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ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :
小松左京「首都消失」 3点
「SF魂」(新潮新書)で作者自身が書いているとおり、小松作品中では
「日本沈没」に次いで売れた作である。
内容的には、「日本沈没」以上にシミュレーション小説といった色合いが強く、
その分、SF(サイエンス・フィクションとしてもスペキュレーティブ・フィクション
の意味でも)としては物足りないものとなっている。
結局、首都東京を襲った謎の雲の正体は最後まで明確にはされないし、
(エイリアンの仕業という仮説は呈示されるものの、その目的は不明のままである)、
首都が機能停止した場合における日本という国家及び日本人のあり方という問題も、
今、一歩踏み込みが足りないまま雲の消滅を示唆する中途半端なラストを迎える。
面白いのは、首都東京の機能停止で作者の故郷である大阪や母校である京大が
大活躍かと思いきや、その商都としての伝統と感覚が災いして、経済問題を優先したため、
名古屋に首都代替機能をさらわれてしまうこと、京大も目立った活躍はせず、
この辺に、自身も関西人でありその特質を良く知る作者らしいものが感じられる。
メーンをなす主人公も、冒頭から登場するS重工社の朝倉(妻子持ちながら若手の
女子社員にモーションをかけ、アルバイトのバイク好きのねぇちゃんとニャンニャン
してしまうモテオヤジだ)が、「日本沈没」の小野寺の役割を務めるのかと思いきや、
彼はじょじょに後景へと退き、では、これも冒頭から間もなく登場する朝倉の親友である
自衛官佐久間かと思うと、彼の出番も少なくなってゆく。
結局、全編を通して一番活躍するのは、朝倉の学生時代の先輩である九州男児の中年記者田宮だというのが面白い。後には、臨時政府の広報責任者にまで抜擢される彼氏だが、
小松御大自身を想起させるような陽性でバイタリティ溢れるキャラ、作者の思い入れの
ほどが覗えるものがある。