>>158 2.啓二(けいじ)
「言っとくけど、ここで落盤でもあったら俺達終わりだからな」
いつもの調子で悟は言って、後方の女性らを気遣いつつ後に続く。
洞穴探索としてはほぼ完璧な装備の自分に比べて、彼らのそれはまるで観光、
何故もっと重装備で来ないモノか?と思ったが、それは口には出せなかった。
「やっぱ二人には待ってて貰った方が良くなかったか?」
「えー二人だけ面白いことするなんてずるい」
「そう言う人も居るし?ここに”貴方一人”で埋まったら、むしろ喜劇よ?」
流石に、”一人で”ここまで来るのはちょっと俺でも嫌だ。携帯の時計を見る、
既に30分は歩いている。高波先生の話では「苦徒鬼神」、恐らくは土着の神、
多分真湖のご先祖達が信仰していた古い神様の祭壇が、この東京の外れにある、
小さな祠の下に続いていた洞窟の先にある。胸が高鳴るが、同時に不安も続く。
人一人が何とか通れる通路、どんどんと地下へと潜っていく。息苦しさも共に。
「・・・でも、ここへ”贄”を運んで捧げてたって事でしょ・・・なんか恐いな」
地図にはなんと、悟の言うように”本当に温泉の印が書いてあった”訳だが、
ふざけて入浴用具なんか用意してきた真湖も、流石にここまで来ると少し不安げだ。
それから、10分ほど経ったろうか、やがて少し広い空間に出る。ひんやりと、
少し空気が変わる感じがして、悟に促されるままにその方向へライトを照らす。
地底湖・・・では、無いらしい。川?とにかく流れている、ここが或いは?
「いや・・・少し違うな。地図じゃ祭壇はもう少し先だ。この川はこの地図が、
作られた後に出来たのかも・・・ちょっと待て?この川、渡る事に成るぞ?」
祭壇までは後は一直線だが、そこを川が跨いでいる。しかし、深さはそうない。
足膝位、水温もぬるま湯。想定外の事態だがここまで来て引き返すわけにも。
ともかくリーダーとして!俺は素足に成って足を入れた。女性らは不満げだが、
悟も入った所で渋々と素足に成る、ついライトで照らしてしまい珠恵に怒られる。
「いやーんスカート濡れちゃう・・・・あれ?」
真湖がふと声を上げて、水の中に手を入れた。ライトで照らすと、彼女は何か、
奇妙な、卵形をした・・・岩の様なモノを抱えていた。