クトゥルフ/クトゥルー/Cthulhu -タイタス・九ロウ-
おかしい。あれで終わりにするはずだったのに。なぜまた投稿してしまうのか。
これは私の意志では―と言い訳しつつカキコ。
――おまえが「門」なのだ――
どういう意味だ。
湖の調査が始まった。
空輸されてきた潜水艇が進水していく。別に閉所恐怖症じゃないが、今回は
あれに乗るのは願い下げだ。湖底で待っているはずのものを考えると。
本当は止めたいのだが無理だろう。説明できないから。無事に帰ってくるよう
祈るだけだ。
非常線の外で警官がハイカーを追い返している。水道局の職員が二人、所在
無げに湖水を見つめていた。
輸送機の中が騒がしい。湖面に目をやる。
泡立っていた。ひどく粘っこい泡。湖底から射す光―何が光るというのだ?
予想より早い。
誰にも見られないよう、輸送機の陰を回って藪に隠れた。走り出す。
門を開け。
ちょっと待て。ここじゃまずい。
仲間が死ぬぞ。
うるさい。黙ってろ。話しかけるな。頭が痛い。
小さな丘をひとつ越えた。ここまで来れば、誰も見ていないはずだ。
見られてはならない―見た人間は多分狂死するだろう。
胸ポケットに手を入れる。
手の中に握り締めている方の端―どこかありえない角度からこの世界に突き
出しているかのようにぼやけているその端を見なければ、万年筆かポケット
ライトといっても通るかもしれない。
ご丁寧にも秋葉原で買ってきたような押しボタン付だ。すべてが悪夢の中、
こんなところだけ変に現実的なのは、かえって馬鹿にされているようで
腹が立つ。
右手を掲げた。
ボタンを押す。
光が爆発した。禍々しい、暴虐な異界の光。荒れ狂い渦巻く光の中心から
「あれ」が這い出してくる―飛び出す―いつの間にか目の前に―ま、待て
―来るな―
目が合った。
血走ったうつろな目。生命に対する憎悪と渇望に飢えた目だ。
ぞっとして思わず殴ってしまった。
銀色の手で。
親父は鉄道模型マニアだった。半畳位のジオラマを作っていたっけ。
幼稚園のころ中に入って駅を踏ん付けたときの泣き笑い顔を思い出す。
人がゴミのようだ。ばらばらと逃げていく。
いや。ちょっと待て。ここはどこだ。
腐臭を撒き散らす口の中には嫌な感じの歯がびっしりと―爬虫類に対する
嘲笑を込めたグロテスクな皮膚―長いかぎ爪が頚動脈を狙って―
…巨人の闘争は神話において普遍的に見られるモチーフであるが…
先生、ご無沙汰してます。こんな無味乾燥な職業でなく、先生が誘って
下さったときに人類学教室に移っていればよかったかも…
時間が無い。
あまりにも強壮たる存在に世界が悲鳴を上げる。その傷をふさぎ、異物を
追い出そうとするあがき。
痛い。締め付けられる痛み。排斥されようとしている。
門が閉じる前にこいつを滅ぼせ。
呪術めいた構え。異界のエネルギーが溢れ出す。迸る。
可愛そうに、潜水艇の二人は痣だらけだった。あの狭い艇内で滅茶苦茶に
振り回されたのだから。だが命があっただけ幸運だと思ってくれ。
あの巨人はなんだったんでしょう。知らないよ。
…いや、警告はしておこう。きっとまた現れるんじゃないかな。
そうだ。おぞましい確信がある。「あれ」の言った通りになると。
――おまえは「門」だ――
そういう意味か。