1 :
名無しは無慈悲な夜の女王:
やっぱりくらった512規制(笑)。
というわけで、ゴジラとガメラを「対決」「共闘」「すれちがい」などなど、さまざまな形でSF的にクロスさせましょう。
3 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/15(木) 15:26:08
512規制を発動させた責任をとり、なんと生まれて初めてスレ立てに挑戦。
至らぬところは、なにとぞご容赦を。
すべて終ったいま、オレはこうしてこの手記をしたためている。
事実について書き残すのは、フリーのカメラマンでありルポライターでもあるオレの義務だと思う。
時計の針は午前二時を10分ほど廻ったところだ。
深夜ラジオからビートルズの「レット・イット・ビー」が微かに流れ、彼女はとなりの部屋で疲れ果てて寝息を立てている。
安堵し、無防備にさらす横顔を見ると、ここ数週間のできごとがまるで嘘のようだ。
でも、嘘ではない。
死んだ者たちも、失われたものも、すべて現実なのだ。
歌は繰り返す。
レットイットビー♪……レットイットビー♪
あの一連のゴジラとガメラの事件を知らない者などいないだろう。
空飛ぶカメと黒い凶神の闘争劇、そしてインド洋海底の超古代文明。
青い空と青い海、胸のときめきと大破壊が手を携え世界を闊歩した季節。
目の前に事態に対応するのが精一杯で誰も気づきはしなかった。
そう、誰も……。
我々が「神の見えざる手」を目にしているのだということに…。
事件の最初は、ひと月前のある夜からだった。
「……一部にゴジラをバージェス頁岩で発見されるようなカンブリアの生命爆発のころに分化した存在だとするような意見もありますが、これは明らかに誤りですな。…うししししし。」
数日前からかかりっきりだった原稿をやっと脱稿し、オレはビール片手にテレビを眺めていた。
テレビで喋くってるのは、有名な爬虫類学者の……なんて言ったか?………そう、万石とかいう先生だ。
「……ゴジラには明らかに脊椎が存在します。ということは、最低でも脊椎動物の発生以後分化した存在であるということですな。いひひひひ。」
「それではやっぱりゴジラは見た目どおりの恐竜なんでしょうか?」
「それはまだ断定できません。まあ、例のゴジラ遺伝子の解析が済めば、はっきりしたことも判るでしょうが…。」
……ゴジラ遺伝子の解析。
放射能をエネルギー源として口から熱線を放つ、二足歩行の巨獣ゴジラ。
この「在り得ざる生命」の秘密を解き明かすべく、世界のトップクラスの頭脳が総力を結集していた。
ちなみにこの万石という先生、以前インタビューしたことがあるが、SF小説に出てくるマッドサイエンティストの役を素のままで演じられそうな人物だ。ゴジラ遺伝子解析プロジェクトにもお呼びがかからなかったらしいから、世間一般でもマッド…と思われているのだろう。
「そんな学者に話し聞いたって仕方無かろうに……。」
皮肉を呟くと、オレはテレビのスイッチをきった。
最初の事件が起こったのは、その夜のことだった。
アメリカはカリフォルニア州の原子力発電所。
時差のため現地は早朝。
建物前に数台の科学消防車と救急車が急停車した。
原発で事故発生!
警報装置が発報したのである。
だが不思議なことに、事故状況を説明すべき原発職員は1人も現れなかった。
やむなく消防隊は職員による誘導なしに建物内に侵入。
最初に建物に踏み込んだ消防士は全部で15名だったそうだ。
だが戻ってこられたのは、わずかに1名。
しかも、ショックのため言語障害をひき起こしていた。
生き残りの証言は、「報告」というより「妄言」であったが、彼のもたらした「物証」が決め手になった。
軍が直ちに出動した。
シャドウズ/4「不自然な装備」
「ちゃらら♪ちゃらちゃらちゃらちゃらら〜♪」
「ゴッドファーザー愛のテーマ」でオレは目を覚ました。
オレの携帯だ。
時刻は午前1時よりすこし前。
「はい……。」
寝入り端に起されていささかムッとしてもいたので、こっちからは名乗らない。
「……その調子だとやっぱり寝てやがったな。さっさとテレビつけろよ!」
それだけ言うと、むこうも名乗らないまま電話を切った。
眠い目をこじ開け、テレビのリモコンをとる。
テレビに写ったのはCNN。
夥しい台数の消防車と救急車。それに軍用車だった。
「なんで消防車と軍用車がいっしょくたに?」
テロップに目を走らせたとたん、オレは一瞬で目が覚めた。
原発で火災発生!
近隣の住民に非難勧告!
一発で目が覚めた!
「軍まで出てるとは、こりゃ大事だぞ!」
だがそのとき、オレは奇妙なものに気がついた。
画面の奥を、災害救助とは場違いな兵がチラッと横切ったのだ。
「何だ今の兵は?災害派兵なのに、なんで完全武装なんだ?」
アレは直ちにアメリカの友人に国際電話をかけた。
ソイツは東欧系の「マルコなんたらかんたらイリーエビッチどうたら」……という、オレには発音すら不可能な名前をもつ元兵士だ。
めんどくさいのでオレは単に「マーク」と呼んでいる。
オレとマークとはコソボでの戦場取材中に親しくなり、それはヤツが対テロ警備保障会社の顧問に落ち着いてからも続いていた。
「おおアンタか。ってことは今やってる事件のことでだな。」
時差の関係で現地は昼近くなので、マークはすぐ電話に出てくれた。
電話の向こうで微かに聞える音声からすると、ヤツもCNNを見ているらしく話も早い。
「…で、どうなんだマーク?火災なんて言ってるけど、ありゃテロだろ?」
「の、はずだ。火を消すのにアサルトライフルはいらないからな。」
ヤツも「武装した兵」の存在に気づいていた。
「だが……不思議なことがある。あれがテロだとして、建物内でのクローズドコンバットなら、サブマシンガンやショットガンが圧倒的な威力を発揮する。
だが、兵たちはどっちも装備していないように見えた。
それどころか……どうやら象撃ち用らしきライフルを持ってるヤツまでいた。」
「象撃ち!?…………って、原発内に象がいるのか?」
マークの答えは、いま考えると実に正鵠を射たものだった。
「少なくとも突入した連中は『いる』と思ってるんだろうな。」
カリフォルニアでの原発事故は数日後に「電気配線のトラブルが原因」ということで収拾が計られ、それ以上の情報は入らなかった。
あの原発事故から一ヶ月ほど後のある日。
オレはある地方都市に向け車を走らせていた。
人と取材の約束があったからだ。
町並みを抜け廃園となった市民プールの脇を過ぎると、あとは山林と原野が10分以上も続き……。
いきなり煉瓦造りの洒落た建造物群が姿を現した。
オレはその中の、とある研究棟の前へと車を乗り入れていった。
用件を告げると、院生らしき男の案内で小さな会議室のような部屋に通された。
「大鳥研究員ですね。……呼んできますので暫くお待ちください。」
オレはあの事件のあと「ゴジラとガメラ・残された光と影」というテーマで取材活動を続けていた。
「影」とは巨獣対決がもたらした負の遺産のことである。簡単に言えば、破壊のツメ痕だ。
一方の「光」はというと……。
ゴジラの死体の調査から判明した様々な可能性、特に新種の細菌群のことだ。
ゴジラの体内で繁殖していた放射能を吸収する細菌は、上手く活用すれば原子力エネルギーに「革命」などという言葉では言い足りないほどの光明をもたらすものと期待されていた。
今日の面会の相手である大鳥研究員も、そうした好核バクテリアの研究者の1人なのだ。
かちゃっ
ドアが開き、あの院生が顔を出すと悪戯っぽく笑って言った。
「お待たせしました。オードリーです。」
(おーどりー?)
聞き間違いかと思った瞬間、院生が引っ込んで、入れ代わりに当の大鳥忍研究員が入ってきた。
……聞き間違いではなかった。
大鳥研究員は、たしかにぱっと見がオードリー・ヘップバーンを連想させる、長身にショートヘアーの女性研究員だったのだ。
「目は心の窓」なのだそうだ。
(……それならこの女性の心はどんな世界なんだろう……)
そんなことを思わせられる大きな瞳。
小さくて先端が微妙に上を向いた、悪戯小僧のような鼻。
そして意思の強そうな高めの頬骨。
………不意打ちを喰い呆然として、彼女の口がなにやら動いたような気がしたが、言葉の方はさっぱり耳に入らない。
また彼女の口が動いた。
「好核バクテリアについての取材と窺ってますが?」
今度はちゃんと聞えた。
「は、はいはいはいはいはいはい、え、えーと……。」
慌てたオレは取材メモを取り出そうとして床に落っことすわ、ペンをどっかに飛ばすわ、痴態醜態の限りを尽くしてしまった。
今思い出しても可笑しくて笑えてくる。
あれが彼女との初めての出会いだった。
シャドウズ/7「失点と得点」
「先生はゴジラ菌の……。」
「…好核バクテリアです。」
びしっ!っという感じで大鳥研究員から訂正が入った。
……取材早々つまずいたようだ。
「……好核バクテリアの発生についてご研究とうかがっております。」
「はい。」
単純明快な…というか、とりつく島も無いような返答だ。
どうやらオレに悪印象をもっているらしい。
「……先生はあのゴジラとゴジラき……好核バクテリアの関係をどのように捉えていらっしゃいますか?」
「好核バクテリアがゴジラと共生関係にあったのは間違い無いと考えています。ただ、一口に共生と言っても片利共生なのか双利共生かまでは断定できる材料は見つかっていませんが……。」
「片利と双利……好核バクテリアが一方的に寄生していたのか、それともゴジラにとっても何らかの利益があったのか?ということですね?」
大鳥研究員の口がちょっとだけアヒルのような感じになった。
…いまの発言は高得点だったらしい。
ふつうならもっと違う話題で点を稼ぐのに……。
つくづく変な女だと、その時は思った。
彼女はオレの顔を真っ直ぐ見ながら話し始めた。
「シロアリの体内には木材のセルロースを分解する細菌が棲息しています。この菌がいないとシロアリは木を食べることができません。」
「つまり先生は、ゴジラが放射能を吸収できるのは、体内にゴジ……じゃなかった好核バクテリアが繁殖しているからだとおっしゃりたいんですね?」
「……その可能性はあると思っています。」
「うーん……生物には、かつてエネルギー発生生物であったミトコンドリアを体内に取り込み、ついには同化したっていう実績もありますからね。」
彼女の目がきらっと光った。
また高得点ゲットだ。
「そうです!」
なんだか彼女の頬が蒸気してるように見える。
テンションが少し高くなったみたいだ。
「……ある種の原始的爬虫類と好核バクテリアが出会い……共生関係が成立したんです。バクテリアは生物の体内という安定した繁殖環境を得、生物はバクテリアから核エネルギーの提供を受けた。」
「……そしてその未知の生物は、莫大な核エネルギーでゴジラ化というわけですか。でも先生……。」
オレはできるだけ理知的に見える顔を作りながら彼女に尋ねた。
「……先生の考え方は通説と逆ですね。通説だとゴジラが先で菌が後。菌はゴジラの体内で好核的に進化したと考える。でも先生の意見は菌が先でゴジラが後だ。逆さまに構成する根拠はなんですか?」
どうやら話が核心に迫ったらしい。
彼女は小さな鼻の穴を勇ましく膨らませて言った。
「そう考えたほうが、核エネルギー吸収能力の存在を説明し易いからですっ!」
大きな声ではいえないが……。
鼻の穴をふくらませたまま、彼女は力一杯自説を展開し始めた。
「……かつて地球表面の全ての水が干上がった時代がありました。ご存知ですか?」
彼女の鼻を見ると思わず笑ってしまいそうなので、目線を外してオレは答えた。
「全ての水が…ですか?…でもそれでは生物は……。」
「もちろん地表にいた生物は完璧に死滅しました。でも地球上の全生命は死滅しませんでした。地の底深くにあった生命が難を逃れたのです。」
「地下に……ですか?。」
「そうです。もしそういう生命のうち、地下のウラニウムなど放射性物質と接触し、これを糧として取り込む能力を獲得したものがいたとしたらどうでしょう?」
「そうか、ゴジラ菌の誕生ですね!」
言ってしまってから(しまった!)と思ったが、もう彼女は訂正してこない。
「そうです。地下生命は地球表面に海が戻ると、再び海へと進出しました。でも好核バクテリアは海へは帰らなかった。」
彼女の鼻を見ないよう顔を伏せたままで、オレは彼女の話を引き継ぎ言った。
「判ります!帰る必要がないからだ!太陽光線で光合成やったりエサを求めて危険な海の中をうろつくより、ウラニウムにでもたかってた方がズッと安全確実だからですね。」
……喰ってさえいけるなら、死ぬまで万年床で寝ていたい……そんな友達を何人か知っている。
なんとも情けない根拠の推論だが、これが彼女の科学者としてのツボにジャストミートしたらしい。
「そうです!そうなんですっ!!」
すぐそばからの大声に驚いて思わず顔を上げると……。
目の前いっぱいに彼女の笑顔と…ふくらんだ鼻の穴があった。
あのとき彼女は言葉にできないほど輝いて見えた。
たとえ鼻の穴が目一杯まで広がっていたとしても。
彼女の笑顔に影が差したのは、話題が「今後の研究」に移ってからだった。
「ええ!?じゃあゴジラ菌の研究は凍結されるんですか!?」
「はい、つい三日前に指示が出ました。」
今度は彼女が俯く番だった。
「そ、そんな!アレが発見され、放射能を吸収する性質が判明したとき「人類の光明」とか「神さまの贈り物」とまで騒がれたのに!?その研究が凍結されるって言うんですか!?」
「……はぃ。」
「そんなぁ!……理由は!?凍結の理由はなんですか!?教えて下さい。」
「それが……私も教えられていないんです。」
本当に彼女は知らないのだろう。言葉に苛立ちと悔しさが滲んでいた。
(彼女を責めるのは、お門違いだ)そう思い直し、オレは改めて尋ねなおした。
「凍結の理由として、何か思い当たることはありませんか?あてずっぽでも何でもかまいません。」
科学者相手に「あてずっぽでもいい」とは酷い言い草だが……。
「……そこまで言うのなら………。」
先ほどの雄弁さとは打ってかわって、ポツリポツリと彼女は語りはじめた。
「……前ここにいて、一年前に国の研究機関に移った同僚がいたんですけど……。」
(……「いた?」??……「いる」でなく「いた」!?何故過去形に……)
オレの戸惑いになど気づかず、かの女は話を続けていった。
「……一ヶ月ほど前から連絡がとれなくなってしまったんです。八方手を尽くして捜してみたところが……、その研究機関を解雇されたと判りました。その後の行方は…全く判りません。」
(「八方手を尽くして捜した」ということは………その「元同僚」は……彼女の恋人に違いない。)
だが、オレの中でなにかがシュンとなるのと入れ代わりに、オレのルポライター魂が息を吹き返した!
「ゴジラ菌の研究凍結の話と、その元同僚の話はどういう関係が?……。」
彼女は俯いたままで答えた。
「どうも外部に研究資料を横流ししたらしいんです。」
パンドラの箱が開き始めた。
「研究資料をですか!?ゴジラ菌の研究者だったということは、横流ししたのはゴジラ菌?……でもあの細菌は放射能の無いところでは速やかに死滅するはずですよね?放射性物質も管理できる施設じゃないとあの細菌は保管できないでしょ?」
「放射線だけではありません。温度や圧力にもいろいろ条件があります。」
話が学問的な内容になったとたん、彼女の話し方が学者のそれに戻った。
「そしてそういう特殊な施設を保有している組織は、既に正規のルートで好核菌を入手しています。」
「……ということは……入手したとしても菌が死滅してハイお終い……ですよね?」
「××さんの言うとおりのはずです」
大鳥研究員と別れ、オレは車を西へと走らせていた。
インタビューは予想外の長きに渡り、午後の太陽は赤い入日に変わっている。
オレにとって渾身のレポートになるはずだった「ゴジラとガメラ・残された光と影」。
だが、「影」と思えた大破壊の中から、人類はゴジラ菌という「光」を見出した。
人類の未来は光に満ちている!と昨日までのオレなら自信をもって断言したろう。
だが…「光」と見えた「ゴジラ菌」の横流し事件……。
昨日まで信じた「光」から、どす黒い影が滲み出ようとは、オレには想像もできなかった。
自室に戻るとシャワーを浴び、冷蔵庫からビールを取り出した。
しかし、フタを開けたまま口には持っていかない……。
大鳥研究員から聞いた「好核バクテリア」の横流し事件が引っ掛かっていたからだ。
(普通の機関や施設じゃ扱えないオモチャを……いったい誰が?)
そのときいきなり電話が鳴った。
「おー!やっと帰ってきたか!何度も電話してやったんだぞ!」
受話器から飛び出す懐かしいダミ声。アメリカの元兵士マークからだ。
時差を考えるとアメリカは深夜のはずだが?
「……どうしたんだ?こんな時間にワザワザそっちから連絡くれるなんて??」
「忘れたか?例のカリフォルニアであった原発デロの話さ。」
時差を考えると、今マークの住んでいるあたりは早朝どころか未明のはずだ。
にも関わらずマークは「何度も電話してやった」と言った。
「……よほどの特ダネらしいな。いったい何を掴まえた?」
電話の向こうで意味ありげな笑いが聞えた。
「……例のヤツ……どうやらホントにいたらしいぞ。」
「いたって…何が?」
「あの話をもう忘れたのか!?」
苛立ったようにマークが続けたセリフは、今もはっきり覚えている。
「………あの原発には、ホントに象がいたらしい。」
マークの話だとこういうことだった。
軍内部のコネでようやく「原発事故」の全貌が見えてきた。
やはり事故ではない。
それが証拠に、「事故」は特殊部隊の突入で解決されていたのだ。
ただ、その内容が問題だった。
突入した完全装備の戦闘部隊25名のうち約3時間後に自分の足で歩いて出てきた兵は僅かに二人。
他は皆担架で運び出されて来た。
そして怪我人を乗せた担架の後に、すっぽり毛布で覆われた担架がぞろぞろ……。
…それが、マークが軍内のコネにものを言わせて探り出した顛末だった。
「……これだと軍事的には壊滅といっていい損害だ。戦史なんかで『部隊が全滅』と言っても実際はこれよりずっとマシな状況だからな。」
「中にいたテロリストは?」
「辛くも殲滅成功ってトコらしい。しかしまだ驚くことがあった。場所がカリフォルニアだし原発を包囲してる兵は州兵だった。だから突入部隊も州兵かと思ったが……。」
「違うのか……すると連邦の?」
「ところがそれも違う。」
「州でも連邦でもない?じゃあどこの兵なんだ?」
「忘れたか?ついこのあいだまでは、通常の国軍とは別の特殊部隊が活躍してただろ!?オマエだって取材してたろうが?」
インド洋で過ごした時期が脳裏に甦った。
「………そうか!対ゴジラ・ガメラ攻撃隊!」
「そうだ、ゴジラ・ガメラ・アタック・チーム=通称GGAT(ガット)だ。」
原発に突入した部隊は、ゴジラ・ガメラ・アタック・チーム、通称GGATであった。
主要な各国に同様な組織があったほか国連指揮下の部隊もあり、いずれの組織も陸海空軍から選抜された精兵で構成されている。
しかも装備する武器はコスト度外視の逸品ばかり。
それが原発内の戦いでは壊滅に近い損害を負った。
「……GGATが出てきたということは……原発にいたのは……ヤツなのか?」
オレは会えてヤツの名を口にしなかったが……。
「そんなはずはない。」マークにはそれで充分通じていた。「……否定する理由は二つだ。
一つ目は、問題の原発が内陸深くに位置しているということ。
ヤツが海から原発まで誰の眼にも触れずに移動することは不可能だ。
二つ目はサイズ。確認された最小の個体でも、建物を破壊せずにヤツが原発内部に侵入するのは不可能だな。」
そんなことマークに指摘されるまでもない。
……だが…。
「……場所は原発なんだろ?」
「ああそうだ。それに突入部隊はGGATだ。……だから妙なんだ。納得できないというか、しっくりこない。」
そしてマークはボソッと言い足した。
「……象か牛くらいのサイズのゴジラがいりゃあ、話は早いんだが……。」
納得できる結論など出るわけない。
30分ほどマークと話してから、オレは電話を切った。
そしてその夜、オレは夢を見た。
等身大のゴジラに追い掛け回される夢だった。
翌朝、昨日の大鳥研究員との面談の録音テープを聞き書きし始めたばかりのときだった。
りーーーーーん!
電話がなった!
仕事の腰を折られてオレは少々ムカムカしたが、電話に出たらそんなもの一瞬で消し飛んだ。
「××さんですか?昨日お世話になりました大鳥です。失礼ですが、大学まで至急おこしいただけませんか?」
とるものもとりあえずというか、喜び勇んでというか、オレは仕事など放っぽって車に飛び乗っていた。
大学の門の前で、彼女はオレが来るのを待っていた。
なにかよほど心配なことがあるのだろう。
こういうとき「頼れる男」を演じたくならないようなヤツは、「玉」なんか取っちまえ!
オレは景気よく車のドアを閉め彼女に尋ねた。
「なにかありましたか?ボクにできることだったらなんなりと言って下さい。」
朝早くからすみませんと頭をさげると、彼女は先に立ち早足で歩きだした。
「実は……研究棟に誰かが忍びこんだらしいんです。」
「不法侵入ですか……で、警察は何と?」
「それが研究棟を管理している教授が、警察への通報を止めてしまって……。」
「通報させない?なにか理由でもあるんですか?」
「研究がら色々なものがありますから……、下手に警察に通報して管理が厳しくなったらかなわんと……。」
「そうですか……。」
話しながら歩くうちに、オレと彼女は問題の研究棟の前に着いていた。
「ここです……。」
彼女は裏の通用口を指し示した。
「な、なんだこれは!?」
オレは絶句した。
不法侵入というから鍵のこじ開けぐらいは予想していた。
だが、通用口はドアグリップ部分がこじ開けるどころか、キャラメル箱のように潰れ、ロック部分ごと引き抜かれていた。
「何か盗まれたものはありますか?」
「いいえ、何もないはずです。警報装置が作動してすぐ警備員が来たそうですから。」
ロックの破壊された部分をもう一度観察してみた。
……まるでレモンでも絞ったように変形している。
オレの頭に、昨夜マークの言った「等身大のゴジラ」という言葉が浮かんで消えた。
「……大鳥さん。ひょっとしてこの研究棟に原子力関係の施設はありませんか?」
もしやカリフォルニアでの事件と関連が?と思ったのである。
「原子力学科の研究室ならここにはありません。敷地の反対側です。ここにある放射性物質といったら、ショウジョウバエにγ線を浴びせるのに使う分ぐらいですね。」
「……それじゃあ少なすぎるな……。」
そう言ってしまってからオレは後悔した。
「え?…………」彼女の目がきらっと光ったのだ。「…××さん、ひょっとして何か心当たりがあるんですか?」
…余計なこと言ったおかげで、昨日とは攻守が逆転してしまった。
「いや……別に心当たりは……。」
「ウソ!××さん!言ってください!何か心当たりがあるんでしょ?」
彼女の目がぐうーーーんと、オレの目の前に迫って来た……。
「そんなことが………。」
秘密の情報だったのに…。オレを信用してマークが教えてくれたのに……。
オレは知ってることを洗いざらい全部喋ってしまった。
別に……オードリーの……彼女の瞳に負けたわけじゃない!
……と、強がってみてもはじまらないか…。
「オレの知ってることは全部話したよ。……それじゃあキミの知ってることも全部話してくれないかな?」
「えっ!?」
彼女は驚いたように顔を上げた。
「オレを問い詰めるキミの口調に、何か具体的に逼迫したものを感じたんだ。」
そしてオレは彼女の両肩に手をかけ、こちらに引き寄せた。
「この研究棟の件だけじゃない。他に、もっとキミ自身に関わる事件が絡んできてるんじゃないかい?」
彼女の視線がオレに突き刺さるように注がれる。
……やがて、彼女はオレのことを信用する気になってくれたらしい。
「実は………。昨晩午前1時ごろ……、電話があったんです。」
「電話?…いったい誰から??」
「………昨日お話した元同僚の………堀江研究員からです。」
「元同僚の…って、あの解雇されたあと連絡もとれなくなったっていうあの研究員なのかい!?」
「そうです。」
「……彼、キミに何て言ったの?」
「いえ、なにもいいませんでした。ただ、電話の向こうからグツグツなにかが泡立つような……聞いた事のない音がしてるだけでした。」
「それじゃあなんで電話の相手が堀江氏だと判ったの?ただの悪戯電話だったかもしれないじゃないか?」
「……堀江さんには電話で話すとき癖があったんです。」
「くせ?」
「はい。堀江さんは、電話中に時々受話器を指先で変な風に叩くんです。」
「昨夜電話してきた相手が、それをやったんだね?誰かが堀江氏のマネをしているって可能性はないかい?」
「何度も何度も聞いたクセです。絶対間違いありません。」
彼女はきっぱり断言した。
「うーん、そこまで断言されてもキミの主観だけだからね………どんな風に叩いてるのか覚えてるなら、やってみてくれる?」
「はい、それで私の言うことを信用してもらえるなら……。こんなふうです……。」
……彼女は研究棟の雨除けの柱を指でトントン叩き始めた。
とん とん ととん とん………。
(……………ん?…………これは………ひょっとして………?)
フリーのルポライターとして各地の戦場を駆け巡ったオレの経験が、まさかこんなところで役に立つとは。
「そのリズムをいつも?」
「はい、いつも必ずこのリズムでした。」
「そうなのか………。堀江氏は……そうだね、ハム無線とか船を操船する免許とか持ってなかった?」
「……免許を持ってたかどうかまでは知りませんが…。子供のころ無線が趣味だったと………。でもなんでそれをご存知なんですか?」
彼女の目が探るようにオレを見上げる。
「……いや、ちょっとね………。……もういいよ。オレはキミの言うことを全面的に信用するから。」
信用してもらえて、彼女はとりあえず満足したようだ。
堀江氏は、ただリズムに乗って受話器を叩いていたワケではなかった。
口に出せない本当の気持ちを思わず知らずのうちに、吐露していたに違いない。
…モールス信号で。
彼女と話ながら「愛してる」「愛してる」「愛してる」と……。
オレはその夜、大鳥さんの部屋で番をすることになった。
いったんマンションに戻り、夕方もう一度大学に行って彼女を拾うと、そのまま彼女の住むアパートへと向う。
大学からの距離はオレの車で10分ほど、いつもはバスを使うそうなので20分弱の場所に、彼女は住んでいた。
オレは自宅から持ってきた録音装置一式を彼女の家の電話に手早く取り付け、堀江研究員からの電話を待った。
……………だが。
……かかってこない。
することが無いので、オレたちはまるで見合いでもするようにお互いの仕事のことを話し出した。
「へえ!××さんて、危ないトコばっかり行かれてるんですねぇ。」彼女が小さな歓声を上げた。
「うん、改めて表出してみるととんでもないトコばっかだね。イラクとアフガンなんか進軍する米軍のすぐ後をくっついてったよ。」
「危なくないんですか?」
「もちろん危ないって。」子供みたいな顔して驚く彼女が可笑しくて、笑いながらオレは言った。
「……誤射されたことだってあるよ。ビデオカメラを構えたポーズは真正面から見るとロケットランチャー構えたポーズにそっくりなんだ。それから木陰なんかで光るカメラのレンズは狙撃兵のスコープに見えるんだよ。」
目をウズラのタマゴみたいにして驚く彼女。
「それにイラクじゃ例の劣化ウラン弾まで使われてたからね。銃撃されるのとは別の面でも危なかった。」
彼女の眼には、オレが魔法の国から来た戦士にでも見えていたのかもしれない。
調子に乗ってオレは続けた。
「戦場だけじゃないよ。例のインド洋にも行ったんだ。」
オレは取材用手帳に挟んであった写真を取り出した。
「…これは第一次調査のとき撮った写真でね。オレは地球連合の船に便乗しててさ……。」
「この……××さんと肩組み合って写ってる綺麗な女性はどなたですか?」
「ああ、その娘は小町っちゃんといってね、船の名物というかマスコットというか……。……あ?」
彼女は向こうを向いている……ひょっとして怒った?
それともオレの気のせい?
「い、……いや、べ、別に彼女とは何も……。」
オレが余計な言い訳を吐きかけたとき…。
プルルルッ………プルルルッ!
目の前の電話が鳴った!
「……もしもし……大鳥です……。」
彼女が電話に出た。
………そのまま暫く待つが……返事はない。昨夜と同じだ。
耳を澄ますと、ぐぐっ、という喉が鳴るような音が聞える
(これが彼女の聞いた音だな……)
さらに耳を澄ますと……コンコンコンコン……確かに受話器か何かを叩いている音がする。
間違い無い!と確信したオレは、彼女の手にした受話器の話口の部分をモールス信号の要領で叩き返した。
コツコツコツコツ……(アナタハ、ホリエサン、デスネ?)
電話の向こうで、叩く音が一瞬止った。
そして……。
がちゃり!
電話は切られてしまった。
「……堀江さん?堀江さん!?」
彼女の手から受話器を取って、オレは耳に当ててみた。
「……向こうで切ったよ。何かをよっぽど警戒してるな。」
「そんな…。」彼女は半分泣き顔だ。
だが、オレには話が見えてきていた。
「ねえ、大鳥さん。ここと大学とのあいだに、公衆電話はないかな?」
「公衆電話……ですか?」大鳥さんはちょっと考えてから首を横に振った。
「……ありません。ここは新興住宅地ですし、だいたい最近はみんな携帯電話を使ってますから。」
「でも必ずあるはずだ。いいかいオートリさん…。」オレはレコーダーを巻き戻すとボリュームを上げ再生ボタンを押した。
さっきの電話が音量を上げて甦った。
「……このあとだ!よく耳を澄まして……。」
言われるままに耳傾けるオードリーだが……、やがてハッとしたように顔を上げた。
「なにかサラサラ乾いた音が聞えるわ。」
「……風に吹かれる枯葉の音だよ。つまり堀江氏は吹きさらしの場所から電話してきたんだ。」
「……でも吹きさらしだからといって、公衆電話とは限らないわ。外で携帯を使ったのかも……。」
「いや、それは無いと思う。携帯電話があるならメールを送って寄越すだろ?それがわざわざ夜中に電話をかけてくる……。
それからもうひとつ、研究棟への不法侵入未遂だが、オレはあれも堀江氏の仕業じゃないかと思うんだ。」
「ぇ?なんで堀江さんが不法侵入なんか………」そこまで言いかけたところでオードリーにも答えが閃いた。
「電話ね!研究棟の電話を使おうとしたのね。」
「そのとおり!………それからさっきの公衆電話のことだけどね。オレの方で答えを見つけたよ。さあ行こうオードリー!」
オレはオードリーの手を握り立ち上がった。
「わかったのね!どこなの?堀江さんは何処から電話をかけてきたの?!」
「キミの大学に行く途中に在る、あの廃園になった市民プールさ!」
少し離れた住宅地の路地に車を停めると、オレとオードリーは徒歩でプールへと接近した。
車を乗り付けて、エンジン音で気づかれる危険を犯したくなかったからだ。
プールの周囲は3メートル近い高さの金属ネットで囲われ、さらにその上には鉄条網が逆ハングになって控えている。
これではオードリーは越えられない。
だが、思った通り生垣の影になった目立たぬ場所で網が大きく垂れ下がっている個所を発見した。
オレは金網の破れ目の前でオードリーに向け右手の小指を立てて言った。
「……約束してくれ。オレの手握って絶対に放さないこと。それからオレの後ろから出ないこと。……いいかい?」
オードリーの細い小指がオレの太い小指に巻きついた。
そのまま無言で指きりげんまん………無事に協定成立である。
オレとオードリーは手を繋いで、夜の廃プールへと踏み込んでいった。
いくつもあるプールからは水もすっかり抜かれ、みな落ち葉の吹き溜まりと化し、風が吹くたびザワザワ音を立てていた。
この音だ、間違い無い。
「……堀江さん……どこにいるのかしら?」
オードリーは案内図の前で立ち止まった。
「この寒さだから屋外という可能性はないわよね。更衣室棟かしらそれとも管理棟?レストハウス??」
「…管理棟の可能性はないね。」オレは案内図を見もせず言った。
「………ほら、堀江氏の電話は公衆電話からだったろ?管理棟に来客用の公衆電話は必要ないからね。」
驚いたようにオレの顔を見上げるオードリー。
「どうかしたのかい?そんな顔して?」
「……××さんって…すごく頭良いんですね。まるで映画の007みたい。びっくりしちゃった。」
「このくらい悪知恵が廻らなかったら、フリーのルポライターなんて勤まらないよ。さ、行こうか。」
「手分けして捜さない?」
オードリーの提案だったが、オレは直ちに却下した。
「だめだ。」
「どうして?」
「どうしてもダメ!」
堀江氏は何かをひどく警戒し身を隠している。そして研究棟のドアに対して振るったあの信じられない怪力。
…そんな人物とオードリーを夜中に2人っきりで会わせるのはどうしても気が進まなかった。
「ここに入るとき指切りゲンマンやったろ?2人でバラバラはだめ!」
それだけ言うとオードリーの手を握ったままで、オレはまず女子更衣室棟のトビラに手をかけた。
「まず女性用から覗くわけ?」
「……こんなとこで邪推なんかするの?」
「うん。」
オードリーの返事がそれまでの「はい」から「うん」に変わっていたことに、オレは気がつかなかった。
幸い女子更衣室ブロックのロックは生きていた。
ドアはピクリとも動かない。
(ああよかった。このまま中に入ったら、何て言われるか判ったもんじゃない)
男子用更衣室も同じだ…。おまけに建物近くに公衆電話は設置されていない。
次はレストルームだ。
次はレストルームだ。
前に三台並べて設置された公衆電話を横目にしつつ、微かに軋み音の聞える建物裏手へと回り込んだ。
……通用口のノブの部分がもぎ取られている!
(ここだ。)
オードリーに合図すると、できるだけ音を立てないようにドアを開けた。
幸い、月も出ていないから「オレのシルエットが月明りの戸口にポッカリ」ということにはなっていないはずだ。
建物内に入って再びトビラを閉めると、ポケットからペンライトを取り出した。
か細い光が、ひとすじ闇を這う…。
レストハウスは外と違って微かに湿った臭いがしていた。
風通しが悪いせいなのか、カビ臭い。
だが、様子を窺っている内に、カビ臭さの中に別の臭いが混ざっていることにオレは気がついた。
(なんだ?臭いは??)
目を閉じて鼻に神経を集中したとたん……。
オレの脳裏にある映像が、爆発するように現れた!
真っ青な海と真っ青な空……そしてうだるような熱さ……。
(これは!?この光景は……!?)
オレの脳裏を一瞬で占拠したイメージ。
それはあのときのインド洋。
第一次調査の時の光景が……。
「……××さん?どうしたの?」
オードリーの声で、オレの意識は熱帯のインド洋から冬の日本へと帰ってきた。
「…××さん?」
彼女の声に不安が現れている。
「ごめん、大丈夫だ。ちょっと眩暈がしただけだよ。じゃあ、行くよ。」
オレたちの入り込んだのは建物裏のスタッフルームだった。
例の臭いは建物の表側から漂ってくる。
その臭いに引き寄せられるように、オレはゲストエリアのドアを開けた。
ドアの向こうはプール全景が見渡せるグラスエリアの休憩室
往時は小洒落た椅子やテーブルが並んでいたのだろうが、いまは見る影も無い。
運べる道具類は全て運び出され、残っているのは足が一本もげたテーブルやガラクタを放り込んだダンボール箱、それに撤収作業時に忘れていかれたのか青いビニールシート………そしてゴミ、ゴミ、ゴミ………。
そういった雑多なものが、オレたちの入ってきたのと反対側の壁際に、波にでも打ち寄せられたように積もり積もっている。
室内に人影は………無かった。
(誰もいないのか……。)そう思いかけた瞬間だった。
青いビニールシートの下から打音が響いた。
こん!こん!!ここん!こん!………(サッキノ、デンワノ、ヤツダナ……)
「……そうだ!」そしてオレは肩越しにオードリーに告げた。
「大鳥さん……、堀江さんだよ。」
オードリーが息を呑んだのが判った。
こんこんこんこんこんんこんこん!……(オードリーモ、キテイルノカ!?)
「そうだ。」そしてオレはオードリーに説明した。
「彼はただデタラメに叩いてるんじゃないんだ。あれはモールス信号になっているんだよ。……たぶんもう堀江氏は…口が……。」
消え入りそうに小さな声で、彼女が「うっ」と呻いた。
こここんこんこんここんここん!……(ソレガ、ワカッテイテ、ナゼ、ツレテキタ……ナゼ、カノジョヲ、ココニ……)
同時に、ブルーシートの下からゴロゴロという喉を鳴らすような音や、ギシギシいとう歯擦音も漏れ出した。
「……堀江くん!?どうしたんだ?堀江くん??!」
こんこここんこん…こん……こん!……(オレハ、カノジョノ、コエヲ、キキタカッタダケ……ソレダケデ、ソレダケデ……)
……喉を鳴らす音や歯擦音に、ごぼごぼごぼ…という沼の底からガスが噴出すようにな音が混じりだした。
人間性を現す打音が途切れがちになり、変わって非人間というか獣性を感じさせる不快な音が勢いを増してゆく。
いま、ブルーシートの下では何が起っているのか!?
コ………ココン……コン……(オ…オード……リー……)
……それを最後に打音は完全に途絶えた。
そのとき、オレはブルーシートの下から何かがはみ出しているのに気がついた。
オレはそれを最初「手」だと思った。だが、人間の手があんな形をしているはずはない。
そして急に、何故堀江氏が携帯を使わなかったのか理由がわかった。
(あんな手では使えるはずがない!)
オレはオードリーを連れて来てしまったことを後悔した。
彼女を背中で押しながら入り口に後退しようとした瞬間、ブルーシートがにわかに膨れあがった!
(来たっ!?)
だがブルーシートに身を隠したモノが立ち上がると同時に、オードリーの悲しい叫びがレストハウスじゅうに木魂した!
「ホリエモン!」
雷に打たれたように、ブルーシートの動きが止った!
……そしてすすり泣くような声。
突然ブルーシートが津波のようにうねった!そしてガラスの砕け散る音!!
あっ!っと思ったときには、堀江氏は外の闇へと逃げ去ったあとだった。
「なぜなの?……なにがあったの?…………どうしてなの?……」
呟くように、うわ言のように、そう言いつづけるオードリーを抱きかかえ、オレは彼女を家まで送り届けた。
そして彼女がドアの鍵を下ろしたのを確認してから「サヨナラ」を言い……。
自宅には帰らぬまま、彼女のアパートの前に止めた車の中で横になった。
……堀江氏は彼女の家の場所を知っているかもしれない。
……あの廃プールからここにやって来るかも知れない。
そう思ったら、自分の家に帰って眠る気にはとてもなれなかったからだ。
自分が見聞きしたことを何度も何度も繰り返し考えているうちに、うとうと眠くなり………。
……………。
コンコン………、車の窓ガラスを叩く音でオレは目を覚ました。
ジャージ姿のオードリーが立っている。
窓を開けると……。
「………目が覚めて窓開けたら車…見えたから……。家に上がって、外は寒いし。」
「…あ、ありがと……。」
彼女につづいてアパートの階段を上る。
不意に彼女が前を向いたまま言った。
「…守ってくれてたんですね。ありがとうございます。」
(……………)
こうしてオレは、再びオードリーのアパートの客となっていた。
オードリーの部屋に入ると、早速トーストを齧りながらの作戦会議が始まった。
「ほら……見てごらん。」オレは借りていた彼女のノートパソコンをオードリーの方に押しやった。
「…堀江氏の在籍していた研究機関がキミの言うように『国の機関』なら、必ず行政組織のどこかに所属しているはずだと思ったんだ。」
彼女はディスプレイを見て驚いていた。
「…………ホントですね。まさかここの所属だったなんて。」
堀江氏の研究機関は、何年か前に「庁」から「省」に格上げされたばかりの防衛省所属だったのだ。
「それだけじゃないよ。組織図の上を見てごらん。」
「……このGGATって何ですか?」
「驚いたな…、知らないの?ゴジラ・ガメラ・アタックチーム、通称ガットだよ。
対ゴジラ・ガメラの軍事行動で隣国どうしの揉め事が頻発したから、国連主導で結成されたあの組織さ。」
そこまで言ったら彼女も思い出したようだ。
「……そうでしたね。対ゴジラ用の兵器としていわゆる『注射』なんかを開発してた経緯で、今でも防衛庁の研究が国内ではトップなんです。…………でもそう言えば!?」
彼女は昨日オレから聞いた話を思い出した。
「…そうだよ。昨日話したカリフォルニアの原発の事件さ。あれに出動したのもGGATだった。」
「でも××さん。アメリカの事件は『単なる事故』ってことになってるんですよね?」
「うん、今のところはね……。」
「ねえ××さん。」暫く考えていたオードリーだったが、やがて言葉を選びながらこう言った「……ひょっとしたらGGATが好核バクテリアで何かやってるんじゃないかしら?」
「……まさか…。」
そのとき、BGM代わりにつけっ放しになっていたテレビがショッキングなニュースを報じた。
「……二日前から山菜採りに山に入ったきり行方が判らなくなっていた老夫婦が、無残な死体となって発見されました……。」
老夫婦の惨殺。
殺人の舞台となった山は、大学や廃プールを包む丘陵地帯と一続きになった場所だった。
視線を前に戻すと、オードリーの視線とぶつかった。
彼女も考えているのだ。(犯人は堀江氏なのではないか?)と。
「…この事件の方もオレが調べてみるよ。」
「警察に知り合いでもいるの?」
「いや警察にはいないけどね、このあたりで売ってる地方紙にも何度か記事を書いたことがあるんだ。」
オードリーのアパートを出て、目指す新聞社に着いたところでちょうど9時半。
運良く旧知の記者を掴まえることができた。
「死体の状態が酷かったらしい。」
事件について最初にヤツが口にしたのがそれだった。
夏場に「死体の状況が酷かった」と言ったら、「腐敗が進んでいた」という可能性が強い。
だが、今はもう12月。そして問題の夫婦の行方が判らなくなったのは僅かに2日前だ。
「……荒されてたのか?」
「……ズタズタのバラバラだってさ。ベテランの捜査員がゲーゲー吐いたそうだ。『当分焼肉は食いたくない』と言ったそうだよ。」
あまり趣味のいい表現ではなかったので、オレは無言のまま顎をしゃくって話を促した。
「……死体の状況から見て、先に殺されたのは夫のほうだそうだ。そしてつぎに妻のほう……。驚くべきは、キズの生体反応だ。犯人は被害者が生きてるうちに文字通りバラバラにしたらしい。」
老人だったとはいえ、2人の人間を逃げる暇も与えずバラバラに……。
人間ワザではない。
「死後推定時間は?」
「……持ち物に、入山した日に食べるつもりだった弁当が手付かずで残ってたそうだ。つまり初日の昼前には殺られてたってことだな。」
「初日の昼前?昨日の夜じゃなかったのか?」
相手の片眉がピクンと上がった。
「犯人に心当たりがあるのか?もしあるんだったら……。」
「悪いが…話せない。話したって信じやしないよ。オレだって信じられないんだから。話せるようになったら必ず知らせる!」
まだ何か言いたげな相手をそこに残し、オレは新聞社を後にした。
(もし犯人が堀江氏だとすれば、オレたちと会ったときには既に老夫婦を惨殺していたことになる。)
そんなヤツがオードリーに電話をかけていた。それも二晩続けて。
心安らかならざる情報だった。
新聞社を出ると、オレはいったん自分のマンション戻った。
調べたいことがあったからだ。
事件後未だに情報管制がかかっているインド洋超古代文明。そしてゴジラとガメラ。
ゴジラは自然の生物との意見が今も当時も通説だが、ガメラには出現当初から「人造生物」との意見が強かったのだ。
(まさかアレに刺激されてGGATが何かを……)
だが、仮にそれが正解だったとしても、いきなり人体実験をするはずがない。
それに外で暴れているのがGGATの創った存在なら、ヤツラ自身の手で始末すべくとっくに動き出しているはずだ。
だが……、
まだ引っ掛かる可能性があった。
堀江研究員がゴジラ菌を横流しした相手だ。
(その何者かが、ゴジラ菌を使ってなんらかの実験を行ったとしたら。そして、自らの手には負えないシロモノになってしまったら。)
その場合、オレが追っているのはフランケンシュタインの怪物だということになる。
(そんな馬鹿な……。だが、在り得ぬことではないのかも……)
こんな馬鹿げた話を聞いてもらえそうな学者先生は………あいにくと一人しか思い浮かばなかった。
(あの先生、以前インタビューしたときはまだ助教授だったが、その後別の大学に教授として迎えられたって聞いたよな。いま在籍している大学は何処なんだ?)
相手が特殊な苗字だったこともあり、パソコンで検索すると簡単に見つかった。
驚いたことに、相手の現在の勤務先は、オードリーも籍のある同じ大学であった。
(明日オードリーと一緒に会いに行こう。その方が話が早い。)
その夜、オードリーには市内のビジネスホテルで一泊してもらった。
もちろん安全のためである。
オレも「安全のため」一緒に泊まりたかったが、オードリーに「別の意味で安全じゃない」と言われ諦めた。
翌朝、オードリーはオレを後ろに従えてズンズン大学構内をつき進んでいた。
オレの方からは見えないが、ぶつかりそうになった学生たちが血相変えて身をかわすところを見ると、よほど凄い顔をしてるに違いない。
きっと鼻の穴は全開だろう……。
そんなことを思いながらついていくと、彼女はとある建物へと入ってゆき、ちょうど通りかかった男を呼び止めた。
よく見ると二日前、オレをオードリーに引き合わせてくれた大学院生だ。
「運がいいですね。先生なら、今しがた研究室にいましたよ。」
「ありがとう。石堀くん。」
簡単に礼を述べると、彼女はまた突撃モードにチェンジした。
そして目指す研究室のドアをノックした。
「先生、大鳥です。入ってよろしいでょうか?」
……部屋の主は、以前受けたインタビューの相手などとっくに忘れているらしかった。
オレに向かって、いつもの挨拶をかましてきたからである。
「こんにちは!ワタクシ、有名爬虫類学者の万石ですっ。」
この万石という男、確かに天才だった。全てが終った今こうして振り返ってみても、その感想は変わらない。
最初は「堀江研究員」という情報を伏せ、架空の話として万石の意見を求めてみた。
「なるほど……ゴジラ菌を使ってモンスターを作れないかというのですな…、うしししし。しかし、それはいくらなんでもムリでしようなぁ。」
この解答は、まあオレの予想どおりだった。
「…麻薬の類を使って怪物的な人間を作り出すことはもちろん可能ですよ。共産圏では実際やってますしね、うししししし。」
「でもゴジラ菌を使ってのモンスター製造はムリであると……。」
「人体内にゴジラ菌を定着させるためには放射線の供給が不可欠です。
しかし、そのように定期的に放射線を浴びせ続ければ人体が保ちませんな。
活性化した好核バクテリアによって人体がなんらかの変異を遂げる可能性があるとしても、その前に宿主である人間が死ぬはずです。」
どうやら「フランケンシュタインの怪物」は脈無しらしかった。
「万石先生、お忙しいところありがとうございました。ではこれで…。」
オレは席を立ちかった…。ところが…。
「ちょっとお待ちを……。」
万石先生の方がオレたちを呼び止めた。
「アナタたちの相談にお付き合いしたのですから、今度はワタクシの方にお付き合い願えませんか?」
「と、おっしゃいますと?」
メガネの奥で万石の目が光ったように見えた。
「……アナタたちの知っている事実を、隠さず聞かせてもらえませんか?」
……なんだってぇ!?
「なるほど、堀江くんが……。」
万石は腕組みしたままで、オレたちの話をじっと聞いていた。
「……モンスター製造のお話。××さんだけなら架空の話と思ったでしょう。
ですが、大鳥くんまで一緒に来た。しかもその大鳥くんの表情が尋常ではない……。何かあると感じたので、お2人をお呼び止めしてみたんですがねぇ、うししし……。」
「それではオレ……ワタシたちの話を信じてくださるのですか!?」
「……信じますよ。信じますとも。信じたくは無いですがね…うひひひひ。」
万石は下品に笑ってから驚くべき言葉を言い足した。
「いまのお話、実は前例があるのですよ。」
万石は驚くオレたちの前に、一冊のファイルを取り出した。
表題には「伝説・大戸島の黒鬼」とあり、その下に「諏訪湖伝説・甲賀三郎」「三つの湖の物語・八郎太郎」「十和田湖伝説・辰子姫」という名称が並んでいた。
「みんな竜になった人間の伝説ですがね、大戸島にも似た話があるんですよ。うしししししし。」
万石の読み上げた伝承とは、次のようなものだった。
島の古老いわく……。
マタカズとオキオという2人の若い漁師がいた。
2人は神さまを怖れないほどに若く、また自信に満ち溢れてもいたので、「神さまが海を渡る」といわれる忌み日に漁に出る。
忌まれた日のためか魚は全く獲れなかったが、それでも2人は意地になって漁を続けた。
そして「もうこれで最後のひと網」と投げ込んだ網に奇怪な像がかかったという。
マタカズはこの像を気味悪がり捨てようと言ったが、意固地なオキオはこれを浜へと持ち帰る。
その夜、吹く風に混じり怪しい呻き声が浜を渡った。
村人たちはみな村長(むらおさ)の家に集まり怯えた一夜を過ごしたが、その中に若いオキオの姿だけが無い。
不審に思った若い衆の何人かが翌朝オキオの家に押しかけると、……なんと、オキオは海神の祟りで恐ろしい姿に変わり果てていた。
石もて村を追われたオキオは、像をかき抱いて海へと潜ったきり、二度と姿を現さなかった……。
またある話によれば、後に島に現れたという黒鬼こそ、神を怖れなかった若いオキオの、あさましくも変わり果てた姿であったともいう。
「どうですか?つまり『一夜にして怪物に…』という前例があるのですよ。いししししししし。」
「根拠はそれだけなんですか?万石先生??もっと科学的根拠はないのですか?!」
あのオレには抗い難い力をもつ瞳で、オードリーは万石に迫った。
「…………ありますよ大鳥さん。科学的根拠がね。うっしっしっしっし。」そして万石の顔から下品な笑いが引っ込んだ。
「…ワタクシ、その事実を発見したとき、自分が発狂するのではないかと思いました。」
おそるおそるオレは訊いた。
「……それに気がつくと発狂しそうになるような事実……ですか。」
真顔の万石が、何故かとても悪魔的に見えた。
「……お二方とも覚悟はおありか?……現実世界で悪夢と出会う覚悟が?」
万石の顔に下品な笑みが戻ってきた。
「……ゴジラ遺伝子の解析作業は、現在のところ『作業中』ということになってはいますが……。
ワタクシの方では、とっくに終了しましたよ。うしししし。」
オレはそれを聞いて飛び上がった。
「えっ!?ゴジラ遺伝子の解析を終了したっていうんですか!?でも何故発表しないんです!??」
オレの問いに答えたのは、万石ではなくオードリーだった。
「きっと、発表できないような答えだったからよ。」
生徒の解答を誉める教師のような顔で、万石は頷いた。
「大鳥さんの言う通りです。あんな結果を発表したら、ワタクシはマッドサイエンティストではなく、ただのマッドとして扱われるに違いありませんな。うっししししし…。」
またもや万石の顔から笑いが引っ込んだ。
「……ワタシが最初に確認したのは『ゴジラ細胞にミトコンドリアが存在するか』ということでした。
呼吸する動物はすべからく細胞内のミトコンドリアでエネルギーを発生させています。
しかしゴジラは放射能をエネルギー源にしていますから、理屈の上ではミトコンドリアが無くても構わないはず。
もしゴジラがミトコンドリアを持たなかったら、核がミトコンドリアとの共存を始める以前に分化した唯一の高等生物ということになります。」
オレは昔読んだ「パラサイト・イヴ」を思い出した。
「原発目指して進撃したゴジラの細胞を入手するのは極めて簡単でした。進撃経路を辿ればいいのですから。特にガメラと交戦した場所ではもう大漁旗を立てたいくらいでしたよ。
結論からいうと……、ゴジラ細胞にもミトコンドリアは存在しました。当初の推測は大きく外れましたが、しかしこれで大きな手がかりを得ることもできました。」
オレは口をはさんだ。
「ミトコンドリアのDNAを解析したんですね!」
万石は満面の笑みで頷いた。
「…細胞核の遺伝子を調べるなど愚の骨頂です。親子関係の確定すら、核遺伝子では『親子関係の否定』という方向でしか役に立たないというのに。
ミトコンドリアのDNAは細胞核と違い、交配時に減数分裂せず、母系のミトコンドリアDNAだけが伝わります。」
そうだ、たしかその方法で全人類全ての母が、アフリカに存在したことが判ったのだ。
「……ゴジラの骨格はいわゆる軟骨構造ではありません。ですからサメやエイの仲間の軟骨魚類は問題外でした。
一番有望視していたのはワニ、カメ、トカゲ、ヘビといった爬虫類たちでしたが……。
さきほど話した伝説がありましたから、冗談半分で、あるミトコンドリアDNAのサンプルとも照合してみたんですな。」
ここで万石の話題が突然に変化した。
「ところで……、大戸島の島民は長年閉鎖的環境で暮らしてきました。ですから、ミトコンドリアDNAのバリエイションが殆どありませんで……」。
………オレはだんだん厭な予感がしてきた。
オレが黙ったままでいたので、オードリーが真っ青な顔で「答えの判りきった質問」をした。
「万石先生……まさか、まさかその冗談半分で加えたサンプルとは……!?」
オードリーの問いをはぐらかすように万石は言った。
「…この国にも上陸した70m級の超ド級ゴジラがいましたな。覚えていますか?
色々な意味でまさに悪夢のような個体でした。あいつのミトコンドリアDNAが、完璧に一致したんです。」
万石はもったいぶって、オレたち2人の顔を見渡してから言った。
「あの個体のミトコンドリアDNAは、大戸島の島民のものと完璧に一致しました。」
そして歪んだ恐ろしい笑みを浮かべ、万石は付け足した。
「悠久とも言える時を超え、ワタクシたちは出会っていたのです。あの大戸島の伝説にいう、呪われた漁師オキオと……。」
「この事実に気づいたとき、ワタクシは器具の故障だと…、そのつぎには、サンプル取り違えの事故だと信じました。
でも、何度解析しなおしても、この結論は変わりません。そしてアナタがたの話は、これと完璧に整合してしまうのです。」
「では万石先生、他の、他のゴジラは!?」
オードリーがあえぐように尋ねると、万石は呟くように答えた。
「おそらく、あの海に沈んだ文明の人間でしょうな。」
青い海と青い空、あのインド洋での第一次調査のときの光景がオレの心に甦った。
「……他のゴジラも、解析されたミトコンドリアDNAは人間と極めて近い型でした。
あの文明は、宇宙からか?それとも漁師オキオのように海の底からか?何かを見つけ出しました。そしてそれが彼らの上に呪いを振り撒いたのです。」
「先生、ガメラは?ガメラはどうなんです??ガメラもゴジラと同じく……」オードリーには『元は人間』とまでは言えなかった。
万石の答えは、ガメラについては心安いものだった。
「違いますな。事態に気づいた彼らが創った、いわば対ゴジラ用のワクチンがガメラだったのだと思います。ガメラ細胞のサンプルはゴジラのものほど多くありませんから、はっきりしたことは言えませんが、おそらくガメラは人工の生物です。」
オードリーがほっと胸を撫で下ろしたのがわかった。
……がその彼女に対し、万石は…。
「何を安堵しているのです?大鳥さん!……超古代の文明は、呪いとともに海底に没しました。しかし、『呪い』は甦ってしまったのです。邪悪な何かが、いま我々の中を目には見えぬままに闊歩しているのですよ!」
オードリーはそのまま万石の研究室に残り、万石や院生の石堀とともに「呪い」の正体を明らかにする作業にとりかかった。
「目に見えない呪いなんてあるワケないわ!ツタンカーメンの呪いの正体が、石室に生える特殊なカビだったように、オキオの呪いにも必ず正体があるはずよ!」
そう宣言する彼女は北欧神話のバルキリーのように見えた。
そしてオレは、例のインド洋調査のおりに知り合った男のもとへと向かっていた。
奴の名は………いや名前なんてどうでもいい。
と、いうよりヤツの本当の名前は全く知らなかった。
まわりのみんなが、ヤツを本名でなく仇名で呼んでいたのだ。
オレは、待ち合わせの約束をした飲み屋の暖簾を潜った。
そのとたん、「へいらっしゃい!!」という威勢のいい主人の声を遥かに上回る大声が大砲の弾みたいにブッ飛んで来た!
「おーーーーい!!!こっちだ!こっちだ!!」
オレもヤツに負けない大声で応えた。
「おう!ひさしぶりだな!ガメオ!!」
そう、ヤツの仇名は「ガメオ」。
なんでも「GAME・OVER」が語源なんだそうだ。
学生時代、友だちとゲーセンに行ったが、ヤツ一人最終局面まで辿り着けず、「ゲームオーバー」になってばかりだったことから、友だちに「ガメオバ」→「ガメオ」と呼ばれるようになったのだとか。
例のインド洋第一次調査には自衛官の資格で参加し、敦賀での対ゴジラ防衛線をはじめ主要な戦闘の殆どに参加しているという、対ゴジラ戦士の中でも猛者の中の猛者だ。
そして現在では……ゴジラ・ガメラ・アタック・チーム=GGATの突撃隊長的ポジションに納まっていた。
GGAT関与の疑惑が無くなったので、オレはガメオに相談してみることにしたのだ。
ただし、最初はあくまで「個人対個人」としてである。
ひととおりドンチャン騒ぎをしてから(ドンチャン騒ぎに「ひととおり」も「ふたとおり」も無いとは思うが)、オレは場所を静かな店へと移し、例の話を切り出した。
「××、オマエその話をどこで聞いた!?」
カリフォルニア原発事故の「真相」の話をするとガメオの言葉が完全な素面のそれになった。
「いや、あくまでオレの空想で…。」
「ウソつけ!オマエは、くだらねえ憶測や妄想で動くヤツじゃねえっ。」
ガメオの目がスチールブルーの冷たい輝きを放ったが……、一瞬後にはオレも良く知ってるバカ友達のガメオに戻っていた。
「……まあ……いいか、どうせどっかの軍事筋からのリークだろ。あれだけの事件になって、州兵まで動員したら誤魔化しきれるとは思えねえしな。」
それ以上追求しなかったガメオに礼を言ってから、オレは本題を口にした。
「…カリフォルニアでGGATアメリカを壊滅させたヤツと同じようなバケモノが、もし、この日本にもいるかもしれないとしたら……。」
がんっ!
いきなりガメオの手が万力のようにオレの襟首を引っ掴んだ!
「なんだと!?あのゴジラが、この日本にもいるってのか!」
「く、苦しい……放してくれ…。」
オレの呻き声に我に帰ったか、ガメオの手から力が抜けた。
「……す、すまん。つい興奮しちまった。」
「ああ、いいよ。気にするな。………それより、カリフォルニアの事件の犯人は……やっぱりゴジラなんだな!」
顔でも洗うように両手で顔をおさえ、ガメオが言った。
「ああ……そうだ。ゴジラだ、それも新種………というか………。」
オレがガメオの後を続けた…。
「……新人……なんだろ?」
「そこまで知っているのか。……ちくしょう!なんてこった…ヤツがこの日本にも現れてたなんて……。」ガメオは髪の毛をぐしゃじゃに掻き毟りながら言った。
「じゃあ、カリフォルニアのゴジラも人間なんだな?」暗い諦観をもってオレは尋ねた。
「…ああ、そうだ。アレの正体は、あの原発に勤務していた技師の一人だ。」
そして、悪夢を思い返すように、ガメオは語り始めた。
「全部モニターカメラに残ってたよ。他の原発職員や消防隊員が虐殺される様も、突入したGGATとの戦いも……。」
グラスをもつガメオの手が小刻みに震えだした。
問題の技師は、前日どころか事件の当日も普通に勤務を続けていた。
そして事件発生のちょうど30分前、放射能漏れを表示するランプが点灯。
表示では軽微なものらしかったが、問題の「技師」は同僚1名とともに管制室外に……。
その数分後、戻って来たとき「技師」の作業服は血まみれ。
そして虐殺が始まった。
手首を掴んでそのまま握りつぶす、肩を掴むと人形の腕のように引っこ抜く……。首は……。
その「作業」のあいだにも、「技師」の姿は変わりつづけた。
消防隊員が到着したとき、「技師」の姿は既に無く、身の丈3メートルほどの一匹のモンスターがいるばかりだった。
「最後の一人の背負った酸素ボンベに怪物のツメ痕が残ったのは幸いだった。あれが無かったらGGATまで連絡が来るのはもっと遅くなっただろう。そうなっていたら……。」
「しかし身長3メートルの相手に随分てこずったもんだな……。」
「……オマエはあのビデオを見ていないからそんなことが言えるのさ!!」
かちゃん。音をたててガメオはグラスを置いた。
手の震えのせいで、持っていられなくなったのだ。
「映画の『ジュラシックパーク』に出てきたヴェロキラプトルを覚えてるか?あれより動けて、あれよりタフで……おまけに……明らかに知能が高かった。突入したGGAT隊員は一人づつ……。」
そうだ、オレは思い出した。
GGATの隊員は超小型カメラをヘルメット部分に装着していた。
カメラは、隊員たちの断末魔を克明に捉えていたはず。
ガメオはそれも全部見たのだ。
「一番信じられないのは……ヤツは笑うのさ。生け贄を殺すときに。あれはゴジラを超えた存在、悪魔以外の何者でもないよ。」
ガメオはオレを伴ない、直ちにGGATジャパン本部にとってかえした。
隊員は非番も含めて全員招集。
当該県のみならず、隣接各県の県警にも緊急連絡が発せられ、情報の提供が求められた。
一方、堀江研究員個人の情報も改めて洗いなおされた。
そしてカリフォルニアのモンスターを便宜上No1、堀江氏が変身したと思われるモンスターをNo2に呼ぶことが非公式に決定。
オードリーとオレは数少ない目撃者として臨時にGGATの所属ということになった。
「……堀江さんは…一度はアナタたちを襲おうとしたが、大鳥さんの叫び声に我に返ったと、そういうことなのですね?」
「少なくとも私にはそう見えました。」「オレにもそう見えたよ。」オードリーとオレが相次いで答えた。
改めてオレたちの事情聴取を行っているのはGGAT中尉のガメオである。
「……老夫婦殺しはツメ痕などから、No2の仕業と断定して差し支えありません。しかしその後、No2はアナタたちを殺すのを思いとどまった……。ということは、No2は人間の堀江さんとしての心を失ったわけではないと……」
「たぶんそうだ。だが、その人間としての心はドンドン薄らいでいる。」
オレがそう言うとオードリーは隣で目を伏せた。
膝の上にぎゅっと固めた拳が震えている。
「……不思議なのは、No1が短時間で身も心も怪物化したのに対し、No2は……。」
……オードリーの拳の関節の白さが増した。
まだ彼女にとって、堀江氏は「堀江」氏であり、「モンスターNo2」ではないのだ。
オードリーの思いとは関係なく、ガメオは言葉を続けた。
「……No2は何故、部分的にとはいえ人間の心を保っているのでしょう?」
シャドウズ/41「ウイルス」
*「物語」形式で書かねばならない事柄は一通り書ききってあるので、暫くは「粗筋」形式で。
モンスター出現に対処するため、例の廃プールの事務棟にGGATの臨時指揮所が設置され、戦闘部隊も到着した。
ガメオ率いるGGAT部隊は「危険動物の逃亡」を口実にしての山狩りを行うが不発に終る。
だが、相手が「ゴジラ」である以上、最後には原子力関連施設を狙ってやって来るに違いない。
当該山地から都市部を通らずに接近できる原発は一箇所しかなかった。
山狩りの中心を原発方面に移動させつつ、原発そのものにも防衛網を敷くガメオ。
一方、「オレ」は堀江氏が研究サンプルを横流しした相手を捜していた。
だが、話を聞いた相手は誰もが堀江氏のことを「理想主義で潔癖症、研究資料の横流しなんて信じられない」と答える。
郵便局や宅配業者も調査したが、荷物を堀江氏名義で発想した記録は無かった。
そんな中、決定的な情報がオードリーの研究からもたらされる。
「ねえ××さん、ウイルス進化説って知ってる?」
生物進化の原因を突然変異に、そして突然変異が生物集団全体に発生する理由を「ウイルスへの集団感染→突然変異」に求めるのがウイルス進化説である。
「…だからキリンの首は少しづつ長くなったんじゃなく、キリンの先祖が未知のウィルスに集団感染して、一斉に首が長くなったって考えるのよ。」
「でもオードリー、そのウイルスと今回の事件とどういう……。」そこまで言ったところでオレにも閃いた!
「ウィルスか!?ウイルスなんだな!なんかのウィルスに感染すると……人間が怪物化するんだな!?」
「そうよ、大戸島の伝説に出てくるオキオみたいに、怪物に変異してしまうの!」
「もし、このウィルスが蔓延したら、人類はいったいどうなっちまうんだ?」
青い顔で答えないオードリーに代り、万石先生が何故か嬉しそうに答えた。
「そうなったら人類は滅亡でしょうなぁ、インド洋の古代文明のように。いひひひひひ……。」
ゴジラの体内で好核バクテリアが進化したのか、それとも好核バクテリアの働きでゴジラが出現したのか?
オードリーの研究では、なんとどちらも間違いであった。
ゴジラも好核バクテリアも、共に謎のウイルスに感染し突然変異した結果に過ぎなかったのだ。
この恐怖の変異性ウイルスは名前の判っている最初の感染者に因んで「オキオ・ウイルス」と名付けられる。
オードリーの言葉は大戸島伝説の「呪われた続編」とでもいうべきものだった。
「オキオウイルスも好核バクテリア同様、放射能が無ければ一時間ほどで死滅するわ。でも、その一時間のあいだに一定以上の放射線を受けると活性化してしまい死滅しなくなるの。そして宿主の細胞に潜り込んでゆっくりと変異発現を開始するのよ。」
「いひひひ……」万石がトレードマークの下品な笑とともに説明を引き継いだ。「……アメリカに出現したモンスターNo1は原発職員で、以前に勤務していた原発でゴジラの襲撃を受けた経験がありましてね……。おそらくそこでウィルスに感染したんでしょうな……。」
「…たぶんそのときゴジラが吐いた放射能でウイルスが活性化していて、あの夜の放射能漏れで変異が一気に加速したのよ。だから堀江さんも何処かで放射線を浴びたんじゃないかと……。」
オレは堀江氏の行動記録にあったある項目を思い出した。
「……それならたぶんオレが答えられるよ。解雇前の堀江氏は健康診断でレントゲン撮影をやってるんだ。」
「それで判りましたよ。うしししし。受けた放射線の量が少なかったんで、変異発現に時間がかかったんですな。」
時間という言葉に促されたのか、その時オレはふと時計を見上げた。
午前〇時15分……話し込んで知らぬまにまワナかを越えてしまっていた。
ふと時計を見るという、ただそれだけの些細なできごとだったが…。
この些細なできごとが、後で重大な意味をもってこようとは……オレはそのとき、予想だにできなかった。
「まるで通り魔だ!」そう言ったきりガメオは絶句した。
「オレ」万石、そしてオードリーが会って話をしたその夜、山菜採りの老夫婦に続く第二、第三、第四、第五、第六、第7の犠牲者が一夜の内に続出したのだ。
時系列順に並べると深夜の〇時前後から3時ごろにかけて、原発とは反対方向、逃げ込まれたら捕捉困難な海へと向かうルートを描いていた。
「No2は原発ではなく海に逃れるつもりだ!海に逃がすな!」
GGATの主力部隊は川沿いの河口域へと移動するが……。
一方で、「オレ」はある考えを抱き始めていた。
(多くの友人知人が評したように堀江氏が理想化肌の研究者で、金では転ばない人物だとしたら…。そんな堀江氏が、それでも研究資料を横流しする相手とは……。まさか……!?)
潔癖な堀江氏が研究資料を横流しする動機。
まずは理想。それから…………愛!?
(愛してる)(愛してる)(愛してる)堀江氏はモールス信号でいつもそう叩いていた。
そう言えば……堀江氏は怪物した後も、愛する人に電話しようとしていたではないか!?
(まさか……そんな……まさか)
このころオードリーは廃プールでの一件を始めとする様々な経緯から「オレ」を信頼し心を寄せるようになっていた。
だが逆に「オレ」の心には巨大な疑惑が…。
ついに些細なことから、「オレ」はオードリーに突っかかり、ついには疑惑をぶつけてしまう。
信じた「オレ」のあまりの言葉に傷つくオードリー。
彼女はそのままオレのマンションを飛び出すと、自分のアパートに戻ってしまった。
後ろめたい思いに駆られる「オレ」。
そこに、万石先生助手の大学院生石堀から急の連絡が入った。
急いで大学まで来て欲しいというのである。
大学へ向かった「オレ」は石堀に万石先生の秘密の部屋、通称『爬虫類館』へと案内される。
そこは助手格の石堀ですら近寄ることを許されない、いわば万石の聖域であったという。
ところが、何時もはカギのかかった扉が開いていたので石堀は中を覗き、慌ててオレに連絡してきたというのだ。
「こ、これはっ!?」中を覗いて驚く「オレ」。
中には奇妙な器具の数々、そしてそうした器具類とは明らかに場違いな頑丈な拘束具が……。
「あの機械はγ線照射機……ハエの卵なんかに放射線を照射する機械です。でも一緒にあるのは熊やなんかを捕まえておくための道具ですよね?……××さん、先生はここに何を掴まえていたんでしょうか?」
室内には、あの夜廃プールで嗅いだ臭いがはっきり残っていた。
その臭いを嗅いだ瞬間、「オレ」の中で全てのパズルが繋がった。
資料の横流しを受けたのはオードリーではない!
万石だ!
爬虫類好きの万石はゴジラを研究したかったが、設備不十分として資料提供を受けられなかった。
そこでおそらくオードリーの名前を使い、オードリーを愛する堀江研究員を騙してゴジラ菌を含む資料を横流しさせたのだ。
そして更に、研究所を解雇された後、自分を訪れた堀江氏をここに……。
「そうか!」明らかになった悪魔的行為に「オレ」は慄然と叫んだ。「変異を発現した堀江氏は助けを求めて万石のもとを尋ねたが、万石によってここに閉じ込められてしまったんだ!そして少しづつ放射線を……!」
「な、なんのために?先生がそんなことを!?」
「オキオ伝説にある怪物化の実証だ!」
「万石を逮捕しろ!」
GGATに携帯で急報する「オレ」。
だが一般回線からの電話は、緊急事態発生によりGGAT指揮所のガメオには繋がらなくなっていた!
河口域の防衛ラインを嘲笑うかのように、モンスターNo2=堀江氏が例の原発を襲撃したのだ。
「畜生!第二から第五までの事件は警備の中心を原発から逸らすためのフェイントだったんだ!」
車を飛ばして廃プールの指揮所に戻った「オレ」にガメオが叫んだ。
指令所のモニターには、GGAT隊員一人一人に装備された小型カメラとマイクから送られる映像と音声が流されている。
モンスターNo2と隊員たちの死闘の生中継である。
弧を描き投げ込まれるハンドグレネード!
それがオレンジの閃光を放ち爆発する!
だが、その奥に光る双眸が!?
爆炎を突いて豹のように飛び出すNo2!
その体躯はNo1より小柄な2.5メートルほどだが、小柄なぶん敏捷さはNo1以上だった。
幾つかの画像に血飛沫が飛び、幾つかは激しい衝撃とともに画を送ってこなくなった。
「効いてないぞ!もっと強力な武器でないと!」ガメオに向かって叫ぶ「オレ」。
だが、ひとたび原発内に入り込まれては過度に強力な武器は使えない!
そうしているまにも、怪物との接近戦で次々倒れていくGGAT隊員。
関門となるGGAT隊員を蹴散らし、No2は目指す炉心へと迫った。
だが、炉心前面に最後の関門が待ち構えていた!
カリフォルニアでの戦訓により急遽からロシアから空輸されていた対戦車ライフルの火線!
一撃で象やクジラでも即死する徹甲弾がNo2を雨となって貫いた!
ついに崩折れるNo2。
カリフォルニアで有効だった象撃ちライフルに続き、今回も超ハイパワーライフルの一斉射撃がモンスターの進攻を食い止めたのだ。
ガメオの口からも安堵の声が溢れる。
原発内に展開した隊員たちも喜びの声を上げているのが、隊員の装備した小型マイクから聞えて来た。
「やった!」「やったぞ」「バケモノめ!遂にやった!!」
だが、その隊員たちの声の中に、ある聞きなれた声が混じってきた。
「よくやってくれました堀江くん。ワタクシがここに侵入するための血路を見事拓いてくれましたね、うしししししし。」
そして次の瞬間、隊員たちからのカメラ映像は次々と真紅に染まっていった。
「オレ」は司令室のマイクに向かって叫んだ!
「その声は万石!!」
「……今の声は××さんですな?…………えーと、これを……と。」
カメラのレンズから指で血が拭き取られ、万石の顔が映し出された。
手には隊員のヘルメットからもぎ取ったマイクを持っている。
万石「こんにちは、有名爬虫類学者の万石です、うしししし。」
オレ「万石!すべて貴様の仕業だな!」
万石「はあ××さん、どうやら全部ご存知のようですね。そうです、全部ワタシがやりましたよ、うししししし。」
オレ「なぜだ!?いったい何が目的でこんな恐ろしいことを!?」
万石「何故と問いましたな?よろしい、お答えしましょう。目的は……進化です。」
オレ「進化だと!?」
万石「そうです。ウィルス進化説のことは以前お話しましたね?しかし、忘れてはならない大事なことがあるんですよ……、うししし。」
オレ「大事なことだと!?」
万石「そうです。とても大事なことです。……進化というのは『神の意思』だということです。」
万石の目的は、「神の意思」を代理することだった。
ウィルスにより人間がモンスターに進化するというなら、それは「神の意思」だ。
インド洋の超古代文明はこの神の意思を傲慢にも拒否したため、神の怒りに触れ大洋の底に沈んだのである。
そしてそれが大戸島の漁師オキオの網にかかり、再び地上に戻ったのもやはり「神の意思」である。
故に、生き物全てに進化をもたらす偉大な神は、今度こそ人間が次のステージへと進化することを望んでいる!
この「神の意思」を代理人となって実行することこそ、万石の目的なのであった。
万石「実はここに来る途中ちょっと道草を食いましてね、オキオ・ウィルスを市内に撒いて来たんです…。予め放射線を浴びせて活性化させたヤツをね、うしししし。」
オレ「な、なんだと!」
万石「……ですから、後は新世界創世の幕を切って落とすだけ。その役目は、僭越ながらこの万石自らがやらせていただきます、うししししし。……では、ごきげんよう。」
原発内部からの映像が切れた。
ガメオ「な、なんだ!?どういうことだ!?いったいヤツは何をしようってんだ!?」
オレ「………GGATの隊員たちが万石に瞬殺されたのを見なかったのか?ヤツは、自分の体にも怪物化ウイルスを投与してるんだよ!それで原発の中でやることといったら一つしかない!」
そのときオペレーターがガメオに向かって叫んだ!
「隊長!げ、原発がぁっ!!」
モニター全部が連携し一つのモニターとなって、上空のヘリから捉えた原発の画面に切替わった。
窓・換気口・ドア、あらゆる隙間という隙間から白い蒸気が漏れ出している!
そして!建物全体が光ったかと思うと、次の瞬間、中から巨大な怪物が飛び出した!
ガメオ「ゴ、ゴジラだ!…まさかアイツは!?」
オレ「そうさ…、アレは万石だ。……もっとも『ごく』って言っても『石』じゃあない!地獄の『獄』さ!」
モンスターNo3、いや、万獄ゴジラは月を仰いで一声大きく吠えた!
呪われた創生の始まりを告げるために。
「ゴジラが開始しました!」オペレーターが叫んだ。
だが別のオペレーターからも報告が!
「隊長!市内に複数のモンスターが現れたもよう!市内は混乱の極みです!」
オレ「まずい!万獄が市内に入って放射能を撒き散らしたら、市内のモンスターも一匹残らずゴジラ化するぞ!なんとしても防ぐんだ!!」
ガメオ「判った!重火器部隊が展開するまで航空攻撃で時間を稼ぐ!」
オレ「市内は?」
ガメオ「……残念だがそこまでは手が回らん。」
そのときオレは大変なことを思い出した!
「しまった!市内にはまだオードリーがいる!」
「オレ」はガメオが「死にに行くようなもんだぞ!」と制止するのも振り切って指揮所を飛び出した。
「最後にオードリーと別れたとき、オレ、彼女をメチャクチャ傷つけちまったんだ。会って謝んなきゃなんないんだよ!」
「そうかわかった!もう止めん!せめてコイツを持って行け!」
そう言うと、ガメオは腰に下げた拳銃を投げて寄越した。
「恩に着る!」
オレは車をスタートさせた。
市内の数箇所から既に火の手もあがっているが、あそこには炎なんかよりも遥かに恐ろしいものが飛び回っているのだ!
(オードリー!無事でいてくれっ!!)
「オレ」は車を猛スピードで飛ばしながら、オードリーの携帯に連絡を入れた。
幸いすぐに彼女は出てくれた。
「オードリーか!?無事なんだな!?」
「××さんなの!?」彼女の声は半分泣き声で、消え入るようにか細い。
「そうだオレだ!すぐ助けに行く!あのアパートにいるんだな?」
「そうよ。でも来ちゃだめ!外は怪物で…。」
「うるさい!助けに行くったら助けに行くんだ!そこでじっとしてろ!!」それだけ喚くと「オレ」は電話を切った。
軽自動車は転がるようにひた走った。
万獄の拓いた汎魔殿=パンデモニウムと化した市内に向かって!
*万獄ゴジラとGGAT空軍の対決、そしてオードリーの姿を求め汎魔殿をゆく「オレ」という、映画的には派手な見せ場が続く。
しかしこの駄文の場合、その描写は主眼ではないので簡単に…。
市内は、殆ど人間からトカゲ人間のような姿まで様々な変異段階のモンスターが暴れまわり、阿鼻叫喚の地獄絵図を描いている。
火災発生を受け出動した消防車も途中で怪物に襲われてしまい、火を消そうとする者など誰もいない。
警官の拳銃では人間に近い変異レベルのモンスターにしか対抗できず、変異レベルの高い相手に対してはただ相手の怒りに火を注ぐだけだった。
途中襲ってきた低変異レベルのモンスターを車で撥ね殺すが、「オレ」もハンドル操作を誤って街路樹に激突。
さらに襲いかかってきた別のモンスターをガメオから渡されたデザートイーグルの連射で倒し、オードリーがいるアパートの階段へと駆け込んだ。
そのとき階上からオードリーの悲鳴が!
獣のような雄叫びを上げ彼女の部屋のある三階まで階段を駆け上がる「オレ」。
オードリーの部屋のドアが破られている!
中では窓辺の床に追い詰められたオードリーとトカゲ同然の姿に変わった高変異レベルのモンスターが彼女に覆い被さるように立ちはだかっている!
慌てて拳銃を構える「オレ」だったが、(まずい!この位置から撃ったら、オードリーにも弾が当たる!)。
どうすりゃいい!?
だが、「オレ」が躊躇ったのは一瞬だけだった。
怪物の下から、感謝や喜びそして諦めがないまぜになったオードリーの顔が見えた瞬間、「オレ」の中に再び根拠の無い勇気の炎が燃えあがった!
「うわわわわわわああああっ!」
ショルダータックルのような姿勢でモンスターに体当りする「オレ」。
モンスターと「オレ」、二つの体は窓枠を越え、下のコンクリートの地面へと落下した。
ズンッ!
幸いモンスターの体が下になったので、コンクリートに激突はしないですんだが、それでも「オレ」は呼気が一瞬止まるほどの衝撃をうけた。
(た、立てない!?)
体が脳の言うことを聞いてくれない!
動けぬオレの傍らで、モンスターがぐいっと立ち上がった。
動けぬ「オレ」の上でキバを剥くモンスター!
(これで……ジ・エンドってヤツかな?)
だが「オレ」が死んだらオードリーはどうなる!?
「オレ」は死力を振り絞ると、かろうじて動く右手を上から覆い被さるモンスターの口めがけて突き上げ、拳銃の引き金を引いた!
ブアムッ!
轟音とともにモンスターの頭部は吹き飛んだ。
「……む……むううっっ。」
呼吸を整えながら、よろよろ立ち上がろうとしていると、「オレ」のワキの下に細い腕が差し入れられた。
「だいじょうぶ!?」
オードリーが涙でぐしゃぐしゃな顔で見上げてきた。
「……さっきはごめん。」だいじょうぶだ、と答えるより先に「オレ」はそう言っていた。
「そんなこと、いま言わなくたって。」
「だって、これ言いたくてココまで来たんだぜ。」
「なんだ…………私に言いたいことは……それだけなんだ。」
そのとき、「オレ」の頭の中から、辺りにいるはずのモンスターも、この市内に向かっているはずの万獄ゴジラのことも無くなった。
オードリーとオレだけになったのだ。
「……いやもっと言いたいことが。オレはキミが……。」
そのとき、ガラスをツメで引っ掻いたような叫びが間近で上がった!
今の銃声を聞きつけ、モンスターが三体、集まって来ていた。
中レベル変異のが2体、高レベル変異のが一体。
オードリーを自分の体の後ろに庇うと、オレは一番近くのモンスターに拳銃を発射しようとした。
が!?……スライドが後退したままだ!残弾無し、弾ぎれである。
万策つき果てたか……。
だがそのとき!頭上からモンスター三体めがけ、弾丸のシャワーが降り注いだ!
見上げると、何時の間にやって来たのかGGATの戦闘ヘリコプター、ガットジャイロが降下してくるところだった!
機内ではガメオが迎えてくれた。
「うまいことジャイロを掴まえられてな。迎えにきたぜ。」
「ありがとう。ところで万獄は!?」
「見ろ!あそこだ!」
浮上したジャイロからガメオの指さす方、赤い炎をバックにして山のような巨体が聳え立っていた。
歩いた後には灰燼しか残さない、破壊の狂神。
舞い飛ぶ航空機も、万獄ゴジラの前には先触れ程度にしか見えなかった。
「見ろ!万獄のセビレが光りだしたぞ!」
放射能体放射!
あれをやられたら市内のモンスターが全てゴジラ化してしまう!
だが、オレたちにはもう打つ手が無かった。
オレにできることは、縋り付くオードリーの体を精一杯の力で抱きしめてやることだけ…。
そのときだった。
アイツが浮上したのは。
「あれが万石さ、オードリー……。」
「そんな……!昨日までは私たちのよく知っている『万石先生』だったのに……。」
「昨日どころか、つい一時間ほど前までだって、普通の万石だったよ。あれが……ヤツの信じる進化ってヤツなのさ。」
「……キリスト教だと、エデンの園で口にした知恵の木の実から人間の進化がはじまったのだそうよ……。でも××さん、私たち、今度はどんな木の実を口にしたっていうの?」
一歩一歩市内へと歩みを進める万獄ゴジラを見てオードリーが呟くように言った。
万獄がパンデモニウムに入城するまであと僅か。
ゴジラの爆発増殖と人類の破滅までも、あと僅かだ。
そのとき、ヘリのパイロットが振り返ってガメオに叫んだ!
「隊長!GGAT本部よりの連絡です!ここより南におよそ10kmの海中から何者かが出現!マッハ約2.5の速度でこちらに向かって飛行中とのことです!」
「なんだと!?」
オレやオードリー、そしてガメオは南を向いた窓に回った。
暗くてよくは見えないが……星明りを遮りながら確かに何かが飛んでくる。
ガメオ「なんだアレは!?かなり大きいぞ?」
オレ「……まさかアレは……!?生きていたのか!?」
万獄を照らし出していた地上部隊のサーチライトの一部が剥きを変えると、飛来した物体を光の中に照らし出した!
ガメオ「あ!あれはガメラっ!!?」
突如飛来した怪物体の正体はガメラであった。
甲羅の酷いダメージと片腕の損傷からみて、以前70m級ゴジラ「オキオ」に倒されたと考えられていた固体に間違い無い。
ただ、ダメージが再生しかかってはいるとはいえ、完全には程遠い状態だ。
おまけに状態が完全だったとしても、ガメラのサイズは20メートルていど。
一方の万獄は一目でその四倍以上の大きさがあった。
とうてい勝負になる組み合わせではない。
万獄の方でもそう思ったか、飛来したガメラに全く注意を払わなかった。
自分の周囲をゆっくり旋回するガメラを従えたまま、一歩一歩市内中心へと進んでいく。
それにつれ万獄のセビレも光を強めた。
「隊長!これを見てください!モ、モンスターどもが!」
ヘリから地上を捉えたカメラ映像の中で、モンスターたちが次第に巨大化していく!
オレ「ゴジラ化がはじまったぞ!」
だが、同時に上空のガメラにも異変が起こっていた。
ガメオ「おい!ガメラ……光ってないか?」
オレ「……ほんとだ……ガメラ光ってるぞ!?」
オードリー「ガメラが光る………!いけない!早く退避しないと!ガメオさん!早くGGAT隊員たちを避難させてください!市内からなるべく遠いとろこに!!」
オレ「ど、どうしたんだオードリー!?なにが起こるって言うんだ!!??」
オードリー「超古代文明と同じことが起きるのよ!」
オレ「なんだって!?」
オードリー「ガメラはオキオ・ウイルスを撒き散らすゴジラをウイルスごと殲滅するための生物兵器なのよ!でも、もしウイルスの蔓延が止められなくなったら……。」
オレ「ウイルスの蔓延が止められなくなったら……?どうなるって言うんだ?オードリー!?」
オードリー「判らないわ!でもひとつだけ確かなことは、超古代文明の都市は海の底に沈んでたってことよ!」
「総員市内より退避!一刻の猶予もならん!急げええっ!!」
ガメオが無線機に向かって叫び、オレたちの乗ったジャイロも刻一刻市内から遠ざかりつつあった。
いまや地獄と化した市内も、遠くこのヘリからは赤い炎に照らされた美しい影としか見えない。
そこに浮かびあがる巨塔は万獄ゴジラ。
さらに足元には、育ち行く地獄の落し子たちが蹲っているはずだ。
地獄の上に白く光の尾を曳いて旋回するのは、あのガメラだろう。
ガメオ「……何も起きないぞ?オードリー??」
オードリー「……待ってくれているのよ。私たちが逃げるのを…。」
ガメオ「まさか……。」
まさにその瞬間!
ガメラが太陽のように輝いた!
同時に幾百もの雷が、空中からと言わず地上からと言わず、ガメラに向かい弾け飛ぶ!!
そして…………………爆発した!!
眩い光の柱が、市内中心に立つ、万獄めがけて落ちかかる!
オレ「プラズマエネルギーのオーバードライブだっ!?」
白光のドームがぐんぐん広がり、市内を含むエリアを一飲みに呑みこんだ。
ぐぅあんんっ!!!!!
巨大な衝撃波がジャイロを飲み込んだ!
安定を失い、木の葉のように翻弄されるジャイロ!
オレ「うわあああああああああああっ!!」
グングン大地が迫ってくる!
オレはオードリーの体を抱きしめた。
墜落しかかったヘリだが、なんとか地表ギリギリでバランスを取り戻し、オレたちは無事地面に降りることができた。
そしてあれから一週間……。
○□市は……消滅した。
廃墟なんてもんじゃない。
市の中心から直径10km弱の球体内が、まるで空間を削ぎ取ったように、無かったことにされたのだ。
万獄をはじめとするゴジラの群れと、逃げ遅れた市民も飲み込んで……。
ただ政府発表の公式文書に記載された死者の数は、いまのところ驚くほど少なかった。
死体が消滅しているので死亡診断書は書きようが無かった。
大災害による認定死亡を宣告しようとしても、宣告すべき○□市そのものが市長から一般事務員に到るまで行方不明者の中に含まれているのではどうしようもない。
そもそもあの夜市内にどれだけの人間がいたのかすら把握できないのだ。
万石の研究棟はGGATによって徹底的な捜索を受けた。
どうやら万石は自分の野望が失敗に終るとは思っていなかったらしく、一切の資料が廃棄されずに残されていた。
基本的にはオレの推理した通りだった。
……だが、まだ終ってはいなかった。
「堀江さんは………この部屋に閉じ込められていたのね。」
オードリーは、いまはガランとして何も無い、かつての「爬虫類館」に立っていた。
鋼鉄製の拘束具は取り外され、重いγ線照射機もGGATの調査班が3人がかりで運び出された後だ。
「そうさ、レントゲン撮影の影響で変異発現した堀江氏は、万石に助けを求めた。だがそれをあの男は……。さ、出よう。」
オレは彼女を「爬虫類観」の外に連れ出した。
悪夢の苗床みたいな場所に、長いこと彼女をいさせたくなかったからだ。
オレたちはガランとした大学の構内を歩き出した。
キャンパスに目立つのは落ち葉だけ。
はじめて来たときは、男女の学生たちであれほど賑やかだったのに…。
学生や教授たちの殆どは消滅した市内に住んでいたのだ。
オードリーも本当なら、その列に加わっていたはずだった…。
「……大戸島の伝説を知っていた万石は、すぐに変異原物質の存在に思い当たったのね……。」
「うん、ウイルスと放射線の関係もたちまち見破ったんだろうね。なんたって、ホンモノのモルモットが目の前にいるんだから……。」
オードリーの足が止まり、そっと目を伏せた。
「……ごめん。『モルモット』って言葉は酷かった……。取り消すよ。」
「ううん、いいの……。でも、ありがとう。」オードリーはオレの胸に顔を伏せた。
オレは彼女の髪にそっと手を触れながら、改めて万石の悪夢の跡を振り返った。
なんの変哲も無いあの建物から、あのような魔王が生み出されようとは……。
「……変異が進行し人間とモンスターのあいだを揺れ動くようになった堀江さんは、ある晩あの部屋を脱出した。」
ふと気がつくと、オレたちは「爬虫類館」を脱出した夜の堀江と同じ道のりを歩いていた。
もう少し行くと、オードリーの籍もある研究棟が枯木立のあいだに見えてくるだろう。
「堀江さんは、電話機を求めてキミの研究棟に忍びこもうとして失敗したあと、あの廃プールに姿を隠してキミに電話をかけたんだ…。」
オレたちはオードリーの研究棟の裏に回った。
「……そしてそのあいだ、『モンスター』に体を支配されたときに、あの山菜採りの老夫婦を殺害してしまったのね……。」
「…そうさ。あの晩、キミに名を呼ばれ人間の心を取り戻した堀江さんは、絶望して再び『爬虫類館』に戻り、そして最後の夜までそこに封じられていたんだ。」
「それじゃ、第二からあとの事件は堀江さんじゃなかったのね?」
「そうさ、彼じゃないよ。」
堀江さんの壊したロックは、まだあの日のままだった。
ドアが開いてしまわないように、ガムテープで止めてあるのだが……、いまは風雨に晒されたせいか剥がれてしまっていた。
階段を二階に上がると院生の石堀が一人で後片付けをしていた。
「ああ××さん、大鳥さん、ご無事だったんですね。」
「キミこそ無事だったんだ。……オードリー、彼がオレに『爬虫類館』のことを知らせてくれたんだよ。」
オレはあの夜のいきさつを彼女に話して聞かせた。
「……信じられないことだけど、オレはそれまでキミを疑いだしていたんだ……。ゴメン。」
「その話は何度も聞いたわよ。それでそのたんびに、『もういいわよ』って言ってるじゃない。」
「でも……自分のバカさ加減が許せなくってね。石堀くんもありがとう。キミが疑いを晴らしてくれてなかったら、いまごろ……。」
「ボクが何をしたって言うんですか?」そう言って石堀は頭を掻いた。
「目と鼻の先で先生がやってることに、サッパリ気がつかなかったんですから。
でも神の代理人になって進化をすすめようとするなんて、万石先生はいったい何を考えてたんでしょうか?」
「ねえ××さん、神の代理人ってなんのこと?」オードリーが訝しげに尋ねた。
「万石が言ったのさ。『進化は神の意思だ』ってね。それを拒否する者は神罰が下って滅ぼされる。自分は神の意思に従って人類の進化を推し進めるんだとね。」
「妄想もいいとこですね。それで自分が率先してゴジラなろうとするなんて…。」
石堀も片付けの手を休め、窓の外を眺めながらそう言った。
なにかが引っ掛かった。
「ねえ××さん!」突然オードリーが妙な表情を浮かべ言った。
「……さっき第二からあとの殺人は堀江さんじゃないって言ったわよね!?」
「いったけど…それが?」
「堀江さんじゃないなら、いったい誰が犯人なの?」
「……判りきってるじゃないか。犯行状況は明らかに変異発現者の仕業だった。つまり犯人が万石さ。」
だがオードリーが顔をあげ、叫ぶように言った。
「でも、それは変だわ!」
「ん?……何か変なんだい?」
「だって思い出してみて!第二から後の事件が起った夜のことよ!あの夜、オキオ・ウイルスやウイルス進化論のことを話したわよね!?」
「………ああ、そうだった。話したよね。あれはオレとキミと……。」
「…万石の三人よ。あのとき話は深夜まで続いたけど……。」
……オレも思い出した。
「そうだ!あのときオレは時計を見た……たしか〇時15分……。」
そこまで言って、オレも気がついた!そうだ!在り得ない!!
「あの夜おこった中で最初の事件は〇時前後だったはずよ!私たちと話してから車で行ったとしても、万石に最初の被害者を殺すことはできないわ!」
「たしかにそうだ!」それからオレはいままで気づかなかった別の事実にも思い当たった。
「……そう言えばγ線照射機も変だ!アレを運び出すとき、GGATの連中は3人がかりだった。そんなシロモノを万石が一人で運び込めたハズがない!!」
オードリーが、あの黒目がちの瞳でオレを見つめながら言った。
「共犯者がいるのよ。それもウイルスで変異発現している共犯者が……。」
そしてオレは答えに辿り着いた。
さっき引っ掛かった「何か」が、全てを明らかにしていたのだ。
「ま、そういうことはGGATの連中にでも任せておこうぜ。オードリー、行こうか?」
「なによ?急に?!」
オレはオードリーの手をとって階下へと降りようとした。
だが!
階段への出口を塞ぐように石堀が立っていた。
「……万石の自己顕示欲が強かったおかげで、書類にはオレの名前はおろか、共犯者の存在を仄めかしてすらいなかった。
おまけに万石の秘密を暴くのに協力もしたから、上手く逃げられると思ったんだがなぁ。神の代理人の話はまずかった……。」
オレはオードリーを後ろに庇いながら叫んだ。
「…ああ、そうだな。『神の代理人』って話は、万石が原発の中で口にした言葉だ。あれを聞いたのは万石以外にはオレとガメオ、それから指揮所にいたGGAT隊員たちだけしかいないはずだ。それを知っているということは……。」
「石堀くんなの?石堀くんが万石の共犯者なのね!?」
「そうさ。そして今度は自分が師の遺志を引き継いで……。」
だが石堀はニヤニヤ笑って言った。
「師だって?……万石は、『神の代理人』を称していたが、その実は、爬虫類好きが嵩じてとうとう自分が爬虫類に成り下がっただけの、極め付きの狂人さ。あんなの師なんて思っちゃいないね。」
「……それじゃあ貴様が万石に代わって『神の代理人』になろうってワケじゃないのか?!」
「『代理人』?………バカ言っちゃいけない。オレはなるのさ、神そのものにね!」
「神になるだと!?」
ヤツは出口の前から一歩も動かぬまま、得々と話し始めた。
「……堀江の症状を知って気がついたのさ。ヤツはレントゲン検査のX線で変異発現し怪物の力を得たが、長く人間としての外観や理性も留めていた。つまり放射線照射の量や時間をコントロールすることによって、ゴジラ変異の発現量は制御可能なんだ!」
「そ……そうか……、やっと判ったぞ貴様の狙いが!」
白い歯をむき出して、獣のようにヤツは笑った。
「オマエの頭でも理解できたか?……ゴジラの持つ圧倒的な力と生命力、この二つだけを選択的に発現させることができれば、オレは不死身の超人になれるんだ!」
そのときオレは確信した。万石同様こいつも狂ってる、と。
石堀は右手をオードリーに差し出した。
「どうだオードリー?……いまなら神の妃にしてやるぜ。」
「お断りよ!」汚いものを見るときの顔で、オードリーは即答した。
笑みを顔に貼り付けたまま、石堀は言った。
「……そうか……それじゃ仕方が無い。……死んでもらうのは1人から2人に追加だ。」
気が抜けた笑みを浮かべたまま、石堀はこちらに進み出た。
「オレたちを殺したら、すぐ掴まるぞ…。」
そう言いながら、オレは慌てて辺りを見回して武器になりそうなものを捜したが、あいにくとモップくらいしか見当らない。
それに空調管理のため研究棟の窓はハメ殺しで、ガラスには鉄線が組み入れられている。
「…逃げ道なら無いぜ。」オレの視線を辿り、石簿のは鼻で笑うと言った。「……それからもうひとつ、この無人同然の大学で、オレがここに来たのを知ってるヤツはオマエらしかいないんだ。
で、オマエらのことだけど……運悪くあの夜オキオウイルスにどっちかが感染してたのが、とうとう変異発現して……殺しあったことにでもするさ。
そしてこの建物は火事で焼け落ち、オマエたちの死体は丸焼けになる……と。どうだい?このシナリオ。」
石堀は自身たっぷりだった。
とりあえずモップを引っ掴んだオレを見ても、眉一つ動かさない。
「オマエ忘れたのか?変異発現者の力がどれほどなのか?そんな棒ぎれで何ができるっていうんだ?」
「……やってみなけりゃ判らないだろっ!!」
オレは渾身の力で、モップの柄を石堀の顔、肩、胸にメチャクチャに叩きつけた。
ばきっ!
何打めかに、激しい音を立てモップの柄は折れた。
だが、石堀の体にはアザ一つない!?
「……ムダだよ人間っ!!」
石堀の右手がオレの胸倉を突き飛ばした。
オレは…宙を飛んだ!
がんんっ!!
6メートルほども宙を飛び、壁に叩き付けられて落ちた。
アバラ骨が折れたか!?
激しい痛みで息が詰まる。
オードリーはオレを庇って、オレの上に覆い被さった。
「人間ふぜいが、オレに傷ひとつつけられんよ。……さて、バーベキューの準備をするか…。」
石堀は手近にあった紙屑を拾い上げると、ポケットから取り出したライターで火をつけた。
「バイバイ、人間。」
石堀は燃え上がる紙屑を投げた。
床には後片付け中だったため様々な紙屑が散乱している。
炎はあっというまに燃え上がった!
石堀はオレたちに背を向けると階段に向かおうとしたが、その瞬間オードリーが石堀に掴みかかった。
「な、なんだ!?この女め!?」
炎の中でしばしもみあう二人。だが、後ろからスキを突いたところで、所詮、彼女の太刀打ちできる相手ではない。
たちまち倒れままのオレの上に放り投げられてしまった。
「だから人間ふぜいに…。」
「そうかしら!?左手の甲を触ってごらんなさい!」
石堀の左手甲から長く赤い筋が走りだし……、つつっと床に滴った。
オードリーが引っ掻いたのだ。
「人間ふぜいにも傷つけられたわ!!何が神よ!あなただって万石と同じ!ただの狂人じゃない!!」
傷から滲み出る血を見たとたん、石堀の顔色が変わった。
「ぎいいいいいいっさまぁあああああああああああっ!」
「ぎいいいいいいっさまぁあああああああああああっ!」
激怒の奇声とともに石堀の顔がどす黒く変わった。
燃える炎に照らされ、まさに大戸島の伝説にいう「黒鬼」だ。
「む、虫けらの分際で!人間の、人間の、ににににに…人間の分際で、よくもオレの顔にぃいいいいいいっ!!!」
「オードリー!」
オレは間も無くやってくる激怒と憎悪の奔流からオードリーを守ろうと、彼女を庇おうとした。
だが、彼女もオレを庇おうとして譲らない!
「オードリー、オードリー」「××さん!」
だが!?黒い激怒の発作が、石堀の顔から潮が引くように消え始めた。
見下ろす手の甲から、かぎ裂きのような引っかき傷が消え始めたのだ。
傷跡が完全に消滅するのに30秒とかからず、後には乾いた血がこびりついているだけになってしまった
歓喜のあまりに呆けたように見える顔で石堀がまくし立てた。
「み、見ろ!この治癒力を!か、神だ!超人だぁ!!オレは人類で唯一の不老不死を手に入れたんだぁ!!」
オレとオードリーは恐怖のあまり、狂喜する石堀から目をそらすことができなかった。
驚異的な治癒力が怖いのではない。
治癒のその後にやって来たものから、目をそらすことができなかったのだ。
傷の消えた石堀の手の甲に、黒いアザが浮かび上がった。
シャドウズ/
石堀の手の甲に浮かび上がった黒アザは、カビが広がるように瞬く間に前腕中ほどまで飲込んだ。
「な?なんだ!?こ、このアザはぁ!?」
歓喜の絶頂から石堀は引き戻された。
「変異発現よ!」オードリーが低く呟くように言った。
「へ、変異発現だとぉ!?バ、バカな!?」狂ったように石堀は叫んだ。「放射線量の管理で変異発現は押さえ込んだはずだぞ!」
そう言うまにも、石堀の手はゴツゴツした岩のような、「ゴジラ状の手」へと変化しつづけた。
オレは叫んだ。
「万石の言ったように、進化が神の意思だというのなら、人間の小細工ぐらいで止められるものかっ!!」
「そ、そんなぁ!ボ、ボクは、不老不死に、人を超えた存在になるんだ!!」
「そうさ!オマエはなるんだ!人を超えたバケモノにな!!」
「うぞだーっ!ごんなのまぢがいだあー!」
言葉の後半は既にまともに発音することすら出来ていない。
「ごぼごぼごぼ……。」
ついに石堀の言葉は、あの夜の堀江氏と同じ不明瞭な雑音へと成り果てた。
「ごげげげげげげげげげげげげけぁあっ!」
……そこで涎を垂らし喚きつづけるもの、それはゴジラではなく、かといって人でもなく、どっちつかずの出来そこない、進化の陥穽に落ちた醜い怪物に過ぎなかった。
「あれが、神の意思を弄んだものへの罰だ!…さあ、逃げよう!!」オレはオードリーを促して立ち上がった。
火の周りは驚くほど早かった。
急がないと!
だが、石堀だった怪物の横をすり抜けようとしたとき、怪物は急に向きを変えるとオレたちに襲い掛かってきた!
「ごぼあああああああああっ!!」
「きゃあっ!」
バケモノの闇雲に振り回した腕が、オードリーを激しく殴りつけると、彼女は元いた部屋の片隅まで人形のように吹っ飛ばされそのまま動かなくなってしまった。
そしてそのまま怪物の手がオレの首に!
「オマエモ、ゴゴデ、ジヌンダア(おまえもここで死ぬんだ)」
(オ、オードリー!?)
燃え盛る炎に飲み込まれようとするオードリー。
その口の横から、ひとすじの赤い線が……。
オレの眼の前が急に真っ暗になった……。
……すべて終ったいま、オレは自分のマンションでこの手記をしたためている。
市内の消防が壊滅し、道路網も寸断されているため、消防車が隣りの市から到着するまで30分以上かかった。
そのころには、建物内にあった何かのせいで鉄筋が変型するほどの高熱が発生し、内部は完全に焼き尽くされていた。
深夜ラジオからビートルズの「レット・イット・ビー」が微かに流れ、オードリーはとなりの部屋で疲れ果てて寝息を立てている。
つい二時間ほど前、オレの腕の中で彼女は言った。
「たとえ進化することが神の意思だとしても、私はこのままの姿で、あなたとこうしていたい。」
でもオードリー。
キミの願いには応えてあげられないよ。
だってオレ、感染してるから。
燃え盛る炎の中で、死んだように動かないオードリーを見たとき、オレの中から何かがやって来た。
それはオレの喉にかかった怪物の腕をコーラのアルミ缶のように握りつぶすと、頭をタマゴの殻みたいに叩き潰してしまった。
変異発現者の力だ。
そしてオレは、オードリーを抱えて燃える研究棟から脱出した。
オレは様々な場所でゴジラ災害の取材をした。
だからオキオウィルスが体内に侵入していたのは不思議ではない。
だが何故ウイルスは活性化しているのか?
カリフォルニアの原発技師や堀江氏のように放射線を浴びてはいないのに?
……理由は明白。
イラクだ。
オレは米軍の後についてイラクに取材に入ったとき、劣化ウラン弾の粉末を吸いこんだにちがいない。
いまもイラクの子供たちや米兵にも深刻な健康被害を及ぼしている悪魔の物質である。
そしてゴジラ取材中にオレの体内に侵入したオキオ・ウイルスが肺の中で劣化ウランと出会っていたんだ。
つい一ヶ月ほど前まで、人類の未来は一転の曇りもなく光輝いていた。
それなのに今はいくつもの影が人類の行く手に落ち、その光を蝕んでいる。
オキオの影、堀江の影、万石の影、石堀の影……そして……オレの影も。
石堀は、完璧に変異発現を制御したつもりだったが、結局は怪物に成り果てた。
だから、遅かれ早かれオレも…。
神は万石ではなくオレを代理人として選んだのだろうか?
オレは笑う。
そうはいくもんか。
オードリーとオードリーの住む世界のため、オレはオレにできる最後のことをするつもりだ。
ただ、それすら神の謀の内だったとしたら?
もうオレには、いかなる人類の未来も思い描くことはできない。
ただ、あるがままに……。
レットイットビー
レットイットビー
「甦る伝説」外伝「シャドウズ」
おしまい
77 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/16(金) 16:17:25
「『甦る伝説』の終了後、投下する」という約束はなんとか守ったが、「水曜か木曜に終了予定」という約束の方は連投規制に行く手を阻まれ守れなかった。
512規制が迫っているとは感じていたが、どうせ規制の直撃を受けるなら、経験者のオレが受けた方がいいだろうとも思い投下を敢行。
しかし、「話が前後に分断されてはワケが判らない」と考え、旧スレ投下分も採録した。
本当はきっかけとなったアマギ氏の「甦る伝説」も採録したかった。
だが、連投規制との関係もあり止む無く断念。
同氏には申し訳なく思う。
78 :
あまぎ:2005/12/17(土) 13:50:43
>>77 なかなか続きが書き込まれないと思っていたら、いつの間にかスレPART2に移行してたのね orz
僕の稚拙な物語のサイドストーリーだけに、どんな展開になるのだろうと思ってましたが、渾身の
できばえと言われるだけあって、参りましたの一言しかありませぬ。
サスペンス風に展開する物語は、とても新鮮で、最後まで楽しませていただきました。
同時に僕も文章の書き方をもっと勉強せねばと思う次第です。
機会があれば、完全なものを読んでみたい。
> 本当はきっかけとなったアマギ氏の「甦る伝説」も採録したかった。
お心遣い、感謝します。
暫くは後に控えておられる方々の作品をROMりつつ、自作の構想を練る事にします。
終わったのか
感想がかかれないままスレが過疎ってるのかと思った
80 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:04:06
えぇ、皆さんすごいので、投下するのは恥ずかしいのですが、
とりあえず、途中までですが投下してみます。(12月に投下すると言ったし)
相変わらず仕事が忙しいので、完結は年明けにずれ込むと思います。
頭の中では完成してるんですが・・・
ちなみに題名は決まってません。
明日も早いのに、こんな時間に何やってんだろ?
じゃ、次から↓
81 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:05:00
<プロローグ>
事の始まりは僕が先輩から依頼されたギャオスの遺伝子の調査だった。
その調査によって僕はギャオスの染色体がたった1対しかない事を発見し、
ギャオスやガメラといった怪獣が、超古代文明の作り上げた
生物兵器ではないかという仮説における、一つの証拠を提示する羽目になったんだ。
僕に接触してきたのは政府の遺伝子研究所の人達だった。
彼らは遺伝子レベルで対ギャオスに有効な兵器の研究を行っていた。
しばらくの間は学校と研究所を往復するような生活が続いたけど、
しだいに僕は学校とは比べ物にならない設備の整った研究所に入り浸るようになっていった。
隣の研究施設では八洲海上保険が持ち帰った、変なマガタマの研究も行われていた。
なんでもアメリカの研究機関の方にもマガタマは運ばれていて、独自の研究がなされているとか・・・
で、そうこうしている内にレギオンの事件が発生した。
仙台でのガメラ復活の際、アメリカのを含むすべてのマガタマが崩壊したんだけど、
その時、マガタマから大量の光子、いわゆるフォトンと言うやつが観測されたんだ。
その崩壊の同時性からアメリカの調査機関の中に超対称性粒子である
フォティーノの存在を示唆する学者が現れたらしい。
つまり、マガタマはフォティーノによってガメラと交信する一種の通信機であり、
すべてのマガタマはガメラ復活時に大量のフォティーノが流れ込んだため、
一種のオーバーロードにより崩壊したとか・・・
そういえば、仙台でのガメラ復活の際、大量のフォトンと思しき光の乱舞が目撃されてる。
先輩もマガタマを介してガメラと交信する巫女のような女性がどうしたとか話してたなぁ・・
82 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:05:44
さらにその学者はマナとは超対称性粒子の一種ではないかという仮説も唱えてるらしい。
ガメラが超対称性粒子をその原動力として使用しているとすれば、重力相互作用により
巨大なガメラの体も宙に浮く事が可能ではないか・・という事なんだけど、
初めて聞いた時は、ちょっと話が飛躍しすぎてる気がしたなぁ。
もっとも超古代文明に生物兵器の怪獣、それに宇宙怪獣、と来たら、もう何でもありなんだけど。
アメリカではいくつか新たに研究機関が作られて、盛んに研究されてるらしい。
数年後、イリスの事件・・・
ガメラとの死闘の前後、世界中でギャオスが大量発生した。
ガメラは必至に戦ったけれど適わなかった。
僕たちの研究も間に合わなかったし、日本を最初に蹂躙したギャオスの大群は、
世界中に餌を求めて広がっていったんだ。
まるで悪魔の群れ、恐怖の象徴のようだった。
僕はカナダにある巨大生物審議会の遺伝子研究所へ移された。
研究課題は同じ、ギャオスへの遺伝子レベルでの対抗策の研究。
そしてついにあの事件が起こった。
83 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:07:18
それまで対岸の火事だったアメリカもお尻に火がついた感じで・・・
・・・あの大国の慌てようは少し面白かったな。
愚かな核の使用。
でもそのせいで人類は最悪の怪物を作り出してしまった。
本来は別次元から現れた救世主だったはずなのに。
超古代文明の遺伝子操作技術は本物だったよ、でも彼らは身勝手だ。
彼らは自らの過ちで一度人類を見放しておきながら、ずっと帰ってくる事を願ってた。
そして今度は人類の作り出した未完成な核兵器のおかげで、
人類はおろか、地球自体を見放して去って行った。
おかげで僕は真っ暗な空間に浮かんでいる。
いや、沈んでいるのかも?・・・コレは死なのか?
上も下もわからない、漂っているのか、止まっているのかも。
まぁ、いいさ。
地球は無くなってしまったけど、時間はたっぷりある。
このままマナに包まれていよう。
84 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:08:27
<札幌・1999>
ギャオス襲来で最初の標的となった日本では、人口の密集する主な都市はほぼ壊滅と言って良い打撃を受けていた。
ここ札幌も例外ではなく、重く垂れ込める雲の下、街から人々の声が消えて久しかった。
「異様な鳥の声を聞く、
螺旋の段々になっている硬い大砲のうえで・・・」 (ノストラダムス預言書2章75)
ブツブツと独り言を呟きながらボロを纏った一人の男が崩壊したビル街を歩いていた。
やがて一つの雑居ビルを見つけると、のろのろとした足取りで非常階段を上がって行く・・・
よく見ると男が着ている物はボロボロになった軍服である。
手には自動小銃を無造作に持ち、顎紐を首に引っ掛けて迷彩色のヘルメットを背中にだらしなく垂らしていた。
陸上自衛隊員であろうか?・・・・
そう、彼は宇宙から飛来した生物群にレギオンと命名した隊員だった。
屋上へ出た男は鉛色の空を見上げ、遠くを見つめて呟いた。
「渡良瀬さん、もうすぐ自分もそちらへ行けそうです・・・」
その時、異様な鳥の鳴き声が響いた。
上空を舞うギャオスが餌を見つけたのだ。
男は自分に向かって急降下してくるギャオスに向け、叫びながら自動小銃を連射した。
しかし、やがて弾も、そして命も尽き果てるのだった。
85 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:10:00
<カナダ巨大生物審議会・遺伝子研究所>
道弥はトロントにある巨大生物審議会カナダ支部の地下にある遺伝子研究所のラボに居た。
ギャオスの世界的大量発生出以来、ギャオスに関わった人間の何人かは被害の少ないカナダに集められていたのだ。
今や巨大生物審議会というのは名ばかりで、実質上対ギャオス対策本部として機能していた。
残念ながら最初にガメラと意思の疎通に成功した草薙浅黄、それにギャオスの発見者である鳥類学者長嶺真弓、
イリスと一時的に融合した比良坂綾奈は行方不明であった。
道弥はギャオスの遺伝子が1対である事を突き止めた長嶺の後輩にあたる青年である。
現在はギャオスへの遺伝子レベルでの対抗策を研究していた。
「しっかし酷い世の中になったもんばいねぇ・・・
いったいどげんなるっちゃろか?」
少し離れた場所で世界各国のニュースを流している数台のモニターを見ていた50代と思しき男が呟いた。
コンピュータのキーボードを叩く手を休めて道弥は男の方をちらりと見て独り言のように言った。
「大迫さん、先輩はどうなったんでしょうか・・・」
「長嶺しゃん?・・・なぁに、心配は要らん、長嶺さんならきっと生きちょる。
あん姉さんはそう簡単にくたばったりする玉やなかばい」
そう言った大迫だったが、モニターから流れるニュース映像を見る表情は暗い。
最後は自分に言い聞かせるように繰り返した。
「そう、生きちょる・・・あの娘さんたちも一緒に・・・絶対に生きちょるばい。
何の役にも立たん俺がこうして生きちょるんや、あん姉さんたちが死ぬはずは無か!」
その時、不気味な振動と共に壁や天井が軋む大きな音が響いた。
86 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:11:17
「じ、地震・・・やろか?」
「いや、こ、これは・・・・」
複数のコンピューターのモニターをチェックしていた道弥はそのうちの1台から驚きで目が離せなくなった。
「地球の地軸が・・・いや、地球の軌道自体がずれ始めている・・・」
それはわずかなズレであったが、急激な出来事であった。
衛星からの地球画像を捉えていたスタッフは目を疑った。
地球がまるでテレビのチューニングがずれたように2重にブレて見えるのだ。
南極を中心にして、地軸が左右にずれているように見える。
つまり北半球のほうがブレが大きい。
そして、北極の真上に、まるでマジックで塗りつぶしたような巨大な黒い円が広がっていた。
そこだけ背後の星の光が見えない。
塗りつぶしたと言うより切り取ったといった方が良いかもしれない。
巨大な真の闇だ。
「あれは、まさかブラックホール?」
「いや、重力の異常はみられない、それ以外の何かだ」
その時、地球と黒円の間に凄まじい稲妻が無数に走った。
「何だあれは」
「磁気嵐のようですが、ここの観測機器では、すぐに詳しいことまでは・・・」
87 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:12:10
2〜3分続いただろうか、荒れ狂う稲妻は始まったときと同じように唐突に終わった。
同時に地球の画像からブレも無くなり、巨大な黒円も消えていた。
かわりに緑色の光を放つ超大型のオーロラが北極圏全体を覆いつくしていた。
<北極・スピッツベルゲン島観測基地>
磁気嵐と稲妻の放電により、基地の観測機器はめちゃくちゃに狂ってしまった。
観測員たちは双眼鏡でこの不思議な現象の痕を観測するしかなかった。
「くそっ、いったい何がおきたんだ」
「北東2キロ四方異常ありません」
「西方約1.5キロ地点に静電気と思われる放電を確認」
次々と入ってくる情報にかぶさるように一人の観測員が叫び声をあげた。
「おい、あれは何だ!」
観測員が指し示す方向を全員が目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
88 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:26:17
時とともに次第に輝きが消えていくオーロラの下に、鉛色に輝く物体がいくつも姿を現したのだ。
まるで潜水艦のような滑らかな物体は百機以上はあるだろうか?明らかに人工物である。
そしてその背後には山のような影が5つ・・・気のせいか、ゆらり、と動いている。
整然と並んだその一団は未来からタイムスリップしてきた軍隊のようにも見える。
突然、潜水艦のような物体が光を放ち一斉に浮かび上がった。
背後の影の一つが凄まじいジェット噴射のような白炎を上げ宙に舞う。
宙に浮かんだ影は噴射光の数を増やし回転し始めた。
一人の観測員が眩しさに顔を背けながら大声で叫んだ。
「あれは!・・・ガメラだ!」
背後に立ち並ぶ影も眩い光に照らされてその姿を現した。
うち1体は巨大な昆虫型で蛾のような生物、すでに空中に浮かんでいる。
2体は四つ足の巨大なワニかトカゲのような生物で、片方には鼻先に1本の巨大な角が、
もう片方には少し小さいが、それでも十分大きな角が3本突き出ている。
そしてもっとも巨大な最後の1体は、背中に大きなヒレのような物を生やし、
長い尾と2本の足で仁王立ちする巨竜であった。
巨竜が凄まじい咆哮をあげた。
それが合図かのように5体の怪獣と謎の軍隊は南へと進み始めたのだった。
89 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:37:51
<古代人とムー>
およそ12000年前、長い旅の末、ムーの人々は地球に降り立った。
彼らの母星である星系の太陽の寿命が尽き、赤色巨星と化すのが分かった時、
彼らは円盤型の平坦な小惑星を利用して巨大な宇宙船を作り上げた。
アイランドと名付けられた巨大宇宙船には、惑星のあらゆる動植物の胚と
あらゆる人々のDNAを積み、移住可能な惑星を探し、広大な宇宙へと旅立ったのだった。
彼らは無数の星を訪れ調査したが、彼らの環境に合う星では、
すでに一つの種が進化の過程で惑星の支配的地位に登りつめようとしていたり、
かなりの文化や科学を進化させていたりする事がほとんどであった。
彼らは決してその惑星の支配種族を滅ぼし、支配権を奪い取るような野蛮なまねはしなかった。
それは彼らの誇りであり、そのような過激な考えを強く持つ個体はDNAとして冷凍保存はされているものの
新たな安息の星を手にした時に、クローンとして復活させる予定も無かった。
地球は彼らと同種のヒト型哺乳類が支配権を握り、進化し文明を築いている数少ない惑星の一つである。
しかし地球も彼らにとっとは安住の地ではなく、調査し情報収集した後にはすぐに飛び立つはずであった。
だが地球衛星軌道上に停止し調査船を地上に送ろうとしていた時、
大規模な太陽フレアが発生し、アイランドの恒星間推進機能の一部に損害を受けてしまったのだ。
宇宙空間での修理よりも惑星上での修理を選択した彼らは、仕方なくアイランド自体を太平洋上へと降下させた。
降下させたといっても、大陸ほど大きな質量を持つアイランドを洋上に浮かべる訳にはいかない。
海面上昇による被害は避けられないからだ。
彼らはアイランドを海面上空数メートルの位置に文字通り浮かべた。
マナを利用した重力制御であり、彼らの科学力ではそう難しいことではなかった。
90 :
ガメ男:2005/12/19(月) 03:40:01
彼らは修理と平行して水や食料の補給、人類と地球の調査のため、古代人に接触を試みた。
まずは太平洋に面したなるべく小さな、それでいてある程度の文化、社会を発展させた場所を選んだ。
日本である。
当時縄文式文化を発展させていた古代日本の人々にとって、未知のウィルスや有害物質を避けるために
宇宙服を着たムーの人々は異様に映ったであろう事は間違いない。
楕円形の遮光版が特徴的なヘルメットを被った姿は、後に古代人の手によって土器として盛んに作られた。
また、海底調査にも宇宙服は都合がいいものであった。
彼らは調査や補給の礼として、知識と病気や怪我の治療を施した。
やがて危険なウィルスや治療不可能な病気、命に危険を及ぼす動植物の存在が認められなかったので
彼らは宇宙服を脱いで、古代人の中により深く関わっていった。
というのも、アイランドの推進機能の損害状況が、当初考えられていたよりも酷かったのだ。
また、重要な材料のオリハルコンの原料が地球上に非常に少なかったのも災いした。
地球滞在が長くなるにつれ、ムー人は世界各地の調査と、人類との接触を続けざるを得なかった。
その一つにアトランティスと呼ばれる大陸があった。
91 :
A級戦犯:2005/12/19(月) 07:52:12
>>77 感想ありがとうございます。
ただオレの作は「サイエンス」だし「フィクション」だが、SFではないような気が…(笑)。
今回は「全般にはミステリー」で序盤は「+ホラー」後半は「+警察もの」でラストに「怪獣映画+ゾンビ映画」、最後の最後は「アクション」という変調しまくりの作風(笑)にしてみました。
ここまでのところ「甦る伝説」「シャドウズ」と来て、あと一作かニ作でぐるりと回るリングが完成しますな。
「甦る伝説」三部作というわけで…、できれば誰かに書いて欲しいところです……。
たとえば「甦る伝説」の主人公や小町ちゃん、「オレ」、ガメオ、オードリーといったあたりを総登場させて。
むずかしいか?
92 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/20(火) 02:04:35
ガメラのぴったりの演出に驚きました。
新しいストーリーを携えてのガメ男さんの出現も待ってました。
ガメ男さんがんばってね。
93 :
ガメ男:2005/12/20(火) 13:20:32
>>92 ちょっと時間が空くと思いますが、頑張ります。
それと、ムーとかアトランティスとかを出すのもこの作品で終わりにします。
ワンパターンになりやすいから・・
P.S. みなさん、風邪ひかないように。
最近極寒なんで、今の時期は治りませんよ〜私はズルズルです(苦)
94 :
あまぎ:2005/12/22(木) 01:53:44
>>93 暫くの間、僕やA級戦犯氏の変則的なゴジガメストーリーが続いただけに、
真っ当な世界に戻ってきたなって感じですね。
平成ガメラ3部作の正当な続編かと錯覚しそうな導入はお見事。
今後の展開が楽しみです。
> 最近極寒なんで、今の時期は治りませんよ〜私はズルズルです(苦)
風邪にはリポDのドーピングで (笑)
では、がんばってください。
95 :
ガメ男:2005/12/22(木) 12:40:12
>>94 ありがとうございます。
今、仕事中です。
多分連休最終日の25日に続きを書けると思います。
時間がかかってすみません・・・
96 :
A級戦犯:2005/12/22(木) 12:58:27
>>95 わたしは昨日風邪でダウンしました(苦笑)。
たしかに治りが悪いです。
ところで、変則的であることをもって個性を主張する向きが多くなっている世の中で、ガメ男氏のような正統派怪獣ものは貴重です。
ホントは正統派で在りつづける方がずっと難しい。
是非がんばってください。
もし間が空き過ぎると気になるなら、言ってもらえれば場繋ぎの幕間劇をニ三発投下しますよ。
97 :
ガメ男:2005/12/23(金) 10:48:30
>>96 あ、ご自由に、気にしないで投下してください。
もし長い話のようでしたら、そちらが終わり次第続きを投下しますので。
私の方はある程度書いたのですが、まだ投下するには量が中途半端・・さらに加筆中です。
早く完結させたいのですが、どうやら今日も昼から休日出勤になりそうです(涙)
98 :
ガメ男:2005/12/26(月) 02:49:47
<通信>
謎の一団と5体の怪獣はカナダを経由し北アメリカに上陸した。
もちろん陸・海・空のアメリカ軍は大パニックに陥っていた。
アジア・ロシア・ヨーロッパほどではないものの、ギャオスの恐怖はアメリカ本土にも及んでいたし、
国民の避難と主要施設への警護、さらには各国への部隊の派遣等、
いくら世界一の軍事国家といえど、すでに新たな敵に割ける軍事力など無い。
その前に、謎の一団がはたして敵なのか、あるいは味方なのか、それさえも分かっていないのだ。
5体の怪獣の中にガメラが存在している事を唯一の希望と見る意見もあったが、
もし人類の敵であるならば、人類滅亡の可能性が倍増すると言えよう。
そもそも新たなガメラはギャオスから人類を守ろうとして死んだガメラとは別物のはずである。
アメリカ国防省はあらゆる手段、あらゆる周波数で謎の一団と交信を試みていたが返答は無かった。
密かに軌道上の軍事衛星と大西洋に展開している原子力潜水艦から長距離弾道ミサイルが狙いをつけていたが、
あまりに突然の出来事に完全に攻撃のタイミングを逸していた。
今はただ、謎の一団は特に目立った動きもせず、行進しているだけである。
ミネアポリス〜シカゴ・・・そしてついに首都ワシントンへとたどり着いた一団は静かに動きを止めた。
ほどなく国防総省の司令部にいきなり強力な電波で通信が割り込んできた。
『我々はムー・・・あなた方人類の遠い親戚です。
今あなた方に降りかかっている恐怖を取り除きに来ました』
99 :
ガメ男:2005/12/26(月) 02:50:19
<メール>
「なんだって、そんなバカな!」
トロントのラボで電話を受けた道弥は思わず大声を上げてしまった。
「ムーって、あの12000年前に太平洋へ沈んでしまったと言われる超古代文明の・・」
「あぁ、僕の知る限りの情報をそっちにメールしといた、詳しくはそれを読んでくれ」
「ちょっと待って帯津さん、彼らは味方なんですか?」
「わからないよ、ただ、彼らの連れている怪獣たち、その一匹は明らかにガメラだ。
それから、彼らの代表がこっちに来た」
「え?会ったんですか?」
「遠くから写したモニターを見た程度だよ。
見た限りでは、彼らは人間とまったく変わらない。
どうやら大統領とも会ったみたいだし、なにやら密約を交わしたという噂もあるんだ」
100 :
ガメ男:2005/12/26(月) 02:51:38
道弥は電話を切ると帯津からのメールを開いた。
要約すると次のような内容だった。
ムーと名乗る一団は、およそ12000年前地球へやってきた異星人らしい。
彼らは彼らの乗ってきた宇宙船の故障によりしばらくの間地球へ住まざるを得なくなった。
当時の地球人より遥かに進んだ科学力を持っていた彼らは、地球人に建設技術や医学を教えた。
訳あってこの地球を離れた彼らは長い年月をかけようやく戻って来たらしい。
そして大量発生したギャオスを殲滅し、彼らの第二の故郷とも言える地球を救いたいとの事だ。
彼らはまず、ロシア・中国へと怪獣と軍隊を派遣して力を見せると言っている。
なお、彼らが連れている怪獣はガメラと、空を飛ぶやつがモスラ、4足歩行の2体がジャイガーとバルゴン
そして一番大きな2速歩行の巨獣がゴジラだと言っていた。
僕が手に入れた情報はこの程度だ。
でも、こんな話簡単に信じられるだろうか?
何か裏がありそうな気がするし、アメリカ政府の対応もどうも怪しく見える。
道弥君も僕も、彼らムー人と直接会うようなことは無いだろうけど、
色々と気をつけたほうが良いかも知れない。
そのころムーの怪獣軍団は数機の飛行物体を残し、ロシアへと向かっていた。
面白いです。僕のようなミーハーにはたまらない展開ですね。
102 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/27(火) 17:05:52
太古の歴史と怪獣、子供時代に戻ったような感覚でストーリーを読めるのがたまらないです。
103 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/28(水) 17:03:41
* ナレーション
「ペルセフォネを争うハーデスとデメテル、ヴィシュヌ神とヴリトラの戦い……、巡る季節の神話。
生と死と、夏と冬と、世界の支配をめぐり戦いは続く。
決着は永遠に訪れない……。」
「夏と冬の争い終るときこそ、終末到るとき。
ムスッペルハイムより燃ゆる剣レイバーテインを手にスルト現れ、……世界樹は燃え落ちん。」
空覆い尽くすギャオスの群れ。
迎え撃つはガメラと各国連合空軍。
プラズマ火球と殺人音波が飛び交う空中戦!
勝利はガメラと人類の手に!?
だが、
最後のギャオスが墜ちるとき……。
本当の戦いが始まる。
「再生の日」
来年もしヒマがあったら、粗筋書いて投下予定。
>空覆い尽くすギャオスの群れ。
迎え撃つはガメラと各国連合空軍。
プラズマ火球と殺人音波が飛び交う空中戦!
勝利はガメラと人類の手に!?
だが、
最後のギャオスが墜ちるとき……。
本当の戦いが始まる。
「再生の日」
これドキドキする内容ですね。僕はこういうのに弱い…
思いっきり期待してます。
105 :
ガメ男:2005/12/31(土) 04:43:42
<ギャオスへの攻撃・ロシア>
ロシアへ上陸したムーの飛行船団はギャオスの群れを取り囲むように大きく散開した。
数匹のギャオスが超音波を放ってきたが、その滑らかな銀色の船体にあっさり撥ね返されたようだ。
モスラとガメラは飛行船団の作る輪の上空へ凄まじい速度で上昇した。
ジャイガーは上空を舞うギャオスに向かって光線のようなものを発射した。
光線に当たったギャオスは次々と砕け散ってゆく。
ジャイガーの光線をかいくぐった1匹のギャオスが猛スピードでバルゴンへと突進して来た。
その時バルゴンがのばした舌から白い煙のようなもの噴射、ギャオスへと吐き掛けた。
とたんにギャオスの体が白く固まり、そのままバルゴンの巨大な角へと激突した。
次の瞬間、ギャオスの体は粉砕され、キラキラと輝いて粉々に砕け散った。
そしてゴジラは巨大な背びれを青白く光らせると、口から熱線を放ち、
次々とギャオスを焼き払い、まるで高射砲のように空を舞うギャオスを落としていった。
どうやら怪獣たちは飛行船団の作る輪の中からギャオスを出さないようにしているように見える。
やがて100機近い飛行船団は船体から金色の眩い光を放ち始めた。
まるでオーロラの光のカーテンのようなものが船団同士を繋ぎ、広大なエリアをぐるりと取り囲んだ。
光のカーテンは地上へまで到達し、ギャオスはそのカーテンを避けるように、近づこうとはしない。
そして上空から光のカーテンで囲まれたエリアへとキラキラと光るモスラの燐粉が降りそそいできた。
燐粉にさらされたギャオスの群れはもがき苦しみ、次々と地上へ墜落してゆく。
さらに上空からガメラのプラズマ火球が墜落したギャオスへと容赦なく発射された。
ゴジラ、ジャイガー、バルゴンもそれぞれ墜落したギャオスを焼き尽くし、破壊し、砕き潰してゆく。
まさに掃討作戦であった。
106 :
ガメ男:2005/12/31(土) 04:44:36
飛行船団から送られてくる映像を見ていたアメリカ大統領は驚きを隠せなかった。
「あ、あの怪獣たちをあなた方が作ったと言うのか?」
「そうです大統領、怪獣たちは我々の遺伝子操作と科学技術の結晶であり、
完全に我々によってコントロールされた兵器でもあります。」
ムーの代表の一人が答えた。
「そして世界中のギャオスを掃討する代償があなた方ムー人の地球への移住だと?」
「その通りです、我々は長く旅を続けすぎました。
この地球が我々を迎え入れてくれるならば、我々の持つ技術もすべて提供いたします。」
「しかし、あなた方の技術力があれば、他の惑星を居住可能な環境へ変える事も出来るのではないですか?」
これは大統領の側近の一人である科学顧問からの質問であった。
「我々は幾つもの不毛な惑星で、あなたたちの言うテラフォーミングを試してきました。
しかしあの怪獣達のように一つの個体ではコントロールできる生命活動も、
惑星全体ではそう簡単にはいかないのです。
何度試しても必ずどこかに歪が発生する。
テラフォーミングはあなた方人類が考えてるほど簡単ではありません。」
「しかし、なぜ今になって地球へ帰ってきたのですか?
今まであなた方ムー人はどこに居たのです?」
「我々はずっと地球に居ました。
違う次元の地球にですが・・・
長く苦しい時を超え、やっとの思いで元の次元であるこの地球へ帰ってきたのです。」
107 :
ガメ男:2005/12/31(土) 04:45:15
<ムーの消滅・12000年前>
アトランティス大陸は、当時地球上でもっとも進んだ技術と文化、そして教育が行われていた。
科学力はムー人の足元にも及ばないものの、彼らの知識欲は旺盛であり、
多くの科学者や知識人がムーへと招待されていた。
とりわけ遺伝子操作技術に長けていたムー人は、主に食料として多くの植物や動物の遺伝子を操作し、
その技術をアトランティスへと盛んに伝えていた。
しかしある時、アトランティス大陸から彼らの技術を学びに来ていた一人の人間が
ムーの研究施設から生物兵器であるギャオスの胚を盗み出し、アトランティスへと持ち帰ってしまった。
しかも、あろう事か勝手に培養して甦らせてしまったのだ。
ムー人が気付いた時にはすでにアトランティスで生まれたギャオスは爆発的に増えていた。
ほどなくアトランティスは壊滅の危機に陥ってしまった。
元々ギャオスはガメラのようにマナによってコントロールできる生物兵器として作られていたが、
長い旅の間の胚の保存が不完全だったのか、培養の失敗か、アトランティスで生まれたギャオスは
本能だけで行動する、怪獣と化してしまっていたのだ。
ムーではガメラを呼び覚ましたが、ギャオスの繁殖力は凄まじく、成熟が間に合わない。
幼体のガメラではギャオスをアトランティスから外に出ないように食い止めるのが精一杯であった。
108 :
ガメ男:2005/12/31(土) 04:45:52
ムーの人々でさえ手におえなくなってしまったギャオスがほかの大陸へ渡りを行う前に、
ついに彼らは最終手段を決行した。
マナによる空間の封印とアトランティス大陸そのものの異次元への転送である。
異次元といってもどこへ飛ぶか分からない、ただ可能と言うだけであって、
苦渋の決断であり本当に最終手段だった。
何とかアトランティスの転送に成功した彼らだったが、
自身もまた、巨大なマナの力を使用した反動により大陸周辺の空間が不安定になってしまった。
やがて1匹のガメラを残し、別の次元に飛ばされてしまったのだ。
彼らがガメラを残した理由は、ギャオスが万が一渡りを行っていた場合、
あるいはギャオスの耐久卵が何らかの理由でアトランティスの外へ出ていた場合を想定しての事だった。
ムー大陸(アイランド)の外に出ていて地球に残ったわずかな数のムー人達は
ガメラと共にギャオスの影を探した。
とりわけアトランティスの在った海域の調査は入念に行われた。
その結果、海底から数個のギャオスの耐久卵を発見、それを破壊した。
しかし、数個の卵が発見されたと言うことは、他にも存在する可能性は捨てられない。
その後数世代にわたる探索が行われたが、結局ギャオスの卵は発見されず、ついに探索は打ち切られた。
彼らはガメラにギャオスを感知する能力を持たせ、今後どこかでギャオスが発生したら
ガメラも共に目覚めるようにして、ガメラを永い眠りへと就かせたのだった。
やがて彼らは人類との何世代にもわたる交わりにより、
血は薄れ、知識も、マナを感じ取る能力も消えていってしまった。
109 :
ガメ男:2005/12/31(土) 04:50:39
一方多次元宇宙の別次元に飛ばされたムー大陸(アイランド)は完全に宇宙船としての機能が破壊されてしまった。
しかも、彼らが飛ばされた次元では、地球はまったく違う様相を示していた。
あるいは同じ地球の過去へ時間を遡ったのかもしれない。
彼らのたどり着いた地球では、恐竜が地球を支配していたのだ。
恐竜から身を守るすべが必要になったムー人はガメラに加え、
恐竜の遺伝子を取り込んだ新たな生物兵器を作り出した。
そして長い長い年月をかけ、元の次元を特定し、元の地球へ戻る研究が開始されたのだった。
つづく・・・
飛び飛びでスミマセン。
正月は色々あるので、またちょっと空きます。
てか、面白いでしょうか?
突っ込みどころ満載でしょうが、一応最後まで書かせていただくつもりです。
皆さんよいお年をお迎えください。
>ガメ男さん
面白いですよ。
スケールが大きくて豪華な感じがどことなくvsシリーズっぽいです。
111 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2005/12/31(土) 16:14:29
ガメ男さんいつも夢のあるガメラストーリーをありがとうございます。
皆さん良いお年をお迎えください。
新春特別企画!
「我々は……M宇宙ハンター星雲、ブラックホール第三惑星、X星、第10惑星、バイラス星、ザノン………の代表である。」
地球に飛来した複数種類の円盤群!
「今回宇宙連邦法廷においてキミたち地球人の惑星統治者としての適格性が問題となり……、地球人から地球統治権を剥奪することが決まった。」
地球上の全てのコンピューターは会戦による接続の有無や電源のオンオフに関わらず、一切が宇宙人の支配下に!
「……我々の力は見てのとおりだ。だが、我々知的生命体は戦争などという野蛮な行為は行わない。」
次々と地球に降下する怪獣群!!
「それぞれの惑星を代表して送り込まれる怪獣の勝敗によって、地球の統治権を争う…。」
そして……。
「もちろん地球人にも参加権は与える。自分たちの代表怪獣を選ぶがいい。」
M宇宙ハンター星雲代表=未来怪獣ガイガン!
ブラックホール第三惑星代表=機龍メカゴジラ!
X星代表=千年竜王キングギドラ!
第10惑星代表=大悪獣ギロン!
ジグラ星代表=超音波怪獣ギャオス!
バイラス星代表=宇宙昆虫レギオン
ムー帝国代表=大邪獣ガラシャープ!
ゼットン星代表=宇宙恐竜ゼットン!
宇宙の帝王ゴアは自ら冷凍怪獣ゴアゴンゴンに変身!
そして我々人類の代表は!?
ガメラか?ゴジラか?
地球の代表枠「1」を巡り、激突する大怪獣!
だが!?
「ボクはヤンキースでの優勝を第一に考えたい」出場辞退を臭わすゴジラ!?
一方唯一四回転ジェットができるガメティことガメラは絶不調!
そんななか、並み居る競合を押しのけGPファイナルで優勝したのは出場資格の無い若干15歳のミニラだった!!
ジャイアント出刃包丁ギロン対チェーンソウのガイガン!
一兆度のゼットン火球対絶対零度のゴアゴンゴン!
戦闘機ギャオス対爆撃機キングギドラ!
幼いミニラは強豪怪獣を向こうにまわしどう戦うのか!?
日本フィギュアスケート連盟推薦拒否!
国際フィギュアスケート連盟「ノーコメント」!!
A級戦犯が小松左京作「人類裁判」をパクり、空前の規模でお送りするバカ話。
「地球統治権争奪!/怪獣GP!トリノへの道!」
……
…………なんて話を新春早々投下してどうする(笑)。
>>113 >地球の代表枠「1」を巡り、激突する大怪獣!
>だが!?
>「ボクはヤンキースでの優勝を第一に考えたい」出場辞退を臭わすゴジラ!?
ここまでで吹いたw後は読んでない
115 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:05:22
<レッド・サン>
数日にわたりムーの一団はロシア全域のギャオスを殲滅すべく次々と移動を繰り返していた。
いくらギャオスが相手とはいえ、それは容赦のない殺戮と言えるものであった。
圧倒的なムーの戦力により、ギャオスはみるみる数を減らしていった。
また、バルゴン、ジャイガーの2体はギャオスの卵を見つけ出し破壊していった。
「まったく凄い、凄まじい威力だ。」
国防総省の会議室でモニターを見ていたドナルド・コーウェン国務長官は続けた。
「しかし彼らの怪獣兵器が我々人類に牙を剥く可能性が無いとは言えんのではないか」
「聞くところによると彼らムーの人口は約2億、今現在そのほとんどは冷凍保存された胚として母船に在ると言うが
ギャオス殲滅が完了し、この地球に移住を始めたとしたら、完全に世界のパワーバランスは崩壊する」
「これはギャオスを巧みに利用した侵略ではないのか?」
「彼らの技術は危険だ。」
次々と意見が飛び交う中、パーマー大統領は言った。
「しかし、ギャオスの脅威から我々人類を守るためには彼らの戦力に頼るしかないのが現状だ」
116 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:05:58
「もちろんそうです、我々に残された手段はすでに核による攻撃しかない」
言ったのはジェラルド・F・マーシャル将軍だった。
「将軍、それは許されない」
「大統領、我々はギャオスの脅威からアメリカ国民を守らなければならない、
と同時に、ムーなどと言う分けの解らない輩を信頼しろと言うのも無理なことです。
それに、私は何も世界中に核をばら撒けと言ってるわけではない」
「どういう事だね」
「彼らムーの戦団はロシアと中国のギャオスをほぼ殲滅、
現在最もその数が集中している日本へと向かっています。
我々の把握しているところによれば、もしその発生源ともいえる日本のギャオスを全滅させることが出来れば
アメリカ本土はもちろん、世界中に散らばったギャオスを絶滅させる事はムーの力を借りなくても可能なのです。
事実、ユーラシア大陸からギャオスの恐怖が消えた今、我が軍は以前とは比べ物にならないほど
作戦行動が自由になった」
117 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:06:57
マーシャル将軍は少し間を置いて皆を見回すとさらに続けた。
「このままムーにギャオスの殲滅を続けさせるのもいいでしょう、
しかし、その後彼らの侵略が始まったとしたら、我々には対抗するすべがあるでしょうか?
あの100機あまりの飛空船団と怪獣の一団だけであの戦闘力なのです。
2億のムー人が我々の地球に侵略して来たら、ギャオスの恐怖どころではありません」
「しかし将軍、何も彼らの目的が侵略だと決まったわけではないではないか」
「だとしたら国務長官、あなたは彼らの目的が何だと考えられておられる?
彼らの言い分を鵜呑みにしますか?
本当に単なる移住だと?
彼らが言うようにムー人が侵略など考えない平和主義であり、安住の地を求めているだけだとしたら
なぜギャオスやガメラといった破壊兵器を持っているのです?
ギャオスを作り出したのが彼らだと言うことを忘れてはなりません」
「我々も大量破壊兵器を持っているじゃないか、同じだよ将軍」
「核、ですか・・・
核も使いようなのですよ。
幸い現在ギャオスとムーの一団は東洋の小さな島国に集まりつつある
そしてその島国はすでに壊滅状態であります。」
将軍はもう一度皆を見回して言った。
「大統領、私はここに一つの作戦を提案します。
作戦名、レッド・サン。
一つの島国を犠牲としますが、ギャオスとムーの脅威から人類を守る最良の作戦だと自負します」
118 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:07:40
<マナ>
僕らはムーの遺伝子技術者と会うことになった。
ギャオスへの対抗手段と彼らとの技術交換が目的だ。
僕らはたくさんの質問をした。
彼らの知識は壮大でとても一朝一夕には理解できるものではないが、とても面白く興味が沸いた。
彼らの技術者代表はラナという女性だった。
とても知的で嫌味が無くすばらしい女性に思えた。
彼女はガメラやギャオスとの意思の疎通や感応素子としてのマナについて語っていたが、
僕には理解できなかった。
また、多次元宇宙と次元を超える技術についても話していたが、量子力学に関する話で、
これまた僕にはさっぱり解らなかった。
そしてマナについても色々と質問してみた。もちろん他の優秀な科学者の人たちからの質問が殆どだけど・・
色々な話を聞いて僕に理解できた事柄を書き出してみると・・・
・彼らの技術はマナの理解が基本でありすべての元となっていること。
・世界のすべてはマナによって満たされ、動かされ、存在するということ。
・マナは無限であること。
「結局のところ、マナとはいったい何なのです?」
その質問に彼女はこう答えた。
119 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:08:30
「有機物であれ無機物であれ、我々の世界に存在するあらゆる物質は
原子や分子、粒子、素粒子など、突き詰めていけば同じであり、
それは言わば運動するエネルギーの波なのです。
このことはあなた方の物理学でも理解されていることでしょう。
しかし、電子や素粒子を運動させているエネルギーはどこから供給されているのでしょうか?
そのエネルギーの波、絶え間なく変転するエネルギーの仮相こそがマナなのです。
つまりあらゆる物質と空間、時間の間さえをも満たし繋ぎとめているエネルギーの波動、
それを私たちはマナと呼んでいるのです」
さらに彼女は続けた。
「物質と物質の間にはお互いに引き付ける力、引力が発生します。
引力は質量の大きなものほど強く小さなものほど弱い。
それは大きな物質ほど多くのマナを利用してその形状を保っているからです。
つまり2つの物質を近づけると物資間でマナを奪い合おうとするのです。
結果的に物質同士が引かれ合う、それが引力です。
しかしマナはこの宇宙空間に無限に存在します。
そのおかげで2つの物質は崩壊せずにすむのです。
そして2つの物質の間に十分な量以上のマナを送り込んでやると引力の制御さえ出来ます。
つまり、ガメラも私たちの宇宙船も宙に浮くことが可能なのです。」
「ちょっと待ってください、今マナは無限だと言われましたね?
我々は環境の悪化や破壊がマナを減少させその結果ギャオスが復活したと、
そしてマナの消費の中心が日本であり、ギャオスは日本を目指したのだと思っていたのですが・・」
「それはありません。
ギャオスが日本を目指した理由は単なる帰巣本能です」
120 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:09:57
「帰巣本能?」
「そうです、鳥類や魚類が持っている帰巣本能はマナの匂いを追っているのです。
あなた方は地磁気を読んでいると考えているようですが、
我々の母星でも、この地球でも、過去に何度も地磁気の逆転は起こっています。
その際一時的に地磁気そのものが消える事も起きるのです。
帰巣本能を持つ動物が地磁気を読んでいるのなら、何年もかけて起こる地磁気の逆転の際に
下手をすれば絶滅の危機に瀕しているはずです。
しかし我々の知る限り、地磁気の逆転の時期にある個体種が大量に姿を消した事実はありません。」
「しかし、あなたの言う通り帰巣本能だとして、ギャオスはなぜ日本へ」
「ギャオスの生まれ故郷は我々と同じムーの母星です。
地球で生まれたギャオスは我々ムーのもつマナの残り香を探して飛んできたのです。
古代、太平洋に降り立った我々ムーの母船はすでに姿を消していましたが、
我々ムー人が最初に人類と接触した場所こそが日本でした。
そしてムーの血筋が一番濃く受け継がれているのも日本なのです。」
「しかしマナに匂い、と言うのも変な感じがしますが」
「匂いと言うのが変なら、固有の波動と言った方がいいでしょう。
我々は感覚的に匂いと表しているに過ぎません。
マナはこの宇宙空間の96%以上を満たしている、ほぼ無限と言って良いエネルギー波動です
そして個体によってすべての波動が違うのです」
ラナは少し考えてこう付け加えた。
「あぁ、一つ思い出しました、正確では在りませんが、
こう言った方があなた方には分かりやすいかも知れません。
マナとはダークマターなのです。」
121 :
ガメ男:2006/01/09(月) 18:14:26
トリノへの道・・・読みたい。
122 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/10(火) 00:14:41
ガメ男さん、説明も推理もすばらしいですよ。
123 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/11(水) 08:42:07
ゴメラVSガジラ
パロディ映画で見てみたい。
大魔人の復活はいつなのか、やはり生贄が必要なのか?
清純無垢な穢れない乙女がいない現代では、復活は無理なのか。
>>121 半分バカで半分マジのスタイルで粗筋を組んでみようと、小松左京氏の「人類裁判」を本屋で捜してみたが……。
ないっ!?
どこにもないっ!
昔はどこの本屋にも文庫ホンでズラリ並んでいたのに。
日本の作家では一番好きなうちの一人なのに。
むちゃくちゃ変則的だった前作の駄文も、実は小松左京氏のある作品が隠しテーマになっていた。
たぶん絶対見破れないと思うが……。
不正確な引用だが、こういうフレーズが出て来る作品だ。
「生命は人間であることを止めても、生き残ろうとする」
これも再読したいのに……売ってない。
どこにも売ってなあーーーいっ!!
………涙。
125 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:04:26
一通りラナとの質疑応答が終わった後も僕と大迫さんは会議場に残っていた。
トロントへ戻る軍の飛行機が出るまで少し時間があったからだ。
アメリカ本土に残り、ギャオス殲滅に向かわなかったムー人は、ラナをはじめそのほとんどが
物理学者や遺伝子学者などの科学者である。
別室でもそれぞれムーの科学者と人類の科学者による会議が行われていたはずだ。
僕らは会議室の割と前の方に座っていた。
ほとんどの人たちはすでに会議室を出ていた。自分のオフィスにでも帰ったのだろう。
他には2人の科学者らしき白衣の男女が入り口の近くで盛んに意見を交わしている。
あとはラナ本人と彼女の世話係りらしき女の人が何か話していた。
「いやぁ、わしにはサッパリ分からんかったばってん、何か凄か事ば話よったねぇ」
「ええ、僕も全部理解できたわけじゃありませんが、結構衝撃的な内容でしたよ」
その時突然ラナが頭を押さえ崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「ど、どげんした!」
さすがに元警察官、大迫さんは真っ先にラナの元へ駆け寄り肩を支えた。
僕も思わず後を追ってラナの元へ駆け寄った。
ラナの係りの女の人は、あわてて携帯端末でどこかに連絡している。
「・・今、ものすごいマナの崩壊が・・・」
そういったラナの胸元には今にも破裂しそうなほど強く輝く例のマガタマが揺れていた。
いきなり会議室のドアが激しく開けられると、武装した軍の兵士数人が部屋になだれ込み、
僕らを囲み銃口を向けた。
「なんね、あんたら!この姉さんが何ばしたとね!」
126 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:05:09
<日本完全破壊>
少し前、北海道方面から南下しながらギャオスを駆逐し続けていたムーの怪獣軍団は九州に到達した。
例によって飛行船団はマナによる光のカーテンでギャオスの潜むエリアを囲み、
地上と上空から怪獣による攻撃を始めようとしていた。
そしてそのタイミングに合わせるようにして、遥か上空の衛星軌道から数発の核ミサイルが発射された。
密かにムーの一団を追尾していた米原潜からも戦術核ミサイルが発射された。
日本とそして、韓国・北朝鮮にも核のキノコ雲が・・・
「着弾を確認、ムーの船団消滅」
「おい、あれは」
「ガメラ、南東へ逃げます」
「なに、他の怪獣は」
「現在のところその影なし、消滅したものと思われます」
「よし、ガメラの補足を続けろ」
米国防総省司令部においてレッド・サン作戦がついに決行されたのだ。
ギャオスによる人類滅亡の危機、ムー人の侵略に対する防衛、二つの建前の下
アメリカはどさくさにまぎれて北朝鮮をも消し去った。
同時にアメリカ本土に残る数人のムーの科学者と3機の飛行船は軍により捕獲、武装解除された。
127 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:06:08
「ウィッテン博士、次元の変化は?」
「今のところ次元異常は認められないよ」
量子物理学者のエドワード・ウィッテン博士は次元の乱れを検知する、
次元レーダーともいえるシステムを作り上げていた。
第二、第三のムーの侵攻を事前に察知するためである。
博士の説によると、次元を超えて物質が現出した場合、その後数分間は、
現れた個体の原子が安定するまで行動は不可能であるという。
最初にムーの一団が現れたのが、ギャオスの居ない北極であったのもそのためだ。
次元レーダーの監視により、次元の乱れを事前に察知する事により、
先制攻撃による新たな次元侵略の防衛になるというのだ。
1999年、レッド・サン作戦により、日本は完全に破壊された。
イリスの事件の後、ギャオスによる攻撃が始まった頃から、多くの移民団が世界各地に散って行ったが
帰る故郷が無くなった日本人の血はこのまま薄れて、いつしか無くなってしまうのだろうか。
遥か昔、この次元の地球に取り残されたムーの子孫と同じ運命をたどる民族になってしまった日本人が、
ムーの血を一番濃く受け継いでいるとは皮肉なものだ。
しかし、日本を中心としたアジアの一角と、やがて汚染が広まるであろう太平洋を
アメリカはどうするつもりであろうか?
だが、アメリカは放射能を中和する事が可能である事をも、ムーの科学者から聞き出していた。
そしてムーの科学者は今やアメリカの手の中にあり、ついにアメリカは世界を手に入れたと言える。
強いアメリカ、世界一のアメリカ、それはアメリカ悲願であり夢であった。
128 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:09:26
<マガタマ>
ラナが別室へ連れられて行く間、僕らは付き添った。
大迫さんはラナに肩を貸していたが、やがてラナは自ら歩き出した。
前後を兵士が囲み、廊下を歩くその時の僕たちには事情がサッパリ分からなかった。
『・・聞こえますか?・・』
いきなり、僕の頭の中にラナの声が響いた!
びっくりした僕は思わずラナを見たが、ラナは何事も無かったように前を向いて歩いている。
大迫さんは驚いた表情で僕を見ている。
大迫さんにも聞こえてるんだ。
そして兵士の様子は何も変わらない。という事は、ラナは僕と大迫さんにだけ話しかけている。
テレパシー?・・・そんな馬鹿な!
しかし、ラナの声は続いた。
・・何も話さないで、そのまま聞いてください・・
129 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:10:04
・・何か恐ろしい事が起こっています・・
我々の軍隊や怪獣たちの反応が消えました。
唯一ガメラだけは被害を免れ、現在海底に避難しました・・
・・ガメラは私の持つマガタマでコントロール可能です。
私や、おそらくここに残ったムーの科学者たちは監禁されるでしょう・・
・・その前にあなた方にこのマガタマをお渡しします・・
彼らにガメラを渡さないで、ガメラを守ってください。
きっとガメラが最後の希望となります・・
・・心配しないで、チャンスを見つけ、この施設の地下へ行くのです。
そこにガメラを操る事が出来る人間の巫女が居ます。
私は彼女の波動を感じています。
彼女はガメラの存在を、そしてガメラもまた彼女の存在を感じています・・
・・ただ、十分気をつけてください・・
ガメラの他に、禍々しい、恐ろしい、怒りに満ちた何かの存在を感じます・・
130 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:11:03
兵士が立ち止まり一室のドアを開けた。
「肩を貸していただき、ありがとうございました」
ラナは今度は声を出してそう言った。
そして大迫さんに手を差し出し握手をした。
「部屋に入ってください」
兵士は丁寧だが有無を言わさぬ口調でラナに言った。
彼女は僕と大迫さんを順番に見つめると、静かに部屋へと入って行った。
「道也君・・」
僕らは元の会議室へ向かい、その途中で大迫さんは握った手を開いて僕に見せた。
その手には握手の際に密かに渡されたラナのマガタマがあった。
131 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:12:16
南太平洋の水深1000m付近を米原子力潜水艦ヴァージニアは任務を終えアメリカ本土へと向かっていた。
「艦長、前方から何かが近づいてきます」
「なに?まさかガメラが」
「いえ、ガメラより巨大です・・
こ、これは、この動きは生物と思われます」
「ガメラより巨大な生物?そんな馬鹿な!ガメラ以外は日本で消滅したはずだぞ!」
突然ヴァージニアを激しい衝撃が襲った。
巨大な生物の長い尾が下からヴァージニアを突き上げたのだ。
海中できりもみ状態に陥ったヴァージニアを巨大な爪が掴み、巨大な牙が噛み砕いた。
その目は怒りに満ち、真っ赤に輝いている。
アメリカ海軍が誇るUSS Virginia SSN-774原子力潜水艦は、何も出来ぬまま
謎の巨大生物により破壊されてしまった。
やがて謎の巨大生物は青白く背びれを光らせながら、アメリカ方面へと泳ぎ去った。
132 :
ガメ男:2006/01/15(日) 11:19:04
え〜、年末からこっち、仕事の関係で、すっかり休みの日か、
休みの前の日にしか書けなくなりました。
スレを止める結果になって申し訳ありません。
次に他の話を書く事があったら、全部書いてから投下します。
ところでこの話は、後1回か2回の投下で終わる予定です。
もう少しで終わりますので、その後は皆さんの暖めてる話を思う存分投下してください。
# 今日の夜、根性があったら続きを書くかも・・・
133 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/15(日) 16:44:21
がんばれガメラ!強いぞガメラ!
続きを期待しています。
134 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/15(日) 17:45:29
しかし、アメリカっていつの時代も怖い国ですね。
文学系スレで、ただ「保守age」と書くのも芸が無い…。
「トリノへの道」構成開始。
いまのところ登場決定しているのは…。
キングギドラ、メカゴジラ、ガイガン
ギャオス、レギオン、ギロン
ゼットン、ベロクロン
ゴアゴンゴン
ギララ
ガッパ
ギラギンド
ゴジラ
ガメラ
ミニラ
…………と。
これだけ出して、果たしてちゃんとした駄文になるか(笑)?
あれだ、ゴジラとジャガーでパンチパンチパンチ
138 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:11:46
<ムーからのメッセージ>
国防総省は騒然としていた。
原子力潜水艦ヴァージニアの謎の沈没と巨大生物の接近が確認されたからだ。
巨大生物は海中を泳ぎ、ロサンジェルスに近づいていた。
アメリカ海軍第3艦隊及び第7艦隊はロサンジェルス沖に集結、
上空からは早期警戒機E2-Cホークアイが巨大生物を追尾していた。
「目標上昇、海上へ出ます」
巨大な水しぶきを吹き上げ、海軍防衛網の只中にその姿を現した生物はゴジラだった。
不気味に周りを睨みつけるゴジラの圧倒的な姿に時間が止まったかのように思えた次の瞬間、
いきなりゴジラは上空のホークアイに向かって熱線を吐きかけ破壊した。
それが合図かのように、一斉に攻撃が始まった。
すでに上空待機していた戦闘機、爆撃機による波状攻撃、ミサイル巡洋艦による攻撃。
ゴジラは凄まじい爆煙に包まれ、その姿が肉眼では捉えられないほどである。
さしものゴジラもこの圧倒的な火力の前に行動不能に陥るだろうと誰もが考えていた。
しかしゴジラは、もうもうと立ち込める煙の中で背びれを光らせ、青白い熱線を放ち次々と艦隊を破壊して行く。
通常兵器ではまったく歯が立たない。
ロサンジェルス上陸は時間の問題であった。
その頃、NASAは月の裏側から巨大な飛行物体が姿を現すのを確認、飛行物体は一気に地球の大気圏に侵入してきた。
ムー人は次元を超え現在の地球に現出する時、同時にその本体とも言えるアイランドを
月の裏側の空間へ転送していたのだ。
長い年月の末、本来の宇宙航行の機能を取り戻していたアイランドはやがて国防総省の上空にその姿を現した。
一つの州ほどもある巨大な姿は、ヴァージニア州全体を覆い、太陽の光を遮った。
139 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:12:35
軍司令部のすべてのモニターに彼らの代表らしき姿が映し出されこう告げた。
「我々の目的は第2の故郷であるこの地球を救い、あなた方と交流し出来ればここに永住し
共に繁栄してゆく事でした。
しかしあなた方の行為は我々を裏切り失望させました。
ムーの最高議会は先ほどこの地球を去り、再び長い旅に出発する事を決定しました。
あなた方の行う環境破壊、戦争、あなた方の持つ暴力性・・
我々は遠い昔、アトランティスの研究者がギャオスの胚を盗み去った時に気付くべきだったのです。
あなた方の本質が、力への欲求であり、物質への欲求であり、支配欲により突き動かされている事を。
先ほど現れたゴジラはあなた方の攻撃により、完全に我々のコントロールを離れ狂ってしまいました。
もう我々にはどうする事も出来ません。
そちらに送った我々の代表は、先ほど自ら命を絶ちました。
彼らの記憶や情報は定期連絡によりデータ化されて我々が把握しています。
もちろん彼ら全員のDNA情報もこの船に保存されています。
これから共に長い旅に出る大切な仲間なのですから。
確かに我々はあなた方の世界に干渉しすぎたのかもしれません。
・・・ガメラを残してゆきます。
あなた方の中にも、何かを手に入れるためではない、無償の愛が、純粋な愛の力がある事を期待します。
その力を持つものだけがガメラを蘇らせる事が出来るでしょう。」
いきなり通信は切れ、アイランドは宇宙へと上昇し始めた。
140 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:13:23
誰かが叫んだ。
「くそっ!そもそもあいつらが地球にギャオスなんか持ち込んだのがいけないんじゃないか!
いきなり現れて地球を引っ掻き回して、いったいどうしてくれるんだ!」
しかし彼らムー人の言い分は勝手な事なのだろうか?
いや、はじめにギャオスを蘇らせたのは人類であり、彼らの好意を裏切り、背中から襲い掛かり、
すべてを台無しにしたのも人類である。
少しでも彼らムー人の言い分が勝手だと思う気持ちこそ、身勝手な人間の本質なのだ。
141 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:13:53
<ゴジラ上陸>
ゴジラはついにロサンジェルスに上陸した。
熱線を吐き、巨大な尻尾を振り回し、暴虐の限りを尽くすその姿はまさに破壊神である。
そして上空には数匹のギャオスが旋回する姿も見える。
大幅に数を減らしたとはいえ、ムーの軍隊はギャオスを絶滅したわけではないのだ。
ムーを消し去った後、残ったギャオスは世界各地に軍を派遣し絶滅させる手はずであった。
世界各国の国力が疲弊した今、それにより効率よく世界を掌握するつもりであった。
しかし今やそれどころではない。
一匹の怪獣により自国が危機に瀕している。
なにしろ世界に誇る軍の攻撃がまったく効果をあげないのだ。
怒りに満ちたその目は全てのものに恐怖を与え、立ち並ぶビルや逃げ惑う人々、
勇気を振り絞って攻撃してくる軍隊、兵器、それら全てを焼払ってゆく。
パニックとも言える状態に陥った軍司令部で僕たちはラナの言葉に従って、地下へと降りて行った。
さまざまな部屋が並ぶ廊下を兵士や制服姿の軍人が走り回っている。
その中に数人白衣を着た研究員らしき人の姿も居た。
「道弥君、地下へ来たとはよかばってん、どこへ行けば良いとやろ?」
両側に同じようなドアが並ぶ場所へ来たときに大迫さんが僕に聞いてきた。
そんな事僕にも判るはずが無い。
その時、大迫さんの上着のポケットのあたりが中からぼんやり光っているのを見つけた。
「大迫さん、それ・・」
大迫さんが不思議に光るポケットから取り出したのはラナから受け取った例のマガタマだった。
開いて僕に見せる大迫さんの手のひらの上で、マガタマがくるりと向きを変えた。
尖っている方が斜め右のドアを指している。
142 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:14:47
「あそこへ行け、ちゅう事やろか?」
「考えていても仕方ない、行ってみましょう」
僕らはマガタマが指し示すドアを開けたようとした。
くそっ、鍵がかかっている。
僕と大迫さんは顔を見合わせて、思いっきりドアを蹴破った。
「大迫さん!道弥君・・」
「先輩・・・」
そこには大学の先輩で鳥類学者、大迫さんと並んでギャオスの第一発見者である長嶺真弓が居た。
そしてもう一人。
「ほら見てんしゃい、長峰しゃんが死ぬわけはなか、おいが言った通りやろが!
それにあんたも、よう生きとったねぇ」
「あなたは・・」
「道弥君、こちらは私が話していた・・」
「草薙浅黄です」
先輩の横に座っていた女性は立ち上がって僕にそう言った。
143 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:15:55
「そうや、あんたが、あんたがおるちゅう事は・・」
大迫さんは浅黄に手を開いてマガタマを見せた。
「これは・・・」
浅黄はそっと大迫さんの手からマガタマを受け取るとじっと見つめた。
するとマガタマは暖かな明るい光を放ち始めた。
「道弥君、何があったの?
私たちはここに連れてこられてずっと軟禁状態で外の事が何も分からないのよ」
そう先輩が言った時だった。
ものすごい音と共に建物が振動した。
「と、とにかくここを出ましょう、話は後です」
僕らはさらに騒ぎが大きくなっている建物から脱出するべく走り出した。
ロサンジェルスが崩壊してゆくさまをモニターで見ていたマーシャル将軍はさすがに焦っていた。
「くそっ、アヤナ・ヒラサカの状況はどうだ?」
ボタンを押し通信機に向かってそう叫んだ。
「まだ脳波が安定しません」
「行動は可能なのか?」
「可能ですが、どこまでこちらの意思が通じるのか予測できません。
現段階での作戦行動は無謀かと・・」
144 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:16:39
連絡を聞いたマーシャル将軍は逡巡した後、苦い顔でこう言った。
「イリスを出撃させろ」
「え?し、しかしまだ危険です」
「これは命令だ!」
<脱出>
ドサクサに紛れ建物の外に出た僕たちは、一匹のギャオスが建物の4階の部分に突っ込んでいるのを見た。
対空砲で打ち落とされた生き残りのギャオスが僕立ちの居た建物に突っ込んだのだ。
さっきの振動の原因だった。
軍の警備や攻撃によって、この辺ではめったにその影も見る事が無かったギャオスだが、
ゴジラの出現と共に生き残っていた個体が各地で活性化しているような気がする。
そんな事を考えていた時、新たなギャオスが空から舞い降りて来た。
兵士が武器を手に狙いを定め攻撃を始めた。
「まだこんなに生き残っとるやないか!」
物陰に隠れながら大迫さんが言った。
「大迫さん、あそこ」
僕はギャオス攻撃に駆けつけた兵士が乗っていたジープを見つけた。
僕たち4人はジープに乗り込み、大迫さんの運転で軍の建物から離れ走り出した。
ジープにはマシンガンが一つ、それと弾薬などが入った箱、その中には手榴弾も3つ入っていた。
145 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:17:30
道すがら僕と大迫さんは今までの経緯を先輩たちに話し、先輩たちからも話を聞いた。
それによると、先輩たちはイリスの事件の後、軍に保護されあの建物に軟禁されたらしい。
外部の情報が一切遮断され、毎日のようにギャオスの事やガメラとの意思疎通について質問され
浅黄はさまざまな検査もされたそうだ。
また、保護された時には比良坂綾奈も一緒だったが、すぐに離され、違う施設に移されたとの事だった。
また軍はイリスの死骸から一部を持ち帰った可能性があるそうだ。
僕らはとりあえず北に向かった。
できればトロントの研究施設に戻るつもりだったのだ。
「あっ」
マガタマを両手でしっかり握り締めていた浅黄が、いきなり空を見上げ、声を上げた。
次の瞬間、僕らの上空を巨大な物体が飛び去った。
「ありゃぁ、まさか・・・」
「綾奈ちゃん・・」
僕らの上空を飛びすぎていった物、それは紛れも無いイリスであった。
146 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:24:35
「浅黄ちゃん、今綾奈ちゃんって・・・まさか」
「あのイリスから綾奈ちゃんの波動を感じます。
また融合したんだわ・・・いや、させられた・・・」
「なんだって?
軍は持ち帰ったイリスの細胞をクローンして復活させたとでもいうのか?
そしてまた比良坂綾奈と融合させたとでも?」
怒りを禁じえない僕の隣で、草薙浅黄は静かに目を閉じマガタマをさらに握り締めた。
「ガメラ・・・早く・・・」
<イリス降臨>
破壊を続けるゴジラの前に触手をくねらせ、イリスが静かに降りてきた。
立ち止まったゴジラはイリスを睨みつける。
と、突然ゴジラが動いた。
ぐるりと体を反転させると、その巨大な尻尾をイリスに叩きつけた。
が、寸前、イリスは空中に浮かび触手の一本をゴジラの尻尾に突き刺す。
そしてゴジラからエネルギーを吸い始めた。
ゴジラは尻尾を振り回してイリスを振り払おうとするが、空中に浮揚しているイリスは離れない。
ついにゴジラは熱線をイリスの触手に向け発射した。
イリスは熱線を避け、触手をゴジラから離すと、今度は左右の触手の先から光線を発射、
ゴジラの肩の辺りに命中した。
しかしゴジラも弧を描くように、触手に向け発射した熱線の向きを変え、そのままイリスに浴びせたのだった。
イリスの触手が一本弾け飛んだ。
ゴジラもイリスの攻撃にバランスを崩し、近くの高層ビルにぶつかりビルと共に倒れた。
倒れたゴジラの上に崩壊したビルの瓦礫が降りかかってくる。
イリスはさらに高度を上げ、ゴジラと崩壊したビルの瓦礫の真上に位置を変えた。
残った3本の触手から、さらに光線を発射し半分瓦礫に埋まったゴジラを攻撃し始めた。
いきなり瓦礫の下からゴジラの熱線がイリスを襲った。
まともに食らったイリスは弾き飛ばされ墜落、仰向けに倒れてしまった。
ガラガラと瓦礫を押しのけ立ち上がったゴジラは、恐ろしい形相でイリスに向かってゆく。
「脳波パターン異常!こちらのコントロールを受け付けません!」
「アヤナ・ヒラサカの意識は激しいショックにより完全に飛んでいます」
クローン・イリスを作り上げ、比良坂綾奈を再び融合させた研究施設のコントロールセンターで
モニタリングしていた職員が叫んだ。
「くそっ、だから危険だと言ったんだ!」
ゴジラは倒れたイリスを踏みつけ始めた。
勝利を確信したかのように一声吼えると、背びれを青白く光らせ、最後の一撃を放とうとしている。
その時、イリスの体が眩く発光した。
触手をゴジラに絡ませ立ち上がったイリスは、虹色の薄い膜のような物を広げ、
今度はゴジラに触手を巻きつけ始めた。
「何をしているんだ?」
「まさか、ゴジラと融合を・・」
光に包まれ一体となったゴジラとイリスは益々その輝きを増した。
イリスは残った触手を全てゴジラに突き刺し、ゴジラの生体エネルギーを吸い始めた。
虚ろな意識の中に突然激しい意識の波動が飛び込んできた。
比良坂綾奈は流れ込むゴジラの意識に触れ覚醒した。
そして悟ったのだ。ゴジラの中にあるのは怒りではなく、激しい悲しみである事を。
ムーの人たちの中にある悲しみ、そして人類への哀れみ、ゴジラの背負わされた宿命・・・
突然比良坂綾奈は全てを知った。
『そう、そういう事だったの・・・全ては未来のため・・そうよね?ゴジラ』
次の瞬間、イリスとゴジラを包む光が大きく膨らみ大爆発を起こした。
「おい、どういう事だ!何があった?」
「オペレーター、すぐに確認しろ!」
オペレーターの女性がすぐに答えた。
「イリス、消滅しました。ゴジラは・・・・」
激しい爆煙の中からゆらりと揺れながらゴジラの姿が浮かび上がった。
閉じていた目を静かに開くと、ゴジラは再び前進し始めたのだった。
149 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:28:30
数時間後、緊急滋養に作られた臨時の大統領執務室へ側近の一人が慌てて駆け込んで来た。
「大統領、至急シェルターの方へ避難してください」
「そんなにゴジラの侵攻は早いのか?」
「いえ・・・
しかしご存知の通り、先ほど密かに研究開発していましたイリスもゴジラに撃破されました。
我々の通常兵器では歯が立たないことも実証されています。
このままでは、近いうちにウィルス兵器での攻撃を承認していただく事になるかもしれません。
しかもゴジラへの効果は未知数です。
あるいは再び核兵器での攻撃か・・しかも今度は、わが国の領土においてです」
パーマー米大統領は苦虫を噛み潰したような顔で考えを巡らせた。
「それから・・・」
「まだ何かあるのか!」
「ムーの技術者から手に入れた放射能除去技術についてですが・・・
まったく役に立たない事が判明しました。
わが国の技術者によると、理屈は合っているのだそうです。
しかし、何か我々の知らない物質、あるいはエネルギーのような物が必要なのではないかと・・」
「なんて事だ、そんな馬鹿な!」
150 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:29:46
<ガメラ復活>
山道を登って走ってゆく僕らを乗せたジープは舗装が荒い道に入って揺れていた。
かなりのスピードで走っていたが、突然大迫さんが急ブレーキをかけ、ジープは横滑りして止まった。
「どうしたんです?」
「しーっ、ギャオスや」
大迫さんが指差す方を見ると、左前方山肌の中腹に、確かにギャオスが一匹居た。
まだ小さいがすでに飛ぶ事は問題ないであろう。
木の間から首だけが見える。
今は寝ているのか、目は閉じられていた。
「まだ子供やな、ひょっとしたらこの辺に巣が在るのかも知れん。
気付かれんようにゆっくり抜けるぞ」
今度はゆっくりしたスピードで大迫さんはジープを走らせ始めた。
しかし僕らはまだ気付いていなかった、後ろから迫りくるもう一匹のギャオスの存在を。
突然あたりが陰になり、羽音に気付いたときにはすでに新たなギャオスはジープの真上に居た。
「大迫さん、早く!」
スピードを再び上げるジープの上で、僕は慌ててマシンガンに駆け寄ると狙いをつけた。
が、こんな物触った事もない。
どうやって打ったら良いんだ?え〜と、安全装置はどれだ?
くそっ、分からない。
151 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:30:38
「どいて!」
突然長峰先輩が僕からマシンガンを奪い取ると、ギャオスに向けて引き金を引いた。
ギャオスはジープのすぐ上まで迫っていて、まともに弾を何発も食らい、血しぶきを上げて吹っ飛んだ。
「凄い、さすが姉さんや」
「大迫さん、安心するのは早いわ、もう一匹来る」
先輩の言う通り、銃声で目を覚ました最初のギャオスがこちらに気付き、飛び立って迫って来た。
少し情けない気分になっていた僕は、手榴弾があったのを思い出し手に取った。
これなら確か安全ピンを抜いて投げるだけだ。
その時、ジープは急カーブに差し掛かりドリフトしながら曲がって行った。
そして腰を浮かせていた僕は、運の悪い事にジープから投げ出されてしまったんだ。
マシンガンもジープの外へ、そして道を横切って崖から落ちてしまった。
「道弥君!」
「おいっ!」
急停止したジープから声をかけられた僕は頭を振って立ち上がった。
しかし、目の前にはさっきのギャオスが降り立ち、僕を品定めするかのように睨みつけていた。
絶体絶命。
僕は覚悟を決めた。
152 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:31:28
「早く、僕に気を取られているうちに行ってください!」
「そんな、道弥君!」
「浅黄さんを守って、ガメラを蘇らせれるのは彼女だけなんです!
大丈夫、ほら、武器ならあります」
僕は手にしっかり握り締めた手榴弾を見せた。
「くそう、道弥君、死ぬんじゃないぞ!」
ラナの言葉を一緒に聞いた大迫さんは、浅黄の存在の重要さを認識していた。
一瞬の躊躇の後、ジープを走らせた。
浅黄はグッとマガタマを握り締め、呪文のように呟いている。
「ガメラ・・・ガメラ・・・」
ついにギャオスは僕に向かって襲い掛かってきた。
恐ろしい牙が生えた口を開き僕の頭を一飲みにしようと首を突き出した。
僕は避けながら手榴弾のピンを抜きギャオスに向かって投げつけた。
ギャオスは飛んできた手榴弾を避けるでもなく、なんと飲み込んでしまった。
しかし、爆発は起こらない。
なんて事だ不発弾なのか?
僕はマシンガンが落ちていった崖の淵に追い詰められた。
153 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:32:23
もう術はない。
そう思って目を閉じたとき、いきなりギャオスの腹が吹っ飛んだ。
手榴弾が爆発したのだ。
そうか、ピンを抜いて投げるのが早すぎたんだ。
そういえば映画なんかでも、投げる前に何秒か数えてたはずだ。
しかし、そう考えたのは空中での事だった。
ギャオスが吹き飛んだ爆風で、僕も崖から落ちていたのだ。
世界は一体どうなってしまうんだろうか・・・
1999年、ギャオスの大量発生による文明世界の衰退、ムー人によるギャオスの掃討作戦。
アメリカの裏切り、強大な軍事力により唯一文明としての体裁を保っていたそのアメリカも
ムーの置き土産であるゴジラによって次々と破壊されている。
なんて事だ、考えてみると、まだイリスの事件から1年も経ってない。
ガメラは蘇るのだろうか?
蘇ったとしてガメラに何が出来るのだろう?
いや、今までだってガメラは人類を守ってくれたじゃないか。
きっと今度も・・・ただ、あのときのガメラはギャオスの大群の前に倒れたんだ。
今度のガメラはムー人が連れてきたもので、前のガメラとは違うんだよなぁ・・・
しかし、ガメラを信じるしかない。
きっとガメラは・・・・
154 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:34:29
走り去るジープの上で草薙浅黄は顔を上げた。
「・・来たっ・・」
その瞬間、握り締めたマガタマが大きく輝き、激しい光を宇宙へと放った。
最後の瞬間空中を落ちながら遠のく意識の中で、僕は確かに聞いた。
あれは、あの鳴き声はガメラだ!
ガメラが蘇ったんだ!
<真相>
生きている時に僕が覚えているのはここまでだ。
その後地球がどうなったのか、ガメラとゴジラがどうなったのか、本当のところは知らないんだ。
ただ、こうしてマナに包まれ、一つのエネルギーとしての存在となった今、
なんとなくだけど、人類のほとんどは死に絶えたように感じる。
・・これは本当に死なのか?
有機体が死んだ時、その体を動かしていた生体エネルギーはマナとなり、この宇宙に戻ってくる。
エネルギー保存の法則ってやつか?よく分からないや。
人間としての僕が死んでから、どのくらいの時が経ったのだろう?
どのくらいの時をかけて人類は滅亡したのだろうか?
マナと一体化した僕には時間も空間も関係無くなった。
僕が人類の死滅を感じるのは、そこら中に、僕と同じ生体エネルギーが漂っているのが分かるからだ。
ほら、そこにも居る。
155 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:35:16
あぁ、ひょっとして幽霊って、マナになった生体エネルギーなのかもしれないな・・・
『道弥君・・』
あれ、今誰かに呼ばれたような・・
『道弥君、私です。
ラナです。』
『ラナさん?
いったいどうして・・』
『マナとしての経験が浅いあなたには無理かもしれませんが
こうやって他のマナとコンタクトを取ることも可能なのです。
しかしマナに変換された生体エネルギーのほとんどは、過去の記憶は愚か、何も覚えていないのです。
それは徐々にこの宇宙にあふれるマナに溶け合い融合してゆくから。』
『え、じゃぁ、僕はどうして?』
『私たちムーの監視の下この空間にあなたの意識を留めておいたのです。
来るべき時に向けて。』
『え、来るべき時?
あなたたちムー人は地球を去ったんじゃなかったのですか?』
『そうですね、あなたの疑問はもっともです。
全てお話しましょう。
私はそのために来たのです。
その前にまずこれを見てください。
現在の地球とその太陽です。』
156 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:36:09
僕の意識の中にそのイメージはいきなり入り込んできた。
黒い雲に包まれた地球。
かつての青い宇宙の宝石の姿は見る影も無い。
そしてカメラのアングルが引かれたように視野が広がり、月が地球の横に現れた。
その月の後ろから、巨大な物体が姿を現した。
あれは・・アイランドだ!
またカメラが引かれた。
今度は太陽だ。
太陽?これが太陽?
赤く巨大に膨れ上がった太陽・・・赤色巨星と化している!
そしてまたカメラが引かれ、今度は太陽系全体が映し出された。
地球の位置を中心に、木星を過ぎたあたりまで、薄汚れた灰色がかった雲のような物が広がっている。
あれは何だ?
まるで癌細胞のように周りの宇宙を侵食しているように見える。
『これはあなたが生きていた時代から約2000年先、つまり現在の様子です。』
『なんだって!2000年?そんなに僕は漂っていたのか・・
いくら時間の感覚が無いとはいえ・・
それに太陽の寿命が2000年で尽きるなんて・・』
驚く僕に、最後まで聞くようにと言って、ラナはゆっくりと全てを語ってれた。
157 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:37:24
人類が核を手に入れてから全てが狂い始めました。
彼らは我々ムーが教えなくとも、やがてマナの存在を知り、それをコントロールしようと考えます。
そして彼らはマナを核融合のコントロールに応用したのです。
それは成功し、安定した核融合による発電や一般に使われるエネルギーの確保を成し遂げました。
しかし、同時に核兵器の威力を増すためにも利用できる事に気付いたのです。
密かに作られた新型核兵器、その存在をめぐり各国が緊張状態に陥り、やがて戦争が起こります。
そしてその戦争で、愚かにもその新型核兵器を使用したのです。
新型核兵器の爆発はマナにも影響を与えました。
マナは元々絶え間なく変転するエネルギーの仮相、その波動に変化が起こり、
有機物に有害なエネルギーへと変化してしまったのです。
その有害エネルギーは「Eキャンサー」と名付けられました。
そう、あなたのイメージした通り、エネルギーの癌です。
しかもEキャンサーは周りのマナを次々と取り込み増大してゆきました。
彼らの技術者、研究者は何とかEキャンサーの広がりを止めようとし、いくらかの成果も挙げましたが
ついには完全にとめることは出来ず、Eキャンサーは地球を飛び出し宇宙空間へと広がって行ったのです。
やがて太陽に到達したEキャンサーは太陽そのものに変化をもたらしました。
あなたが見た通り、太陽はどんどん膨れ上がり、赤色巨星と化したのです。
どうしてそんな変化をもたらせたのか、それは我々にも分かっていません。
ただ、このままEキャンサーが宇宙に広がれば、大変な事になるのは明らかです。
人類はついにマナの研究から判明した、もう一つの可能性に賭けることにしました。
それがアイランド計画です。
158 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:38:10
そう、我々ムー人はあなた方人類の未来の姿、マナを使って時間を旅してきた人間です。
我々は大切な知識や絶滅に瀕している種を保存し、巨大な宇宙船アイランドを作り上げました。
そして正常なマナの存在する木星の外の空間へと旅立ったのです。
正常なマナが存在しなければ時間を遡る事は出来ないからです。
幸いEキャンサーの広がる速度より、遥かにアイランドの方が速かったので、それは成功しました。
ただ、あなたがさっき見た彼らのアイランド計画は失敗するでしょう。
なぜだかは分かりません。
我々が最初に成功し、時間の流れを変化させたからかもしれません。
もう何度も我々は時間を遡り、人類の滅亡とEキャンサーの発生を止めようとしています。
しかし、我々以外に成功したアイランド計画は無いのです。
もっともアイランド計画が再び行われる未来は失敗の未来であり、また我々の旅もやり直しなのです。
我慢できなくなって、ついに僕はラナに質問した。
『だったらなぜ、核エネルギーそのものの発見や核兵器の開発を止めないのです』
『人類の科学が発展する過程において、核融合は避けて通れないの。
それに核兵器も。
私たちはそれを利用しないようにさせるしか手は無い』
『そんなの無理に決まってる』
『無理ではないわ、実際に人類は変化しているのよ。
最初の歴史、つまり私たちが生きていた地球は、あなたが生きていた1999年にはとっくに絶滅に瀕していた
テクノロジーを手にした人類は、歯止めの無い開発や自然破壊、戦争などにより、
恐ろしいスピードで科学を発展させたわ。
マナの存在を知るのもずっと早かった。
そしてEキャンサーの出現も・・・
わずかに生き残った人類は地球上でもEキャンサーから体を守るため、防御服を着用して暮らしていたの
私たちがアイランド計画を実行したのは2001年の事よ』
159 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:40:00
『だったらどうやって・・』
『私たちは人類の中から優しい心の持ち主、無償の愛を持っている人たちのエネルギーを過去に送ったの。
つまり破壊と残忍な心を持つ人類のDNAを薄めるため、何度も何度も繰り返し・・
ガメラはそれを集める器。
例えば草薙浅黄ちゃん、大迫さん、仙台でガメラ復活を願った沢山の子供たち・・そしてあなた。
もちろん日本人だけじゃない、世界中よ。
彼らの生体エネルギーはガメラを通して宇宙空間に送られ、私たちが現れた時にアイランドに蓄積されたわ。
そして時が来たら彼らは過去へと旅立つの』
『でもガメラはギャオスと戦ったり、その行動は街を破壊したり・・
それにギャオスは?
なぜあなた方はギャオスなんて生み出したんです?』
『ギャオスは私たちが起こした戦争中に作られた侵略兵器よ。
その胚を保存していたのは、ギャオスに使われたテクノロジーがあまりにすばらしかった為。
ギャオスのDNAを解析したあなたなら解るでしょう?
でも今回の旅で、まさかアトランティスの研究者に盗まれるとは思ってもみなかった。
ギャオスの胚を保存していたのは間違いだったのかもしれないわ。
それに私たちが残していったガメラは、ギャオスへの攻撃も目的としていた』
『じゃぁ、アトランティスの話は本当の事だったんですね。』
『そう、そして私たちが必至の思いで帰って来た時、地球にはまだ核戦争は起きていなかった。
もちろんEキャンサーも、マナの存在も知られていなかったわ。
私たちは今度こそと期待したの。
そして、ギャオスを退治し、人類との交流を通じて核兵器を断絶させるつもりだった。
もっと素晴らしい核エネルギーの利用法を沢山教えるつもりだった』
160 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:41:36
『そして裏切られた』
『そうね、だからあなたも旅立ってもらう事になったのよ。
過去に戻って新しい人生を歩んでもらうわ。
多分、あなたが生きていた時代よりずっと過去よ。
同じ人間に戻っても仕方ないものね』
『僕はたいした人間じゃ無いですよ、ましてや無償の愛なんて持ち合わせているとは思えないなぁ』
『浅黄ちゃんを助けるため、自らの命を投げ出した。
そして死の直前まで、人類の事を考えてたわ、十分よ』
僕は考えた、確かにあの時は浅黄さんを助けるのが第一だった。
でも別に死にたいとは思わなかったし、ジープから転げ落ちたから仕方なかったてのもある。
でも、確かに死の直前まで、ずっと気になっていたのは人類の未来なのは間違えではない。
ギャオスの恐怖や核の恐ろしさを、昔の人に伝えられたら良いのにと思った事もある。
あ、そうだ!
『ちょっと待ってください、ゴジラは、僕が死んだ後ゴジラとガメラはどうなったんです?』
その質問に答えるラナから、辛く苦しい波動が伝わってきた。
『ゴジラは本当は狂ってなんかいないのよ。
ゴジラは・・ダメだった時のリセットボタン・・
Eキャンサーが出現する前に人類を、人類の文明を破壊するための道具・・』
『なんだって、じゃぁガメラは?
ガメラが最後の希望になると言ったのは?』
161 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:42:17
『意味の通りよ。
ガメラは残された人類の中からあなたや浅黄ちゃんのような過去に送られるべき生体エネルギーを集める
未来への希望。
最後に課せられた悲しい宿命を持った者達よ・・』
『そんな・・・』
『でも見たでしょう、人類は結局今回もEキャンサーを出現させたわ。
ゴジラもガメラも人類に倒されたのよ。
このままでは人類が原因で全宇宙が滅びるかもしれない。
ゴジラとガメラが居なかったら、もっと早くEキャンサーが出現していたかもしれないのよ』
162 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:42:51
結局人類の持っている業の深さは計り知れないと言う事だろうか。
マナと一体化した僕には、彼女が伝える思考に嘘が無い事が分かっていた。
そして彼女が地球の、宇宙の未来を本当に心配している事も伝わっていた。
ムーの人たちは自らのDNAを操作しているのかも知れない。
なぜなら、遠い過去に戻って、人類を一掃し、自分たちがそれに取って代われば良いからだ。
しかし、そんな事はきっと考えた事も無いのだろう。
いや、そんな事をしたらそもそも彼女たちが生まれる事も無かったのだろうか?
いやいや、それなら一度過去を変えた時点で、彼女たちの存在そのものがおかしな事になるはず。
マナという変転するエネルギーの仮相が時間と空間に絡んでいる事は確かである。
生体エネルギーもマナによって発生しているし、よく言われているタイムパラドックスなど無いのかもしれない。
僕は一つの考えにたどり着いた。
−これは進化じゃないのか?−
繰り返される時間の中で未来へと対応するためにDNAを書き換える・・・
マナを知り利用できる人類だけがなしえる新しい形の進化なのかもしれない。
それなら僕もその新しい進化に一枚絡んでやろうじゃないか。
過去に戻ってなるだけ沢山の人々に未来に潜む恐怖を伝えるんだ。
『道弥君・・そろそろ時間よ』
僕の決意を知ってか知らずか、ラナはそう告げた。
僕は了承した事を伝えると静かにマナにからだを預けた。
やがて僕の前方に光が近づいてくるのを感じた。
そして僕を包む空間が暖かく心地よい事も。
僕の思考はだんだん意味を成さなくなり、色々な事が記憶から消えてゆく・・・
これは新しい命に、新しい体に生体エネルギーが組み替えられる際の副作用だろうか?
だめだ、未来の恐怖だけは忘れるわけにはいかない。
空を真っ黒に覆いつくし降りてくるギャオスの群れ、地球と宇宙を侵食する灰色の雲・・
僕の周りを光が包み、僕はついに新しい命を得た。
163 :
ガメ男:2006/01/23(月) 02:47:00
<エピローグ>
1503年12月14日ローマ領 プロバンス、サン・レミに一人の男の子が誕生した。
収税吏兼公証人の父とユダヤ人の占星術医師の祖母を持つその子はミシェルと名付けられ
ヘブライ語、ギリシャ語、ラテン語、歴史、数学、天文学などを習得し、天才とうたわれた。
14歳の時にはすでにアビニョンの法王庁大学に入学し、高度の哲学、修辞学、その他を学ぶ。
この頃すでに地動説を唱えていたと言う。
実にコペルニクスの30年ほど前の事である。
その後医師の免許を取得、後に多くの出版物を出し、63歳でその生涯を閉じる事になる。
ミシェル・ド・ノストラダムスは、現在まで偉大な預言者として伝えられている。
確かに道弥のマナは過去に届けられた。
終わりです。
読み返してみると変な物語ですねぇ、ゴジラとガメラは戦わないし・・・
長い間ご迷惑をおかけしました。 m(_ _)m
164 :
ガメ男:2006/01/23(月) 12:38:59
あと、149の『緊急滋養』は『緊急時用』の変換間違えです。
他にも『道弥』が『道也』になってたり、書き直したい所が沢山あります。
最後の方は眠くて思考がグダグダになっちゃったし・・・
だめだなぁ・・・もっと修行して出直します。
ガメ男さん、面白かったですよ。
166 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/24(火) 00:53:58
闘争本能剥き出しの一部の欠陥人間達の愚かさ、、、、、本当に考えさせられるストーリーでした。
ガメラとゴジラ、私の満足する天使達でした。
ガメ男さん、お疲れさま、ありがとうございました。
ガメ男さんの心、とても暖かいです。
時がくれば近いうちにまた戻ってきてくださいね。
167 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/24(火) 07:35:30
それにしても、無名草子さんたちとは、さぞやすごい作家先生の匿名書き込みなんでしょうね。
作家なんて才能が全てだから、津井ついみたいに、いくら努力したって駄目なものは駄目ですよ。
私なんか、早々に見切りをつけて趣味の世界で細々ですから。
小説現代ショートショート・コンテスト優秀賞受賞 阿部敦良
168 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/01/24(火) 08:44:41
お見事。
前作よりも完成度が上がってます。
特撮怪獣への愛とSFへの愛のパランスもいい按配。
ただひとつだけ注文をつけるなら……タイトルがあった方がいいのでは?
タイトルがあるといろんなことができますよ。
たとえばマシスンの「地球最後の男」の原題みたいに「あっ!そういう意味だったのか!」とか。
私の駄文を読んでくれた方、ありがとうございます。
>>165 ありがとうございます。
>>166 なんだか最近アメリカ嫌いなんです(笑)その辺が出たかなぁ・・
また何か話が浮かんだら、書き込むかもしれません。
今度は最後まで書いて、一度に投下して、スレ止めないようにします。
>>167 もし私が作家だったら、こんな稚拙な文体じゃやっていけないでしょう。
たんなる会社員ですよ。
>>168 最初はタイトル考えたんですが、じつは、最初の構想と出来上がったものは違うんです。
本当はジャイガーやモスラ達も、もっと活躍するはずだったんです。
見切り発車した最初に下手なタイトル付けていたら、それにとらわれてもっと迷走してたかもしれませんね。
で、結局今回書き上げたモノにタイトル付けるとした、らどんなのが良いでしょうねぇ・・?
「新たなる進化」とか・・・う〜ん、イマイチだなぁ・・・
とにかく、今度何か書かせてもらう事があったら、ちゃんと投下前に書き上げて、タイトルもしっかり考えたいと思います。
皆さんありがとうございました。
しばらくは、他の人たちの作品を楽しみにROMってます。
170 :
あまぎ:2006/01/24(火) 18:16:23
ガメ男さんお疲れ様でした。風邪や多忙な仕事にも負けず、素晴らしい作品に仕上げられてますよ。
まだまだゴジラやガメラも、怪獣としてストレートに描ける余地が残されている事を痛感しました。
映像化しても見応えのある作品になるのではないかと思います。
また面白い作品を期待してます。
>>170 ありがとうございます。
あまぎさんの次回作も期待してます。
ぜひ書いてください。
>>169 >>今回書き上げたモノにタイトル付けるとしたらどんなのが良いでしょうねぇ・・?
月並みな発想ですが、「愛」「箱舟」「時(ネタバレの危険あり)」「ムー」「揺り篭」なんて言葉が浮かんできますね。
おしゃれに「ムーの揺り篭」なんてのはいかが?
アマギ氏の作「甦る伝説」、拙作の駄文「シャドウズ」そしてガメ男氏の名作とこのところ変則ゴジガメ対決が続いているので、次は「怪獣映画」らしさと「お祭り気分」を第一に、長くなり過ぎないことを第二に、駄文を構成するとしましょうか……。
でないと特撮板でやったみたいに半年前後の長期逐次投下になってしまうから。
と、いうわけで、「トリノへの道」はなんと二部構成(←ちっとも短くねえじゃねえかよバカ!)。
まずは第一部「地球代表トーナメント編」投下。
しばらく間を置いて「本戦トーナメント編」を構成・投下の予定。
登場怪獣数は……前後編合せると二十匹を軽く超える(笑)?
アマギ氏やガメ男氏の新作投下までの時間稼ぎとして、暫しお付き合いをば。
*オープニングは大学のキャンパス。メガネの学生とバカッぽい学生が騒ぎまくっているシーンからスタート。
メガネ「おいおい、アメリカが最後通牒突きつけたってよ!?」
バカ?「え?預金通帳?」
メガネ「ばかっ!さ い ご つ う ちょ う!これが最後だっていう脅しだよ!」
バカ?「へえ……で、ドコを脅してるわけ?」
メガネ「決まってるだろ!将軍様の国だよ!」
*ここで、それまで背景の一部であるかのように座り込み、イヤホンでラジオを聞いていた学生が立ち上がると、素っ頓狂な声で叫び声を上げる。
「た、たいへんだぁ!核爆弾が飛んでくるぞ!北朝鮮がミサイル発射したってさ!」
*ミサイルの飛来は「将軍様の顔」のコラージュが飛んでくることで表現。
在日米軍は北朝鮮のミサイル発射を正確に把握していた。
*「将軍様の顔」の背景にレーダーサイトから振り返り何やら叫ぶ米兵。
だが、日本への連絡は行政機構の非効率に阻まれ、最終意思決定者へとなかなか届かない。
*ミサイルの背景として、今度は「電話のリレー」や「長い廊下を歩く革靴」などを幾つも刻んで見せることによって「お役所仕事」を表現。
けっきょく、タッチの差で……。
官房長官「そ、総理!大変です!北朝鮮が……!」
*「将軍様」着弾と同時に「BINGO!」の文字。
血相変えた官房長官が首相の執務室に飛び込むのと同時に、なにかが官邸の天井をぶち抜いて降ってきた。
もうもうたる土埃が静まると………でっかいミサイルが首相の執務机にニョッキリ突き刺さっている。
まるで……金属製の大根のように……。
なぜか爆発はしなかった。
執務机の前で、椅子にかけたままアングリ口を開けっ放しのまま上を見上げている首相。
官房長官「総理!大丈夫ですか?お怪我はありませんか?総理!?」
首相は答えない。ただ、口を開けたまま、官邸天井に空いた穴を指差した。
「穴が………なにか??」
不審に思い首相の側まで行って穴を見上げる官房長官。
彼の口もまた、アングリ開きっぱなしになってしまった。
天井の穴を通して見えたもの……。
それは巨大な「アダムスキー型UFO」であった。
ぱん!
*クラッカーが弾けてタイトル登場!
新春特別企画!「がんばれミニラ!トリノへの道/地球代表トーナメント編」
アダムスキー型ばかりでない。
ハマキ型、球状、コウモリを思わせる翼のあるもの、宇宙戦艦?などなど、様々な機種の円盤が白昼堂々と地球各地に姿を現していた。
不安の面持ちで空を見上げ、あるいはテレビの前に釘づけとなった全地球人類。
その一人一人に対し、突如テレパシーが着信した。
はたしてその内容とは……。
……長くなるので手短に端折ると…。
自分たちは宇宙の「知的生命体連合」である。
人類は、他の地球生命を顧みることなく核兵器の大規模使用を行ったので惑星管理権を剥奪される。
これにより、管理権者不在となった地球を巡り、惑星その他の地域などの代表により、権争奪のトーナメントが戦われることとなった。
人類が地球管理権を再取得したいのならば、このトーナメントに代表を参加させ優勝しなければならない。
……ということであった。
「ミルコ・クロコップだ!」「猪木だせ!猪木!!」「ヒョードルで優勝だ!」「曙にもう一度だけチャンスをやってくれ!」「カール・ゴッチってまだ生きてたっけ?」
テレパシーを受信した格闘オタクたちは思い思いの名を口にしたが……。
そんな名前は、一瞬後には消し飛んでしまった。
再び、知的生命体連合からのテレパシーが着信した。
(……では、既に参加表明している代表を紹介しよう……。)
大空にスクリーンも無いのに映像が映し出された。
……ダムが映っている。
あれは黒部ダム。すると場所は黒部渓谷だ。
渓谷上空の空がにわかにかき曇ると、輝く巨大な何かが黒雲を押しつぶすように降下して来た!
(X星人代表……)
テレパシーによるコールと同時に、三つ首の黄金飛龍が姿を現した!
(………千年竜王キングギドラ!)
曙太郎対キングギドラ?勝負が成立すると思うヤツはバカだ。
哀れにも絶句する格闘オタク。
知的生命体連合の代表は、機械的に「代表選手」の名を読み上げていった。
(第10惑星代表、大悪獣ギロン!)
(M宇宙ハンター星雲代表、未来怪獣ガイガン!)
(ゼットン星代表、宇宙恐竜ゼットン!)
(ジグラ星代表、宇宙昆虫レギオン!)
(ブラックホール第三惑星代表、メカゴジラ!)
(宇宙の帝王ゴアは自身による参加を申請した。冷凍怪獣ゴアゴンゴン!!)
(バンデル星代表、磁石怪獣ガルバン!)
(バイラス星代表、超音波怪獣ギャオス!)
(ショーチク星代表、宇宙大怪獣ギララ!)
(ニッカツロマンポルノ惑星のサルモネラ人間代表、大巨獣ガッパ!)
後半なんだかヤケクソの感無きにしもあらずではあるが…。
いやはや、大変な顔ぶれであった。
…ガッパまで進んだところで、知的生命体連合の代表選手コールが突然停止した。
空の映像が切替わる。
改めて映し出されたのは…、街の彫像や肖像画から明らかに将軍様の御国である!
上空に浮かぶ円盤。
なんと!それに向かって、いくつもの火花が飛び上がっていくではないか!
勇敢というか大胆というか、「知的生命体連合」に対し攻撃を加えているのだ!
(愚かにもワレワレの決定を軍事力で覆せると考えたらしい。)
(止むを得ない。教育的見地から、敢えてワレワレも力を行使することとしよう。)
(……代表選手のうちの一体により、この愚かな抵抗を排除する。)
映像の中で、突然空が割れた。
(異次元人ヤプール代表、ミサイル超獣ベロクロン!)
コールと同時に、赤と群青などに彩られたケバケバしい怪物が現れた!
北朝鮮軍の砲火が、上空の円盤から地上のモンスターに間髪入れず移行!
猛然たる爆発と火炎、そして黒煙がモンスター=ベロクロンを包み込んだ!
ベロクロンの姿が完全に黒煙に飲み込まれた後も北朝鮮軍は数分以上攻撃を止めなかった。
これだけの攻撃を受けて、生きていられる生物などいるはずがない。
だが、爆煙が薄れてみると……ベロクロンにはかすり傷ほどのダメージも無いではないか!?
力の差を悟り、デク人形のように立ち尽くす北朝鮮軍。
それに向かって、ベロクロンの口が開いた。
突如噴出す紅蓮の炎!
超獣の全身を包む無数の房からは、これまた無数のミサイルが!
正確無比のミサイル攻撃が大地を塗り絵のように塗り潰していく…。
将軍様と彼の首都が彼の軍隊もろとも黒く塗り潰されるまで、数分とはかからなかった。
北朝鮮の「抹消」後、「知的生命体連合」のコールは更に三体、
「惑星E代表・ギラギンド」
「ペダン星代表・スーパーロボット・キングジョー」
「M78星雲代表・来たぞわれらのウルトラマン」
…と続いて、ここまでで全16枠中15枠。
残りの1枠はというと…。
(全16枠のうち、最後の1枠はキミたち地球人類のため空けてある。)
(トーナメント開催は今より一ヶ月の後。)
(地球の管理権を回復したければ、それまでに自分たちの代表を選定し、トーナメントで優勝するしかない。)
(……では、参加各位の健闘を祈る。)
申し渡しは、有無を言わせぬものであった。
なんと言っても武力で抵抗できるレベルの相手ではない。
それは北朝鮮軍対超獣ベロクロンの戦いでハッキリしている。
それに核関連は、兵器から発電所に到るまで、首相官邸に飛び込んだ核ミサイル同様作動停止に追い込まれていた。
炉心は冷え、核爆弾も爆発しない。
まったくのお手上げである。
人類に残された希望はただひとつ。
トーナメントでの優勝のみだった。
*人影消えたキャンパスで、冒頭登場した三学生がまだダラダラ話を続けていた。
バカ?「やっぱさ、ウルトラマンだよな!ウルトラマン!」
メガネ「この大ボケ野郎!ウルトラマンが優勝したら、地球の管理権がM78星雲にいっちゃうんだぞ!」
ラジオ「(イヤホンを挿したままで…)でも、あの中では一番マシな選択かもしれませんよ。他のヤツらだったら……。」
メガネ「(勇を鼓すように)バカ野郎!そんな弱気でどうすんだよ!自前の代表立てて優勝狙いに決まってるじゃないか!」
バカ?「でも、どうやって代表をめっけてくるわけ?それもあんな怪獣軍団に対抗できるヤツをさ。」
メガネ「何言ってんだ!オレたち地球には、ゴジラとガメラっていう二大守護神がいるじゃないか!」
さて、そのゴジラとガメラであるのだが……。
「首相!大変です!」官房長官が首相執務室に駆け込んできた。「ゴジラが出場を辞退しました!」
「なんだと!?」椅子から飛び上がって驚く首相。「どうやってゴジラの意思を確認したんだ!?」
「方法は判りませんが、スポーツ紙の記者が確認したそうです。なんでもヤンキースでの優勝を第一に考えているからだそうで…。」
「そうか……辞退したのか。」
二人の政治家は特オタではなかったので、実は人違いならぬ「ゴジラ違い」であることに最後まで気がつかなかった。
こうして「人類最後の希望」の中からまずゴジラの名前が消えてしまった。
激震は「ゴジラ代表辞退!?」だけでは納まらなかった。
翌日、海上自衛隊の追跡を振り切って浮上したガメラが近くの陸地に墜落するという事件が起こったのである。
……ガメラの墜落自体はよくあることなのだが……、今回はちょっと違った。
落ちたっきりガメラが動かないのだ。
そっと近寄り、よくよく耳をそば立ててみると……、なんと痛そうに呻いているではないか!?
慌てて「ガメラ対ジャイガー」で使われたレントゲン写真撮影機が持ち込まれ、有名爬虫類学者の万石先生による診断が決行された。
……写真を睨む万石……。
やがて、万石は記者団たちに向かって答えた。
「……ガメティは足の指を骨折しておりますな、うししししし。」
骨折しているのでは、宇宙の代表怪獣を相手に戦えない。
こうしてゴジラに続き回転ジェットが売りのミキティ………じゃなかった、ガメティことガメラの名も、代表選考から早々に消えてしまったのである。
ゴジラとガメラが代表選考から消えた!?
さらに「代表を出した国家は、新世界において主導的地位を占めることができる!」という思惑も働き、本命不在となった代表選考は激しく迷走を開始する。
宇宙怪獣たちに勝てるかどうかもロクに考えず、有象無象の怪物が自薦他薦で次々現れ、勝手に戦いはじめたのである!
「ともかく勝ち残ればいい」というムチャクチャな代表選考のスタートだ!
「きやああああっ!」「うわあっ!?」
木魂す悲鳴!
必死に逃げる人!人!人の群れ!
その中から、巨大な鎌首が立ち現れた!
全長50メートルのアナコンダ!
ブラジルの大富豪がコンテナ船で横浜港に密かに運びこんだ「代表候補」が、自分を連れてきた大富豪を一飲みにして、オリを破って逃出したのだ!
バンバンバン!
急報を聞き駆けつけた警官が拳銃を発射するが、すべて大蛇の鈍く光るウロコに弾かれてしまった!
立ち木を打ち倒し、自動車は押しつぶし、のたうち暴れるアナコンダを誰も止めることができない!
そのときだ!
グォオオオオオオオオオオオッ!
もう一匹の野獣の咆哮が、大群衆の悲鳴を圧し去った!
野生の叫びは、巨大アナコンダの飛び出した船とは反対側の桟橋に係留された船からであった。
その舳先に老婆が一人立っている。
かつては輝く金髪だった白髪を潮風が手荒くなぶるが、彼女は気にもとめない。
潮風に逆らう老婆は、暴れ狂うアナコンダをキッと睨みつけると、鋭い声で叫んだ!
「コング!あいつをやっつけて!」
次の瞬間、再びの絶叫とともに船倉から巨大な何かが飛び出し、老婆の頭上を化鳥の如く飛び越え、巨大アナコンダの前にズシンとばかりに降り立った!
隆起する筋肉!
鋭い眼光!
そして漆黒の体毛!
アメリカが後押しする地球代表候補!キングコングだ!!
白髪の老婆は、もはや齢100歳を超えた「黄金の女」フェイ・レイ。
だが、彼女がどんなに年を取ろうとも、コングの愛は微塵も揺るいでいなかった。
レイへの愛を証拠立てるため、キングコングは巨大アナコンダに向け巨大な犬歯を剥きだした!
遠巻きに見つめる大群衆。
そしてその中心に睨み合う二匹の野獣。
煌めき血走るコングの瞳と、表情というものをまるで宿さぬ爬虫類特有のガラス玉のような瞳。
高まる緊張!
群集のそれが頂点に達した瞬間、コングが巨体からは想像もできない速さでアナコンダの頭目掛けて飛び出した!
だが、アナコンダはまるで巨人が操るムチのように、激しくウネり後退した。
ただし、後退したのは頭だけ。
コングの指が空しく空を掻いたとき、大蛇の尻尾はコングの背後に!
黒い斑紋の浮かぶ尻尾が、コングの首に音も無く撒きついた!
巻き付いたシッポを支点にして、掃除機のコードが巻き取られるような勢いでコングの体に巻き付いた!
群集の中で小さな叫び声とともに誰かが洩らした。
「コングが殺られる!」
時に丸く、時に四角く、体の断面形を力強く変化させながら、アナコンダは自分の体が描きだす輪を次第に絞り込んでいく。
それとは逆に、次第に弱まるコングの眼光。
巨猿の敗北は、もはや誰の目にも明らかだったのだが…。
たった一人、コングの負けを信じない者がその場にあった。
老婆フェイ・レイである。
鋭い声で彼女が叫んだ!
「コング!いつまで遊んでいるつもりなの!?」
その場に居合わせた人々の多くが、のちにこう証言した。
「その時、コングは確かに笑った」と。
腹の底から、というより地の底から湧きあがるような絶叫!
同時に、キングコングの筋肉が爆発的に隆起する!
びっ!
電話帳でも力任せに引きちぎったような音がした。
そして次の瞬間、巨大アナコンダの体は激しい血煙とともに裂け千切れ、コングの足元に転がっていた。
横浜港でのキングコング対巨大アナコンダの激突は、ルール無き地球代表怪獣決定戦のほんの一幕に過ぎなかった。
アメリカはコングの他にリドザウルスとジラ(アメリカゴジラ)も代表候補に押し立て、何が何でも代表をゲットする構えでいた。
そしてこれと「裏で繋がっている」と囁かれていたのが、イギリスの大怪獣ゴルゴ、そしてユダヤ資本=イスラエルが押す「カバラ数秘術の巨人」ゴーレムであった。
メキシコ代表「黒いサソリ」。
タイ体表で、コングとの猿決戦に闘志を燃やす猿神ハヌマーン。
ロシアが北極権まで行って掘り返してきたビクトール・フランケンシュタイン作になる怪物。
中国政府がヒマラヤから拾ってきたペキン原人。
……ここまでが一応国家が押す代表候補。
それ以外にも「昆虫板有志一同」がどっかから見つけて来たカマキラス。
トンデモ系科学雑誌「ムー帝国」の支援する海龍マンダ。
そしてプロレスオタクのアホな金持ちが建造したというメカ・カールゴッチ。
宇宙の代表たちがマジな怪獣を揃えて来たのに対し、地球の代表候補たちは……なんというか……タイムボカンの登場キャラみたいなヤツがかなり混じっていた。
申し合わせたように何故か日本に集まってきた代表候補たち。
そしてもう一匹。
あの男が伝説の怪獣を日本に送り込まんとしていたのである。
一方あの大学生たちはどこへ?
……彼らの姿は、富士の樹海の中にあった。
別に自殺しに来たわけではない。
彼らは「日本代表怪獣」を探しに来たのである。
メガネ「おい、ホントにこんなトコに怪獣がいるのか?」
バカ?「それがいるらしいんですよね。なんでも地元の人がね、近くの木が震動するほどのイビキを聞いたとかね。」
メガネ「なんだそれだけなのかよ!?だいたいSF小説だとこんな人里近いトコにゃ怪獣なんていないんだ。」
バカ?「SFじゃそうかもしれないけど、でも特撮映画だといるんですよ。こういうトコにも!『ゴジラ・ファイナル・ウォーズ』でだって……。」
そのとき「ラジオ」がイヤホンを耳に挿したまま二人を制し言った。
ラジオ「……変だ、電波が強烈に乱れてる……。」
彼はラジオ本体の内蔵アンテナをあちこちに向け調べていたが……。
ラジオ「……うん、こっちだ。」
……先頭きってズンズン樹海の奥へと歩き始めた。
わけもわからず後を追うメガネとバカ?…。
十分ばかりだろうか?道無き道をしばらく行くと、巨大な倒木が何本も折り重なった場所へと辿り着いていた。
よく見ると……倒木の陰に大きな風穴が隠れているではないか!?
中を覗きこむ三人。
奥から、微かだが輪郭のはっきりした震動が伝わってきた。
ゴクりと唾を飲み、互いに顔を見合す三人。
やがて彼らは、誰からともなく、かぐろく口を開けた謎の風穴へと踏み込んでいった。
三人の学生たちが、勇を鼓して謎の風穴を発見していたころ……。
はるか東京は六本木で、海を渡ってやって来た原子怪獣リドザウルスが昆虫板のカマキラスと衝突していた。
左腕のヤリと右腕のカマの二刀流に加え、保護色による隠遁と飛行能力を備えたカマキラスだが、体は華奢で打たれ弱い。
一方、リドザウルスはコンクリートのビルを押し倒せるほどのパワーの持主だが、鈍重で飛び道具も持っていない。
勝負は「弁慶と牛若丸」のような展開になっていた。
ブンッ!リドザウルスの尾が唸る。
カマキラスは翅を激しく震動させ、致命の一撃を素早く回避する!
次の瞬間……、カマキラスの姿は消えていた!?
保護色による隠遁だ!
油断無くあたりを窺うリドザウルス。
カマキラスはどこに!?
ギャラリーも固唾を飲んで見守った。
巨大昆虫の動く気配は無い。
ただ、運良く倒されずにすんだ街路樹の枝が、風に震えるだけ……。
ギャラリーの中にいた目ざとい一人が叫んだ。
「枝の動きが変だ!風が上から吹いてるぞ!?」
その叫びを合図としたように、何もないと見えた空中にカマキラスが現れた!
最低限の羽ばたきでグライダー滑空しながら、空中に隠れていたのだ!
リドザウルスの頭上で、カマキラスのカマが稲妻のように閃いた!
休み時間の合間なんかで書いてるから、文章の繋がりが変だな…。
でもこういうネタは「思いついたときの勢い」が大事だから(苦笑)。
つまんなかったら遠慮なく言ってくれ。
別のスレ住人に席を譲る。
いいえ、面白過ぎます 笑
びしっ!!
カマキラスのカマがリドザウルスの額の上で跳ねた!
鮮血が飛び散る!
しかしそれだけ。
リドザウルスの額の骨は、その体の中で最も厚いのだ!
流血に怒ったリドザウルスの前足が、額にのったカマキラスのカマの上にかかった。
「ぐおおおおおっ!!」
咆哮一声!
自分の額にカマの刃がのっていることなど委細構わず、リドザウルスは前足に力を込める!
ぶしゅっ!
更に飛び散る血しぶき!
同時に……。
ボ、ボキッ!
カマキラスのカマが中ほどからヘシ折れた!
「ギギギギギギィ!!」
悲鳴を上げながらカマキラスは翅を震動させ後退!
たちまちその姿を背景へと溶け込ませた。
再び、あたりを窺う流血のリドザウルス。
だが!?リドザウルスが低く構えていた頭をぐいっと持ち上げた!
「カ、カマキラスか!?」「………いや、なんか違うみたいだ。」「いったいリドは何を?」
ギャラリーの群集の中を囁きが駆け巡る。
が、リドザウルスの野生が捉えたモノの正体は見当も……。
ずずずずず…………。
そのとき!?大地を震動が走った!
「地底だ!地底に何かいるぞ!」叫ぶギャラリー!
ズン!!ひときわ大きな震動とともに巨大なビルが根こそぎひっくり返り、吹き上がる土砂の柱の中から巨大な怪物が姿を現した!
二足歩行に太く力強い手足はまるで怪獣というより古代のヨロイ武者のよう。
そして牛のような頭には、やはり牛のように長く曲がったツノが!
新怪獣は突如その場で反転すると、背後のビルの壁面に破城槌のような拳を叩き込んだ!
拳は一撃でビルを貫通!
……だが、なんということか!?
新怪獣が拳で打ち抜いたビルの反対側で、ガレキの中にカマキラスが崩折れているではないか!?
「あの怪獣、壁ごしにカマキラスを仕留めたぞ!?」「あの怪獣、いったいなんて名前だ!?」
「お答えするニダ!」
群集の頭上から、答えが降ってきた!?
何時からだろうか?群集の頭上にさしかかる街灯の上に、中年のおっさんが立っているではないか!
「あの怪獣こそ、ワレワレ北朝鮮の誇る不可殺獣!無敵のプルガサリであるニダ!!」
見上げる群衆の一人がオッサンに向かって思わず叫んだ!
「い、生きていたのか!?キム・ジョンイル!?」
ゴジラとガメラが戦ってないけど面白すぎ
他にどんなマイナー怪獣がでてくるか楽しみになってしまう・・・
193 :
ガメ男:2006/01/27(金) 01:06:34
いやぁ、さすがに面白いですね。
私のダラダラ小説風のヤツとは勢いが違いますな。
もう考えられる怪獣全部出しちゃってください(笑)
>>192、193
もともとマイナー怪獣を出したくてやったワケでなく、各国代表の怪獣を集めようと思ったらマイナーなヤツばっかりになってしまったということで(苦笑)。
だいたい日本に勝る怪獣天国なんて他には無い。
なんでもアメリカのオタクも「KAIJYU」という言葉を使って、自国の「MONSTER」とは区別しているとか。
それから、後編の「トーナメント本戦」編では、ちゃんとゴジガメを出す予定。
ちょっとだけ対決させてすぐ共闘とか…。
敵側だって人材豊富だし(笑)。
しかし分章の乱れが目に余る。
我ながら酷い文だ。
首から下を黒マントにすっぽり包んだ、露出狂みたいな出で立ち。
なぜか手には、夜間の道路誘導の警備員が持っているような赤く光る棒を持っている。
街灯の上に立つのは、あまりにいかがわし過ぎるオッサンだった!
「……超獣との戦いで名誉の戦死を遂げたキム・ジョンイルは、チェチェの神々の力により体の90%以上を機械に置き換え甦ったニダ。ワタシは……!」
オッサンがマントの前をはだけて叫ぶ!
「……サイボーグ!ダース・ジョンイルであるニダ!」
ぬぁんと!?首から下は黒のボンデージ風にデザインされた機械の体だ!?
……ぷっ…………くすくすくすくすくす……。
「(くすくすくす)ダース・ジョンイルだってさ?」「映画マニアだとは聞いてたけどねぇ……。」「……スターウォーズにハマってたんだ。」
ジョンイルの顔が真っ赤になった。
「う、うるさいニダ!スターウォーズはとっても面白いニダ!できれば北朝鮮で撮影して欲しかったくらいニダ!」
「北に撮影に行ったら、帰って来れないんじゃねーの?」群集の中で誰かがまぜっ返した。
「将軍さまー!カッコ悪ぅ〜。」「いい年こいて凄いバカだっ!感動したっ!!」「拉致被害者返せー!」
そして、野次がちょっとだけ途切れた瞬間、図星の一言が飛んできた。
「……手にもってるその赤く光る棒、ひょっとしてライトセイバーのつもりですかぁ?」
一瞬の沈黙……そして大地が揺れるような爆笑!
腹を抱え、地べたに座りこんで笑う大群衆。
街灯の上に立つダース・ジョンイルは、もはやただの晒し者のコスプレオヤジであった。
「わ、笑うなニダーーーーーっ!!」
主人であるダース・ジョンイルがみんなの笑ものになる一方……。
不可殺獣プルガサリと原子怪獣リドザウルスは、あくまでシリアスに対決していた。
二足歩行のプルガサリは、カマキラスを瞬殺した鉄拳を叩き込まんと、リドの頭を狙う。
一方のリドは四足歩行による低い姿勢からプルガサリの喉首に的を絞っていた。
いわば剣道の「上段の構え」対「下段の構え」である。
リドが進むとプルガサリが後退し、プルガサリが前進するとリドが退がる。
戦い模様はまさに剣豪どうしの真剣勝負。
リドザウルスが進みプルガサリが退く。
プルガサリが進みリドが退る。
リドが進んで、プルが退が……いや!退かない!
リドザウルスが前進するのとタイミングを合せるようにプルガサリも踏み込むと、巨大な拳をスレッジハンマーのように振り上げた!
落雷の如くに振り下ろされるプルガサリの鉄拳!
だが、「振り上げ」て「振り下ろす」という二挙動は、リドザウルスに対応するチャンスを与えてしまった。
四つの足+シッポそして体そのものをバネとし、毒蛇の速さでリドザウルスは飛び出した!
リドの顎とプルガサリの拳が一瞬交錯。
だがプルガサリの鉄拳はリドザウルスの頭をかすめて空を斬る!
一方、鉄拳をかいくぐったリドのキバは一直線にプルガサリの喉に!
がしっっっっっ!!!
リドのキバは狙い過たず、プルガサリの喉首に食い込んだ!
「おーい、コスプレオヤジのジョンイルさんよ。あんたの怪獣殺られちまったぜ。」
「ま、主人がアレじゃ、しょうがねえ結果だよな。」
嘲り笑うギャラリーたち。
だが、ダース・ジョンイルは……。
「無敵のプルガサリが負けただと?……その節穴同然の目で、もういちどよく見てみるニダ!」
ギリギリと万力のように食い込むリドザウルスのキバ。
しかし噛み付かれたプルガサリは平然としている!?
よく見ると、噛まれた喉からは一滴の血も流れていない!
「プルガサリとは朝鮮語で『殺すことのできぬ獣(不可殺獣)』の意味!アメリカ帝国主義の手先如きに、負けはしないニダっ!」
勝ち誇ったようにはしゃぐダース・ジョンイル!
それでは……噛み付かせたのはひょっとしてワナ???
ギャラリーがそう思うのと同時であった。
プルガサリの両腕がリドザウルスの頭を左右からガッキと挟みこんだ!
そしてそのまま、リドの顎を強引に引き剥がし……弾みをつけ縦に回転させるようにして己の頭上へと振り上げた!
ぶーーーーーんっ!
…ボスッ!
………ボタボタボタッ……
こんどこそは夥しい量の血が流された。
瀧のように、
雨のように……、
プルガサリの半月刀のようなツノが、リドザウルスの脇腹をみごとに貫いていた。
ずしん!ずしん!ずしん!ずしん!
夜の六本木の町に、地響きが迫って来た。
「勝負は!?終ったのか!?」
疾駆する巨獣の肩で老婆が叫ぶ。
CIAの急報を受け、キングコングがリドザウルスの加勢に駆けつけたのだ!
……が、しかし……。
「……遅かったようね。」
血の海に沈んだリドザウルスを見下ろして老婆=フェイ・レイは呟いた。
「しかしリドザウルスを完全撃破するとは……。プルガサリとは何者?そしてダース・ジョンイルとは??」
ピーッ!ピーッ!
無線が鳴った。アメリカ本国からの指令だ。
《フェイ、プルガサリは意外な強敵だ。プラハからジラもそっちに向かわせる。ジラとコングでプルガサリを挟撃せよ。》
「でも二対一の戦いなどコングには相応しくありません。」
《フェイ。これは祖国アメリカのためなのだ。地球代表怪獣は何としてもアメリカから出さねばならない。》
「……わかりました大統領。ご命令に従います。」
フェイは無線を切った。
フェイは思っていた。
そもそもこの騒ぎの発端はアメリカと北朝鮮の間の開戦だった。
それがこんな形で引き継がれようとは……。
しかし、事態はアメリカ対北朝鮮の対決には留まらなかったのである。
「号外!号外っ!!ダース・ジョンイルと中国が手を結んだよーーーっ!!」
駅で、街頭で、新聞売りが声を嗄らして叫んだ。
普段はニュースなどネットでしか目を通さない者たちまで我先に号外に手を伸ばす。
トップを飾るのは、互いに握手を交わす中国の首脳とダース・ジョンイルの写真である。
これはすなわち、中国が押す代表候補の北京原人と北朝鮮が押すプルガサリの共闘に他ならない。
この時点で反米・反キングコングの立場からタイのハヌマーンが既に北京原人と共闘していたので、ここにハヌマーン+北京原人+プルガサリの三国同盟が成立したことになる。
一方アメリカもこの動きに対応し、ジラのみならずイギリスの押す代表候補ゴルゴをロンドンから呼び寄せ、ジラ+キングコング+ゴルゴの三体で連合国軍を編成した。
同盟軍と連合軍。
その戦場は日本である。
はっきり言っていい迷惑だ。
どっか他所でやってくれよ。
それが、例の大学生三人組と「怪獣」が富士の樹海から帰ってきた来たときの国内の状況であった。
例の大学生三人組みが、路肩に停めた大型トラックの前で、メチャクチャに破壊された六本木の街を見渡していた。
倒壊したビル。
崩落した高速道路。
大地震と巨大台風がアベックで通りすぎたような惨状だ。
バカ?「なんだか凄いことになってるね。」
ラジオ「リドザウルス対カマキラス対プルガサリだってさ。」
ネガネ「畜生!外国のヤツラ、俺達の国で好き勝手暴れやがって。」
そのときネガネの怒りの思念に反応したのか、背後のトラックの幌の下から声が聞えた。
「きゅ……きゅうぅ……。」
バカ?がすぐさま幌の中に顔を突っ込み、宥めるように言った。
バカ?「……大丈夫だよ。だれもキミのこと怒ってないから……。」
ラジオ「なあメガネ…、やっぱり止めようよ。」
メガネ「なんでだよ!?自動車ドロボウの上に無免許運転までして、ここまで連れてきたんじゃないか?今さら止められるかよ!」
UFOの出現と、それに続く怪獣大暴れ以来、日本の秩序はあるんだか無いんだか微妙な状態になっていた。
でも、だからといってドロボウはドロボウだし、無免許運転は無免許運転だ。
ものの善悪まで判らなくなっているワケではない。
それでも敢えて「悪い事」をしたのは……。
バカ?「………アメリカやイギリス、北朝鮮に地球を代表させちゃいけないんだよな。もちろん日本でもいけない。」
メガネ「そうさ、宇宙人がやって来たのは、人間が、他の地球の同居人のことを考えないような『悪いこと』をしたからなんだ。
その『悪いこと』をしたのは北朝鮮やアメリカ。日本だって見て見ぬふりをしてきたんだから同じさ。そんなヤツラを地球の代表にしちゃいけない!」
ラジオ「……そうだったよね。だからこそボクたち若者や、ボクたちよりも幼い子供たち全ての代表として……。」
そう言いながら、ラジオはトラックのホロを持ち上げた。
荷室に光が射し入る。
ラジオ「……この子が……地球代表にならなきゃいけないんだ。」
荷室では小柄な怪獣が、眩しそうに目をパチクリしていた。
メガネ「生物学的観察によると……。」
ここはメガネたち三人の通う大学の埼玉校舎。
一年生のあいだだけは、都内の本校舎ではなくこっちに通うのだ。
アメリカが来た朝鮮に戦線布告して以来、学生の姿も、教授たちの姿も見えない。
とっとと避難したか、怪獣対決を生観戦しに行ったからだ。
そのおかげで、メガネたちはミニラをここに隠すことができたのである。
メガネ「………この怪獣はおそらくゴジラの幼体と考えられる。よってボクは『ミニサイズのゴジラ』という意味でミニラと命名することを提案する。」
ミニラ「きゅう?」
バカ?「あの…『マオちゃん』はダメ?」
ラジオ「……なに?そのマオちゃんって?」
バカ?「ボクの妹にそっくりなんだよね。だから妹の名前とって『マオ』。」
ラジオ「(ミニラの顔をしげしげ眺めてから……)この子にそっくりなのか………、オマエの妹、不憫だな。」
ミニラ「きゅう……(悲)。」
バカ?「顔が似てるわけじゃないよ。なんていうか、全体の雰囲気がさ……。」
ラジオ「そんならやっぱり不憫だ。」
メガネ「却下!」
ラジオとバカ?のやりとりを眺めていたメガネが大声で宣告した。
メガネ「…『マオちゃん』はダメ!怪獣っぽくないし、実在の人間に同名の人がいそうだから却下する!」
三人の会議?そのあと暫く続き、結局二つの事項を決定した。
ひとつは……「ミニラ」と命名すること。
もうひとつは、明日シバ公園でデモンストレーションを行う予定のメカ・カールゴッチにミニラをぶつけるということであった。
翌日、シバ公園は黒山の人だかりであった。
聳え立つ東京タワーの横に、青いビニールシートを被せられた巨大な物体が立っている。
その足元でマイクを握るのは、表向きはIT産業の社長、実は単なる株屋という金持ちのプロレスオタク(略して「プロオタ」)であった。
プロオタ「このたび我々プロレスファン有志一同は、地球の危機を救うため立ち上がることにしました。宇宙怪獣たちの軍団はこの……。」
ここで青いビニールシートがさっと取り払われた。
金属光沢のボディが白日のもとに晒される!
プロオタ「……メカ・カールゴッチに任せてください!」
現れた巨大ロボット、そのズングリしたボディラインは、カール・ゴッチというより鋼鉄製のホリエモンといった感じだった。
「すみません!」居並ぶ記者たちの間から手が上がった。
記者「あの、巨大生物と戦うのに、なぜプロレスなんですか?」
プロオタ「いい質問です。……いまから、そう40年くらい前、怪獣映画のブームがありました。ご存知ありませんか?」
若い記者は首を横に振った。
プロオタ「そうですか…。怪獣が初めてテレビに姿を表したとき、視聴者は怪獣の力というものを、理解することができませんでした。そのとき、雑誌などでは、怪獣のパワーというものをどのように表現したのか!?」
記者たちを見渡してからプロオタは続けた。
プロオタ「昔は、このように怪獣の力を表現しました、『この怪獣のキック力は、ジャイアント馬場選手の100万倍です』!どうです?わかりましたか?
昔、怪獣の力はプロレスラーの力を物差しにして計られていたのです!!」
それで「メカ・カールゴッチ」ということらしい。
なんだかなあ………という感じた。
顔を見合す記者たち。
プロオタだけはご満悦だ。
プロオタ「プロレスはキング・オブ・スポーツ!!宇宙怪獣など、このメカ・カールゴッチがジャーマンスープレックスホールドで片付けてくれることでしょう!」
そのときだ!
ゴウゴウと黒い粒子状物質を吐き出しながら、大型トラックが会見場に這いこんできた!
運転室のドアが開き、中から飛び出したのはもちろん「メガネ」たち三人だ!
「挑戦状」と大書された紙をさし上げ「メガネ」は叫んだ!
「おまえのメカ・カールゴッチに、ボクらの怪獣ミニラが挑戦する!」
やばい!?
だんだん大河ドラマみたいになってきた(笑)。
でも大丈夫、長くしないから。
例によって土日は自宅にパソコンが無いのでお休み。
休み明けの月曜は、いよいよミニラのデビュー戦!
プロレス板が推す代表候補、メカ・カールゴッチとの対決だ。
ほんとに怪獣プロレスやるぞ(やるなよそんなの……)。
来週一週間連続投下して、華々しくエンディングの予定。
メカ・カールゴッチに爆笑しましたw
207 :
ガメ男:2006/01/27(金) 23:43:36
フィリッツ・フォン・エリックも出してください(うそ)
トリノへの道、映画化して欲しい。
私の良心回路もスパークしそうです!!
プロオタ「ほほう……我々プロレス板に挑戦しようというのだな。」
いきなり突きつけられた挑戦状に表情を険しくしたプロオタだったが、ドラックの幌の中から出てきたミニラを見たとたん余裕タップリといった雰囲気になった。
プロオタ「……よかろう。このメカ・カールゴッチにとっては少々食い足りない雰囲気の相手だが、獅子は我が子を倒すにも全力を尽くすとか……。」
ギャラリーA「………獅子が全力で倒すのは『ネズミ』だろ?」
ギャラリーB「んでもって『我が子』の方は千尋の谷底に突き落とすんだよ。」
ギャラリーC「混ぜて使うなよ(笑)」
プロオタ「………………………(汗)。と、飛べ!メカ・カール・ゴッチ!」
メカ・ゴッチ「ま゛っ!」
双眼式メインカメラに光が灯り、メカ・カールゴッチはゆっくりと……歩きだした。
ギャラリー「飛ぶんじゃねえのかよ!?」
突込みどころ満載のプロオタだが、メカ・カールゴッチの方に責任は無い。
鋼鉄の巨人は、ミニラの正面40メートルほどまで接近すると重心を低く落とし前傾姿勢をとった。
前傾姿勢から探るように右手を伸ばし、ジリジリ接近するメカ・カールゴッチ。
これに対し、「自然体」というか「なーんも考えてない」状態で迎え撃つ?ミニラ。
無防備なままのミニラの首にメカ・ゴッチは手を掛けると、ぐいっとしたに引き下げた。
そして間髪入れず、左でエルボースマッシュ一閃!
がーーん!
乾いた音をたて、バレリーナのように回転しながら倒れこむミニラ!
そしてメカ・ゴッチは倒れたすぐさまアイアンクロー!
プロオタ「テキサスの鉄のツメ!フリッツ・フォン・エリックの必殺技です。他にもキラー・カール・クラップのブロンズクローもできます!」
ギャラリー「その二つ、どこが違うんですか?」
プロオタ「知りません。ただビッグ・サカは言いました『クラップのブロンズクローはエリックの数倍危険だ』と!」
そんなたわごとプロレスオタクだって誰も信じてねーよ。
話がマニアな方向に流れているあいだにも、メカ・カールゴッチは次々と流れるようにプロレス技を繰り出していった。
アイアンクローから引き摺り起すと体を入れ替え首投げ。
そして背後からいったんチキンウィングを決めると、すぐさま両手をミニラの腰にまわしてバックドロップ!
あとはもう口から出任せというか「かけ任せ」という感じて次々大技を繰り出していった。
ビル・ロビンソンのワンハンドバックブリーカー!
ミニラ「きゅう!」
ジョージ・ゴーティエンゴのブロックバスター!
ミニラ「きゅう?」
キラー・カール・コックスのブレーンバスター!
ミニラ「きゅうっ!?」
アントニオ・ロッカのアルゼンチンバックブリーカー!スタイナー兄弟のフランケンシュタイナー!アドリアン・アドニスのブルドッギングヘッドロック!!
「きゅう!きゅう!きゅううっ!!」
哀れミニラは顔面から地べたに叩きつけられた!
必殺技が次ぎミニラに決まっていく!
しかも下はマットではなくコンクリートやアスファルトだ。
ラジオ「ま、まずいよ!ミニラ死んじゃうよ!?」
バカ?「ギブアップしよう!」
だがメガネは真っ青な顔で首を横に振った。
メガネ「ダメだ!ミニラこそが人類最後の希望なんだ!」そして消え入るような声で言い足した「……頼む!耐えてくれ!ミニラ!」
がっつーーーん!
ジャンボ鶴田のジャンピングニーパットがミニラの鼻の辺りに炸裂!
倒れたミニラを容赦無く引き起こすメカ・ゴッチ。
ギャラリーが叫んだ。
「ミニラの顔が真っ赤だ!」「鼻血だ!鼻血!」「流血はリングに咲いた花だっ!」
ミニラの鼻血で赤く染まるシバ公園!
プロオタ「メカ・ゴッチよ!血の芸術に最後の一点を加え完成させよ!」
メカゴッチ「ま゛っ!」
ミニラの両腕の下にメカ・ゴッチは自らの腕を潜らせ、ミニラの首の後ろで両手をロックした。
プロオタ「あれこそアンヘル・ブランコ、マンド・ゲレロらの頚椎を破壊し、ついにはニューヨークWWFから使用を禁止されたという達人ワザ!」
首と両腕をフルネルソンにロックされた状態で引き摺り起されさるミニラ。
両腕を左右に伸ばしたその姿は、まるで十字架にかけられたようだ。
バカ?「まずいよ!あんなのをアスファルトの上でくったら!?」
ラジオ「絶対死んじゃう!」
メガネ「ご、ごめんよミニラ!ギブアッ……。」
タオルを振り上げるメガネ!
しかし、彼が「ギブアップ」と言うより早く、メカ・ゴッチの上体が高速で後ろに反り返った!
ガッツツツツツツツツツゥゥゥゥゥン!!
……………
「そんな………。」「ミニラ……死んじゃった……?」
ラジオとバカは呆然と立つ尽くすばかり……。
「ご、ごめんよ……ミニラ。ボクラが勝手にボクラの未来を背負わせちゃったばっかりに……。」
メガネは膝から力が抜けたように崩れ落ちた。
……三人とも涙が止らない……。
メカ・カールゴッチの体はベタ足の状態で綺麗に弧を描き、一方ミニラの足は完全に天を向いたまま動かない。
ミニラの上体はアスファルトの地面に突き刺さっていた。
「ごめんよ……ミニラ……ボクがもっと早くギブアップしてればこんなことには……。」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を拭いもせず、メガネは床に両手をつき、人目も気にせず泣いた。
泣いた。
号泣した。
「……ミニラ……ミニラ……。」
地面を掻き毟って泣く……。
だが、もうミニラは……。
そのとき、メガネの肩に誰かがそっと手をかけた。
「いつまで泣いているんだい?まだ勝負はついちゃいないよ?」
「まだ勝負はついちゃいないよ。」
「えっ!?」
驚いたメガネが顔を上げると、そこにあるのはどこか見覚えのある顔だった。
「あなたは………寅さん!?」
そこにいたのは映画「男はつらいよ」に出て来る寅さんそっくりの、それも顔だけでなく衣裳まで寅さんそっくりの男だった。
「さあ立つんだ。怪獣がまだ負けてないのに、使い手であるキミたちが泣いてちゃ話になんないぞ。」
寅さんはメガネの手を引いて立ち上がらせた。
メガネ「ありがとう………、でもミニラはもう。」
寅さん「ほら、よく見てごらん。あれでも負けてるっていうのかい?」
ビクン!っと……シッポが動いた!
ミニラは死んでなんかいない!
寅さん「見たところ、あの怪獣はゴジラの幼体だろ?」
メガネ「そうだと思います。」
細い目から鋭い視線を放ち、寅さんはミニラを観察していたが……。
寅さん「思った通りだ。ダメージなんか残ってないね。」
バカ?、ラジオ「本当ですか!?」
寅さん「本当さ。たぶん最初はダメージを受けてたろう。だが、すぐ耐性がついて体強度も上がってしまった。回復力にもターボがかかってアッというまにダメージを回復してしまったようだね。」
メガネ「そ、それってひょっとして……!?」
寅さん「そう。正解。ゴジラの力さ。」
まるで「ゴジラ」という語が聞えたようだった。
バシーーーン!!
それまで様子を窺うように動いていたミニラの尻尾が急にシャンとなったかと思うと、ブリッジの体勢でいるメカ・カールゴッチの腹に棍棒のように叩きつけられたのである!
寅さん「ほーら。反撃開始だぞ。」
バシーーン!と一撃!
突然の反撃にグラつくメカ・カールゴッチ。
そこへ二撃!三撃!!
驚くプロオタ!「な!?まだ生きてるだと!?」
四撃めのシッポ攻撃でついにブリッジが崩れた。
ミニラとメカ・ゴッチ、立ち上がるのは同時!
プロオタが叫んだ!「橋本真也の水面蹴り!」
メカ・ゴッチの右足が不意に地面ギリギリを薙ぎ払うように旋回!
狙いはもちろんミニラの足!
だが、ミニラはこれを縄跳びのように飛び越えた!
「なんの!それなら足を刈れるまで連発だ!!」
意地になったプロオタが命ずると、メカ・ゴッチは同じ体勢のままで扇風機のように回転し始めた。
メガネ「軸足の左足首部分が回転するのか!」
バカ?「これのどこがプロレスなんだよ!」
プロオタ「バカめ!勝てばいいのだ!」
メカ・ゴッチ回る!ミニラがまた飛び越える!
ゴッチまだ回る!ミニラ負けずに飛び越える!
ゴッチ更に加速する……!ミニラも急いで飛び越える!
だが機械でありモーターでグルグル回っているだけのメカ・ゴッチと違い、生身のミニラはだんだん厳しい速さになってきた!
それでも十数秒がんばったが………、ついにミニラの足が縺れた。
ラジオ「あ?危ないっ!」
かっ!
ぶつかるというより、何かが削られたような音とともに、ミニラの体が高速で縦回転!
がんっ!
そのままの回転速度でミニラはアタマから地面に激突した!
メガネ「ミ、ミニラ!?」バカ?「まおちゃん!」
しかし………。
こんどもミニラはアタマを掻き掻き立ち上がった。
プロオタ「なんと……今のでもダメなのか!?……ならば、息の根が止るまでラッシュをかけるのみ!立て!メカ・カールゴッチ!」
メカゴッチ「ま゛っ!」
例によってどこかで聞いたような音声で応えると、メカ・ゴッチは左膝を伸ばし立ち上がり………そして右足の側に朽木倒しにひっくり返った。
プロオタ「ど、どうした!?どうしたんだ!?メカ・カールゴッチ!??」
バシュッッ!
メカ・ゴッチの右膝から突然火花が噴出した。
それも一箇所ではない。
メカ・ゴッチの右足の数箇所から次々と火花が噴出してきたのだ。
「……あの男は一体何を驚いているのだ。」オロオロうろたえるプロオタを見て、寅さんは言い放った。「あたり前の物理法則だろうに。」
メガネもポンと手を叩いた。
「そうか!作用・反作用すね」
「そのとおり。物質Aを物質Bに衝突させて破壊しようとするとき、AとBの両方に同じ大きさで逆方向の力が作用する。
このとき、ぶつけられる側の物質Bよりも、ぶつかる側の物質Aの強度が低かったら、ぶつかったAの方が破壊されてしまう。」
「それじゃあミニラのほうがメカ・カールゴッチよりも強度が上だったんですか!?」ラジオが目を丸くして驚いた。
「当然だ。」寅さんにとって、そんなことは言うまでもないことらしい。「抗生物質を半端に投与すると耐性菌が生まれるだろ?あれと同じさ。」
「そうか。」メガネも納得して頷いた。「一気に攻めきれないまま、半端な攻撃を続けたんで、メカ・ゴッチは墓穴を掘ったんですね!」
三人の学生を見ながら、寅さんは頷き応えた
「そのとおり。」
パーーーン!
今度はメカ・カールゴッチの頭部からも火花が散った。
脚部での電気回線の異常がメインコンピューターに飛び火したらしい。
鋼鉄の巨人は、もうぴくりとも動かなくなってしまった。
誰の目にも判る、ミニラの完全勝利だった。
……なんだか普通のお話路線になってきているので、粗筋路線に戻すと……。
親切なアドバイスをくれた「寅さん」とは、実はショーチク星からやってきた宇宙人であり、宇宙大怪獣ギララの使い手であった。
彼は昔から地球が好きで、人間の中に暮らした経験すらあった。
そして特に松竹映画「男はつにらいよ」シリーズのファンだったため、主人公の寅さんの姿と名前を借りていたのである。
寅さんは言う。
「人間ってバカだよね。この命溢れる星で核戦争なんてやろうとしたんだから。
でも、一部の人間は、自分たちがバカだったってことを知ってるし、理想だって忘れたワケじゃない。
キミたちだってそういう人間の一人だろ?
だから知的生命体連合だって、地球人にトーナメントへの参加資格を与えたんだ。」
三人の学生にエールを送ると同時に、寅さんは警告も与えてくれた。
寅さん「私の見るところ、代表候補はジラ、キングコング、プルガサリ、そしてキミたちのミニラのうちどれかだ。
このうち最も危険なのはダース・ジョンイルの操るプルガサリだよ。」
メガネ「ん?それは何故ですか?ボクは共闘の可能性があるジラとキングコングの方が強敵だと思うんですけど。」
寅さん「理由は…ダース・ジョンイルの背後にどこか宇宙の勢力が隠れているからださ。」
メガネ「なんですって!?そんなことをしていったいどんなメリットが!?」
寅さん「管理権争奪トーナメントに、参加者は代表一枠しか送り込めないことになってる。
しかし、地球人であるジョンイルを操れば、もうひとつ代表枠を押さえることができる……。そういうワケだよ。」
メガネ「……なんていうことだ。それじゃジョンイルのプルガサリが地球代表になったら……。」
寅さん「人類はおしまいさ。」
代表候補たちは互いに戦いあい、数が絞られつつあった。
ロシアの推すフランケンシュタインの怪物はメキシコの黒いサソリを叩き殺すが、毒針攻撃も受けてしまい、結局両者相討ちに。
一方、日本に連合軍勢力を集結させようとしていたアメリカだったが、その集結途中をプルガサリら同盟軍が強襲!
イギリスのゴルゴはプルガサリに敗北。
しかしキングコングはタイのハヌマーンを返り討ちにして、お猿世界一決定戦を制する。
チェコのプラハから日本に向かっていたジラを待ち受けるは中国推薦のペキン原人!
ここにキングコング対ゴジラのリメイクみたいな戦いが始まる…。
戦いのさなか両者とも組み合ったまま海中に落ちるが、東宝映画と違い、ジラが泳げるのに対しヒマラヤ出身のペキン原人はカナヅチだったため敢え無く溺死。ほぼ無傷のままで、ジラは東京に歩を進めることに……。
一方、「漁夫の利」が占められたら嬉しいなぁと、思っていたチーム・ミニラだったが、往生際の悪い昆虫板が送り繰り込んだクモンガと巨大カマドウマの挟み撃ちにあってしまう!?
巨大カマドウマww
>>220 巨大カマドウマはオーストラリアに実在する!
もっとも「巨大」といっても15cmくらいらしいが。
以前ふと迷い込んだ昆虫板で画像を拝見したが、ビッグ!かつワイルド!!
次の仮面ライダーはこいつをモチーフにデザインすべきだと思った(笑)。
連続すまぬ…主題が違うので分割した。
ミニラ対メカ・ゴッチ以降の怪獣対決を大幅に端折ったがこれでいいか?
この駄文のテーマからすると外れた部分なんで削ったんだが。
主人公である三人の学生は一年生で未成年なので「この現状に責任の無い世代」ということ。
大人の始めた戦争で地球管理権を奪われそうになり、「原因を作った大人たちに任せてはおけない!自分たちや後に続く子供たちの代表を立てなければ!」と考えた。
そこでミニラを立てるのだが……。
ミニラは怪獣として溢れるポテンシャルを持ちながらも、平和が好きで戦いを好まない怪獣だった(メカ・ゴッチ戦でミニラが自分から仕掛けていないのはこのため)。
そのミニラの戦い振りを見た3人は「人間のしたことのツケをミニラに押し付けているだけなんじゃないか?」「自分たちも、自分たちにツケを押し付けた大人と変わらないんじゃないか?」と考え始める(この視点の契機になるのが「寅さん」との会話)。
それぞれに悩む三人。
だがそれを救ったのは、なぜか健気に闘う姿勢を見せ始めるミニラ(この部分が次のクモンガ+巨大カマドウマ戦)。
結局三人は、ミニラとともに「今できること」を力一杯するしかないのだと…、それが人間という「種」としてできる最善のことだと気づく。
そして「四人」は地球代表決定戦へと……、というのがこの駄文の基本構造。
最後の仕掛けは最後の最後にとってあるが…。
もし「怪獣対決削るな!」というんなら、あっちをフルに書いてこっちを削るが?
どっちがいい?
……やっぱりこの駄文、表向きのウリは「怪獣大暴れ」なんだから、あんまり端折っちゃいかんよな。
反省、反省……。
と、いうわけで、ジラ対ペキン原人をちゃちゃっと投下すべし。
どっちも削らないでください
ガチンッ!
イナヅマのように巨大な顎が迫り、音をたて閉じる!
上体を仰け反らせこれをかわす巨猿!
アメリカの怪龍ジラはフェンシングのように顎を操り攻め立てる!
拳を振り回し応戦するはペキン原人!
そのさまは、オリジナル版「キングコング」か「キングコング対ゴジラ」の再演のようだ!
激突の舞台は福岡。
フィリピンから沖縄を抜け日本上陸を果たしたジラを、ペキン原人が待ち伏せたのだ。
また顎が来た!!
しかし北京原人、今度はこれをサイドにかわしざま……。
ぶん!……ごっちーーん!!
……ジラの側頭部に右のフックを叩き込んだ!
つんのめるように体が崩れるジラ。
すかさずその背にペキン原人が飛び乗った!
そして背後からジラの逞しい首に太い腕をまわす!
このままグランドで締め落とせるか!?ジラを!?
立ち上がろうとするジラ!そうはさせまいとするペキン原人!
グランドでのもつれ合い数分、鋼鉄のケーブルを縒り合せたようなシッポを跳ね狂わせ、反動を効かせついにジラが立ち上がった。
しかし、ペキン原人は背中に取り付いたままだ!
次第に、ジラの口の端に、白い泡が吹き出し始めた!
泡を吹き、ジラの動きが次第に緩慢になってきた。
ペキン原人の豪腕をもってしても、ジラの首は締めきれていない!
が、しかし、例え不完全でも首を締められ呼吸が万全でない状態で激しく動いたため酸欠が進んだのだ!
ジラの脚が縺れた!?
ペキン原人の勝利は間近い!
そのとき誰もがそう思ったのだが……。
なにを思ったか?
ジラはペキン原人を背中に乗せたまま、最後の力を振り絞るように、猛然とダッシュを開始した!
酸欠による妄動……?
勝利を確信しつつも、原人はなお両腕に力を込める。
…その原人の目にキラキラ光るものが飛び込んできた。
ジラの走る先にあるもの、あの輝きは…………海!??
顔色が変わり、慌ててジラから飛び降りようとするペキン原人!
だがそれより早く、ジラは青い海へと身を躍らせた!
「ヒマラヤの氷壁から凄いヤツがやって来た!」
それがペキン原人のキャッチフレーズだ。
そして彼の弱点も暗示していたのである。
ペキン原人の故郷では、大部分の期間、水は雪か氷の姿をとっている。
短い夏季のあいだも、巨大な原人を溺れさせるような深みが生じることなどない。
つまり、ペキン原人は泳いだことがないのだ!
一方、巨大イグアナとも評されるジラは、フィリピン、沖縄、九州と海を泳ぎ渡ってきたのである!
頭まで水没した!?おまけに脚が底につかない!?!?
原人はたちまちパニックをきたし、ジラの首を締めていた両腕を解き放した。
(い、息ができない!?助けて!)
ペキン原人はバシャバシャ海面に浮上した!
溺れ、激しくハネを散らし、助けを求めるように腕を伸ばすペキン原人。
だが、その姿がぐいっと海中に消えた……。
………そのまま……10分以上たっただろうか?
津波のように波を蹴立てて再上陸したのは…………ジラのみであった。
アニメ版のゴッドジラみたいな光景が目に浮かぶ。
キングコングとその愛人フェイ・レイは、リド対プルガサリの対決以後、東京を離れる事無く新宿御苑に腰を据えていた。
ぴぴーーーーっ!
キングコングの使い手、フェイ・レイの携帯に着信があった。
「はい……。」
フェイは名乗らなかった。政府から公務用に支給された携帯だし、かけてくるのはあの人物だけだからだ。
「……フェイか、悪い知らせだ。」
「と、おっしゃられますと?」
「そっちに向かっていたゴルゴとジラが敵の奇襲を受けた。ジラは襲ってきたペキン原人を返り討ちにしたが……。」
「ゴルゴは殺られたんですね。相手はプルガサリ?それともハヌマーン?」
「……プルガサリだ。台湾に上陸した直後を、地底から飛び出したプルガサリにツノで一撃だそうだ。」
「…そうですか。」
「フェイ、キミも充分注意してくれ。たぶんキミの方にも……。」
「わかりました。大統領、ありがとうございます。」
フェイは携帯を切り、あたりの木々を見渡した。
警告を寄越すにしても遅すぎる。
いまごろになって……。
でも、これで相手の正体だけは判ったか……。
胸一杯に空気を吸い込むと、90歳をゆうに越すとは思えない凛とした声でフェイ・レイは叫んだ。
「出てきなさい!猿神ハヌマーン!おまえが潜んでいることはとっくに判っている!」
御苑の木々が、にわかにざわめきだした。
ざわめく木々。
しかし、あたりに枝葉を揺らす風は吹いていない!
コングは優しくフェイを掴むと地面に下ろした。
すぐそこに迫る危険をフェイにまで及ぼしたくは無いからだ。
フェイは思った。
(あのときもこうだった……)
フェイを掴みエンパイヤステートビルに登ったコングは、フェイだけを安全圏に残し、自分だけで戦闘機と闘ったのだ。
「コング!負けないで!」
フェイを見下ろしたコングの表情は、言葉にできない優しさに満ちていた。
だが、顔をあげ、辺りを睨みまわす顔は「黒い魔神」以外のなにものでもなかった。
フェイがコングから離れると同時に…。
「うっきいーーーーーーーーーっ!」
……奇声とともに、木々のうしろから巨大な影が飛び上がった!
音もなく着地する「白い猿神」ハヌマーン。
対するはキバ剥く「黒い魔神」キングコング。
白と黒。
新宿御苑は、二柱の神が対峙する戦場となった!
「新宿でキングコングとハヌマーンが戦ってるってさ!」とラジオ。
「猿対決ってわけだな。」滑る路面を見据えたまま応えるメガネ。
例の三人組大学生はあのオンボロトラックで秩父の山奥に向かっていた。
埼玉の大学校舎では、ミニラが隠し切れなくなってきたからだ。
メカ・カールゴッチと闘ったとき、ミニラの身長はせいぜい10メートル強に過ぎなかった。
ところが翌朝見たらなんと倍の20メートル近くになっていたのである。
バカ?「ウソ!?マオちゃん一晩で…………こんなに大きく!?」
ラジオ「血統だよ!ゴジラの血統でこんなに急に!」
メガネ「これじゃ何時までもココに置いとくわけにはいかないぞ!」
と、いうわけで冬のさなかに雪深い道にトラックを走らせていたのだ。
「中継だと……」自分の耳に嵌まっているイヤホンを指さしてメガネが言った。「……キングコングはブルーノ・サンマルチノだって。それでハヌマーンはペドロ・モラレスだって言ってるよ。」
「プロレスオタクってヤツらは、なんでもかんでもプロレスで例えるんだな。」そう言って鼻水をすすり上げるメガネ。
トラックのキャビンは空調が壊れているのでとても寒かった。
だが……。
「ここがこんなに寒いんだから、バカ?はもっと寒いんだよね。」ボソッと呟くラジオ。黙って頷くメガネ。
バカ?はミニラと一緒に、トラックの荷台に乗っていた。
トラックに載せようとしてすぐ気がついた。
大きくなりすぎて、ミニラはもう幌の下には入らない。
止む無く、ミニラを青天井の二台に載せて上に直接幌布を被せることにした。
ところがトラックが走り出してすぐ、ミニラが二台が降りてしまったのだ。
剥き出しの荷台に、一匹だけで座っていくのが怖かったのだ、
バカ?「ごめんよマオちゃん。一人だけ怖い思いさせて……。なあ、メガネ、ラジオ、ボクがマオちゃんと一緒に荷台に乗っていくよ。」
バカ?と一緒に幌にくるまると、ミニラはなぜだか落ち着いた。
そして、この雪深い山の中まで走ってきたのだ。
ラジオがまた呟いた。
「バカ?のやつ………寒いだろうな。」
「うっきいーーーーーっ!」
ハヌマーンがまた跳躍した!
空中で反転するとキングコングにハイキックを叩き込む。
ダルマ落しの台座のように吹っ飛ぶコング!
しかし、ハヌマーンは相手を蹴った反動で体を捻って足から着地。
コングが体勢を立て直すより先に、ハヌマーンのドロップキックが飛んきた!
「うっきぃーーーーーーーーっ!」
またも吹っ飛ぶキングコング!
これではコングに反撃のチャンスが無い?!
パンチにキック!前転に後転・側転、宙返り!まさに変幻自在!
ハヌマーンの一方的な攻撃が、試合開始から10分以上に渡り続いている。
普通それだけ動き回れば息が上がるはずなのだが、ハヌマーンにその気配は全く無い!?
孫悟空のモデルになったというだけのことはある!
フェイ「……ハヌマーンが怪獣のくせにムエタイの使い手だったとは!だが、パワーはコングの方が遥かに上。掴まえて…。」
だが、ハヌマーンの動きに衰えの気配は微塵も無い!
キングコングの振り回す拳をかいくぐると、コングの顎に膝蹴りを叩き込む!
さらに、衝撃で仰け反ったところを狙い、横回転するともう一方の足からソバットを見舞った!
キングコング!絶対絶命か!?
「ラジオ」がイヤホンを片方外すと、いま聞いている「キングコング対ハヌマーン」の実況を隣に座る「メガネ」に話して聞かせた。
「キングコング、危ないみたいだよ。ハヌマーンの打撃攻撃にサンドバッグ状態だって。
照明の乏しい夜の山道に、懸命に目を凝らしながら「メガネ」は答えた。
「……わからないさ。コングは強いよ。巨大アナコンダ戦でもそうだったけど、追い詰められてからが本当のスタートさ。」
……
………
「うっ!きっ!きっ!きっ!きっいいぃぃっ!」
直立した姿勢で、ハヌマーンが小刻みにジャンプしながらキングコングのスキを窺う。
跳ねると同時に、上体の構えを右構えから左構え、そして右構えと目まぐるしくスイッチした。
影なく形なく、柔剛もない。
変幻自在の白猿神ハヌマーン。
炎の舌の如き手ワザの連打でコングの防御が上がると、すかさず下から飛び膝蹴り。
ローキックの連打にコングの構えが下がると、今度は狙い済ましたハイキック。
たまにコングがブロックに成功し、力任せに吹っ飛ばしても、ハヌマーンはゴムマリのように弾んで衝撃を逃がしてしまう。
だがしかし戦いの趨勢は、実況中継されているほど一方的ではなかった。
フェイ(来い!ハヌマーン!そんな軽い攻撃では、私のコングは倒せないわ!体重の乗った本当の一撃を打ってきなさい!!)
打ちまくられながらも、キングコングは前に出ていた。
……前に、前に。
打たれても、蹴られても……、それでも前に!
それがハヌマーンへの無言のプレッシャーとなっていた。
距離を置いた打ち合いなら、打ち負けるとは思わない。
しかし、あの豪腕に掴まっては……。
それ故ハヌマーンは、存分に体重を乗せた本当の「必殺」の一撃を放てずにいたのだ。
じりじり下がるハヌマーンの尻尾の先が背後の樹木に触れた。
(まずいな…。これ以上後退したら、この緑地(=新宿御苑)から出てしまう。)
この対決は相撲やプロレスではないのだから、別に御苑から出ても構わないのだが……。
むしろ外に広がる街には高層ビルが立ち並び、身軽なハヌマーンに絶好の戦場を提供している。
だが、ハヌマーンは御苑の外に出たくなかった。
猿「神」ハヌマーンのプライドが、それを許さなかった。
黒いゴリラ如きのプレッシャーに押し出されるなど、到底承服できることではなかったのだ。
(……そろそろ逝かすか……)
ハヌマーンは跳び跳ねるのを止めた。
フェイ「その気になったわね、ハヌマーン!」
両足を肩幅程度に開き……腰を落とす白猿神。
「くぅっ………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その姿勢で長く深く息を吸い込むと、気勢がみるみる上昇し、酸素の行き渡った筋肉が怒張した!
(受けられるか?キングコングよ!この………)
白猿の呼吸が止った。
(「山をも崩す」八極拳の突撃を!)
吸い込んだ呼気を一気に吐き出すと同時に、右脚を落雷のように踏み出す!
そして次の瞬間、ハヌマーンは砲弾のようにコングの懐へと飛び込んだ!
ばばぁーーーーーん!!!!
巨獣衝突の轟音が、御苑の境を越えて、夜の新宿の町に轟き渡った。
コングの黒い巨体にハヌマーンの白い体が、楔となって突き刺さっている。
ハヌマーンの右正拳は、肘のあたりまで深々と黒い巨体に突き入っていた。
黒い体に生気は感じられず、白い体に体重を預けきっているように見える。
(勝負あったな……。しかし最後まで倒れぬままに、立ち往生とはさすがだ。)
拳を引き抜こうとするハヌマーン。
……よほど深く突き入ったのか、拳は容易には抜けない。
力を込めようと左手をコングの体にかけたときだった。
右拳が、雑巾でも絞られるように締めこまれた!?
コングの腹筋が激しく収縮し、めりこんだハヌマーンの拳を捉えたのだ!
(なんだと!?)
同時に、黒い左腕がハヌマーンの右腕に巻き付いた。
それまで伏せっていたコングの顔が上がった!
口のわきから血が大量に滴っているが、目の輝きは失せていない!
「(これでどうだ?!)うぎぃいいいいいいいいいっ!」
ハヌマーンは、自由な左腕を弓引くように引きつけると、コングの顔へと叩きつけた!
バキッ!
コングのキバが折れ、一瞬よろめくキングコング。
しかし、そのハヌマーンの左拳を、コングは右で引っ掴んだ!
(ならば蹴るまで!)
脚を後ろに引くハヌマーン!
だが、ハヌマーンが蹴りを繰り出すより早く、コングの額、渾身の頭突きが、ハヌマーン目掛け叩きつけられた!
…………。
赤い血の海にハヌマーンは沈んでいた。
……もはやキングコングにはあの一撃しか余力が残されていなかった。
しかし、それより後のない文字通りの最後の一撃が白猿神の闘志を粉砕した。
黒い神が白い神に勝ったのだ。
だが……コングに勝ち誇る気配はなかった。
それどころか、ハヌマーンを見下ろすコングの目は悲しみに満ちていた。
(なぜ猿どうしで、仲間同士で殺しあわねばならない?)
野生の猿も、メスを巡って争うことはある。
しかしその場合でも、大自然の定めた掟に従った上での話だ。
ルールもへったくれも無しに、ただ殺すために殺しあうのは人間の「特権」だ。
(オレは愛するもののため闘った。オマエはなんのために闘ったのだ?)
血に染まった真紅の顔の中で、ハヌマーンの目が開いた。
(なんのためにだと?……………ああ、そう言えばなんのためだったんだろうな……)
それはタイの国のため。
そして………人間の都合のため。
ハヌマーンは愛するもののために闘ったというコングのことが、なんだか羨ましくなった。
黒い神と白い神、二柱の神の視線が穏やかに交差する。
……風も無いのに木々の梢が揺れた。
そして、はたと気づいたとき、ハヌマーンの姿はどこかに消え失せてしまっていた。
ラジオ「メガネ、キミの予想したとおり、コングが勝ったってさ。」
「やっぱりね。」とだけ、メガネは答えた。
ラジオ「でもさ、変じゃないかな?」
メガネ「何が?」
ラジオ「アメリカ連合軍を倒すなら、プルガサリ、ハヌマーン、ペキン原人の三匹がかりで一匹づつ倒していったほうが確実だと思うんだよね。
でも、実際は一対一の対決が三つ……。ダース・ジョンイルたちはいったい何考えてるんだろ?」
メガネ「………『寅さん』の入ったことを忘れたのかい?」
ラジオ「………え?」
メガネ「ダース・ジョンイルは宇宙人の手先……。つまり今回の三対決は、地球側の代表候補同士を戦い合わせることにあったんだ。」
ラジオ「………そうか。地球代表の有力候補が、一度に三匹もいなくなっちゃったんだね。」
メガネ「そしてダース・ジョンイルのプルガサリは健在……。………ジョンイルの狙いどおりってことさ。」
国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国店………ではなく、全然雪など降っていなかった。
驚いてトラックを止めるメガネ。
ネガネとラジオがトラックのキャビンから降りると、荷台からミニラとバカ?も降りて来た。
ラジオ「荷台に乗ってて寒くなかった?」
バカ?「…大丈夫だったよ。マオちゃんの体が暖ったかだったから結構快適。」
メガネ「……でもなんでここだけ雪が降ってないんだ?」
ラジオ「雪が降ってないどころか、ここなんだか暖かいじゃん。」
メガネが辺りを見回すと、奇妙な立て看板がいくつも目についた。
いや「立て看板」ではないのだろう。
看板なら、何かの文字や表示がかかれているはずだ。
辺りに散見する「看板」はただトンボやカブトムシの形に切り出され色を塗られただけで、一切表示がない。
ラジオ「雪が降ってないどころか、ここなんだか暖かいじゃん。……なんだか変だよ。」
メガネ「そうだな…………。よし、バカ?はミニラといっしょにここに残ってくれ。ボクはラジオといっしょに偵察に行ってくる。」
メガネとラジオが、道づたいに15分ほど坂を下っていくと、なんだか大勢の人声が木々のあいだから聞えてきた。
だがその声の調子は、農村での村民同士の会話というより、アジ演説を連想させるものだった。
不審に思い、声のするほうにそっと忍び寄る二人。
小高い丘の向こうに広がっていたのは異様な光景だった。
典型的な寂れた寒村の中心に灯台のような建物が立っている。
ラジオ「……あの建物……どこかで見たような。」
メガネ「しっ!気づかれるぞ!」
「灯台」の上には一人の男が立っていた。
そして、灯台の下にクワガタやカブトの模様の服を着た男たち。
「灯台」の男は下の男たちに何か演説をぶっている。
それがアジ演説のように聞えるのだ。
男「……残念ながら、シュウユは敗れた。だが、しかし、我々は決して諦めない!」
メガネ「一体何を言ってるんだ?シュウユってなんだ?」
男「……我々はついに、わが板の新たな地球代表候補、チョウウンとソウソウを育て上げた……。」
そのときラジオはあの灯台のような建物をどこで見たのか思い出した!
ラジオ「そうだよ!ゾルゲル島だよ!あれはあの島にあった気象制御装置!あれのせいでたしか……。」
……村の向こう側に広がる雑木林が急にざわめきだした!
そして木々の梢の向こうから現れたのは……!?
メガネ「あ、あれは巨大な触覚!しまった!ここは『昆虫板』のやつらの巣窟だぞ!」
日程が厳しくなってまいりました。
明日一日でミニラ対クモンガ(チョウウン)+巨大カマドウマ(ソウソウ)を完成させて、翌日準決勝2試合(ジラ対ミニラ、キングコング対プルガサリ)を書いたとしても、今週中には終らない!?
やっぱり「怪獣対決」か「人間ドラマ」の部分を削るべきであったか……。
急ぐもんだから文章雑だし、SF的でもないし。
頭が痛くなってきた。
メガネが押し殺した声で言った。
「ヤツラの言ってる『シュウユ』ってのは六本木に現れたカマキラスのことだ。アレがきっとココで養成した第一号に違いない!」
「ゾルゲル島での事故を再現したんだね!」ラジオにも事態の全貌が理解できた。「それでここには雪が降ってないんだ。あの事件(映画「ゴジラの息子」参照)のとき、島は途方も無い高温になったそうだから。」
…危ないからと、二人が引き上げかけたときである!
小高い木の上から誰かが叫んだ。
「スパイだ!スパイがいる!!」
「やばい!?走るぞ!!」言うのと同時に、メガネはラジオの手を引き駆け出した。
幸い昆虫板の連中は丘の下、メガネとラジオは丘の上。
追いつかれることもなく、二人はトラックまで逃げ戻ることができた。
「『バカ?』!ミニラと荷台に上がれ!ラジオは助手席に!」そしてメガネ自身は運転席に飛び込んだ。
いま駆け上がってきた坂の下から、カブトムシやチョウチョ柄のシャツを着た男たちが、ワヤワヤ駆け上がってきている。
が、しかし、既にラジオは途中の車返しまでトラックを巧みにバックさせ、車の向きを変えてしまっていた。
「このままトンネルを一気に抜けるぞ!」
メガネがアクセルを一杯まで踏み込むと、オンボロトラックは咳き込みながらも次第に加速、昆虫板の追っ手との距離を次第に大きなものにしていった。
「あぶなかったね、メガネ。」
「ああ、でも大丈夫だ。」
そう、目指すトンネルはもう見えている…。
そのときふっと黒い影がトラックの上をよぎり………………地響きをたててトンネル前に着地した!
目指すトンネルは、ビルほどの大きさのベンジョコオロギ=巨大カマドウマによって通せんぼされてしまった。
「危ないっ!」
慌てて踏み込む急ブレーキ!
トラックは車体を大きく斜めに向けながらなんとか停止した。
触覚をゆらし、様子を窺っているらしいカマドウマ。
唯一の脱出路を塞がれて立ち往生する三人と一匹。
そして今来たばかりの坂の下から、笑い声が上がってきた。
笑っているのは先頭の男、村で「灯台」の上から演説していた男だ。
「オレは昆虫板の支配者ミリオン!どうだ!わが板が推す代表候補、チョウウンの威容は!」
自分の名前が出たのが判ったらしく、カマドウマは体をもそもそさせた。
「そこの怪獣は……」男=ミリオンはミニラを指さし言った「…シバ公園でメカ・カールゴッチにマグレ勝ちしたヘッポコ怪獣だな!
「マ、マオちゃんがヘッポコ怪獣だって!?許さないぞ!!」失礼な発現に珍しく怒るバカ?。
だが、ミリオンはそんなこと意には介さない。
「……ちょうどいい!ヘッポコといえども怪獣は怪獣だ。我がチョウウン初実戦の相手にしてやろう!……行け!チョウウン!!」
巨大カマドウマがモソモソ動いた!
「行け!チョウウン!」
巨大カマドウマがモソモソ動いたかと思うと、巨大な後脚で大地を蹴った!
メガネ、ラジオ、バカ?を飛び越えて、そのままミニラに体当り!
「きゅう!?」
一声短く鳴いて、ミニラはころころ転がった。
坂の上から転がった。
昆虫板軍団に向かって転がった。
「どひゃあ!こっち転がって来たぁ!」
昆虫板の面々は、まわれ右して逃出した!
来るとき先頭のミリオンは、逃げるときには当然ビリ(笑)。
その後ろからミニラがころがり、さらに後ろにゃカマドウマ。
大名行列の殿(しんがり)は、もちろん我らが三人組。
元気な声で歌うたい、一番後ろを駆け下りる。
「♪どんぐりころころ、どんぶりこ♪」
「♪ミニラが転がりサァたいへん♪」
さっきの村の脇を抜けた先に坂の終点は広がっていた。
草木の生えない、一面の砂地=砂漠地帯である。
そこにミニラと昆虫板の面々はダンゴ状になって突っ込んだ!
ばぁーーーーーん!
飛び散る砂と昆虫板の面々、そして巻き上がる砂埃。
にわか救護班と化す、メガネ、ラジオ、バカ?の三人。
だが砂埃が納まってみれば、ミニラはもちろん昆虫板の面々にすら一人のケガ人も出なかったのは、奇跡というよりほかに無かった。
砂の中からミリオンが顔を出した。
「ぶはぁあああっ……………死ぬかと思った。」
「ボクもてっきり死んだと思ったよ。」手を差出しながらメガネが笑って言う。
メガネに手を引張ってもらい、ミリオンはなんとか砂の中から脱出できた。
「やっぱりカマドウマじゃダメか。」
「カマドウマって言ったら、トイレで見かけて精神的ダメージ受けるのが席の山だからなぁ。」
……ついさっきまで敵味方だったのに、二人は砂地に並んで腰を降ろしていた。
「そうだよなぁ………。」ミリオンは笑い、そして言葉を続けた「……折角地球のために何かできると思ったんだけどなぁ…。」
「地球のために?」
「ホンモノの昆虫愛好家は、本当は昆虫だけじゃなく自然そのものの愛好家なんだ。昆虫とその昆虫が住んでいる自然を愛して、それで初めて一人前の昆虫愛好家なんだよ。」
いつしかミリオンは、メガネが昔からの友達であるかのように語っていた。
「……でも最近、商売目的のヤツラが昆虫たちの生活環境を壊してやがってさ……。肩身せまくって……さ。」
「……金目当ての似非昆虫マニアだけじゃないよ。世界じゃ核戦争までやって、地球そのものを壊しかけたんだから……。」
「人間って……ほんとにクズな生き物だよな。」
そのときメガネは、シバ公園で会った宇宙人の「寅さん」との会話を思い出した。
「クズだよな……オレたち。でも、クズだってことちゃんと知ってるよ。それに本当はどうあるべきかってことだってちゃんと知ってる。アンタだってさっき『ホンモノの昆虫愛好家』って言ってたよね。」
「『本当はどうるべきか』を知っている……。」子供のような顔でミリオンはメガネの方を向いた。
「そうさ、知ってるんなら、そうするように努力すればいいんだよ。」
「そうすれば…」ミリオンは遠い目線になった、きっと故郷の姿を思い出しているのだろう「……オニヤマンやホタルたちも返ってきてくれるのかな。」
「もちろん帰ってくるよ。でもそのためには地球の管理権を取り戻さないと……。」
そのとき、かすかな震動が砂に接したメガネのお尻に伝わってきた。
「あれ?地震か……な?」
驚いたように砂に手を当てると、ミリオンは顔色を変えて叫んだ。
「……しまった!まずいぞ、早くここから逃げないと!この騒ぎで、ソウソウが目を覚ましちまったんだ!」
「オニヤマン」つーのは何なんだ?
「ニクマン」の親戚か?
「オニヤンマ」だろーに。
砂地の底から黒く短い剛毛の生えた節足が何本も這い出してきた!
メガネ「あれが『ソウソウ』?」
ミリオン「そうだ、カマキラスに続いて巨大化させたクモ、クモンガだ。作るにゃ作ったんだが、好戦的過ぎて扱えなかったんで、食べ物に鎮静剤混ぜて眠らせてあったんだよ。」
それが地表での騒ぎで興奮し、鎮静剤の効果を押し切って出て来たのだ!
ミリオン「みんな砂地から逃げろ!モタモタしてると食われるぞ!」
巨大クモ「ソウソウ」=クモンガは、地表に出てなお暫くは、じっと動かなかった。
だがその静寂には、嵐の前の静けさのような、人を不安にさせる気配を放っている。
巨大カマドウマが跳躍に備え脚位置を直した瞬間、クモンガは地を這うような低さで跳躍!
カマドウマのおしりに齧り付いた!
長大な脚をバタつかせ抵抗するカマドウマだったが、突然脚をコンサートマスターの指揮棒のように振り回したかと思うとそれきり動かなくなった。
ミリオン「ヤツのキバには麻痺性の毒がある!麻痺って言っても呼吸機能まで麻痺させるから、キミたちの怪獣だって噛まれたらあの世行きだ!」
クモンガは、カマドウマが抵抗できないよう念のため、その両脚を噛み切り放り捨てた。
カマドウマが解体されているうちに、メガネやミリオン、それに昆虫板の面々とミニラは危険な砂地から脱出できていた。
ミリオン「砂地から出れば一応安心だ。巨大化させる前、ヤツは砂漠性のクモだったからな。それに今は食料も充分……」
だがそのとき、昆虫板住人の一人が叫んだ。
「見ろ!投げ捨てられたカマドウマの脚のところに誰か二人いるぞ!」
目を凝らし見つめると……なんとそれは!?
ラジオ「あれはバカ?だ!バカ?が誰かの手を引張ってる!」
カマドウマの脚が投げ捨てられたとき不幸にも下敷きになった者がいて、バカ?はそれを助けようとしているうちに二人とも逃げ遅れたのである。
……クモンガはカマドウマの解体に夢中のようだ……。
顔を見あわせ、口を真一文字に結ぶと、メガネとラジオは二人同時に砂地へと飛び出した。
「しっ!」
口の前に人差し指を立てながら、メガネとラジオはカマドウマの脚の陰に駆け込んだ。
ラジオ「何やってんだよ。」
バカ?「(意識を失っている男を指さして)この人下敷きなんだ。でもこんな大きな脚、ボク一人じゃ動かせないよ。」
メガネ「ボクラが脚を支えるから……キミは彼を引きずり出して。」
カマドウマの脚の下に両腕を回し……うーーーーーん、うーーーーーん…と呼吸を合わせ、二人で揺さぶりをかけた。
タイミングを合わせて何度か揺さぶると、共振で脚の揺れが大きくなってきた。
そしてそれが10回目ほどになったとき……すぽっ!
バカ?「やった!抜けた!!」
メガネ「よし!急いで脱出するぞ!」
ラジオ「……あれ?ここ、砂地の真中だと思ってたけど…、なんで日陰になってるの?」
……不吉な予感に顔を上げる三人。
カマドウマの脚の向こうから身を乗り出すようにして、クモの黒い眼が彼らのことを見下ろしていた。
ラジオ「しまった!もう見つかってる!」
メガネ「その人を担いで走るぞ!」
だが三人が腰を上げたとたん、その周囲に6本の巨大な節足が降ってきた。
三人は巨人の手の下に捉えられたかっこうだ。
ちょっと「釈迦の手の中の孫悟空」みたいな光景だが、釈迦の指に、こんな黒い剛毛が生えているとは思えない。
クモンガの口の左右にある10番目の足=食肢が不吉に蠢き、虜となった人間めがけゆっくり下がってきた!
その先端の針?に雫となって輝くのは、例の「麻痺性の毒」だ!
もっとも、あんな巨大な針で突き刺されたら、麻痺する前に死ぬだろうが……。
煌めく毒液を滴らせながら迫るクモンガの食肢が、ぐいっと押し退けられた!?
メガネ「ミニラ!?」
バカ?「マオちゃん!?」
ミニラがくもんがの頭部に手をかけ、押し退けたのだ!
ラジオ「今のうちに早く!」
いまだ意識を失ったままの男の手足を全員で掴み、三人は砂地の外目指して駆け出した。
それを追おうとするクモンガだが、ミニラが歯を食いしばって押し返す。
だがクモンガは、ミニラを押し退けられぬとみると直ちに戦法を変えた。
ミニラのアタマ越しに、逃げる三人に向かって白い糸を吐き出したのだ。
「うわぁっ!」「い、糸だっ!」「しまった!?」
たちまち地面に貼り付けられる三人。
自分たちの力ではもうどうにも脱出できない!
しまった!というように振り替えるミニラ。
だが、それはまずかった!
ミニラの顔が横を向いたそのスキを逃さず、クモンガは、自分の頭部にかかったミニラの掌に素早く噛み付いたのである。
電気が走ったように全身が突っ張ると、次の瞬間、体がコンニャクにでもなったようにミニラは崩れ落ちた。
ミリオン「毒を殺られた!もうあの怪獣は……。」
ミニラの体から血の気が退いていく……もう…動けない。
充分に毒が回ったとみると、クモンガはミニラを解き放った。
毒が効いて動けないのだから、別に急ぐ必要はない。
放っておいてもコイツは死ぬ。
それより小さい方の獲物を処理しておかないと逃げられるかもしれない。
……そういうことだ。
クモンガの毒牙が再び、メガネ、ラジオ、バカ?の三人へと……。
…体が動かない…
…息がくるしい…
ミニラの意識は暗い闇の中にあった。
体の上からクモンガの体が去ったことだけはわかった。
自分を放したヤツの行き先もわかっている。
ヤツの向かった先は……。
そのとき、まっくらな闇の中に声が聞えてきた。
「マオちゃん、寒くない?」
「マオちゃん怖かった?」
「マオちゃんはケンカなんか嫌いなんだよね。」
「ごめんねマオちゃん。」
「マオちゃん……」「マオちゃん……」
「マオちゃん………」
あの人間の声だ。
何を言っているのかはよくわからないが、あの人間が自分に好意をもってくれているのだけはハッキリわかっている。
でもあの人間はクモンガに!?
(だめだ!)
ミニラの心を閉ざす闇の中に電光が走った!
(許さない!)
幾つもの電光が闇を切裂いていく!
(絶対に殺させない!!)
心と体を鎖していた闇が、砕け散った!
メガネ「ミニラが、やられた……。」
ラジオ「畜生、畜生(涙)」
バカ?「マオ…ちゃん!?」
地面に貼り付けられ動けない三人。
しかし彼らの心を占めていたのは自分に迫る危機ではなく、倒れたまま動かないミニラのことだった。
迫るクモンガのキバ。
が!?
そのキバがまたもぐいっと後ろに退いた。
バカ?「マオちゃんが!マオちゃんが!!」
動けないはずのミニラが上体を起こし、クモンガの脚の一本を掴んでいるのだ!
苛立たしそうに振り解こうとするクモンガ。
しかしミニラは前以上に力強く引き寄せる。
そして、変化はおこった!
明るい灰色の体色が、冷えて固まった溶岩の色になった。
目に宿るのは優しい光ではなく、猛々しい怒りの炎!
それだけではない!
体そのものがムクムク大きくなってきた。
メガネ「まさか……あれは……!?」
ラジオ「……ゴジラ化!?」
相手の急変に戸惑ったクモンガは、ミニラへと向きを変えるとまたも毒牙で噛み付いた!
それも二度!三度と!
だが今度は全く効かない!効く気配もない!
それもそのはず、
双眼鏡で観ていたミリオンが驚いたように言った「なんてことだ!?クモンガのキバがまるで刺さらないぞ!」
このとき初めてクモンガは気づいた。
ネコだとばかり思っていた相手が、実は虎だったことに。
逃げねば!
クモンガはミニラから離れようとした。
だがもう遅い!ミニラの手がクモンガの毒キバにかかり、そのままメリメリメリッと握りつぶした!
そしてつかんだ脚を力一杯振り回す!
ハンマー投げみたいに一回転、ニ回転、三回転!そして四回転めで手を放す!
あっというまに彼方に小さくなっていくクモンガ!
もう豆粒にしか見えないそれに向かって、ミニラが大きく口を開いた!
太陽光すら圧するほどの閃光が迸った。
空を真っ二つに切裂いた熱線は、彼方のクモンガを直撃!
………クモンガの姿は空中で消滅し、残骸は地上のどこにも落ちてこなかったという。
「マオちゃん、ゴジラになっちゃったって思ったけど……、でもこのマオちゃんの方が好きだな。」
バカ?が嬉しそうにミニラを見上げた。
クモンガ戦の最後の一瞬、ミニラは確かにゴジラになったと見えたのだが……。
戦いを終え、メガネ、ラジオ、バカ?の三人に振り返ったときは元のミニラに戻っていた。
皮膚の色も元通りの明灰色、瞳にも怒りの炎は燃え上がっていない。
ただ、身長だけは20メートル前後から40メートル弱にまで大きくなっていた。
ラジオ「これが無かったら、ミニラと一緒に移動する方法がなくなっちゃうところだったよ。」
メガネ「(苦笑しながら)でもまさかラーメンのドンブリと同じ扱いにされるとはな。」
ミニラの身長が40メートルともなると大型トラックはおろかタンクトランスポーターにも載せられない。
それではと、他の車で並走しよとしたが、ミニラの歩くときの地響きと震動はちょっとした地震なみなので危なくてしようがなかった。
移動の手段を無くし三人とミニラが昆虫板秘密基地で立ち往生していると、思わぬ人から助けの手が差し伸べられた。
メカ・カールゴッチを建造した大金持ちのIT企業社長プロオタだ。
三人が困っていると風のウワサに聞いた彼は、すぐさまラーメン屋のバイクのについてるバネで吊るしてドンブリを入れる箱の巨大サイズ版を作成。
大型ヘリコプター4機で吊るし、三人のもとに運ばせた。
ハコは天井部分が開いていて、頑丈なベルトが取り付けられている。
このベルトをミニラの肩にかけ、三人がハコに乗り込んだ。
ミニラが歩く衝撃は装備されたバネによって吸収されるので、三人には直接には伝わらない仕掛けになっている。
実際、乗り心地はベリーグッドだった。
メガネ「さあ、それじゃあ行こうか?」
ラジオ「ニュースだとキングコングは東京から動いてないって。」
バカ?「ジラは?」
ラジオ「ニュースじゃ何にも言ってないよ。琵琶湖で姿を消してそれっきりみたいだね。」
バカ?「できれば…ジラとミニラは闘わせたくないな。」
それは三人とも同じ思いだった。
ジラはゴジラの亜種、つまりミニラとジラは近縁だったのである。
……一方ここは薄暗い部屋。
中央に安置された「キム・イルソン」主席の胸像。
その前にダース・ジョンイルがひざまづいている。
ぴこーーーん!ぴこーーーん!
突然室内に電子音が響き、胸像の目が点滅を始めた。
「………じょんいるヨ。じょんいるハオルカ?」
「はい、ここにいるニダ。パパの言った通りにちゃんとやってるニダよ。」
「……デハ、次ノ作戦ヲ伝エル。………きんぐこんぐの恋人、ふぇい・れいヲ、仕留メヨ。」
「あのババアをニダか?」
「れいハ、こんぐノ心ノ支エダ。アノ女ヲ殺セバ、こんぐハ支エヲ失ウ。」
「了解ニダ。わかったニダよ。戦闘員たちを差し向けて、レイのババアを殺すニダ!」
「………ソレカラモウヒトツ………。」
「…まだあるニダ?」
「みにらトイウ怪獣ニ気ヲツケヨ。今ハ幼体ナレド、秘メタル可能性ハ計リ難イモノガアル。」
「またまた了解ニダ!……もう行っていいニダ??」
胸像は返事をしなかった。
目も点滅していない。
父キム・イルソンの名を騙り、息子ジョンイルを操っていた宇宙人の意識は、既にその場から消えていた。
「コング……」フェイは巨猿の耳にそっと手を這わせた。
キングコングとその愛人フェイ・レイは、まだ新宿御苑から動いていなかった。
いや、正確には「動けなかった」というほうが正しいのかもしれない。
アメリカを発つ前から、コングには微熱が続いていた。
フェイ・レイがコングと初めて出会ったのは第二次世界大戦よりもまえのこと。
あれから幾度も大きな戦争があったし国が滅びもした。
コングも、実のところはかなりの高齢なのだ。
それでも彼は日本にやって来た。
「……私のためなら……、もう止めてもいいのよ。」黒く巨大なコングの脣の端に、レイの小さな脣が重なった。
海路の長旅と最初の巨大アナコンダ戦、そして次の白猿神ハヌマーン戦で、コングの疲労はピークに達していた。
老猿の命は燃え尽きようとしていたのである。
それでも、それでも……、コングはそこにいた。
次の戦いを待ちながら、少しでも体力を温存するために。
「……愛しい人……。」
……かすかな震動が伝わってきた。
近くを走る車のものではない、微かだが、輪郭のハッキリした震動…。
コングは静かに視線を上げた。
突然、都庁のツインタワーを背景に、土砂とコンクリートやアスファルトの破片が激しく吹き上がった!
そして大地から発ち現れる、もうひとつのツインタワー!半月刀のような二本のツノ!!
フェイ「来たか!プルガサリ!」
不可殺獣プルガサリ対黒い魔神キングコング。
地球代表決定トーナメント、準決勝が、いま始まろうとしていた。
三人の学生を乗せた箱を肩から下げたミニラは、まるで駅弁売りのようだった。
三人もハコの中に座って弁当を食べていた。
メニューは海苔の巻かれたオニギリ二個と塩だけのオニギリが一個。
鮎の塩焼きにワラビにゼンマイ、そしてイナゴの佃煮だった。
全部、昆虫板秘密基地を出発するとき、ミリオンたち昆虫板の面々が持たせてくれたものである。
ラジオ「……徹底的に自然食だね。」
バカ?「合成添加物ゼロだって、みんな胸を張ってたよ。でも……。(イナゴの佃煮をじっと見つめて)…こういうのはちょっと…。」
メガネ「気持ち悪くたって捨てるなよ。折角作ってくれたんだから。(目をつぶってイナゴを口に入れるメガネ)」
ラジオ「仮面ライダーの佃煮かぁ……。」
メガネ「仮面ライダーはトノサマバッタ!イナゴじゃないぞ。」
……のどかなひとときだった。欠伸が出そうなほどの…。
だが平和なひとときは、都内の奥多摩湖にさしかかつたところで終わりを告げた。
バカ?「東村や〜ま〜♪庭さきゃ〜♪」
ラジオ「それはタマ湖!ここは奥多摩湖!」
バカ?「違うんだ…?」
山間の道を抜けると、目の前に水面が広がっていた。
ラジオの言う通り、都内の奥多摩湖である。
橋の上から釣り糸を垂れていた人たちは、地響きとともに現れた怪獣ミニラにビックリ仰天していた。
バカ?「(釣り人たちに向かって)すみませ〜ん。ミニラはおとなしい怪獣でーす。ご迷惑はおかけしませんからー。」
三人がハコから身を乗り出してアタマをペコペコ下げると、ミニラもマネして頭を下げた。
ごめんなさい、ごめんなさいと通る怪獣さま御一行。
敵意皆無の様子に安心したか、釣り人たちも下から手を振り返す。
中には投げキッスを送るアベックもいたりして……。
そのアベックの彼氏の方が不意に湖の中央に振り返った。
そこに広がるのは……不自然な波形と三角のセビレ!
それが一直線にこっちに向かってやって来る!
バカ?がハコの上から釣り人たちに向かい、手を振り回し大声で叫んだ!
「みんな早く逃げて!!」
激しく波立つ湖面!
そしてジラが姿を現した。
ミニラと同族の怪獣ジラ出現!
だがミニラは、ジラの接近をとっくのとうに察知していたらしく、全く慌てない。
メガネたちの乗ったハコを素早く地面に下ろすと、臆する事無くジラと向き合うミニラ。
幼体のミニラに対し、ジラは成体なのでもちろん全長が大きかった。
しかしミニラがほぼ完全に直立状態なのに対し、ジラは水平近くまで上体を前傾させているので、上背ではむしろミニラの方が大きく見える。
体重は……非常に細身なジラに対しミニラはかなりガッチリしているので、全長ほどの差は無いだろう。
ジラは両前足をだらりと垂らし、上体を軽く上下させながら、ずん…………ずん…………ずんっとミニラとの距離を詰めてくる。
一方のミニラはと言えば、いつもの自然体のままにこれを迎え撃つ……。
ラジオ「なんでいつもみたいにジラは突っ込んで来ないんだ?ペキン原人戦だって、プラハでのゴーレム戦だってジラは突っ込んできたのに?」
メガネ「……たぶん……クモンガとの戦いでミニラが吐いた熱線のせいだ。」
そう、アメリカは偵察衛星を飛ばし、自国の推薦怪獣のためのデータを集めつづけていたのである。
メガネ「ミサイル発射の熱源反応だって見逃さないスパイ衛星が、あれほどの威力の熱線を見逃すはずが無いよ。」
ラジオ「それじゃもしかしてジラは!?」
メガネ「ミニラのことを研究して来ているんだ。」
バカ?「そっ、それじゃ!マオちゃんは!?」
一方……
新宿御苑では、既にキングコングとプルガサリの激突が始まっていた。
まずは互いにハンマーのような拳を振り回しての打撃戦。
距離が詰まってからは組討ちと、戦い模様が推移する。
ちょっと目には互角と感じられる戦いであったが……。
フェイ「なんてヤツなの!コングのパンチが効かないなんて!」
プルガサリは「不可殺」というその名ごとく、不死身のようにタフだった。
殴られても締められても顔色ひとつ変えず、流血どころかアザひとつできない。
他方キングコングはというと、漆黒の肌のために目立たないだけで、皮膚には巨大アナコンダの締め痕、ハヌマーンの打撃の痕、そしてプルガサリの攻撃のツメあとが幾重にも重なって刻み込まれていた。
ズンッ!
魔獣のパンチを受け、コングの膝が崩れた!
これで既に三回目だ。
フェイ(………止めてコング……もう立たないで……)
だが今回も前の二回同様に、コングはフェイの方を一瞥すると死力を振り絞って立ち上がった。
フェイ「コング!」
「黄金の女」フェイのためなら命も惜しくない。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びをあげ、キングコングはまたもプルガサリに挑みかかっていった!
「パパの言ったとおにニダ。やっぱりパパは偉大ニダね。」
付近の雑居ビルの上から、ダース・ジョンイルはこの戦いを観戦していた。
「そろそろパパの教えてくれた作戦をやるニダね。」
不安げにコングを見つめるフェイ・レイ。
その周りに、不意に人の気配が集まってきた!
フェイ「?なにヤツだ!?姿を現せ!」
フェイが一喝したとたん、「モッコリタイツ」に「デストロイヤーみたいなマスク」で怪しさ万点!の集団がそこらじゅうから飛び出した!
「キム!」
「キム!」「キム!」
「キム!」
「キム!」「キム!」「キム!」
口々にそう叫びながらたちまちフェイを取り囲む「怪し過ぎる集団」!
フェイ「いったい何時のまに!?ガードのCIA局員たちはどうしたの!?」
「そんなヤツラはとっくにワタシ自ら倒したニダ。」
黒マントを翻し、「怪し過ぎる集団」の背後からダース・ジョンイルが進み出た。
「彼らは我が忠実なロボット兵士。名付けて『キムドロイド』ニダ。ワタシの言うことなら、なんだって聞くニダ。『死ね』といったら死ぬニダよ。」
殴っても突いても死なない。
リドザウルスのキバが通じなかった以上、おそらく斬ってもしなないだろう不可殺獣。
僅かなキズからは血も流れない、まるでゾンビのような怪物だ。
キングコングは組み討ちになったとき、すぐ気づいていた。
(こいつは息をしていない!)
プルガサリの胸は、全く上下していなかった。
つまり、プルガサリは死物。
不可殺なのではなく、最初から死んでいるのだ。
ゆえに、もうそれ以上は殺せない。既に死んでいるのだから。
「(そんなバケモノを殺すには……)ぐあああああああっ!!」
キングコングは両腕のガードを解き、絶叫を上げプルガサリの頭部に掴みかかった。
ハンマーパンチが顔と心臓のあたりに炸裂するが構いはしない!
黒い両手で不可殺獣の二本角を引っ掴むと、テコも効かして捻じりあげた。
(この首、捻じ切ってやる!!)
ツノを押さえ込まれ、首をぐいぐい捻じられても、プルガサリの動きには何の影響もない!
キングコングの胸といわず腹といわず、嵐のような乱打を見舞っていく。
ハヌマーン戦のキズも癒えぬコングの口からまたも鮮血が流れ落ちた。
だが、コングも戦いを止めない。
プルガサリのアタマをぐいぐい捻じり上げていく!
ついにプルガサリの首が真横よりも後ろまで回った。
(この……首……もらうぞぉ!!)
だがコングがさらに腕に力を込めたとき、彼の耳に鋭い銃声が飛び込んで来た。
(なんの騒ぎだ!?まさか?フ、フェイ!?)
思わず振り返るコング。
なんとそこには、拳銃を構えるフェイ・レイとその足元に転がるタイツ男。そしてさらに襲い来るタイツ男の集団が!
「フェイ!!」
その時コングは愛する者の名を呼んだ。人間の言葉で、はっきり「フェイ」と。
「コング!!」
二人が呼びあえたのは、それが最初。
そして最後になった。
(ぐ!?ぐああっ!?)
コングの力が緩んだ一瞬、プルガサリは相手の腕を振り解くと、自由になったそのツノをコングの背中へと突き刺したのである。
プルガサリ対キングコングの戦いが悲劇的幕切れを向かえたころ……。
ミニラ対ジラの戦いにも呆気ない幕切れが迫りつつあった。
メガネ「……ジラが飛び込むタイミングを計ってるぞ。」
バカ?「それどういうこと?」
ラジオ「自分が飛び込む。ミニラが熱線を吐く。それをヒラリと避けてキバで一撃!……そういうことだよね?メガネ??」
黙って頷くメガネ。
メガネたちの読みどおり、ジラは一撃離脱のチャンスを狙っていた。
「ミニラはゴジラの幼体、その能力はゴジラと同等」
そのようにCIAは分析していた。
アメリカのスパイ衛星が捉えたエネルギーは、知的生命体連合の超科学によって封印されたはずの核エネルギーそのものだったのである。
ゴジラ対ジラのかつての対戦記録(「ゴジラ・ファイナル・ウォーズ」参照)からみて、ジラはゴジラの熱線には耐えられない。
よってミニラに勝つには熱線対策が不可欠だ。
そこでCIAは対ミニラ用の必勝プログラムを作成し、ジラの脳髄に埋め込んだコントロールマシンに送り込んだのだ。
ズシン………ズシン………ズシン……ずし……ん………
距離とリズムを精査し……。
………そして、ジラは猛然とダッシユを開始した!
ジラが走る!
ミニラ反応!
この時点での距離100メートル!
ミニラ熱線放射の準備動作開始!
この時点での距離50メートル!
ミニラ口を開く!
この時点での距離35メートル!
ミニラ熱線を放射!!同時にジラはジャンプ!!
バカ?「だめた!ミニラ!逃げて!!」
コンピューターのシミュレイションでは、ジラは間一髪ミニラの吐いた熱線を飛び越え、そのままのスピードでミニラにキバを叩き込むことになっていた。
だがコンピューターの予測は……大きくハズレた!
ミニラの口から熱線!……ではなく、タバコの煙のようなリング状の光線がフワフワ飛び出した!
リング光線はふわふわのんびり飛んでいき……あんまり遅かったので……ジラは飛び越える予定が狂ってしまいかえってその真上へと落っこちてしまった。
ポン!
「ぎゃおう!??」
……それだけだった。
ほんとにそれだけ。
ただそれだけのことで、ミニラと三人の学生はついに決勝戦までコマを進めることになったのである。
不可殺獣とダース・ジョンイルの待ち受ける決勝戦に。
やっぱり終りまで行けんかった。
ごめん。
火曜まで待ってくれ。
間違いなく終るから。
明日に期待。
話を3分岐させた部分があってタイムテーブルの調製が厄介だったので、分岐が集結する部分まで一気に完成させた。
おかげで月曜の投下は無し。
調製が完了し駄文の流れは一本になったので、もう滑っても転んでも今日中に終る。
次の方、準備はいかがか?
キングコングがプルガサリに、ジラがミニラにそれぞれ敗れたため、地球代表怪獣決定トーナメントの決勝はミニラ対プルガサリとなる。
メガネ、ラジオ、バカ?の学生三人組みは一躍時の人となった。
自分たちは結局何もしていないのに政府関係者は浮かれ出し、靖国神社大好きの首相は「ミニラ必勝を祈念し」靖国神社に御百度参りを敢行!
一度お参りしただけで国際問題化する場所に百回もお参りしたらどうなるか?……と思われたが、中国や韓国の対応は以外に冷静であった。
「人間同士の諍いが今回の事態をもたらした原因である」との思いが、個人レベルまで浸透していたためである。
むしろ中国や韓国国民の冷静な対応は、首相の時代錯誤で非合理な態度を滑稽にクローズアップするという結果をもたらしていた。
「鬼畜米英すら退散させられなかった神さまにすがってどうすんの?」…というわけである。
さらに、首相からの一方的なラブコールは例の学生三人組自身からも明確に拒絶されてしまった。
バカ?「こうなったのは国家が戦争始めたからなのに……。それを止めようとしなかった人たちの応援なんて、ボクラはいりません。」
ラジオ「ボクラがここまで来られたのは、プロレス板のみんなや昆虫板のみんなが自分たちの立場を捨てて応援してくれたからです。」
ラジオ「ミニラは日本の代表じゃない。この星に生きるボクラすべての代表だよね!」
ぼくら、ぼくら、ぼくら……。
いつしかミニラは特に若いものたちから「ボクラ代表」と呼ばれるように……。
そしてそんな中、ミニラたちにプルガサリ・サイドから正式の果たし状が届いた。
三人とミニラは意を決して、決戦の場、国立競技場へと向かう。
一方ダース・ジョンイルは、「パパ」ことキム・イルソン主席の胸像から新たな指示を受けていた。
パパ「アノ三人ノ学生コソ、みにらノ力ノ源。奴ラヲ切リ離セバ、みにらナド怖ルルニ足リン。」
ダース・ジョンイル「でもパパ、あの三人の周りには、いつでも人が大勢いるニダ。だからフェイを仕留めたときみたく、荒っぽいことはやり難いニダね。」
パパ「おまえトおまえノ直属でデアルきむどろいどヲ、使ワナケレバ、ヨイノダ。………ホロン部員ヲ使エ。スベテノ犯行ハ、在日朝鮮人ガ勝手ニ、ヤッタ、コトニスルノダ。」
ダース・ジョンイル「……そんなことしたら、あいつらこの国に住めなくなっちゃうニダよ?それは可哀相ニダ。」
パパ「オマエガ地球代表ニナレバ、ソンナコト問題デハナイ。権力デ何トデモデキヨウゾ。」
ダース・ジョンイル「……わかったニダ。パパの言う通りにするニダよ。結局そうするのが一番ニダね。」
ダース・ジョンイルの命令で活動開始した「ホロン部」部隊は、国立競技場に向かおうとしていたメガネ、ラジオ、バカ?の三人を拉致することに見事成功。
彼らの地下アジトの留置場に監禁する。
ジョンイルの配下は、武力行使を目的とする人造人間「キム・ドロイド」と、基地内部で働く「通常の北朝鮮人」というニ階層から成っていた。
「通常の北朝鮮人」とは要するに普通の人間なので、キム・ドロイドと違い、私語もすれば愚痴もこぼす。
いま、そうした日本人と同じ「普通の若者」が三人、ジョンイル秘密基地の地下で言葉を交わしていた。
先輩ホロン部員A「……将軍さまは何処にいるかだって?」「それならきっとこの基地の最下層だろうよ。」
若いホロン部員「はい。例の三人の拉致に成功したんでご報告しようかと……。」
先輩ホロン部員B「……将軍様はもう決戦場に行かれたんじゃないか?」
先輩ホロン部員A「いや、まだ発たれてはいないはずだ。……将軍様ならきっとこの基地の最下層だろうよ。」
若いホロン部員「最下層?……そんなところがあるんですか?」
先輩ホロン部員A「あるのさ。そういう所が。おれもよくは知らないけどさ。きっと将軍様の機械の体をメンテナンスしたりとか、キムドロイドを作ったりとかしてる所なんだぜ。」
若いホロン部員「わあぁ……いってみたいなぁ。ボクそういうSFみたいなの大好きなんです。」
先輩ホロン部員A「行ってみりゃいいじゃん。べつに立入り禁止にはなってないぜ。」
若いホロン部員「そうなんですか?…………じゃ、じゃあ……オレ行ってみます。」
若いホロン部員は洞窟探検をする子供のような顔をして出て行った。
先輩ホロン部員B「将軍様ならもうとっくに出発されたろう。それなのにあんなこといったら、本当に最下層まで降りていっちまうぞ?」
先輩ホロン部員A「からかっただけだけさ。それにあそこは何時だって施錠されてて、誰も入れやしないよ。」
しかし「材料搬入」があったため、その日、その時に限っては最下層へとトビラは開いていたのである。
一方拉致された三人だったが、思わぬ場所で思わぬ相手との再会を果たしていた。
……
ホロン部員「(あたりを見回し……)おい、浅田(バカ?の本名)。おい!」
簡易な覆面を上げると………、看守役のホロン部員はなんとバカ?の小学校時代の友達だった。
バカ?「!?金田(=ホロン部員)じゃないか!オマエなんでこんな所に?」
金田「こんなところに……って、実はオレ……オマエには隠してたけど在日だったんだよ。」
バカ?「…そんなことならとっくに知ってたぞ。」
金田「し、知ってたのか?何で知ってたんだ??」
バカ?「オマエと初めて遊んだ日のことさ。近所のオッサンに言われたんだよ。あいつは朝鮮人だから遊ぶなって。」
金田「でもオマエは………。」
バカ?「(何言ってんだ?という顔で)ピンポン・ダッシュすんのに国籍なんて関係無いだろ?」
一瞬呆然とし……、そして泣き出す金田。
バカ?「……そんな風に言ってくれるのはオマエだけだよ。あれからオレは知りたくも無いことを沢山知らされた。
オレがつけない職業があること。オレには選挙権も被選挙拳も無いこと。好きな女の子ができたって、結婚するには国籍が邪魔するんだよ。」
バカ?「……泣くなよ金田。そういう差別はもう長くは続かないさ。そういうヤツラが戦争までやらかして、それで今度の騒ぎを呼び込んだんじゃないか。だからオレたち三人こうしてガンバって……。」
金田「オレたち三人……って、それじゃオマエら……。」
バカ?「オレたち、国だとか宗教だとか全部関係無しに、地球で暮らす命あるもの全ての代表のつもりでココまでやってきたんだぜ。コイツなんか(…と言ってメガネを指さす)日本代表だって断っちまったんだから。」
そしてバカ?は旧友に向かって胸を張った。
バカ?「優勝できたら、ボクたちがそんな差別、ぶち壊してやるさ。」
「ジョンイルさまぁ〜?ジョンイルさま〜?いらっしゃいませんか〜??」
バカ?と金田が予期せぬ再会をはたしていたころ…。
ダース・ジョンイルを捜す若いホロン部員は、控えめに呼ばわりながら階段を下り続けていた。
上の階層から降りてくる途中では、大勢の人の動く気配がしていたのに……。
果てしなく続くかと思えた螺旋階段をこうして降りてきてみると、最下層への通路は静まり返っていた。
長いく暗い階段の涯は、やはり長く暗い通路の途中であった。
なにを通すのか、電車のトンネルよりも何倍も大きな通路で、どこから来て、どこへ行くのかもわからない。
両方のはては同じ闇へと消えていた。
灯りが無かったらとっくに逃げ帰っていただろう。
しかし運良く彼はペンライトをもっていた。
微かな灯りの下よくよく見ると、地面には微かな足跡が残っており、そのつま先はみな同じ方向に向かっている。
「………こっちに行けば………いいんだな。」
……彼は足跡にあったある特長については努めて考えないようにしながら、地下通路の奥へと歩を進めていった。
…場違いというか…あまりにも異様な事実…。
地面に残された足跡は、全て裸足だったのだ。
15分ほどか?
それとも1時間以上なのか?
どれくらい歩いたかも判らなくなってきたころ、若いホロン部員は、自分かそれまでとは違う場所にいることに気づいた。
もう通路ではない。鍾乳洞のような大ホールだ。
ペンライトをかざしてみても、もう通路は無く、行く手は巨大な岩石でふさがれていた。
先に行ったはずの者たちは、一体何処に消えたのだろうか?
想像していたようなSF的機械がありそうな雰囲気は微塵も無く、その代わり……嫌な臭いがした。
はっきりいえば「肉の」腐っていく臭いだ。
若いホロン部員(……ロボットを製造したり機械の体をメンテナンスするような場所で、なんで肉の腐った臭いがするんだ?)
不審に感じた彼はペンライトの光をあちこち振り回して見た。
「あっ!ご、ごめんなさい!」彼はも追わず叫んだ。
ペンライトの中に人影が浮かんだからだ。
「勝手に入ってきてごめんなさい。ボク、ホロン部の……。」
…そこまで言って、彼は気づいた。
人影は死んだように立ち尽くしたまま動かない。
もう一度、こんどはジックリ光を当ててみて、初めて気づいた。
人影は服を着ておらず、足は裸足だった。
…それは死人だったのだ。
「う、うわっ!」
若いホロン部員は短く悲鳴を上げた。
「ここは、ここはいったい!?」
ペンライトを振り回してみると……死体は一つではなかった。
夥しい数の死体が隙間無くスシ詰めの状態で立ち尽くしていた。
そして、さきほどは「行く手を塞ぐ巨岩」と見えたものが………実は巨大な坐像?だったことに気がついた。
見上げると、その頭部には三日月状のツノが二本……。
(プロガサリだ!ここは……プルガサリのメンテナンスもやってるんだ!でもなんで死体が……。)
そのとき若いホロン部員の耳もとに誰かが囁いた。
(たすけて……)
「え?…誰か?何か言った??」
(……たすけて)(…ここから出して)
今度は一人ではない。
「『ココから』って……ココってドコ??」
声は次々に数を増し、ついには群集と表現できるほどまでになった。
(たすけて……)(くるしい)(この牢獄から出して……。この巨大な牢獄から出して)(なんでこんなめに遭わされるんだ……)
やがて無数の囁きの中から一つの言葉が明瞭さをもって彼の耳に飛び込んで来た。
(解放して!この巨人の中から!)
その瞬間、若いホロン部員は全てを悟った。
自分に呼びかけたのが何者なのかを。
彼らが閉じ込められているのがドコなのかを。
立ち尽くす死体はなんのためなのかを。
そのとき!プルガサリの瞳に邪悪な光が灯った!
「う……うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
悲鳴を上げる若いホロン部員。
プルガサリが地鳴りとともに上がり、洞窟はガラガラ崩れはじめた。
国立競技場には、三人のいないままに、ぽつねんと佇むミニラの姿があった。
ミニラが怪獣と対決したのは、対メカ・カールゴッチ、クモンガ、ジラの三回だけ。
そしていつの時にも、あの三人がミニラのそばにいた。
けれども今は……。
振返ってみても、三人の姿はどこにも無い。
淋しそうに、不安そうに俯くミニラ。
そのとき、足元から力強い地響きが!
観客席後ろの時計塔が根元から崩壊し、地下から不可殺獣がせり上がってきた!
不可殺獣プルガサリがミニラとの決勝を闘うため、国立競技場に出現したころ……。
メガネ、ラジオ、バカ?の三人はホロン部員でバカ?の旧友である金田の手引きで、留置場から抜け出したところだった。
ホロン部員の覆面をつけ、地下アジトを進む三人と金田。
だが、ホロン部員控室を通り抜けようとしたとき、三人は生中継されていたミニラ対プルガサリを見てしまう。
アタマ二つ以上は大きいプルガサリに一方的に攻撃されるミニラ。
殴られ、蹴られ、顔から地面に叩きつけられる。そして今度は体重を乗せての踏みつけ。
さらに片足でミニラの顔を踏みつけておいて、もう一方の足で逃げられないミニラの顔にトウキックを叩き込む。
あっというまに血まみれになるミニラの顔面。
流血が目に流れ込み、視界のきかないミニラに情け容赦無くプルガサリの打撃が降り注ぐ!
この凄惨な光景を目にして、バカ?は思わず「マオちゃん!」と小さく叫んでしまう。
たちまち正体がバレ、ホロン部に追い詰められる三人組。
三人が追い詰められた控室に、ドロだらけ、キズだらけの姿で一人の男が転がり込んでくる。
彼は地下道靴から命からがら脱出した、あの若いホロン部員だった。
だが、その髪は完全に白髪となっている!
彼は三人の姿を見るなり、すがり付いて頼んだ。
「プルガサリを倒してくれ」。
同朋の思いがけない言葉に驚くホロン部員一同。
だが若いホロン部員が続けて語ったのは、さらに思いもかけない事柄であった。
「プルガサリは……、超獣ベロクロンに虐殺されたピョンヤン市民の亡骸から作られているんだ!」
ホロン部員たちの動きが止った。
「な、なにをバカなことを……。」
「バカなもんか!」若いホロン部員は叫び返した。「オレはこの耳で聞いたんだ!活動停止しているプルガサリの中から呼びかける、苦悶の魂の声をよ!」
凍りついたように動かない、いや、動けないホロン部員たちに、若いホロン部員はたたみかけるように言った。
「助けてくれ、この牢獄から出してくれって言う魂の声を……聞ちまったんだ!オレはこの耳で聞いちまったんだよ!!」
そして男は地下で見聞きした事柄を残らずぶちまけると、三人の学生に向かって言った。
「行け……。行ってくれ!行ってあの死肉の巨人を滅ぼして、祖国の人々を解放してやってくれ。……頼む!」
メガネは静かに答えた。
「……わかった。任せろ。」
三人は駆け出した。
もう行く手を阻む者はいない。
走れ!
ミニラがキミたちを待っている!
走るのだ!
メガネ!ラジオ!バカ?!!
メガネ、ラジオ、バカ?の三人はホロン部員の運転する軽四輪駆動車で国立競技場へとひた走っていた。
「戦況は!?」
メガネがカーラジオのスイッチをいれると車内はたちまち実況生中継の声で満たされた!
『……プルガサリの踏みつけだぁっ!しかしミニラ転がる!コロコロ転がって避ける!がんばれミニラ!』
「…プルガサリはたぶん……。」ラジオはこれまでの情報から不可殺獣プルガサリの分析を試みていた。
「……プルガサリはアンデッド、つまりゾンビか吸血鬼みたいなものなんだ。それからヤツのツノは吸血鬼のキバに相当するんじゃないかと思う。だからキングコングもリドザウルスもあのツノの一突きで…。」
メガネも悪夢を覚まそうとするかのように激しくアタマを振って言った。
「…生命エネルギーを根こそぎもってかれちまったってワケだな。……吸血巨人なのか、あのバケモノは。」
「材料のし、し、し………はどうやって集めたの?」
バカ?は「死体」という言葉を口に出せなかったが、顔色の青さで言わんとしていることは充分伝わった。
「……目撃したあのホロン部員の話からすると、たぶんなにかの魔法か超科学で、死体自身に歩いて来させたんだ。」
ラジオの返事に、バカは真っ青なまま絶句した。
「……キングコングに破壊された部分を修復するため、また新しく死体を集めたんだよ。たぶんそれが、あのホロン部員の辿った足跡なんだと思う。」
「……くっ…。」
ハンドルを握っていた年嵩のホロン部員が辛そうに短く呻いて言った
「……オレの家族もあの日ピョンヤンで……。」
「そうだったのか……。」メガネは静かに答えた。
ハンドルを握り締め、前方を睨み据えたまま年嵩のホロン部員は言った。
「………頼むぞ、キサマら。」
踏み下ろされたプルガサリの足をミニラは両手で受け止めた。
更に体重をかけ、支える両手ごと踏み潰さんと、プルガサリはミニラの上にかがみこむ。
しかしミニラはとっさに、屈みこんだプルガサリの顔にリング光線を吐きかけた。
超スローのリング光線だが、至近距離とあってさすがに命中!
顔から黒い煙を上げて後ずさるプルガサリ。
よいしょっというように立ち直ると、ミニラはプルガサリの腹めがけアタマを低く構えて突進!
だが!この攻撃は墓穴を掘った!?
車のフロントガラスから土埃の舞い立つ国立競技場が見えてきた!
ミニラはもうすぐそこだ!
「まってろミニラ!」「すぐ行くぞ!」メガネとラジオが口々に言い、バカ?は目を閉じて祈るように両手を握りあわせている。
だがそのとき、カーラジオからアナウンサーの叫ぶような声が迸った!
『プルガサリ!とうとうミニラをフロントヘッドロックの体勢に掴まえました。ここから出るんです!あのリドザウルスを仕留めたあのワザが!』
「マオちゃん!!」
「やばいよメガネ!?そのままミニラを放り投げて、アタマのツノで突刺すつもりだ!」
「ミニラ踏ん張れ!あとちょっとなんだ!踏ん張ってくれっ!!」
メガネの祈りと同じ言葉が、カーラジオからも流れ出た。
『ミニラ踏ん張れ!踏ん張れミニラ!!』
実況の声はもう悲鳴に近い。
入場ゲートが目の前に!
「…歩いてちゃ間に合わねえ!このまま突っ込む!」
ホロン部員がそう叫んで手荒くハンドルをきると、車は入場ゲートをぶち壊し競技場内部へと飛び込んでいった。
「そのヘッポコ怪獣をオマエのツノに突刺してやれニダ!」
観客席で黒いマントのダース・ジョンイルが叫ぶ。
競技グラウンドの中央には、不可殺獣プルガサリとチビッコ怪獣ミニラ!
ミニラのリング光線で焼かれたはずのプルガサリの顔は既に回復してしまっている!
一方のミニラは、プルガサリの膝にしがみいて、持ち上げられまいと必死に耐えていた。
ムンッ!っとプルガサリが力を込めるが、ミニラは子泣きジジイのように相手の膝にしがみついたまま離れない!
…ならば!?と今度は左右の拳をガラ空きのミニラの脇腹に叩きつけた!
右から、がんっ!……左から、がんっ!……そしてまた右から、がんっっ!!
そして四発目を左から叩き込んだ直後、ミニラがしがみついていない方の膝をミニラのアタマにぶち込んだ!
…ミニラの腕から一瞬だけ力が抜けた。
その瞬間、プルガサリはミニラを膝から引き剥がした!
体を逆Uの字にして、ジプルガサリの胸の高さにぶら下げられたミニラ。
もう相手の膝には手は届かない!
「もうこれでお終いニダね!地球代表怪獣は我が北朝鮮が誇る無敵のプルガサリに決定ニダ〜!」
見せつけるように溜めをつけると、プルガサリはミニラの体を大きく縦にスイングさせる!
そのときだ!
エンジンの唸りとともに、選手入場ゲートから軽四輪駆動車が飛び出してきた!
ミニラの視界が一瞬でひっくり返った!
空が下に、地面が上に!
(もうだめだよぉ………)
だが、天地が逆転した視界の中に、一台の車が飛び込んで来た!
(あの三人だ!!)
あの三人の人間が来てくれた!
その瞬間、ミニラの知らないところから、ミニラの知らない力がやって来た!
(まだ負けないぞ!)
縦にスイングされながら、体をねじり短めの尻尾を思いっきり旋回させる!
思わぬ抵抗を受け、プルガサリはバランスを崩しミニラもろとも横ざまにひっくり返った!
「マオちゃん!」バカ?が車から飛び出しミニラに手を振る!
メガネとラジオもこれに続いた。
ミニラもすぐさま起き上がり、三人に向かって笑顔を見せた。
パパから言われたとおりにできなかったこと、しかも三人を連れてきたのが手下のはずのホロン部員だったことで、ダース・ジョンイルは激怒した。
「なぜ!?なぜ!?なぜ!?あの三人がココに来たニダ!?こうなったら本トーナメント用にとっておいた切り札を使うニダ!」
三人を殺せ!
だが、これは最大のミステイクだった!
立ち上がったプルガサリが三人に向かって歩き出したとたん、ミニラの眼の色が変わった!
(…あの人間を殺すつもりなの?……………そんなこと許さないぞ!…)
「プルガサリがこっち来たぁ!?」ホロン部員は逃げ腰に……。
ムリもない。
相手は50メートルオーバーの巨人なのだ。
だが、バカ?は、メガネは、ラジオは逃げない!
メガネ「一番悪いのはボクら人間だ。それなのに……逃げてどうする!?」
ラジオ「ミニラだって闘ってるんだ。」
バカ?「マオちゃんがんばれ!」
三人に圧し掛かるように巨大な拳を振り上げるプルガサリ!
だが、不可殺獣のその腕を、明るい灰色の腕ががっきと掴まえた!
メガネ「ミニラだ!……でもクモンガのときみたいにゴジラ化してないぞ?」
ラジオ「でも全然力負けしてないよ!」
バカ?「マオちゃんは、ゴジラなんかにならなくたって強いんだよ!」
ミニラの腕を振り解こうとするプルガサリだが、ミニラの手は万力のように掴んだ腕を放さない。
ダース・ジョンイル「な、なんで急に力持ちになつたニダ?ひょっとしてこれがパパの言ったミニラの力ニダか?」
驚くジョンイルだが、驚くのはまだ早い!
次の瞬間、ミニラはプルガサリを競技場の反対側の端まで放り投げた!
アタマから落下するプルガサリ。
立ち上がると、ミニラに振り回された腕は「く」の字に折れ、首も落下の衝撃で不自然にかしいでいる。
だが、そのダメージもリング光線で焼かれた顔と同様、みるみるうちに元通りに回復してしまった。
ダース・ジョンイル「見るニダ!見るニダ!その名の如くに、プルガサリは不死身ニダ!!」
アンデッドの巨人、プルガサリは再度三人に向け前進を開始したが……。
(だめだ!…あの人間には、絶っっっ対に手出しさせないぞ。)
ミニラの口がくわっと開いた。
ダース・ションイル「ヘッポコ怪獣のリング光線なんか効かないニダ〜〜。」
嘲笑うジョンイル。
しかしその目の前で迸ったのはリング光線ではなかった!
太陽が落ちてきたような輝き!
クモンガを瞬殺したあの白い閃光が、不可殺獣を飲込んだ!
………白い閃光が消えたとき、そこに残っていたのは真っ黒な灰だけ。
だが、消し炭のような黒い灰の中から、ホタルのように朧な光がひとつ…、またひとつ…と浮かびあがった。
メガネ「あれは……!?」
ラジオ「……きっとプルガサリの中に閉じ込められていた魂だと思う。やっと自由になれたんだ。」
バカ?「これで帰るべき場所に帰れるんだね。」
朧な光は次々浮かびだし、そして空中はあっというまに漂う輝きに満たされた。
光は三人の学生や彼らを送ってきたホロン部員に感謝するように取り巻き、包み込んで、そしてタンポポの綿毛のように舞い上がった。
寒天に高く、高く、高く……。
「日本人よ……。」舞い上がる光を見上げるメガネたち三人に、観客席から静かに呼びかけるものがあった。
ダース・ジョンイルであった。
黒いマントといった装束は同じままだが、傲慢さや高圧的な雰囲気は何故か消えている。
ジョンイル「……教えて欲しいニダ。……今、天に帰っていった光は何ニダ?ひょっとして……。」
メガネ「……プルガサリの中に閉じ込められていた、ピョンヤン市民の魂だよ。」
ジョンイル「やっぱりそうニダか……。」
そのとき、三人にはジョンイルがひどく縮んだように見えた。
ジョンイル「ボクの側を抜けて行ったとき、光が全部教えてくれたニダよ。本当のことを…。」
ダース・ジョンイルの目から涙がひとすじ流れた。
ジョンイル「これが正義だと信じてたニダ。パパが導いてくれてると信じてたニダ。………でも全部ウソだったニダ。騙されてたニダよ。全部、光が教えてくれたニダ。」
がっくり肩を落としたジョンイルに「将軍様」と呼ばれたときの威光は無い。
民族や政治主義、国家間の闘争の中で、地球人類を危機に陥れてしまったという、絶望的な後悔に苛まれる一人の人間に過ぎなかった。
ジョンイル「ボクが負けて……本当に良かったニダよ。もし勝ってたら人類は…………。」そして彼はグラウンドの三人に背を向けた。
「それじゃ、人類の未来を頼むニダ。」
それだけ言うと、ジョンイルはマントを翻し飛び上がった。
観客席最上段のフェンスをも一気に飛び越え、その向こうへ……。
そして……爆発。
それがジョンイルの選択した己の責任のとり方だった。
アナウンサーがマイクに向かって叫んだ。
「終った、終りました!幾多の苦難を乗り越え、ここ決戦場たる国立競技場に立つのは………『ボクラ』代表!ミニラ!!」
東京中から、いや日本じゅうで歓声があがった。
みんなテレビで見たり、ラジオで聞いていたのだ。
昆虫板もプロレス板の面々も自分たちの代表が勝ったかのように喜んでいた。
そしてそんななか、肩を抱き合いミニラに駆け寄る三人組!
膝をつき、手を地面に下ろして三人を迎えるミニラ。
アナウンサーが重ねて叫んだ。
「代表はミニラ!地球代表は、ミニラ!!」
再び大歓声が巻き起こった!
だがそのときだった!
バキュゥン!
大歓声の間を縫って轟く一発の銃声!?
バカ?が壊れた人形のように、ミニラの手の中へと倒れこんだ。
メガネ・ラジオ「お、おい!?どうしたんだ!?浅田(バカ?の本名)!浅田ぁっ!!」
ミニラ「きゅ、きゅううううううっ!?」
地球代表は「ボクラ」代表ミニラに決定!
だが喜びのさなかに、ミニラと最も心を通わせるバカ?が凶弾に倒れる!
犯人は誰だ?
そしてダース・ジョンイルを騙し、影で操っていたのは何者か??
謎を残しつつ……
新春特別企画(笑)「がんばれミニラ!トリノへの道/地球代表決定トーナメント」編
お し ま い
少女「兄の代わりに私が行きます。どうか連れていってください。」
バカ?の妹「マオ」ついに登場!
そしてミニラは地球管理権争奪トーナメント本戦に!
ゴアゴンゴン対ゼットン!一兆度対絶対零度!「ウルトラマン」と「マグマ大使」の最終回怪獣どうしが激突!
寅さん「ぼくのギララと、キミたちのミニラで決勝を戦いたいなぁ。」
ハンター星雲人統制官「ガイガン………起動ぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ラー「対戦相手は、ギラギンドが田楽刺しにしてやります。」ゴリ「……期待しないで見ているぞ。ラーよ。」
過剰なほどの(笑)オールスターキャストでお送りする第2弾!
「がんばれミニラ!トリノへの道/地球管理権争奪トーナメント」編!
ヒマがあったら構成・投下の予定。
あくまで、ヒマができたらね……。
296 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/07(火) 17:24:20
「ギャグとマジこき混ぜの駄文」とするつもりが、悪い癖が出てマジの部分が大幅増量になってしまった。
ダース・ジョンイルとホロン部の扱いが綺麗なので不満のスレ住人がいるかもしれないが…。
言い訳までに…。
「核戦争の影響として地球管理権を剥奪」そして「戦争をした、あるいは戦争に対し見て見ぬふりをした国家の否定」を導いたため、主人公はギリギリ未成年(=戦争に対しギリギリ責任が無い)の大学一年生に……。
そして地球に生きるもの全ての代表としての「ボクラ」代表が導かれたが、「地球に生きる全てのもの」にはジョンイルやホロン部も含まれる以上、ミニラはジョンイルやホロン部の代表でもなければならない。
……と、いうわけでああいう扱いに…。
最初だと、ダース・ジョンイルはケチ臭い悪党としてやられることになっていた(苦笑)。
以上、拙作駄文にお付き合いいただき、ありがとうございまする。
297 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/07(火) 17:45:51
えっ、もう終わりかよ
もっと、もっと
>>297 (笑)このへんでいいのだ。
100レス以内で終らせる予定だったのに、終ってみたら122レスも使ってたんだから。
これよりずっとややこしい構成だった「シャドウズ」だって76レスでちゃんと終らせたのに。
特撮板では足掛け4年?書きつづけたのがあったけど、ああなるとスレの私物化以外のなにもんでもない。
やはりこの手の掲示板の命は「いい年してオマエらバカ??」なんて煽りまで含めた「雑多な意見」だと思うから。
ちなみに特撮板の方のスレは、私がこっちに来てるあいだに圧縮喰らってDAT落ちしてた(笑)。
ほとんどメインライターと化してたから……。あっちの住人には悪い事したと思う。
だからこっちの掲示板までそういう事にはしたくないので……ね。
299 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/09(木) 18:42:44
伊福部昭氏追悼
震動で、オレは目を覚ました。
(やべ!地震だ!?)
…と思ったが、……闇に目が慣れた目で寝室を見回してみると、揺れているものはひとつも無い。
時刻は真夜中というには少し早いくらいか?
就寝直前飲んだビールで悪酔いでもしたのだろう。
そう思ったオレは、さっさと寝なおすことにした。
あとになってみると、あれが、あの不思議な事件の始まりだった。
目覚ましの鳴る時刻よりも15分ほど早くオレは目が覚めた。
寝なおしできる時刻でもなかったのでもう起きることにしたオレは、ガス台にポットを置き火をつけるとテレビのスイッチをいれた。
報じられていたのはあのニュースだった。
< 作曲家・伊福部昭さんが死去…「ゴジラ」など手掛ける >
…なぜだか力がストンと抜けた感じがした。
円谷英二監督が亡くなったのは子供のころだったのでよく判らなかった。
でもこんどは違う。
「伊福部先生、死んじゃったのか……。」
90才オーバーなら大往生だ。「幸せな死」の部類といえるだろう。
それでも悲しいのは変わらない。
(小松崎先生に湯浅監督、そんでもって伊福部先生もお亡くなりに…。)
みんな子供のころのオレのために、夢のお城を築いてくれた人たちだ。
「……死んじゃったんだ…。」
もういちど、声に出してそう呟いたときだった。
……ズシン!…………ズシン!………ズシン!
(またあの震動だ!)
すさまじい衝撃に、慌ててオレはマンションの玄関から飛び出した!
表に出たところで隣りの奥さんとでくわした。
ゴミ袋を手にぶらさげたまま、パジャマ姿に裸足という出で立ちで玄関から転がり出たオレを見つめている。
隣りの奥さんの様子を見てオレは気づいた。
……揺れていない。
驚いて階段の手すりごしに町を見おろしてみたが、人も車も何事も無かったかのように普通に動いている。
いや、「何事もなかったかのように」ではない。
本当に何事も無かったのだ。
珍獣でも見るような目つきでオレを見る隣家の奥さんに、意味不明の言い訳をしながら、オレは自分の家へと逃げ戻った。
家の中にも、あの震動の痕跡は無かった。
決定的だったのはガス台が点火されたままになっていたということだ。
試しに、その端を掌で叩いてみる。
ガン!という音とともにたちまち火は消えてしまった。
このガス台には対地震用の自動消火機能がついているのだ。
そしてその機能は壊れる事無く、ちゃんと生きている。
……と、いうことは……。
(壊れているのはオレの方なのか!?)
だがそのとき、オレはあるものに気がついた!
本棚の最上段に置いてあるガシャポンの人形が下に落ちている!
拾い上げてみるとそれは………。
………ガメラのガシャポンだった。
ガス台の火がついたままだったということは、オレの感じた地震は存在しなかったことになる。
その場合オレは狂っている?……ことになるだろう。
しかしガメラのガシャポンは本棚から落っこちていた。
落ちないようにと、ゴジラやウルトラマンのガシャポンといっしょにして本棚のかなり奥に置いてあったのに……。
昨夜、これが本棚の上の定位置にあったことは間違い無い。
ではやはりさっきの地震で……。
だが、オレはガメラを本棚に戻そうとして気がついた。
ゴジラやウルトラマンは元の場所のまま、少しも動いていなかったのだ。
(なんでガメラだけ?!)
世界が回り始めた。
結局その日、つまらぬミスは繰り返すわ、仕事中ぼおっとしていて上司にどやされるわ、オレは会社でさんざんなありさまだった。
なにがなんだかすっかり混乱してしまっていたのだ。
そして世界が周り続けるままにオレは会社から帰宅した。
(ああ、こんなことならムリして会社行くんじゃなかった。)
そう思いながら部屋の明かりをつけたとき、オレの目は床のあるものに釘づけになった。
またガメラが本棚から落ちていたのだ。
翌日オレは会社を休んだ。
(なにかが起っている)
その思いが混乱に拍車をかけたからだ。
だが、かといって、医者に行くこともしなかった。
「ご家族の方を呼んでいただけますか?」とか「落ち着いてお聴きください。」とか言われそうな気がして怖かったのである。
別に咳が出るとか、熱が高いとかいうわけでもないので、布団に寝ている必要はない。
することのないままヒマをもてあましたオレは、パソコンを立ち上げると、某巨大掲示板群を覗いてみた。
「……こんなところにもあるのか……。」
オレは少し驚いて、同時に少し嬉しくなった。
複数の掲示板で、伊福部昭の死を悼む書き込みがあったのだ。
特撮板はもちろんのこと、SF板や軍事板にまである。
子供時代に夢の城を共有した仲間たちが、こんなにも沢山いたのだ。
顔も名前も知らないけれど、同じ映画を見て同じ夢を抱いたヤツラ。
「同じ釜の飯を食った」という言い方があるが、それをいうならコイツらは「同じ夢の城に住んだ」、いわば戦友だ。
どうせ顔を見たらむっさいオッサンばかりなんだろうが……、オレはそいつらのことがたまらなくイイヤツに思えた。
今朝方までの混乱もすっかり忘れ、伊福部仲間の書き込みを渡り歩いていたオレは、とある住所へと導かれた。
(…世田谷区尾山台………なんだ電車で一本じゃないか。)
どうせすることもないのだと、オレは電車に乗り見つけ出した住所へと向かうことにした。
夢の城のつくり手に、最後の別れを告げるために。
世田谷区尾山台。
戦前から焼けずに残った古い住宅街の一角に、「夢の城の作り手」の家はあった。
葬儀は済んでしまったのか?
それともどこか別の寺ででも行われているのか?
弔問客の姿も無く、昼間だというのにあたりは静まり返っていた。
いや、静まり返っているどころではなかった。
風がどんなに吹き抜けても、そして木立の枝を揺らしても、音がしない。
オレが立っているのは音がない世界だった。
(やっぱりオレは狂い始めているのか!?)
オレが恐慌をきたし始めたとき、またあれがやって来た。
ずしん!…………ずしん!………ずしん!…………ずしん!
物凄い衝撃が、次第にこちらへと近付いて来る!
だが、このとき初めてオレは気づいた。
(これは地震じゃない!足音だ!)
(これは地震じゃない!足音だ!)
とてつもなく巨大で、とてつもなく重い生物の歩く衝撃だ!
そのときもうひとつ、別の足音がやって来た。
ずしん!ずしん!……ずしん!ずしん!
ピッチが早いから、きっとコイツは四足歩行だ!
更には、ずずずずずずずずず……と殆ど間を開けない音も近づいて来た。
「そうだ!ピッチに間が開くのは二足歩行のゴジラ!向こうから来た四足のはアンギラス!切れ目のない音はモスラの幼虫だ!」
三つの足音は伊福部邸の周りでぴたっと止った。
いまこの場所にいるのはゴジラとアンギラスとモスラ、そしてオレ。
「ゴジラや怪獣たちが伊福部昭氏を送りに来たんだ。」
そう悟ったらもう怖くは無かった。
「伊福部昭先生、夢をありがとうございました。やすらかにお眠りください。」
オレは三大怪獣と一緒に「夢の城の作り手」伊福部昭の冥福を祈り、そして帰ってきた。
あれ以来、オレはあの足音を聞いていない。
いまでもオレは信じている。
あの日オレは、怪獣たちの葬儀にともに参列したのだと。
307 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/10(金) 17:24:23
作者のたわごと…
伊福部昭先生が亡くなられた。
「ご冥福をお祈りします」と書き込もうと思ったが……。
ふと思い出したのが、HPラヴクラフトが亡くなったとき、作家仲間のMWウェルマンの書いた追悼小説「謎の羊皮紙」(だったかな?まちがってたらゴメン)。
こんなスジだ…。
ウェルマンの家に怪しげな羊皮紙が現れる。
そこには「我を読み、我に再び力を与えよ」の言葉が。
さらにウェルマンの目の前で、羊皮紙に書かれた呪文は未知の文字から既知の文字へと変化し、ついには英語になる!
もしこれを読んでしまったら、クトゥルーら邪神たちがこの世に!!!
そこで「伊福部先生に相応しい駄文」が、何か書けないかな……と……。
それで即席に捏ね上げたのがこの駄文。
一応ゴジガメ対決にもなっている。
つまりは…本棚の上からガメラのガシャポンを落とした犯人がゴジラってわけ(笑)。
半日もかけずにデッチあげたんで、笑ってスルーして…。
308 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/14(火) 17:30:19
だれか初代ゴジラの悪霊がいたいけな少女にのっとるって話作れよ
309 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/14(火) 18:24:57
で、首が回転してゲロ吐くんか?
310 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/15(水) 08:23:10
>>だれか初代ゴジラの悪霊がいたいけな少女にのっとるって話作れよ
ゴジラじゃないし厳密には悪霊でもないが、そういう駄文は試作している(笑)。
テレビの心霊番組からお話はスタートだ。
イタコだのイヌ神憑きだのとりまぜたヤツ。
もうひとつ試作中なのは「特撮板」でやってた話のスピンオフでゴジラとガメラが殺人事件の解決で対決する話。
エラリー・クイーン風にまとめたいと。
もうひとつ試作してるのがあるが、そっちの駄文だと空自のパイロットが主役の一人なんで「軍事板」の面々に意見を聞いている最中。
最後に作ってるのが「トリノ」の後編。
トーナメント一回戦でミニラを当てる相手をガッパとするかキングジョーとするか思案中。
決闘中心にするならキングジョー。
ネタも交えるならポルノ惑星サルモネラ人間代表のガッパがいい。
311 :
あまぎ:2006/02/15(水) 19:20:30
>>310 軍板のレスが質問からズレてしまってるので、ここで回答。
Q.ギャオスを戦闘機でロックオン可能かどうか?
A.平成ガメラで空自のレーダーに補足されてる事から、戦闘機でのロックオンは可能と思われ。但しミサイル攻撃が有効かどうか、そもそも撃てるのかどうかは別問題。
・有効距離:個体のサイズや、どれだけ電波を反射するかで、ロックオンできる距離が決まってくる。レーダーに映りにくいと、互いに正面から接近している場合、ロックオンできても距離の関係上撃てない可能性が出てくる。
(強引に撃つと回避する時間が無く、自機も破片群の中に突っ込んであぼーん)
・ミサイルの有効性:レーダーや映像による誘導ならギャオスを追えるだろうが、直撃は難しいだろう。なんせミサイルが自力で飛べる時間なんて数十秒で、あとは滑空するしかない。至近弾の場合、生物に対して近接信管が作動するかどうか。
現存する空戦用装備で怪獣と渡り合えるのは、バルカン砲しか無いような気がする。だからこそ対怪獣の新兵器が登場して、そこが見せ場になるんだけどね。
僕は過去二作でどこまで現実的に書くかで、かなり悩んだよ。
>>311 レーダーに映りやすかったら9行目から下が全部覆りそうだが
313 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/16(木) 07:44:37
なるほど軍事板で私の正体を見破ったのはアマギ氏でしたか。それなら道理……。
解説大変よく判りました。ありがとうございます。
あれで捏ねてる駄文は、時間軸ではG3直後ですが、ポリシー的にはG2を受けるものなんですね。
軍事板系の方ならご存じかもしれませんが、なんでも人種差別の根強いアメリカで先頭きって人種差別が排撃されてるのが軍なんだそうです。
自分の背中を任せる相手は「白人か黒人か」など関係なく、「強くて頼りになるか、ならないか」だというんですね。
そして白黒一緒に死線を潜ってしまうと、もうそれで「戦友」ということになる。
「白だ黒だなんて知ったことか!?あのクソ野郎はオレの戦友だ!」でお終い……。
だからペンタゴンのトップにも黒人や黄色人種が座れる。
ならば、日本でガメラと人間との間にある「越えられない壁」を最初に越えるのは子供、そしてその次に乗り越えるのはガメラと共闘した軍人だと思うんです。
……と、いうわけで「オレたちはそれでもガメラを信じます。……だってヤツは戦友ですから。」という主題で一本構成中。
この人間側のテーマにギャオスとゴジラが絡む。
果たして悪いヤツは誰だ?というふうに……。
完成したら投下します。
あ、念のために書いときますと、イタコが出て来るヤツとは別の駄文ですから(笑)。
>>312 レーダーに映りやすかったら9行目から下が全部覆りそうだが
航空用レーダーには映っても、航空機検出だけが目的のミサイルのセンサーが、ギャオスを航空機
として認識できるかどうかについては別問題かなと思うから。
ターゲット ロックオン! ミサイルもギャオス目がけて飛んでったまではいいけれど、信管のセンサーは、
『目標ってどこよ?』 な状態になりはしないかな?
まあこの辺は設定次第でどんな解釈もありだし、そんな部分をどう描くかも作家の腕次第かな。
>>313 軍事板で私の正体を見破ったのは・・・
僕じゃないですよ w
僕もあのスレは時々覗いてて、そうじゃなかろうかとは思ってましたが。
> 死線を潜ってしまうと、もうそれで「戦友」ということになる
そうなんですよね。いや、死線を潜らずとも、同じ苦労を分かち合い、同じ釜の飯を食った仲間って。
だからG2ラストの敬礼のシーンが生きてくるわけで。あの自衛官たちの気持ち、よくわかります。
某空自基地のエプロンで戦闘機と一緒に翼を休めるガメラの一幕があってもいいかな。
>>314 >軍事板で私の正体を見破ったのは・・・
違ったんだw
俺もそうじゃないかとおもってたから両方見てたら結構判りやすいと思う
>>313 軍事板で私の正体を・・
見破った私が来ましたよ。SF板でも軍板でも単なる名無しの一人に過ぎませんけどね。
> 死線を潜ってしまうと、もうそれで「戦友」ということになる
これが人類の勝手な片思いだった、と言う結末が見たいひねくれ者です。
結果的に共闘する形になっただけであって、
怪獣にとっては最初から最後まで人類など虫ケラ見たいな存在でしかない。と言う感じの。
どちらかと言うとゴジラ向きの話か。
317 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/17(金) 07:39:17
ネタを先にバラしちゃうと(笑)、狭間を狙って落としたい。
つまり「人間の側の勝手な思い込み」なのか「ガメラと心が通じた」のか、結局は判らないという風に落したい。
HGウェルズだとかJウィンダムとかだと「判り易い解決」を敢えて書いてないような気がするんですね。
それでもってレムの「ソラリス」なんかだと「結局理解不能ですね、あはははは……」って風に「判り易い結末をつけないこと自体」が結末になっている。
だから……「ガメラと人間の心が通じたのかどうかは、結局判らない」という風にしたい。
だその中で「それでもオレは……」とか「根拠なんて無いけど……ボクは信じてます」ってなオチをつけたいなぁ…と。
結局人間は自分の主観の中から抜け出せないんですから。
それを他人が「妄想世界の住人」と呼ぼうと、「1000の偽りの中からひとつの真実を見抜く賢者」と呼ぼうと、呼ばれた本人にとっては実はどうでもいいこと。
そのためには冒頭部分の空自とギャオスの戦闘をしっかり描写できないといかんのですな。
それで軍板に行って質問したら、一発で見破られた(笑)。
……世の中実に狭い。
318 :
がんばれミニラ!めざせトリノ/本戦トーナメント編:2006/02/20(月) 08:37:54
誰かが一本投下したら「トリノ」の第二部を投下しようと思っていたが……。
だーれも投下せんなぁ?
モタモタしてると冬のオリンピックも終ってまうし。
オマケにだれもメダル取らんし。
まだ未完成だが、構成し難い出だしは完成したから投下開始するか。
……と、いうわけで、「がんばれミニラ!めざせトリノ/地球管理権争奪トーナメント編」投下開始。
319 :
がんばれミニラ!めざせトリノ/本戦トーナメント編:2006/02/20(月) 08:40:52
「バカ?のヤツ……どうなるのかな?」
「……わからない。」
「意識………戻らないのかな?」
「わからないよ…。」
「まさかあのまま意識がもどらないなんて…。」
「だから、わかんねえって!」
声荒くメガネは立ち上がったが、すぐまた座りなおした。
「…ごめんラジオ。」
「……謝んのはこっちの方だよ。答え様の無いことばっか聞いてさ。」
メガネとラジオは都内の大学病院の前に座り込んでいた。
ミニラとプルガサリの激突の直後、メガネとラジオの仲間「バカ?」は何者かに狙撃され、この病院に運びこまれたのである。
一時は命も危なく、郷里からバカ?の家族が呼び寄せられたくらいだったが、今はもう命の心配はなくなっていた。
ただ、頭に命中した弾丸を摘出したにもかかわらず、術後丸二日を経てもバカ?の意識は戻っていなかった。
呼べど応えぬ息子に、それでも話かけ介護をつづける両親を見るのは、メガネとラジオにとって心をかきむしられる思いだった。
(オレたちがいたのに)(オレがもっと注意していたら)
そして……
(オレが代わりになればよかった)。
とても病室にいたたまれず、二人は北風吹き抜ける病院前の車まわしに腰を降ろしていたのである。
やがてメガネは、まるで老人のような疲れきった仕草で立ち上がった。
「……おいラジオ。ここにいても仕方がないよ。……ミニラのトコに行こう。あいつも心細いだろうから……。」
320 :
がんばれミニラ!めざせトリノ/本戦トーナメント編 :2006/02/20(月) 08:42:49
二人は重い足取りで、病院の裏手にある公園へと歩いていった。
プルガサリとの決勝後、ミニラは50メートル弱のサイズになっていたので、建物のこみあった病院前にはとても連れていけなかったのだ。
病院裏の公園で、巨大昆虫の扱いに慣れていたミリオンといっしょに、ミニラはおとなしく待っていた。
チビッコ怪獣などと言いながらその辺のビルより大きいミニラを野次馬が遠巻きにし、その中央にポツンとミニラが……。
「あれ!?だれかいるよ?」ラジオが驚いたように言った。
ミリオンのほかに、ミニラのスグ前に少女が一人立って、間近からミニラを見上げているのだ。
驚き駆け寄るメガネとラジオに気づいたミリオンが言った。
「メガネ!ラジオ!この娘は……。」
だが少女は、ミリオンの紹介を待たずにスッと前に進み出た。
「はじめまして。兄が大変お世話になりました。」
「『兄が』??」と怪訝な顔で少女の前に立つメガネとラジオ。
「……って言うと……キ、キミは……!?」
「はい、わたし××(バカ?の本名)の妹の真央です。」
321 :
がんばれミニラ!めざせトリノ/本戦トーナメント編:2006/02/20(月) 08:46:38
「え?………妹の……まおってゆーと!?…………『バカ?』……じゃなかった。浅田くんの妹さんですか!」
メガネのセリフが三段逆スライド方式でくるくる代わったのが、内心の動揺をさらけ出している(笑)。
ラジオはと言うと、こっちは金魚のように口をパクパクさせるばっかりだ。
ムリもない。
バカ?は言っていたのだ。
ミニラは自分の妹に似ていると。
だからメガネとラジオは「バカ?の妹はミニラみたいな『とっつぁん坊や』顔である」とばかり思い込んでいたのだ。
だが、目の前に立っているのはどっちかというと「清楚な美少女」に分類されるべきシロモノなのだ。
実を言うと「もてない系大学生」である二人は、少女を前にカカシのように突っ立って「……あうあう……」言うだけ。
そしてそんなカッコ悪い二人を首をかしげて見つめる「バカ?」の妹。
……なんとも情けない光景である……。
だが、メガネとラジオにとっての救いの神は思わぬところからやって来た。
「おーーーーーーい!」
男が手を振りながら走ってきた。
プロレスオタクのIT成金で、メカカールゴッチの建造主であるプロオタだ。
「いよいよ宇宙の代表怪獣たちが再降下してきたぞーーっ!決勝トーナメントの始まりだ!!」
キングギドラ、ゼットン、メカゴジラ……、地球に各惑星の代表怪獣が再び降下してきた。
イロモノ系が混ざっていた地球代表決定トーナメントとは違い、いずれ劣らぬ強豪ぞろい。
はっきり言ってしまうと、一番見劣りするのがミニラだ。
ただ前回と違っているのは、代表怪獣を指揮する宇宙人もいっしょに降下してきた点だろう。
またショーチク星人の「寅さん」やX星人統制官、ペダン星人ドロシー・アンダーソンのように巧みに人間に変身している者もいる。
だが、バンデル星人や惑星Eのゴリとラー、それに宇宙の帝王ゴアたちは自身の姿のまま地球に降下してきたし、ジグラ星人やヤプールは姿を見せることは無かった。
だが、最も問題が多かったのは、元々人間と変わらぬ姿の宇宙人だったのだ。
「うおおおおおおっ!」
野次馬がいっせいにどよめいた。
大巨獣ガッパが現れたときもどよめいたのだが……。
使い手のポルノ惑星サルモネラ人間が現れたときのどよめきは尋常なものではなかった。
彼らの代表は女性だった。
しかも美人でミドリの黒髪にたわわな胸、お腹がきゅっと締まっていて、腰は豊かな曲線を描いている。
だが、どよめきを生んだのはそのいずれでもなかった。
円盤から降りて来た彼女は、……全裸だったのだ。
彼女が降下した場所は後楽園遊園地だった。
そして、野次馬のどよめきは、都市の喧騒を圧し、なんと神田や秋葉原まで聞えたという。
「なんですか!?あのロマンポルノ惑星のサルモネラ人間ってのは!?」
メガネは缶ビール片手に形ばかりは憤慨していた。
……そばにバカ?の妹・真央がウーロン茶の缶を持って座っているからである。
彼らは、地球に再度降下してきたショーチク星人の寅さんと、再会を祝し公園の片隅で乾杯していた。
「……あの全裸の女性はポルノ惑星サルモネラ人間の女王、通称ロマンポルノの女王さ。」
寅さんは笑って答え、ビールをあおった。
「……キミたちの星はキミたちが言うところのエロスとタナトスのうち、タナトス、つまり『死』の支配が強いんだ。
だが彼女たちの星、ポルノ惑星はエロスが圧倒的に強いんだよ。
だから戦争が一切無いのはもちろんのこと、個人間の闘争も皆無なんだ。星の住民どうし皆愛しあっているからね。」
「あの、寅さん、質問があるんですが。」ラジオがいちいち手を上げて尋ねた「そんなふうに愛ばかり強い宇宙人が、なんで地球の管理権を欲しがっているんですか?闘争を嫌う…、というより闘争を知らない宇宙人なんでしょ?」
ビールの泡を舐めとり、寅さんは答えた。
「……あの星に最初に降り立った異星人はスラップスティック星のツツ・イヤス・タカだった。彼は現地時間で降下からちょうど一年後に腎虚で死んだが……。」
ラジオが派手にビールを噴出した。
メガネはそっと横目で真央の顔を盗み見る……よかった、彼女は意味が判らなかったらしい。
「……死ぬまでの一年間に、彼は現地女性との間に1825人の子供を作った……。」
こんどはメガネがビールを噴いた。
「……ツツ・イヤス・タカの血が混じったため、サルモネラ星人の民族性に変化が生じた。それまでは惑星内で愛し合っていたのが、全宇宙に愛の輪を広げようと考え出したんだ。」
「でも……寅さん…、代表怪獣を預かる身でこんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど……」前置きしてラジオは尋ねた。
「……愛の輪を広げるなんて結構なことなんじゃないんでしょうか?いっそあのサルモネラ人間に支配されても……。」
しかし寅さんは首を横に振った。
「判ってないね。宇宙の生物は多様なんだ。サルモネラ人間と地球人は外観こそソックリだが、生理機能は全く異なる。サルモネラ人間たちの生理機能につき合わされたら、地球人なんて一週間ともたないさ。」
「…『もたない』って……死ぬってことですか?」
今度は、寅さんは首を縦に振った。
「ひとつの惑星にとって正しいことでも、他の惑星にとっても正しいとは限らないんだ。その星にはその星のやり方があるんだよ。
もし付き合うにしても、時間をかけてゆっくり進まなきゃいけない局面だってあるのさ。
でも、ツツ・イヤス・タカの血をひくサルモネラ人は性急に過ぎる。あれでは地球人類が滅びてしまうよ。」
「Hのし過ぎで!?」「じ、人類全滅!?」二人並んで絶句するメガネとラジオ。
……ちなみに真央は顔を下に向けている。
鼻歌まじりで寅さんは言った。
「火を吹く島か♪ 空飛ぶ岩か♪ 宇宙の神秘♪怪獣ガッパ……。サルモネラ人間が連れてきたガッパは強いよ。ゴジラやガメラにもヒケはとらない。
……おっとそろそろ時間だ。」
寅さんは持って来たオンボロトランクを開けると、中からセルロイド製下敷きのようなものを取り出して地面にポンと投げた。
すると「下敷き」は地面に落ちると同時に勝手にパタパタと開きだし……。
あっというまに畳四畳半ほどの巨大スクリーンとなってしまった
展開が終るとスクリーンは、支えも無いのに寅さんの前に垂直に立ち上がった。
「……携帯用テレビと思ってくれればいいよ。」
寅さんの「携帯用テレビ」は電源も見当らず、スイッチすらないにも関わらず、画面一杯に不思議な模様を映し出した!
「なんですか?この模様は??」とラジオ。
「ごめん、ごめん。ショーチク星の文字表示のままだった……。キミたちの言葉に直すよ。」
寅さんが指をパチンと鳴らすと、画面一杯の「模様」はたちまち日本語になった。
でも、日本語になっても意味がチンプンンカプンなのは同じだった。
「マグロマル」とか「サユルケオン」とかいうワケ判らん言葉と読解不能な文章がしばらく続いた。
「……とりあえず日本語に簡易翻訳してるんだけど……日本語はおろか地球のどんな言語にも翻訳不能なものがあるんでね………あ!?始まった始まった!」
「始まったって、いったい何が始まったんですか?」メガネは聞いた。
「地球管理権争奪トーナメントの一回戦対戦カードの発表さ。」
そして、今度はメガネとラジオにもハッキリ判る言葉が次々と画面に映し出された!
「知的生命体連合・理事会発表。」
地球での一般的なパターンとちがい、上から下に流れる形で文字は現れた。
「……地球管理権争奪トーナメント一回戦の組み合わせが、コンピューターにより厳正かつ無作為に決定されました。」
「……以下、試合開始順に対戦場所と合わせて発表します。」
「X星代表・千年竜王キングギドラ VS バイラス星代表・超音波怪獣ギャオス、対戦場所・ヒマラヤ山脈」
「ブラックホール第三惑星代表・メカゴジラ VS バンデル星代表・磁石怪獣ガルバン、対戦場所・沖縄」
「第10惑星代表・大悪獣ギロン VS M宇宙ハンター星雲代表・未来怪獣ガイガン、対戦場所・ニューヨーク」
「ゼットン星代表・宇宙恐竜ゼットン VS 宇宙の帝王ゴア・冷凍怪獣ゴアゴンゴン、対戦場所・科学特捜隊日本支部前」
「ジグラ星代表・宇宙昆虫レギオン VS ショーチク星代表・宇宙大怪獣ギララ 、対戦場所・エルアラメイン戦場跡」
「惑星E代表・ギラギンド VS 異次元人ヤプール代表・ミサイル超獣ベロクロン、対戦場所・シリコンバレー」
「ペダン星代表・スーパーロボット・キングジョー VS M78星雲代表・ウルトラマン、対戦場所・円谷プロダクション社屋前」
「ニッカツロマンポルノ惑星のサルモネラ人間代表・大巨獣ガッパ VS 地球代表・チビッコ怪獣ミニラ 、対戦場所・渋谷怪獣GP会場」
…というものだった。
「ボクラのミニラが当たるんですね。寅さんの言う大巨獣ガッパと……。」
硬い表情でメガネが言った。
「対戦場所が近いのは在り難いし、一回戦最終試合なのもラッキーかな。」とラジオ。「……トーナメントの雰囲気だって判るし、準備も色々できるだろうから……。」
「準備もいいが、ひとつ忘れちゃいけないことがあるぞ。」寅さんが笑うのを止め、真顔で言った。「……このトーナメント参加者の中に、ダース・ジョンイルを操り、君たちの大切な仲間の命を奪おうとしたヤツが隠れているんだ。油断するなよ。」
メガネ、ラジオはしっかり頷いた。
……そんな二人に向かって、バカ?の妹・真央がいきなり立ちあがった。
「すみません!お二人に話があるんですが。」
「うわっ!ごめんなさい!?」「も、もうしません!」
「……何も言ってないうちから、なんで謝るんですか?」
思わず謝ってしまったのは、二人の心にヤマシイ思いがあったからである。
だがしかし、目の前に美少女はいるわ、敵のサルモネラ人は美人でオマケに全裸だわで、心にヤマシイ妄想を育んでしまったからといって、どうして二人を責めることができようか?
ひたすら黙り込む二人に代わり、寅さんは真央に言った。
「それより、お話ってなんだい?言ってごらん。」
真央は、メガネとラジオを真っ直ぐに見つめて言った。
「お話というのは点…ボクを連れて行って欲しいんです。」
「????え……連れてくって……どこに?」
話が飲み込めないメガネとラジオに、真央はもう一度言った。
「兄の思いを引き継ぎたいんです。兄の代わりにボクを、怪獣対決の場に連れて行ってください。」
バカ?もけっこうガンコだったが、妹は兄に輪をかけてガンゴだった。
真央はミニラといっしょに、公園に居着いてしまい、脅してもすかしても帰ろうとはしなかった。
最後の手段で、バカ?の両親に相談したのだが……、「帰りなさい」と言ってもらうつもりが「真央をよろしくお願いします」と言われてしまい、完全な薮蛇となってしまった。
こうして……ミニラを支える「ぼくらチーム」のメンバーは1名交代することとなったのである。
……
………
吹雪に霞む峨々たる山並み。
真っ白い氷雪のあいだ、ところどころ露出した岩肌のみ黒い。
空さえも青さを失い、ダークグレイに沈み込む。
完全なるモノトーンの世界だ。
……バチッ!
白と黒だけに支配された世界に、赤い火花が散った。
バチッ……バチバチバチッ!
最初は空中に散った小さな火花だったものが、モノトーンの世界を暖色に染め上げながらあっというまに大きく燃え上がった!
そして炎は分かれ渦を巻き、ある形へと凝集していく!
そして燃え立つ「真紅」が輝く「黄金」へと変化!
次の瞬間、ヒマラヤに金属的な三つの叫びが木魂した。
X星代表怪獣、千年竜王キングギドラの降臨である。
真剣のように切り付ける風雪をものともせず、空中に静止して油断なくあたりを窺うキングギドラ。
その真上から、鉛色の雲を鋭角的な陰が突き抜けてきた!
ビビビッと空気が震えると同時に、目には見えない何かが「鋭角」の先端=ギャオスの口から放たれ、キングギドラへと降り注ぐ!
ギドラのウロコに火花が散った!
メガネ、ラジオ、それに新メンバーの真央は、寅さんの携帯テレビでこの模様を観戦していた。
寅さんのテレビ画像は、地球の如何なるテレビの中継画像よりも鮮明で、まるで「リングサイドから生中継」みたいな臨場感に満ちていた。
「三つ首のがキングギドラ、上空から襲ったのがギャオスだよ。」寅さんは三人専属の解説者といったところだ。
ラジオがきいた「なんでキングギドラの体に火花が散ったんですか?」
「ギャオスの殺人音波が命中したからさ。」寅さんは即座に答えた。「……ギャオスの武器は、超高周波を収束的に放つ一種の空気メスなんだ。」
テレビ画像では爆撃機のようなキングギドラの周囲をギャオスが自在に飛び回り、四方八方から超音波メスを浴びせかけていた。
命中のたび、ギドラの黄金のウロコから火花が飛ぶ!
「まるで見えないカミソリを投げてるみたいですね。」驚いたように洩らすラジオ。
「カミソリというのは良い例えだね。でも見えないわけではないよ。ギャオスの先端部分をよく見てごらん。」
錐揉みしながらギャオスがキングギドラの斜め左から急接近!その直後、ギドラの体からまたも火花が散った!
「あっ!」真央が小さく叫んだ。「なんかいま、景色が揺れたみたいに……。」
「鋭い。そのとおりだよ。音波は音の波だ、鋼鉄を切断するほどの高周波なんで、音波の収束部分には大気に濃度差が出るんだ。」
「……わかった!」ラジオが飛び上がった。「……砂漠で陽炎がたつのと同じだ!上昇気流で大気の均一さが失われるから光が直進できなくなる!アレですね!」
「そうだよ。」寅さんはうなづいた。「……だから『カミソリ』という例えは正解だが、『見えない』というのは不正解。よく見りゃ見えるからね。」
超高周波あたるとギドラの皮膚火花でるんかな
333 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/21(火) 03:53:37
アタイこそが 333へとー
334 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/21(火) 07:47:36
>>332 ギャオスの超音波メスの正体が波長の極めて短い極短波の音であるなら……。
むかし音速突破に挑んだ飛行機が次々阻まれた「音の壁」に近いものかな?と考えました。
いまから何十年も前に読んだ子供向けの本だと……
「音=空気の震動」「飛行機は空気を掻き分けながら飛ぶ」「このとき飛行機の前の空気はドップラー効果でどんどん波長が短くなる」
「飛行機が音速に近づいたとき、波長の間隔は限り無く〇(ゼロ)に近くなり、何重にも重なった『空気震動の壁』のようなものができる」
「……突破できずに飛行機木っ端微塵」
………と説明しとりました(古い本だし児童書ですから間違ってるかも(笑))。
まあ、「ものが切れる」という点からも、殺人音波は「形の無い力」というより「見えない(見え難い)物体」として捉えたほうが正解と思いました。
一方ギドラはあのまんまの姿で宇宙空間を飛行し、大気圏突入と大気圏離脱もこなす(スゴイ!)ので、あの金色のウロコは各種宇宙線や大気との摩擦熱に耐えるハズ。
ならば「見えないカミソリ」が命中しても一発で「殺人音波が命中してキングギドラの首がポロリ」ってのは無さそう。
何よりソレではあまりにマヌケなので、映像的な演出として「火花が散る」ということにしました。
それから……武器が音である以上、音速以上の速度で飛ぶ相手を、後ろから攻撃するのは意味が無いでしょう。
そのため、当初考えていた「ギドラとギャオスのドッグファイト」はボツ。
その代わりギャオスは高速迂回しギドラの真正面に回ってから正面衝突するような飛行ルートでギドラを攻撃することにしました。
たしかそういう戦法で爆撃機を落してたドイツのパイロットがいませんでしたっけ?
「音」であることの弱点がもうひとつ。
大気が無いところでは使用できない。
対決部分ではココがミソかと。
そして最後の隠し球をば。
長文すまぬ。
巨大なキングギドラの三つ首から引力光線が撃ちまくられ、雲を斬り裂き、氷を砕き散らす。
だがギャオスは翼を、時に鋭角に、時に鈍角にと可変させ、変幻しつつ引力光線をかいくぐり、ギドラめがけて殺人音波を発射!
三つ首のうちの中央の首に火花が散り黄金のウロコが一、二枚飛び散った。
中央の首は、数分ほど前から殺人音波による連打を浴びていた。
ギャオスは攻撃目標を絞ったのだ。
バチッ!
ギドラの引力光線がギャオスの左翼付け根をかすった!
一瞬飛行姿勢が崩れるギャオス。
そこを狙って引力光線の追い討ちがかかる!
だが、2撃目を許すギャオスではない。
鋭角どころか、ヤリの穂先のように飛行姿勢を絞り込むと、ギャオスは弾丸のように猛加速して引力光線の網を突破した。
「我らが宇宙ギャオス。優勢です。」
「キングギドラなど移動砲台に過ぎません。動けぬ敵なら火力で圧倒できても、動ける相手にはついていくのがやっと。」
「攻撃管制している中央の首を殺るのも時間の問題です。」
未知の機器類に囲まれて、とんねるずの木梨ノリタケがクロメガネと黒ベレー帽被ったような一群の男たちが、興奮の面持ちでギャオス対キングギドラの戦いを観戦していた。
そしてその中央にそそり立つは、フランス・ブルボン王朝の紋章「ユリの花」を思わせる巨大な頭部に太い触腕を備えた奇面の怪物、バイラス星人である。
周囲の「ノリタケ・モドキ」も、正体は同じバイラス星人だ。
「いいぞ!殺れ!ギャオス!!」「撃ち落せ!!」
水平面での空戦では敵わぬと見たか、キングギドラは首を上方に向け上昇を開始した。
「逃げるなギドラ!」「追え!ギャオス!!」
細かな空中挙動ではギャオスに敵わぬキングギドラだが、速度そのものは地球重力圏を離脱できるほどのものを持っている。
パワーにものを言わせ、ぐんぐん上昇するキングギドラ。
それを追ってギャオスも上昇開始した。
「空は我々のものだ!ギャオスよ、X星の連中にそれを思い知らせてやれ!」
曇天を抜けた先には一面の青空が広がっていた……。
その白い絨毯を押し分け、キングギドラが浮上した。
鉛色の曇天を抜け、雲を越え、蒼天の頂きをめざして三つ首の龍が飛ぶ。
少し遅れて弓矢のようなものが雲を貫いた。
キングギドラを追い、ギャオスもまた天の頂きを目指す。
バイラス星人「バカめ。太陽光の下に出ればギャオスを滅ぼせると思ってのことだろうが。そんな弱点、とっくに対策済みよ!」
キングギドラとギャオスの間が突然縮まった。
ギドラが急に失速したのだ。
バイラス星人「敵はスタミナ切れだ!一気に止めを刺せ!」
円盤からの指示を受け、ギャオスは口を開いた。
最大出力での殺人音波だ!
だが、寅さんの携帯テレビでこの模様を見ていたバカ?の妹・真央が小さく叫んだ。
「変だわ!景色が歪まない!?」
太陽を背に中天に留まるキングギドラ。
その黒い影に向け、ギャオスの殺人音波が放たれた!
……だが………何も………おこらない?
携帯テレビの前で寅さんが真央に答えた。
「……成層圏ギリギリまで上昇したんだから当然だよ。大気が極薄だから景色が歪まないし、殺人音波も伝わらない。」
ラジオが目を見張った!
「それじゃ寅さん、キングギドラは!?」
「もちろん狙って誘導したんだろ。バイラス星の大気層は地球のそれよりも遥かに厚いから、バイラス星人はうっかりしたのさ。」
太陽を背にしたキングギドラは黄金竜ではなく黒竜と見えた。
その黒竜が………降ってきた!
ギャオスに向かって逆落としに降下する!
バイラス星人「しまった!急速反転だギャオス!大気の濃い高度までもどるのだ!」
このとき、慌てたバイラス星人はもうひとつミスを犯した。
大きく弧を描いて大回りすればギャオスの飛行速度は落ちない。
だが、その場で急速反転すれば、弧は小さいが速度は著しく落ちる!
X星人の円盤からすかさずギドラに指示がとんだ!
「いまだ!引力光線一斉発射!」
キングギドラの三つの口から同時に引力光線が放射!
急速反転で速度低下したギャオスに降り注いだ!
「キングギドラの勝ち……、ですね?」
寅さんのテレビを見ながらメガネが呟いた。
画面には、黒煙を上げながら落ちていくギャオスが遠景に映しだされていた。
メガネばかりでなく、ラジオにも、真央の目にも、戦いの勝敗は明らかと見えた。
だが、寅さんの答えは意外なものだった。
「……いや、まだわからないよ。まだ、まだ、わからない……。」
バイラス星人の円盤内は静まり返っていた。
敗戦に打ちのめされた?
……いや違う。
沈黙は「失望」ではなく、ある種の「決意」に支配されていたのだ。
それまで仲間の声を聞くばかりだった
バイラス星人司令官が、おもむろに口を開いた。
「……残念ながら我々の宇宙ギャオスは敗れた。怪獣の能力を生かしきれなかった私の失敗だ……。だが……。」
ドーーーーン!
雲を抜け、巨大な物体=宇宙ギャオスが炎を上げながら落ちてきた。
「……我々は、このまま負けるわけにはいかない。最後の手段を使う。」
「ノリタケ・モドキ」の隊員たちは無言のまま司令官の周囲に集まった。
「……オマエたちの命をもらう。」
司令官の言葉を聞いても、隊員はいささかも同様しない。
それどころか仮初めの姿を次々脱ぎ捨てると、司令官の前へと進み出た。
「……ワタシもすぐにいく。……では始めるぞ!」
「あ!あれは!?」驚きの声をあげるラジオ。
墜落したギャオスの死骸のすぐ側に円盤が着陸、その中から身長100m近い烏賊のような蛸のような怪物が現れたのだ。
「あれはバイラス星人。たぶん仲間を合成・吸収したんだ。仲間を吸収すれば、ヤツラは倍々のペースで巨大化できるからね。」
静かに答える寅さんに、今度はメガネが尋ねた。
「ギャオスを助けて闘うつもりなんでしょうか?そんなことしても反則にならないんですか?」
「もちろん戦いは一対一のみ。助っ人を出したら反則負けになるよ。」
「でも、バイラス星人は……。」
「ヤツラには奥の手があるのさ。あくまで一対一の枠に留まる、反則にならない奥の手がね。」
合成怪獣バイラスはギャオスの死骸に近付くと、これを触手で抱き上げ……そして……。
……自らの首に、自らの触手を叩き込んだ!
たちまち絶命するバイラス。
ギャオスの死骸とバイラスの死骸が、絡みあったままバイラスの血に染まった……。
……血の海に横たわる二つの死骸……。
……
……
…
突然、ギャオスの目がカッ!と見開かれた!
血にぬめる触手が蛇のようにうごめき、ギャオスに絡み、そして食い入っていく。
同時に、ギャオスの姿が変化しだした。
平たかった頭が、バイラスの頭のような、槍の穂先を思わせる形に変形していく!?
そして、絡んだ触腕は、ギャオス自身の体に融合した。
死んでいたはずのギャオスが、ついに立ち上がった。
その姿は……もうギャオスのものではない。
ギャオスとバイラスの入り混じった姿……。
「奥の手を出したな…。」寅さんは静かに言った。「自らのDNAと自らの思いを糧としてバイラスはギャオスを変異させたんだ。邪神イリスに。」
「統制官殿!ギャオスがバイラスと融合!イリスに変異しました!」
「その手があったか!?…だが我らがキングギドラはヤツの真上をとっている!我々の優位は動かん!ギドラをいまの位置から垂直降下させよ!」
円盤よりの指示を受け、キングギドラは降下を開始した。
最初は自由落下、そしてそこからさらに加速!
あっといまに鉄や石でも大気との摩擦熱で燃え尽きる速度に達するが、ギドラはそこから更に加速!
黄金のウロコが大気との摩擦でときおりギラッと光を放つが、もちろんキングギドラが燃え上がることなどない!
金色の流れ星が、地上のイリスに向かい、逆落としに襲いかかかる!
ハイヒールか高下駄を履いたような足にダンサーのような脚、その周囲に渦巻きのたうつ触手。
立ち上がったイリスはギャオスとは似ても似つかない姿だった。
背筋を伸ばすと、首をもたげ、頭上彼方を見晴かす。
そこには金色の彗星となって襲い来るキングギドラが。
イリスは天女の羽衣のような翼をひろげ、フワリと宙に舞いあがった。
「イリス浮上!キングギドラと正面衝突するコースを辿っています。統制官殿、ご指示を!」
「……このままのコースを維持しろ。ギドラとイリスでは体重差を考えると、衝突の寸前にイリスはコースを外してくるはずだ。」
イリスの薄膜の翼と飛行姿勢に、ギャオスのときのようなスピード感は無い。
だが実際はというと、ギャオスの最大速度がマッハ4なのに対し、イリスのそれは倍以上のマッハに達するのだ。
邪神は地球重力に逆らっているにもかかわらず、またたくまに最大速度のマッハ9に達した。
飛行の軌跡は、ただひたすらの真上。
キングギドラと正面衝突するコースである。
キングギドラが三条の引力光線を吐き出した。
これに対しイリスも、ギャオスだったころは持っていなかった武器、触手先端からのビームで応戦!
5000メートル!4000メートル!2500メートル!!
上下から光線が交錯し、あるいは一瞬衝突し火花を散らしながら、二匹の怪獣の間隔は一気に詰まった!
「統制官殿!イリスは逃げません!このままでは衝突します!?」
「いや、イリスは必ずコースを外す!ギドラとイリスでは体重が違いすぎるのだ!すれ違いザマにコースを外し、キングギドラの上をとる気なのだ!」
「ではギドラはこのまま!?」
「当然だ!衝突を避けコースを外したところを引力光線で狙い撃て!」
2000メートル!1500メートル!1000メートル!500メートル!
「まだイリス逃げません!」
「う、うろたえるな!ヤツはかならず……」
100メートル!
X星人統制官が叫んだ!
「ま、まだ逃げんのか!?」
10メートル!1メートル!!
「しょ、衝突します!」
ヒマラヤ山中にすざまじい爆発音が轟き渡った……。
「勝敗を決したのは……心の力の差だよ。」
二大怪獣激突の結末を呆然と見つめるメガネ、ラジオ、それに真央に向かって、寅さんは口を開いた。
「キングギドラは強い。まともに戦えば、イリスとだって互角以上に闘えるはずだ。だけど、ね、勝敗は怪獣のカタログデータだけで決まるんじゃないんだ。」
「怪獣の能力だけで決まるんじゃ………ないんですか?」メガネが問い返した。
「X星人は外部の円盤からキングギドラに指示を出していた。だが、バイラス星人は、自分の命も捨ててイリスと融合した……。その差なんだよ。」
携帯テレビの画面は、手酷いダメージを被りながらもなお誇らしく宙に留まる邪神イリスの姿を捉えていた。
寅さんは三人の顔を見つめ、静かに言い聞かせた。
「よく覚えておくんだ。闘うのはミニラだけじゃない。キミたちだって闘うんだってことを。」
そのころ沖縄では……。
迷惑千番にも那覇空港側の市街地で、機龍メカゴジラと磁石怪獣ガルバンが早くも激突していた。
磁石怪獣ガルバンさま、お姿…
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/1782/collection_ultra.html バン!バン!バン!
メカゴジラのミサイルが、ガルバンの屑鉄を寄せ集めたような体に次々命中。
命中個所が呆気なく吹き飛んだ。
だが………ガルバンの体が光を放つと、飛び散った鉄くずは再びガルバンに吸い寄せられ、くっついてしまう!
磁石怪獣ガルバン、その外装は見た目どおりの屑鉄なのだ。
破壊されても破壊されても、再度くっつけて元どおり。
磁力を発生させているコアを破壊しない限り、ガルバンは無限に再生するのだ。
最初から持参した屑鉄ばかりでなく、ガルバンは市内に散在する鉄まで吸い寄せ始めた。
「不死身です!まさに不死身!破壊されても破壊されても元どおり……あわわわわわわわっ!??」
実況中継していたアナウンサーのマイクが宙に舞った!
それを慌てて追いかけるアナウンサー。
車も飛ぶ飛ぶ♪家も飛ぶ♪汽車汽車しゅっぽっぽー……ではない!
車はもちろん鉄製だし、家にも釘や鉄筋など鉄部品が使われているのだ。
「おおっ!ワシの下半身が吸い寄せられる!?」
「部長!ベルトのバックルやズボンのチャックが鉄製なんです!早くズボンを脱いでください!」
下半身が浮き上がった状態で電信柱にしがみついている「部長」に「部下」が飛びついた。
「早くズボンを脱がないと!」
「あっ!?こりゃ、ワシが、ワシが自分で……。」
部長の慌て気味の抗議も聞かず、「部下」は手早く「部長」のベルトのバックルを外し、スボンのチャックを下ろした。
たちまち「部長」のズボンとベルトは空に舞った。
だが……。
部下は、己の目にしてしまったものを信じることができなかった。
「……ぶ、部長………なんで女もののパンツなんか履いているんですか?」
「いや、こ、これはね、変な意味じゃなくってぇ……。」
うは、ギドラ負けちゃった。
ちょっとガッカリ。まあ操られてるギドラは弱いしな。
>>349 ご賢察のとおり。
本当に強いキングギドラは初めて出てきたときの「野良ギドラ」なんですな(笑)。
操られてるギドラは二代目ゼットンみたいにたいして強くない。
ただ、あのオチはこの駄文のテーマと蚊ら見のものなんで……語り手による操作もかなり入ってます。
地球側の三人は寅さんの口を通して、このトーナメントに参加してきた宇宙人たちのそれぞれの事情を知ることになります。
太陽が死滅しつつあり早急に移住先を見つけねばならないバンデル星人や、環境汚染によって滅びた先行人類から破壊し尽くされた星を受けついだM宇宙ハンター星人。
彼らの切迫や怒り・悲しみを知りながら、振り返ってみて「自分たち人間はどうなんだ?と自問する三人」というのがテーマ。
第一部から第二部でバカ?が妹の真央に交代したのも、地球側に男だけでなく女の観点を入れたかったから。
そういう目的からするとX星人統制官殿は、キャラ立ちはいいんだけど……テーマから外れてしまう。
あと、ギドラを初戦で外した理由がもうひとつ……。
でもこっちはまだ内緒。
「……おいメガネ……いまなんだか醜いものが画面を横切らなかった?」
「…きっと……気のせいだよラジオ。」
いや確かに横切った。
腹の出た恰幅のいいオッサンが、上半身背広に下半身はちっちゃな花柄パンツで、テレビ画面を横切った。
寅さんの携帯テレビに映る画面は、いまは普通のテレビ局の中継画面になっていた。
那覇市内はガルバンの磁力で大騒ぎである。
小は時計から大はバスにトラックまでが宙に舞い、ガルバンに吸い寄せられる。
だが、ガルバンの吸い寄せようと狙っている本当の標的は……。
「メカゴジラだ。」
「え?」不意の発言に真央が聞き返した。
「ガルバンはメカゴジラを吸い寄せようとしている。」
「ええっ!?メカゴジラをですかぁ!?」こんどはラジオが驚きのあまり大口を開け言った。
「メカゴジラはミサイルやレーザービームを満艦飾に装備したアウトレンジファイターだ。一方のガルバンはメカゴジラを仕留められる強力な飛び道具を持っていない。」
「それで互いの距離を磁力で近づけて接近戦を挑もうっていうんですね?」
「そうだと思う。メカゴジラの唯一の弱点はおそらく接近戦だ。破損知らずの体にものを言わせて、メカゴジラを叩き壊すつもりなんだよ。」
ぐらっとメカゴジラの巨体がよろめいた。
一歩、二歩とよろめくように前進。
このチャンスにガルバンも前進し、メカゴジラとの距離を詰める。
メカゴジラが今度はレザービームを発射!
ガルバンの正面が爆炎に呑まれたが、黒煙の中から現れたガルバンの姿は鉄クズの配置が代わっているたげだ。
レーザーもミサイル攻撃も、ガルバンの接近を遅らせる程度の効果しかない!
爆発で一ニ歩さがるガルバンだが、すぐまた前進を再開。
零距離での殴りあいになれば、まともなロボットであるメカゴジラの方が、ある意味ゾンビのようなガルバンに打ち負ける!
だが、メカゴジラにはミサイルやレーザービーム以外の切り札が搭載されていた。
運命の見えない糸のように、磁力がガルバンとメカゴジラを繋いでいた。
そして二体の距離は次第に小さくなっていく。
引き寄せる磁力に逆らい、最大出力で噴かしていたメカゴジラの各種推進装置の出力が、突然急激に低下した!?
チャンス到来とばかりに、一気に距離を詰めるガルバン!
だが、そのときである。
メカゴジラの胸甲が、突然星型に開いた!
次の瞬間、巨大なフラッシュでもたいたように白い光が噴出しガルバンを飲み込む!
中継を見ていた寅さんが叫んだ。
「絶対零度砲か!」
ガルバンが白く凍りついた。
凍結したガルバンめがけ、メカゴジラから無数のミサイルが発射され、またも標的を大爆発で包み込む!
爆発で飛び散る鉄クズ。
だが、今度は鉄クズがガルバンの体に帰らない!
絶対零度砲の効果はガルバンを凍結させただけではなかったのだ!
絶対零度による超伝導現象の反磁性で、ガルバンを防御していた磁力の盾が無力になったのである!
盾を失ったガルバンめがけ、またもメカゴジラから無数のミサイルが発射。
され鉄クズを吹き飛ばすと、その中から鉄クズとは異なる構造が現れた。
磁力を発生させていたガルバンのコアが露出したのである!
これで「勝負あり」だった。
レーザービームにコアを射抜かれ、ガルバンが撃破された後も、放送時間の関係か、テレビは現場からの中継を暫く続けていた。
那覇市内の破壊は、おそらくこの対決が事前発表されていたためであろうが、派手な立ち回りがあったワリには限定敵範囲に納まっていた。
倒れかかったひっくり返った車や宙を舞ったと思しき様々な鉄製品。
そして撃破されたガルバンの残骸……。
カメラはその残骸の周囲に、不思議な生物の姿を捉えた。
キノコを逆さまにしたような頭に二つの目と一つの口。
鼻や耳は無く、緑や茶色の体色をしているギリギリ人型と言える生き物……。
ラジオは言った「あれは……なに?」
「……ガルバンを持ち込んだバンデル星人だよ。彼らは地球生命に例えると動物よりもキノコみたいな菌類に近い知的生命なんだ。」
ガルバンの残骸のまわりで疲れたようにウロウロするグロテスクな宇宙人たち。
それを見てメガネが冷たく言った。
「……人の星の管理権を奪いにワザワザ来るなんて、ほんっっっとに、御疲れさまってことです。」
……寅さんが悲しそうな顔でメガネを見たが、彼は気がつかなかった。
しかし……。
テレビを見ながら、メガネとは全く異なる感情溢れる口調で真央が言った。
「……なんだか……なんだか、かわいそう。」
「かわいそう??」メガネと寅さんが同時に言った。
メガネの言葉には非難の響きが、寅さんには嬉しそうな調子が感じられる。
「……ボクラの星の管理権を奪いに来たヤツラなのに、なんでかわいそうなんだよ!」
「……でも」突然のメガネの非難に真央は戸惑い気味に答えた。
「……とっても悲しそうで、残念そうで……、なんて言ったらいいか判らないけど……、でも……。」
上手い言葉を見つけられないのは、しょせん女子高生だからだ。
でも、そのもどかしげな様子からでも、寅さんは何かを感じとれたらしかった。
寅さんは真央やメガネ、ラジオに向かって静かに話し始めた。
「バンデル星の太陽は……まもなく滅びる。」
寅さんは語った。
最後を迎えんとする星と民族の物語である。
「計算ではもっとずっと後になるはずだったのだけれど……。太陽が死ねば、バンデル星も死ぬ。そしてバンデル星人も……。」
「他所の星に移住すればいいじゃないですか?」
不思議そうに言うメガネに、寅さんは首を横に振って答えた。
「バンデル星人はキノコに近いと、さっき話したよね?危ないから、ここは住み難いから、他所に移ろうというのは私やキミたちのような動物の考え方なんだ。
植物文化の生命体は必ずしもそうは思わない。
根を降ろした場所をこの世で唯一の場所と思い定めて生きていく、それが植物だ。
バンデル星人も自分の星と運命を共にするつもりなんだよ。」
「じゃあ……アイツラは……」納得できないというふうにメガネは重ねて尋ねた。「……あそこにいるアイツらはなんのためにこのトーナメントに参加したんですか?」
動物と植物。人間とバンデル星人の間には相互理解を阻む超えられない壁があると、メガネたちには思われた。
だが……、寅さんの答えは、人間にも容易に理解し得るものだった。
「あそこにいるバンデル星人たちは、人間でいうと幼い子どもを抱えた親たちなんだ。」
小さな声でメガネが「あっ!」と言ったが、寅さんは構わず話を続けた……。
「自分たちが星と共に滅びるのは構わない。だが、子供たちだけは、新たな世界に旅立たせてやりたい。
そう思っていたところに、飛び込んで来たのが「地球管理権争奪トーナメント」の話だった。」
「そ、それで、子供たちのために『彼ら』は地球に殖民しようと……。」
だが、メガネの最後の疑念を、寅さんは打ち砕いた。
「殖民なんて考えていないと思うよ。それは植物の考え方じゃないから。
管理の名目でこの地球に仮住まいし、その間に月か火星でもいい、彼らの子供たちの住める星を捜す。
そのための時間稼ぎで地球に間借りしたいだけなんだ。」
叶えられなかった我が子への思い。
その悲しみこそ、三人が生まれて初めて理解できた、他の天体に住む知的生命体の心だった。
細かいところばかり気になってしまってすまんが、
菌類が植物ってのは生活の仕方なんとなく判るけど違和感が・・・
あと、機龍は接近戦弱くないはずだからアブソリュート0無くても勝ってたのかな
まあ、ブラックホール第三惑星人のメカゴジラであって機龍とは別物・・
と言う具合に脳内補完。
>>358 たしかに仰せのとおり(笑)。
菌類は植物とも言い切れず、かといって動物とするのも抵抗のある、中間的な存在ですな。
ただあそこで言っているのは「生れ落ちたところで生きて死ぬのが定め」という掟を導くため。
それからキングギドラ戦でもそうだったが、勝敗は語り手の操作が入っている。
この場合は、「メカゴジラの逆転勝利」と「バンデル星人の敗戦に同情する真央」「『宇宙人=憎むべき侵略者』ではないことに驚くメガネ」を導くためのもの。
「特撮板」なら怪獣対決だけに絞ってもいいんだが、ここは文学系の「SF・ホラー・ファンタジーテイル」板なんで、物語性重視でやっとります。
目指すは「銀河鉄道999」とか「宇宙線ビーグル号」!!(←高望みし過ぎ)。
追記
つまらなかったら言ってくれ。
少年ジャンプの不人気打ち切りのマンガみたいにひゅっ!と止めるから。
ネタがつまらんのは読み手のせいでなく、語り手のせいだしなぁ。
いやもっと読みたい。続けて欲しい…
ニューヨークのグランド・ゼロを見おろす高層ビルの頂きに、一人の若い男が座っていた。
漠然と「若い男」というより、正確には少年と言うべきだろう。
メガネやラジオどころか、真央より若いかもしれない。
しかしグランド・ゼロを見おろす瞳は、加齢によってのみ得られる老人のような深さを湛えていた。
「……これが人間の所業だ……。」老人の瞳を持つ少年は呟いた。
「……共に生きる同胞のことなどカケラも考えず、自分の欲望だけにしたがって行動し……。星の仲間を滅ぼし、星を滅ぼし、そして己自身も滅ぼす。だが……」静かに少年は立ちあがった。
「………間に合った。ボクの星は死んでしまったが……、この星は死なせはしない。この星に暮らす人間以外の命は、このボクが守ってみせる!」
そして少年は右手を振りかざして叫んだ!
「ガイガン!起動うぅぅぅぅぅっ!!」
「こりゃなんとも滑稽な光景だな。」
寅さんが例の携帯テレビを見ながら手を叩いて言った。
画面にはニューヨーク五番街で人間に囲まれた第10惑星のバーバラとフローベラを写していた。
二人とも人間タイプの宇宙人でオマケに美女だったので、周囲の白人たちはみんな鼻の下を伸ばし気味である。
「ほんと(ぷんぷん!)、みっともないですね!美人と見たらすぐアレなんだから。」真央もホッペタを膨らまし憤慨している。
しかし……、寅さんは真央に笑って言った。
「私が言ってるのはそんなことじゃあないよ。」
「??じゃあ……なにが滑稽なんですか?」真央に代わってラジオが尋ねた。
「……羊がオオカミを囲んでいるからさ……。」
「えっ!」真央とラジオが揃って叫んだ。
「第10惑星人が知的生命体連合に提出した管理計画書を読んだよ。彼女たちは人類の頭数制限を計画している。」
「人工制限ですか……というと出産制限とか……」しかし、ラジオがそこまで言ったところで、寅さんは笑いだした。
「はははは……彼女らはそんな悠長な計画は立ててないよ。もっと簡単で、短期的に効果のでる方法を考えてるんだ。」
「もっと簡単で短期的に効果のでる方法」、「頭数制限」、そして「羊がオオカミを囲んでいる」ラジオと真央の頭を悪夢のような連想が駆け巡った。
「……私の言うことが判ったみたいだね。」青い顔の二人を見て、寅さんは言った。「……そうだよ。そのとおりさ。」
携帯テレビの画面では、相変わらずアメリカ人がバーバラとフローベラに嬉しそうに群がっている。
それを冷たく眺める寅さん。
「……『頭数制限』という名目で、第10惑星人は地球人を食用にするつもりなんだ。」
ガイガン対ギロンのパートは……。
「姿形に騙され易い人間」を書くということ。
「ゴジラ対ガイガン」を見た方ならご存知だろうが、ガイガンを操るM宇宙ハンター星雲人の正体はゴキブリ。
一方のギロンを操る二人の美女は、変身なんかしてるわけではなくホントに美女なんだが、映画でも人食い。
ハンター星雲人はゴキブリだが、その理念は高尚で「種族を超えた愛」に基づいている……。
彼らとの関わりを描くために、実は第一部で「昆虫板のミリオン」を導入した。
ミリオンは、ネガネたちが人間の固定観念を乗り越えるための「橋」となるべき人物。
さて、上手く動いてくれるかな?
寅さんの明かした第10惑星人の「人間頭数制限計画」にラジオと真央が慄然としていたころ……。
リーダーであるメガネは何処にいたのであろうか?
彼は沖縄にいた。
寅さんに、瞬間移動で跳ばしてもらったのだ。
(たしか……たしかテレビに映ってたのは……そうだ、こっちの方角だ。)
メガネはバンデル星人を捜していたのだ。
一時とはいえ、相手の事情も知らず、バンデル星人を「悪魔のような侵略者」と決め付けてしまった。
でもそれは……。
「共産主義は敵だ!」「くろんぼはこの国からたたき出せ!」「イラン、イラク、北朝鮮は悪の枢軸」……。
(……あれとおんなじだ。オレは戦争を始めたヤツや、戦争に反対しなかったヤツを批判してたはずなのに…。それなのに結局オレも……)
そう考えたら、メガネは自分が許せなかった。
そこで彼は何をするというアテも無いままに、寅さんに頼んで沖縄まで跳ばしてもらったのである。
(あ……、あれだ。)
メガネの行く手に、鉄クズの塊、少し前まで磁力怪獣ガルバンの装甲だった物体の山が見えてきた。
足を速めるメガネ。
……鉄クズの山のところに、人だかりができている。
服装からするとみんな観光客らしい。
手に手に何かをもって振り回している。
メガネの顔色が変わった!
観光客が手にしているのは、棒キレや石ころだ!
「止めろぉぉぉっ!!!」
叫び声を上げて、メガネは観光客の群れに飛び込んでいった。
367 :
がんばれミニラ!トリノへの道/本戦トーナメント編:2006/02/24(金) 17:27:57
観光客の手にした棒キレや石ころは、バンデル星人だけでなく止めに入ったメガネの上にもしばしのあいだ容赦無く振り下ろされた。
だが観光客たちも、自分たちの前に他立ち塞がったのは誰であるか、遅まきながら気がついた。
「おい!アイツはたしか………。」「……そうだよおい!」「ミニラの………ほら……」
これから地球を代表して宇宙人と闘おうとういチームのリーダーに石をぶつけるわけにもいかない。
「……せっかくオレたちも宇宙人退治に協力してやろうと思ってたのによ。」「つまんないわ。」「……帰ろうか?」
観光客たちは握っていた棒キレや石ころを落すと、しらけた様子で立ち去っていった。
「…………宇宙人退治に協力だって…………そんなこと…………ウソだ。」
メガネは見てしまった。
観光客たちの眼のなかにあるもの。
野蛮さ、弱いものいじめ、サディズム、復讐………人間の心の中にある様々な醜いもの。
地球を代表して戦う身でありながら、メガネはそういう人間が心の中に抱える「闇」を目の当たりにしてしまったのだ。
368 :
がんばれミニラ!トリノへの道/本戦トーナメント編:2006/02/24(金) 17:29:52
「……すみません。」
メガネはバンデル星人に向かい、がっくり両膝をついて言った。
寅さんが貸してくれた翻訳機が、メガネの言葉をバンデル星人の言葉に素早く変換していく。
「あなたたちの事情も知らないで……一方的に侵略者として決め付けて………地球の管理権を失ったのだって、僕たちが悪いからなのに………。ほんとうにすみません。」
言葉を尽くし、身振り手振りも交えながら、メガネは必死に自分の謝罪の心をバンデル星人に伝えようとした。
しかし、ついさっきその目で見た「人間の醜さ」を思うと、胸が潰れ言葉は喉の奥に引っ掛かってしまう……。
「………人間は……なんて……なんて醜い………なんて醜い……。」
ついにメガネは言葉を見失ってしまった。
無言のまま、宇宙人に頭を垂れるばかりのメガネ。
だが、そのメガネの翻訳機に、これまで聞いたこともない不思議な調子の声が滑り込んで来た。
「……そうかもしれません。でも……」
メガネは思わず顔をあげた。
目の前にバンデル星人の顔があった。
……不思議と今は優しげに見える……。
「醜いだけではありません。美しい面も地球人はもっています。」
「でも……でも……。」口篭もるメガネ。
キノコの傘を裏返したような手で、バンデル星人はメガネの手をとった。
「いいえ。間違いありません。だってたった今、キミ自身が証明してくれたじゃないですか?」
369 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/24(金) 19:14:39
難しすぎて、、、、、
どの辺が難しいんだよ
なんか作品の趣旨を語られるとそっちの方向で見るのが強くなってしまう・・・
趣旨のネタばらしは後の方が良いと思うなぁ
372 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/27(月) 08:13:24
この駄文はSF板を意識せず、特撮板のノリで書いてます。
だからかなり簡単にしてるつもりで……。
推理小説的な意味でのネタバラシはやってません。
つまり「ダース・ジョンイルを操り、バカ?を狙撃した犯人」はだれか?ということ。
でも特撮板系の人間だとトーナメント参加メンバーを見れば、たぶん簡単に判ると思う…。
だから途中でフェイントをかまそうと……。
上手くいくかな?
373 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/27(月) 08:27:41
つづき……(趣旨が違うので別に)
ネタバラシをやってるのは「シャドウズ」でネタを最後まで明らかにしなかったら、伝わらなかったみたいなため。
あの駄文では「変異発現のキー」が隠しネタだった。
「変異発現」のキーは「感情」という設定でした。
憎悪や狂気、殺意、怒りといった感情で変異発現すると黒鬼「ゴジラ」になる。
では……愛や友情、自己犠牲といった感情で変異発現するとどうなるか?
……この場合、変異が発現するとガメラになる。
また既にゴジラへと変異が発現しても、強い愛の感情があれば変異を止めたり、遅くしたりもできる。
もっとネタをバラスと、あの駄文の「オレ」とオードリーが変異したのがアマギ氏の作に登場した大小二匹のガメラという設定だった。
ただ、ほかの人にアマギ氏→A級戦犯と書き継いだ話だったので、別の人に書き継いでもらうためには解釈の幅を狭くしないほうが良いと考え、全ては明らかにしませんでした。
だが、あとで考えてみると……バラしたほうがよかったかな?……と。
それで今回はチョロチョロとネタバラシをやっとるわけです。
どーーーーーーーーーん!
衝撃音とともにマンハッタン島の高層ビルのひとつが根元から折れて崩れ落ちた!?
そしてそのガレキの渦と土埃の中から、赤いコウモリの翼状の物体が飛び出してきた!
未来怪獣ガイガンの背中だ!
両腕のカギヅメをX字に構え、巨大な出刃包丁=ギロンの頭を受け止めている!
「行け!ギロン!!ハリボテ怪獣をそのまま押し込んで、真っ二つにしてしまえ!」
「おまえの刃は一撃必殺だ!」
バーバラとフローベラが叫ぶと、ギャラリーのアメリカ人がどっと沸く。
彼らはいつでも美人の見方だ。
そして、それを見るたび寅さんは腹を抱えて笑う。
事情が判っているラジオと真央にとって、アメリカ人たちのリアクションは性質の悪いブラックジョーク以外のなにものでもなかった。
怪獣同士の対決は、相変わらず、一発の破壊力の差でギロンがガイガンを押し込んでいた。
ガレキに足をとられ、ガイガンの下半身の備えが崩れた。
上から圧し掛かるように迫るギロンの刃!
ビルの上からあの「老人の目をもつ少年」が叫んだ。
「ガイガン!ボディ・チェーンソウだ!」
体重を浴びせ圧し掛かるギロンの胴の下で、ガイガンの体の中心線に沿って配された一種のチェーンソウが唸りを上げた!
たちまち褪せたような青緑の血が飛び散る!
ギロンはたまらず後退した。
「ガイガン!ギガリューム・クラスター発射!」
「ブレード・ディフェンスよ!ギロン!!」
未来怪獣の赤い一つ目から赤い怪光が放たれた!
だが、ギロンが頭の刃を低く構えると、体の大半は刃の陰に隠れてしまった!
更に刃に命中したギガリューム・クラスターは、なんとガイガンに跳ね返る!
予期せぬ反射攻撃に仰け反るガイガン!
「いまよギロン!手裏剣発射!!」
ギロンの刃の左右から十文字手裏剣が射出され、ガイガンのボディ・チェーンソウに命中!
チェーンソウの回転が止った!?
刃の部分にギロンの手裏剣が食込んだのだ!
「ギロン!!今度こそ叩っ斬ってやりなっ!」
ギロンが巨大なジャックナイフのように前に跳んだ!
「ガイガン!ブラッデッド・カッター!」
バランスを崩しながらもガイガンは左右の胸から空飛ぶ丸ノコギリ=「ブラッデット・カッター」を射出!
しかし、起死回生を賭けて飛ばしたカッターはギロンの後頭部を掠めて交差し、彼方へと飛び去った!?
「残念!大ハズレだわ!」フローベラが嘲笑い、ギャラリーの白人が唱和して笑う。
「いや大当たりさ!」高層ビルの頂きで少年が叫ぶ!
なんと!?彼方へ飛び去ったと見えたブラッデット・カッターがギロンの遥か後方で大きく弧を描き戻って来た!
「狙いは……!」
二つの丸ノコは、ギロンの頭部に開いた手裏剣射出孔に、左右の斜め後ろから相次いで飛び込んだ!
手裏剣射出孔からミドリの血を噴いてギロンはたちまち失速!
ガイガンの手前に墜落したまま動かない!
「いまだガイガン!止めを刺せ!ギガリューム・クラスター発射!!」
ガイガンが再び赤い怪光線を放つと、もう跳ね返す力も無く、ギロンはそのまま爆発炎上してしまった。
「くぅぅぅぅぅぅっ、やったわねぇぇぇぇぇぇ!」
弾かれたようにアメリカ人のギャラリーが退いた。
バーバラとフローベラが悪鬼の形相で、「少年」の立っていた高層ビルの頂きを睨みつけたのだ。
だが、そこにはもう「少年」の姿は消えていた。
ここはいつもの公園。
ただし時刻は深夜だ。
少し離れた芝生にはラジオがテントを張って、ミニラは腰を降ろし座った姿勢のままで、どちらも眠っている。
寅さんはどこかに姿を消した。
いま起きているのはバカ?の妹・真央だけである。
彼女は待っていたのだ。
……。
……。
コーン……コーン……、公園近くの学校の時計が二度だけ鳴った。
(もう午前二時か……、いったいどうしちゃったんだろ……連絡もよこさないで……)
そのとき公園の片隅に小さな光が生じた。
最初ホタルほどだった光はたちまち大きくなり、そして光の中から……。
「………ただいま。」
メガネが帰ってきた。
梨のつぶてに文句のひとつも言ってやろうと思っていた真央だったが、メガネの顔を見たとたん文句の言葉は引っ込んでしまった。
大きなアザに擦り傷、ケンカにでも巻き込まれたようなありさまだ。
「ひどいケガ!!……いったいどうしたんですか!?」
「そんなことが……。」
真央にケガの手当てを受けながら、メガネは沖縄でのバンデル星人との一部始終を話して聞かせた。
「バカです!そんなところに飛び込むなんて……。」
「ほんとにオレ、バカだよな。」メガネは、真央の非難に笑って答えた。「……その気になりさえすれば、バンデル星人は地球人の暴漢なんてチョチョイのチョイって感じでやっつけられるのに……。そこにコノコノ割って入って、勝手に殴られてるんだから。」
「私が『バカ』って言ってるのはそんなことじゃありません!」
こんどは真央も笑っている。
「わかってるって。……ねえ真央ちゃん、見てごらんよ。」そう言って、メガネは公園の芝生の上にあお向けに寝転がると夜空を指差した。
「ここから見える星だけでもこんなにあって、この他にもここから見えない星もあって……そんな星のいくつかにはボクラやバンデル星人、寅さんみたいな宇宙人が暮らしていて……。」
「……素敵ですね。」メガネの横に腰をおろし真央も答えた。「……そんな宇宙の人たちと友達になれたら素敵よ……ね。」
「なれるさ。」自身タップリにメガネが断言した。
(不思議な顔……)と真央は思った。
宇宙の中での人類を語る人類の若き指導者、そして同時に夢見る少年。
その二つが矛盾することなく、メガネの中に同居している……。
「オレ、バンデル星人と友達になれたんだぜ。……最初はグロテスクな侵略者だって決め付けてたのに……。不思議に優しい声でさ……。びっくりして顔上げたらさ……。」
メガネの顔がふいに起き上がると真央の顔から二三センチのところに近寄ってきた。
「……こんなくらいの近くにバンデル星人の顔があって……。」
言葉を口にすると、メガネの息がはっきり真央の脣に感じられる。
真央は心臓がドキドキしてきた。
……思わずそのまま……目を閉じる。
「…………絶対バンデル星に行ってみるんだ!オレ!!」
メガネは全然気がついていなかった。
そしてその翌日……。
「ここが今日の戦場か……。」
メガネと真央にミニラの世話を任せ、ラジオは一人で偵察にやって来ていた。
ところは科特隊日本支部前。
逆台形の建物が印象的だ。
ここで宇宙恐竜ゼットンと宇宙の帝王ゴアゴンゴンが激突するのだ。
ギャラリーが遠巻きに建物を囲み、テレビカメラの砲列も敷かれている。
局によっては解説のタレントまで呼んで来ている。
某6チャンネルが呼んだタレントは……。
「…東宝映画でおなじみの、俳優・平田昭彦さんにおいでいただきました。」
ぱちぱちぱちぱち!
ギャラリーから拍手が上がる。
中には「岩本博士!」とか「芹沢博士!!」と叫ぶ者も。
……だが、平田昭彦は無言のままだ……。
「どうかしましたか?平田さん?……なんで黙っているんですか?」
やはり喋らない平田昭彦。
そのときギャラリーの中でだれかが呟いた。
「……平田昭彦さんって………何年か前に亡くなってなかったっけ?」
不穏なざわめきがギャラリーの中を走った。
「ニセモノだ!」「ニセだニセ!」「……ひどいなあ。大好きな役者さんだったのに……。」
しかし平田昭彦?は平然としたまま、顔色ひとつ変えない。
その態度がギャラリーの怒りの炎に油を注いだ。
「落ち着きはらってやがるぜ!」「インチキ野郎!」「正体をみせろ!!」
「ちょ、ちょっとみなさん落ち着いて!」局ナアはなんとかギャラリーをなだめようとするが、焼け石に水だ。
そして、ついにギャラリーの中から、気短そうな男が飛び出した。
「このインチキ野郎!!」
そして平田昭彦?の横っ面にパンチを一発!
その一撃で、なにかがラジオの足元まで吹っ飛んで来た。
「なんだ?なんだ?なにが飛んで来たんだ??」
拾い上げてみるとそれは……おぞましいほどに精巧な蝋の仮面だ!?
うつ伏せに倒れたままの平田昭彦?……
「だ、大丈夫ですか?平田さん??」
その手をとり、局アナは助け起そうとした……が?!
その手は…人間のものではない!
平田昭彦?=ゼットン星人がゆっくりと立ち上がった。
「ゼットン……ゼットン……。」
低く太く、吠えるように咳き込むように叫ぶゼットン星人。
すると科特隊基地の正面から500メートルほどの地面が突然盛り上がって中から円盤が出現!
さらにその円盤から赤い風船?が脹らんだかと思うと、大爆発とともに白と黒を基調としたシックなデザインの怪物が姿を現した。
宇宙恐竜ゼットン出現である!
まだ対戦相手のゴアゴンゴンは姿を見せない。
ゼットンは科特隊基地へと前進を開始した!
そのとき!最強の宇宙怪獣の前に一人の男が立ち塞がった!
科特隊のハヤタ隊員??
いやちがう!某8チャンネルが呼んだ俳優の大平透である。
「公害Gメン!」「がんばれ怪獣Gメン!」と叫んだヤツがいるが、そいつは絶対特オタだ。
「ゆくぞ!ゼットン!!」振り回すように背広を脱ぎ捨ると、そこに立つのは大平透ではなかった。
アフロの髪の短いマント、そして両肩に大きなトゲ、宇宙の帝王ゴアである。
さらにゴアは、羽織ったマントを大きく翻らせた。
一瞬で消えるゴアの姿。
そして入れ代わりに現れるドラゴンのような巨大怪物!
ゴアゴンゴン出現だ!
『さあ来いゼットン!』
ゴアゴンゴンから割れ鐘のようにテレパシーが飛ぶと、その出力の激しさに、テレパシー受信能力の無い一般人すら頭を抱えうずくまった。
しかし、ゼットンは無表情なまま微動だにしない。
じっと睨みあう二大怪獣。
ゴアゴンゴン様ご真影
http://www.retoro-card.com/retorocard/maguma_py.html ゼットンの姿がかき消えたかと思うと、突然ゴアゴンゴンの背後に現れた。
そして出現と同時に火球を発射!
だが、今度はゴアゴンゴンの姿がかき消えた!?
火球は弾丸のように科特隊の建物を弾丸のように貫通!
たちまち炎上する本部ビル!
……ゼットンの真正面に、ゴアゴンゴンは再び出現した。
『瞬間移動はオマエだけのワザではないぞ。』
またも睨みあいか……と思われた次の瞬間、こんどはゼットンとゴアゴンゴンが同時に消えた!?
両雄の消えた空間……。
だがその何も無いはずの空間で激しい衝撃音が1発、2発と轟いた!
瞬間移動しながら、ゼットンとゴアゴンゴンが戦っているのだ!
人間のギャラリーには垣間見ることすら許されない、神々の領域の戦いが繰り広げられている!
科特隊基地前でゼットンとゴアゴンゴンが対峙しているころ。
……ここは……光ゆらめくこの世のものとも思われぬ世界。
二つの声が言葉を交していた。
「ゴア対ゼットンか……なんともムチャクチャな顔あわせだ。」
いまの声は?……そうだ、寅さんだ!?
もう一方は………判らない。
聞いたことのない声だ。
未知の声はただ静かに笑っている。
「われわれの計画は………順調に進んでいる。人間たちはワタシの正体に気づいていない。」
そしてそれに応えるのは、またも笑い声……。
地球ではゼットンの放った火球とゴアゴンゴンの冷凍破壊光線が正面衝突した。
超破壊兵器の激突で大爆発か?……と思われたが、空中に小さく火花が散っただけである。
「……ゼットンの火球とゴアの冷凍破壊光線の威力は殆ど互角。互いの必殺技をまともに受けたらアウトであることもまた同じ…。」
寅さんがそう言うと、初めて未知の声が笑い声でなく言葉を成した。
「ふっふっふっふっ……そして機動力は……双方とも瞬間移動能力を有し、やはり互角。」
寅さんが未知の声に応じた。「ただし、防御力はゼットンが上。あいつはシャッターとも評される強力なバリヤーを持っている。……つまり、カタログ・データ上だと、ゼットン有利。」
しかし、未知の声は言った。
「ふっふっふ、だが……それでも勝つのはゴアだ。」
絶対零度の破壊光線と一兆度の火球が激突!
空中に火花が散ると、ラジオら人間のギャラリーは衝撃で一瞬のうちになぎ倒されてしまった。
「い、いてててて、何なんだ?!いまのは?!」
そして……その後の顛末は、お尻をさすりながら立ち上がりかけたラジオたちギャラリー全員の注視の下で進行した。
ゴアゴンゴンが冷凍破壊光線発射!
ゼットンの周囲に半透明の輝く壁=「ゼットン・シャッター」発生。
冷凍破壊光線をもシャットアウト。
次の瞬間バリヤーを解除し、こんどはゼットンは火球を発射!
ぱっ!とゴアゴンゴンの姿が消えた。
どこに出てくるか!?……と油断無く身構えるゼットン……。
ゴアゴンゴンが次に姿を現すのは何処なのか!?
ギャラリーも固唾を飲んで対決の行く末を注視するなか、一秒、二秒…と時間だけが過ぎてゆく……。
「ひょっとして逃げたとか?」
誰ががそう言ったときだ。
ラジオはゼットンの足元に立つ小さな人影に気がついた!
双眼鏡で覗いてみて、ラジオは叫んだ。
「あれはっ!?大平透さん!?」
大平がラジオたちの方を振り返り、Vサインを送った。
「瞬間移動したんじゃない!小さな人間の姿になっただけだ!」
そしてゼットンは、大平透が自分の足元まで歩いて来たことにまだ気がついていない!
くるりとゼットンの方に向き直ると、大平透は、人間形態のまま真上に立つゼットンに冷凍破壊光線を吐き出した!
前半展開した「神々の対決」からすると、実にあっけない幕切れだった。
「やれやれ……ゼットンが負けたか。ま、ある意味予想できた結末だが……。」
「…連戦不敗のチャンピオン相手に完全勝利を収めた直後に、幕下つけだしの相撲取りが仕掛けた下手な蹴たぐり食ってひっくり返るようなヤツだからな。あのゼットンというのは。」
つい先ほど終ったばかりのゼットン対ゴアゴンゴン戦を早速サカナにして銀座のアングラバーで酒盛りしているのは、チンパンジーやゴリラのマスクを被った男たち………と、いうのは表向きだ。
本当はみんな素顔である。
惑星Eから来た天才科学者ゴリ博士に忠実な僕のラー、そしてブラックホール第三惑星の方々という、猿顔ばかりの集会だった。
特別ゲストでゴーロン星人(ウルトラセブン)やゴビー長官(猿の軍団)、コーネリアスとジーラ夫妻(猿の惑星)、カウンターではチータ(類猿人ターザン)とチンパン探偵ムッシュバラバラとおサルのジョージがバナナを奪い合っていた。
なんというか……モンキースター勢ぞろいである。
ゴリ博士「……もし我々が地球の管理権を取得できたなら……。」
ゴーロン星人「……人間の脳波を猿の脳はと入れ替えて、猿人間にしてやるのだー!!」
ゴリ博士「……そんなことして、何か愉しいのか??」
BH第三惑星人「我々は人類を地上から一掃し、近縁種である猿たちから新たな支配種族を作り出そうと考えている。ゴリ博士はいかがお考えか?」
ゴリ博士「どうも猿人間を作るのに、『人間から作る』か『猿から作る』かというだけの違いのような気がするが……。」
ラー「カレーライスとライスカレーの違いみたいですな、博士。」
ゴーロン星人「どっちにしろ、猿人間が地球を支配するのだー!!」
BH第三惑星人「いや、我々の考えだとあくまでベースは猿ですから、猿人間ではなく人間猿と呼ぶべきで……。」
知的生命体たちの、あまり実りのあるとは思えない議論を耳にしながら、チータとムッシュバラバラとジョージがそっと呟いた。
チータ「ぼくたち、今のままがいいよな。」
ムッシュバラバラ「人間になんかなりたくないよ。」
ジョージ「ぼくバナナ大好き!」
ゼットン対ゴアゴンゴン戦の決着がついたのとほぼ同時刻……。
ここは北アフリカの砂漠、エル・アラメイン。
第二次大戦中、「砂漠のキツネ」と謳われたドイツの名将ロンメルと、「戦術より算術」と評されることもあるがやはり名将であるイギリスのモントゴメリーの軍が激突した激戦地である。
眠りつづけていたかつての戦場が、いまふたたび戦場の息吹を取り戻していた。
英独両軍の戦車が屍を晒した地に、巨大な「カメノテ」か「ふきのとう」のような物体が屹立している。
……草体だ。
そして既に草体がここまで巨大に育っているということは、戦場を支配しているのはレギオンであるという証でもある。
広大なこの北アフリカ砂漠のどこかに、軍団=レギオンがじっと身を潜めているのだ。
英独どちらのものだったのか判らないほどに破壊された戦車の残骸の上に、ホタルのような小さな光が現れた。
光は一瞬、砂漠の太陽を圧するほどに輝いたかと思うと、そこに一人の男=寅さんを置いて消え去った。
「さて…と…」寅さんはあたりを見回した。「とりあえず闘うとするかな。」
そして彼は胸のポケットから色ガラス製の小さな香水ビンのようなものを取り出した。
中には小さな、タンポポの綿毛のようなものが漂っている。
「……寝かせておいてやれなくて、悪いなぁ。」そして寅さんはビンのキャップを捻ると、中から白い綿毛?が空中に漂い出た。
綿毛は脈打つように点滅しながら、宙を漂っている。
「そんじゃあ、39年ぶりのご奉公だ!…行けぇ!宇宙大怪獣ギララぁっ!!」
寅さんの指先から雷撃が飛び、宙を舞う綿毛に命中!
……綿毛の点滅が、急に早くなったかと思うと、見る間にムクムク大きくなり始めた!
砂漠の空に、しかも真昼の空に、オーロラが現れた!?
あるいは大地から湧き出す虹か!?
そしてその中央から、異形の生物が立ち現れた。
ヒラメのように平たい頭に赤い複眼、額には長い触角が二本と短いのが一本、ダークグリーンの体はコブ状のデコボコに覆われ、目立つヒレ?が背中のみならず手足にも走っている……。
怪獣が奇声を発した。
宇宙大怪獣の、ほとんど四十年ぶりの覚醒である!
「ギララだ!」「これが……寅さんの怪獣ギララ?」
メガネと真央はミニラと一緒に寅さんの形態テレビで北アフリカの砂漠の様子を観戦していた。
宇宙大怪獣ギララは……身長50メートルと「大怪獣」などというわりには並みの大きさで、二人はちょっと拍子抜けしていた。
ついさっきまで画面に映っていたゴアゴンゴンが80メートル近い長身だったし、砂漠には比較対照できる物がなにも無いので余計に小さく見える。
姿形も……グロテスクとか、おぞましいとかいうよりも、ユニークと評した方が適切のような気が……。
そんな怪獣がギララであった。
ギャーギャーと吠えながら、ギララは草体に向けとりあえず前進を開始した。
「ねえメガネさん。ギララってどんな能力持ってるの?」
「さあ……。口から火を吐くとか……」
メガネもギララの能力に関する情報は何ひとつ掴んでいなかった。
そんなことを言ってるうちに、ギララは草体からあと100メートルほどのところまで接近していた。
もし飛び道具を持っているなら、草体はとっくに有効射程に入っているはずだがギララは相変わらず足を止めず、草体へとヨタヨタ前進を続けている。
「ひょっとして、遠距離攻撃ワザはもってないとか?」「ちょっとだけ情けないかも?」
メガネと真央が顔を見合わせたそのとき!ギララの足元の砂の中から、ギララの背丈ほどもあるブレード状の物体が突き出した!
身長50メートルのギララが簡単にひっくり返される!?
砂の中からブレードがさらにもう一本!
……砂漠が広範囲にわたって盛り上がり、そして見るまに砂の滝へと姿を変えた。
そして砂の滝を潜るように、カブト虫とバッタとオケラを掛け合わせたような怪物昆虫が姿を現した。
「お………おっきい!」
ギララのときと違い、今度は真央も驚愕の声を上げた。
船のマストのような巨大なツノを差し引いても、それでもなおレギオンは巨大だった。
ツノの頂きまで入れれば、レギオンの体高は140メートルに達する。
なんとギララの約3倍弱!
巨大昆虫の前では、宇宙大怪獣はとてもちっぽけに見える。
ブレード状の物体とは、レギオンのバッタのような後脚だが、もしあの後脚で立ち上がれば、レギオンの体高は200メートルをゆうに越えるであろう。
あまりに不釣合いな二匹の怪獣は、草体から100メートルほどの場所でガッキとばかりに組み合った!
高さの利を生かし、体の前面のサーベルのような足をギララに向け続けざまに叩きつけるレギオン。
体への打撃はいっこうに堪えぬ様子のギララだったが、レギオンの足が触覚を掠ると明らかに嫌がる様子を見せた。
チャンスとみてとり、更に打撃を振り下ろすレギオン。
ギララはこれを前足で払いのけようとするが、身長差があり過ぎる上に数も多くて裁ききれない。
「あ!?」真央が短く叫んだ!
傘にかかったレギオンは、長大な後脚でいきなり立ち上がると、ギララの真上から体重を浴びせて圧し掛かったのだ。
三倍近い身長差のレギオンに真上から圧し掛かられたギララ。
だが、数の多い相手の脚をさばくのには困っているようだが、重さの方はまるで気にしていないように見える……。
しばらくゴチャゴチャしたレギオンの脚をいろいろ選んでいるようだったが…、やっと心が決まったのかそのうちの二本をムンズとつかむと、そのままレギオンを力任せに放り投げた!
「ひょっとして、ギララちゃんってスゴイ怪力なの?」驚く真央。
だが、それはちょっと違う。
ギララが怪力なのではない。
レギオンは外骨格構造であり体表が硬い殻に覆われているためそうは見えないが……、実は見かけよりも軽いのだ。
ザンッッッ!
砂を激しく巻き上げ、砂丘にレギオンが叩きつけられた!
脚をザワつかせて立ち直るレギオン。
ここでギララがはじめて飛び道具=口から炎を吐き出した!
だがレギオンは素早く干渉波アームを展開!ギララの炎の軌道を逸らしてしまう!
そしてこんどは逆に、レギオンがギララに対し90式戦車も一瞬で蒸発させるというマイクロ波を照射した!
ギララの動きが止り、マイクロ波の照射を受けた胸の部分の色が一瞬ぱあっと明るくなった。
…だが、それだけだ。
照射が終るとギララは何事も無かったかのようにレギオンに背を向けると草体に向かって前進を再開した!
「……なんで対戦相手を無視して草体に向かってるんだ?それに、火を吐けるンナラ、ワザワザ草体のところまで歩かなくたっていいのに……??」
「…ギララちゃん、ほんとはレギオンが恐いんだったりして??」
理解不能の行動をとるギララに、メガネと真央の頭の上には「?」マークが幾つも浮かぶ。
ギギギギギィッ!
金属が擦れあうような声で吠えると、レギオンの胸から無数の飛翔体が飛び出した!
「小型レギオンだわ!これって反則なんじゃないの?」
「大型と小型のレギオンはどっちもレギオンだから『一体扱い』なんじゃないかな?」
それが反則がどうかは別問題として、ソルジャー・レギオンの群れはギララの背後から一斉に取り付いた!
体表がまるで見えなくなるほどソルジャー・レギオンで覆い尽くされるギララ!
さらに、ガサガサ動き回るソルジャー・レギオンの群れから所々で光を放ち始めた!
マイクロ波攻撃で、ギララを焼き殺そうというのだ!
ギララの動きが止った……だが………。
ギララの体を覆い尽くすソルジャー・レギオンの下から、朧な光が漏れ始めた。
マイクロ波攻撃による光とは異なる、朧ではあるが脈動しない、安定した光だ。
……光は次第に強まって……と、いきなりソルジャー・レギオンの一匹がバン!と破裂した!
そしてそれを皮切りに、バン!バン!バン!ババン!!
ソルジャー・レギオンが次破裂していく!
「メガネさん!いったい何が起こってるの!?なんで小型レギオンが風船みたいに破裂してるの!?」
「風船??……そうか!」風船という真央の言葉でメガネは今おこっていることの真相を閃いた!
「……風船だよ!レギオンは空気シリンダーみたいな構造で体を動かしてる!つまりレギオンの体は硬い風船なんだ!」
「それと小型レギオンの爆発は、どういう関係が……。」
真央にはてんで納得がいかないが……。
「熱だよ!あの朧な光はギララから出てるんだ!あの光がきっと小型レギオンを動かしてる筋肉シリンダー内部の気体を膨張させたんだよ!」
「それで風船みたいに!?」
「そうだよ!そして……オレの推理が正しいなら、ギララという怪獣は……。」
そう。
メガネの推理は正しい。
ギララは……ギララはエネルギー吸収生物である。
熱や電気、放射線など外部のエネルギーを吸収し、強大となる生物。
それがギララだ。
巨大レギオンや小型レギオンのマイクロ波攻撃も、熱エネルギーとして吸収してしまったのだ。
そしてそのエネルギーを収束して小型レギオンに叩き返した結果、体構造内の気体が瞬間的に膨張し、小型レギオンはなす術もなく破裂させられてしまったのである。
ギララがレギオンに向き直って右手を上げると、指先の吸盤から熱線が発射された!
干渉波アームを展開し、今度も熱線のコースを曲げるレギオン!
だが、ギララはすかさず左手の吸盤からも熱線を発射!
左手から放った第二波の熱線は、第一波の熱線を誘導中の干渉波アームを横合いから粉砕した!
これでもうギララの熱線を撥ね退けることは出来ない!
だがここで、またもギララはレギオンに背を向けると、草体に向かって歩き出した。
「また草体へ行くの?……ギララちゃんって、なんだかよく判んない。」
「エネルギーを吸収に行くんだよ。」とんちんかんなことを言う真央に、メガネが教えた。
「たぶん草体の爆発が間近なんだ。その爆発エネルギーを食いにギララは……。」
メガネの読みどおり、草体は大量の酸素を放出し始めた。
種子の射出=爆発は間近い!
レギオンはギララを追うのを諦め、砂地を掘り始めた。
爆発に巻き込まれれば、レギオンといえどもただではすまないからだ。
その場を逃れるレギオンと、草体に迫るギララ。
そしてギララが草体まで辿り着いたまさにその瞬間!
核爆発を思わせる閃光とともに、草体が爆発した!
ここが砂漠のど真ん中でなければ、どれほどの被害が出ただろうか?
戦場は、激しい爆風と砂嵐に飲み込まれた。
草体の種子は成層圏を突破できたのであろうか?
ザザザザーーーーーッ!
砂を掻き分け、爆発を間一髪逃れることができたレギオンが再び姿を現した。
そしてじっと動かないままで、黒煙と砂煙の中をじっと覗き込んだ。
………煙の中で………何かが光ながら動いている。
ギララであった。
赤く燃えるガスを身に纏い、自らも光を放ち、口や両手から熱線を放ちながら、激しく体を動かしている。
まるで喜び、踊っているようだ。
ブーーーーーーーーンッ
激しい震動音とともにレギオンは離陸した。
一応種子の打ち上げは成功したし………あんなバケモノ殺りあって敵うはずがない。
そして、森へと飛び去るカブトムシのように宇宙の彼方へ飛び去るレギオンを、ギララは追おうともしなかった。
「……ギララ対レギオンの対決はレギオン逃走によりギララの勝ちとなりました。」
揉み手をしながら忠実なるラーはゴリ博士に言った。
「うむ」
むっつり答えるゴリ博士とは対照的に、うきうきモードでラーは続けた。
「と、いうわけで、ゴリ博士。いよいよ我々の出番です。我らがギラギンド対超獣ベロクロン!」
「うむ」
「惑星Eから追放されて以来三十数年、その悔しさに耐えてまいりましたが、とうとうこうして晴れの舞台に立つ日がやってまいりました。」
「うむ」
「いや……、長かったです。実に長かった。」
「うむ……。」
ラーはここでやっとゴリ博士のムッツリムードに気がついた。
「…………おや?ゴリ博士。せっかくのチャンスに浮かぬ顔なのは何故ですか?」
「うむ………実はさっき『知的生命体連合本部』から連絡があってな。」
「は?……で、連合本部はいったい何と??」
「エンディング・テーマを仔細に見当した結果、我々二人は『惑星Eから追放され』ているので、惑星Eを代表する資格が無いことが判ったのだそうだ。」
「と、おっしゃいますと……?」
「我々二人には、このトーナメントへの参加資格が無いのだそうだ。」
「…し…、失格ということでしょうか?」
「……そうだ。」
ラーの顎がカックンと下がった。
リアクションはただそれだけ。
ただそれだけで彼は、「あしたのジョー」のように真っ白な灰になっていた。
よく判らない理由で、ベロクロン対ギラギンドの対決がベロクロンの不戦勝となったことで、メガネとラジオ、それに真央や昆虫板のミリオンとプロレス板のプロオタたちは戦況分析の時間が得られていた。
「いまのところ勝ち抜いているのは……」とメガネ。「……イリスに変異したギャオス、それからメカゴジラにガイガン、ゴアゴンゴン……。」
「……それとギララちゃんね。」なぜか真央はギララだけ「ちゃん」づけで呼んでいた。
「イリスの武器は、ほぼオールレンジといっていい攻撃射程の広さだよ。死角がどこにもないんだから。」ラジオが分析の口火を切った。
「メカゴジラの武器は圧倒的な火力とアブソリュートゼロだ。特に熱系の武器と冷凍系の武器をどっちも装備しているってのは脅威だね。」「ガイガンは業師だ。まるで忍者みたいだぞ。」とミリオンにプロオタが相次いで評した。
「ゴアゴンゴンは冷凍破壊光線と瞬間移動が脅威だけど、ボクがそれより恐いと思うのはあの悪賢さだな。あれでゼットンも引っ掛けたんだから。」と再びラジオ。
「ギララ……ちゃんは……」隣の真央を見てからギララのあとに《ちゃん》と付け直し「…熱エネルギー吸収能力がシャレになんないよ。なんてったって、ミニラの最大の武器が熱線なんだから。」と評した。
だれもハッキリとは言わないが……ミニラが勝てそうな相手は一匹もいない。
お先まっくらだ。
「…でも、がんばりましょう!」暗い雰囲気を打ち消すように真央は元気よく言った。
「プルガサリとの代表決定戦は私テレビで見てたんですけど……、あのときだって全然勝てそうに見えなかったんですから。」
メガネとラジオがそろってズッコケた。
「だから、今頭で考えて勝てそうになくたって……わかんないですよ。やってみなくちゃ!」
「よく言った!!」プロオタが馬鹿でかい声で真央に続いた!
「……オレの株屋のカンで言わせてもらうと、結局のところ勝負はサイコロ振ってみなくちゃ判らん!最悪なのは、最初から負けた気になってサイコロ振らないってことだ!」
「そうだよ!プルガサリのときだけじゃない!メカ・ゴッチのときだってソウソウ(=クモンガ)と闘ったときだって、やっぱり勝てそうになかったけど、でも、勝てたじゃない!」ミリオンも両手を振り回しながら言った。
かつての「敵」は、もう完全に同じ地球人という「仲間」になっていた。
「ありがとう。……オレ、闘う前からまけたきになってたよ。」メガネは皆に向かって頭を下げた。
「よしっ!」ラジオも気合を入れ直すように声をあげた「……それじゃあボクとメガネはウルトラマン対キングジョー戦の偵察に……。」
「いや!それは行かなくてもいい!」腰を上げかかったラジオをプロオタが制した。「……ウルトラマンとキングジョーのデータ収集はオレたちにまかせろ。」
メガネとラジオに代わって、プロオタとミリオンが立ち上がった。
「それじゃオレたちは……。」
怪訝そうな顔のメガネにミリオンが答えた。
「……別に特訓しろとは言わないよ。ただ、ミニラと一緒にいて絆を確かめてやって欲しいんだ。あいつ最近、おまえたちが忙しく飛び回ってて淋しそうだったから。」
昆虫と怪獣という違いはあっても、ミリオンは生き物の感情の機微を掴むに敏だった。
「それじゃあ…」と、プロオタとミリオンは公園を後にした。
「プロオタ、明日の戦場『円谷プロ社屋前』は、たしか世田谷だったよな。」
「そうだ。でも近いからってモタモタしてると、良い場所をキープできないからな。」
「残念、折角朝寝坊できると思ってたのに……。」
愉快そうに笑う二人。
その二人のところに、人影が忍び寄った。
「…おお、ホロン部の………。で?どうだった??」
「……オマエの掴んだ情報通りだ。ゴリ博士は新宿のアングラバーに来ていた。ヤツの意見は地球人に対しとても友好的だったそうだ。」
小さな声でミリオンは言った。「それじゃあプロオタ…やはりゴリ博士の失格は、地球人に対し悪意を持つヤツラの陰謀なのか?」
「その可能性が強いと思う。急な話過ぎたからな。」
そしてプロオタは一枚の写真を、ホロン部の男に手渡した。
「……いろいろ悪いが、この男について何でもいいから情報を集めてもらえないか?」
写真を見ながらホロン部の男はプロオタに尋ねた「こいつは……?」
「……地球人に対し友好的な、もう一人の宇宙人さ。」
その写真に映る宇宙人とは……メガネやラジオと並んで《寅さん》が……。
「よし!決めた!……ヒマだから、もういっぺん靖国神社にお百度参りしてこよう。」
総理はもう何度目かの「御百度参り」を決意した。
知的生命体連合がやってきてからこっち、政府はすっかり開店休業の状態だった。
人類全体の地球管理権が危ないというのに、日本政府の統治権が機能するわけ無いのである。
さいわい、靖国神社詣でをやったところで、「またか」というだけで何処の国からも文句は来なくなってた。
総理は身支度を整えようと鏡の前に立った。
一時は髪型の関係もあってライオンに例えられた顔だが、いまはかなりくたびれてきている。
総理は髪型をタテガミのように整えようと櫛を手に採ると再び鏡を見た。
(おや?)
再び鏡に映る自分の姿を見たとき、総理は激しく違和感を覚えた。
……どこか変だ。何か違う。
その原因はすぐに判った。
鏡に映る「自分の姿」は、櫛を持っていなかったのである。
(ゴリ博士が失格だと?)
「老人の目をした少年」はパチッと音を立てて携帯電話のような装置を折り畳んだ。
それは彼の星、M宇宙ハンター星雲で作られた多機能型の携帯端末である。
(……いったい誰の仕業だ?)
そして彼は、目の前のビルディングを見上げた。
円谷プロ本社ビル。
日本人の特撮オタクなら、ある種の感慨をもたずして見上げることは困難な建物であるが、宇宙人である彼にはなんの意味も無い、ただのコンコクリートのハコである。
早朝の7時を僅かに回ったばかりだというのに、あたりはもう「ウルトラマン対キングジョー」の対決を一目見ようとやって来た特オタで黒山の人だかりになっていた。
(……ん?あれは…)
東洋人ばかりの人ごみに金髪の白人女性が一人混じっているのを、少年は目ざとく見つけだした。
(……人間では無いな)
そう思って少年が近寄っていくと、女の方もすぐ気がついたとみえ、向こうから積極的にテレパシー交信してきた。
(はーい、アナタは知的生命体連合の総会で演説したハンター星雲の方ね?有名人にお目にかかれて光栄だわ。)
(……そういうおまえはペダン星人だな。キングジョーの操縦者か?)
(前半分はピンポーン!でも、後半はブッブーね。私は……地球名ドロシー・アンダーソン。もう30年以上も地球に住んでいるペダン星人よ。)
(地元のロボットの活躍をわざわざ観戦に来たというわけか。)
(ブッブー……またも残念でした。私はもう30年もこの星に住んでるのよ?故郷のことなんかとっくに忘れたわ。)
(では、なんのためにここに?)
(………一人の地球人として、地球の行く末を心配して……なーんて言ったら信じてくれる?)
続き、早く読みてぇ。。
(ブラックジョークのつもりか?)
少年は冷たくテレパシーを返した。
(あんたたちペダン星人ほどの高等宇宙人が、なんで地球人ごときに成り下がる必要がある!?)
ペダン星人・ドロシーは驚いた。
ハンター星雲人といえば、感情抑圧的で辛抱強い「昆虫型宇宙人」という認識(ハンター星雲人の正体は硬度に進化したゴキブリ)だった。
だが、目の前の少年が放ったのは紛れも無く「憎悪」である。
彼女はこれほどまでに感情的になったハンター星雲人を見たことが無かった。
ドロシーは思わず問い返した。
(なぜそれほどまで地球人を憎むの?アナタたちの星を殺したのは地球人じゃないのよ?)
M宇宙のハンター星雲にある「少年」たちの星は……死の星だった。
死の星で、何億年もかけて進化し、ついに知的生命と呼べる段階にたどり着いた時、「少年」たちは気がついた。
実は、ともに暮らすはずだった「星の家族」がいたということに。
そして彼らを滅ぼしたのが、彼らハンター星雲人たちにとって「星の兄」とも言うべき存在。……「人間」であるということに。
進化の果てに、星の運命すら左右するほどの力を得た「兄」は、しかしその力を制御する理性や徳性を持つことができなかった。
欲望のままに力を行使した結果は……。
(ヤツラは母星を汚し、毒を撒き、環境を破壊し尽くして、「家族」を道連れに滅び去った。)
少年は、短いあいだになんとか自分の中の怒りを押さえ込めていた。
(……だから……我々は宇宙の彼方から、地球をずっと観察しつづけてきた。……ひょっとすると我々も住めたかもしれない楽園、「星の家族」たちと歩んでいたかもしれない惑星、この地球のことをだ!そして……。)
感極まったか、少年のテレパシーが激しく混乱して途絶えた。
(……地球人が、あなたの星の人類のように星を破壊してしまう前に………。)
(そうだ!ペダン星人!)ふたたび少年から怒りに満ちたテレパシーが放たれた。
(だから我々は、知的生命体連合に、地球人からの惑星管理権剥奪を申請したのだ!)
「ほら!もうあんなに人が集まっちゃってるじゃないか!だからオレがあれだけ寝坊はするなと……。」
「いっぺん鳴った目覚まし時計止めて、二度寝したのはアンタでしょうに!」
たがいに非難しあいながら寝癖アタマもそのままの男二人、プロオタとモリオンが円谷プロ社屋前に走ってきたのは、もう8時近い時刻になってからだった。
観戦に良い場所はとっくのとうに抑えられてしまっており、ろくな場所は残っていない。
やむなく二人は、すこし離れた場所にある公園に陣取ることにした。
「……見晴らし的には悪くないだろ?」
「…距離はカメラ使うからカバーできるしな。」
機材を担いで公園の丘を登る二人。
だが、そこにも既に先客がいた。
見た目中学生ぐらいの少年と金髪の白人女性であった。
「すみません、ココ、お邪魔してよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。よろしくてよ。」
世慣れたプロオタが尋ねると、白人女性は快く受け入れてくれた。
ただし、少年は無言のままである。
ちゃんと礼を言いアタマを下げるとプロオタとミリオンは観測機材の設置を始めた。
「そんなことしてるところを見ると……アナタたちは怪獣好きの……いわゆる『特オタ』さん?」
「いや、べつにそういうわけじゃないんですけどね。行きがかり上こういうことに……。」
アタマをポリポリ掻きながら答えるプロオタ。
ミリオンはせっせと機材の設営に勤しんでいる。
そして少年は相変わらず一言も喋らない。
「まあ、こんな風に関わってくると……。」プロオタは作業の手も止め、白人女性=ドロシー・アンダーソンの相手をこれ努めた。
「……特に怪獣好きってワケじゃなくても、なんだか興味が湧いてきますけどね。」
「そちらのアナタは……」ドロシーはミリオンの方にも話し掛けた。「どうなの?怪獣がお好き??」
「……彼と同じです。最近とても興味が湧く怪獣にぶつかりました。」
「最近??……で、どんな怪獣に興味が湧いたの??」
ミリオンは作業の手を休めることなく、ぶっきらぼうに答えた。
「レギオンです。」
「わああああっ!!!」
頭上を振り仰いで、ギャラリーが同時に歓声を上げた。
そして歓声はすぐに驚きの声に変わった。
頭上を飛びすぎた4機の宇宙船が次々に結合!
巨大な人型ロボットに変身したのだ!
ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ……。
円谷プロ社屋に向け前進を開始!
すると社屋玄関付近に、100万Wの輝きが!
銀と赤との巨人が光の中に立ち上がった!
「始まったぞ!」プロオタは撮影機材に飛びついた。
レンズの視界の中で、光の巨人とスーパーロボットがガッキと組み合った。
右に左にと揺さぶりをかけ相手の体勢を崩そうとするウルトラマンだが、キングジョーは足に根が生えたように動かない。
「あのロボットよっぽど重いんだな。びくともしないぞ。」
「……重さじゃないわ。」プロオタの独り言にドロシーは答えた「……飛行に使う重力バランサーで重心位置を100万分の1秒単位で修正してるのよ。だから動かないの。」
「えっ!?」
ドロシーの言葉に驚くプロオタの目の前で、キングジョーは金属製の両腕でウルトラマンの方を押さえつけ、その場から引っこ抜くように放り投げた!
力まかせに投げられたウルトラマンだが、地面で転がって衝撃を上手く殺すと、片膝立ちの姿勢から光の輪を投げつけた。
両脇を閉め、「気をつけ!」の姿勢でこれを受けるキングジョー。
光の輪=ウルトラスラッシュは、キングジョーの胸板でコナゴナに砕け散った。
だが、キングジョーが前進を再開する寸前、まだ「気をつけ!」の姿勢でいるところに、ウルトラマンの正面飛びでのドロツプキックが炸裂!
さすがのキングジョーもこれには堪らず、「気をつけ!」の姿勢のまま朽木倒しに倒れこんだ!
「お!ウルトラマン、マウントポジションだ!」
ドロシーの言葉に一瞬驚いたプロオタだったが、プロレス的な試合展開に思わず目を奪われていた。
「よし!キングジョーはガードがなってないぞ!パンチだ!パンチだ!いけいけぇっ!!」
キングジョーの両腕を膝の下に組み敷いて押さえつけ、上からパンチを落すウルトラマン!
プロレスや格闘技的にはウルトラマン絶対有利の体勢だが……。
キングジョー、相手の膝の下から力で両腕をフリーにして下から腕をスイングさせて叩きつけると、ウルトラマン、一撃で吹っ飛んだ!
「なんてパワーだ…。まるで全盛期のアンドレ・ザ。ジヤイアントとかスタン・ハンセンみたいだぜ。」プロオタがいかにもプロレス・オタクらしい感想を洩らす。
まさに怪獣プロレスの王道的対決だ。
だが、興奮するプロオタを尻目に、ミリオンはいたって冷静な様子で試合の記録をつづけていた。
「……そこの…キミ」
初めて「少年」が口をきいた。
「……そこの…キミ……。」
「…なんだボウズ、ちゃんと喋れるんだ。」
まさか相手がM宇宙ハンター星雲人の変身とは気づくわけもなく、ミリオンはあくまで相手を中学生くらいの少年とみていた。
「キミは……」少年はミリオンの皮肉にも反応しなかった。「……キミはあの戦いを見ても興奮しないのか?」
「興奮する??なんでだい?」
「キミは人間なんだろう?……だったら戦いを見て血が騒ぐはずだ。」
「戦いに血が騒がないってことはないけどさ……。ボクだって」
ミリオンはレンズのファインダーを覗いたまま、いたって事務的な調子で答えた。
「……でも、戦いのための戦いなんて、意味無いような気がするんだよね。自然の中での戦いは、必ずなにか意味や目的があるんだから。」
ミリオンの言葉は、いつしか年少者を教え諭す調子を帯び始めていた。
「戦いの目的だと?」
「うんそうさ。目的を見失った戦いなんてナンセンスの極みだからね。でも人間はバカだから、ちょくちょく目的を見失うけど……。」
「バ……カ……だから……?」
遠い彼方から観察してきた「種族としての人間」の印象と、こうして初めて言葉をと交わす「個人としての人間」の印象の間には、大きな隔たりが感じられた。
少年の考えでは、人間は自分たちを「バカだから」などと評さないはずなのだ。
「(そう言えばさっきコイツは『レギオンに興味がある』と言ったな……。敵前逃亡に終ったレギオンに、いったいどんな興味をもったというのだ?)
……さっきレギオンに興味があると言ったな?その理由は……なんだ?」
「レギオンはね……生物としての自分の本旨に従って行動しただけなんだよ。そしてレギオンを連れてきたジグラ星人もそのことをよく承知していたと思うんだ。」
……そうだ。
レギオンは他の代表怪獣のように命令を受けて闘っていたわけでは無かった。
ジグラ星人はレギオンという宇宙生物を、生態系ごとあるがままの形で地球に持ち込み、そしてあるがままに闘わせたのだ。
(こいつ、それに気づいているのか?)
「レギオンは草体の種子を打ち上げるために闘った。宇宙人に命令されて闘ったわけじゃない。だから、種子の打ち上げに成功したら、それ以上の戦闘は回避したんだよ。」
姿勢は、あくまでファインダーを覗いたままだが、「生物の姿」を語る言葉は次第に熱を帯び始めていた。
「トーナメントという形式上、必ず勝負はつけなくちゃいけない。だからレギオンの逃亡負けって扱いになってるけど、でもレギオンは種子の打ち上げっていう目的を達成してるんだよね。
つまり本当のとこは、レギオンは負けていない……、っていうか、レギオンが勝ったとすら言えると思うんだよ。………………なんか変かな?ボクの考えは??」
最後の一言は、少年が無言のままなので付け足された言葉だ。
それでも少年は無言でいたが、ミリオンは構わず言葉を続けることにした。
「ボクたち人間は、勝ち負けにこだわりすぎると思うんだ。それも間違った基準でね。間違った基準に従い、間違ったやり方で、間違った戦いをする……。その行く先に待っているのは………たぶん破滅だと思うんだ。」
キングジョーが両腕をYの字型に掲げると、破壊光線が発射!
しかしウルトラマン、両手を拝むように合掌してこれを受けきった!
そして今度は「お返しだ!」とばかりにスペシウム光線を撃ちこむが、キングジョーの胸板に激しく光を散らしただけだ。
互いに飛び道具は効かないとみてとったキングジョー、再び間合いを詰めてウルトラマンに格闘戦を挑んだ!
右から左から鉄腕がウルトラマンを襲った。
よく重量の乗った腕パンチに体が泳ぐウルトラマン。
「離れ技が効かなきゃ、肉弾戦ですね。なら、キングジョーが有利です!」プロオタはすっかり「にわか解説者」と化していた。
その目の前で、キングジョーはウルトラマンに腕パンチを見舞うと、ふらつく相手の体を横抱きにし、勢いをつけて倒れこんだ!
「おーーっと!アックス・ボンバーからオクラホマ・スタンピートだ!いや、アックス・ボンバーからの連携ならカリホルニアン・クラッシュと言うべきか!?」
倒れたウルトラマンに両手を組み合せたスレッジハンマーを叩き降ろすキングジョー。
だがウルトラマン、下からこれを受け止めると同時に相手の胴の下に自分の足を潜りこませ、巴投げの要領で放り投げた!
「やった!投げた!これぞ風車の理論!ウルトラマン!ついにキングジョーをほうり投げました!」
ノリノリのプロオタ。さっきは「猪木対ホーガン」で今度は「猪木対アンドレ」だ。
きっと彼の頭の中は金曜夜8時に違いない。
……こまったヤツだ(笑)。
体を転がして立ち上がろうとするキングジョー。
ちなみに「キングジョーは転んだら立てない」という意見を目にするが、大きな間違いだ。
「ウルトラ警備隊西へ(後編)」冒頭の戦闘で、キングジョーは普通に立ちあがっているぞ。
…と言ってるまにもキングジョーは両膝立ちの体勢になった。
「中腰になったときが最大のチャンスだ!」くわっと目の玉をひん剥いて叫ぶプロオタ。
ところがウルトラマンは距離を置き合掌したままの姿勢で、攻め込んでくる気配はない!?
ついにキングジョーは完全に立ち上がった。
ウルトラマンが動いたのはこの時だった!
「しゅわっ!」
短い掛け声とともに合掌していた両手を開くと、キングジョーの前進が止った。
ウルトラマンが合掌していた両手を開くと、同時にキングジョーの前進が止った。
いや、両足は歩く動作をしているのだが、ベルトコンベアーの上で歩いているように前に進めないのだ。
次の瞬間、キングジョーの体が宙に浮いた!
そして宙に浮いたキングジョーの前で、ウルトラマンは回りだした。
コマのように、早く!早く!もっと早く!!ウルトラマンは回った。
すると突然、宙に浮いたキングジョーの各部から小さな火花が幾つも飛び散った!
「……やられたわね。」呟くドロシー。
「え?……なにかマズイことでもされたんですか?」
プロオタがそう尋ねるのと同時に、キングジョーが落下した。
受身も何も無い、ぐしゃっという感じの落ち方だ。
そしてなんとか立ち上がろうとするともがくが、さっきのように迅速には立ち上がれない!?
「勝負あったわ。ウルトラ念動力で動きを止められて、重力バランサーを破壊されたの。」
「重力バランサーって……そんなに大事なんですか?」プロオタにはまだ状況が飲み込めなかった。
「人間を含む生物は、何億年もかけてその星の重力に適応してきたの。それを肩代わりするのが重力バランサー。……だからそれを破壊されたら……。」
「……なるほど。」理屈がわかったワケではないが、勝負がついたことはプロオタにも理解できた。
ウルトラマンの前で壊れた人形のようにもがき続けるキングジョーの姿が、ドロシーの言葉の正しさを如実に立証していたからである。
キングジョー敗戦の理由を理屈っぽく説明すると…。
空中に吊り上げられた状態で、相互に矛盾する重力の情報をセンサーに送り込まれたため、キングジョーは立てなくなった。
同じ現象がおこると、人間の場合はいわゆる「乗り物酔い」を起すが、ロボットでは情報処理するコンピュータ?が飛んでしまったわけ。
つまりキングジョーはロボットなのに酔ってしまった……と。
「……ある意味、あの壊れたロボット怪獣が、人間の文明というものを象徴してるんだよ。」
ミリオンはファインダーを覗きながら、まだ少年に話かけつづけていた。
「幸いなことに、ああいう状態になる前に、知的生命体連合に干渉してもらえたけども……。」
人間でありながら、ミリオンは知的生命体連合による地球管理権の剥奪を「幸いなことに」と表現していた。
「………地球の管理権を奪われたのは残念だけど……、でも、彼らが干渉してくれてなかったら、ボクラ人間は核戦争に手を染めていたんだよ。この東京にだって北朝鮮の発射した核ミサイルが、現に落ちて来たんだから。」
少年はまたも無言となっていたが、己の心情を吐露するミリオンの言葉は止らなかった。
「……もし知的生命体連合が干渉してくれてなかったら、この東京にキノコ雲が上がってたんだ。東京だけじゃない。ペキンや、ソウルや、それ以外の国々にもキノコ雲が上がってたんだよ。そうならずにすんだのは、ラッキーとしか言いようがない。でも……。
このラッキーを、たたこれだけで終らせちゃあいけないんだ。これを契機に、僕たち人間は謙虚になって振り返るべきだと思うんだ。このボクラの住む地球という星と、ともに住む昆虫たちのような仲間のことを……。」
降参を表明したキングジョーのボディーから円盤が分離し、ウルトラマンが空の彼方に飛び去ったので、ミリオンは撮影機材のファインダーから目を引き離した。
……少年の姿はもう消えていた。
そして同じころ……。
開店休業状態の国会で、あるとんでもない事件が巻き起こりつつあったのである。
「……総理……」
手を上げ、野党第一党の長田議員が立ち上がった。
「われわれは、……情報源を明かすことはできませんが……、とある奇妙な通信を傍受しました。発信人は……特に珍しい名前ではありませんが……最近よく耳にする名前になっています。××(メガネの本名)というんです。」
なにを言い出すのか見当つかず、当惑顔の与野党議員たち。
ただ、総理だけは泰然と前を見つづけている……。
「……通信の内容を読み上げます。『例の件、承知しました。極東アジアの管理権の件、くれぐれもお忘れなきよう。』……以上です。」
長田議員は、もったいぶっていったん言葉を切ってから話を続けようとした。
「どうもこの通信の意味するところは……。」
「けしからん!!」
長田議員の発言がまだ終っていないにも関わらず、激昂したようすで総理が立ち上がった!
「明らかに、それは密約の存在を示唆している!つまり、ミニラを管理しているあの学生たちは、実は宇宙人たちと裏で手を結んでいるということ。
彼等は、売国奴ならぬ売星奴であったのです!!」
そして総理の主導のもと、「メガネ、ラジオ、真央、プロオタ、ミリオンの身柄拘束」および「ミニラの頭部にコントロールマシンを埋め込み政府の管理下に置くこと」の2点が、電光石火で決議されたのだ!
そのとき真央は、ホテルの部屋に着替えに行くところだった。
ミニラとのコミュニケイションを深めようと、体力の許す限りミニラに付き合ったため、すっかり汗みずくになってしまったからである。
真央が公園を出て、ホテルの角を曲がったところで、一群の警察車輌とすれ違ったのだ。
「……こんなところに何の用?偉い人でも来るのかな?」
彼女はそのままホテルの部屋へと向かった。
都内でカマキラス対リドサウルスやキングコング対ハヌマーンなど都内での怪獣対決が相次いだため、都内にマイカーで乗り入れる者は激減していた。
ところが…ホテルの前に来てみると、朝がたホテルを出たときよりも明らかに車が増えている。
不思議に思いながらロビーに入ったところが、そこにも何故か人が多い。
官公庁いがいに通常どおり営業しているのは、公共交通機関や一部のホテルぐらいのはずだ。
エレベーターの前で彼女は考えた。
(………なんでかしら?)
ロビーの男たちは、みな判で押したように同じようなガッシリした体格で、その辺のサラリーマンには見えない。
そのとき、真央は不意に思い出した。
昔通っていた中学の男性教員のことだ。
(あの先生たしか日体大の柔道部員だったとか言ってたけど…。そう言えば先生、言ってたわ。もし先生になれなかったら、自分は………あっ!)
あの体育教師は言っていた。
「……先生に成れなかったら、オレは警官になっていた」と。
そして真央は、ロビーに集まった男たちの正体に気がついた。
(この人たち、みんなオマワリさんだわ!)
そのとき、ホテルの受付が真央にそっと目配せした!
(なにか私に伝えようとしてる!?)
あたりを見回すと、新聞を読んでいた男は読むのを止め、座っていた男は何気なく立ち上がるところだった。
そして受け付けの側に立っていた男が、ゆっくりと真央に向かって歩きだした!
(えっ!?オマワリさんたちの目当ては、私なの!?)
そのとき運良くエレベーターのトビラが開いた。
中へ飛び込むと同時に、叩くようにして「閉」と行く先表示のボタンを押す。
エレベーターのボックスの隅から振り返ると、受付にいた男は明らかに小走りになっていたが、男がボタンを押す前にエレベーターの扉は閉まった。
どうしていいか判らないまま、真央は反射的に自分の借りた部屋のあるフロアーのボタンを押した。
とっさのことだったので、押した目的階のボタンはまったくのデタラメだったが、却ってそれが幸いだった。
いまごろロビーの男たちは、もう一基のエレベーターで彼女の部屋へと向かっているに違いないからだ。
(あの部屋には帰れない……でも、ロビーにはあの人たちが……でもいったい何のために!?)
混乱してしまい、どうすればいいのか思い浮かばない。
そのときエレベーターが止った。真央が押したフロアよりもずっと下のフロアだ。
(だれか乗ってくる?!)
だが、扉が開いてもそこには誰もいない……。
…と思ったときだった。
扉の影から突然手が伸びたかと思うと、真央の肩を掴まえた!
「いないぞ!?」「どこに消えた??」
エレベーターのボックスを覗き込んで「オマワリさん」たちが騒いでいるのを、真央は用具室の中から聞いていた。
用具室の中には真央と、それからもう一人、真央をエレベーターから引き出した男が隠れていた。
……どこかで不意に男の叫ぶ声が聞えた。
「いたぞ!」
エレベーターを覗いていた「オマワリさん」たちも一斉に声のした方へと走っていくのを見届けると、男は口を開いた。
「……仲間がオトリになってくれた。とりあえずはもう大丈夫だ。」
真央がその男の指図に従い、おとなしく共に隠れていたのは……。
その男が……誰とは名指せぬが、確かに見知った顔だったからだ。
そう……随分と昔に、兄と一緒にいるのをしばしば見かけた顔……。
真央のもの問いたげな視線を謎の男は正確に読み取った。
「……覚えていてくれたみたいだな。」男は笑顔を浮かべ真央にいった。
「……オレは……日本名『金田』。元ホロン部員にしてキミの兄さんの古い親友、そして今はキミの専属ボディ・ガードだ。」
このパート、ちっともSFじゃないな。
こんなん書いて許されるんか?
ノープロブレム
多次元宇宙が交錯する世界を描いている=SF
元ホロン部工作員の金田は、準備周到だった。
小柄な男に変装させるための衣裳一式に、身長をごまかすためのロンドンブーツ。
髪の毛を後ろにまとめて帽子の中に押し込むと、それなりに「男の子」に見えるようになった。
そして、本当に「小柄な男の子」の元ホロン部員が、真央になりすまして公安警察をひきつけたスキに、まんまとホテルからの脱出に成功したのだった。
あとは金田の手づるで大迂回やフェイントをかましながら千葉まで脱出。
そこには、すでにプロオタとミリオンが保護されており、一時間ほどするとメガネとラジオも元ホロン部員に連れられてやって来た。
「まったく色々と驚きの連続だったよ。」と、溜息混じりにラジオは言った。
「……まさか国家の敵にされるとはね。警察が迎えに来たっていうから車に乗ったのに、車内でいきなり逮捕されるし……。その車ごと、今度は妙な連中に強奪されるし……。」
「妙な連中だと思ってたら、強奪グループの中に知ってる顔が二人も混ざってるしな。」とメガネも笑って続けた。
知ってる顔というのは…、以前プルガサリ戦のときにメガネ、ラジオ、バカ?の三人を決戦場まで送り届けてくれた元ホロン部員と、ホロン部のアジトで「プルガサリを倒してくれ」とメガネたちに頼み込んだ白髪のホロン部員だ。
「ミニラのそばで強奪してもよかったんだが、それだとミニラが心配して暴れるかもしれなかったんでな。」白髪のホロン部員が言った。
「……相手を素人と思ってナメてかかってたから、作戦そのものは簡単だったよ。」
「しかしな……」憤懣やるかたないといった様子でミリオンは言った。
「……うちの国の政府はバカばっかしか!?なんで宇宙人相手に、メールなんか送るんだよ。おまけに日本語でだぞ。」
「バカを通り越して、どこか別の世界に行っちゃってるよ!」「他愛も無いガセネタに引っ掛かるとはね……。」ラジオとメガネもこれに続いた。
だが……、プロオタだけは皆とは違っていた。
「……いや、引っかかったわけじゃないだろう。」
「おい!そりゃどういうことだよ!?まさかオマエ、メガネが本当に……。」カットなった様子でミリオンが立ち上がった。
「このノータリンめ!よく聞け!」自分の前に仁王立ちになったミリオンをまず一喝してから、プロオタは説明した。「あの長田って議員は、ウケ狙いだけのカラッポ野郎だ。だが、総理となると話は違うぞ。なんといっても海千山千の与党で党首になった男だ。」
ハッとしたように今度はメガネは立ち上がった。
「……そうか………そういうことか……。」
そっと下脣を噛んで、メガネは言った。
「……ガセだと知っていて、総理は動いてるんだな?……だとすると……。」
腕組みしてプロオタは応じた。
「そうだ。……ダース・ジョンイルみたいに操られてるんだ。例の何者かにな!」
翌朝、テレビや新聞、ラジオは一斉に「長田メール問題」を報じていた。
ただしその内容は千差万別で、政府が流した「売国奴」説を鵜呑みにするところや、これに批判的な説、そして極力中立を守ろうとする説までさまざまだった。
政府見解に実は根拠と呼べるような実は無いので、時間が立てば批判的な説が「売国奴」説を口するのは間違いないだろう。
だが、政府見解はたった「二日」だけ保てばよかったのだ。
二日だけ政府見解を守れれば……、ミニラはメガネたち3人を抜きにしてガッパと闘わねばならないのである。
メガネたち抜きでミニラをガッパと戦わせても勝ち目の無いことは、プルガサリとの戦いからも明らかだった。
幸い、ミニラの脳にコントロール・マシンを組み込む作業は、「だれがネコの首に鈴をつけるか?」状態でそれ以上進展していなかったが、
メガネたち3人をミニラから遠ざけた時点で、「敵」の狙いは既に成功だったのである。
「明日の午前10時までに、なんとしてもミニラを奪還して、渋谷の闘場に立つぞ!」ラジオは一同の顔を見渡した。
頷くラジオと微笑み返す真央。
プロオタは、プロレスオタクらしくテキサスロングホーンで応じた。
親指を立てたミリオンの後ろでは、元ホロン部員たちが一斉に頷き返す。
「よしっ!」メガネが勢いよく立ちあがった!
「それじゃあ、ミニラ奪回作戦!!開始するっ!!」
≪……政府の連中はミニラ移送作業を開始した。いまなだめたり、すかしたりしてなんとかトレーラーに乗せたところだ。≫
「わかった。そのままマークを続けてくれ。」
≪……了解≫
通信を終えると、元ホロン部指揮官は振り返った。
「聞いてのとおりだ。日本政府はミニラの移送作業を開始した。すぐ出発するとすると渋谷への到着時刻は……。」
室内の男たちは一斉に壁の時計を見上げた。
今は午前7時ちょうどである。
普通の車なら、30分とはかからない距離なのだが……。
「………到着は午前9時ごろだろう……。ミニラを載せた状態じゃ、タンク・トランスポーターだってスピードは出せないだろうからな。」
そう言ったのは、白髪の元ホロン部員である。
「メガネやミリオン、プロオタたちはとっくに持ち場についたはずだ。オレたちも行くぞ。」
「これがホロン部最後の作戦行動だ!合言葉は……」
以前なら「祖国のために」とか「将軍様のために」だったのだが……。
明るい声で誰かが叫んだ。
「地球のために!」
指揮官の表情がぱっと明るくなった。
「それはいい!よしっ!今回の作戦での合言葉は『地球のために』だ!」
こうして「ミニラ奪回作戦」、後に「地球のために作戦」とも呼ばれることになる日朝共同草の根作戦は発動された。
……渋谷の「怪獣グランプリ会場」は、ミニラ対ガッパの戦場として再び往時の活気を取り戻していた。
かつて、「名前に濁音の無い怪獣GP」「パチモン怪獣GP」「名前に『キング』のつく怪獣GP」「同一話に登場した怪獣GP」が開催された会場。
エレキング対ブラックキング、ミニラ対ナース、ガメラ対ジラースといった名迷勝負が繰り広げられた会場は、黒山の人だかりに埋ずまってしまっていた。
そしてこれは、メガネたちの思惑通りだったのである。
「うまいぞ。計画どおりだ。」
大型トレーラーの内部から外の様子を窺っているのはプロオタだ。
「半分以上がメガネたちと同世代の若いヤツだ。これなら目立たずにすむ。…………ミニラはどこまで来ている?」
「千駄ヶ谷の駅あたりです。」すぐさまオペレーターは答えた。
「ここまでの所要時間は?」
「……大型トレーラーでは通れる道は限られますし、数少ないルートの中には、怪獣たちの地球代表戦で破壊されたものもありますから……。……出ました。あと1時間15分かかるそうです。」
トレーラーの内部はコンピューターや通信機器が積み込まれていた。
つまりプロオタの動く前線指揮所なのである。
だが、このトレーラーの秘密はそれだけではない。
後部にはブルーシートを被せられた巨大な物体が……。
ちょうど同じころ……。
GP会場を包囲したギャラリーの上に、巨大な黒い影が舞い下りた。
比較的細長いシッポに二足歩行の巨体。
両腕とは別に翼がある。
普通は前足が翼に変化するので、腕と翼は両立しにくい。
数少ない例外が、肋骨の変化したグライダー翼をもつトビトガゲだ。
しかしガッパという怪獣に、トビトカゲのもつ弱々しさは微塵も無い。
そもそも「宇宙の奇跡」とも呼ばれる大巨獣を、ありふれた生物学の知識で分析しようとする方がナンセンスなのだ。
戦車砲弾をも跳ね返し、飛行時に発生する衝撃波だけでビルも倒す!
地響きとともに大巨獣降臨!
ぐわっぱぁぁぁぁぁあっ♪ ぐわっぱぁぁぁぁぁぁぁあっ♪♪
ガッパ着陸とともに、突如響きわたる力強い歌声!
するとギャラリーも一斉にこれに唱和する!
ぐわっぱぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♪ぐわっぱぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♪♪
会場周辺は、むさくるしい男性コーラスに飲み込まれた。
そして……!!!
男性ギャラリーのお待ちかね!
ロマンポルノ惑星のサルモネラ人間の女王、通称「ロマンポルノの女王」がその姿を現した。
「わっ!?いったいいまのは何?」
上から響いてきた歓声に、真央は思わず首を竦めた。
「……響きがなんだかスケベっぽかったから……。」答えたのはメガネである。「…きっとロマンポルノの女王が到着したんだよ。」
「随分的確な判断ね。……ひょっとしてメガネさんも見に行きたかったの?」
「バカ言え!ボ、ボクはべつに……。」
若い二人は暗い地下道を進んでいた。
…いま「地下道」と書いたが…、正確には「道」ではなく「洞」と書くべきだろう。
彼らがいるのは怪獣GP会場の地下深く広がるという地下洞。
人間はまだ誰も辿り着いたことの無い「大空洞」へと通じる地下洞を、二人は歩いていた。
ここをカウラやアンギラス、サタンキングといった怪獣が下り、邪神ハイドラが攻め上ったのは……、いまは昔の物語である。
「気をつけろ……しばらく足場が悪いぞ。」
先に立つ「ガイド」が言った。
彼の名は有働二尉。
元海自の自衛官であり、プロオタの妹が彼と因縁浅からぬ関係なのだという。
なんでも「合体」したのだとか……。
このパートは楽屋オチ。
誤解を招き易い表現なので、敢えてここでネタばらし。
「特撮板」で半年くらい前?「ウルトラマンマックスを暗殺せよ」という駄文を3ケ月?ぐらいかけて投下した。
その駄文でマックス暗殺を狙らっていたのが有働二尉ことビースト・ザ・ワン。
2chのネクサス・スレでウルトラマンネクサスのファンがボロクソに貶されているのを見たザ・ワンは、逆恨みして次番組のヒーロー「ウルトラマン・マックス」を暗殺しようとする。
しかし……、いろいろあってネクサスのデュナミストを名乗るネクサスファン5人が、次々にザ・ワンに吸収されにやって来る。
彼等を吸収するたび、「特撮を愛する」魂の輝きに触れ、ザ・ワンの中の闇は次第に浄化されてゆき……。
ついに自らの恨みの心すら乗り越えたザ・ワンは、自分に力を貸すためやって来たネクサス・ファンの心に応えるため、ウルトラマンマックスとウルトラマンネクサスのコンビに戦いを挑む。
……という駄文だった。
この5人のネクサス・ファンのうち、最後の「コモン」を名乗ったファンが女性だった。
つまり彼女が「トリノ」のプロオタの妹である…と。
だから有働と「合体した」というのは、「ザ・ワンに吸収された」という意味ね。
けっしてエッチな意味じゃないぞ。
欲求不満な男!男!男!男の群れ!!
期待度100%の「ロマンポルノの女王」登場!
だがしかーーし!
出現した女王の腰の周りには………なんとモザイクがかかっていたのだ!
地球人には刺激が強すぎると考えた「知的生命体連合」が、スゴイ科学で設定した三次元空間モザイク発生装置の威力!
横からちょっと回り込めばモロに見えそうなのに、どこからどう覗いても絶対見えないようになっているのだ!
超科学のモザイクである!
おかげで、女王の周りでグルグル回ったり、恥知らずにも足元にあお向けの姿勢でヘッドスライディングする行為は、ことごとく失敗に終った。
……と、いうようなワケで、男たちはみんな欲求不満の塊だったのである。
ただし、「女王」とその仲間の入場が、つまらなかったワケではなかった。
「女王」は彼女の星の仲間、ツツ・イヤス・タカの血をひく者たちも伴ってきたのだ。
場所柄もわきまえず女とみればむしゃぶりつくムライ・チョーアンや意味無く走り回る相撲取り、ネコの頭を鍋で煮る警官?、首なしの赤ん坊を抱いた首なしの母親とか、腋臭のきつい男子学生とか!
一人残らずツツ・イヤス・タカの子供たちだ。
奇人変人の集団が、脱走と追跡のサンバのリズムに乗り、踊りながら会場へと繰り込んでいく!
そして一緒にSFファンらしき集団も会場内へ…。
会場で警備に当たっていた警官たちも、その狂騒ぶりに手が出せない。
「…チャンスだ。こいつらに紛れ込んで会場に潜入しましょう!」「オーケイ!」
この一大狂騒に紛れて、ラジオとミリオンも労せずして会場潜入に成功した。
「……ラジオとミリオン。会場潜入にあっさり成功です。」
「そうか、よし陽動作戦は中止だ。B班にA班と合流するよう伝えろ。」
「了解しました。」
B班はラジオとミリオンが会場に潜入しやすくするため、目くらましの騒ぎを起こす陽動作戦班だった。
だがもうその必要はない。
一方のA班は、メガネたちの動きを察知して公安警察が出てきた場合に、体を張って阻止するための班だ。
ユニットには他にC班もいて、これは主にネット上で今回の政府の措置の不当性を訴える活動を展開している。
こちらも既にかなりの成功を収めていた。
総理の主張には具体的な根拠が何一つ無く、「穴だらけ」というより「穴しかない」状態だったからである。
明日になれば、ガセメールとともに総理は沈むだろう。
だが背後から総理を操る敵としては、おそらくそれで充分なのだ。
今日のこの試合からメガネとラジオを排除すれば、間違いなくミニラは敗れる。
二人を排除するため、「敵」は他にどんな手を使ってくるか……。
プロオタは後ろのブルーシートに包まれた物体を振り返った。
「そのために、オレはこいつを持ってきたんだ。」
目立たぬ服装に見を包んだラジオとミリオンは、ロマンポルノの女王とその仲間たちに続いて会場内を進み……、二階観客席に出てしまった。
「やべ!?ここ二階だぞ!?ミニラのとこに行けないぞ!?どうするよ??」ミリオンがラジオに耳打ちした。
「高いの?」
ミリオンはそっと観客席の最前列から下を覗くと、すぐに戻って来た。
「……高い。20メートル以上ある。おまけに下は特殊合金製だ。」
「げ!……しかたない。一階席に下りよう。」
そう言ってラジオは腰を上げかかったのだが……。
ちょうどそのとき、一回へ下る階段から背広姿の屈強な男が上がって来た。
(公安のヤツラだ!)
慌てて座りなおすラジオ。
公安の男は、上がって来た階段から動かない!?
「まずいよ!どうしようミリオン?」
「畜生、二階席に雪隠詰めか……。」
盟友ラジオが会場の二階観客席に閉じ込められたとは知らず……、メガネは真央とともにまだ地下洞を進んでいた。
「……時間は大丈夫かな?」
メガネは懐中電灯の光を自分の手首に向けた。
……現在……午前8時30分。
……新宿の地下共同溝の一隅にある秘密の割れ目から地下洞に入ってもう二時間だ。
いったいどこまで来たのだろうか?
試合開始までに、闘場に辿り着けるんだろうか?
そんな思いがメガネのアタマを掠めた。
「……あの……有働さん……。」
メガネは先を行くガイド役の男に声をかけた。
男の足が止った。
「あとどれくらいかかるんでしょうか?」
だが、男は答えない。
「あのぅ、…もう会場の近くまで来てるんでしょうか?」
今度は真央が尋ねたが、やはり男は答えない。
メガネと真央が顔を見合わせたそのとき、男がボソリと呟いた。
「……何か来た。走れ!」
それまで人の気配が全く感じられなかった地下洞窟に、何処から湧き出したのか、人の気配が満々て来た。
驚いてメガネは気配のする方に懐中電灯の光を差し向けるが、そこには誰もいない。
地下水が染み出して水溜りがてできているが、その面は静かなままだ。
メガネははっと気がついた。
水面が鏡のままだということは……。
謎の人影は電灯の光を巧みに避けたのではなく、最初からそこにはいなかったとしか考えられない。
だが、気配は確実に近付いて来ている!?
「ゆ、有働さん!これはいったい!?」
「いいからサッサと逃げろ!」
言うのと同時に、有働は上着の下から黒く冷たい鉄の塊=自動拳銃SIG220を引き抜いた!
その行為が、メガネと真央に、事態の切迫していることを千の言葉以上に雄弁に語っている。
……もう言葉の時間は終ったのだ。
あとはひたすらの行為だけ……。
メガネは真央の手を掴むと、ものも言わずに走り出した。
バン!バン!バン!
メガネが走りだすと同時に、地下洞内に続けざまに銃声が響きわたった!
「ミニラ、会場に入りました。」
「よし、いよいよオレの出番だな。」
プロオタはコンピューター端末の前から立ち上がると、トレーラー後部に積み込まれた「ブルーシートに包まれた物体」のところへ向かった。
そしてシートを持ち上げその下に……。
ここでプロオタはオペレーターを振り返った。
「判ってるとは思うが……オレが出たら、さっさとこ脱出するんだぞ。」
「一緒に刑務所に入るってのはダメですか?」オペレーターは白い歯を見せて笑った。
「……プロオタさん。あんたとは学生時代からの腐れ縁なんだし……。」
「バカ言え!……敵はたぶん宇宙人だ。失敗したら、監獄どころか地獄行きだぞ。」
「…んなこと、言われなくたって判ってますって。」
「バカ野郎!勝手にしろ!」
そう捨てゼリフすると、プロオタはブルーシートの下に消えた……。
「ホロン部へ連絡。プロオタが出る。ミニラ警護班にケンカを売るから、援軍が来たら頼む。」
《 … 了解 … 》
短い通信が終ると、オペレーターは端末横の「MZ」とマジックで書かれたボタンを押した。
じゃんじゃか♪じゃんじゃか♪じゃんじゃか♪じゃんじゃか♪……
トレーラーの周囲にマジンガーZのテーマが派手に流れるとともに、トレーラーの後部の天井が開き、ビニールシートに包まれた物体がせり上がりはじめた。
「な、なんだアレはっ………
会場に連れ込まれて来たミニラの姿を見て、ラジオの顔色が変わった。
頑丈な手鎖と足鎖を嵌められ、首にも鎖がかかっている。
そして鎖には太いコードがつながれているのだ。
「あ…の…クソったれ野郎どもめ!」
ラジオの横で、ギリギリとミリオンが怒りのあまりに歯噛する音が聞えた。
「……高圧電流か何かで脅かして、無理やりミニラに言うことを聞かせようってんだ!」
「そんなことやったって、ミニラは力出せないのに!」
政府の人間はワイワイ騒いでミニラを闘場に追い上げようとするが、ミニラは嫌がって上がらない。
「……力で脅かすしか能の無いヤツラだってことだ。レギオンを使ってたジグラ星人の爪の垢でも煎じて呑みやがれ!」
実は昆虫に限らず生物全般が好きなミリオンはハラワタが煮え繰り返っていた。
…突然、一階観客席から驚きの声が上がって来た。
なんと、ビニールが巻かれているらしい黒い棒をもって一人の男が上がって来たのだが…。
それがなんと総理大臣だったのだ。
(総理が来ているということは……)ミリオンは素早く考えを巡らした。(……総理の護衛も来てるってことだ。予想したより厄介だぞ。)
総理は片手を上げ、例のスマイルを振り撒きながら闘場に上がると……、手にした黒い棒でミニラに触れた。
バチバチバチッ!
青白い先行が走り、ミニラが悲鳴を上げた!
(まずいっ!)と思ったミリオンが押さえるよりも、ラジオが椅子を蹴って立ち上がるほうが早かった。
ラジオは二階観客席の最前列まで飛び出して絶叫した!
「やめろーーーーっ!!」
「プロオタ……。出る!」
陽光のなか、青いビニールシートがはね飛び、身の丈3メートルに達する鋼鉄の巨人が姿を現した!
「メカ・ルーテーズ!Go!!」
太陽に照り映える眩しいブリッジ禿げ!
メカ・カールゴッチ建造時、テスト用として製作したパワード・スーツ「メカ・ルーテーズ」!
メカ・ゴッチとの最大の相違は、ゴッチが電子頭脳で自動戦闘したのに対し、メカ・テーズにはパイロットがある点だ。
そしていま、その操縦席にはプロオタ自らが着座していた。
マイクロホンに向け、プロオタは叫んだ!
「やあやあ遠からんものは音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!われこそはIT業界の風雲児にして実は株屋……。」
会場内のミニラ警備班を場外の自分にひきつけることこそ、彼の役目なのだ!
そして警備が手薄になったミニラにラジオかメガネを接触させる。
それがプロオタの立てた作戦だったのだが……。
「やめろーーーーーーっ!」
絶叫したラジオに、右から左から公安警官が殺到する!
「畜生!こうなりゃ破れかぶれだ!」
ミリオンも客席から飛び出した!
「受けてみよ!昆虫板名物!カマキリ拳法!!あ、そーーれ、かまかまかまかまかま!」
変な構えで両手をピクピクさせるミリオンの前後から警棒が一斉に振り下ろされた。
「……ぐふっ!」
アタマに喰らった衝撃で意識が飛ぶ寸前に、ミリオンが見た光景は……。
ラジオの背中に殺到する、公安警官たち。
そして、二階観客席の手すりごしに、20メートル下の金属の床へと身を躍らせるラジオの後ろ姿だった。
436 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/10(金) 17:13:49
さて、長期に渡りスレを私物化している悪の駄文作者です。
とりあえず、本戦トーナメントの一回戦は間も無く(たぶん来週中に)終り。
キリのいいところなんで、どなたか他に作品を投下される方はいませんか?
いらっしゃるなら、いったんここで投下を中止し、他の方の投下終了後、第二回戦以降を再開しますが?
もともとスレの維持のためと他の方の創作時間を稼ぐ意味で逐次投下をやってるだけですので、いったんお休みすることには何の問題もありません。
ご希望のの方は??
特に投下希望者はいないようだから、このまま続行すべし。
ゴジラとガメラまで登場しての怪獣戦争と、トーナメント決勝戦まで。
絶叫しながらラジオは観客席前面の手すりに向かって走った!
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
それを耳にしたとたん、泣いていたミニラがぱっと顔を上げた!
二階席で走ってくるあの人間は!?
左右や背後からバタバタと警察官の足音が迫るが、そんなことラジオには関係無い!
彼が、メガネが、そして意識の戻らぬバカ?が、泣いたり笑ったりしながら共に歩いてきたミニラ。
彼や、メガネや、バカ?のために好きでもない戦いを繰り広げてきたミニラ。
そのミニラが虐待され、踏みにじられている!
勇気の問題ではなかった。
メガネやバカ?に対する友情の問題。
そしてミニラに対する人間としての誠意の問題だった。
誰かの指がラジオの背中をかすったが、掴まるより早く、ラジオは観客席の手すりを越え……。
「ミニラぁぁぁっ!」
ラジオの体は一瞬宙に浮き、…そして落ちる!
ラジオの目に映る景色が目まぐるしく変わった。
最初は、会場の天井に輝く眩しいライト。
次に、驚きに目を見開いたミニラの顔!
そして最後に、冷たい金属がラジオの視界一杯に迫る!
(ごめんミニラ…)
だが、最後にもう一回だけ景色が変わった。
明るい灰色一色に……。
……ざんっ!
ラジオが落ちたのは硬い金属の床の上ではなかった。
そこは、間一髪差し出された、ミニラの大きな掌だった。
「きゃっ!」小さな悲鳴をあげ、真央が転んだ。
懐中電灯以外の明りは一切無い暗黒の地下洞を、メガネと真央は駆けどおしでここまでやって来た。
ここまで転ばないで来れたこと自体、奇跡に近い。
「大丈夫かい?」
ラジオは真央の腰に手を回し抱き起こした。
「……だ、だいじょぶ。平気です。」
その手を慌てて払いのけ、真央はピョンと立ち上がった。
ふと見ると、メガネは黙って俯いている。
(いまの私の行動……ちょっと変……だったかな?)
真央がそう思っていると、メガネが静かに言った。
「………ごめん。」
「えっ!?あ、あの、いいんです。べつに。私気にしてないですから。」
「……でも、キミをこんな危険な目にあわせちゃって……。」
(…なんだ、さっき私のお尻触ったことじゃないんだ……)
「……このルート、ラジオたち正面突破部隊よりはずっと安全だろうって思ってたけど……それがこんなことになっちゃって……。本当にごめん。」
「それなら……私がしつこく何度も連れてってくださいってお願いしたから…。」
「それでも……!?」
メガネの言葉がそこで止った。
……人の気配がする。
地下洞の中に、再び人の気配が溢れつつあった。
「誰だっ!?」
メガネは懐中電灯の光の槍をあちこち闇雲に突きつけた。
二足歩行の怪獣が通り抜けられるほど高い天井。
岩肌の露出した壁面。
そして懐中電灯の光を跳ね返し水溜りが揺れる。
そこには如何なる人影も見出せない!
しかし、それでも懐中電灯の照らされない闇の部分では、間違いなく何者かが蠢き、囁き交している!
さっきメガネの手を払いのけたばかりの真央が、自分からメガネの体にしがみついてきた。
「離れちゃダメだぞ!」
メガネも自分の体にしがみつく真央の体を抱きしめた。
闇の中、二人別々に引き離され、もう二度と合えない……そんな予感がしたからだ。
「オレも放さないから……真央も離れちゃダメだぞ!」
聞こえそうで聞こえない囁きは、メガネたちの行く手から次第に背後へと回り込み、ついには前後左右からすっかり二人を包囲してしまった。
メガネと真央は背後の岩肌に追い詰められた。
闇に囁くものは次第にその包囲を狭めていく。
「きゃっ!?」真央が悲鳴をあげた。「……誰かが私を引張った!」
「離れるな!」メガネは更にきつく真央の体背を抱きしめた。
胸と胸がくっついて、真央の体を自分の体ですっぽり包み込むように、細い体をぎゅっと抱きしめ、メガネは彼女を守ろうとした。
本能的にメガネは気づいた。
今迫っている危機は物理的なものではない!精神というか、魂の危機なんだと!
「オレは絶対放さないから。真央も絶対オレを離すな!」「はい。」
命を賭けて抱き合う二人。
そのとき、にゅっと闇から伸ばされた手に、メガネの手が触れた。
人間のような手だった。
枯れ木のように細く、氷のように冷たい手だった。
それに触れた瞬間、メガネの全身を悪寒が!
次々と闇から伸びる手が、メガネや真央に掴みかかって二人を引き剥がそうとする!
だがもしここで真央を手放してしまったら……。
(永久に取り戻せない!)
……メガネはそう確信していた。
「放すもんか!!」
暗闇にそう叫んだとたん、初めてあったときからの真央との思い出がメガネの胸を駆け抜けた。
「わたし××(バカ?の本名)の妹の真央です。」
「兄の思いを引き継ぎたいんです。兄の代わりに私を、怪獣対決の場に連れて行ってください。」
「……なんだか……なんだか、かわいそう。」
「バカです!そんなところに飛び込むなんて……。」
「……そんな宇宙の人たちと友達になれたら素敵ですよね……ね。」
「あの、いいんです。べつに。私気にしてないですから。」)
すると、メガネの心の中に彼自身にも説明できない、ある種の感情が入道雲のように湧きあがってきた。
強い気持ちに突き動かされ、もう一度、メガネは叫んだ!
「死んでも真央を放さないぞ!放すもんか!!」
「まずいぞ、プロオタ!会場内でラジオが捕まった!」
「なんだと!」
メカ・テーズを操縦して警官を相手に立ち回りを演じていたプロオタに、オペレーターから緊急連絡が入った。
「メガネたちはどうした!?」
「まだ会場に到着した旨の連絡は無い!……どうするプロオタ!?会場に攻め込んでラジオを救出するか?」
「…………いや、それでは観客にトバッチリがいっちまう。既定の作戦を維持するんだ!ここはメガネを信じよう。」
通信を終えるとプロオタは群がり押し寄せる警官の中に飛び込んだ!
「オレはメガネを信じる!」と叫びながら。
だが、ラジオは厳密には「警察に」逮捕されたわけではなかった。
ラジオは……たしかに「逮捕」されていた。
ただし、「警官に」ではない。
「ミニラに」である。
手足を鎖に繋がれた状態で、ミニラは落下するラジオに向けヘッドスライディングのように飛び、間一髪のキャッチに成功したのだ。
そしてラジオを逮捕せんと警官が群がると、落下の衝撃で半ば意識を失っているラジオの前に盾となって立ち塞がった。
どんなに警官が集まろうと、身長50メートル近いミニラが相手では歩が悪すぎる。
途方に暮れる警官たちに業を煮やした総理が、例の電撃棒を振りかざしてやって来た。
「そこをどきなさい!」
真赤に紅潮した顔で叫ぶと、総理は手を振って合図歩を送った。
……バチバチバチッ!
ミニラの手足に嵌められた枷からパッと青い火花が飛んで、ミニラは短く悲鳴を上げた。
でも、警官が近寄るとミニラはキッと睨みつけた。
慌てて後退する警官の姿に、総理の顔が赤みを増した。
「臆病者どもめ!」
総理自ら例の電撃棒をもう一度手にすると、警官の列を掻き分けミニラの前に進み出た。
「ソイツを……渡しなさいっ!」
二階観客席から「ロマンポルノの女王」は階下の様子を見おろしていた。
なにやら喚き散らしながら、地球人が何度も何度も子供の怪獣を電撃棒で突刺しまくっている。
一方、子供の怪獣は背中の後ろに意識を失った人間を守っている。
その人間は、どうやら怪獣にとってよっぽど大事な人らしく、どんなに責められてもその場からどこうとしない。
電撃棒を振り回す男の言葉は興奮しすぎていて、女王には聞き取れない。
顔の色は、真っ赤を通り越してドス黒いほど。
唾や汗を飛ばしながら、狂ったように電撃棒で突きまくるその姿は……。
「……なんと醜い……。」
膝の上のタラチネグモを撫でながら、女王は思わずそう洩らした。
他のサルモネラ人間たちもそれは同じらしく、ある者は顔を背け、ある者は汚物でも見るような顔で、階下での寸劇を見下ろしていた。
ツツ・イヤス・タカの血をひくサルモネラ人間は原種のサルモネラ人間に較べ、向上心や競争心といったものが強い傾向にある。
だが今目の前で繰り広げられている寸劇は……。
顔を曇らす女王の耳もとに、側近というより愛人(男)であるガスパールが囁いた。
「同じ人間種ではありますが……、これほどまでに攻撃性が強いとは……。」
だが、反対側から女中兼愛人(女)であるナナセが言った。
「たしかに溢れるほどの攻撃性ですね。……でも、私のテレパシーには、《別の何か》の存在も感じられるのです。」
「畜生!公安と機動隊の援軍がやって来たぞ!」
「白髪の元ホロン部員」にそう告げられると、金田は歯がみして答えた。
「くそったれ!まだメガネもラジオもミニラと接触できていないってのに!」
道路を埋める特オタやSFオタを掻き分け、殺風景な灰色の車列がやって来るのが見える!
ルーフで叫ぶサイレン。
群集に「道を開けろ!」と叫ぶ声。
国家権力が拳を振り上げやって来た。
「どうする?」「……やるしかないでしょ。」
顔を見合わせ笑う金田と白髪。
そしてついに……「群集の中の一人」の仮面を脱ぎ捨て、二人は叫んだ!
「……ホロン部!総員突撃!!」「公安の連中を会場に入れるな!」
白髪と金田の号令とともに、身を潜めていたホロン部員は前進してきた公安と機動隊の列に向かって突撃した!
決死の、必死の、死にもの狂いの抵抗しばし……。
だが、ホロン部はもともとネット上での対日誹謗中傷を目的に設立された組織。一方、公安警察や機動隊は柔道や空手・レスリングの猛者ばかり。
体力勝負を挑んでも結果は見えている。
やがてホロン部員たちの体は、次々宙に舞い、あるいは地面に叩きつけられ、手錠をかけられていく。
バカ?の小学生時代の親友である金田の挑んだ相手は、棍棒のように変型した拳から見て、明らかに空手使いだった。
びゅんっ!
地を這うような蹴りが唸ると、両足を刈り取られた金田の体は敷石の上に横ざまに落ちた。
一瞬息が詰まる。
だが……。
「(バカ?は殺されかけて、それで意識も戻ってないんだ。オレがこんなとこで……。)
あぁさだぁーーーっ(=浅田、バカ?の本名)!!」
いまだ意識の戻らぬ友の名を叫びながら、金田は必死に跳ね起きた。
そして「勝負あり」と油断しきった相手の顔にパンチを一撃!
しかし、相手が油断したのはそのときだけだった。
警官の顔に怒りの色が走ったかと思うと、金槌のような拳が唸りをあげた!
金田の目の前に岩のような拳が!
そして金田は再び地面に叩きつけられていた。
警官は、倒れた金田の胸をすかさず膝で押さえつけると、右手で襟首を掴まえた。
それを抵抗も出来ないまま下から見上げる金田。
だが、抵抗しなかったのは、パンチの威力によるものではなかった。
(そうか、そうだったのか……)
巨躯の警官の下に為す術も無く押さえつけられた金田。
だがそのときである。
ガン!
どこからか石ころが飛んできて、金田を組み敷いていた警官の頭に当たった。
「痛っ!……朝鮮野郎!」
石の飛んで来た方をキッと睨みつける警察官。
だが、そこにいるのはホロン部員ではなかった。
どこにでもいる、ありふれた日本の青年や少年たち。
それが強く決意をもって公安警官たちを睨みつけている。
中の一人が静かに言った。
「……そいつらを放せ。」
公安警察に圧力をかけるように「日本の青少年たち」はぐっと前に踏み出した。
「待て!おまえら、ちょっと待ってくれ。」
だが彼等を止めたのは、なんと彼等が助けようとしていた金田だった。
「あんた……本当は上の命令に納得してるんじゃないだろ!?」
警官の顔を下から仰ぎ見て、金田は言った。
「…オレは警察官だ。命令に従う義務がある。個人の思惑などは……。」
事務的に言い返そうとする警官に対し、金田は言い放った。
「さっき殴られて判ったんだ。アンタのパンチはナマクラだった。あんなのじゃ子供だって殴り倒せない!」
「な、なんだと!」
警官の顔が怒りで紅潮したが、金田は恐れることなく言葉を続けた。
「……こんなゴツゴツした鍛えた拳で、ナマクラのパンチしか打てなかったなんて……、あんたが自分の受けた命令に納得できてないからじゃないのか!?」
「うっ……」警官は言葉を飲み込むと、そのまま言い返す言葉を見失ってしまった。
「あんただって思ってるんだろ!?……こんどの総理の行動は変だってさ。
それなのに、『立場』だの、『法律でそうなってるから』だのって自分をごまかして、だからパンチがナマクラになっちまうんだろ!?」
金田は、自分の襟首を掴んだ警官の手首を両手で握り返し、そして訴えた。
「おかしいと、変だと思ってるんだったら、ちゃんと行動してくれよ。アンタたちの良心に従ってさ。でないと……このままじゃ、地球がダメになっちまうんだよ!」
しばし睨みあう、金田と警官。
やがて……
警官の掌から握力が抜け、金田の襟首から滑り落ちた。
このとき、金田と警官の展開と似たような事件が、実はあちこちで起こっていた。
会場に急行しようとしていた警察や機動隊、自衛隊の車列が、あちこちで丸腰の市民により立ち塞がられたのだ。
無言のまま立ち塞がる青少年たちと、しばしの睨みあいのあと無言で引き返す警官たち。
その後ろ姿は、まるで「通せんぼしてもらって助かった」というように見えた。
会場の周囲には二重三重の人間バリケードが自然発生し、それ以上警官隊が会場に駆けつけるのを完全にブロックしてしまった。
結局残ったのは、外での騒動が始まる前に、既に入場していた警官隊だけ。
これは、国籍を超えて決起した青少年たちの勝利であるように見えた。
だが……、本当の敵は、すでに会場内に紛れていたのである。
「オレは絶対真央ちゃんのこと放さないから、真央ちゃんもオレのこと放すんじゃないぞ!」
恐怖のあまりか言葉が出ない真央からの返事は無かったが、メガネの胸に押し当てられた真央の顔が何度も上下に動いて「はい」という意思を伝えてきた。
「いいか真央!このまま歩くぞ!」
抱き合ったままでメガネと真央が歩き出すと、それを押し止めようとするように「手」の雨後きが激しくなった。
髪を引張ったり、抱き合う腕を掴んで引き剥がそうとしたり……。
だが、二人が抱き合う力を強めると、何故か「手」は怯んだように一瞬退くので、二人は少しだけ進むことができる。
そうして必死の思いでどれだけ進んだのか?
ついに行く手にひとすじの光が差し込むのが目に入った。
「光だ真央!…あとすこし!すこしだけ頑張るんだ!」
光の存在に勇気付けられ、二人が更に足を速めたときだった。
あたりの闇を埋める「囁き」の中にはっきり意味の通った声がすりぬけていった。
「いれものが要る。いれものを呼べ。」
狂ったように電撃棒でミニラを突きまくっていた総理の動きがピタッと止った。
そしてそのまま宙を睨んで、口をパクパクやっている。
「そ、総理……?」
気味悪くなった補佐官が、総理の顔を覗き込んだ。
……目の焦点はちゃんと合っている。
ただしそこには何も無い。
総理は何もない空中を見つめ、何か呟いている。
「そう……り?」
補佐官がもう一度呼んだとたん、総理は補佐官の方にくるりと向きを変えた。
「用事ができた。」
「は?」
「用事ができた。あとは頼む。」
それだけ言うと、総理はスタスタと関係者用通路に向かって歩きだした。
慌てて警護官があとを追おうとしたが……。
「来るな!!」
後ろも見ずに総理が一喝すると、警護官は一人残らず金縛りにかかったように動けなくなってしまった。
そして、総理の姿は通路奥の闇の中へと溶けてしまった。
「もう少しだ真央!がんばれ!」
無言のまま何度も頷く真央。
もうすでに「真央」のうしろに「ちゃん」はついていない。
最初かすかに見えていた光は、今はハッキリした四角い輪郭=ドアの隙間から漏れる光になっていた。
もうすぐそこに光に満ちた世界へり入り口がある。
(でも、焦っちゃダメだ。)
焦ってドアに向かって走ったりすれば……。
最後の瞬間に妻を見失ったオルフェウスのように、真央を失うわけにはいかないのだ。
(……妻?……真央……ちゃんが?)
メガネの心に一瞬動揺が走ったとき、横合いから伸びてきた「手」が激しくメガネの右肘を掴んで揺さぶった。
慌てて彼女を抱く腕に再び力を込めるメガネ。
(危なかった……。気を抜いちゃダメだ。)
気を取り直し、メガネは真央を抱きしめたままカニが這うように、ドアに向かって進み始めた。
(もしあのドアに鍵がかかっていたら……)
メガネの心に今度は不安がよぎった。
もし、あのドアに鍵が掛かっていたら、オレたちはもう光の射す世界に帰れないかもしれない。
もし……鍵がかかっていたら……。
だが、それは全くの杞憂だった。
ドアから数メートルまで近寄ったところで、ドアは勝手に開いたのである。
四角く切り取られた光の中に、一人の男が立っていた。
戸口に立つもの……それは……。
(あれっ?……あの髪型は……もしかして?)
だがメガネより先に、真央がその答えを口にしてしまった。
「ひょっとして総理?」
「そうです…。」
短く答えると、総理は闇の中に一歩踏み出した。
「だめです!総理!ここに入って来たら……。」メガネは思わず叫んだ。「……ここには何か恐ろしいものが……。」
「恐ろしいもの?」総理は足を止めなかった。
「……どこに恐ろしいものがいるんですか?」
闇に囁く声は消えていない。いやそれどころか、今まで以上に声高に囁き会っているというのに…!?
「この声が聞こえないんですか?」今度は真央が叫んだ。
「聞こえませんねぇ。いったい何の声が聞こえるというんですか?」
今は総理も闇の中に立ち、その周りでは囁くどころか北風のように囁きが木魂している。
「聞こえないんです……ね?この恐ろしい声が……?」
真央を抱きしめたまま、メガネは一歩さがった。
さっき耳にした「いれもの」という言葉が脳裏を過ぎったからだ……。
「恐ろしい声ねぇ……。」総理は自分の入って来たドアの前に立ち塞がるような位置で足を止めた。
「……そんな聞こえもしない声よりも……。私には、キミたちの方が恐ろしく思えるけどね。」
「ボクたちが……恐ろしい?」乾いた声でメガネは応じた。
「だってそうじゃないか?キミたちはいったい何を考えているんだい?」
総理は一歩前に踏み出した。
「……日本国の代表として戦う名誉を辞退したり……。」
そしてまた一歩、総理が前に踏み出すと、漆黒の闇の中にも関わらず、何かが形を為すのがメガネと真央には見えた。
その「何か」は総理の肩のあたりに近付くと、すうっと染み込むように同化した。
「あれが『いれもの』なのね!」真央は小さな悲鳴とともに叫んだ。
だが総理にはそんな彼女の言葉は届かない。
「このトーナメントを勝ち抜けば、日本国が地球のリーダーにだってなれるかもしれないのに……。」
また「何か」が形を為し、総理の体に溶け込んだ。
「アメリカを追い抜かせるかもしれないのに……。」
「在日の三国人と手を組んで……。」
「愛国の精神を見失い……。」
総理の言葉のたびに、「何か」が現れ、次々と総理の中に消えていった。
「…そして父なる御国にすら背を向ける。」
総理はピタリと足を止めると、声の限りに絶叫した。
「………貴様らのような若造が、私には、恐ろしくてならん!!」
前にも書いたが、これって絶対SFじゃないよな?
457 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/15(水) 23:21:00
全然SFじゃない、ストーリーにもなってない、まともな人間で理解できる奴はほとんどいないだろ。
怪獣にすりかえられた新種の自慰そのもの。
満たされてないんだろな。
でもこいつにはすごいところが一つだけあるな。
周りがどう思ってるのか、反応が全く読めてないぶん、ある意味エネルギーを感じる。
評判が悪いようだな。
退場するとしよう。
459 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/16(木) 07:43:01
最後にネタだけバラしておきましょう。
黒幕的存在と設定してあった異次元人ヤプールは「虐げられた人々の恨みや憎悪の念が実体したもの」という設定がウルトラマンAで考えられていたらしい。
憎悪が生み出した存在を武力で倒す展開はアホ。
ヤプールは愛でしか滅っせない。
そこでウルトラマンAの男女合体変身が生きてくる。
……番組では、結局そうはならなかったわけですが。
だから「憎悪」対「愛」がひとつのテーマ。
ただ人間は一元的な存在ではないので、右と左、保守と革新、愛と憎をの間を揺れていく。
というわけで「愛」から背中合わせの「憎」が生まれてしまったのが作中の「総理」。
もうひとつのテーマが、「子供→大人、日本人→地球人→宇宙人という成長」。
だから、星飛雄馬vs星一徹のような親との対決が避けられない。
ここでいう「親」はつまりは「日本国」。
日本としての国益の範囲を越えないと、地球人にも宇宙人にもなれない。
そこでここでも保守的なもの象徴、国の象徴、父の象徴として「総理」を登場させた。
準決勝でヤプールの超獣(複数)対ゴジラ、ガメラ、ミニラ、ガイガンの戦争。
決勝では、セコンドについたかっこうのガメラとゴジラの前で、ガイガン対ミニラになる予定でした。
M宇宙ハンター星雲人との和解やバカ?の蘇生があってエンディング……。
ネタが大きすぎました(笑)。
おつかれー
まさか
これで終わらす気じゃないだろうな?
462 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/17(金) 00:57:33
ネタが多すぎなのと、長すぎただけですからあまり気を悪くなさらずに。
気合が入ってましたよ。
ガメ男さん、あまぎさん、お元気にされてますでしょうか。
>>461 いやホントにこれで終らすつもりで(笑)。
クレームがついたら止めるというのは最初から決めてましたから。
「みんなの掲示板なのだから、総意に基づかない限りは進めない」と。
461氏のためにスレ汚し覚悟で予定していた粗筋だけ書くと…。
「総理」は色々あってヤプールの呪縛を脱出し、メガネたちをミニラの元に急がせます。
ガッパは圧倒的な力の差を見せつけますが、太平洋にゴジラが出現したため、ガッパはゴジラと闘うため飛び去ります。
ここまでで第一回戦は終り。
途中は省略して……準決勝はガイガン対イリス、ミニラ対ベロクロンとなります。
ガイガンはイリスのオールレンジアタックに苦戦しますが、終盤に金色のウロコ突きの姿を脱ぎ捨て黒一色に変身します。
昭和版ガイガン(重防御仕様)が平成ガイガン(高機動仕様)にモデルチェンジして、辛くもイリスを撃破。
次の試合で事件が勃発。
控室の鏡の前にいた真央が姿を消します。
すっかり回復していた「総理」が「ヤツラは鏡の向こうにいる!」と教えてくれ、寅さんたちの協力でメガネは鏡の向こうに。
そこで彼は鏡の世界に閉じ込められていたバカ?の精神と再開し、ヤプールの正体=人間の憎しみであると教えられる。
強い愛を裏返せば強い憎しみを生み出せる。
「総理」が狙われたのも「愛国心」が強かったから。
そしてヤプールは愛の心の強い真央を最初から狙っていた。
男女の愛や友情、国や仲間を思う愛、父母からの慈愛、子供からの愛、そうしたあらゆる愛がなければヤプールは倒せない。
正体がバレたヤプールは現実世界に超獣軍団を次々降下させますが……。
これらに対し、ゴジラ、ガメラ、そしてガイガンも立ち上がります。
鏡の世界で互いへの愛にメガネと真央が気づき、外の世界では総理やミリオン、ラジオといった面々が二人の帰還を必死に祈るとき、
その力でついにヤプールの力は後退。鏡の世界に道が開き、二人はもとの世界に帰還。
ミニラを始めとする怪獣たちも超獣軍団を撃滅。
これらより決勝戦はミニラ対ガイガンに。
決勝はガイガンにゴジラ、ミニラにガメラがそれぞれセコンドにつく形で開始。
人間に対する考えに揺れが生じはじめたハンター星雲人と地球側の和解の可能性と絡めつつ、ミニラの勝利で終了。
ただその次に本当の最後の戦い、ミニラ対ゴジラが来ます。
「人間とともに生きる」新しいミニラと「ともには生きられない」古いゴジラの対決。
「古い時代を守ってきた「総理」と新しい時代を模索するメガネの対決」の再演です。
決着は……書かない予定。
実はトーナメナントは壮大な「試験」で、人類の本質を見極めるため企まれたものでした。
試験官は…寅さんとウルトラマンで、トーナメントでの優勝は実はどうでもよかった。
合格した人類は地球管理権を取り戻し、バンデル星からの移民の受け入れや、ハンター星雲との相互訪問などを提唱。
政治的、法律的な部分は「総理」が前面的にバックアップを約束。
こうして宇宙時代の幕が上がります。
最後に「この一年後、メガネはバカ?の義理の弟になった。」と書いてエンディング。
こんな展開でした。
いかがですか?461殿?
466 :
461:2006/03/17(金) 10:06:22
おつかれ
と言いたい処だが何故ゴジラとガメラが出現したのか?
回答宜しく。
>>461 ゴジラはミニラの放った強い意思(一種のテレパシー)をキャッチして目を覚まします。
ところがその内容は彼を著しく困惑させるものでした。
人間とともに、人間たちのために戦うという内容だったからです。
「人間とともに行きよう」というミニラの意思は、父ゴジラにとっては「人間の奴隷」としか理解できない。
人間と対立軸の上に生きてきた父ゴジラは息子に対する怒りから進撃を開始します。
しかし、人間はこれをミニラを助けに来たと誤解し、ゴジラの進撃を歓迎してしまいます。
当初は人間同様「ゴジラはミニラに加勢に来た」と思っていたガッパはゴジラを止めようとしますが、戦いの途中でゴジラの真意に気づき「避けられない、避けてはいけない対決」であると理解して後退してしまいます。
ミニラの加勢とばかり思っていたゴジラが、何故かガイガンの側に立つと、ガメラは当惑しながらミニラの側に立つ。
そしてガイガンとの決勝終了後、父と子は激突。
ガメラの方は、超獣軍団の降下という地球の危機に、足の指の骨折と運動不足をおして出撃しただけです。
468 :
あまぎ:2006/03/17(金) 19:35:18
お疲れさんでした
本気で書いたらスレ1本消化できそうなボリュームのある作品だ。
一部からSFじゃないと言った批判も出てたけど、レアな怪獣から宇宙人まで、十分SF的シチュエーションだと思うよ。
テーマもしっかりしてたし、読んでて楽しかった。
東宝チャンピオン祭の頃のテイストを感じたけど、それも計算のうち?
469 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/17(金) 22:22:15
子供の頃こんな感じで想像し怪獣を戦わせて
遊んでいたなーって
そんな子供の頃のようなストーリーに
キュンってしました。
これはSFじゃなく懐かしいあの頃って感じですね。
おつかれさまです。
機会があればで良いので、どこか別の場所で続きを投下して欲しい…
楽しみにしてたんだけどなあ。残念!!
日本怪獣映画のファイナルウォーズって感じで面白かったです。
う〜ん、途中で終わっちゃったみたいですね。
相変わらず仕事が忙しいので、ゆっくり読もうと思ってメモ帳にコピペしてたんですが・・・
残念です。
>>468、469、470、471、472
そうです。
あのころの特撮やSFの再演も狙いのひとつでした。
ウルトラQを作ったスタッフのインタビューなどを見ると「SF」という言葉が何回でてくることか!
つまりSFは時代の先端を行っていた高視聴率番組のさらにその先にある目標だったんですよ。
だから私たちは、ウルトラマンの彼方にある無限世界=SF世界に自然な形で誘導されてたわけで。
ウルトラマンやマグマ大使がブラウン管に登場したころ、小学校のクラスの学級文庫には大抵子供向けのSFが置いてありましたなぁ。
薬物中毒みたいな勢いで次々読みましたけど。
ちなみに途中で二回ある「これはSFじゃない」というレスは、私自身によるものです。
批判的な意見もあるのは予想していましたから「現に連続投下されている状況では批判的なレスはつけにくいのでは」と考え、批判的なレスも書きやすいようにするため、敢えて自分で書きました。
実は「妄想の暴走でガメ男氏やアマギ氏らスレ住人に迷惑をかけているのでは?」と気になっていまして。
好意的なレスをくださった方も、批判的なレスの方にも、どちらにも感謝いたします。
474 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/22(水) 22:21:28
立派な方だ
仮に映画化されるとしたら
対決を見守るギャラリーの野次が過激化するのは避けられないな
ファイナルウォーズでさえ子供が亀の玩具を
「死ね!このクソ亀野郎!」とか叫んでゴミ箱に投げ捨てていたし
476 :
名無しは無慈悲な夜の女王:2006/03/23(木) 01:55:08
韓国っぽいやり方だ。
ガメラの映画ではゴジラを馬鹿するようなことはしない。
ガメラもゴジラも日本の誇る怪獣映画だから仲良く。
>476
「さらばドジラ」
俺がゴジラ対ガメラやるなら
・ゴジラとガメラに過去の関わりはない
・ゴジラ対ギャオスを冒頭にやってギャオスを補食
だめだ大したネタが思い浮かばないorz
だれも投下しなければ、来週末ごろこんどは3日程度で分割投下開始。
軍事板の住人諸兄のお知恵を拝借した駄文、投下開始。
人様の知恵まで借りといて、結局投下しないワケにもいかんし。
既に完成済みなのだが、連投禁止規定との関係で今日中に全て投下するのは困難。
よって土月か土月火の連続投下になる予定。
では……「再生の日」、投下開始。
「目標捕捉。距離2000。数…………数は……。」
……レーダーは無数の目標を捕捉していた。
あまりに数が多すぎるため目標を標示する光点どうしがくっついてしまい、個々の識別が不可能なほどに…。
その一つ一つが人を食う化鳥(けちょう)だ。
…パイロットの頬を冷たい汗が流れた。
九州は姫神島に最初に現れた個体は餌食を得て、またたくうちに成長。
首都東京を恐怖のどん底に叩き込んだ。
それが今、群をなし日本目指して飛んでいる。
やつらの領土侵入を許せば、阿鼻叫喚の地獄絵図がこの世のものとなるだろう。
絶対に防がねば……。
……この命に代えても。
航空自衛隊F15Jイーグルの編隊は、月光照らす雲の上を「目標」めざし飛び続けていた。
「海自のイージス艦もこっちに向かってるが、到着までにはかなり時間がかかる。それまでは我々だけでやるぞ!」
「了解」「了解…」
僚機から次々返事がかえった。
「まもなく雲が切れたところでちょうどヤツラの上を抑えられているはずだ。
降下と同時にヤツラの群れにありったけのミサイルを叩き込んだら、あとは順次バルカンを乱射して群れの中央を突き抜ける。
群れを突破した機は上昇して再度攻撃!やつらに体勢を立て直すヒマを与えるな。」
「隊長、デカいのはどうしますか?」
「デカいのは、積極的には相手をするな!イージス艦が到着するまで足止めをかければいい。デカいのは海自に任す。いいな!?」
「……了解」
大型の個体は翼長およそ170メートル、推定飛行速度はマッハ4を越すと推定され、飛行時発生する衝撃波だけでも彼らのイーグルが落とされかねない。
「全機降下!」
雲が切れた……。
下には夜の海が、月に照らされ鏡のように光っている。
そしてその面には、巨大なコウモリのような影が無数に舞っていた。
「
「よしっ!全機降下!攻撃開始っ!!」
ギャオスの群れを囲むように閃光が生じた。
空対空ミサイルが咲かせた赤い炎の花!
あの花一輪で、直撃された一匹のみならず周囲の小型個体も巻き込んで落したハズ。
だがそれだけではない。
周囲での爆発を回避し、群れの中央にギャオスが集まった瞬間、まさにその「群れのど真ん中」に大輪の花が咲いた!
まさに一網打尽!
さらに一気に半数以下にまで激減したギャオスの集団を、空自のイーグル編隊がバルカンを乱射しながらぶち抜いた!
バルカンの射線に入った小型ギャオスは、一瞬で塵と化す!
突破したイーグルを追跡するギャオスは、さらに後続のイーグルが撃墜!
対戦中に米軍が編み出した「ゼロ戦落し」の戦法の応用である。
ギャオスの個体数は呆気ないほど簡単に激減した。
「やった、やった!」
降下攻撃を終え上昇してきた僚機の無線が飛び込んで来た。
だが、隊長は到底そんな気分にはなれなかった。
彼はあることに気づいていたのだ。
「バカ野郎!浮かれるんじゃない!ここにいるのは小さいヤツだけだ!デカいのは一匹もいないぞ!」
そのとき、水面から波が剥がれるように何かが浮かびあがると、降下を終え上昇体勢に入ったイーグルに襲いかかった!
「隊長!水面に何かが!」
その交信を最後に砕け散る機体。
「ギャオスだ!」「デカいヤツです!」
「雲の陰の部分を水面ギリギリで飛んでやがったんだ!」
「ロ助のミグの真似かよ!?」
一匹ではない!雲の陰が落ちる海面から、大型から中型までのギャオスが次々舞い上がった!
「しまった!も、もうミサイルは!」「バルカンじゃどうしようもないぞ!?」
「うろたえるな!」恐慌をきたした部下を隊長はどなりつけた。
「……落とせなければ、落す必要は無い!海自や援軍が来るまで、せいぜい引張りまわしてやるんだ!」
「了解!」「了解しました」「了解です。……すみませんでした隊長。」
「あやまることなどない。」動揺してしまったことを詫びる部下に穏やかな口調で隊長は応え…、次の瞬間全く語調を変えて叫んだ「燃料が尽きるまでヤツラと踊る!」
月明かりのダンスホールでイーグルとギャオスが踊る。
掴まれば死。
でも一機も逃げない。
僚機が危なくなれば、他の機がバルカンで救援する。
複数機で連携しながら、中型のギャオスを何匹か撃墜したのはさすがだ。
だが、3匹いる大型ギャオスにはバルカンでは全く歯が立たない。
*このパートは「男の世界」命を賭してギャオスと闘うパイロットの姿を強調。
雲の下は漆黒の闇。雲が切れると眩く射し入る月光。
闇と月光が目まぐるしく入れ代わる世界での空中戦。
しかし対巨大ギャオスの決定打を持たないイーグル編隊は、次第に追い詰められていく。
中型ギャオス数羽を回避した直後、隊長機の正面に真っ黒な「壁」が立ち現れる。
大型ギャオスだ!回避不能!
だが、すぐそこまで迫った大型ギャオスの頭部が、イーグルの背後から飛び込んで来た火球に砕け散らされる!
そして一瞬後、背後の雲間から飛び出し隊長機に追いつく片腕のガメラ。
しばしの並行飛行ののち、イーグルとガメラはそれぞれ反転すると再びギャオスの群れへと立ち向かっていく。
ガメラと空自イーグル編隊の即興によるコラボレイションがスタート。
大型ギャオスに突っ込むガメラ。
その甲羅の影から突如飛び出しギャオスの顔にバルカンを叩き込むイーグル。
ギャオスの視界が塞がれた瞬間、間髪入れずガメラが火球を放ち大型ギャオスをさらに一匹撃破。
小型や中型のギャオスがガメラに殺到するが、イーグルがバルカンでこれを蹴散らし、ガメラに集らせない!
*フィギュアスケートのペアのように、数機のイーグルと飛びまわるガメラ。
さらに海自のイージス艦もついに戦場に到着。
対空ミサイルで攻撃を開始すると、次々撃ち落される小型・中形のギャオス。
すると状況不利と見たか、反転し戦場離脱を計る大型ギャオス。
行く手は日本列島だ。
だが、京都駅でのイリスとの死闘から闘いつづけのガメラには、高速離脱する大型ギャオスを追う力は残されていない。
「悪魔」は日本上空に!?
が、しかし!
「うおおおおおおおおっ!!」
ギャオスの顔面目掛け突っ込む一機のイーグル!
そして激突寸前の脱出。
鼻先にオレンジの火輪が咲き、思わす失速する大型ギャオス。
そこに追いつきざまにガメラが火球を発射!
日本海上に砕け散る最後の大型ギャオス!
*開いたパラシュートごしにそれを仰ぎ見る隊員(曽我)の顔のアップ。そして炎を切裂き飛ぶガメラ。切裂かれた炎からタイトル登場。
「ガメラ対ギャオス対ゴジラ/再生の日」
「自衛隊の活躍でギャオスの大群は殲滅。ギャオス変異体(=イリス)はガメラが倒し、そのガメラも片腕を失う深手を負った。
結果として我々は人類の敵三つをひとまとめに始末できたわけで……。」
テレビの討論番組で防衛省(この駄文では「庁」から「省」に昇格済み)の背広組が「自分たちの成果」を誇っている。
それを食堂で見ているのは、先日の死闘にも参加した空自の男たち。
話題は彼らの活躍を称えるものだが、何故かその表情は冴えない。
「ごちそうさま…。」
番組はまだ終っていないにもかかわらず、若い男が一人席を立った。
残りの男たちもテレビから視線を意図的に外している。
ついさっきまではこうではなかった。
ときおりは拍手まで聞こえていたのに……。
雰囲気が変わったのは先ほどの「役人」の発言が始まってしばらくしてからだった。
ガタン!
大きな音を立て一人の男が立ち上がると、静かな、けれどもよくとおる声で言った。
「おい、チャンネル変えろ。」
そして彼=ギャオス戦の隊長は、静かに食堂を出て行った。
隊長「(先に退出した若い隊員の肩を叩いて)…曽我、どうした?まさかこんな早くに、寝るわけじゃあるまいな?」
若い隊員=曽我「(振り返って)隊長、オレは……。」
隊長「判ってる。…なにも言うな。あの次官だって、『省』に昇格したばかりで成果を示したいだけさ。」
曽我「……ですが、しかし……。」
曽我ばかりではない。
隊長自身も納得できていなかった。
あの死闘は自分たちとガメラによって闘われた。
ガメラがいなくても、自分たちがいなくても、結果は逆になっていたはず。
なのに……
「人類の敵三つをひとまとめに始末できたわけで……」
(くそったれ!)
部下の手前、それは口に出せない言葉だった。
(あの鈍ガメは………あの……鈍ガメは……。)
「……戦友です。」
……それは曽我の独り言だった。
照明に照らされた滑走路を見つめ、彼はもう一度呟いた。
「ガメラはオレの戦友です。」
曽我の肩に手をかけた隊長の手に思わず力が入る。
「ちがうぞ」
滑走路を、そしてその向こうにあるはずの死闘の舞台=日本海に思いを馳せつつ、隊長は続けた。
「あの鈍ガメは……オレたちの……戦友だ。」
「さきほど『人類の敵三つをひとまとめに始末できた』とおっしゃいましたが…。」
さっきの討論番組はまだ続いていた。
司会者は参加した防衛省の次官に尋ねた。
「……まだ最後の敵が残っていますよね。」
「というと……ゴジラのことですか?」
「そうです。生き残っているガメラをゴジラを戦わせて、生き残った方を総力上げて撃滅するというのはどうでしょうか?そうすれば、最後の敵=ゴジラも……。」
「そう都合よくはいかんでしょう。」割って入ったのは、布袋様のように福々しく太ったSF作家だった。
「……ゴジラとガメラは顔を合わせるのを互いに避けあっているとしか思えません。ガメラが出ているときはゴジラ出ず。ゴジラ暴れるときはガメラ現れずです。」
「そんな……バカバカしい。」出席していた中年俳優が汗を拭き拭き言った。
「……オリオン座とサソリ座じゃないんですから、同時に天にかからないなんてことは……。」
「ありえないと?」
「ええ。」
「SF作家ごとき」という内心の思いが滲み出たような、そっけない答えだったのだが…。
「いえ、生物学的に充分ありうることだと思います。」
思わぬところから、SF作家に援軍の手が差し伸べられた。
「……自然の世界では、真の強敵同士は顔を合わせないものです。」
司会者は話の続きを促した。「…どうぞお続け下さい。長嶺先生。」
長嶺真弓……。
はじめてマスコミに名が出たころの「花」のような可憐さと較べると、幾たびも潜った「修羅場」は確実にかの彼女を鍛え上げていた。
でも虚飾の世界を徘徊する海千山千のコメンテイターたちの中では、彼女はやはり可憐な花のようにも見える……。
「…たとえばライオンは成獣の象を襲いません。インドではトラとライオンが共存していますが、住み分けがハッキリしていてやはり顔を合わせません。
ですから、ガメラにとって最強の相手がゴジラ、ゴジラにとって最強の存在がガメラであるなら、自然の掟として両者は顔を合わせるのを避けると思います。」
「では長峰先生…。」
「…『長嶺』でけっこうです。」
司会者は改めてきり出した。
「それでは長嶺さん。今回の戦いでガメラは片腕を失いました。これによってゴジラとのあいだの戦力の均衡は崩れているのではないでしょうか?」
「はい。戦力の均衡が崩れた以上……」*ここで長嶺真弓の顔アップ「……ガメラとゴジラが激突する可能性は飛躍的に高くなっていると思います。」
長嶺真弓が東京で討論番組に出演し、空自の男たちが割り切れぬ思いを胸に夜を見つめるころ……。
……。
病院のベッドから明りの消えた天井を見つめつづける少女がいた。
彼女の虚ろな瞳を、様々な影が去来する。
……父母のいるマンションを押しつぶすガメラ。
…弟といっしょに引き取られた叔母の家。
………イジワルな級友、親切だった級友。
そして祠で出会ったもの……イリス。
(みんな、みんな死んでしまった……。叔母さんたちも、友だちも……。……あたしがそう望んだから?)
京都駅での激突。ガメラ対イリス。
(イリスも死んだ。アタシを追って京都まで来て……。あれもみんな、アタシのせい?)
毎夜毎夜繰り返された問いかけだった。
イリスはギャオスと同じ人食い。だから叔母さんたちを…吸収した。
そして最後にはアタシも吸収しようとしてやって来た。
(みんなそう言ってくれる。みんな優しいから……。……優しくないのはアタシだけ。)
涙が頬をつたった。
(アタシが優しくないから、みんなを死なせてしまった。叔母さんたちも、村のみんなも、イリスも……。)
また、同じところに辿り着いた。
こうして少女の胸は夜毎人知れず贖罪の血を流しつづけていたのだ。
だが、悲しい儀式はその夜終った…。
彼女=比良坂綾奈は、その夜、不思議な夢を見たのである。
*ここまでで主な人物紹介は終り。
子供たちに「ロトの勇者」とまで呼ばれる空自の男たちは、納得しかねる思いを抱えている。
長嶺は……ガメラ映画のヒロインとしてゴジラとの接点となる。
そして少女は一人血を流す。
以後は粗筋で……。
日本海でメタンハイドレイドの探査を行っていた調査船から、緊急の連絡が入った。
海底の地形探知中に、巨大な動く物体を探知したというのだ。
それは探知領域の端を掠めるようによぎったという。
当該海域には日本であると外国であるとを問わず、潜水艦は一隻も活動していなかった。
と……なれば。
探査地点はついひと月ほどまえ、ガメラと空自がギャオスの大群を迎え撃ったポイントから東に十数キロしか離れていなかった。
「ガメラ捕捉!」
政府は色めき立った。
あの戦いから僅かにひと月では、ガメラのキズはまだ癒えていないに違いない!いまがチャンスだ!“
渋谷の大破壊の記憶もまだ生々しかったその時期、ガメラをギャオス同様に敵視する人々は少なくなかった。
長嶺ら一部有志の活動も空しく、ついに政府はガメラ撃滅に向け動き出す……。
「ガメラ撃滅作戦」決行の前日、空自の基地で小さな騒ぎが起こる。
あの曽我が対ガメラ戦への参加を拒否したのだ。
「隊長だっておっしゃられたではありませんか!ガメラは自分らの戦友であると!?」
「……ああ、言った。」
「ならば!」
「言ったが……しかし、命令は命令だ。政府が攻撃を正式決定すれば、我々自衛官にそれに逆らう権利は無い。」
悲しく睨み合う曽我と隊長。
やがて曽我は、隊長と仲間たちに背を向けた。
「友とは……ガメラとは、オレは戦えません。」
ガメラ攻撃が閣議決定したのは、曽我が辞表を提出した三日後のことだった。
海自の対潜部隊が海底に息を潜めるように貼り付く「目標」を捕捉。
上空海域に十重二十重のレーダー網が被せられ、大小の艦船・航空機で取囲んだ。
そして対怪獣用に開発された強力爆雷が投下され、魚雷が次々発射された。
次々上がる水柱!
そしてソナーは海底から浮上する巨大物体の影を捉えた。
海面に浮上したら一気に叩く!
ありとあらゆる火器が「ガメラ」浮上予定の海面に向けられる。
やがて海が逆立ったかの水柱とともに、黒い巨体が浮上した。
……だが、
ガメラではない!
あ、あれは!?
怒りに燃える眼差しで周囲の艦船軍を一睨みすると……。
「ゴジラ」は、
白熱する恐怖の放射能熱線を吐き出した。
「ガメラじゃない!?」その驚きから貴重な先生のチャンスを失った海自の艦艇は、為す術もないまま、次々炎に包まれていった。
文字通りの「火の海」へと、ゴジラはいったん姿を消す。
ゴジラが日本海に焦熱地獄を現出させた日の夜。
比良坂綾奈はまたあの夢を見た。
ここしばらく毎夜続いている夢だ。
白い霧が流れる中、流れに逆らい彼女は歩いている。
霧は気体というより液体のように綾奈の体に纏いつくが、遡ることの抵抗には不思議とならない。
しばらく流れを遡っていくと、流れの上手から歌が聞こえてきた。
はじめて夢に見た夜はかすかだった歌も、夜毎に力強さを増し、今夜はもうすぐそこで歌っているように聞こえる。
血を流す綾奈の心の傷口を塞ごうとするように、ときに力強く、ときに優しく、歌は彼女を包んでいく。
やがて霧のベールの向こうに、人影が………!
突然のゴジラ出現は長嶺にとっても予想外の事態だった。
だが、驚く真弓にさらに追い討ちがかかった。
収容されていた「施設」から、比良坂綾奈が姿を消したというのだ。
驚いて自ら「施設」に出向く長嶺。
「施設」の方でも警察に捜索依頼を出していたが……。
綾奈の自殺を心配する長嶺に、「施設」の主治医は言った。
「ここ一週間ほどなんですけど、自分を責めるのを止めたっていうのか……、随分雰囲気が変わってきてたんですよね。
窓から向こうのお山をじいっと眺めてたりして。」
だが、彼も綾奈の具体的な行方には心当たりが無いという……。
「施設」の玄関前で、途方に暮れ立ち尽くす長嶺に見知らぬ中年男が不意に声をかけてきた。
「あの……失礼ですが、長嶺真弓先生でしょうか?」
「有名爬虫類学者の万石」だと中年男は名乗った。
*この部分、極力万石を「無害なオタク」として描写すること。
なんと万石は、比良坂綾奈に会いに来たというのだ。
「それでしたら残念ですが……。」
綾奈は失踪し行方も判らないことを告げる長嶺。
だが、万石からは思わぬ言葉がかえってきた。
「綾奈ちゃんの行く先でしたら……、私がご案内できるかもしれませんよ。うっしっしっし……。」
長嶺真弓は、万石ともに軽四輪駆動車で紀州山塊の奥地へと向かっていた。
ハンドルを握るのは曽我と紹介された若い男。
曽我という男は、思うところあるのか?表情が暗く、自身のことも含めほとんど喋らなかった。
しかし、長嶺は身のこなしから彼を「軍関係者」と感じている。
(曽我さんはたぶん自衛官……、なら、万石という人も自衛隊の関係者?)
彼等の正体は、別に探り出すまでもなかった。
話題がガメラとギャオスのことに、そして無残な失敗に終ったガメラ撃滅作戦のことになったとき、それまで黙って聞いていた曽我がにわかに口を開いたのだ。
万石「……うししししし。いろいろ意見もあると思いますが、でもガメラ関連の災害は……」
曽我「先生、俺の前でガメラのことは悪く言わないでください。」
このとき長嶺は直感的に曽我の正体を悟る。
「曽我さん、あなたこの前ガメラと一緒にギャオスと闘った空自のパイロットね!?」
長嶺の見立ては正しかった。
曽我はガメラ撃滅作戦には参加しなかった。
そして隊長以下仲間たちは心ならずもガメラ撃滅戦に出撃……。
だがそこで待ち受けていたのはより攻撃性の強いゴジラであった。
仲間たちの大半はそこで戦死。
(こんなことなら……)曽我は地上で悲報を耳にすることとなった。
(……こんなことならに俺もいっしょに……)
傷心の曽我を「拾い上げた」のが、趣味のフィールドワークを通して知り合った万石だったのである。
長嶺ら3人は、主要な登山道に続く鉄道やバス路線の駅で綾奈の足取りを探し求めた。
長嶺「万石さん、教えていただけますか?なぜ、あなたは、綾奈ちゃんが向かったのがこの辺りであるとお考えなのですか?」
しばしのハグラカシの試みのあと、観念した万石はついに大きな地図を取り出すと、車のボンネットの上に広げて見せた。
この辺りの地図かと思いきや、なんとそれは日本全図。
しかも朝鮮半島や台湾など周辺地域も含め描かれている。
万石「さきごろ日本を目指したギャオスの大群は……ロシア・中国・朝鮮半島など各地から集結し、このコースで日本に向かってきました……。」
万石は地図上に一本の線を引いてみせた。
万石「実はあれ以外にも小規模の群れが幾つか太平洋側から日本を目指しておりまして、それぞれの飛行経路は……。」
そして万石は次々と地図上に飛行経路を書き込んでいった。
飛行経路の線は、日本の紀伊半島中心部で交差している!?
長嶺「……では万石先生は、ギャオスの群れは全てこの山塊を目指して飛んでいたと言われるのですね?」
うなづく万石。
長嶺「でも、それと綾奈ちゃんの失踪とどういう関係が?」
そのとき、駅の近所の売店で聞き込みをしていた曽我が息せき切って駆け戻って来た。
曽我「まちがいありません!綾奈ちゃんはここで電車を降りてます。売店のオバチャンが見かけたそうです。」
「……こんな人里ところにいるはずはないですね。うしししし。」
謎の言葉を洩らす万石。
専用の装備を持たない少女が入り込める場所は限られている。
さらに………。
万石「人家に近い場所ではないですね。いひひ……。大きな鍾乳洞とか……地割れとかが……あると理想的なんですが。」
運良く3人は、山歩きをしていた地元住民からとある情報を聞き込んだ。
登山口から徒歩で3時間ほど奥にある断崖が崩落し、そこに亀裂が顔を覗かせているというのだ。
しかも、夜になるとそこから笛でも吹くような音がするという。
風が抜けるからにはどこかに抜けているはずと、地元の男は言うが……。
万石「今からでは着いたときには夕暮れになってしまいますよ、いししししし……。夜はまずい。危険すぎますからね、うししししし。」
結局3人は、その日はいったん麓に引き返し、情報収集と装備を整えることに費やして、目的の亀裂へは、明日の早朝出発することになった。
登山客向けの宿泊施設、薄暗い照明の下、長嶺は万石を問い詰めた。
知っていること、知っていると思っていること、隠さず全て話して欲しいと。
ついに重く口を開く万石。
だが彼が語ったのは……奇怪極まる仮説であった。
万石「これまで出現したギャオスは全てメス…ということでしたね?」
長嶺「ええそうです。常識的には二対あるはずの染色体が一対だけ。しかもそれはメスのものでした。」
万石「つまりギャオスはメスだけの無性生殖で繁殖する?」
長嶺「それしか方法はないはずです。……万石先生は何か他の方法があると?」
万石「うししし、ひとつありますよ。………長嶺さんはアリマキという昆虫をご存知でしょうか?」
長嶺「ありまき?」
万石「草木にたかるちっちゃな虫……、アブラムシと呼ぶこともあるアレです。」
長嶺「それが……ギャオスとなんの関係が?」
万石「あの昆虫はメスだけの無性生殖で増殖します。ところがしばらくすると、子孫の世代に突然変異でオスが出現するのです。」
長嶺「……メスからオスが?」
万石「そしていったんオスが生まれると、今度は生殖の形態が変わって有性生殖になるのです。」
「ギャオスは古代人が作った生物兵器」
それは長嶺自身の立てた仮説だった。
兵器である以上、もちろん使い手によるコントロールが可能でなければならない。
そのため、古代人はギャオスをメスだけの存在として作った。
オスよりメスの方がおとなしく扱いやすいだろうし、それにメスだけならば勝手に繁殖してしまう危険もない………はずだった。
だがギャオスは、何時からか?作り手の支配を離れて生存するようになる。
その原因は……。
万石「うひうひうひひ……なにかの手違いだったのか……メスばかりだったギャオスの中に、オスが発生してしまったのです。」
長嶺「ま、まさかそれじゃあ有性生殖での繁殖が始まったと!?」
万石「そうです。有性生殖が始まった時点で、ギャオスは作り手の管理から一人歩きを始めてしまったのでしょうな、うしししし。」
万石の仮説の根拠は二つあった。
ひとつは「イリスの形態がギャオスのそれと異なりすぎること。」
単純にコピーを繰り返すだけの繁殖形態では、あそこまでの変異は起こり難い。
しかし有性生殖なら?
もともと有性生殖は生命を多様化させ生き残れる確立を少しでも増やすという戦略ではないのか?
そしてもうひとつは「メスのギャオスの集団が一斉に一箇所目指し飛んでいたということ。」
ライオンやセイウチのように、メスの大集団を支配する強大なオスが存在し、メスの集団はこれに呼び寄せられていたとすれば?
そして万石の仮説は、その奇怪さの佳境とも言うべき部分にさしかかっていった。
長嶺「ですが先生。それと綾奈ちゃんのこととはどういう関係が?」
万石「強大なオスのことを便宜上『キング』と呼びましょう。キングはメスの同族を世界中から呼び集めました。
しかし、それはガメラと軍の協力で殲滅されてしまった。それで………………。」
長嶺「『それで……』なんなんですか?最後までおっしゃってください。」
万石「キングは……新たな花嫁を招き寄せたのではないでしょうか?」
長嶺「ま、まさか!?そんな、バカなことが……」
思わず息を呑む長嶺。構わず自説を続ける万石。
万石「綾奈ちゃんは京都駅で一度ギャオス変異体に吸収されていますね?あのとき、ギャオスの『何か』と綾奈ちゃんの『何か』が入れ代わったとは考えられないでしょうか?そしてその『何か』がキングの声を綾奈ちゃんに伝えたのだとしたら?」
長嶺「そんなこと、絶対に………………あっ?!」
長嶺は思い当たった。
綾奈の主治医が言った、綾奈が最近毎晩みていた夢のことを。
万石「綾奈ちゃんは『クイーン』として『キング』の招待を受けたのです。」
「セイウチやアザラシ、ライオンなど、一匹のオスが複数のメスを従える生物では、オスはメスより体格が大きく力も強いのが普通です。
もしギャオスの『キング』がこの山塊のどこかに潜んでいるのなら、それはいままで姿を現したどのギャオスよりも強大な個体でしょう。」
万石の考えでは、「花嫁」綾奈とともにいるはずの「花婿」は、最大最強のギャオスのはずだった。
だが明確な物証も無しに、こんな怪談まがいの話をしても誰も信じてくれるはずがない。
ましてや日本近海にゴジラが潜伏し、国を挙げて神経を尖らせている時期である。
綾奈の奪還は3人だけでやるしかない!
3人のバンパイヤスレイヤーがそう決死の覚悟を決めたその夜……。
……ゴジラが福井に上陸した。
海上での捕捉に失敗し、ゴジラに上陸を果たされてしまう。
陸の敵が相手では海自のできることは限られている。
陸自も避難民が道路に溢れてしまい前に進めない。
結局ゴジラ撃退作戦は空自だけしか間に合わなかった。
例のイーグル編隊にも出撃。
ギャオスの大群との戦い、そして日本海での戦闘で、編隊の戦力は1/3ほどにまで低下している。
できることは、いくらもない。
住民が避難する時間をかせぐため、ゴジラに対し決死の遅滞戦闘を挑むが……。
ゴジラの熱線がついに隊長機を掠めると、機はたちまちコントロールを失った。
避難民の上にだけは落すまいと必死の努力を傾け、機を海上まで誘導する隊長だが、海上に出られたときには高度が低すぎ最早脱出は不可能。
月明かりに光る銀色の海面がぐんぐん迫る!
「戦友の鈍ガメを裏切ったバチかな?」
そう思って隊長がにやっと笑った瞬間だ。
海中から墜落する隊長機に劣らぬ速度で海中から岩が飛び出したかと思うと、中から手がにゅっと飛び出し、イーグルをムンズと引っ掴んだ。
隊長「お、おまえは!?」
空飛ぶ巨岩=ガメラは、両足のジェットを吹かし軟着陸すると、掴んでいたジェット戦闘機をゆっくり砂浜に下ろした。
キャノピーが開き、中から出てきた人間はガメラを見上げて片手を顔の横に添える(*映像的には「敬礼をした」)。
ガメラのアタマがそれに応えて上下したようにも見える…。
そのとき、岬へと連なる海沿いの岩山がガラガラと崩れ落ち、そのむこうから黒い巨体が悠然と姿を現した。
値踏みするようにガメラを睨みつけるゴジラの視線は、ガメラの右腕で止った。
ガメラはそれを敢然と受け止める。
失われた右手以外にも、ガメラの体には幾つも生々しい傷跡が刻まれている。
隊長「だめだ!ガメラ!ここは退くんだ!その体でゴジラと闘っても勝ち目は無い!」
ずんっ!
……地響きをたててガメラは一歩前進した。
隊長「そ、それが……オマエの答えなのか!?」
ずんっ!っとさらにもう一歩。
人間のため?
それともゴジラによる放射能汚染から地球環境を守るため?
いずれにせよ、ガメラに退く気は無い。
*戦闘シーンは略。
片腕のガメラはゴジラに真正面からぶつかっていった。
攻撃力で互角。
機動力なら海中で互角、ゴジラ有利、空中ならばガメラのワンサイド。
だが格闘戦では片腕のハンデは決定的に作用する。
善戦空しく、ガメラはゴジラの熱線をまともに受け、海中へと墜落してしまう……。
だがゴジラは止めを刺すべく海にガメラを追うかと思いきや、踵を返すとさらに内陸へと進撃を開始した。
「ゴジラ上陸!」の報を耳にしつつ、長嶺たちは山奥へと分け入っていった。
途中、綾奈のものと思われる女もののスニーカーを発見。
爬虫類や両生類がらみのフィールドワークでこの手の世界に慣れている万石が曽我と長嶺を引っ張る形で進んでいく。
折れた小枝や踏まれた草花、乱れた落ち葉など些細な手ががりから、「スニーカーの落とし主」の動きを追っていく万石。
その行き着いた先は、まさしく地元住民が教えてくれた「亀裂の現れた断崖」であった。
そしてその亀裂の前で、曽我がスニーカーの残りの片方を発見する。
まちがいない。
「スニーカーの落とし主」はここにやって来たのだ。
「ここからは僕が戦闘で行きます。お二人は後ろから……。」
そう言うと曽我は真っ先立って踏み入っていった。
吸血鬼の王宮へと……。
地下水のたまった地底湖を渡り、鍾乳石の森を抜け、地底の谷を越えた長嶺たちは幽かに聞こえるか細い歌声を耳にする。
歌声を頼りに闇を突き進んだ3人は、地底の大ホールでとうとう綾奈を発見する。
ボロボロの服にキズだらけの素足という姿で、彼女はホール天井の闇に向かって一人静かに歌っていた。
「綾奈ちゃん!」駆け寄る長嶺。
曽我と万石は注意深くあたりに気を配るが、ホールには長嶺と綾奈ら四人以外の気配は無い。
だが、「救助」に来た長嶺たちに、綾奈が激しい抵抗を示した。
「私はここにいる!ここにいたいの!」
すると綾奈の叫びに応えるように、大ホールじゅうにフルートのような音が響きだした。
長嶺「この笛の音は!?」
万石「王の目覚めですよ……」
曽根「まずい!逃げろ!」
しかし、綾奈が何故か突然抵抗を止めると、笛の音もぴたっと止った。
長嶺たちは綾奈の手を引き、地底洞窟世界から命からがら脱出する。
問題の亀裂まで行きに3時間半、帰りは下りにも関わらず綾奈づれなので約4時間弱、軽7時間半の道行きで日は既に西に傾き始めていた。
万石「夜になればね、きっと王が追ってきますですよ、うしししし…。すこしでも明るいところに逃げ込まないと…。」
長峰「明るいところにですか?」
万石「うししし、そう考えるべきでしょうな。綾奈ちゃんの夢、地元の人たちが聞いたという笛のような音、そして地底の大洞窟。
すべてに共通するのは『暗闇』ですから、いしししし……。」
曽我「それなら行く先はひとつだ。近畿圏最大の大都市、大阪です!それにあそこならゴジラの進撃コースからも外れてて安全です。」
長峰たちは曽我の車で一路「ネオンの海」大阪へと向かった。
午後の3時をまわったころ、車は大阪中心部に乗り入れ、市内最大のホテルにチェックインできた。
そこから曽我・長峰・万石は八方に連絡し援助を乞うが、自衛隊や警察はゴジラへの対応に手一杯であり、どこからも助けの手は差し伸べられない。
長峰たちは「恐怖の一夜」を覚悟する……。
そして……。
「恐怖の夜」は確かにやって来た。
だがそれは、長峰も曽我も、そして万石にすら想像できないものだったのだ。
「畜生!なぜゴジラは急にコースを変えたんだ!?」と曽我。
「そんなことより……まずいですよ。」窓の外を指差し、万石も叫んだ。「……光が少ない!」
市街を眺め長峰も顔を曇らせた。
たしかに光が少ない。
ネオンが消え、残った明りは街灯や信号ぐらい。
しかもその僅かな街灯に石をぶつけて消してしまう者までいた。
「……40年前のゴジラ上陸を覚えている市民が、ゴジラの怒りを避けようと光を消してるんだわ!」
万石が悲痛に叫んだ。
「だがそれではゴジラは避けられても、『王』が来てしまいます。」
ゴジラは内陸深くを目指し進撃した。
途中陸自の戦車と自走砲部隊が行く手を遮ろうとするが、自分の進行コース上の戦車のみ文字通り蹴散らすとそのまま一気に通過。
琵琶湖で空自と陸自の防衛ラインに三度目の衝突となるが、ひたすら猛突進するゴジラの足は止められない。
「いったいゴジラは何を急いでいるのか?また何処を目指しているのか?」がマスコミの口の端に上りはじめたころ、それまで殆ど直線的に移動していたゴジラの進行コースが突如西に急旋回する。
早すぎる進行速度と突然のコース変更に振り回され、なんの避難誘導もできないままに大阪はゴジラの侵入を迎えた。
相互に矛盾する様々な「情報」や「デマ」の洪水があっというまに大阪市内を覆い尽くす。
「何処でもいいから逃げよう」とする住民が鉄道のホームに溢れ、客が次々線路に落ちる。
道路の大渋滞で、車は1mmも進めない。
そして長峰らが閉じ込められた「寝たきり状態」の大阪に、ついにゴジラが侵入する。
だが、現れたのはゴジラだけではなかった。
「畜生!なぜゴジラは急にコースを変えたんだ!?」と曽我。
「そんなことより……まずいですよ。」窓の外を指差し、万石も叫んだ。「……光が少ない!」
市街を眺め長峰も顔を曇らせた。
たしかに光が少ない。
ネオンが消え、残った明りは街灯や信号ぐらい。
しかもその僅かな街灯に石をぶつけて消してしまう者までいた。
「……40年前のゴジラ上陸を覚えている大阪市民が、ゴジラの怒りを避けようと光を消してるんだわ!」
*「40年前のゴジラ上陸」=「ゴジラの逆襲」。劇中大阪では灯火管制が敷かれている。
万石が悲痛に叫んだ。
「だがそれではゴジラは避けられても、『王』が来てしまいます。」
ゴジラは迫り、夜もやって来る。
追い詰められる3人。
そんななか、比良坂綾奈だけは、迫る危機など知らぬふうに、聞こえるか聞こえぬかの幽かな声で、あの歌を歌いつづけていた。
彼方の高層ビルがトランプの家のように崩れ落ち、ゴジラが巨大な姿を表す。
その様は長峰らのホテルの部屋の窓からも一望できた。
明らかにゴジラは、まっすぐこのホテルに向かっている!
曽我「何故だ!?突然進撃コースを変えたときもそうだ。まるでゴジラは……ボクたちを狙っているみたいに…!」
長峰「(はっとしたように)……私たちじゃないわ。ゴジラが狙っているのは……。」
そして彼女は、静かに歌う綾奈を振り返った。
長峰「ガメラは花嫁が花婿のもとに行こうとするのを命懸けで阻止したわ。そして綾奈ちゃんは……。」
万石「……新たな花嫁……ですな。うしししし。」
もうゴジラとホテルのあいだの距離は500メートルほどしか離れていない!
熱線の有効射程にも入っているはずだ。
いったん足を止めると、敵の位置を改めて確認するようにホテルを、いや長峰や綾奈のいる一室を睨みつけるゴジラ!
だが、その視線が不意に北へと逸れた!?
それと同時に、北の彼方から回転する炎の輪が、真一文字に飛来する!
曽我「ガ、ガメラが来た!」
長峰「ガメラが!」
曽我「でも、アイツは片腕。昨夜の戦いでもゴジラに完敗しています。」
万石「それでも野獣の闘争本能でリターンマッチを挑みますか?うしししし……。」
曽我「まさかゴジラの破壊からボクらを守ろうと……!?」
綾奈「ガメ……ラ……?(静かに立ち上がる綾奈)」
三者三様ならぬ四者四様の思いで見つめるなか、ゴジラ対ガメラ、二度目の対決が始まる。
昨夜の闘いではゴジラと格闘戦を演じたガメラだったが、今夜は違った。
着陸しないまま、空中から火球を放っていく。
これに地上からの熱線で応戦するゴジラ。
地対空の戦いが続く。
「破壊神」と呼ばれるゴジラ。
しかしその熱線は空中に向けて放たれるので特に被害は無い。
一方、「守護神」とも呼ばれるガメラの火球は、地上に向け放たれるので、ゴジラに回避されるとビルを打ち壊し街を焼き払った。
地対空の戦いの足元で、渋谷の大破壊が何倍にもなって再現される。
長峰「ゴジラがギャオスの繁殖を止めようとしてやって来たのなら、なんでガメラはゴジラと闘うの!?」
曽我「止めてくれガメラ!その闘い方だと大変な数の犠牲者が!」
万石「いししし…、言っても無駄ですよ。野獣の本能で一番勝算のある闘い方をしてるだけなんですから。」
*長峰の肩越しにゴジラとガメラの闘争を見つめる綾奈。だがその綾奈の瞳に人ならぬ存在の瞳がダブッて見える。
ゴジラとガメラの対決の中、太陽は西の果てへと沈んでいった。
太陽の退場とともに、長峰らが綾奈を発見したあの洞窟周辺を局地的な大地震が襲う。
そして岩の下から巨大な翼ある姿が……。
ついにゴジラの熱線がガメラを捉えた!
弾き飛ばされバランスを失い、ビル群の中へと墜落するガメラ。
そしてそのまま立ち上がらない。
勝負がついたと見たゴジラは、再び綾奈のいるホテルへと向きを帰る。
もうゴジラの行く手を阻むものはいない。
市街で燃え盛る炎に照り映え、朱色に見えるゴジラの体。
それはまるで赤鬼のようだ。
ズシン……、ズシン。
ホテルに迫るゴジラ。
綾奈を自分の背中で庇うようにゴジラの前に身を晒す長峰、曽我。
間近に迫るゴジラを、憧れと畏怖と、そして愛情までこもった複雑な眼差しで見つめる万石。
そのときだ。
歌うのを止め、綾奈がポツリと呟いた。
「彼が来たわ。」
もうゴジラと綾奈たちのいるホテルとの距離は
300メートルほどか?
……しかしそこで破壊の王の足が止る。
ゴジラの眼光が鋭さを増し、口の端がまくれあがって白いキバが露わになった。
曽我「ど、どうしたんだ?ゴジラは何を!?」
綾奈「……彼が来たわ。」
長峰「ま、まさか?」
綾奈「(さっきよりもずっと大きな声で)彼が来たわ。」
そして綾奈は、盾となって自分の前に立つ長峰と曽我を押し退けると、ホテル正面の露台(バルコニー)へと飛び出した!
街の火災による上昇気流が、綾奈の髪を激しく嬲り、炎は彼女の姿をあたかも戦いの女神のように照らし出す。
その綾奈の前に、白い帳がベールのようにゆっくりと舞い下りてきたのだ!
綾奈を危険な露台から連れ戻そうと飛び出した長嶺と曽我は、「ベール」の上を見上げて凍りつく。
曽我「し、白いギャオス!?」
長嶺「アルビノ・ギャオス!これが『キング』なのね!?」
突然変異体であるオス、白子のギャオス=「キング」はゴジラに対する防波堤のように、ホテルの前面いっぱいに翼を広げ立ちはだかった。
反動でもつけるように僅かに胸を反らしてから、ゴジラは必殺の熱線を吐き出した!
しかし白いギャオスは両翼を弾丸か豆の鞘のように折り畳むとゴジラの熱線を真っ向から受け止める!
白い翼が銀色に輝き、反射でもしたのか周囲の建物から次々と火の手が上がった。
だが、熱線放射が終ってみると、肝心のギャオスには焼け焦げひとつついていない!
熱線が決め手にならないとみると、ゴジラはブルドーザーのように前進を開始した。
格闘戦を挑む気なのだ!
ギャオスが盾となったので長嶺たちはいまのところ全くの無傷だった。
だが、目と鼻の先で巨獣同士が激突している以上、この部屋に長居はできない。
曽我「もうここにはいられない。逃げよう。さあ、綾奈ちゃんも……。」
しかし綾奈は曽我の手を払い除けた。
綾奈「放っておいて!私のことなら放っておいて。」
長嶺「何を言うの?!綾奈ちゃん!」
綾奈「私はここにいなくちゃいけないの!私のために彼が戦ってくれているから、私だけ逃げちゃいけないの!」
万石「彼とは……やはりキミは花嫁なんですな!」
綾奈「花嫁?いったい何を言っているの!?彼は私の悲しみを感じ取って言葉をかけてくれたの。
だから私も彼の淋しさを紛らわせるために、歌ってあげただけよ!」
長嶺「彼のために歌った??……それじゃ、さっきまで歌っていたのは!?」
綾奈「あれは彼の種族の歌。彼の孤独を慰めるために歌っていたの。」
長嶺「種族の歌………(急にハッとしたように)そうよ歌だわ!ゴジラは綾奈ちゃんの歌を追ってやって来たのよ。」
曽我「そうか!ゴジラは綾奈ちゃんの歌をギャオスの歌と勘違いして!?」
万石「なるほど、あり得ぬことではありませんね。でもその話はまたの機会に……、モタモタしてると逃げ遅れますよ!」
突進するゴジラ!
これに対しギャオスは差し渡し200メートルはあろうかという両翼を展開!
そして羽ばたく!
たちまち巻き起こる大突風!
ゴジラ対ガメラの激突でなんとか倒壊を免れたビルも、この突風の前には一瞬でなぎ倒された。
キバを剥き前進しようとするゴジラですら、ジリジリ押し返される!
だが翼を開いたということは……。
セビレが光ったかと思うと、次の瞬間ゴジラの口から白い閃光が迸った。
白い熱線は突風を切裂いてギャオスに命中。
破壊力に数歩後退するギャオス。
だが、ホテル寸前で踏み止まった。
まだホテルの中には綾奈がいるのだ。
抵抗する綾奈を引き摺るように、長嶺たちは所々崩落しかかったホテルの中を進んでいた。
綾奈「だめ!放して!私はここに居たいの!居なきゃいけないの!!」
長嶺「聞いて綾奈ちゃん!ここにいてはいけないの!アナタがここに居たら、沢山の人が巻き添えになってしまうの!」
綾奈「(急に抵抗が止み、悲しい顔で…)巻き添えに?たくさんの人が?」
このとき外で猛烈な爆発音!
そして廊下の窓から見えていたギャオスの背中がこちらに崩れるようにこちらに迫ってくるが、なんとか寸前で踏み止まった。
万石「見なさい綾奈ちゃん!キミがここに踏ん張ってたら、彼だって戦えないんだよ。さあ、行きましょう、うしししし。」
抵抗するのを止めた綾奈に曽我が肩を貸すかたちで、四人は地上へと下って行った。