
↑素晴らしい小説でした

皆さんどんどん書きましょう
95名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/19(木) 22:58:15
僕の友達のサイト。結構面白い小説がある。
ttp://www.geocities.jp/matces_okayu/index.html
96名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/20(金) 22:35:03
面白い面白くない以前に、件の友人に、日 本 語 を 書くよう言ってください。投稿者の文には二、三引っ掛かるものがありましたが、断じて『小説』ではありません。
あと、知人のページを不用意に2chに晒すな!
97名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/23(木) 00:31:44
ショートショートを書いています。
少し長いのでリンクで……。
http://ameblo.jp/kaniseizin
よかったら感想ください。
98名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/23(木) 17:58:05
そもそも金斗雲は哲学(形而上学含む)の部類とは無縁だと思いました。

内容は自己満足の面が強く出てる気がしたので、途中から読む気が失せました。
読んでもらいたいなら、読んでもらうための小説を書いてください。
以上
99カニ:2006/11/24(金) 16:14:59
>>98 わざわざ読んで頂いて、ありがとうございます。
読んでもらうための小説を書けるよう努力します。
100「銀河大戦争」第1回:2006/12/17(日) 00:41:56
西暦2356年の地球。
人類による宇宙開拓はいくつかの災難をくぐり抜けながらも順調に進み、
銀河系におけるフロンティアはほぼ消滅していた。
しかし、ここにとんでもない漢が誕生する。その名を宇宙魔王。
魔王は突如として現れ、超能力を駆使して流刑星を次々に襲撃し、
犯罪者を解放。銀河の外れの惑星ペログリに神聖銀河帝国を建国し、
人類は皆忠誠を誓えと迫ったのだった。
事態を重くみた地球政府は討伐隊を派遣したが全滅。
また派遣したが全滅。またまた派遣したが全滅。またまたまた
派遣したが全滅。 遂に大統領はさじを投げしかとを決め込んだが、
目立ちたがりの魔王が許すはずもなく地球に向けて特大バズーカ
“まおうのちから”を撃ち込み、破壊。地球政府は消滅し、
統制を失った宇宙軍は散々になり銀河の各地で軍閥を形成したが
圧倒的な強さを誇る帝国軍に各個撃破される。
そして帝国歴3年。終に銀河は統一されてしまった。しかし――。
101「銀河大戦争」第2回:2006/12/17(日) 00:43:16
大統領の忘れ形見であるヨウイチがいた!彼は地球破壊の直前
気球に乗って宇宙へ脱出していたのだ!月に漂着したヨウイチは
そこで生涯の恩師となるウサギのピョン太老師と出会い、
死ぬ程の修行を半年続けた挙句秘技“きれいなこころ”を伝授される。
喜ぶヨウイチはすぐさまペログリに旅立とうとするが
老師はそんなヨウイチを半殺しにしてまだ早いと穏やかに諭す。
痙攣するヨウイチに老師は魔王は実は息子だと打ち明け、
自分の心の整理がつくまで闘うのは待って欲しいと頼む。
恩師には逆らえないヨウイチは渋々これを承諾。更に修行に励む。
102「銀河大戦争」第3回:2006/12/17(日) 00:45:23
一方魔王は増々調子に乗り、贅沢三昧の日々を送っていた。
そこに腹心の一人ねずみのチュー吉が嫁取りを薦めた。
「水星のプリンセス“リエゾン”ならうってつけでっせ。
何せ顔は綺麗だし巨乳で尻も安産型だし性格も良いおまけに
名器と来てる。これ以上のバシタはちょっといませんぜ。げへげへ」
「アヌスの具合いはどうだ?」
「そりゃもうキュッとしまって未開発。これに初めての肉棒を
ぶち込む快感たるやもうたまりませんぜ。げへげへ」
魔王はニンマリと笑い早速水星に向けて大軍を差し向けて
リエゾンを寄越せとねじ込みました。リエゾンは結婚を拒否しましたが
ビビりの父王は承諾してしまいます。
「お父様、私が可愛くないの?」
「もちろん可愛いとも。しかし私には臣民の安全を守る義務がある」
「ゴミみたいな民衆のことなんて知ったこっちゃないわ。
いざとなれば財産かき集めて亡命すればいいじゃないの」
「しかし銀河は全て魔王の庭。どこにも行けないのじゃ」
遂にリエゾンは結婚を承諾しました。初夜。荒々しい魔王の一物を
を花芯に受けたリエゾンは息も絶え絶えに霰もない声を挙げました。
そしてその声は遠く月にいるヨウイチの許へも届いたのです。
103「銀河大戦争」第4回:2006/12/17(日) 00:46:48
話は遡るが―ヨウイチとリエゾンは婚約者だったのです。
ヨウイチは激怒しました。もはや親バカうさぎじじいの心中など
慮っている場合ではありません。ヨウイチはじじいの人参に
青酸カリを仕込むと昏倒したじじいから宇宙船の鍵を奪って
一路ペログリへと旅立ちました。しかしここからペログリまでは
3日間かかります…。
その間にも疲れを知らない魔王の一物はリエゾンの穴という穴を
掘削し続け、3日後ヨウイチが到着する頃には彼女を半ば肉珊瑚に
仕立て上げていました。一方見慣れぬ宇宙船の侵入を察知した
帝国防衛軍は一斉に攻撃を仕掛けましたがヨウイチの拳の前に悉く全滅。
漸く決戦の地を踏みしめたヨウイチでしたがげっそりやつれています。
それもそのはず、ペログリに近づくにつれて大きさをますリエゾンの
あえぎ声に辛抱堪らず5回も抜いてしまっていたのです。
それでもめげないヨウイチは杖をつきながら魔王の城
“ヴァギナーズ・ラック”に向かったのだった――。
104「銀河大戦争」第5回:2006/12/17(日) 01:41:39
その頃城内本丸にある魔王の部屋では…
「はあはあ…あっ、あああんっ…ううーっ」
「ふふ、まだだ。まだ終わらんよ」
35回目の性交が為されておりました。不思議なことにこれだけ
犯されまくってもリエゾンの身体は瑞々しさを失いません。
後から後からまんじるが湧いて来るのです。魔王はそんなリエゾンを
ほくそ笑みながら執拗に責め続けておりました。
そうこうする内にもヨウイチは襲い来る国民たちを殺しながら
城門までたどり着きました。あえぎ声は一層大きさを増し
苦痛は頂点に達していましたが強靭な精神力とオナニーで
何とか処理していた。だが最早ペニスは赤く腫れ痙攣していた。
もう出ない。ヨウイチは最後の手段に出た。
グチュウウウウ
両耳の鼓膜を潰したのだ!確かにこれで声は聞こえないが…
「気配を察知するのも難しくなったな!」
105「銀河大戦争」第6回:2006/12/17(日) 01:43:11
城門の中から見上げるような巨人が現れました。門番の小栗さんです。
小栗さんは頭も良く心根の優しい人でしたが両性具有で手が16本
あったせいでいじめに遭い、悪の道に走ったのです。幸いなことに
小栗さんには空気中の炭素と水素から水を作り出すという
特技があったのです。小栗さんは水を使ってヨウイチを濡らします。
「くそっ、気持ち悪くて仕方がないぜ!」
ヨウイチは苛立ちを募らせます。
「だが俺の勝ちだ!」
ヨウイチは半径100メートル以内の空気を全て吸い込みました。
「な、何っ!」
さあ困りました。これでは水が作れません。弱気になった小栗さんに
いじめられた過去がフラッシュバックして来ました。
「ぎゃあああああ」
息が出来ずに小栗は死にました。ヨウイチは遂に入城したのです。
106「銀河大戦争」第7回:2006/12/17(日) 01:45:19
「止まれっ!」
門をくぐってすぐの大広間に足を踏み入れた途端重なった声がして
広間のシャンデリアが落下して来た。空気の振動から察知した
ヨウイチはシャンデリアにかかと落としを食らわせた。
「ぎえっ」
またも重なった声がして次の瞬間シャンデリアの残骸がみるみる内に
4匹のゴリラに変わった。ゴリラたちは弱々しく自己紹介した。
「俺たちは魔王様の城を守る四天王…だったのに」
要するにシャンデリアに擬態して不意打ちを食わせるのがこいつらの
常套手段だったのにも関わらず、久しぶりの敵につい気が逸って
声をかけてしまったのだろう。ヨウイチはそう推理した。
「馬鹿な奴らだ」
どっちにしろ声は聞こえないのだが。
全ての死骸に公平に唾を吐いてヨウイチは正面の階段を登った。
螺旋状の回廊が緩やかに傾斜している。ヨウイチは登った。
ひたすらに登った。ただひたすらに。しかしいつまで経っても
最上階は見えて来ない。ヨウイチは4時間登った後おかしいと
思い始めた。その時、カン高いバリトンが響いた、ような気がした。
「がははは。罠に引っ掛かったわね!」
107「銀河大戦争」第8回:2006/12/17(日) 01:46:58
ライトが全て落とされ斜め上の廊下の一点にスポットが当たる。
そこには着物を着て文金高島田を結った髭を生やしたホモッ面がいた。
「私はブラックホールの漂流者。孤だった私をこんな風に
育ててくれた魔王に性的な意味で愛を捧げるお・か・ま」
読唇術で理解したヨウイチは言った。
「そうか、貴様が空間をねじまげて俺を罠に落としこんだな!」
「ウフフ、その通りよん。これは一幅の絵。魔王の部屋の、
魔王と荒々しいセックスにのめり込む貴方の想い人のすぐ側の壁に
かけられている。汗が涎が精液が飛び散るほど近くに…」
「言うなあっ!」
ブチ切れたヨウイチは秘技“きれいなこころ”を打ち出した!
ドッゴーン
「はふぅ…」
おかまの敗因を何かと訊かれればそれはつまらん御託を長々と
喋ったからだろう。秘技の波動で亜空間は割れ、ヨウイチは外へ、
魔王の部屋へ出た。その時魔王とリエゾンのセックスは38回目に
突入していたのだった……。
108「銀河大戦争」第9回:2006/12/17(日) 02:15:13
「終にここまで来たか」
魔王はリエゾンを抱えたまま呟いた。リエゾンは白眼を剥いて
悶え狂っていた。
「リエゾーーーン!!」
必死の叫びも白眼の向こう側には届かない。
「魔王パーーンチ!」
光より速いと評判の魔王パンチが炸裂しヨウイチは血ヘドを吐いて
吹っ飛んだ。
「まだまだーっ!魔王キーーーック!!」
音よりも速いと専らの魔王キックも炸裂しヨウイチの命は
かなり不味いことになった。リエゾンと駅弁した上でこの強さ。
「やるな…だがその強さを何故善行に使わん!ピョン太老師が
泣いているぞ!!」
「何!何故貴様が父の事を知っている!!」
( ̄ー ̄)。魔王はヨウイチの誘い水に乗って来た。
「老師は僕の師匠さ。しかしお前みたいな息子がいるとは…。
一体何があったんだ!」
これで長々と回想シーンが始まりヨウイチはその間体力回復を図る
腹積もりだったのだ。しかし……。
「音楽性の違いだ」
速い!速すぎる!ヨウイチは死を覚悟した。リエゾンはまだ白眼だ。
「もう万策尽きたという顔だな。いいだろう、俺も久々に闘えたしな。
その礼に最高の技で葬ってやろう…行くぞ!魔王ビーム!!!」
109「銀河大戦争」第10回:2006/12/17(日) 02:16:13
ビビビビ…
組んだ魔王の手から発せられたのは…何もない!?
それを見て取ったヨウイチはイチかバチかの賭けに出た!
精力を出し尽くした今秘技は打てない。代わりに全ての力を
拳に集めて裏拳を放ったのだ!!
ドバキイッ
「いっ、痛っ」
魔王は顔をしかめて殴られた頬を摩った。確実に効いている。
「ふひふ。お前の敗因を教えてやろう。お前の父は超がつく親バカ。
子供の頃怪獣ごっこ等でお前が出した嘘っこビームをさも痛そうに
受けたのだろうがそれはただの演技!実際は何も出てやしない!」
魔王の受けた精神的ダメージは深刻だった。エスパーには心理攻撃が
何より効く。魔王は戦意を喪失した。この瞬間帝国は崩壊した。
――かのように見えたのだったが…。
110「銀河大戦争」第11回:2006/12/17(日) 02:54:55
「さあ、リエゾン、帰ろう。」
ヨウイチはふにゃマラになった魔王からズリ落ちたリエゾンを
抱き抱えた。白眼が…ぐりんと、戻った。
「リエゾン!」
「あ、貴方はヨウイチ!」
「助けに来たんだ。もう安心だ。さあ戻ろう」
リエゾンは微笑んだ。微笑んだ。そして爆発した。微笑みの爆弾。
「――イヤよ」
「へえ?」
「アタシは宇宙の支配者になるの」
「ナ、ナンダッテー(ry」
「魔王に40回近くも犯されている間彼の思想もザーメンと共に
流れ込んで来たわ。そしてアタシも宇宙が欲しくなったの」
「宇宙が欲しいってきみ…そうだ!僕と結婚すればそんな感じに
なるじゃないか。今すぐ結婚しようぜベイベー」
「だって地球はもうないのよ?大統領の権限だって失われたわ。
今の貴方には政治的な価値なんて大してないのよ」
「ぐさっと来ること真顔で言うなあ。じゃあどうしたいんだ?」
「帝国を引き継ぐのよ。貴方が二世皇帝になってアタシがお妃として
後ろから操るの。どう?悪くない取引でしょ?」
111「銀河大戦争」第12回:2006/12/17(日) 02:56:49
「帝国を引き継ぐなんてとんでもない!民主主義を蘇らせなきゃ!」
「ふう…そういうと思ったわ。貴方は所詮資本主義の豚ね」
「何でそうなるってぐぎっ」
ヨウイチは突如ハガイジメにされた!魔王が身体を密着させている。
「魔王!?お前もうやる気がないはず」
「アタシのせいよ、フフ。アタシのまんじるをタップリ注いだから」
「…そうか」
水星王家の女性のまんじるは“銀河の蜂蜜”と呼ばれ、
一度体内に入ると注入元の指令には絶対服従になるのだ!という
言い伝えをヨウイチは思い出した。
「彼はアタシの言いなり。結婚を承諾しないなら殺すわよ」
「そして君はこいつと改めて結ばれるというわけか」
「もう50回もヤッたのよ?夫婦の4年分に匹敵するわ」
「だからってそんな…」
「とにかく反対なのね?なら死になさい!」
魔王の腕に力が籠る…だが!
ピカアアアアア
“きれいなこころ”が炸裂し魔王は影となって壁に貼り付いた。
「一体どうやって…はっ」
112「銀河大戦争」第13回:2006/12/17(日) 02:58:12
リエゾンは左腕を見て驚いた。肘から先が食い千切られていたのだ。
「アタシを食ったのね!」
「お陰でエネルギーが湧いたよ」
「ならアタシが直々に手を下すしかないわねっ」
言うなりリエゾンは踵でフローリングを蹴って飛び出した!
113「銀河大戦争」最終回:2006/12/17(日) 03:11:24
「はあん…そ、そんな…あ、ああーっ」
リエゾンは苦もなく捻られねちっこく犯されていた。
「困った時のコンドームってな。ほおらもいっちょ行くぜ」
「ううっ、うわあ…だ、だめ…」

3時間後。
「さあ、もういいだろ。帰るぞ」
「うん…」

こうして二人は祝言を挙げるため水星へ旅立った。だが!?
「げへげへ。俺様を忘れちゃ困るぜ…」
そう、魔王の腹心ねずみのチュー吉だ。
チュー吉はどさくさに紛れて二世皇帝になろうとしていた。
「まずは邪魔なあの二人をまとめて葬ってやるチュー」
チュー吉は城の天守閣に上がりそこに据え付けてある
“まおうのちから”の砲台に取り付いた。
「さらばだ、二人とも…銀河一の名器、一度抱いてみたかったが」
チュー吉は脇に抱えた盗撮ビデオを撫でた。
「こいつで我慢するしかないな。…それでは、“まおうのちから”ファイエル!!!!」

ズッドーーーン

凄まじい轟音が響き渡り砲身が暴発した。城は吹っ飛び
ペログリの表面には深い亀裂が走った。最早長くない。
魔王は用意周到に仕掛けを施し自分以外の者に使われないように
していたのだった。

第一部完
114名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/17(日) 05:01:24
※この小説はフィクションであり実在のあらゆるものと無関係です。
115名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/17(日) 06:26:24
訂正

× 炭素

○ 酸素
116名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/17(日) 14:42:33
>>100
最初のほうにダラダラと説明を書いてると萎える。
それと固有名詞を最初のほうに出しすぎるとわかりにくい。
117名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/17(日) 18:38:20
出しすぎではないだろw
118名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/17(日) 19:54:10
今日初めてこのスレ来て>>100->>113を読んでみたけど酷すぎ。
普段本を読まないオッサンが、たまたまお子様向けの駄小説を読んで
性欲を文章にぶつけただけなのかと思った。
どこかで聞いた単語や文節を適当に組み上げて、!や?をはめ込んだだけの文章。
深夜に2時間かけてあれを書くなら何もせずに寝た方がはるかにマシ。
初めて来たスレに文句を書かずにいられなくさせるってのは、ある種才能の持ち主なんだろうとは思うけど。
>>100以前のはまだ読んでないけど、もっとまともな作品があることを願ってやまない。
119名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/18(月) 03:00:10
夢が覚めなければいい・・・もしくは気づかない内に死にたい。
いつからか僕はそんな事を思う様になっていた。
高校中退、バイトは続かない、彼女ナシ、今日の予定も無い。
4年程こんな生活を続けている。
最初は縛られる事が無いのは幸せだったが、今はまた学生になりたいなんて思っている。
でも行動にうつせないには、辞めてしまう事が自分でも分かっているからだろう。
昔を振り返っても仕方ないが、僕の絶頂期は中学生だったと思う。
少し不良だった僕は、髪を脱色してムースで固めて12時頃に社長出勤が当たり前だった。
それでも何とか勉強にはついて行けたし、クラスでも人気者だった。
買えばいい物を万引きしたり、深夜に友達と遊ぶだけでも凄く充実してると思っていた。
高校に入って仲のいい友達と別れ、勉強にもついていけなくなった。
自然と学校に行く日は少なくなり、高校を辞めた。
でもその時はそれでも何とかなると思っていたし、実際に何とかなっているが、学生服を着た人を見ると何だか自分が終わってると思う。
バイトが続かない僕はパチスロという手段で金を稼ぐ術を身に着けたが、最近はそれさえもやる気がしない。
何も無い日々は時間が流れるのが早い。
120名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/18(月) 03:02:47
1日の中でパソコンのモニターを眺める時間が長くなった。
暇な僕はブログやら、動画を見たりするが自分でも楽しいのか分からなくなっていた。
幸せな人を妬み、不幸な人をあざ笑い、自分がそいつよりも幸せと思って自分をごまかした。
ある日親が20歳になったら家を出ろと言って来た。
もちろん家を出たくは無いが、言い訳は出来ない。
一番困った事は、一人暮らしする自信が無かった。
家事の事もあるが、金が心配だ。
1年ほど前までは、パチスロで1月に15万くらいは稼げた。
でも今は違う、もう手元に40万程の金しかない。
ただ親は今でも僕が凄い金を持っていると思っているのだろう。
たまに父親がお前の金で寿司を食いに行こうかと言う程だ。
その親との約束で何となく思った20歳になったら死のうと何となくだが決めた。
121名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/18(月) 03:45:42
すいません、間違えてあげちゃいました↑
しかも良く見たら板違いっぽいですね・・・。
自作小説で検索したら出てきたので、間違えてしましました。
122名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/18(月) 03:59:33
次から気を付けろよ
123名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/23(土) 12:14:59
「銀河大戦争」はかなりの傑作。感動した。このスレで一、二を争う。
124名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/24(日) 02:05:38
お褒めに預かり光栄です
125名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/24(日) 11:57:29
銀河大戦争>>123-124
自演乙
126名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/24(日) 12:48:59
自演じゃねえって。すぐ自演自演って、この自演厨が。
127名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/24(日) 18:40:44
クリスマスイヴというのに人を疑う心を捨てられないとは悲しい奴だな
128名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/25(月) 12:20:17
「銀河大戦争」、何が大戦争なんだかよく判らんが、ちゃんと終ってるだけたいしたもんだと思うが?
出だしだけとか断片でいいなら誰だって書けるからね。
でも最後まで書ききるとなると体力がいるもんだ。
129「年末ゾンビ祭り」第一回:2006/12/25(月) 20:11:57
雪の降り頻る中を僕は独り歩いていた。イヴだというのに…。
僕は3日前に見たあの忌まわしい光景を忘れようと必死だった。
アリッサのアパートを訪ねたあの夜――。ドアを開けた僕の耳に
飛び込んで来たのは恥ずかしげもない彼女の嬌声だった。
寝室に踏み込んだ僕の目に入ったのは――ああ!思い出したくもない。
僕は雪が頭に肩に積もっていくのも構わず歩き続けた。
間男に殴られた頬がまだかすかに痛む。早く明日になって欲しかった。
ワシントン郊外の寂しい道なので僕以外誰もいない。車もめったに
――と、前方からライトが眩しく近づいて来た。減速している?
すれ違おうとした瞬間、車内から呼び掛けられた。
「ちょっと――ちょっと、ちょっと」
「え?僕ですか?」
運転席には若い女が乗っていた。窓ガラスが少し開いている。
顔はよく見えない。だが良い声だ。
「お願い!助けて下さい」
「え?」
いきなり助けてとは。僕は困惑した。
130「年末ゾンビ祭り」第二回:2006/12/25(月) 20:29:13
「追われてるんです」
窓ガラスが下まで降りて彼女が顔を覗かせた。僕の心臓が高鳴る。
凄い美人だ。流れるような金髪に深緑の瞳。鼻筋が通りぼってりした
唇が小刻みに震えている。ぶっちゃけかなり好みだ。
「追われてるって、誰に?」
「とにかく乗って下さい。詳しいことは中で」
見ず知らずの女性の車に乗るなんて普通なら断る所だ。だが
その時の僕は傷つき疲れて正常な判断が出来なかった。
「え、ええ…」
僕は後ろのドアを開けて中へ入った。彼女が振り向いた。
何と下着姿だった。しかも所々破けている。この季節に、いや、
いつだろうと下着で外出なんて普通じゃない。だがその時の僕は
彼女の豊満な胸の谷間に釘付けになっていた。
「実は、私逃げて来たんです」
腰回りの肉付きもいい。
「一体何から?」
その下は――。
「ゾンビから」
「え?」
次の瞬間右眼に凄まじい衝撃が走った。僕はシートに倒れ、
意識を失った。
131「年末ゾンビ祭り」第三回:2006/12/25(月) 20:47:18
……
どのくらい経ったのか。目を覚ました時、車はかなりのスピードで
走っていた。回りに建物はない。どうやら来た道を引き返したらしい。
「あら、起きたのね」
ミラーを見て彼女が言った。
「君は一体何のつもりなんだ!」
身を乗り出して彼女の肩を掴んだ。おや、ちゃんと服を着ている。
「ちゃんと座ってないとまた左ストレートをお見舞いするわよ」
僕は大人しくお座りした。
「えっと、良ければ僕を拉致した理由などひとつ……」
言葉遣いも丁寧にした。僕は慎重なのだ。
「そう、それでいいのよ。良くできました」
彼女は嘲笑しながら言った。悔しいが今は我慢だ。
「アンタを乗せた理由はね、私の代わりにするためよ」
「代わり?」
「そう、ゾンビの生け贄になってもらうわ」
「ゾンビ?君はさっきもそう言ったけど、それは何かの比喩か?」
「正真正銘のゾンビ。生ける屍のことよ」
やっぱり彼女は普通じゃない。聖なる夜だと言うのにとんでもない
女に捕まったものだ。彼女まさか僕を殺す気なのだろうか?
僕みたいに恋人に振られて自暴自棄になっているのかも知れない。
132「年末ゾンビ祭り」第四回:2006/12/25(月) 21:14:22
「恋人に捨てられたショックでとち狂ったサイコ女だと思ってるのね?」
実に勘の鋭い女だ。
「でも残念ながら本当よ。ゾンビは実在するの。ついさっきまで
私の目の前で動いていたのよ」
「君はどこから来たんだ?」
「もうすぐ着くわ」
それきり彼女は黙りこくった。
車は雪をものともせず走り続ける。やがて前方にうっすらと
館の影が見えて来た。「さあ、着いたわよ」
開いたままになっている立派な門を通過し、玄関前の車寄せに停めると
彼女は車を降りて後ろのドアを開けた。
「恐怖の館にようこそ」
ニンマリと嫌らしい笑みを浮かべている。僕は次の瞬間弾かれた様に
反対側のドアから外へ飛び出した。そのまま全速力で門の方へ走る。
自慢じゃないが僕は大学時代陸上のエースだった。だが――。
走る僕の隣にスッと人影が並んだ。
「!?」
馬鹿な。そう思った刹那、足をかけられズザザーっと派手に転んだ。
雪と土に紛れた身体を起こそうと頭が命じる前に両肩を掴まれ
一気に引き起こされた。彼女だ。そして。
ゴヅッ
膝がみぞおちにヒットして僕は意識を失った。
133「年末ゾンビ祭り」第五回:2006/12/25(月) 21:33:49
気が付いたら広間のソファに寝かされていた。
「う、うう……」
「全く、世話焼かせんじゃないわよ」
彼女は少し離れたテーブルで紅茶だかコーヒーだかを飲んでいた。
「……君は随分乱暴な奴だなあ」
「アンタが逃げるからでしょ。こっち来なさい」
恐る恐るテーブルに近づくともう一つ紅茶を入れたカップが
置かれていた。僕の分も入れてくれたらしい。
「……ありがとう」
口を付けると温かったが文句を言うとまた膝が飛んで来るかも
知れないので黙って飲んだ。
飲みながら彼女を眺めた。明るい場所で見るのは初めてだが、
やはりかなりの美人だ。スタイルも良い。タイトスカートから
覗く白い足は見事だ。凶器だとしても。
「何よ」
目が合う。
「い、いや、その……いい加減に説明してくれないか。僕をここへ
来させた理由は何なんだ」
「だからゾンビの生け贄にするためよ。でないと私が殺される」
「ここにゾンビがいるって言うのか?」
「ええ。夕方に会ったの」
「ここは君の家か?」
「別荘よ。今日の午後久しぶりに訪ねて来たの。しばらく過ごそうと
思って」
「独りでかい?」
「……悪い?」
「いいやちっとも」
彼女はしばし僕を睨んだ後話を再開した。
134「年末ゾンビ祭り」第六回:2006/12/25(月) 21:53:47
「そうして一通り見て回った後自室で本を読んでいたら、
夕方になって誰もいないはずの廊下から足音が聞こえてきたの」
彼女は淡々と話す。本当にゾンビを見たならもっと怖そうに話すだろう。
やはり口から出任せに違いない。
「疑ってるのね。でも本当なのよ。もうすぐアンタにもわかるわ」
彼女は紅茶をぐいと飲んで話を続ける。
「火かき棒を持って廊下に出たら奥の方から誰かやって来るの」
「そういえばここには召し使いとかはいないのか?」
「いないわ、誰も。独りきりで過ごしたかったから。それでその
人影がはっきり見えたとき私は思わず悲鳴を上げたわ。それは人間
じゃなかった。服も身体もボロボロで頭皮は剥げて片方の眼が
なかったわ。鼻は欠け上唇が無かった。私は足がすくんで逃げられ
なかった。もうゾンビは目と鼻の先にいた。殺されると思ったわ」
「しかし殺されなかった」
僕は思わずチャチャを入れた。
「だからここにいるのよ。幽霊に見える?黙って聞けないなら
黙らせるわよ」
「……ごめんなさい」
僕は慎重なのだ。
「そうしたらそいつ、ゾンビが言ったのよ。しわがれて変な抑揚が
あって頭に直接響いて来るような声で『身体が欲しい』と言ったの。
『私の身体が欲しいの』って言ったら『出来れば男がいい』って
言うの。でもどうしても手に入らないならお前で我慢するしかない
って。だからアンタを連れて来たってわけ。私が餌食にされない為に」
彼女ならガチンコで勝てるんじゃないかと思ったが黙っていた。
僕はとても慎重なのだ。
135「年末ゾンビ祭り」第七回:2006/12/25(月) 22:16:13
「その話を信じるとして、痛っ」
テーブルの下で脛を蹴られた。
「だ、だからそいつは男を連れて来るっていう君の言うことを
間に受けて見逃してくれたんだろ?ならそのまま逃げればいいだろう」
「だって私はここが気に入っているのよ。離れたくないもの。
とにかく今は」
「だからってゾンビの手先になって何の罪もない僕を差し出して、
それで良いと思ってるのかい?」
「そりゃ可哀想だと思うけど、私が死ぬよりましよ」
彼女はあっけらかんと答えた。バカバカしくなった僕は席を立った。
「帰るよ。君はゾンビと楽しいイヴを過ごしてくれ」
彼女は目を細めた。
「まだ逃げ切れると思ってるの?」
「仮にも女性に手荒なことはしたくないんだ。座っててくれないか」
しかし彼女は立ち上がった。僕は後ろに下がる。彼女はゆっくり
近づいて来た。両の拳を上げて構えを取っている。だが僕ももう
本気だった。今までは不意打ちでやられて来たが今度はそうは
行かない。これ以上彼女に付き合ってはいられない。美人だが
余りに――変だ。僕は勢いを付けて彼女に飛びかかった。
136「年末ゾンビ祭り」第八回:2006/12/25(月) 22:32:44
全く見事だ。見事というほかない。彼女の強さは本物だった。
僕はまるで歯が立たずまたしても腹に膝を食らって倒れた。
尺取虫みたいにしゃがみ込んでうめいていると、不意に彼女が
乗っかって来て僕はそのまま突っ伏した。柔らかくも重量感のある
ヒップの感触に痛みを忘れ思わずニヤつきそうになってしまう。
「そう言えば名前まだ聞いてなかったわね」
「……ジョンだ。ジョン・クローズ。28歳。普段は大学に勤めてる。
ついこないだ恋人に振られた」
僕は一気にまくし立てた。首を曲げて視界の隅に彼女を捉えると
意外にも少し動揺した様だった。今なら訊けるかも。
「君のことも教えてくれないか」
「え?えっと、名前はダイアナよ。ダイアナ・ケリー。血液型はAで
誕生日は10月2日。好きな食べ物はスパゲティカルボナーラ。
好きな映画は『新婚道中記』。趣味は読書とテニスと映画鑑賞と
茶道と空手とテコンドーとキックボクシングと……」
「も、もうその辺でいいよ」
黙っているといつまでも止まりそうにないので口を挟んだ。
そう言えば職業や年齢等は言わなかった。隠したいのか?
137「年末ゾンビ祭り」第九回:2006/12/25(月) 23:36:48
「ねえ」
彼女、ダイアナが小さく言った。
「彼女に振られたこと、まだ、気にしてる?」
「え?」
驚いた。まさかそんなことを訊かれるとは思いもしなかった。
「か、勘違いしないでよ。ゾンビとの約束の時間まで暇だから
アンタの悲惨な話でも聞いて笑ってやろうと思ったのよっ」
僕の不審気な表情を見て慌てたように言う。僕は苦笑して言った。
「ああ、大いに気にしているよ」
それを聞いたダイアナの顔がさっと曇った。
「お陰で君にこうして悩まされているんだからね。……もっとも
お尻の感触には文句の付けようもないが」
僕が冗談めかしてそう言うとダイアナははっとした様に立ち上がって、
ゴスッ
思いっきり顔を踏み付けて来た。
「この変態!アンタなんてとっととゾンビのものになっちゃえば
いいのよっ!」
「うぎぎ……息が出来ない……」
あわや失神するかと思われた時、廊下から鋭い足音が聞こえてきた。
顔から足がどいた。
「な、何!?誰なの?」
起き上がってダイアナを見るとやや青ざめている。どうもおかしい。
「ゾンビが催促に来たのかな?」
「そんなはずないわ!だって……」
バタンと音がしてドアが勢いよく開いた。部屋の中に飛込んで
来たのは――。
138「年末ゾンビ祭り」第十回:2006/12/25(月) 23:54:17
入って来たのは二人組の男女だった。どちらも若い。僕と同年輩
ぐらいだろうか。冬だというのに二人とも汗をびっしょりかいている。
「貴方達は誰なの?一体何をしに来たのよ?」
尋ねるダイアナに男の方が答えた。
「追われているんだ。電話を、電話を貸してくれ!早く警察に
助けを求めないと!」
「落ち着いて。一体どういうわけなんです?」
僕が訊くと男は無視して窓に近寄った。ちなみにここは丁度
玄関の真上の部屋だ。
「何なのよ一体?」
ここで初めて女の方が口を開いた。
「あいつらよ!あいつらが墓場からやって来る――!」
「あいつら?」
傍らのダイアナは青ざめたまま黙って親指を噛んでいる。
美しい顔がかすかにひきつっているようだ。
「おい、あいつらとは誰のことなんだ?墓場から来るって
どういうことだ?……まさか、ゾンビか?」
その言葉を口にした途端、窓から外を見ていた男が振り返った。
顔面蒼白となっている。
「まだ来ていないみたいだ。とにかく電話を貸してくれ」
ダイアナは首を振った。
「電話はないわ。ここには置かないようにしてるの。携帯は持って
ないの?」
「雪で駄目になっちまった。そっちこそ携帯があるだろう?」
ダイアナは身体を探った後で首を振った。
「下の車の中にあるわ」
男は僕を見たが、僕も首を振った。今日は誰とも連絡を取りたく
なかったから部屋に置いてきたのだ。
139「年末ゾンビ祭り」第十一回:2006/12/26(火) 00:12:43
「仕方ない。キーをくれ」
「開いてるわ」
男は急いで開いたドアから出ていった。
ダイアナは残った女の方に呼び掛けた。
「貴方、紅茶でもどう?それから濡れた服を着替えた方がいいわ。
向こうのドアのクローゼットから適当に取って」
女はゆっくりとテーブルに腰を下ろした。少し落ち着いて来たようだ。
「……ごめんなさい。突然押し掛けて」
「それはもういいわ。とにかくわけを聞かせて。着替えてからね」
女がクローゼットのある部屋に入って行くと僕はダイアナに言った。
「これは一体どういうことだ?君は何も知らないのか?」
「知るわけないでしょ!」
ダイアナがヒステリックに答えた。
「だが連中もどうやらゾンビに追い掛けられていたようだぜ?
君の話と同じじゃないか」
「違うわ!だって私の話は……」
その時男が帰って来た。
「ダメだ!ちっとも相手にしてくれない。だがこの辺にはいない
みたいだしひょっとしたらもう心配ないのかも……おい、カレンは
どこだ?」
「彼女なら奥で着替えてるわ。でも貴方の着替えは生憎ここには
ないわよ。3階の父の部屋になら男物の服があるけれど」
「そんなことはいいさ。それよりとりあえず礼を言うよ。生きている
人に会えて率直に嬉しかった」
「もう事情を訊いていいかい?」
「ああ、僕の名はジョシュだ。連れの女性は恋人のカレン。
デートの途中にゾンビの大群に遭遇してここまで逃げて来たってわけさ」
「ゾンビを実際に見たのか?」
「ああ、勿論この目で見たよ。映画何かより遥かにグロテスクだった。
思い出すと吐き気がするよ」
「それにどこであったんだ」
140「年末ゾンビ祭り」第十二回:2006/12/26(火) 00:28:50
「アーリントン墓地さ。そこらじゅうの墓からうじゃうじゃ
出てきたんだ」
「デートでそんなとこに行くのはおかしいわ」
ダイアナが口を挟んだ。もっともな疑問だ。するとジョシュは顔を
赤らめた。
「実は俺たちはそのちょっと変わった楽しみ方をしてるんだ」
「変わった楽しみ方?」
「ああ、その、つまり墓場で、ナニをするのさ」
「墓場で、か。それは確かに変わってるな」
「死者の眠りを妨げているという背徳感が性欲と相まってそりゃ
もう……カレンはベッドの4倍興奮すると言ってる」
僕とダイアナはあからさまな奇異の目でジョシュを見た。
「今日もアーリントン墓地に車を停めて二人で汗をかいていたんだ。
そしたらカレンが急に凄い悲鳴を上げて――最初は俺のテクも
上達したなと」
ここで漸く冷たい視線に気付いたのかジョシュは咳払いをした。
「そうしたらカレンはしきりに外を見ろとわめいた。見ると車の
回りに5、6人の人影がありよく見るとどいつもこいつも……」
「生きていなかったってわけか」
「ああ。俺は急いで車を出した。そのまま道をすっ飛ばした。
だが雪でスリップしてブレーキが効かず車は道からそれて横倒しに
なった。幸い二人ともほとんど無傷で、それからは必死で走り続け、
ここに辿り着いたってわけさ」
ジョシュの説明は終わった。信じられない内容だったがしかし
ここでゾンビに会ったことがないのは僕だけだ。これは信じざるを
えないのかも知れない。
141「年末ゾンビ祭り」第十三回:2006/12/26(火) 00:41:45
「じゃあ君たちは墓場でセックスをしたせいでゾンビに呪われたって
わけだ。余程繰り返したんだろうな」
「まあ、アーリントン墓地にある墓は全て制覇したな」
ちょっと誇らしげに言う。本当か。本当にそれでゾンビが襲って
来るのか。その時奥からカレンが出てきた。服を着替え髪を
乾かしていた。こうしてみると中々魅力的だ。
「ねえ、アタシトイレを借りたいわ」
「廊下に出て右に行った突き当たりよ」
「怖いわ。ジョシュ一緒に来て」
「ああ。ついでに着替えを探しに行ってもいいか?」
「どうぞお好きに」
ダイアナは肩をすくめた。
「どうも」
二人はドアに向かった。
「あ、そういやさっき車の中でこいつを見付けたぜ」
出ていきざまジョシュが何かを放り投げた。それは僕の足元に落ちた。
「あ、それは――」
ダイアナは慌てて拾い上げようと駆け寄ったが僕の方が早かった。
「これは!?」
僕は驚きの声を上げた。それは大学の学生証だった。ダイアナの
顔写真が貼ってある。だが僕が驚いたのはダイアナが大学生だった
からではない。学生証に印された校章が僕の勤めている大学の
ものだったからだ。
142「年末ゾンビ祭り」第十四回:2006/12/26(火) 01:01:15
「どういうことなんだ!これは?」
僕は語気を強めて言った。
「……私が学生じゃいけないの?」
抗弁する口調もどこか弱々しい。
「ここは僕の職場だ。君はまさか僕を以前から知ってたんじゃ
ないのか?」
「知らないわ!早く返して」
ダイアナが手を伸ばす。僕はそれを交わして詰め寄った。
「誤魔化さないでちゃんと答えてくれ!」
「……」
いつの間にか僕とダイアナの顔はひどく近づいていた。
息がかかりそうなくらいに。ダイアナは酷く慌てた顔をしている。
白いすべらかな頬にうっすら赤味が差しているようだ。こんな時だと
いうのに僕はダイアナの顔にしばしみとれてしまった。
するとダイアナの顔がゆっくりと近づいて来た。これは一体……。
まさか彼女は僕のことが?両肩に手が置かれる。鼓動が跳ね上がる。
ダイアナがぎこちなく微笑んだかのように見えた。そして――。
ゴヅッ
「返してもらうわね」
「こ、この……」
ゴスッ
爪先が頬に突き刺さる。
「あ、あの……」
「何よ」
「どうせなら座って頂いた方が……ぐえっ」
蹴りが顔面にヒットして僕は気絶した。
143「年末ゾンビ祭り」第十五回:2006/12/26(火) 01:27:27
気が付くとまだ二人は戻っておらず、ダイアナはテーブルで
紅茶を飲んでいた。
「あら、段々気が付くの早くなってるわね」
この女は……。殴りたくなったがこれ以上意識を失うのは危険そう
なので我慢した。私は極めて慎重なのだ。
「こっち来なさいよ」
テーブルには私の分の紅茶が置いてあった。口をつける。今度は
暖かい。
「二人はまだなのか?」
「まだよ。何してるのかしら」
「妙なシチュエーションで欲情するらしいからな。まさかトイレで
ナニしてるのかも……」
「ちょっと!止めてよ」
その時ジョシュが戻って来た。古めかしいスーツ姿だ。
全く似合っていない。
「カレンは?」
「まだトイレだ。便秘なんだろ」
そう言って笑った。僕は眉をひそめた。
その時!
キャアアアア――
どこかから凄まじい悲鳴が上がった。
「カレン!」
ジョシュが飛び出した。僕も後を追う。
「ジョン!」
ダイアナの声が追って来たがすぐに流された。トイレが見えた。
ジョシュの後に駆け込む。しかしそこは無人で、窓が大破していた。
「あ、あいつらだ。あいつらが来たんだ……あいつらがカレンを
さらっていったんだ……」
ジョシュはその場にくずおれた。
144「年末ゾンビ祭り」第十六回:2006/12/26(火) 01:57:53
「おい!しっかりするんだ」
僕はジョシュを立たせてトイレから出た。
キャーッ
広間の方から悲鳴が!ダイアナだ。僕はジョシュをほっぽり出して
走った。広間に飛び込むとダイアナが窓から外を見て固まっている。
「どうしたんだ!」
震えながら無言で外を指差すダイアナ。見るとそこらじゅうに
無数の人影がひしめいている!
雪の舞う夜、はっきりとは見えないが、何かまがまがしい気配が
伝わってくるのを感じた。ダイアナも同じだろう。見ると身体が
小刻みに震えている。とっさに背に手を当てた。
「大丈夫か?」
ダイアナがこちらを向いた。真っ青だ。次の瞬間バッと抱きついて来た。
芳しい匂いが鼻を擽った。僕の胸に顔を押し付けている。
腹の辺りに柔らかい胸のたっぷりした感触がある。
僕は堪らなくなってダイアナの背中をかき抱いた。外ではゾンビ
らしき人影がうごめいているというのに今の僕は腕の中の
ダイアナの柔らかさしか頭になかった。意識の全てを彼女に
集中していた。不意にダイアナが顔を上げた。顔に赤味が差し、
いや赤く染まっている。やや潤んだ目でじっと見つめて来る。
「ダ、ダイアナ――」
僕は彼女から目が離せなくなり、ゆっくりと唇を――。
ゴスッ
いきなりの膝蹴りが炸裂し完全に気を抜いていた僕はガツンと
両膝をついて腹を押さえた。気絶だけはしないように必死にこらえた。
開けっぱなしのドアからジョシュがのっそり入って来た。
「おい、俺を置いてくのはひでえよ……」
こっちはそれどころではない。
「それより外を見て」
ダイアナが言った。どうやら落ち着きを取り戻したようだ。
この状況では素直に喜べないが。
145「年末ゾンビ祭り」第十七回:2006/12/26(火) 02:19:28
「どうすりゃいいんだ!カレンはあいつらに拐われちまうし……」
「とにかくここから逃げるしかないわ。裏口に行きましょう」
「そこも包囲されてるんじゃないか」
漸く楽になって来た僕が訊いた。
「大丈夫だと思うわ。裏口は地下通路なの」
「ナ、ナンダッテー」
「昔ここに住んでいた変わり者の金持ちが作らせたのよ。子供の頃は
よく遊び場にしてたのよ」
「それはどこに通じているんだ?」
「3マイル先の森の中よ。あいつらが来たのとは逆方向だから
多分大丈夫だと思う。」
「よし、行こう!」
僕たちは急いで地下へ降りた。ゾンビ(らしきもの)はまだ館には
侵入していないようだった。連中は不気味ではあるがあまり力は
ないのかも知れない。ダイアナの話とはどこか食い違う……。
黙考している内に裏口へ着いた。ダイアナが鍵を開けて中へ入り
進み始める。走りたかったが暗いの小走りが精一杯だった。
5分ほど進んだ時、不意にジョシュが立ち止まった。
「カレンの声が聞こえる。カレンが助けを呼んでる。生きてたんだ!」
「……僕には何も聞こえないが」
「私にも聞こえないわ。気のせいよ。気の毒だけど彼女はもう
生きてはいないと思う……」
だがジョシュは激しく首を振った。
「違う!カレンは生きてる。生きて助けを求めてるんだ!」
ジョシュは来た道を戻り始めた。
「カレーーン!今行くぞ!待ってろ!」
「よせ!」
僕は走っていって止めたが、振り払われた。凄い力だ。
「ダイアナ、手伝ってくれ!」
僕は振り返って叫んだがその時ジョシュはもう見えなくなっていた。
146「年末ゾンビ祭り」第十八回:2006/12/26(火) 02:41:48
「大変だ、早く止めないと」
カレンを呼ぶジョシュの声が反響して聞こえていた。
「もう無理よ。彼には私たちの声は届かない。カレンの声だけが
聞こえてるんだわ」
「だがそれは本当のカレンの声じゃない。気のせいか、それとも、
あいつらの仕業なんだ」
「そんなことわからない!とにかく先を急ぎましょう!でないと
……私たち皆殺されてしまう!」
ダイアナは取り乱して叫び、私の襟を掴んで揺さぶった。
「カレーーン!カレーーン!」
ジョシュの声はまだ聞こえている。
「カレーーン!カレーーン!カ……」

ギャアアアアアッ

凄まじい悲鳴が聞こえ1秒後には不気味な静寂が辺りを支配した。
僕とダイアナは先を急いだ。もう立ち止まることはない。決してない。
それから気の遠くなるほど(本当は一時間弱だったのだが)
小走りを続け、漸く地上へ出た。そこはダイアナの言った通り
森の中だった。辺りに人影はなかった。出口に鍵をかけた後(どちらも外からしか施錠
出来なかった)、僕たちは暗い森の中を走った。ダイアナの記憶
だけが頼りだったが何しろ暗いし昔のことなのであまり当てに
ならなかった。しかしそれほど深い森ではなかったのが幸いして
程なく僕らは森から脱出した。
147「年末ゾンビ祭り」第十九回:2006/12/26(火) 02:49:21
それから人家を見付けて何とか帰って来れたというわけだ。
しかしあいつらは何だったのか。未だにわからない。近くで
見ていないから普通は人間であると思うべきなのだが何故かそうは
思えなかった。或いはゾンビなのかも知れないが確証はなかった。
ゾンビと言えば最後に一幕の喜劇をお伝えしなくてはならない。
148「年末ゾンビ祭り」第二十回:2006/12/26(火) 03:18:38
「彼等が何であれ、ターゲットはあの二人だったんだろうな」
「だから私たちは逃げられた、いいえ、見逃してくれたのね……」
「ところで君、君のゾンビの話だけど……あれは嘘だね?」
「勿論、嘘よ」
ダイアナはあっけらかんと言った。
「君は僕の勤めている大学に通っていて僕を知っていた。そうだね?」
「ええ、その通りよ。私は貴方を知ってる。それだけじゃない、
何度も話したことがあるわ。大学の中でも外でも」
「何だって!?嘘だろう?」
「本当よ。貴方ったらまるで覚えてないのね。でも仕方ないわ。
私、まるで違うもの」
「違う?」
「ええ、変装してるの。私、貴方の部屋に行ったこともあるのよ。
先月の臨時休講の日“たまたま”近くで会ってお茶に呼んでくれた……」
「あ!」
じゃあ、あの、黒髪に三編みで黒縁メガネのセックスアピールの
欠片もないようなあの……ぐはっ。
どうやら声に出ていたらしい。うめき声を上げる私の背に腰掛けて
ダイアナが言った。
「その子がカツラを取ってコンタクトを付けるとこうなるの」
「君だったのか……しかしどうしてゾンビを見たなんて嘘を……」
するとダイアナは立ち上がって私を抱き起こした。
149「年末ゾンビ祭り」第二十一回:2006/12/26(火) 03:37:12
そのままの距離で言った。
「貴方とイヴを過ごしたかったの」
僕はガツンと衝撃を受けた。今までダイアナに受けたどの打撃よりも
上だったかも知れない。信じられない。
「貴方の部屋を訪ねたけど留守だったから、散歩してるのかと
思って近くを捜してたら、貴方が歩いていて、そして――」
「ゾンビだ何だと嘘をついて僕を拉致したのかい?」
「拉致だなんて人聞きの悪い。私はただ可憐な乙女として貴方の
騎士道精神に訴えただけよ」
ダイアナは唇を尖らして言った。とても可愛い仕草だ。
「コホン……で、ではあの館は?」
「本当にウチの別荘よ。あそこで貴方と過ごしたかったの」
「だからってあんな強引な……大体なぜ最初から本当のことを
言わなかった?」
「だって、きっと一緒に来てくれないと思ったから……」
ダイアナは唇を噛んでうつ向いた。とても可愛い仕草だ。
「コホン……じ、じゃあジョシュとカレンのことは?」
「勿論知らないわ。突然やって来たから本当に驚いた」
「嘘から出た真ってわけか。さぞ焦っただろうな」
僕は含み笑いをした。
「酷いわ。あいつらを見た時は本当に怖かったのよ!」
ダイアナは目を潤ませて抗議した。とても可愛い仕草だ。
「コホン……そ、そうだ!君はあの時僕に抱きついて来たくせに
急に膝げりを食らわせたぞ!あれは何なんだ!」
150「年末ゾンビ祭り」最終回:2006/12/26(火) 04:01:30
「あれはジョシュが来るのがわかっていたからどの道切り上げなきゃ
と思ってタイミングを窺っていたのよ」
「君はあの時僕にしがみつきながらそんな事考えてたのか!」
とんでもない女だ。一気に目が覚めた。
「だって人に見られたら恥ずかしくて……」
「だったら抱きつくなよ!………待てよ、君はその前にも僕を
気絶させたぞ!学生証を拾った時だ!あれはどうなんだ!あんな
酷い――」
「だって学生証のことを追及されたら全部バレちゃいそうだったから、
蹴り倒して記憶を飛ばそうと思って……」
この女は正真正銘のキチガイだ。もう決して目を瞑ることはないぞ!
「お願い……許して……」
ダイアナは顔を近づけ僕の顔を両手で優しく包み込むと唇を重ねて来た。
それはとても柔らかくぬめらかで――グーグーグー……。
夢のような一瞬の後唇を離した彼女は目を伏せて言った。
「まだ……彼女が忘れられないでしょうね……」
僕は答えた。
「文字通りの意味なら勿論イエスだよ。だが愛しているかという
意味なら、いいや、もう愛してない」
「ほんとう?」
「誓って本当だ」
それは間違いではなかった。もしまだアリッサを愛していたら
あの時僕もジョシュと同じように引き返していただろう。
頭の中で鳴り響くアリッサの声に負けて。
あいつらは、僕については情報の更新を怠っていたのだ。
僕はダイアナの粒羅な深緑の瞳を覗き込んだ。そこには紛れもない
確かな何かがあった。僕は彼女と歩き始めた。何だかんだ言っても
彼女は美人だしグラマーだし安産型だ。それに、一緒にいて
飽きが来ない性格のようだし。結局のところ、それが一番大事な
ことなのだ。

151名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/26(火) 12:22:47
この作品は映像化してこそ分かる、懐かしく楽しい風景。
雰囲気を楽しんでほしい

「かんにんぐテスト〜目指せ公立!」

静かな教室、静かにテストを受ける生徒、静かにかんにんぐしないか見守る先生
「先生!消しゴムおちました!」
「はい」
消しゴムを拾いにくる先生
先生の視線が下に落ちた消しゴムにむいた瞬間
はじまった。
152名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/26(火) 12:45:15
>>100素晴らしいよ
153名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/26(火) 17:58:17
お褒めに預かり光栄至極です。
154名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/27(水) 07:58:18
>>「年末ゾンビ祭り」
怪獣の出てこない怪獣映画というのがあるが、ゾンビの出てこないゾンビ小説というのは初めて読んだ気がする。
ゾンビの最大のセールスポイントが見た目のグロさだから、普通姿を見せるわな(笑)。
気になったのが、「ジョシュにはアリッサの声が聞こえていたが、敢えてこれを無視した」という事実がいまいち感慨とかカタレプシーをもって伝わってこないこと。
ここがこの小説の最大のポイントだと思うんだが。
あと謎の女による同じような暴行が繰り返され過ぎるのもちょっと気になった。

いっそ主人公は前の彼女に未練タラタラで謎の女にも全くその気は無かったが、暴行を繰り返されるうちになぜだか心が(笑)……ということにする。
そして最後にノーマルな世界とアブノーマルな世界の選択を謎の女とアリッサの選択に仮託させるという展開はいかがか?
そうすれば繰り返される暴行シーンに意味が出てくるし、最後の選択にもウェイトが出てくると思う。
「ゾンビの出てこないゾンビ世界で、ノーマルとアブノーマルの世界を揺れ動く主人公」、どう?
155名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/27(水) 11:38:24
>>154
批評どうもです。
自分としてはダイアナがジョンを拉致する理由に説得力を持たせる
意味もあって最初から気があったという展開にしたのですが、
確かに話の過程で情が移るという展開でもいいですね。

ラストが軽いとかその辺は力不足としか言いようがないっす。
精進します。

暴行の天丼に関してはゼロ使とか読みすぎて
頭がパーになってたんだと思います。
156名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/27(水) 16:32:37
「年末ゾンビ祭り」よりは「銀河大戦争」だな。
文体似てるけど、作者同じかな。「銀河大戦争」に一票。
157名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/28(木) 07:37:45
「銀河大戦」も悪くは無いと思うよ。
128でもレスしたようにちゃんと完結してるから。
それに、「ツギハギ」という趣旨で誰かが批評したが、小説は大なり小なりツギハギだ。
でもちゃんと全体のトーンが合ってて、一連の物語を成せているならいいんじゃないの?
アガサ・クリスティーは「ミステリの女王」なんて呼ばれるけど、そんな小説ばっかりだよ。
でも、やっぱり読めば面白いからね。

ただひとつ、「銀河大戦」にはツギハギに失敗してトーンが違っちゃった部分があるように思う。
リエゾンの肘が食い千切られている部分だ。
なんというか……例えて言うなら……
主人公である中学生の少年が憧れていた部活の先輩女子とついに結ばれる……ってシーンで、いきなりスカトロ描写が出てきたみたい(笑)。
「おい!初体験であがっちゃってパンツすら自分で脱げねえようなガキが、なんでいきなりウ○コ食うんだよ!?」って感じなんだ(食事中だったらスマン)。
あそこのトーンも他の所と同じに整えれば、バカネタとしてはそれなりの作だと思うよ。
158「古都に啼くもの」第一回:2007/01/01(月) 01:26:44
江戸。丑三刻。

日本橋の袂に一人の男が佇んでいた。人待ち顔で時折周りを
見回している。と、そこへ――。
ヒタヒタヒタ……
「おう。遅かったな、りょう」
安堵の笑みを滲ませて振り返った男の眼に映ったものは夢か現か。
死に逝く身にはさして重要ではなかったが。

朝。駒込の側用人柳沢吉保の下屋敷の奥座敷で二人の男が対座していた。
「その方を呼び寄せたのは他でもない。近頃江戸を騒がしておる
凶事のことじゃ。」
一人は屋敷の主柳沢吉保である。そして、
「……牙犬のことでござりますか」
いま一人の男はみすぼらしいなりをした風采の上がらぬ浪人風の
男である。
「これ!慎まぬか」
素早くたしなめた吉保は渋い顔で言葉を継ぐ。
「ともかく早急にこれを鎮めねばならぬ。その方に探索を頼みたい」
「……どこまでやれと?」
「事の真相を掴んだら知らせよ。その後のことはそれからじゃ」
「御意」
男は軽く頭を伏せ、すらりと立ち上がると音も無く障子を開けて
出ていった。
「あやつ、やり過ぎねばよいが……」
吉保は渋面のまま呟いた。
159名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/01(月) 11:41:15
時代物かい。SFになるのか、こっから。
160「古都に啼くもの」第二回:2007/01/02(火) 00:14:04
四半刻ほどして浪人風の男は寝起きしている本所深川の長屋に
戻ってきた。戸口の前まで来た時、中から出てくる男と鉢合わせた。
「あ、これは旦那。お帰りなさいませ。へへへ」
「ああ」
出てきた男は熊蔵といい、川向こうの長屋に住んでいる岡っ引きで、
この所ちょくちょく出入りしていた。その目当ては――
軽く頷いて戸をくぐった浪人風の男に声を掛けてきた。
「あ、あんた、おかえり」
女房の八重である。白い肌に目鼻立ちの整った瓜実顔の美女だ。
何故だか知らないが着物の袂や裾が乱れそこから覗く胸元や脛が
じっとりと汗ばんでいる。
妻の何やら慌てた様子を全く意に介さず、浪人風の男は上がって
奥に座り込んだ。茶を言いつけ、徐に懐から小さく畳んだ紙片を
取り出して広げた。密書である。屋敷を辞去する際吉保から
渡されたものだ。壁に耳あり障子に目ありの用心から口頭ではなく
文字で下知を受けるのが常であった。浪人風の男は密書を読み始めた。
161「古都に啼くもの」第三回:2007/01/02(火) 17:03:00
内容は予想していた通り、この所江戸を騒がせている牙犬について
であった。先月の終り向島で何物かたに身体のあちこちを
食い千切られた男の死体が見つかったのを皮切りに今月に入ってもう
六件も似たような事件が起こっている。被害者は老若男女の別なく、
奉行所は躍起になって下手人を捜していた。
そしていつからか大きな犬みたいな獣が現場から走り去るのを見た
という噂が広まり、その獣について“牙犬”なる命名が為されたの
だった。しかしこれらの噂は表立ったものではなく、密やかで静かに
――しかし確実に――広まっていったのだった。人々が大っぴらに
話せないのはそれが生死に直結する問題になる可能性を孕んでいる
からであった。即ち、“生類憐れみの令”。将軍綱吉が子種欲しさに
制定したこの奇矯な法律の下では他愛のない憶測も確実な罪科に
問われた。もし人殺しが犬によって為されたものだ等と口にしたのを
役人に聞かれたら……。しかし人の口に戸は立てられぬの例え通り、
妖しい噂は大火の如く瞬く間に江戸中に燃え広がったのだった。
162誰が為に麺を食すのか:2007/01/12(金) 01:02:09
時は新西暦1051年(新西暦は銀河統合評定議会の発足をもって新西暦1年とする。旧西暦は2682年まで)
テクノロジーは跳点航法(ワープ)や新合成金属K.I.T(ダイアモンドの数十倍の硬度)、
準h型A.Iの開発、ダイム式量子コンピュータネットワーク網の敷設等、限界を知らぬ発展を続け、
精神的な面でも人種間・民族間・性別間の差別・不和を無くしていくなど円熟味を増していった。
そんな完全無欠の世界に今大きな危機が訪れていた。約10年前から銀河を二分して繰り広げられてきた
【スパゲッティ・ラーメン大戦争】である!

事の発端は、とある日の銀河統合評定議会会議の真っ最中に起こった。ラ・ムン議員とチャチュレーマ議員
は昔からの友人で、その日もたわいない雑談を交わしていた。とにかく暇だったからである。
平和すぎる今、銀河統合評定議会は名ばかりの組織に成り下がり、今日も今日とてどうでもいい議題を
ヨボヨボのシャルショル議長が延々と喋り続けているだけだった。
ラ・ムンとチャチュレーマの話は、新型の宇宙艇、最近近くに出来たレストラン、辺境の高級別荘惑星
にと多岐に及んだ。そしてふと、「この世で一番ウマイ麺は何か?」という話になった。自慢じゃないが
ラ・ムンは“ほぼ”全銀河のラーメン店を食べ歩いた、自称銀河一のラーメン通だった。これまた自慢じゃないが
チャチュレーマは“ほぼ”全銀河のパスタ店を食べ歩いた自称全銀河一のパスタ通だった。
もちろん、こんな2人が「この世で一番ウマイ麺は何か?」という話をすればもちろん口論になるわけで、これまた
当然の如く激烈な口論へとめでたく発展した。
ラ・ムンは友人チャチュレーマのことを思い、こういう口論が起こるといつも先に折れて仲直りを提案してきたが
この日ばかりは限界だった。今までの溜まりに溜まった怒りをその右拳に込め相手の顔面に叩き込んだ!
この攻撃に、今までラ・ムンの性格を熟知しているためいつも大人気ない“フリ”をし、ラ・ムンから仲直りしてくるよう仕向けて
きた心優しきチャチュレーマは遂に堪忍袋の緒が切れた。その積もりに積もった鬱憤を左の拳に握り締め、相手の腹に叩き込んだ!
こうなると止まらない。殴る蹴る絞める投げ飛ばす秘孔を突くの大喧嘩が始まった。

163誰が為に麺を食すのか :2007/01/12(金) 01:04:20
この事態に目を輝かせたのが同じように暇していた議員達である。どうして2人が喧嘩していたのかその原因は置いておいて、
とりあえず隣の席に座っている奴に殴りかかったり、前に座ってる奴に噛み付いたりした。こうして前代未聞の大乱闘が幕を開けた。
ここぞとばかりに大嫌いな議員や天敵の議員に掴みかかり床を転げ周り、いつも偉ぶってる重鎮の議員に襲いかかったり、昔泣かされた
男議員の数少なくなってきた髪の毛を引っこ抜く女議員が現れたりとそれはもう大変な騒動になった。怒号と罵声と悲鳴と拳が飛び交った。
数時間後。いつの間にか議場はバリケードを挟んで右に【ラーメン派】・左に【スパゲッティ派】と分かれての睨み合いになっていた。
残念ながらこの時点で、それが今後10年は続く銀河の縮図だと気付いた者はいなかったようである。

これが世に言う有名な【6/17 黄昏の訣別】である。   
164誰が為に麺を食すのか:2007/01/12(金) 01:40:15
大人気ないことは止めて仲直りすればよかったものを、翌々日の19日に事態は最悪の展開を迎える。
チャチュレーマ議員の自宅で、彼の変わり果てた無残な姿が発見されたのである。
チャチュレーマ議員は冷たいパスタになっていたのだ!!
それは怒りで我を忘れたラ・ムン議員が軍の特殊技術研究所から持ち出した“物質変換機”
通称『ゲンヘ』の試作段階機だったのだ。『ゲンヘ』はその名の通り対象の物質を思うままに変換
してしまう者で、天才ジャゲラマー博士の考案した物だった。そのあまりの危険度にレッドZレベルの
プロテクトが施してあったがラ・ムンは銀河統合評定議会議員の権限を利用して鍵<キー>を持ち出していたのだ。
そうしてその足でチャチュレーマの家に向かい彼自身を彼の愛するパスタへと変貌させたのである。

チャチュレーマの妻ミュナは黒い喪服に身を包み、変わり果てた夫(冷たいパスタ)を胸に抱き
涙に頬を濡らしながら、取材のマスコミ達のカメラに向かってラ・ムンと全銀河のラーメン好きを一人残らずこの世から
抹殺してやる、夫の仇を取りパスタの偉大さを知らしめると宣戦を布告したのである。

これが世に言う【冷たきパスタ 6/19の哀歌】である。
165名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/12(金) 09:46:44
ムダだと思いつつも、ここで宣伝しとこ。
SF小説書きました。五十枚ぐらいで完結してます。読んでください。
ttp://cgi.bookstudio.com/novel/user/aaaz/fykdj4/contents.html
166「古都に啼くもの」第四回:2007/01/16(火) 23:30:14
浪人風の男は密書を読み進む。吉保は一連の騒動を将軍、
引いては幕府を快く思わぬ不逞の輩の仕業と断じ、何としても
下手人を挙げよと激越に書き綴っていた。
(快く思わぬ輩……)
吉保が誰を指しているのか薄々見当はつく。八重が茶を置いた。
飲む。生温い上に量が中途半端だが気にしない。黙ってすすり
更に読み続ける。――探索のために動ける者は他にいない。
よって加賀前田家の五井平馬と合力して事に当たれ……。
(……ちっ)
浪人は微かに顔をしかめた。如何に綱吉の寵愛を受けた側用人とは
言え、独断で御庭番を動かすのは難しいのだろう。しかし――。
浪人は紙を囲炉裏にくべ、薄汚れた畳に寝そべった。八重は隅に座って
ぼおっと窓から外を眺めている。浪人はほどなく眠りに落ちていった。
167「古都に啼くもの」第五回:2007/01/16(火) 23:56:40
深更。浪人はむくりと起き上がり、刀を佩くと土間へ降りた。
「――もし」
声がして隅で小さな影が起き上がった。八重がささっと土間に降りて
釜の上から包みを取って差し出して来た。握り飯の様である。
浪人は黙ったまま受取り懐に入れた。
「しばらく帰らぬ」
「承知しました」
八重が頷いた。それから白い手でそっと浪人の顔を撫で、
奥へ戻っていった。浪人は外へ出た。無表情のままだったが手が頬に当たった刹那、
少し翳ったかに見えた。浪人は長屋を後にした。真っ暗で
動くものが何もない往来を早足で進む。そのまま一刻ほども歩き
続けて、浪人は漸く立ち止まった。目の前には黒々とした水面が
伸びている。隅田川は永代橋の袂。しかし浪人は橋を渡らず、
その下に回り込んだ。
「いるのか」
低く声をかけた。だが返事はない。浪人は
再び声をかけるでもなく
じっと暗がりに立ちつくしている。
168名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/17(水) 12:32:36
>>「古都に啼くもの」
折角丁寧に書いてるんだから、完成時点で一括投下にしたほうがいいのでは?
例えば第二回で八重と岡っ引の関係が描かれていて、第四回では「八重の出した茶が温いうえに量が半端」だと描かれている。
これは当然、「岡っ引に出した茶の残りを主人公に出したから」という意味だが、途中でスレに間が開いてしまうと果たしてちゃんと伝わるのか?

間を開けて投下してなお描こうとしているラインが崩れていないのは「構成が最後まで完成しているから」だろう。
それならなおのこと、じっくり作って一貫した形で読ませられる「一括投下」にした方がいいと思う。
169名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/28(日) 09:09:06
インポワールドがファンタジーになって帰ってくる
170名無しは無慈悲な夜の女王:2007/03/14(水) 15:27:48
真夏の満月の夜に彼女はやってきた。
漆黒の服装、地面につきそうな美しい黒髪。強い決意を秘めた瞳。
そして彼女はこう言った。

「私、カオンと申します。ご主人様、あなたを守るためにやってきました。」

俺、状況が理解できません。
「え?え?え?」
「ご主人様、これからどうぞよろしくお願いいたします。」
「えっと、君は、何者ですか・・・?」
「敬語はおよしください、ご主人様。私はカオンと申します。」
敬語はおよしください、そっちこそ。
そのうちに説明が始まった。全然理解できないけど。
「・・・代々五木家を守る役目をになっている桜家でございます。
私5代目のカオン、ご主人様が一人前になるまで、おそばでお守りさせていただきます。」
「はぁ・・・。」
「それでは契約の儀を。」
「へ?」
「誓いの口付けを。」
「く、ち、づけ・・・。」
口付け、キス、キス!
「ええええええええええええええええええええ?!」

話が急でごめんなさい。
171名無しは無慈悲な夜の女王:2007/04/17(火) 00:34:33
172殴るな!:2007/04/29(日) 17:56:44
 「すいません、いいですか?」
 そう一応言ってみた時、対面して座っている彼の顔が、一瞬だが不快そうに歪んだようだった。
 もちろん、彼もおとなだった。さっと笑顔を取り戻して、
 「ああ、どうぞ。かまいませんよ」
 朗らかな口調で言葉を返してきた。

 さすがに、こちらがマナーを守って一応断りを入れるのに、「遠慮してほしい」などと仏頂面で返答する非常識な相手に は、少なくとも私は出会ったことはない。もっとも最近はそういう輩も増えてきているのかもしれず、たまたま私だけがひとり幸運なのかもしれない。
 少し前なら、そもそも一瞬でも不快そうな顔を見せられることもなかったはずだ。どうして昨今はこうも、何かしら刺々しい視線やら表情やら、向けられるようになってしまったのか。

 私はテーブルの端から安っぽい紙受を引き寄せ、とりあえず軽く左を出し始めた。空気をさくっさくっと切る感じが心地よく、気分が昂揚してくる。
 「それで、第二開発の野田君が言っていたんですけどね」軽い左ジャブで気持ちも軽くなり、仕事の話もスムーズに進む。頭の回転にも関係しているかもしれないというのはひきだおしというものか。

 ここで一発右といこう。
173殴るな!:2007/04/29(日) 17:57:26
 私の右ストレートはきれいに流れて、相対していた山田主任の左頬までしっかり届いた。椅子にかけたままでも、腰のひねりと延び切る腕のシャープさがこの爽快さを産む。
 が、
「あうっ!」
 山田主任がいかにも苦痛という声を上げて顔をしかめ、のけぞってみせさえもしたので、さすがの私もちょっとムッとなった。いくらなんでもこのリアクションは大仰すぎないかというところだ。

 そこまでいやだったなら、最初に断固ことわればいいのだ。それならこちらもマナーを守って遠慮した。かまわないと言っておいてのこの態度は、失礼にもほどがあるのではないか。

 せっかくの気分も台無しになって、私は拳を拭いた紙ナプキンを、少し乱暴に紙受に押し込むように入れた。私の不愉快さは当然山田主任にも感じられたろう。打ち始めたばかりの他撲を、私が唐突にやめてしまったのだから。

 「すいません、ちょっと体調を崩してるもんで、きつくって」
 そんな、理由にもならない言い訳を口の中でこねる。だから、それなら最初にどうして言わないのだろうか。

 おおむね……もちろん、嫌拳者の全員などと言うつもりはないが、どうも態度のはっきりさせられない旗色不鮮明な人物が多いような気がする。堂々としたところがなく、どこか卑小なのだ。
174殴るな!:2007/04/29(日) 17:58:33
 気分のよくならないまま打ち合わせをかなり早く切り上げた。オフィスではかなり前から禁拳になっていて、外でコーヒーを飲みながらの打ち合わせ、ついでに一発というのを自分でも思いのほかの楽しみにしていたようだ。それが中断されて、なんとも索漠とした気分だった。

 「ほんと、すいませんでした」
 気まずそうに言った山田主任は、そそくさと姿を消した。
 本当に悪いと思っているのかどうか、わからないなと私は思った。今の世の中は、愛拳家には肩身が狭い。狭苦しくて息が詰まるほどだ。

 昔は、家の中はもちろん、オフィスでも、レストランでも、気軽に拳を唸らせることができた。建物外でも別になにも気にすることなく、好きな時に好きな場所ですることができた。

 バス停や駅のホームの待ち時間は手持ち無沙汰だ。そんなときの一発がどれほどストレス解消に役立っていることか。

 最近、意味のない暴力沙汰、簡単にキレて第三者に暴行を加えるなどが増えているのは、案外昨今のヒステリックな嫌拳運動が遠因ではないかと密かに私は考えているのだが、どうだろうか。

 他撲ほど気軽で安価なストレス解消法はない。健康によくない、手首などの打ち身捻挫はもちろん、悪くすると骨折もと脅す媒体は昔からあるが、そんなことはこちらは百も承知で殴っているのだ。
 他人を殴れないでイライラしたり、その埋め草に菓子パンなど四六時中囓ったりしてしまう方が、よほど健康によくないのではないか。
175殴るな!:2007/04/29(日) 17:59:21
 こういうふうに言うと、必ず返ってくるのは、他撲をやって自分が骨折するのは勝手だが、他撲をしていない者を巻き込むなという論調である。

 骨折するのは勝手だがという言い方が、そもそも嫌拳者の自分だけよければいいというエゴイズム、狭量さを自ら露呈しているわけだが、それはあえて言うまい。我々愛拳家は、他撲でストレスを解消している分、おおよそ嫌拳家に比べて寛容だ。
そんな寛容な私たちでも、嫌拳家の振りかざす「殴られない権利」にはいささか理不尽だなと不快を感じずにはいられない。

 「殴られない権利」が主張されていいなら、当然「殴る権利」もあるはずだが、それはどんどん削られていく一方なのだ。

 数年前、こんなせつない四コママンガを見かけたことがある。主人公は平凡なサラリーマンで、気のいい平均的日本人男性だ。
 その彼が他撲をやっていると、通りかかった無関係な男からいきなり怒鳴りつけられる。「歩きながら人を殴るなっ!」。突然ぶつけられた悪意に、彼はただびっくりするしかできない。
 家に帰ってくつろごうとしても、夫人が冷たく言い放つ。  「子供が怪我をするでしょっ! 壁も傷むのよ!」
 主人公は独り、寒く暗い夜にひとけのない路地を探し、そこで寂しくシャドウ・ボクシングをしているというのが最後のコマだ。

 なぜ、そこまで嫌悪され、排斥されなければならないのか。
176殴るな!:2007/04/29(日) 18:00:52
 私は、もちろん禁拳の場所で他撲をすることなどない。殴ったあと、手を拭いた拭き紙をポイ捨てもしない。殴るのは禁拳表示のない場所に限っている。

 そんな私にも、非難と軽蔑の視線・態度はよく向けられる。最近多いのは、さすがにいきなり怒鳴りつけられはしないが、歩きながら他撲をしているときだ。

 別に禁拳場所で野放図に腕を振り回しているわけではない。拭き紙をしまう携帯紙皿も用意して気を遣っているつもりだ。
電車の中は当然として、駅のホームでも終日禁拳が多くなっている。だから、駅構内を出るまではちゃんと我慢している。愛拳家の中には我慢がきかず、禁拳表示の場所ですら拳を振るっている残念な姿を時折見かけるが、私は違う。
 それでも、嫌拳者にとっては、他撲をやっているというだけで、ひとしなみに人非人の認識なのかもしれない。

 オフィスに戻ると、部下の石丸がなんだかプリプリしながら荒々しい手つきでプロジェクターを整理していた。まだ若いが、仕事への情熱など、私はかなり高く評価している。直情の性格がしばしば他との衝突に繋がるが、軟弱な口だけ人間よりよっぽど好ましい。

 「どうしたんだい、石丸くん。やけに荒っぽいじゃないか」
 そう努めて平凡に声をかけると、
「ああ、富山さん、おかえりなさい。ちょっとムカつくことがあったもんで」
 石丸はまだ学生っぽい口調で、思った通りの返事をかえしてきた。
177殴るな!:2007/04/29(日) 18:01:30
 「駅で変な奴にからまれちゃいましてね。改札出て、やれやれって感じで階段降りてる時ですよ」
 駅で変な奴に。それはまた不運な話だ。
 「そいつ、いきなり、『あっ、痛い』とか言って睨んで来やがったんですよ」
 その変な奴は、突然『痛い』と……なんだって?
 「君は何かしてしまったのかい、つい肘を当ててしまったとか、足を踏んでしまったとか」
 「とんでもない、何もしてやしない、そいつはね、俺のパンチに文句をつけてたんですよ!」
 「他撲か?」
 なんだか今日はそういう話になる巡り合わせなのか。

 「いきなり見も知らない相手に痛い呼ばわりとはよっぽどのことだが……まさか、押さえつけてポカポカやったわけでもないんだろう?」
 「当たり前ですよ。俺はね、やっと殴れるやって感じで、階段降りながらワン・ツーってやってただけですよ。そしたら脇から、あっ、痛いって、わざとらしく大声出しやがって」
 「しかし、石丸くん、その駅は八並駅だろう? あそこは喫拳所以外は終日禁拳だぜ。階段だって駅構内だ。いきなり痛い呼ばわりも非常識だが、君にだって落ち度がないわけじゃないな」

 私は公正を心掛けている。こういう冷静さや寛容さが嫌拳者にもほしいところだ。いくらなんでも、知り合いでもない相手に突然『あっ、痛い!』はあるまい。石丸も悪意をもって拳を当てているわけではないのだ。
178殴るな!:2007/04/29(日) 18:02:54
 「そりゃあ堅く言えばそうでしょうけどね」
 石丸は少し鼻白んだように口先を尖らせた。
 「だけど、昔と違って、今は全然殴る自由がないじゃないですか。前は、ホームだってどこだって、殴りたくなったらいつ
でも殴れたんだ。それが、今じゃあ、ここもダメあそこもダメ、ホームで電車が来るまで、誰かを殴っていれば時間もつぶ
せるのにそれもだめ、一体どこで殴れっていうんですか」
 「禁拳の表示のないところでだよ」

 私は穏やかに諭した。石丸はまだ若い。私のような経験豊かな先達が教え導いてやらなければ、社会のルールに
適合できないのだ。

 「階段はそりゃ禁拳だったかもしれない。でも、何がいけないんですか、ただ殴ってるだけですよ。そりゃ殴ってるんだ
から、拳ぐらい当たるでしょうよ。でもちょっと痛いからってなんだってんだ。こっちは他撲をやらないとイライラするし、殴
れないところではずっと我慢を重ねてるんだ。嫌拳権だなんて間の抜けたネーミングの権利を振りかざしやがって、そ
れならこっちの殴る権利だって尊重されなきゃおかしいじゃないですか」

 「だからこそだよ、石丸くん。だからこそ君は、駅構内から出るまで我慢するべきだったんだ。いくら人を殴ろうが文句
を言われる筋合いのない道路に出るまで待っていればよかったんだよ。君はみすみす嫌拳者に文句を言う大義名
分を与えてしまったんだ」
 「富山さん、だって、ただ歩きながら殴っていたって、とやかく言われるようになっちまったじゃないですか」
 石丸は疲れたようにトーンダウンした。

 「近くを歩いてた奴が、俺が拳を固めだすとわざとらしく顔をしかめて、拳の届かないところまで移動したりする。すぐ
後ろにいた奴がいきなり走って追い抜いて行きやがった。俺はゴキブリ扱いかっての!」
 またすぐにエキサイトした。
179殴るな!:2007/04/29(日) 18:04:14
 石丸の憤りも解る。嫌拳者の主張にはかなり大仰でヒステリックなところがあるのだ。

 他撲をやって自分が骨折するのは勝手だが、人を巻き添えにするなと言う。他撲のやり過ぎは健康によくないそう
で、因果関係が証明されたわけではないのに、皮膚ガンの罹患率が高いとか言う。そして、殴る方だけでなく殴られ
る方の健康にも害があると言う。

 しかし、考えてほしい。他撲より問題にするべきことは、もっとたくさんあるはずだ。いったい、他撲のために骨折した
とか皮膚ガンになったとか、死んでしまったとか、そんな人がどこにいるというのか。いないと言い切れるものではない
が、探し回って見つかるというレベルだろう。

 比べて、たとえば自動車事故などで命を奪われる人は毎日かなりの数に及ぶ。たかだか人間の拳が触れた当た
った、そんなことに権利がどうの加害者だ被害者だを持ち出している暇が有ったら、もっと大きな問題である交通事
故防止などに取り組むべきではないのか。車が当たると、痛いどころでは済まないのだ。

 それなのに、暴走自動車は野放しで、ただ人間の拳を当てているだけの他撲ばかり目の敵にされ、諸悪の根源
ででもあるかのように忌み嫌われる。

 嫌拳者は自分たちを一方的な被害者のように言うが、ストレス社会に生きる中で、たったひとつのささやかな楽し
みが一発の他僕、そういう人間もいるのだ。そんな人達には、他人を殴る楽しみを奪われるのは、あまりにもつらい
苦痛だろう。本当の被害者は、好きな時に好きな所で他僕をする自由を奪われた、愛拳家たちではないのか。

 家庭でも職場でも温厚篤実で信頼される人物を、歩きながら人を殴ったという、ただそれだけのことで疎外してい
いのか。そんなに殴られたくないのなら、自分が喫拳者に近寄らなければいいだけではないか。ちゃんと禁拳場所へ
行くがいい。

 石丸をなだめる立場の私も、いつしかそんな思索に埋没していた。
 自分で意識するより、たまっていた鬱憤があったのだろう。
180殴るな!:2007/04/29(日) 18:11:26
 「まあ、あまり相手にしないことさ。殴られるのをいやがるような奴には、人の痛みなんて解らないんだよ」
 とってつけたように私は言った。安易に石丸に賛同するようでは、軽挙妄動の謗りは免れまい。

 「まったく、こっちは別に、お前も殴れよとか無理強いしてやしないんだ。殴らないでいる自由を尊重してる。それで
いいじゃないですか。こっちは殴る、向こうは殴らない。ここまでで平等だぜ。それをつけあがって、殴られない自由な
んて言い出してさ、そうなるとこっちは殴れなくなっちまう。殴る自由が侵害されちまうんだ。向こうはいいや、何も我慢
しないで、気分よくいられるんだからさ。こっちだけが一方的に我慢させられてる。おかしくないですか」
 「おかしいよ、なんかずいぶんおかしいよ」
 石丸の荒々しい声が遮られた。今のは私の科白ではない。

 「そうだろ、おかしいよな?」
 賛同者を得て、石丸の声がますます熱を帯びる。が、
 「違う、そうじゃない。さっきから聞いてたんだが、あんたの言ってることがなんだかおかしいんだよ」

 少し離れた席の西尾だった。私や石丸はエム・チームだが、西尾は以前さきほどの山田主任と同じジー・チームに
いて、今はアール・チームに変わっていた。これは実はリタイア班のことで、要は戦力外と言ってもいい。今も、特にや
ることもやれることもなく、ただ自席で暇を持て余していたのだろう。

 石丸は顔を歪め、あ〜ん? というような声を上げた。
181殴るな!:2007/04/29(日) 18:12:13
 「なんだってえ? よく、聞こえなかったなぁ。もう一度、よく聞こえるように言ってくれないかなぁ、西尾くーん」
 明らかに西尾を揶揄する口調であり、表情だった。
 西尾の武骨な顔が、こちらははっきりと怒りと屈辱に歪んだ。

 「俺は、石丸くんみたいに能弁じゃないから、上手くは言えない。だけどな、なんだかやっぱり変だ。おかしい。それく
らいは、俺にだって判る」
 「わかんねえよ」
 苛立たしげに石丸は言い、席を立ってわざわざ西尾の方へ向かった。私はその様子を眼で追いながら、とりあえず
は静観した。あまりおおごとになるようなら、割って入らなければならない。いくら形式張らない自由なオフィスであって
も、個人的な喧嘩までがクリエイトの一環になるとして奨励されるわけもない。

 「俺は能弁、お前は訥弁、だからなんだってんだ? 言いたいことがあるんなら、はっきりと言ってもらおうじゃねえか」
 うう、と西尾は口ごもった。
 「おかしいんだ、すごく……」
 「だからなにがだよ」
 「……俺は、他撲はやらない」
 冷汗か脂汗か沸かせながら西尾は言葉を絞り出す。
182殴るな!:2007/04/29(日) 18:20:10
 「ああ、知ってるさ。お前に殴れなんて強制はしてねえよ」
 「俺は殴らない。あんたは殴る……」
 「平等だよな」
 「でも、あんたは俺を殴る……」
 「別に西尾君だけ殴るわけじゃないけどな」
 「あんたが俺を殴るのは、殴りたいから……だよな?」
 「だからさぁ、別に西尾君をじゃないんだよなあ。誰かを特にってんじゃないんだよ。俺は単に殴りたいってだけなの。
それだけなんだよ」
 「とにかく、殴りたいのはあんたなんだ。そうだよな」
 西尾はもどかしげに言い募った。石丸もまだ未熟だが、西尾は自分の思惟をきちんと言語化する能力がやはり
低いのだろう。これではプレゼンテーションが上手くできるはずもない。

 「ああ、ああ、そうですよ。俺は、殴りたいの。殴らせてよ、気持ちよく」
 「殴りたいのはあんたで、あんたは殴ることで気持ちよくなれる……」
 西尾は懸命に筋道をまとめようとしているようだ。そんなときこそ本当は、一発の他撲で脳が活性化する。とはい
え、オフィスは全面禁拳なので、西尾でなくても殴ることはできないのだが。
183殴るな!:2007/04/29(日) 18:21:08
 「殴りたいのはあんたなのに、どうして俺が殴られないための努力をしなきゃいけないんだ?」
 「はあ?」
 「普通は、何かしたいとか、願望とかある奴が、それをやるために努力したりしないか? それができる場所に行っ
たり、できる時間まで待ったり。なんで、殴りたい奴等は好きな時に好きな場所でそれをやっていいんだ? なんで、
殴られないためにわざわざこっちが、禁拳場所に移動したりしなきゃいけないんだ?」
 「馬鹿言ってるんじゃねえよ。好きな時に好きな場所でなんて自由はねえよ。喫拳所を探してそこまではるばる行
かなきゃならないんだぜ」
 「だから、それは当たり前のことで、それをおかしいって言うほうがおかしいって言ってるんだよ。あんたは他撲をやり
たいんだろ? だったら、それが許可されてるところにあんたが行けよ」
 「行ってるよ」
 「でも、あんたはそれを不満に思ってる。だから、禁拳の表示のないところなら、どこででも殴ってる。歩きながらで
も、階段でも、バス停でも電車のホームでも」
 「禁拳でないところで殴ってて、なんで白い目で見られなきゃいけないんだよ。禁拳場所では我慢してて、やっと
禁拳でないところに来て、やっとだって感じで殴るんだぜ。それをまるで悪の塊みたいな目で見られるんだぜ」
 「本当は、喫拳所がきっちりと定められて、そこ以外では殴れないようにすべきなんだ」
 西尾は調子に乗り、とうとう本性を現した。結局、そういいことが言いたかったわけだ。

 「なにぃ!」
 ついに堪忍袋の尾が切れたらしい。石丸は拳を固めて西尾に向き直った。ここまでだろう、と私は割って入った。
 「やめろ、石丸くん。僕が話そう」
184殴るな!:2007/04/29(日) 18:22:03
 私は立ち上がり、2人の方に近付いた。
 「富山さん、この野郎はねえ!」
 「やめるんだ、石丸くん。オフィスで声を荒げる必要はない。西尾くん、このままでは仕事も上の空だろう。私がとこ
とん、話し相手になろうじゃないか」
 「富山さんかあ……」
 西尾は、にやりという感じの表情を見せた。が、それは不敵というよりは照れたような、困ったような笑いに見えた。

 「富山さんには、いろいろお世話になってるから、あんまり喧嘩はしたくないんですよ……」
 「喧嘩じゃないさ。論戦だろ? 僕たちの仕事では議論も何かと必要だ。ロープレだと思えばいいさ。さて、さっき
かなり過激なことを言っていたような気がするんだが」
 「いや、僕は、過激だなんて思ってないですよ」
 西尾はムキになった顔を見せた。もう引っ込みはつかない、そんな表情にも見えた。

 「他撲をする皆さんは、昔はどこでも自由に殴れたのに、今はすぐ白い目で見られる、肩身が狭い、虐げられてる
ようだ、そんなふうに言いますよね。でもさ、どこでも自由に殴れるなんて、そのほうがおかしかったんだって、そんなふ
うには思わないですか?」
 「どうしてだい? 誰だって、自分の好きなことを、好きなときにやりたい。当たり前じゃないか。逆に、昔は変に思わ
れていたようなことが、今は普通にやれているくらいだろ? 電車の中や、歩きながらで、パンを囓ってるなんて、僕ら
の前の世代辺りだと考えられないことだったみたいじゃないか。そんなみっともないことはってね。化粧とか、そうそう
ケータイなんかもそうだな。他撲だけが、目のかたきにされてる。僕はそう感じるな」
185殴るな!:2007/04/29(日) 18:24:29
 「うーん……」
 西尾は唸った。頭の回転は石丸と比べても、そう速いわけではない。他撲の一発でもやれば血の巡りが違うので
はないか、と私は要らぬ心配までしてやった。
 将棋ではないのだから、あまり長考してもらっても困る。

 「……やっぱり、申し訳ないですけど、他の嗜好品とか、食べたり飲んだり、そういうのと、他撲はちょっと違ってる
と思います」
 西尾はやっとのことで言葉を継いだ。
 「例えば、電車の中で酒を飲んでいたりして、そういうのも俺、なんだコイツとか思うし、酔っ払って因縁でもつけら
れたら愉快じゃないなとか思うし……でも、酒を電車の中で飲むのを特に禁じるまでなってないで、ただ他撲だけ
禁じられてるのは、理由があるわけですよ」
 私は黙って聞いていた。とにかく言いたいだけ言わせてみる。鉄則以前の基本のことだ。

 「酒とかじゃなくて、例えばパンを食ってるとか、化粧をしてるとか……横の奴、前の席の奴、そいつらがそんなこと
してたとして、それもオイオイって思うけど……パン屑が飛んでくるとか、髪の毛が降ってくるとか、そういうのがなきゃ、
直接いやだなあってまではなんないじゃないですか。だからまあ、少なくとも、直で隣りにいるとかでもなきゃあ、まず
被害はないし、隣りにいたって必ずってこともない。酒やケータイも、飲んでる奴が酒をこぼしてきたり絡んできたり、
でかい声で電話相手と話してたりしなけりゃ……ああ、ケータイの電磁波のことは分からないけど」
 「他撲はどう違うっていうんだい」
 「だって、他撲は、とにかく拳が来るじゃないですか」
  西尾は急に勢いづいて言った。
186殴るな!:2007/04/29(日) 18:25:30
 「他の嗜好品は、ほんとにそいつだけの楽しみで終わりますよ。飴を舐めようがガムを噛もうが、酒だって、こぼしたり
酔って絡んだりしなけりゃなんでもない。でも、他撲は違う。最初から、周囲の誰彼構わず拳が飛んでくるのが前提
なんだ。他撲をしているその人に悪意があるとかないとか、その人がどんな人格の持ち主だとか、そんなこととは関係
なく、とにかく拳が来るんです。殴られたくない、殴られるのは嫌いだ、そう思っている人もいるのに、そういう人にいやな
思いをさせてるって特に意識もしないで、殴ってる人だけが気持ちよくなってるんですよ」
 「かなり一方的な言い方だな」
 私は苦笑してみせた。

 「僕にはどうしても、なぜそこまで殴られるのをいやがるのかがミステリーだよ。まあ、聞いてくれ。確かに他撲は、殴ら
れたくない人にも拳を当ててしまう。それはその通りだ。だけど、そこまで神経質になることなのかな」
 私は、まだまだ喋り足りなそうな西尾を制しながら言った。いいかげん、こちらの感じ方も伝えておかないと、ひたすら
独善的な主張が拡がるばかりだ。

 「君たち嫌拳派は、よくいろんな材料を持ち出すね。殴られるのは健康によくないとか、皮膚ガンになるとか。だけ
ど、たかだか人間の拳だぜ。そんなもので大運動して、禁拳場所を増やして、だけど、もっと取り締まるべきものがあ
るんじゃないのかい。交通ルールを守らない車や自転車なんかの方が、人間の拳なんかより、ずっと危険なのは
間違いないじゃないか。他撲を排斥して大々的に運動する暇があったら、暴走自転車でも取り締まったらどうなん
だろうね。なにかはき違えているというか、長い物には巻かれて、我々弱い立場の愛拳家ばかりがいじめられている
感じだよ。ほんとにどんどん肩身が狭くなっていく」
 最後のほうは、少し厭味が入ってしまったかもしれないが、正直な気持ちなのだ。

 「……肩身が狭いって、弱い立場って、ただ殴られてる側からすれば信じられない言い方ですよ……」
 西尾は、こっちこそが信じられないようなことを言い出した。
 「なんだって?」
187殴るな!:2007/04/29(日) 18:28:53
 「いや、それは俺、富山さん個人のことは分からないですよ。でも、俺が通勤途中で出くわす喫拳者の人達は、
全然肩身なんか狭くないですよ。歩きながら、それも朝夕の通勤時間で道じゅう人がいっぱいの中で殴ってる人は
山ほどいますよ。歩きながらだけじゃなくて、自転車に乗ってる奴が他撲をやってて、擦れ違い様に一発殴られること
も割りとあります。バイクや、それから車の窓からニョッキリ手が伸びててなんてのも、よくあります。俺自身がバイクで
走ってたら、前の車の窓からパンチが飛んできて事故りそうになったことだってある」
 「それはリーチの、いや、マナーの問題で、確かに一部の喫拳者に問題があるのは確かだろう。だが、歩き他撲まで
そんなにダメだしされたら、ほんとに我々はどこで他撲をすればいいんだい。あんまりじゃないか。だから肩身が狭いって
言うんだよ」
 「歩き他撲までって言いますけど、道路は喫拳所じゃないんですよ」
 「ほとんどの場合、禁拳所でもないと思うがね」
 「そう……そうなんですよ。ほとんどの道路は禁拳場所じゃない。だから、喫拳者の人達は殴るわけですよね。その
自由がある。喫拳者の人達は、禁拳場所でさえなければ、どこででも殴れるんですよ。そして、それに対して白い眼
を向けられて不愉快に感じてる。その気持ちは当然だと思うんです。だけど、こちらはこちらで感じるんですよ。喫拳所
じゃないのに、って。殴られたくないから、喫拳所や喫拳可の店とかには行かないようにしてるのに、道を歩いてると、
どこかから拳が飛んでくる。前や横を歩いている喫拳者が他撲を始めたんです。殴られたくないな、いやだな、と思っ
たらどうすればいいと思いますか? 他撲をやめてほしいと言ったとしたらどうなると思いますか? 富山さんなら、
見ず知らずの誰かにいきなりそう言われたらどうですか。歩き他撲をやめますか?」
 「それは状況に依るね。小さい子やお年寄りに、痛いからやめてほしいと言われたら、やめるだろうな」
 「やっぱり富山さんは公正だな。正直だ。俺みたいな男に言われたんだったら、富山さんは、いや、石丸くんでも
他の誰でも、不愉快に思いこそすれ、まずやめないでしょうね」
 あたりまえだ。禁拳場所でもないところで、いきなり変な男にそう言われて、どうして喫拳をやめる理由になるものか。
188殴るな!:2007/04/29(日) 19:07:11
 「つまり、禁拳所以外は、喫拳所なんですよ、みなさんにとってはね。道でも、駅のホームでも、バス停でも、
タクシーを待つ列でも、禁拳の表示さえなければ、どこででも殴る。駅のホームでは、禁拳表示があって、アナウンス
で禁拳の呼び掛けをしてたって、禁拳マークのすぐ前で、それこそマークを眺めながら平気で殴ってる人も多いですけどね」
 「そういうマナー違反者と一緒にしてもらいたくないね」
 「一緒にはしないですよ。ただ、そういう人達が決して一握りじゃなくて、どの駅のどのホームにも、一人や二人じゃ
なくてかなりの人数でいるっていうことです。そして、別に悪いことをしているなんて思っていない。注意を受けようもの
なら不愉快そうな顔をして、中には怒り始める人もいる。だから、まず注意しようなんて嫌拳者はいませんよ。余計に
ひどく殴られかねないんだから。でも、富山さんの言うそういったマナー違反者でなくても、たとえば石丸くんみたいな
人だって、駅の改札を出ると、待ち兼ねたようにシャドー他撲を始めるわけですよ。そして、外へ出る階段ではもう
殴り始めている」
 「ねちっこい野郎だな」
 本当にそうだ、嫌拳者に共通する嫌味っぽさだと思ったが、私は黙っていた。口を開くと、つい石丸同様抑制の
足りない悪罵めいた言い方に走りそうだったのだ。

 「みなさん喫拳者の気分としては、禁拳という制限のあるのが不当なことで、禁拳場所にされているからやむを得
ず殴らないでいる。禁拳でさえなければ、本当はどこでだって殴りたい。どうして制限なんかされなければいけないの
か。そう思っているわけですよ」
 西尾は、最初の訥弁ぶりが巧妙な演技だったかのように、人が変わった演説モードだった。確かに、ふだんの西尾
ではなかった。石丸など、癇癪を噛み殺しつつ、同時に目を丸くするという、変な離れ業に自らをはまり込ませていた。
189殴るな!:2007/04/29(日) 19:09:12
 「そんなにまで殴られるのがイヤなら、禁拳場所へ行けばいいと思うがね。そこでマナー違反者がいたら、今みたい
に思う存分罵ればいいじゃないか。だけど、別に禁拳でないところで殴っていて、それをとやかく言われるのは、やっぱ
り不愉快だな。禁拳でないところでは、お互い平等なんだからね。我慢し合うことが必要だ。そうだろう?」
 「そうだぜ、そうだぜ」
 「我慢し合ってないですよ。禁拳ってされてないところで殴るのを我慢してる人なんて、全然いない。殴ってない時
があっても、それは別に我慢してるんじゃなくて、単に殴ろうって気分になってないだけなんですよ。だから殴りたくなっ
たら、すぐに殴り始める。子供がいようと病人がいようと、おかまいなしだ。そして、殴られた人が『あっ、痛い』とでも
言おうものなら、ものすごく不愉快そうな顔になって睨んできたり罵ってきたりする」
 睨んだり罵ったりしてるのは、そっちじゃないか? と思った。こちらには別に喧嘩を売る気など、そもそもないのだ。
それを大仰に痛いだの苦しいだの突然言われれば驚くしかない。

 「君達はいつも、殴られるのは迷惑だ、殴るのは勝手だが殴られる方の痛みを感じろ、と言うね」
 私は静かに反論を始めた。さすがに、これ以上ただ言わせていると、石丸の堪忍袋がはち切れかねないとわかった
からだ。

 「しかし、我々喫拳者にとって、喫拳しないでいるというのは、それこそ苦痛なんだ。年々、気楽に人を殴れる場
所は減る一方だ。食事中にも殴れない、駅でもバス停でも殴れない、いよいよ道を歩いているときまで殴るなという
のは酷すぎないかい? いったい、どこで殴ればいいんだい?」
 「殴らなければいいじゃないですか」
 西尾は平然として冷たく言い放ち、私を唖然とさせた。
190殴るな!:2007/04/29(日) 19:10:11
 「それはあんまりじゃないか。君は水を飲むなとか空気を吸うなとか……」
 「他撲は水でも空気でもないですよ。それこそ、皆さんの言う、オーバーだ、ですよ。人を殴らなくたって生きていける」
 「殴れないつらさが君にはわからない」
 「わかりませんね。どうして殴るんです? 他のことでは、あらゆる点で、俺は富山さんを尊敬してます。仕事だけ
じゃない、親切で思いやりがあって、相手の気持ちを汲むとか、人間性って点で俺なんか足下にも及ばない。その
富山さんが、こと他撲ってことになると全然周囲に気配りしない。いや」
 西尾は私を遮った。
 「サ店で、殴り始める前に『いいかな?』って聞いてるなんて、あれは無意味なんですよ。聞かれて『いやです』って
言える奴なんていない。携帯紙皿を持ち歩いてて、殴ったあと拳に付いた血や脂を拭った拭き殻をポイ捨てなんか
していないって? でも、拭き紙のパッケージを開けた時、そのセロファンやリボンを歩きながらでも捨てたりしてます
よね。使い切って空になったパッケージも、クシャクシャって丸めて道にそのまま捨ててないですか? 富山さんは、
他のゴミ屑なんかなら、間違っても道端に放り捨てたりしない人だ。なのに、少しの躊躇もなく、そのパッケージは
捨ててるんですよ。どうしてですか?」
 「君の言いたいことは解った」
 と、私は冷静に言った。

 「だが、考えてみてくれ。君達は拳を喰いたくない。私達だって、別に君達に痛い思いをさせようなんて意図はない。
そこまではいいね?」
 西尾は未練がましく何か言いたそうだったが、私の落ち着いたまなざしに口を閉ざした。疚しいところも恥じるとこ
ろもない私は、西尾のように醜く捲し立てる必要がない。心静かなるは無敵なり。明鏡止水とは、まさにこのことだ。
191名無しは無慈悲な夜の女王:2007/05/02(水) 16:56:17
SFを書こうぞえ
192名無しは無慈悲な夜の女王:2007/05/03(木) 01:24:52
「古都に啼くもの」を放置してスマソですが近々別のを書こうと思います。
193名無しは無慈悲な夜の女王:2007/08/22(水) 13:22:40
ttp://diarynote.jp/d/83444/0_0_0

これも、SFか?w
194名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/02(日) 22:56:09
2レス程投下します。
星新一のショートショートを参考にしました。
1951/2「ロボットのおかげ」:2007/09/02(日) 22:57:57
短編
「ロボットのおかげ」


男はエヌ博士の家の扉を叩いていた。博士が変わったロボットを作ったというのでそれをききつけてやってきたのだ。
しばらくすると博士がでてきた。
「よく来ましたね。どうぞ、おあがり下さい。私の作ったロボットをみにきたのでしょう?」
男は、そうですとだけ答えた。
博士は男を家に招きいれると銀色のピカピカに光る石みたいなのをとりだすと男に見せた。よくみると足がついていた。
「これが私の発明した新型のロボットです。」
「なんだか綺麗ですね。で、これはどんな変わった事をするロボットなんです?」
男は感心してそう言った。
「触れてごらんなさい。」
男は触れてみたが何にも起こらなかった。
「何にも起こりません。これは故障ですか?」
「いや、これでいいんです。」
男はわけがわからず首を捻った。
「もしかして未来が変わるとか?」
「いや、何もしません。何も変化はしない。このロボットは何にもしないのです。」
「どういうことなんです?」
「後でわかります。これは後々のために必要なのです。」
「後々のためとはなんです?何にもしないとは一体どういうこと何でしょう?」
「未来のためですよ。」
男はますます訳がわからなかった。

それから数日後、博士は庭にそれを埋めることにした。
1962/2「ロボットのおかげ」:2007/09/02(日) 23:00:02
それから数千年後、人類は滅び、生物は新たな進化をとげようとしていた。
そしてそれからさらに月日が流れると高度な知能を持つ生物が出現し始めた。それはしだいに道具をつかうようになった。猿人の誕生である。

ある日のことである。土がもりあがっているのを二匹の猿人が見つけた。
二匹は地面を掘る。するとピカピカ光る銀色の物体がでてきたわけである。それはかつてエヌ博士が埋めたところであった。
一方の猿人がそれを手にとり触れた。すると突然手が飛び出し光り輝いた。
猿人はびっくりして手を離した。手からこぼれたロボットは落ちている木へと歩いていき、目から光線をだして火をつけて猿人達に見せた。
猿人達は最初は驚きと恐怖で火には近付かなかったものの次第に火に対して興味を持ちはじめた。
そしてロボットから火のついた木を受け取ると煌々と燃える輝きを興味深く見つめた。それは原始新人類が初めて火に触れた瞬間であった。

そしてそれから長い年月が流れ新人類は急激に発展を遂げていき、ついには近代都市の様相になった。
全てはロボットが新人類に技術のあれこれを教えていったおかげであった。

ある日、ある人がいった。
「この間は空飛ぶ車を発明することができました。次はあなたのようなロボットを作りたいのですがどんな事をすればよいのでしょう。」
すると、ロボットはこう言った。
「私は今まであなた方に技術の全てを教え、発展に尽くしてきました。しかしその必要性がなくなりました。」
「どうしてです。私達はもっと多くの技術が欲しいのです。何か不満でもあるのですか。」
「いいえ。そうではありません。これ以上先はあなた方の力で発展していってもらいたいのです。博士にそうプログラムされています。
博士は"現代人にはより高度な技術を教えてもロボットに頼りきってしまいあまり意味がない。だから新人類にはここから先は自身の力で、自身の技術で発展して欲しいというのが私の最たる願いである。"と。そうおしゃってました。」
そしてロボットは、みなさんと出会えて光栄であった、との主旨を伝えるとそれきり動かなくなった。
この後、新人類はこれまで以上に発展していくがこれもそのロボットのおかげだということはいうまでもない。

197名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/02(日) 23:03:40
これで投下を終了いたします。ありがとうございました
198名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/04(火) 01:13:00
何がしたいのか分からんかった
199代理戦争1/1:2007/09/08(土) 12:13:28
毎秒200発発射される重合チタン弾が、俺の操縦する全長13メートルのマルチアーマーに被弾する。
が、E吸収ゲルアーマーのおかげで操縦席にはわずか揺れが伝わるだけ。
こちらもX線レーザーで応戦するが、同様に吸収されて効果が無いようだ。
かれこれ3時間ばかり同じ事を繰り返しているが、俺はもう完全に飽きていた。

事の起こりは3週間前、月政府と地球政府による対談で代理戦争案が提出されたことにある。
両政府による全面戦争が勃発して50年、戦争の原因と言われるものは数あれど
有力な理由が全く出ない事から雰囲気戦争と呼ばれたことに始まり、
月によるマスドライバーの飽和攻撃はすべて都市防護用のゲルアーマーに吸収され、その応酬として地球から発射された
核ミサイル4000発もまた撃墜されたことから徒労戦争と名を変え、
制空権の取り合いに移行するも、前哨として出撃した戦闘機が両陣営とも軌道に乗る前に
デブリの危険により引き返して来てからは、最近までおずおずと効果の無いミサイルやレーザーの
打ち合いを延々と続けてきた。
たしか百日手戦争と呼んでいたと思う。

いよいよ打つ手が無くなったのか和平交渉に移るも、
地球政府は地球の地形を変えてしまうような都市改造までしているせいで
宇宙の広さ的な額のクレジットを賠償として要求し、
月は月で宇宙進出に関わる様々な恒久的権利を要求して両者とも全く引かず、
外交官8名が過労死(今回の戦争で老衰以外の初の戦死認定)した段階で、
もうなにかで決着をつけるしかないということで今回の代理戦争が決定したのである。

自由軌道に全長500立方メートルのリングを建設し、そこで二名が戦う。
持ち込む道具は20uのゲートをくぐれるものなら何でもOK。
負けた方が勝った方の条件をすべて飲むという剛毅なルールが決まり、
全地球の熱狂と興奮に後押しされ、すべてを背負って赴いた戦場で
いよいよ始まった戦いがこのざまということで、俺の心のほどが理解できたかと思う。
200代理戦争2/2:2007/09/08(土) 12:14:22
トリガーを引く指が疲れてきたので、しばらく指を休めるついでに目の体操をしていると相手から通信が入った。
「こちら月面軍事サービス保障のジェイ・ナカヤマ課長と申します、はじめまして」
「こちらは地球防衛軍のマイク・モリナガだ。用件は何か?」
「ああ、あなたも日本系ですか、奇遇ですね」
「戦闘中だぞ、私事は慎みたまえ」
「まぁまぁ、様子から見て貴方も飽きてきたんでしょう?さっきから適当な攻撃ばかりじゃないですか」
図星を突かれ、ふと笑ってしまう。相手も同様とわかり、ますます気が抜けた。
適当な会話を続けているうちに打ち解けてしまい、家族の話題、
政府への愚痴などを語り合ううちに、もう戦う気も起こらなくなってしまった。

休戦状態のまま3日ほど経った頃、ナカヤマにこう言われた。
「マイク、このまま戦いをやめてしまいませんか?」
「ああ、もう君と戦う気はないよ。どうせこちらの攻撃手段の効果はないし、そちらも同様だろう」
「そういうことではありません。
代理戦争の条項に『この代理戦争中においてはリング以外でのあらゆる攻撃を中止する』という項目があります。
つまり私たちがここにいる限り、戦争は起こらないと言うことですよ」

確かに道理は通っている。戦闘さえやめば交易や宇宙開発も進み、そのうち地球対月という対立も過去のものになるかもしれない。
すくなくとも月政府はそのつもりでいるようだ。そもそも戦争自体に大した意味は無いのだし。

「つまり、二人っきりでずっとここにいようってか?」
「そういうことです。ところで、こちらのマルチアーマーに移ってきません?
そちらよりたっぷりと広さをとってありますし・・・・私たち、もっと親しくなる必要があると思いますの」


50年後、ようやく戦いが終わり俺達はリングから出ることができた。
理由はジェイの老衰死。
彼女は子供5人に見送られ、眠るように息を引き取った。
立派な戦いぶりであった。
201名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/08(土) 18:15:01
代理戦争、面白いじゃないか。
202名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/08(土) 20:14:49
どうかな

‘やぁ、ボク大ちゃん 第一話 「出席番号」‘



やぁ、ボク大ちゃん。本名、井上D輔だけどD輔じゃむなしいってことで大ちゃんってあだなをつけられたんだ。ムヒョ好きのピッカピカの中学一年生だよ。

今日はT中学校の入学式、今から出席番号が発表されるよ。
まぁボクは井上だから一か二番目くらいだろうけどね。

井上D輔、Aクラス

やったAクラスだ。出席番号は何番だろう。

アナウンス:「ただいまから一年A組の出席番号を発表します。」
一番:愛上 葵(あいうえ あおい)
二番:藍川 晃(あいかわ あきら)




203名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/08(土) 20:15:26
なに!一二番二人とも‘あい‘から始まるのか。でもボクは四番くらいだろう。

三番:愛野 青樹(あいの  あおき)
四番:青木 百済(あおきくだら)

なにー

五番:安須目 様田(あずみ ようた)
六番:安西 安西(あんざい やすにし)

ちょ、安西 安西て親ふざけてるだろ。

七番:EEO くまうどん(いーいーおー くまうどん)

なにそれ

八番:慰御羅 目良(いおら めら)
ドラクエ??つかボク何番?????

九番:五十崎 慶太(いかざき けいた)

204名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/08(土) 20:16:37
十番:生き物 係(いきも のがかり)
いきものがかり??

十一番:生田 城(いくた じょう)
十一番:潔区 切腹(いさぎよく せっぷく)

十一番どんな名前だよ。

十二番:意思氏 熨斗氏(いしし のしし)
ゾロリか!

十二番:任天堂峨 饂飩店煮 (にんてんどうが うどんてんに)
ぎゃくからよんでもにんてんどうがうどんてんに)てゆうか何でコイツ十二番!‘に‘からのくせに俺は‘い‘だぞ‘い‘

十三番:礒野 鰹(いその かつお)
カツオー宿題はやったの?つか俺何番。
第二話に続く、週刊と検索したら出る。

続きがよみたければきてみてください。
205名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/08(土) 21:20:37
「やあ、ボク大ちゃん」面白いじゃないか。
急にレベル上がったな、ここ。
だが、任天堂は失敗だな。
206名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/10(月) 22:02:13
ひどい自演をみた
207名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/11(火) 05:34:58
おれの自演をよく見破ったな。おまい、天才だな。
208ラクタカの遺産 第1回:2007/09/16(日) 16:22:36
――こんなはずじゃなかった……
暗闇の中、ひんやりとした床に頬を付け、尻を突き上げた状態のまま
俺は思った。身動きすると身体中の傷が痛む。一つ一つはかすり傷だが
塵も積もれば何とやら――全く堪ったもんじゃない。
目を上げると遥か遠く――実際は3メートル程だが――に
明かりが見える。正確には明かりに照らされた食膳だ。
とっくに冷めているだろうが、三日も飲まず食わずだった俺には
大御馳走に思える。
何とかあそこまで行かなくては。俺は全身を軋ませながら這いずって行く。
あと2メートル、あと1メートル、あと――。
ガシャン
扉が開く音がした。地上との出入口。そう、ここは地下なのだ。
――もう、戻って来やがった。
全身の細胞が収縮する。くそっ、それまでにせめて一口。
「おやおや、小汚いイモムシがいるよ」
209ラクタカの遺産 第2回:2007/09/16(日) 16:45:33
途端に部屋が明るくなった。
階段を降りて来たのはズムだった。四六時中ニヤニヤと
わざとらしい笑みを浮かべた嫌味な男だ。こっちに近付いて来たが、
用心深く一定の距離を保って立ち止まった。
「ほう。やっと食べる気になったのかい。お嬢様も喜ぶだろうね」
俺は奴を睨んだ。奴も冷たい目で俺を見下ろしている。例によって
ニヤつきながらもその目の奥は笑っていない。不機嫌さを
押し殺しているのだと思った。理由も見当がつく。今奴が言った
言葉の中に、それがあるに違いない。
「君が未だにそんな目をしていられるのも、お嬢様のやり方が
手ぬるいからなんだ」
ズムは左の袖口から小さな棒状の物を取り出した。すぐに長くなる。鞭だ。
「僕が本当の拷問を教えてやるよ」
ズムが鞭を振り上げ打ち下ろそうとしたその時――。
「何してるの!」
鋭い声が飛んだ。ズムはビクンと身体を震わせて階段の方を振り向いた。
お嬢様が来たのだ。
210ラクタカの遺産 第3回:2007/09/16(日) 17:29:07
「お嬢様、これには――」
「訳なんてないわ。少なくとも私が納得の行くものは。そうでしょ?」
「……はい」
あっさりとうなだれ後ろに下がるズムを一顧だにせず彼女は近付いて来た。
俺はゆっくり上半身を起こした。
腰の辺りまで届く、ヨルナノカの火口から噴き溢れる溶岩の様に
激しく紅く輝くブロンド。瞳の奥に深緑の淀みを秘めた目は
意志の強さを表すかの様に吊り上がっている。その下には丸味を
帯びた小さな鼻があり、そして薄桃色の唇へ辿る。ふわりとした
ドレスを着ているため身体つきはよく解らないが背は俺よりも
頭一つ低い位だ。総合的に言って美しいと言えなくもないが、
この3日間彼女にされたことを考えるとその容貌を素直に賞賛する
気にはとてもなれなかった。
「貴方は上に行ってて」
立ち止まり俺を見据えたままズムに言う。ドレスの裾が膝に
当たりそうだ。ズムより余程肝が座っている。
ズムは無言で階段を上って行った。それでも横顔はニヤついたままだ。
そうしていれば尊厳が保てると信じ込んでいるのだろう。
「もう、決心はついたでしょうね?」
常に変わらぬ彼女は冷ややかな態度で言った。外見に似合わず
ハスキーな声だ。
211ラクタカの遺産 第4回:2007/09/16(日) 18:02:04
「だからずっと言ってるだろう。お前の奴隷になんかならねえよ」
睨み付けて精一杯の大声で言ってやったが彼女は些かも表情を
動かさない。
「まだ判らないの? それしかここで貴方の生きる道はないのよ?」
「そっちこそまだ判らないのか? 俺はお前の親父を殺すために
来たんだよ。」
彼女は不快そうに眉をしかめた。してやったりだ。
「そんなこと出来るわけないわ。父はこの星の支配者なのよ?
それに比べて貴方は何? ここへ来てものの5分で私に捕まった
じゃないの。その程度で父に復讐だなんて蟻が象に挑むようなものよ」
「だが、殺さなくてはならないんだ。何としてでも」
「もう聞き飽きたわ。イエスと言えないなら今日も同じことを
繰り返すしかないわ」
言うと彼女は無造作にドレスの裾を捲り上げた。白い脚が少し露になる。
と、ひゅっと空を斬る音がして彼女愛用の黒鞭が現れた。
細かいトゲがびっしり付いてるやつだ。おまけに電流まで流れやがる。
「今までは甘くしてたけど、もう容赦しないわよ」
言うなり鞭を持っていない左手を腰の後ろに回して何やら弾く様な
仕草をした。
212ラクタカの遺産 第5回:2007/09/16(日) 18:44:19
すると――。
シュルシュルっという音と共にドレスがふわりと落ちてその下から――。
「――!?」
黒のボンテージに包まれた肢体が現れた。俺は思わず生唾を呑んだ。
収容所にぶち込まれてから数えて2年、女を抱いていない身体には
余りに刺激的な光景だった。自分の置かれている境遇を一瞬
忘れさせる程に。この3日間の観察で彼女は20前後だと見ていたが
まだ幼さの残る顔立ちには不釣り合いに豊かな胸をしている。
腰周りはくびれながらも艶やかな肉付きを残し、その柔らかな曲線は
大きく盛り上がった尻へと続いている。彼女は俺の中に強く
“女”を感じさせた。
「最後のチャンスよ。さあ、私の奴隷になると言いなさい」
「……」
俺は即座に拒絶の言葉を口に出来ず、そのことに愕然とした。
目の前にいるのは憎い仇の娘なのだ。それなのに――。
「……ノーってことね」
彼女は鞭を構えた。気のせいか顔に薄青いフィルターがかかった様に
見える。鞭がしなった。肩に激痛が走り思わず声が漏れた。
右肩が赤く染まっていく。鞭はさらに唸った。
左肩。胸。脇腹。
俺は唇を噛んで身をよじった。強く噛むと金属の味が広がった。
彼女は無言無表情で鞭を振るい続ける。全身が赤に呑み込まれそうな
気がした……。
213ラクタカの遺産 第6回:2007/09/16(日) 19:10:44
「も、もう止めてくれ!」
俺はものの10分で陥落した。今までの比ではなかった。ズムの
言うことは嘘ではなかった。昨日までどれだけ手を抜いていたか
はっきりと分かった。
だが彼女は手を休めなかった。俺はもがいた。床を転がりながら
必死に命乞いをした。しかし鞭はますます鋭さを増していき、
俺は声も出せず痛みにむせび泣いた。涙が止めどもなく滲み出た。
急に鞭が飛んで来なくなった。
俺は最後の力を振り絞って頭を起こし懇願した。
「た、助けて――」
言い終わらぬ内に顔をめがけてブーツが飛んだ。
俺は意識を失った。
214名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/17(月) 06:13:05
また、もとのレベルに戻ったな。
「ラクタカの遺産」はいまいちだな。
215名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/17(月) 09:46:11
どの話と比べて?
まさかあの下らない席順羅列のこと言ってんじゃないよね?
216名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/17(月) 13:57:10
席順羅列と比べてだよ。素直な感想。
217名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/17(月) 14:40:00
これは自演乙と言わざるを得ない
218名無しは無慈悲な夜の女王:2007/09/17(月) 14:46:11
またしても、おまいはおれの自演をよく見破ったな。
さすがに、するどいぜ。
219ばれっと・ふぇありぃ うえ:2007/12/01(土) 15:16:38
静かすぎて、耳が痛くなる。
きぃん、という誰かが隣で大声を上げても気がつかないのではないかと思うほどの幻聴の中から、何とか相手の気配を感じようと耳を澄ますが、緊張で早くなった、呼吸と心臓の音が邪魔をする。

体の中に溜まりきった熱を逃がそうと手の中のグロック18Cを握りこむが、ポリマー製の表面は温く、逆に掌が汗ばむだけだった。
少しだけベレッタを持ってこなかったのを後悔しつつ息を整えると、目の前にふわふわと浮かんでいた銃器妖精がぴん、っと聞き耳を立てた。

リンクされた聴覚に、砂の流れるようなノイズに混じった金属音が僅かにかかった。
右。

考えるのが先だったろうか、それとも染み付いた感覚が勝手に体を動かしたか。
目の前の壁を蹴って隣の路地へと体を投げ込む。
遠慮なく角材か何かでひっぱたいたような炸裂音が連続で響き、跳弾が路地の壁面を砕いた。
すかさず銃器妖精を角の先へ飛ばす。
追ってくる相手のタイミングを頼りない妖精の視覚で探り、自分がいまだ、と思ったタイミングよりも0.5秒早く、姿勢を低くしながら元の通りに飛び出した。

目標が居るはずの場所に向け、両手で握りこんだグロックの引き金を絞り込む。
瞬くマズルフラッシュが、ストロボ写真のように辺りを眩く照らし出す。
フルオートで放たれた弾丸の発射音は、あまりにやかましくて思ったより耳に届かなかった。

220ばれっと・ふぇありぃ した:2007/12/01(土) 15:21:29
散らばる木片。
ばらばらに砕け散ったセクシーな下着を着たマネキンを、乗せた台車が銃口の先で一揺れした後、止まった。

倒れたマネキンと、その影から現れる、銃口をこちらに向けた、奴の姿。

ぴーーー、っと、銃器妖精が悲鳴にも似た叫びをあげる。
若干直感に頼らなければならない指示に従って、グロックのマガジンキャッチを押し込んだまま、銃床を空気に叩きつける。
グリップからマガジンがすっぽ抜け、路地の脇に立てかけてあった木材に激突。
ガラガラと倒れる角材の雨に、炸裂音と、砕けた木片の吹雪が加わる、異常な悪天候を引き起こす。

もつれる足を必死に引っ張って何とか青空の下へ抜け出す。
軽く息をついて素早く振り向き、追撃に備えようとする。
が、やっとのことでたどり着いた青空は、再び影に覆われた。

分厚い建材用の板が、スローモーションでゆっくりと自分にのしかかってくる。
銃器妖精が、哀れむように小さく、ぴぃと鳴いた。
221名無しは無慈悲な夜の女王:2007/12/01(土) 15:23:14



再び、きぃん、という耳鳴り。
板材の下になって、仰向けに大空を眺めている自分と、その板に足を乗せて、俺を逃がさないようにしながら銃口を向ける、少女。
片手でロングインチ・デザートイーグルを構える少女の指が、ゆっくりと引き金を絞る。

かちりという、金属音。
と、耳鳴り。

「あれー。」
かちかち、と少女の指が、もう何度か動いて。
スライドストップの間に挟まった木片を見て、びっくりしたような顔をする。
マガジンを抜いて、空っぽなのを確認。
あせあせとスライドを引いて、後ろから銃身を覗く。
「ぉぁー、そらがみえるー。」

とすん、と少女が板越しに、俺の胸の上に正座して
「こうさん、なの。」
と、笑いながら言った。




考え無しに貼ったら上下で収まらなかったという罠。
222名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/15(火) 22:43:25
二次創作になりますが、縛りはないようなのでお借りいたします。
「いけません」
 モーデイン尼は一日のうちに何度その言葉を使うのだろう、とアリアは思った。
正確に数えたことなどないが、何もない日でも――アリアが何かしでかさない日は、マイスター・ルーウィンの髪の毛より少なかったが――
一日に一ダースは口にしている気がする。
 そして今日の彼女は、残りの人生の分の「いけません」を、全て使い切ってしまうつもりらしかった。
「いけません、アリア様、ブラン様、それにロブ様。いけません。絶対に駄目ですからね!」
 今朝もアリアがこねた駄々のために、彼女は随分とそれを言っていた。
そう、今日の朝、アリアは父であるエダード・スタークの手による王の裁きを見に行きたいと強くせがんだのだ。
なんといっても、弟のブランが連れて行ってもらえるというのに、自分が爪弾きにされるのが許せなかった。
アリアは今のブランよりずっと小さな頃から連れて行ってくれと頼んでいたのだ。
ブランが興奮しているのと反比例するように、アリアの機嫌はとても悪かった。
 そして結局、エダード公は首を縦に振ることはなく、アリアはいつもどおりサンサやジェインや幼いベスたちと共に裁縫室の椅子に座らされたのだった。
“ブランのやつ。まだポニーにしか乗れないくせに”
 どうやってかれをこらしめてやろうかと、針先で突いたひとさし指に浮かんだ血の玉を舐めとりながらアリアは考えた。
少なくとも、父の一行が帰ってくるまでは。
 夕方近く、厩舎で馬丁のホーダーと共に皆を迎えると、なんだか様子がおかしかった。
ジョリーやハレンはどこか不機嫌そうな顔で、ホーダーたちに馬を任せるとそれぞれの持ち場へ行ってしまった。
父は姿を見せず、シオン・グレイジョイはアリアを馬鹿にした目で見ながら、それでも「エダード公は神々の森に祈りを捧げに行っているぞ」と教えてくれた。
 そして、一番遅れて彼女の兄弟たちが厩舎に入ってきた。かれらは一様に頬を上気させ、早口でなにごとか話し合いながらも、あまり大きな声にならないように気をつけているみたいだった。
「おかえりなさい」
 アリアがそう呼びかけると、彼女の異母兄、ジョン・スノウが父親似の口元に笑みを滲ませながら近寄ってきた。その厚手の黒っぽいマントの内側に、かれは何かを抱えていた。
「目をつぶって、手を出してごらん、ちびちゃん」
 ジョンがそう言ったとき、アリアは今度はどんな悪戯なのだろうと思った。
しかしサンサならともかく、カエルなんぞを掴まされた程度で悲鳴をあげる彼女でないことはこの城の者なら誰でも知っているはずだった。
だからアリアは、逆に兄を試すつもりで言うとおりにしてみた。
 はたして彼女の手のひらに乗せられた感触は、カエルのようにぬめった肌ではなく、
柔らかな短い毛につつまれた、何かあたたかい、小さなものだった。それはアリアの冷えた手に反応したように、もぞりと動いた。
「――わあ!」
 たまらずに目を開けた時、悲鳴の代わりに彼女は感嘆の声をあげていた。
ブランをこらしめるための計画は、この瞬間に頭からすっぱりと消えてしまった。
そんなものを一掃するほど素晴らしいお土産を、かれらが携えてきてくれたからだ。
 灰色の幼い獣が彼女の両の手のひらの上で震えていた。
それはアリアの大声に驚いたように、うっすらと目蓋を開いて瞳を覗かせた。アリアはそっと顔を寄せて視線を合わせた。
黄色く潤んだ、美しい瞳に、自分の馬面の影が映るのがわかった。
 もしかしたら、それがその獣の見た、はじめての世界の光景なのかも知れなかった。
「いけません。城の中で大狼を飼うなんて、信じられないことです!」
 再び、モーデイン尼はそう言った。それはほとんど叫び声に近かった。
 裁きから戻った一時間後、夕餉のための良い匂いが漂い始めたウィンターフェル城の調理場では、スターク家の兄弟が揃って幼獣たちにミルクを与えていた。
『お土産』のことを誰かから聞いたモーデイン尼は、湯気を立ててそこに乗り込んできたのだった。
「あなたはご存知ないようだから教えて差し上げますが、アリア様、ウィンターフェルの第二城壁から内側は人間の住むところなのですよ。
たとえ犬舎に繋いで――いえ、それだってとんでもありません。大狼が住むべき場所は“壁”のあちら側か、物語の中だけなのです」
「マイスター・ルーウィンは塔の中にたくさん烏を住まわせてるわ」
 アリアはうんざりしながら口答えした。兄のロブも、彼女と同じような口調で尼に言った。
「父上の許可は貰っていると言っているだろう。それに、面倒は僕たちで見るさ」
「ですけれど、ロブ様――」ロブは尼の言葉を遮って、傍らの妹の方を向いた。「そうだろ? アリア」
 勢いごんで彼女は賛同した。「もちろんよ!」
 たとえどれだけ尼や他の使用人が反対しようとも、アリアは彼女のものとなった大狼を手放すつもりなど毛頭なかった。
彼女は以前から、何でも良いから自分だけの動物を飼い、育ててみたいと願っていた。犬でも、猫でも、馬でも――それこそ、マイスターのように烏でも。
しかし、今日という日までその考えを認めてくれる大人はいなかった。かれらは口を揃えてこう言うのだった。
そんなことは貴婦人のすることではない。そんなことは、ハレンたちに任せておけば良いのだと。
 だからアリアにとって、彼女の腕の中で眠る灰色のかたまりは、まさに振って沸いた幸運といえた。
とりわけ、まだ厩舎の鼠よりも小さくても、この仔はスターク家の紋に象られた大狼なのだ! 自分に、いや、自分たちにとって、これほど飼うに相応しいものがいるだろうか?
「安請け合いは良くないね、ちびちゃん」
 アリアたちから少し離れて、壁に背をもたれていたジョンが苦笑して言った。
「こいつらはまだほんの赤ん坊で、親獣は死んでいる。だから夜中に何度も餌をやらなくちゃいけないし、
うんこするのだってお尻をさすってやらなきゃいけないんだ。大変になる。しかも、それが六匹もいるんだぞ」
「知ってるわ、そんなこと――」
「あなたは静かにしていなさい、ジョン・スノウ!」
 箒で鳥を追い払うような口調で、モーデイン尼はジョンに叱咤を飛ばした。彼女は貴婦人として見本のようなケイトリンを敬っていた。
そして、だから奥方様を見習うように、ジョン・スノウを毛嫌いしているのだった。ジョンは肩を竦めて、彼の白い幼獣にミルクを与えるのを再開した。
 拾った大狼の仔たちが処分されかけたとき、かれがどのようにしてそれを庇ってくれたのか、アリアはブランから耳打ちで聞かされていた。
あの白い仔狼はきっと、神様がジョンに与えてくれたものなのだ。アリアはそう思った。神様は、ジョンがのけものにされることを憐れんでくださったのだ。
モーデイン尼がいなくなってから、彼女はかれの額にキスをしようと決めた。
 ジョンを黙らせて力を取り戻したのか、モーデイン尼は再びアリアたちの方へ向き直った。
「やっぱり、認められません。どうあってもいけません」
 ロブが少し怖い顔になって、彼女に何か言おうと口を開きかけた。しかしそれよりも早く、尼はその薄い唇を曲げて、不本意そうに言葉を続けた。
「ただ、エダート様が仰られることですから、ロブ様たちが飼われる分には、私からは口出しをしないことにしましょう。……しかし、サンサ様とアリア様については別の話です。
私は奥方様から、あなたがたを立派なレディにするようにとの御下命を賜っているのですよ。ですからせめてあなたがただけは、私の言うことに従っていただきます。
これが最大限の譲歩です。――だいたい、将来ウェスタロスの高家に嫁いでいくべきレディが、厩舎の男たちよろしくけだものの飼育をするなどと、想像もつかないことですよ!」
 アリアは口を曲げて、自分の大狼の仔を離すまいと抱きしめた。どうすれば尼をやり込められるか、自分に何が出来るか、彼女は一生懸命に考えた。
しかし残念ながら、彼女の取り得る言動は全て、モーデイン尼の怒れる炎を勢いづかせる油でしかないようだった。“私が何を言ったって、尼が意見を変えるはずがないわ”アリアは唇を噛んだ。
“こうなったら、この仔狼とともに家出してやろうかしら?”そうすれば、自分にレディになれなんて無茶を言うような人間はいなくなるだろう。
もし追っ手に連れ戻されても、自分がどれだけ本気かを、皆に示すことが出来るだろう。アリアは本気でその行動を実行に移す計画を練り始めた。
「……わたしは、そうは思わないわ」
 不意に、意外な方向から声があがった。天性の綺麗な声音と、育ちの良さが現れる美しい発音。モーデイン尼の表情に衝撃が走った。
「大狼を飼うのは、厩舎の人間では出来ないことよ。けれどスターク家は、紋章の中に大狼を飼っている。スタークの人間が大狼を飼育するのは、何もおかしいことではないわ」
「し、しかし、ですが、サンサ様……」
 衝撃が落胆となったモーデイン尼は口をもごもごさせて、もはやなんと言っていいのかも判然としないようだった。サンサの反駁は、彼女にとってそれほど予想外の出来事だったのだ。“おじゃま虫”のアリアと違って、サンサは常に優等生のはずだった。
 姉のその言葉を聞いて、アリアも尼に負けないほど驚いていた。それは、アリアが内心思っていたことにそっくりだったからだ。彼女たち姉妹の意見が一致するのは極めて珍しい事態だった。
“サンサはすごく、彼女の獣を気に入ったみたい”
 頭に血が上った尼にはわからないようだが、鋭いアリアは姉がすまし顔の向こうに隠した昂揚を感じ取っていた。
彼女はレースのたくさん縫いこまれたお気に入りのスカートの膝の上に大狼の仔を寝かせ、そして怯えるリコンを、どうにかかれのものとなった幼獣に慣らそうと努力していた。
「……ケイトリン奥様に、ご報告してくることにします。そして、あなた方の石頭が少しでも柔らかくなるよう、説得していただきます」
 ややあって、尼はその体型のように枯れた声で言った。
怒鳴り疲れ、そしてそれが全く成果をあげず、あまつさえ信頼していたサンサにまで裏切られて、実際のところそれは滑稽なまでの敗北宣言だった。
 彼女がよろめきながら出て行ったあと、調理場の空気は目に見えて穏やかになった。
アリアは傍らのロブと拳をこつんと合わせ、壁にもたれていたジョンは軽く溜め息をつき、ブランは大狼の仔を掲げて踊るようにステップし、椅子に座っていたサンサは膝の上で眠る幼獣の背をそっと撫でた。
皆の顔に、大小の差はあれども笑顔があった――半ば無理矢理抱かされた仔狼に怯えるリコン以外は。
 サンサの隣の椅子に座ったリコンは、床に届かない足をぶらぶらさせながら、ミルクの与え方を教えられていた。
しかしかれに与えられた幼獣は六匹のなかで一番元気な仔かも知れなかった。
六匹の中でもっとも毛色の濃いその仔狼は、眼を剥き、すごい勢いでミルクをしみこませたタオルの端を吸うのだ。 
 リコンはどうにかタオルの反対側の端を握っていたけれども、腰が完全に引けていて、調理場の床にミルクがぽたぽた滴っていた。
「リコン、だめよ。もっとしっかり抱いていないと、赤ん坊を落としてしまうわ」
 この八つ年下の弟に話しかける時、サンサの口調はひどくませたものになった。
意識しているかどうかはわからないが、アリアの見たところ、それはケイトリンの真似のようだった。
「タオルもこうやって持つのよ。ズボンや床を汚してはいけません」
 そして同時に、それはモーデイン尼にもどこか似ていた。
 思えばブランに対しても、彼女はそうした口調で語りかけていたことがあった。
けれどもブランが物心ついてくると、かれはそれをひどく嫌がって、しまいには彼女を避けるようになってしまったのだ。
サンサがそれをやめると、すぐに仲は元に戻ったけれども。
「こんな小さい子を怖がってはだめよ、リコン。大狼はすぐ大きくなるのよ」
「こいつらの親狼は、こーーーんなにおおきかった。ぼくらは見たんだ。そいつは、ぼくのポニーよりずっとおおきかったよ」
 調理場を大狼を見せて回っていたブランが戻ってきて、腕をめいっぱい広げて、胸を逸らせて見せた。
リコンが口をとがらせた。「うそだ。こいつがそんなにおおきくなるわけないよ」
 三歳のかれは、大狼がどんなものであるかも知らないのだろう。ジョンが笑った。
「嘘かどうかなんて、すぐにわかるさ。だが、こいつはあっという間にリコンを背中に乗せられるくらい大きくなるぞ」
 その言葉を聞いて、リコンは不思議そうな顔をしてかれの腕の中の獣を見た。
「――ぼくは?」ブランがジョンに向かって訊ねた。
「ぼくも、こいつに乗れるようになるかなあ?」
「そのためには、大人になるまでしっかり面倒を見てやらないとな」とジョンが答えた。
「もちろん、身体だけじゃなくて、性格のほうもおりこうな子にしなくちゃね」
アリアが付け加えた。「でないと背中に乗ろうとした途端、頭からがぶりってことになっちゃうわ」
「いいや、それだけじゃまだ足りない」
 にやりとしながら、ジョンはさらに言った。
「乗るんだったら、腕の良い装具士に鞍を見繕ってもらわないといけなくなるぞ。それも――」
ジョンの言葉の最後をアリアは察し、そしてかれらは声を揃えてこう言った。「――六つもだ!」
 アリアはさっとジョンに駆け寄って、その額にキスをしようとした。
しかし、周りに見ている人が多すぎた。彼女は照れたように笑って、それからキスの代わりに、
互いの幼獣どうしの黒い鼻面を突付き合わせた。
灰色の方の毛玉が小さなくしゃみをして、それを浴びた白い方はぷるぷると頭を振った。
「――さて諸君。邪魔者は去った。しかしだ」
 ひと段落すると、ロブがよく通る声をあげた。
まだ父親ほどの威厳はなかったけれども、その代わりに母譲りの明るさを添えた声で。
「さっきジョンが言ったとおり、この仔狼たちを育てるには、大変な労力がかかる。
しかし父上はそのために使用人たちの手を煩わせてはならないと言っていたし、
何より僕自身、こいつらを他の誰かに委ねるようなことはしたくないのだ。
だから順番を決めて、こいつらの面倒をみることにしよう。
交代で眠り、ミルクをやり、身体をあたためてやるんだ。
だが、特に今夜は忙しくなるだろう」そしてかれは、ぐるりと兄弟たちを見回した。
「さあ――ぼくたちはこいつらに名前をつけなくちゃいけない!」
 その言葉を皮切りに、皆がいっぺんに喋り始めた。
アリアの腕の中で、大狼の仔がミルクのおかわりを求めて彼女の指先を舐めた。
夜更かしなどほとんどしたことはなかったが、少なくとも最初の夜は、
一晩中起きていることも難しくなさそうだと彼女は思った。



(本編の2へと続きます)
231名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/15(火) 23:01:39

しまった、改行をどれくらい入れればいいのかわからなくて適当に振ったら
ものすごく読みにくくなってしまった……。
お手数ですが、フォントを小さめにしていただけると幸いです。申し訳ありません。
232名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/15(火) 23:04:52
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/sf/1148359696/222-
貼り付け失礼します。こういうのが嫌いな方、申し訳ありませんが見なかったことに。
(加えて大変申し訳ありませんが、移動した際にはフォントサイズを小さめにしていただけると……)
233名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/15(火) 23:06:46
>>232
さらにやってしまったorz
吊ってこよう……
234名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/24(木) 15:50:38
(ペンネームはあったほうがいいのかな? 浅木陽樹とでもしてお
きましょうか。長編予定の冒頭部分ですが、案外まとまりが良くなっ
たと思ったのでショートショートの単品として)

ロッシュの限界 〜Scavenger's Night〜 

 黄昏る空に、何かが舞った。
 それは彼をひとまわりして、芝生に落ちた。
 ひごと紙でできた、模型飛行機。粗雑なつくりで、あまり飛ばな
いに違いないことが見て取れる。
 本をテーブルに置いて、彼は立ち上がった。風が強く吹いて彼の
着物をなびかせ、模型飛行機を転がす。
 数歩進んで、飛行機を手に取る。誰が投げたのかと、彼は娼館の
庭を見回した。
 門扉に、数人の少年がしがみついていた。こちらの様子をじっと
見ている。
235名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/24(木) 15:51:44
>>234の続き
 彼は飛行機を持って、門へと歩み寄った。そしてふと立ち止まり、
ポケットから美しい装飾の施されたナイフを取り出した。
 少年たちの表情がおどろきに満たされた。そのうちのひとりが、
泣きそうな表情で門扉の間から手を伸ばすが、届かない。「お願い、
やめて!」
 彼は少年の言葉にかまわず、飛行機に小刀を突き当て、ひねった。
飛行機のつばさが、胴体から丸ごとちぎれ、少年が泣き出す。
「なんてことするんだよぅ! うわぁあああん」
 彼はナイフを自分の着物のすそに差し込むと、そこから細いきぬ
糸を一本ひき抜いた。飛行機のつばさと胴体を見比べ、ひき抜いた
絹糸で両者をくくり合わせる。
「ほら、もう一度ゴムを巻いて、とばしてごらん」
 つばさの位置が微妙に変わった飛行機を差し出され、少年は涙目
に困惑をみせた。
236名無しは無慈悲な夜の女王:2008/01/24(木) 15:52:45
>>234-235の続き
 少年は、おそるおそる飛行機を受け取り、言われるがままにゴム
を巻いた。
「さあ」
 すっと水平におし出された飛行機は、そのまま墜落しかけ、地面
すれすれで急に立ち上がった。大きくはないプロペラをいきおい良
く回転させ、紅い夕日の光を受けて力強く駆けあがる。
 はるか高い空までたどりつき、ゴムがほどけきった。飛行機はゆ
るやかに空をすべりはじめる。
 見違えるほどに良く飛ぶようになった飛行機に、少年たちは呆然
と口をあけたまま、飛行機を目で追った。
 やがて飛行機が静かに降り立ち、少年たちは目を輝かせて娼館の
門扉をふり返った。
 しかしそこには誰もおらず、小さなテーブルの上に置かれてあっ
たはずの本もなくなっていた。
 その夜、飛行機の持ち主の少年は家に帰り、そのことを母親に話
した。
 少年は、ひどく怒られた。
237殺しはなかった:2008/02/15(金) 18:05:08
殺しはなかった


 1
 彼は橋の下に住んでいた。
橋の下の青いビニールのテント、それが彼の家だった。
今彼の風貌をなんとかここに描写できたらいいと思うのだがそれができない。
なぜなら彼を良く知る人物というのが一人もいないからだ。
つまり彼の顔を正確に知っている者はこの世にいないのである。
唯一私が知っている彼の特徴を述べるならあの長く白い髭だろう。
それは相当長い間手入れされておらず、彼がかなりの高齢である事を示していた。
彼には身内というものがなかった。
もしかしたら本当はどこかに、彼の身内はいるのかもしれない。
しかし誰も彼を必要としていなかったし、愛してはいなかった。
例え彼を道端で見つけたとしても、小汚いこじきだと思うだけで一分後には何もなかったかのように忘れてしまうだろう。
そんな彼の毎日は全く変わらない。
しかし今夜は青いテントの中でいつもとは変わったことが起きていた。
深夜零時、いつもは彼も寝ている時間、今日に限って彼は仰向けになり青いテントの一点をじっと見つめている。
彼はきっとこれからずっとこの一点を見つめる事になる。
誰かが彼を見つけない限りずっとだ。
もしかしたら一生彼はこのままかもしれない。
何故なら彼を知る人は誰もおらず、彼がいなくてもいつも通りの明日が訪れるからである。
238R‐HAJIME:2008/02/15(金) 18:16:43
「殺しはなかった」さん,ワクワクします。
“彼”の過去が気になります。
私もブログで物語を書いていますので
一度ご覧くだされば光栄です。
http://d.hatena.ne.jp/R-HAJIME/
239殺しはなかった:2008/02/15(金) 18:31:20
ありがとうございますR‐HAJIMEさん

 その青年が住むのはその橋のすぐ近くの家だった。
青年の顔立ちは非常に整っており、見たものは誰でも一瞬惚れこんでしまうような、そんな美しい顔をしていた。
しかし顔色には一種病的な青白さがあり、よく彼を観察した者であれば、彼があの美しい顔の下でどれだけ私たちを侮蔑していたかすぐに分かっただろう。
学校でも彼はほとんどの人間を見下していた。
確かにそれができるほど彼は賢く、なおかつスポーツでも彼は非常に優秀な成績をおさめていた。
学校中の人々は皆彼と話したがった。
しかし彼はそれを冷徹な態度でいつもあしらっていた。
このような行動は彼にマイナスの効果を与えたかというとそうではなかった。
ただ他の者達は、(この人はあまり他人と話さないんだな)つまり内気な人と思い込みそれで解決した。
ほとんどの人間が、彼がその行為を侮蔑から行っているとは全く気づかなかったのである。
 彼はいつも通り零時にベッドに潜り込んだ。
しかし今日彼はなかなか寝付く事ができない。
彼は分厚い毛布をかけ、それでもなおガタガタと震えていた。
別にこの部屋が特別寒いわけではなかった。
むしろ季節は六月の中旬であったし、この場所はもうそろそろ夜も蒸し暑くなってきているような、そんな天候のはずだった。
もちろん彼が異常に寒さに弱いとかそういうのではない。
彼が震えているのには別の理由があった。
240殺しはなかった:2008/02/15(金) 18:31:52
ずっと今日の夕方に起こった出来事について考えている。
彼はそのために震えているのだった。
 (くそ、いったいどうしたってんだ俺は、あんな訳の分からないじいさん相手に。
俺はただあのじいさんがどんな事してるか見てやろうとしただけだ。
やつのテントは思えばやつが盗んだもんばかりだった。
あいつはもともと死ぬべきだったんだ。
そうだ、だってあんな橋の下で暮らしているようなやつがあんな金の時計なんて持っているわけないじゃないか。
他にも金目の物がいくつも置いてあった。
そうだやつは死ぬべきだったんだ。
それがあいついきなりテントに戻ってきて、俺を見つけるなり襲い掛かってこようとした。
だからやっちまったんだ、近くにあった…あれはなんだったんだろう?
クリスタル?あれもやっぱり高そうな置物だったな。
細長いダイヤみたいな形をしていて下に台座が付いていた。
ええい、何でこんな時に俺はそんなどうでもいい事を思い出すんだ!
これじゃあ駄目だ。明日は学校に行かない方がいいかもしれない、このままじゃ何かずかれるかもしれない。
いや、俺はなんて馬鹿なことを考えてるんだ!もし明日死体が見つかったらどうする!
その途端学校を休みだした俺が疑われるのは当然じゃないか。
そうだ、明日はいつものように学校へ行くんだその後はどうすれば?
とりあえず学校に行っている間は何もするべきじゃない。
終わってからだ!その時には何かいい考えが浮かんでいるかもしれない。
それよりまず明日の学校だ。寝不足で行くのはやはりまずいな。
なんとか少しでも寝て疲れをとるんだ。
ひどく疲れているはずだ、眠れる、眠れる…。)
 きっと彼は今晩一睡もできない。
例え眠れたとしても、彼は夢の中であの青いビニールのテントを見るだけなのであった。
241殺しはなかった:2008/02/16(土) 18:05:25
 3
 「隆一、ご飯できてるわよ。」
いつものように息子に声をかける母咲子であったが、本当は息子がいつもとは違う事に気づいていた。
何があったかすぐにでも確かめたい、帰ってくるなりすぐに部屋に閉じこもった隆一、食事の時は青白く恐ろしい顔をしていた。
今思えば何故あの時に声をかけなかったのだろう。
しかしあそこで私に何が言えただろうか。
私にあの子の何が理解できるのだろう…。
 咲子は息子を恐れていた。
しかしまた、彼女は息子をそれ以上に強く愛していた。
(本当のところ隆一が何を考えているか分からない。
あの子は頭のいい子だし、私には見当も付かないような事を考えているんだろうけども。
それにしても少しくらい私に話してくれてもいいんじゃないかしら。
あの子は口数も少ないし、友達もあまりいないようだし。
今もきっと難しい問題を一人で考え込んでいるに違いないわ。
何か助けになってあげたいけれど…。
昨日帰ってきたときから様子がおかしかったわ。
朝はそんなことなかったのに。という事は学校で何かあったのかしら?
さりげなく聞いてみたほうが良いかもしれないわね。
でもあの子は勘のいい子だし、とてもとても優しい子だから、私が心配している事を知ったらきっと私を気遣って何も無かった事にしてしまうわね。
とっても慎重に聞かなくちゃいけない、いつも通りにすればいいのよね。)
242殺しはなかった:2008/02/16(土) 18:09:22
隆一がキッチンに入ってくると、咲子はすぐさま声をかけた。
「飲み物はどうする?牛乳、それともオレンジジュースにする?」
「牛乳がいいな。」隆一は母の姿を見て考えていた。
(おかしいな、昨日の俺はきっといつもとは違っていたはずだ。母さんがそれを見逃すわけないじゃないか。
それなのにこんなに落ち着いているなんて。何かあるな、早めにこちらから手を打っておくほうが良いかもしれない。
それにやっぱり母さんだけには心配をかけたくないしな。そうだ、これは俺自身の問題だ。
誰も関係ない、誰も巻き込むべきじゃないんだ。)「母さん」
急に声をかけられた咲子は一瞬びくりとする。その様子を隆一は見逃さない。
(やっぱり気づいている。あんなに俺の声に敏感になっているじゃないか。)
咲子は平静を装いこたえる。「何?」
「母さん、昨日は僕の様子が変だったのに気づいたでしょ?実は昨日学校でちょっと嫌な事があったんだ。友達と少し言い合いになって…。
どうやって仲直りしようかずっと考えてて、それですぐに部屋にこもったりして…。」
「あらそうだったの。元気が無かったのはそのせいだったのね。」
「うん、でも今日ちゃんと仲直りしてくるから心配しないで。」
「分かったわ。さ、早く朝ごはん食べちゃわないと間に合わないわよ。」
「はい、いただきます。」
(うまくいっただろうか?でもきっと何も言わないよりはずっと母さんの不安は取れただろう。
そうだ、今不審がられるわけにはいかないんだ。
今日の内にテントのあれもどうにかしなくてはいけないし、そう考えると、下手に心配されて行動を拘束されたんじゃいけないからな。)
朝ごはんを食べながら何かを考えている息子を見ながら、咲子もまた考えていた。
(やっぱり何かあったのは当たっていたわね。でも友達と喧嘩したなんて、本当にそうなのかしら?
私が昨日見た時はもっと鬼気迫るような深刻な顔をしてたように思えたけど。
でももしかしたら私の思い過ごしかもしれないわ。今日はそう言ってるんだからあまり気にしない事にしましょう。
ただもしもこんな状況が長く続くようだったら、やっぱり何か考えなくちゃいけないわね。)
隆一はご飯を食べ終えると、「いつも通り」学校にむかった。
243殺しはなかった:2008/02/16(土) 21:03:11
 4
 学校に向かう間も隆一の頭の中は橋の下のあれのことでいっぱいだった。隆一は自分がとんでもないミスをしてしまったという事にもうすでに気づいていた。
あれを殴った時のあの忌々しいクリスタルを、そのままそこに置いてきてしまったのだ。
それだけでもなんとか処理してしまおうかと考えたが結局隆一はそれを諦めた。
あんな誰も来ないような橋の下に行ってもし見つかりでもしたら絶対に怪しまれるだろう。
隆一はあれが今日一日中誰の目にもふれないように祈ることにした。
(今日一日、そうだ、今日一日何とかなれば後は上手くやれる。しかしあのテントはなかなか見つけ辛い。
それに例え見つかったとしてもあんな所にあるテント誰も気味悪がって近寄らないだろう。
実際最初のうちは俺もそうだった。
それなのに何故俺はあんなところに近づこうと思ったんだ?今日は天気予報は晴れだったな、ついてない。
雨だったら外に出る人も少ないだろう、晴れていたら必ずあそこを散歩するようなやつが一人や二人いるはずだ。
もしかしたらってこともありえるぞ。唯一良かった事といえば今日が平日だって事だ。
休日でこんなに晴れていたら子供はもしかしたらあそこに行くかもしれないぞ。
なんてったって子供はああいう気味の悪い秘密めいた所が大好きだからな。まぁそんなこと考えたってきりがないな。そう、後は神に祈るだけだ。)
ふと、隆一は自分がとてつもなく不思議な事を言っていることに気づいた。(ふふふふ、こんな時に俺はどうしたんだ。神に祈るだって?この俺が?)
そんな事を考える隆一は自分が今、学校へ行くためのこの一本道を歩いているという当たり前の事実にすら、疑問を覚えずにはいられないのであった。
244殺しはなかった:2008/02/16(土) 21:09:31
ちょっと長くなりそうだ。
スレの進行止めてしまう。
A途中で投げ出さない
に反するがちょっと他の人の投稿待つよ。
245名無しは無慈悲な夜の女王:2008/02/22(金) 13:42:01
他に書き込む人なんていないから、気にせずに書き込めばいいと思うよ。
過疎ってるからね。それとも、製作中か。
246殺しはなかった:2008/02/27(水) 03:00:29
 じゃあ駄文ですがお言葉に甘えて
5
澤田恵美は学校に来てすぐに隆一がいつもと違うという事に気づいていた。
これは隆一が動揺を隠せず不振な行動を取ったり、極端に顔色が悪かったりしたわけではない。
確かにいつもよりは元気の無い顔をしていたがそれだけである、後はいつもと変わらない。
恵美以外の人は隆一のこの違いに全く気づかなかったはずだ。
247殺しはなかった:2008/02/27(水) 03:01:41
なぜ恵美が隆一のこのような変化に気づいたか、それは恵美が隆一のことを好いていたからであろう。
隆一の事が好きな女子は他にも多くいたのだが恵美はそんな女子達とは少し違っている。
他の女子達は隆一の美しい顔つきや彼の博識、スポーツをしている姿などから隆一に好意を持っていたが、
恵美の隆一への思いはそんな軽率なものではなかった。
248殺しはなかった:2008/02/27(水) 03:03:19
 隆一と恵美とは小学校から一緒だった。
恵美は本人さえ覚えていないであろうことまでしっかりと隆一の事を覚えていた。
小学校の時飼っていたウサギが逃げ出した時の話である。
他の皆は最初は残念そうにしていたがウサギの事はすぐに忘れてしまった。
しかし隆一だけはそれから放課後になるとずっとウサギを探して回っていた。
そのウサギ探しも一週間ほどで終わってしまうことになる。
隆一は野良犬に殺されてしまったウサギの姿を見つけた。
彼は嗚咽を漏らしながら長い間泣いていた。
一緒にウサギを探す手伝いをしていた恵美も泣いたが彼ほどではなかった。
それから何日もふさぎ込んでしまった隆一。
辛く気味の悪い思い出だが、小学校の頃から大人びていた隆一がこんなにも素直に行動していた思いでは他になく、
涙を流していた記憶もこの時だけで、非常に強く印象に残る思い出だ。
もしかしたらそんな隆一の弱さや優しさを知っていたから、恵美は隆一を愛したのかもしれない。
 難しい顔をして座っている隆一を見て、恵美もまたその美しい顔曇らせ、眉間にしわを寄せた。
249殺しはなかった:2008/02/27(水) 03:05:01
(隆一君今日は変だ。何かずっと悩んでいるし、とっても具合が悪そう。
何か声をかけたいけれど…。すっごく恐い顔してる、きっと人には言えないような深刻な問題で悩んでるんだわ。)

 それから一日ずっと隆一は同じであった。
そんな隆一をみて恵美は心配であり、恐ろしかった。
五時間目が終了するとすぐに隆一は帰る支度をする。
部活にいかなくてはならない恵美だったが隆一の事が非常に気になった。
今度またあんな風に悩んでいたら勇気を出して声をかけてみよう。
なんとか隆一の助けになるような事をしてあげたい、そう思いながら隆一の教室から出ていく後姿を黙って見つめるのであった。
250名無しは無慈悲な夜の女王:2008/06/15(日) 11:48:17
ほしゅ
 白いすじ雲を背に受けて、飛んでくる姿はまるで天使。
最初に彼を見つけたときから、彼女たちの恋は始まった。
 舞い降りたのは校庭のグラウンド。
風をはらむ翼の力を失って落ちてきた彼はまだあどけない少年。
女子校のお昼休みはその事件で大騒ぎとなった。翼に力を取り戻しても、
狭い校庭では彼の助走に足りないので、学校の先生が軽トラに載せて近くの川辺に連れて行った。
生徒たちは追い立てられるように教室で授業の再開を指示されたが、彼女ら二人はちょっと違った。

 もともと行動力のあったモト子は帰宅部だったが、
愛車(駅前の中古自転車屋で4,800円で買ったママチャリ)での走力には定評があった。
 県内事故率第一位の悪評高い交差点で、右翼のジープ相手に100mトラックレースで見事に勝利、
しかも相手のジープを交差点でパトカーと正面衝突させDQNを二人現世から削除したときなど、
横転して爆発炎上したジープを背景に、黒々としたショーカットの髪を掻き揚げながら
「ちょろいもんね」とぶったりする。
 実際、学校の自転車部からのスカウトもあったがどー考えても男の子にはモテナイ競技なので
辞退したのだそうだ。

 もう一人、チャンはこのトラックレースを仕掛けた張本人。
口車に乗せる事にかけては政治家、官僚も真っ青だ。
中央政府派遣の日本自治政府要人である彼女の父親が県議に立候補したとき、
その街頭演説をかって出て、その白いバンダナで止めた青みがかるほど黒い長髪の先を指で”の”の字に巻きながら、
「わたしは戦争が好きだ!(以下略)」式のヒムラーも真っ青の演説で
駅前をヤンヤの人だかりにしたことがあるんだから間違いない。
ちなみにそのとき、彼女の父も真っ青だった。
 実際、学校の生徒会委員長への立候補の話もあったのだがどー考えても男の子にはモテナイ仕事だったので
辞退したのだそうだ。

 少年を乗せた軽トラを必死で追う二体のママチャリのもの凄い速度は、
それを目撃したお祖母さん一人を昇天させたほどである。
>>251
 なぜ、ふたりはそんなにこの少年に引き寄せられたのだろう?
 ひょっとして?なのだが、たぶんモト子のほうはグラウンドでバレーボールをしていたとき
ちょうど墜落
(実際には軟着陸と呼んで差し支えないようなものだった。彼は気流を読み間違て落ちてきたのだ)地点にいた。
落ちてきた少年と交錯してしまったのだが、少年の機転とその圧倒的な技量で彼女を庇って体を回転させて着地したとき、
倒れかけた彼女を抱いてダンスのようにクルクルと舞い、羽根の残骸がその風で舞い散るさ中、
真っ白な翼を持つ黒髪の美少年が彼女を両手で支えて、
「大丈夫?おねーちゃん??」などと呼ばれたことと、なにか関係あるのかもしれない。

 あるいは、チャンのほうなのだが、その急激な機動で貧血を起こして倒れた少年をモト子を突き飛ばして介抱し、
木陰に6人がかりで運ぶ指示を出し、なぜか都合よくその日の保健係(普段はなったことがない)になった彼女が、
彼を介抱しようとあお向けにしたとき、
(翼をキチンとたたんで寝かせたらちょうどいいクッションになっていたのだが、それが居心地よかったのか)
「ううん」と喘ぎ声を出しつつ目を覚ました少年に水を差し出すと、
そのか細い腕を薄い胴着(体の保温だけを考慮した化繊のシャツ)から伸ばしつつ、
少年の瞳に彼女の顔を映しながら、
「アリガト、おねーちゃん」などとお礼を言いわれたことと、なにか関係あるのかもしれない。

 ともかく二人は彼に引き寄せられたのだ。
>>252
 少年は父親と二人だけで市の北東部にある閑散とした、緑の岡の上の旧家に住んでいた。
そこからは崖を挟んで一級河川がとうとうと流れており、
日の出とともに谷あいの山村から都市部のある平野部へ低く立ち込めた霧が川を下っていく。
少年は父親への挨拶もそこそこに、くるくると回る壊れかけた木製の風車を気に掛けながら、
玄関から木で作ったタラップを思いっきり駆け抜けて崖へむかってテイクオフをする。

 翼をそれはもうめいいっぱいに広げ、落ちることなぞまったく考えないその様子はまるで、
子供の矢で射られたことのない天使のようだ。
霧交じりの風は冷たい。翼に湿った風を受けないように霧を避けて飛び立った少年は高度を
ぐんぐんぐんぐん、ぐんぐんぐんぐんと揚げていく…。
 無論風上に向けていないと高度は上がらない、無論くるくるCAPしながら回りながら飛ばないと高度は上がらない。


>>253
 彼女ら二人が彼の家に初めて行った時、この姿に見惚れてしまっていた。
空は翼の人の独壇場だ、その飛び方はまるで風とダンスでも踊るように、
広げた翼から尾翼の代わりに、下ろした両足と広げた両腕でバランスを取って運動していく。
彼女らにはとても手の届かない世界の少年の姿を観て、
どうすればいいか思いあぐねていたところで家から少年の父親が顔を出した。
彼女らの表情を読み取ったのか、それとも空を飛ぶことにしか興味を持たない少年への秘策とみたのか、
ともかく父親は言った。
「奴は今でこそだいぶ飛べるようにはなった、だが、力が続かないんだ。
 空を飛ぶには体重すべてを翼で支えるもの凄い力が居るから。
 鳥は骨格の軽量化により体重が軽いんだが、奴は人間だからそれを支える力が足りない、
 飛翔中には羽ばたくことすらできないほどだ。
 それでもまだ子供だから筋肉と体重のバランスがとれてるんだが…。
 まあいい、それよりお嬢さんたち、一計がある。
 俺も一回落ちたところを助けにいったことがあるんだが、ほら、この川の中腹に橋があるだろう?
 ボート競技が操練してるところだ。ああ、知ってるな。
 あそこに行ってみなさい。あいつはあそこのボート競技のお嬢さんたちにもずいぶん可愛がられてて、
 再上昇のためにボートからロープで引っ張ってもらってるって話だった。

 って、気が早いね、もう行っちゃったよ、…おいおい速っ!!!」
>>254
 モト子とチャンの二人のデットヒートはこうして始まった。
目的の橋まで経路距離約20km。ふつうの自転車だと1時間といったところだが、
彼女らは計算してみた。
 少年の飛空はある一定高度にならないと前へは進まない『トンビ』方式のようだ、
今日の風がどれくらい彼を前に進めるかわからないがそれでも風速10mくらいだ。
風上の高いところから風下の低いところへスキーのように「滑り落ちていく」ので
速度はそれより倍くらい速いだろう、するとほぼ1時間弱である。45分くらいか?

 …いろいろ考えていた彼女たちだったが途中で考えるのをやめた。
とにかく早く着けばいいのよって感じだ。

 少年の家があった緑の岡の上から河川敷までは舗装道路を途中で抜けて
神社から境内までの山道が近道だ。
道路での競争は意外にもほぼ互角、鼻の差でチャンのほうが速いくらいだ。
モト子の常にイン側にいることで走路妨害をしているためと、
下り坂の細かいスイッチバックの道なのでモト子得意の『スーパーチャージ』が巧く機能しないのだ。
だが、チャンはチャンでイン側の道悪に速度を殺されていた。勝負は神社道に入る一瞬!

256 ◆GacHaPR1Us :2008/06/28(土) 21:47:52
>>255
 その瞬間、すべてがスローモーションになった…。
 舗装道路から山道に入る道でチャンがモト子の妨害をしつつ減速を始める、
モト子は先に減速し始めた。
ニヤリとするチャン、同じくニヤリとするモト子。
モト子は減速した勢いを利用して前輪に過重を掛けた状態から後輪を持ち上げガードレールに載せる、
載ったところで過重を後輪に移してフロントを上げた瞬間にバカ足力にモノを言わせた立ち漕ぎ『スーパーチャージ』で、クランクを強く踏み込む!
 後輪の強い駆動力でオートバイのよくやる「パワーウイリー」状態にしたままガードレール側面を滑走し
細道への入り道近くのカーブに大ジャンプ!

空中ではカーブミラーを掴んで「ウォラァア!」とばかりに遠心力を利用して空中で強制的にカット!
細道上のチャンの前に見事に着地した瞬間、モト子は「ニョホッ!」と笑った。

 自転車のタイヤが重要なのではない、その回転が重要なのだ。

 もともとチャンもモト子の実力は認めていたのだが、このテクを見せ付けられて思わず罵った

 「化け物め!」
>>256
 山道でも一進一退の攻防が続く。
先頭に立ったモト子ではあったが初めて通る山道なので枝木や蜘蛛の巣、
 ああ、説明し忘れていたがモト子は蜘蛛が嫌いだ、
あと枯葉で滑りやすくなった山道のうねうね道でやはりダッシュが掛けられないため、
逆に後ろにいるチャンの露払いのようなカタチになってしまった。
 しかし、チャンもかなり焦っていた、このまま下で舗装道路に出てしまえば、
モト子の『スーパーチャージ』でいつものように一気に離されてしまう、
この山道でケリをつけてしまわなければ…。

「モト子!うしろうしろ!

      蜘蛛よっ!!      」

 無論、嘘だ。モト子もわかってはいた。
 だがチャンが発する声音には意思を個人に強制する『パースァスィヴ』とでも言うしかない
一種の強制力がある、思わず腕が反応してしまっていた。
腕を上げた瞬間に横木が凄い速度で近づく、避けられず思わず掴む、
そのまま勢いで体操の鉄棒よろしく体が持ち上がる、
自転車を失えばモト子の負けなので両足で自転車のサドルを挟む、
すると横木を一回転した、その下をチャンが通る。

だがこれではまだ終わらない、回転した勢いで横木が折れる、
一回転した直後だったので折れた枝木を両手に持ったまま自転車を股に挟んだ少女モト子は
そのままびゅーんとばかりに飛んでいく、
チャンの頭の上を越えていく、ぐんぐんと吸い込まれるように崖下へ飛んでいく、
後には奇声とも悲鳴とも罵声とも判別のつかないモト子の声がコダマするのみであった…。

「…惜しい友人を失ってしまったわ」

と、チャンは独りごちたが、あまり悔悟の様子もなくいそいそと道を下っていったのだった…。
>>257
『かって、世界を震撼させた医療事故がありました。
無作為な遺伝子操作実験に近い薬害によって、世界は変わってしまったの、永遠に。
 生まれてきた子供たちのなかには「余分の骨」と呼ばれる頸髄が追加された子供たちがおりました。
ふつう、わたしたち人間の頸髄の神経髄節は8つあります。
足腕や内臓などに繋がるこれらへの神経節はとても重要な器官のひとつなのですが、
9つ目の頸髄の存在が子供たちの脳そのものにも影響を与えたのです。
 例えば4本の腕を持つ子供。腕が増える奇形はそれまでもありましたが、
彼のように4本すべてが立派に運用できるようになったのは、この「余分の骨」によってです。
またこれに伴い、4本の腕を同時に使うため、彼の間脳部には著しい増大が見られたといいます。
 このように翼のある子供も生まれ、角を持つ子供も生まれ、私のように配線不明、
謎の神経増設による部分的なシンパシー能力や、モトに顕著に見られるような通常の三倍の運動神経で
得られる強化系能力などを持って生まれた子供たちは、発見当初は驚きと物珍しさのなかにありましたが、
好奇な期間が過ぎ去ると彼らへの弾圧も始まったのです。
>>258
 そのころでも、なぜか日本では私たちのような「マンプラス」に対して
それほどの激しいバッシングが見られなかったため、大陸での迫害を逃れる意味で
官僚だった父の日本自治区転出に伴って移り住んだのです。私が6歳のころでした。
 モト子との付き合いはこの頃からです。幼馴染というやつで…。
 日本にくるまで、わたしは自分自身の才能、”パースァスィヴ”が大っ嫌いでした。
いまは大陸にいる母がわたしを愛さず、しかしわたしが「望めば」愛してくれる、という風だったのは
私の能力の所為ではなかったのだろうか?
それは、それは愛と言えるのだろうか?、とずっと疑心に駆られていたからです。
 ところが、恐ろしく簡単に感応能力に引っかかる癖に持ち前の単純さでどんな問題も障害も
”スーパーチャージ”で解決してしまうモトのバイタリティを見て、わたしは笑ってしまいました。
「なに、この子?」って。自分の悩みが小さく見えるほどでした。
 それ以来、小、中と学校もクラスも一緒でして、ええ、知ってます。
クラスの口さがない人は私たちを「竜虎」など呼んで陰口を叩いているのでしょう?
誰が言っているのかも知ってますよ、だから大丈夫ですわ…。うふふ。

 そんなわたしたち二人は、自分の才能を極限まで突き詰めるあの少年の姿に
憧れてしまったのかもしれません。少なくとも私はそうです。
とにかく、モトにだけは負けたくないの!絶対に!!』
>>259
 モト子は山道から飛び出したあと、崖になった潅木のジャングルの中を、
野生の勘だけで駆け抜け捌いて体を交わしてはいたが、ふと目の隅にに真下の道を発見して
気が緩んだ瞬間、熊笹の密集した場所めがけて突っ込んで隠れていた竹に当ったショックで気を失った…。

 「ううん…」
『あたしは意識を失っていたの。気がつくと周りの様子がちょっとおかしい。』

[天使が神にいゐました、神さまわたしは死にました、子供の矢を受け死にました、
 みてみて胸の血の赤さ、衣を染める血の赤さ]
[神が天使にいゐました、天使よ青いその顔は、子供の矢を得たその顔は
 死ぬとは思わぬこの事実、悲しいことはこの事実]
[天使と神は嘆きます、
 こんなにすぐに死ねるとは、われわれだれも知りはせぬ、知っていればあれほどに、大胆には成れなかっただろう]

『おかしな歌が聞こえてきたわ、それにしてもここは変なところ。真っ白な空間でなにもない。
 と、誰かが目の前に立ってるのに気付いたの。
[やあ!]と声を掛けてきたのは、あら、イイ男。
 あたしと同じくらいの年頃かしら?13〜14歳くらい?その割には眼だけが、
 そう青にも緑にも見えるその眼だけが妙に大人じみていて、とにかくへんな雰囲気だったのよね。
 挨拶と一緒に上げた右手をぶらぶらさせてたけど、手持ち無沙汰に金髪の頭をカキカキ、その子は話を始めたの。』
コを…。』
>>260
[…聞こえてるよね?
 やぁ!
 …まあいいや返事は。ホントは出てくるつもりもなかったし、そんな予定でもなかったんだよね。
 でもね、お話の辻褄合わせるのに他に良い方法が思いつかなかったんだよ。それに言うだろう?
「筋立てにこだわって出来のよくない話にするより、突拍子のないやり方でもいいから読める話にするべきだ」ってさ。
 それで、まずキミたちが知りたいのは”ボクが何者か”だろうね?
 でも、それはこのお話とは関係ないことだから省略するよ、
 ボクがここに挿入されたのはキミへの外挿法として、と言うか動機付けとして、結末の一端を閉じるためなんだ。
 それじゃあごく簡単に説明するよ、キミの友人がピンチだ。どうする?]
『友達ならあたしを裏切って思わず殺されかけたわ、などとなじって見せようとしたのよ、
 でも口にだす前に気付かれちゃったわ。』
[ああ、違う違う。そっちじゃない、彼女もそれなりに問題を抱えてはいるが、それは彼女の問題だ。
 そっちじゃなくってこっち、こっち]
 そういうとあたしの視線が急に変わった。空を飛んでいるイメージ、鳥瞰図。
 川沿いに行こうとするんだが気流がそうはさせてくれない、だんだん北側の山に近づく、
 すると思うよりも高度が下がってしまう。このままでは道路に落ちてしまう…、ああ、目の前にクルマが…。
[これは今から、…えーっとつまりキミが気がついてからってことだけど、15分ほど未来の出来事だよ。
 キミはこのことは夢としても覚えてはいないだろうけど、それでも教えることは教えたからね。
 それではキミを元の世界に戻す不思議な呪文、デウス♪エクス♪マキーナァー♪]

『そう指を一本フリフリ唱えながら、彼は後ろ手に隠していたピコピコハンマーであたしのオデコを…。』
>>261
 「ううん…」
『熊笹の中で目がさめたの。
 最初に思ったのは、目の前に旧採石場への道があるわ、と思ったことと、
 自分になにが起こったのかよくわからずにボーっとしていたってこと。
 するとだんだん、あの性悪口先女めに殺されかけたことを思い出して、もう頭に血が上って…』

 農道で台風一過の田んぼの取り入れをしていた近所の農家のおじいさんの目撃談。

「そっりゃーおっめー、えれーびっくりしたがー。
 朝の取り入れ一段落しよー思ってふと見たら山から制服姿の女の子でてくるがー。
 自転車漕いでっがーしゃーもその速いこと速いこと!!

 ・・・わっしゃー、これでも三国志とか好きでの?その姿みたとき思ったがー。
『怒った張飛が蛇矛抱えて突撃しちょる』ってぇー。
 凛々しかったねー!!」

 カンカンに怒っていたようだ。折れた横木を捨てることも忘れてたらしいし。

>>262
 河川敷、堰堤上の4車線化道路へ上がる大橋を漕ぎあがるモト子のその勢いは、
例えが悪いかもしれないがマッハ!だ、マッハ!
その頃、チャンは大橋から堰堤上に戻っての道路で信号待ちしていたが、
この中るべからざる勢いへの気配を感じたのか、ふと振り返ると当のモト子がごっさ恐ろしげな形相で
復讐する物体と化して接近しつつあった。
なにやら手にぶっそうな得物まで持ってる。これにはチャンも焦った。
早朝でちょうど小学生の登校時間に重なっており、みどりのおばさんとともに横断道路で指導していた
お巡りさんに必死で懇願していた。

「タスケテー!あの娘に殺されるぅ!!…撃っちゃってよ」

さすがに撃ちはしなかったが制止をしようとお巡りさんは前に出る。
チャンは信号が変わったのでとっとと逃げ出す。
 だが遠目でそんなチャンの様子を見て、モト子はもう一つなにか大事なことが気にかかった。
折れた横木を欄干の外に投げ捨てて、速度を落としつつ空を仰ぎ見ると…、
 居た!翼の少年はもう大分北側の山へ流されてる!
制止しようとするお巡りさんをウイリーで脅しつつ、有無を言わせずブッチぎって、
横断歩道の道から堰堤を降りるほうへ曲がって、モト子はさらに再加速した。
>>263

道を道幅いっぱいに広がって、せっかく子供らしく行儀悪く登校していたのにモト子に
蹴散らされチリジリになる小学生たち。
中には石を投げてくる悪ガキまでいるが、モト子はめげずにママチャリのベル鳴らしっぱで再々加速!
「退け退けぇ!チリーンチンチン♪チリーンチンチン♪
 退け退け退けぇぇえ!チリーンチンチン♪チンチンチン♪」
二〜三人轢いたかもしれないが、あまり気にしてはいけない。自転車はまだ無事だから。
 少年が落ちつつある道まで『スーパーチャージ』を繰り返す。
競馬で言う所の『足を残す』なんて、まったく考えないその走りっぷりだ。まだその白い翼は見えてこなかった…。

 いつまでたっても追いついてこないのでさすがにチャンも「?」と疑問に思えてきた。
ふと護岸下はるか先の道に目を凝らすと、なにかがもの凄い速度で移動している。
「奴だ」と気が付いた。
実際に、少年がピンチの様子を見つけたのは、その先に眼をやったときだった。
まだモト子はたどり着いてない。
「なにやってんのよ、あのバカっ娘は!あんたにはそれしか取り得がないんでしょ!?
 頑張りなさいよ!もっと早く!早く!早く!!」
いつのまにか、チャンはモト子を応援していた、それしかできなかったからだが、
その時には少年のことが心配、というよりもモト子の頑張りっぷりに感心していたなんて彼女も気付いてない。
>>264
 少年はかなり焦っていた、
いままでにも墜落はたくさんしてきたがこんなヤバい場所に落ちるなんてほとんどなかったからだ。
彼の翼は体重を支えるのにふさわしい大きさで、畳みでもしない限りこんな農道では
対向車を避けることができない。
一回でも骨折しようものなら、もう二度と飛べなくなると思うとすこし怖くなってきた。
足を揃えて不時着に備えようとしたその矢先、足下を何かがもの凄い勢いで通り過ぎた。
 自転車?一端通り過ぎた自転車はまた彼に近づきながらその走者が振り返ると…、
「!?あっ!おねーちゃん!!助けに来てくれたの?え?乗れって??大丈夫?」
 ママチャリの荷台の上で立つようにして、少年は乗った。
翼を畳めたので前から来た軽四も軽くかわせた。モト子の両肩に腕を回す。照れるモト子。

 シャカシャカと恋する彼女がチャリを漕ぐ、大好きな天使を荷台に乗せて。
ちょっと逆かな?って思えるけど、当人はまったく気にしない。
少年は疲れた翼を一休み。チリンチリーン♪と鳴らせて通ると沿道の、子供たちが手を振ってくれる。
大空もそりゃあ確かにいいけれど、と少年は思う。まあこの視線もたまにはいいかな?って。
モト子は心臓バックバク!いつもの「スーパーチャージ」娘はどこへやら。
ペダル漕ぐ、足元こそはしっかりだ。
けどなにせ彼の両手が乗った肩、耳元で歌うようにささやく声に、もう夢中。
ガンバレあたし!ガンバレ!あたし!!、そう、彼にいいところを見せなきゃいけないと思って、
そりゃもー彼女はがんばった。
>>265
「いいわね、あなたの得意なことは空を飛ぶことでしょう?かっこいいじゃない!
 あたしなんかこんな風に自転車で漕ぐ勢いで走ったら、筋肉断裂したり骨折したりして二度と走れなくなるのよ、
 足が千切れちゃうの。
 え?あなたも同じ?理論的には飛べない!?なんで!!??飛んでるじゃない!
 …一所懸命、頑張ったからって…そんな…。
 あ、あなたを空に還してあげるわ、もう飛べそう?飛べるのならこれから河川敷へむかうわよ、
 それまでの道沿いなら電柱も家もないから空に還ることもできるでしょう?
 そ、そそそれじゃぁあ、いくわよ!!

  スゥ―――パ―ァ――チ―ャ―――ジッ」

「うわー速い速ぁーい!
…速いよ。
速いってねえ速いよ。
おねーちゃんこれじゃあ飛べないよ速いって。
おねーちゃん飛べないって速過ぎだって。速いってば、ねぇねえってばねえ!
怖っ!速っ!怖っ!速っ!速過ぎだよ飛ぶとか飛ばないとかぢゃないくって速いよ!
 って、速い速い速い速い速ぃ速ぃ速ぃ速っ速っ速っ速っうわぁああ―――!!!」
>>266
 護岸へ上がる急な坂道も彼女のスーパーチャージの障害にはならず、
さらに加速して4車線化工事中の道路へ。
凄い速度で上がって、勢いでとんでもないジャンプかました。
自転車とモト子と翼の人が一緒にぶっ飛んだ真正面から、砂利トラまで走ってくる。
 その絵を見たアルバイトの警備員さんは、「ああ、死んだな」って思ったらしい。

 だがしかし、その瞬間に拡声器から声が投げつけられた。

『飛びなさい!あなたなら飛べます!翼を広げて飛びなさい!!』

 モト子の考えそうなこととドジりそうなことを見通して、先回りしていたチャンが
近くのコンビニでマッタリしていたブラック・バス乗っ取って、その拡声器で”声”をかけたのだ。
 翼の人が飛び立った、モト子を抱えて。
ただ、あわれ4900円の自転車「ママチャリ10号」は砂利トラのフロントガラスにバウンドして吹き飛んだ。
 さっき蹴散らした小学生の親御さんやら、砂利トラの運転手のおばちゃんやら、
今年に入ってすでに10台目の自転車を大破されて激怒するモト子のおとーちゃんやらから、
その後、もの凄い勢いでモト子は怒られるわけだが、それはここでは省略する。
 ともかく勢いで川岸の上まではよろよろと運びはしたが、明らかに重量オーバーでいまにも失速しかねない。
見兼ねてモト子は「離しなさい!!」って無理矢理に彼の手を振り払って護岸で咲き誇る曼珠沙華の中に落ちる。
スカートがまくれあがるので両手で抑える姿はちょっとかわいい。
 少年は川の上を高度をとるために川上に飛び、さらに上空で何度も回周して高度を得ると、
さよならとばかりに手を振って、そのまま家のある上流へと飛んでいった…。
>>267
 その様子をずっと曼珠沙華の花畑の中で見守ったあと、
やっとモト子は隣にチャンがいることに気がついた。
「借りできちゃったわね。…もういいわ、さっきのは許してあげる。
でもね!今回もあたしの勝ちだからね!わかってるでしょうね!?」
「…あはは、なんでも勝ち負けでお話するなんてお下品だわね。まあこう言えばいいのかしらね?
 『参りました』って?
 だいたい考えなさすぎなのよ。あんな速度出したら天使くん(仮名)の翼折れちゃうじゃないのよ。
 それにしても恥かしい子よね、そんな鼻血ヅラでよく彼の前に出れたわよね」

「?なんですってぇー!」

モト子はいままで気付いてなかったようだ。
あまりに恥かしいのと、よりにもよってチャンに指摘されたことで、二重に怒りが再充填して、また口ゲンカが始まった。
もしかしたらだが、彼女達が彼を追いかけていたのは、二人が仲良しだったこともあったのかもしれない。
よくわからないが。

 さて、少年から彼女らはどう見えていたのだろう?
もしかしたら!!モト子おねーさんへの感謝やら感激やらの気持ちで、あるいは恋心を芽生えたかもしれない。
ひょっとして!!あの元気のよさだとかカッコよさだとかを粋に感じて、憧れたかもしれない!
 私も興味があるので、ここは、帰宅中の彼の上空での独白をちょっと覗いてみよう、


「あー怖かった、すごい必死なんだもん。しかも鼻血までだしてるし。
 …女の人ってみんなあんな怖いのかなー?なんかいやだなー…」


 …ダメだったらしい。残念!
まあこうゆうことはよくある、どんまいどんまい。がんばれ、女の子。
269深淵奇譚:2008/09/10(水) 09:26:46
二重人格というものがある。
初めはそれなのか、と思った。

記憶を手繰ると小学生に入ったあたりから「それ」は自分の
なかに存在しており。
「それ」はなにかこう、思い通りにならない事態に苛立って
いるようで、酷いときにはこちらが思考できなくなる程の喚
き声を小一時間くらい発するときもあった。と、思えば「それ」
は図書館の本すべてを暗記してるかのような知識を持っており
、夜、眠れないときなどギリシャ神話(後に知ったのだが)を
話してくれたりもした。

成長と共に「それ」と心のなかで対話をし、いつしか友達の
ような父親のような妙な感情を持った頃、「それ」はこちらが
大人になるのを待っているのではないか、という確信めいた
気持ちが唐突に湧き上がってきた。

学校の勉強も、人付き合いも、巧くこなす術は全て「それ」が
教えてくれた。そう、「それ」の言うままにすれば万事OKな
のだ。

だが、その先に何がある?
「それ」の思うがままに生きてどうなるのか?
270深淵奇譚:2008/09/10(水) 13:07:05
>>269
そんな漠然とした不安を1人抱えたまま(「それ」はこちらの
思考を読むことは出来ないようだった)迎えた18歳の夏、
その出来事は起こった。

うだるような残暑がつづく土曜日の夜、DVDをレンタル
し、駐輪場で自転車の鍵を解除してるときだった。
「あの・・・駒場渉くん・・・だよね?」
顔を上げると見知らぬ、見たところ自分と同じ年頃の青年
二人が自分の自転車を挟み、立っていた。
「どなたでしょうか?」と聞き返す。こういう場合は「それ」
に聞いて対処してきたのだが、最近は自分で判断をするよう
努めてきた。
二人はしばしこちらを見た後、お互い向き合い、頷いた。
「きめりうす」
名前を聞いてきた方がこちらを向いてこう言った。
暫しの静寂。隣を自転車に乗った女子高生が通り過ぎて
いく。二人はさっきの言葉の反応を待っているように
無言でこちらを見つめていた。
ふいに背筋が寒くなってきた。実は今、自分はとんでも
ない奴らに目をつけられてしまったのではないのか?
漫画かアニメか何かに出てくるキャラクターを現実に
存在するかの様に語り合う滑稽な連中に。
いや、もしかするとクスリの常習犯かも、どちら
にせよ慎重に対応しなければ。
「それ」に聞きたい発作に襲われかけたとき、ふいに
心の中が逆流し始めた。
271 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 19:40:40
「王と竜」第1回

 もう遠い昔になってしまったが、寛容王と呼ばれたグスタヴァス一世が、
北方の竜を捕まえに行った話をしよう。
 その頃、南方の砂漠諸侯の反乱が漸く鎮められ国内には半世紀ぶりの
平和が訪れていた。しかし、わずかながら争いの火種まだくすぶっており、
グスタヴァス王はメレスモアに完全なる静謐を取り戻すため、
竜神から王権を授けられたというミヒャエル征服王の故事に倣い、
竜を捕らえて自らの権威を強めようと考えた。当時既に竜は
歴史の中に埋もれた存在だったが、探検家ワルター卿の報告で
北の大山脈の奥地にはまだ竜が棲んでいると言われており、王は
素早く準備をして1万の軍勢を仕立て自ら出達した。夏の盛りの
ことだった。
272 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 19:52:41
「王と竜」第2回

 半月程の行軍を経て王の軍勢はやがて大山脈の麓の町ソレインに着いた。
王はここで軍勢を3手に分け、それぞれ別の道から登らせることにし、
自身は中軍の指揮を執った。登山に先立ち王は馬を替えたが、
その口取りをしたのが私だったのだ。登る途中王はずっと口を
つぐんでいて、時折休止の下知をするだけだった。
 そんな道中が7日も続いた頃、王の軍隊は大山脈の奥地にある
巨大な火口に辿り着いた。
273 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 20:08:40
「王と竜」第3回

 火口はとてつもなく広く、そして深かった。他の2軍はまだ
着いていなかったが、王は直ぐにも兵達に火口を降りるよう命じ、
鎧を脱いで身軽になった兵達が火口のあちこちから縄を垂らし始めた。
王の馬に救われ高見の見物をすることが出来たのは幸いだった。
 その日の内におよそ3千人の軍隊の約半数が降りて行った。
翌日になると全軍が揃い、王はひとまず先遣隊が帰還するまで
待機を命じた。しかし、その次の日になっても連中は帰って来なかった。
1千5百もの兵達が一人も、だ。黒々とした火口の深淵を眺めて
私はぞっとしたよ。そして3日目になり王は遂に痺れを切らして
第2陣の降下を命じた。今度は左軍から募った5百の精鋭だった。
しかし、連中もまた戻らなかった。
274 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 20:26:36
「王と竜」第4回

 6日目、到頭王は第3陣を投入した。右軍から百人。そして何と
自らが降りることを宣言した。側近達は慌てて止めたが王は利かなかった。
そして私も王と共に行くことになってしまったのだ。
 7日目の朝、王と私を含む供の者十数名は太くて頑丈な鎖に
繋いだ鉄の檻に入って火口を降りて行った。黒い闇に飲み込まれて行く
あの感じは今でも夢に見る。永遠に降り続けるのではないかと
思う程長かったよ。実際には半日程だっただろう。終りは突然訪れた。
地面に突き当たり私は転んで右肩を嫌と言うほど打ち付けた。
王は躊躇うことなく檻の外に出られた。不思議なもので真っ暗だと
思ったら薄く周りが見渡せた。松明を付けると更に良く見ると、
所々に岩が見えた他は何も無かった。
 辺りに他の兵達の気配は無かったが、足跡は見つけることが
出来た。我々は慎重に辿って行った。王は今まで見たことの無い顔を
していたが余程思い詰めていたのだろう。側にいた私も何やら
身体がこわばったようだった。足跡は中心部に向かって伸びていた。
またも長い時が流れた。そしてその終りもまた唐突だった。
275 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 20:37:09
「王と竜」第5回

 竜はそこにいた。我々のすぐ前に立っていた。巨大な一枚岩
のようだった。私は恐怖のあまり口が利けなかった。王も同じような
気持ちだったと思う。何人かが叫んで逃げ出した。その時竜が動いた。
口が大きく開き赤い火の玉がいくつも飛び出して逃げた奴らを
追って行った。すぐに悲鳴が聞こえたよ。
 王はその間もずっと黙って竜を見上げていた。そしておもむろに
呼びかけた。「話がしたい」と。私は驚いた。しかし竜が直ぐに
返事をしたことにはその3倍もたまげた。低く篭った小さな声で
竜は言った。「1人になれ」と。王は我々に離れろと告げた。
遠くへ、声が聞こえない程遠くへ。何人かは反対したが本気ではなく
直ぐに離れて行った。私も初めはそうした。
276 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 21:19:53
「王と竜」第6回

 離れながら他の連中は口々に王の豪胆さを讃えていた。如何にも
言い訳がましく聞こえたがね。誰かが先王のことを持ち出した。
もう30年以上前、先王が南方諸侯の1人と一騎討ちをして
見事討ち取ったことを挙げ流石は御子息である、とね。その決闘は
私も父から聞いたことがある。凄まじい砂嵐の只中で行われたらしい。
やがて戻って来た王は顔は血まみれになっていて直ぐに天幕に運ばれ、
以後死ぬまでマスクを被ることになった、と。グスタヴァス王が
産まれたのはその翌年のことだ。
 歩きながらそこまで思い出した時、私は足を止めた。今回もまた
王は一人で敵と対峙している。誰も見るものはいない。伝説が
作られるのにも関わらず。私はどうしても戻らなくてはならない
気持ちになった。怖かったが意を決して踵を返した。他の連中が
遠ざかっていく中一人で戻った。これで自分は伝説の語り部に
なれるのだと思いながら。
277 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 22:06:04
「王と竜」第7回

 王の声が聞こえた。
「余を認証せよ」
竜が返す。「否」
「何故だ」
「お前は違う」竜の返答は早い。
その時王の背中が見えた。王は微かに肩を落としたようだった。
たっぷり時間を置いて王が口を開いた。
「それはどういうことだ」
竜は答えた。「お前は王権を持たぬ」
その直後王は身を震わせた。そして……笑い出した。私は訳が
解らなくなった。
「如何にも。余には南方の砂漠の王の血が流れている」
私は一瞬理解が出来ず、その後呆然とした。一体何を……。
王の口は別人のように滑らかになっている。
「余の産まれる前年の決闘の勝者は余の父、砂漠の大公だった。
しかし勝ち名乗りを挙げることの愚かさを悟った父は殺した男に
なりすましたのだ」
本来不自然な王の饒舌もこの時の私は気にしなかった。それどころでは
なかったのだ。
278 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 22:20:17
「王と竜」第8回

 王は続ける。
「いつ、マスクを剥がされ真実が暴かれるかと、父はさぞ脅えただろう。
しかし真実は最後まで露見しなかった。誰にも見抜けなかったのだ。
今までは、な」
王は愉しくてたまらないと言った口調で喋っていた。竜は黙ったままだ。
「ワルター卿の報告を聞いて以来、余はお前を何としても
捕まえねばなかなくなった。玉座を脅かす最後の存在をな」
王は剣を抜いた。
「死んで貰う」
王は突進した。王は突いた。王はえぐった。王はまた突いた。
竜は全く動かず白刃が肉をさいなむに任せている。傷口から
人と同じ赤い血が流れ始めた。私はこの一方的な闘いから目を
そらせなかった。王は狂ったように竜の身体――下半身の一部――を
めった刺しにしている。血が地面に赤く溜った。じわじわと広がる。
私は気が遠くなりそうだった。
279 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 22:34:22
「王と竜」第9回

 突然、王は攻撃を止めた。剣を払い、鞘に収める。いつの間にか、
無表情になっていた。そのまま振り返る。私は思わず声を挙げた。
逃げ場はない。
「案ずるな。とっくに気付いていた。お前は贅沢だぞ。王の芝居の
只一人の観客なのだからな」
「……!?」
「竜は最初から生きてはいない。余が声色を変えてお前達を騙したのだ」
王は笑った。私は何と言っていいか判らなかった。
「竜は先に降りた者らに退治されていたのだ。その後手を加えてな」
王が片手を挙げた。竜の口が開きあの火の玉が飛び出し、私の
頭上を越えて言った。
「良いだろう? 使い捨てるには惜しいな」
王は笑いながら私に近づいて来た。肩を掴まれた。
「他の者は死ぬことになるが、お前だけは生かしてやる。伝説の
語り部になって貰わぬと困るからな」
その時、王は何を考えているのかさっぱり解らなかった。
280 ◆8hviTNCQt. :2008/09/10(水) 22:45:18
「王と竜」第10回

 王は戦がしたかったのだ。産まれてこの方ずっと続いて来た戦乱の中で
殺し合いに生き甲斐を感じていたのだ。だから、それが終わることに
耐えられなかった。故に、次なる戦を呼び込むためにこの竜捜しを
計画したのだ。そして好奇心と功名心に負けた私は大事な駒となった。
 都に帰った私は大山脈の火口の底の出来事を一生懸命吹聴した。
王の助けもあり、噂は瞬く間に広がった。そしてしばらくして、
王の望んでいたものが起きた。今までになく大きな戦がな。だから……

「だから、お前達のその傷も全て王のせいなのだ。断じて私のせいでは……
止せ、止めろ! 嘘じゃない! 本当だ。本当に私は……来るな!
隊長を傷つける者は…ああ……あ……」
281深淵奇譚:2008/09/23(火) 17:42:48
>>270
夢のなかの自分というのは大概、思いもよらぬ言動をするものだが
まさにそれと同じだった。意識と五感はあるのだが、ただそれだけ。
自分の口と身体は勝手に動いている。
「ナベリウスに・・・フォルネウスか」
それは小学校時代のクラスメイトとばったり会い、記憶の箱から相手の
名前を探し出したような口調だった。
途端に向かいの青年二人が笑顔で駆け寄ってきた。
右側の奴は口笛を吹くマネまでして喜んでいる(ちょっと浅野忠信に似た
顔だ、と渉は思った)。
二人の手が自分の両肩にのせられ、反射的に体を引こうとしたが、今の
自分の体の支配者は動こうとはしなかった。
「おい、フォルネウス、この野郎!憶えてやがるか!?」
支配者によって、笑顔の自分が浅野忠信似の男を軽く小突く。
「ああ、ああ、あんときゃ悪かった。あやまるよ」
浅野忠信似の男はハリウッド映画でよく見る「降参」の
ポーズよろしく、両手を軽くあげて苦笑いをした。
「まあ立ち話も何だ。再会を祝ってどっかに腰を落ち着けて話そうじゃ
ないか?」もう片方の男(こいつはミスチルの桜井に似ていた)がそう
切り出す。
「それもそうだ。ドトールとスタバ、どっちにする?」
支配者が自分の口からそう聞いた。

他人から見れば三人は旧知の友にしか見えないように喋り
ながら歩いていった。
282名無しは無慈悲な夜の女王:2008/10/13(月) 16:33:07
保守
283名無しは無慈悲な夜の女王:2008/11/10(月) 07:00:17
裁判員をネタにこういう小説を思いついたんだが、どうだろう?

ある凶悪殺人事件。犯人とされた男は実は無実なんだが、不幸にも
状況証拠からは、そいつがいかにも犯人に見える。有罪なら死刑は確実。

そして、裁判員制度であつまった市民達が、無罪か有罪か
ケンケンゴウゴウの議論をするんだが、その中の一人の「有罪」派の
男が、実に頭がよくて弁が立つ。

結局その男に引きずられる形で、被告は有罪であると全員一致となった。
、つまり被告には(実は冤罪なのだが)死刑判決がくだされた。

そしてその男が裁判所からの帰路につぶやく。「あぁ、偶然とは言え、
裁判員に選ばれて良かった。本当に良かった。真犯人のこの俺が選ばれて・・・」

284記憶喪失した男 ◆cnhIMeWufo :2008/11/10(月) 08:18:19
>>283
ありがちだけど、書いてみる価値はあると思うよ。
需要はあると思う。
285名無しは無慈悲な夜の女王:2008/11/10(月) 10:32:20
>>283面白そうだね。

だけど
>あつまった市民達が、無罪か有罪か ケンケンゴウゴウの議論をするんだが、その中の一人の「有罪」派の
男が、実に頭がよくて弁が立つ

ケンケンゴウゴウの部分、実際に書くとなるとどのあたりまで専門的な部分を書き込むか!難しいところだよね。

あらすじ考えたあと、実際に読ませる作品を仕上げるのが大変なんだろうけど。
286いずもとや ◆qxs4bTxme2 :2008/11/12(水) 06:42:30
「世界に一つだけの花ってどんなのなのかな?」
「それれはこの突然変異で生まれた花のことだよ。
 ところで君は防護服を来ていないのだけれど、支給されなかったのかい?」



小説と呼ぶには短すぎるかも
287名無しは無慈悲な夜の女王:2008/11/15(土) 16:26:12
深い微睡みが私を深淵へと誘おうと、堪えがたい甘美なその甘い言葉でもって私に語りかけるのです。
ああ、眠りの神よ、若し慈悲というものがあるのならば私をこの宇宙の筆舌に尽くしがたい恐怖から「開放」し給わえ。
私は宇宙が恐怖を楯に隠そうとする秘密の総てを、微睡みの世界への侵犯という最悪の状で知ってしまったのです。
288「写真の女性」 その1 ショートショート:2009/04/06(月) 01:29:02
ハルオはしがないサラリーマンだ。どれも平均的で、これといった特徴はなかった
ある日ハルオが買い物をしようと思ってふと財布をあけると、お札の間に見知らぬ一枚の写真が挟まっているのに気がついた。
名刺ほどの大きさの女性の写真だった。とてもきれいで、吸い込まれそうな瞳に気品のある顔立ちだった。
「なんでこんなものが自分の財布に挟まっていたのだろう?」 すごく不思議に思え、悩みに悩んだが、結局、その時は答えを見つけることはできなかった。
それから三日後、ハルオは写真の女性にばったり出くわした。何気なく街をあるいていると、写真の女性が目の前を通り過ぎていったのだ。
一瞬息を飲んで、ハルオは固まった。しかしあの吸い込まれそうな瞳は確かに写真の女性そのものだった。 
一旦ためらったハルオだったが、意を決して、その女性に話しかけた。財布から写真を出し、女性に見せて尋ねた。
「あのー これ あなたですよね?」
その時である、信じられない事が起こった。 女性はハルオが持っていた財布を奪うと、振り返って走り去っていったのだ!
何がなんだか分からないような、狐につつまれたような気持ちで、立ち尽くしていたハルオだったが、ふと我に返り、そして叫んだ。
「ド、ドロボー!」

ハルオは女性の後を追いかけた。さいわいまだ姿をとらえることが出来たので、見失わないよう必死に小さな女性の後姿にくらいついていった。
ハルオが女性を追っかけている間、ふとハルオ自身もまた誰かに追いかけられているような気がした。黒い服を着た男がハルオの走るのと、同じくらいのスピードで
等間隔で走っているのが、曲がり角で目に入ったからである。

女性は港の方に逃げていった。なぜかここへ誘っているような感じもした。そして、埠頭にある、小さな倉庫に女性は入っていった。
ハルオは何も考えずに、そのドアを開けて倉庫に入った。中はぼんやり明るかった。 



289「写真の女性」その2 ショートショート:2009/04/06(月) 01:31:07
倉庫の中の風景をみて、ハルオは何がなんだか分からないような気持ちになった。全力で走って、疲れて幻覚でも見ているのかと思った。
中がぼんやり明るかったのは何十本ものローソクが床に立っていたからである。そしてその真ん中には古びたお墓があった。
ハルオはとても気味が悪くなり、そこから出ようと思ったが、ドアは鍵がかかって開かなかった。
「女性はどこにいったのだろう?」とハルオは思い、あたりを見たが、
その倉庫に女性の姿はなかった。ハルオは倉庫を一通り見回した。しかし窓一つなく、ドアは鍵が掛かっており、
壁は頑丈な鉄で出来ていて、どう見ても出ることは出来なさそうだった。
「どうしたものか・・・??」 途方に暮れそうなハルオの目に墓の前に置いてある一枚の紙切れが目に入った。

それにはこう書かれてあった。
「祈りなさい。三日三晩。休む間もなく、許してくださいと言って祈りなさい。」
何のことかハルオには全く分からなかった。しかし、ハルオはこう思った。
「どうせこのままここにいても、飢え死にだ。この紙切れを信じて祈ってみよう。」
その時からハルオは墓にむかって許してくださいとつぶやきながら、祈りはじめた。
幸いなことに食事は、ドアにある郵便受けから誰かが差し入れてくれた。また仮設トイレや、予備のローソクやライターなども置いてあり、
なんとかハルオは三日三晩墓に祈り続けることができた。

そして4日目の朝。  ハルオはガチャリという音を聞いた。もしやと思い扉を開けてみると、それは簡単に開いた。
「やっとでられるんだ!」ハルオは感動のあまり泣きそうになった。
扉の前にはハルオの財布が置いてあった。 お金は無事だったようだ。ポケットに入っている女性の写真を財布に入れようと思い
取り出したところ、その写真は、マジックで塗りつぶされたように全て真っ黒になっていた。


290「写真の女性」完結 ショートショート:2009/04/06(月) 01:33:24
事件から一週間後。ハルオのアパートに一通の手紙が届いた。届け人不明。それにはこう書かれてあった。
先日のご無礼お許しください。実は我々は、政府に属する秘密の組織で、ある事情から、とある場所にどうしても監視センターを
設立しなくてはいけなくなりました。早速工事に取り掛かったところ、なぜか知りませんが、原因不明の事故が多発したのです。
急にリフトが動き出したり、トラックのブレーキが利かなくなったり。 これは何かあるのではないかと思い、地元の人々に
話を聞きました。すると、案の定、この場所には過去に、主君に裏切られ殺されていった多くの武士の魂が眠っていると聞きました。
我々はどうしようかと思い、有名な霊媒師に意見を聞きました。すると、その霊媒師はこう言いました。
「ここの近くに、武士達の墓がある。その墓を裏切った主君の子孫に三日三晩祈らせなさい。」と。
我々は全力をあげて、その主君の子孫を探しました。それがあなただったのです。
あなたが、全力で祈ったかいあって、我々はそこに、監視センターを立てることができました。 これは少ないですが御礼です。
受け取ってください。
ハルオは手紙とともに入っていた、お金を握り締めた。1週間ほど海外旅行にいけそうな額だ。
追伸にはこうかかれてあった
そうそう あなたの財布に入っていた写真ですが、あれはポラロイドカメラの技術を応用したのです。
ポラロイドカメラは、黒い色から徐々に写したものが現れますよね。それです。
駅前で、我々の捜査員が扮した、居酒屋サービス券配りから、サービス券をもらったのを覚えています?
そのサービス券が時間とともに、彼女の写真へと変わったのです。変化させる速度を調節してね。
そしてその彼女の写真の下にもう一枚、真っ黒に変わる写真を貼り付けておき、変化させる速度を調節して
真っ黒にしたのです。
それともう一つ、あなたが彼女を追いかけているとき、後ろから誰かが追いかけてきたと思いますが、それも
我々の仲間です。万が一彼女が捕まった場合、助けるためにです。あと倉庫で消えた彼女ですが、あの倉庫の床の
一部分を押すと、出口がでる仕掛けになっていました。
それでは 失礼します。 最後に一つ。この手紙は時間とともに真っ黒になります。

291名無しは無慈悲な夜の女王:2009/05/22(金) 07:11:06
ハルオさんは何歳なんだろう。しがないサラリーマンというだけでは年齢層が
広すぎる。読者の年齢に合わせた主人公像を作ろうとしたのかな?
主人公と言う感じではなく、扱いが脇役だなぁという印象を受けました。

あと写真や手紙のトリックですが、あえて説明する必要はあったのでしょうか?
トリックを使用したイベントがおまけ程度の扱われ方であったのに、説明だけが一人前。
先祖云々の呪いよりもトリックの披露がしたかっただけなのではないかと邪推してしまいます。
292もう双璧:2010/08/14(土) 03:33:00
旅行中に暇だったから考えた切ない話を
あらすじっぽく書いたんで
こうしたら面白いとかここおかしい
とかアドバイスほしいです。

とりあえずアップしときます
293もう双璧:2010/08/14(土) 03:36:40
キャラ説明
水無月楓 正義感の強い少年。少し強情。小3〜高1まで宮崎に転校していて
高2に戻ってきた。高3の春に余命半年と宣告<寿命に関する言葉に敏感>
白石彩香 楓の幼馴染。吹奏楽部。黒髪セミロング。クリッとした瞳。小顔。
華奢。白肌。コンタクトと眼鏡を使い分ける。高1に脳が萎縮する病気にか
かる<記憶障害−記憶の容量が1日−病気にかかる以前の記憶は覚えている>
大久保奈緒 彩香の親友。女子テニス部のエース。日焼け少女。主にポニーテール。
モテる。主人公が嫌い<主人公が転校して1番傷ついた。悲しんだ。>
国方沙耶 生徒会長。吹奏楽部部長。彩香の一個上でお姉ちゃん的存在。
なにごとも悪を許せない。眼鏡。ツインテール。ツンデレ。男性不信。
男嫌い<過去に男子にラブレターを回し読みされたため>
豊岡篤志 基本チャライ。楓の友達。お金持ち。いけ面。友達思い。
294もう双璧:2010/08/14(土) 03:38:46
ここからあらすじです。
7年ぶりに東京に帰ってきた水無月楓と高1のときに脳が萎縮してしまう病気
にかかり、記憶の容量が1日になってしまった白石彩香の物語。家が隣りの二
人は毎日のように顔を合わすことになり、彩香はしだいに惹かれていく。しか
し、彩香の記憶の容量は1日だけ。毎日の日記に楓との思い出が詰まっていく
一方、毎日が初恋。楓と彩香が仲良くするのを疎ましく思っているのが彩香の
親友の大久保奈緒である。小学校のとき、楓の転校を1番悲しんだのは彼女で
ある。今更帰ってきた楓を受け入れるつもりはないらしい。ことあるごとに三
人で行動するのが当たり前になっていた。
295もう双璧:2010/08/14(土) 03:41:00
高2の夏休み、富岡篤志の提案で三人は篤志の親が経営するリゾートでアルバイト
することになった。ひょんなことから彩香と楓が喧嘩をしてしまう。その喧嘩はそ
の日のうちに決着が付かず、次の日、前の日の日記を見てから楓に謝る。しかし、
何も憶えていない奴に謝られたことに腹を立てた楓は彩香を突き放す。奈緒の必死
の仲介も空しく二人と楓は夏休み以降ほとんど口を利かなくなった。お正月の前に
彩香は意を決して楓を呼び出した。今までの彩香が楓をどれほど愛していたかを伝
えるために日記を見せることにしたのだ。日記を見た楓はまた前のように仲良くし
ようと指切りをした。二人の親密度は以前よりも増すのであった。会わない時間に
互いに思いを募らせていたようだ。
296もう双璧:2010/08/14(土) 03:43:30
高3の春、余命半年であることを宣告される。それから楓の放課後の病院通いが始まった。
たまたまテニスで痛めた手首の治療に来ていた奈緒もその事実を不意に看護婦の噂話から
知ることになる。ふいに奈緒の奥底にある感情が抑えられなくなる。自分なら楓を最後ま
で寄り添い続けられると信じて疑わなかった。彩香の気持ちを知りっている分、罪悪感も
大きかった。
楓は日に日に強まる奈緒と彩香の好意に気づきだす。今の楓にとっては一番受け入れられ
ないことだ。それから1ヶ月、楓にとってつらい日々が始まる。なるべく二人を遠ざけよ
うとした。自暴自棄になった楓は授業をサボることが度々あり、その噂を訊きつけた生徒
会長の沙耶は楓を生徒会室に呼び出すことにした。
297もう双璧:2010/08/14(土) 03:44:30
沙耶がどんなに説教しても楓は懲りた態度を示そうとはしない。沙耶の説教じみた
言葉の中に楓の逆鱗に触れるものがあった。その言葉に反応してしまい、気づいた
ら楓は沙耶を押し倒し、両手を摑んで沙耶に跨っていた。突然のことで動揺してい
た沙耶は気づくのが遅れたが、楓が泣いているのに気が付いた。何か言いたげだっ
たが、楓は黙ったまま教室を後にした。この日から沙耶は楓のことが気になってしょうがなかった。


298もう双璧
ある日、学校で楓は倒れてしまう。ふらふらと人気のないところに歩いていく楓を見つけたのは奈緒だった。
楓を追っかけて角を曲がったときに倒れている楓を見つける。保健室で二人っきりになった奈緒は病気のこと、
そして自分の思いを打ち明ける。だが、楓は“ゴメン”ただ一言返すだけだった。奈緒を振ったことで楓にも
決心が着いたようだ。楓は両親と職員室に行き、自分の病気のことを告白し、学校を辞める手続きをした。偶
然その場に沙耶もいたが、突然のことでどうしようもなく、だた涙を堪える だけだった。そして、楓は彩香
に酷い事をして、この関係を壊すつもりだった。しかし、なかなか見つからない。今日、彩香は体調を崩して
家で寝込んでいるらしい。この 瞬間、頭を横切ったある行動を実行することにした。彩香の家に行くと予想
通り彩香はベットに横になって寝ていた。彩香は楓に気づくと“はじめまして”と声をかけた。 楓はうその
自己紹介をし、彩香の体調を確認しながら、こっそり日記とアルバムを探し、持ち出した。家に帰り、楓は
一枚一枚を記憶を噛みしめながらライターの火で燃や
すのだった。