選挙を銀河英雄伝説風に語るスレ 第二期

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780名無しは無慈悲な夜の女王
2006年2月某日、
民主党本部において通常国会のための作戦会議が開かれた。

前原の顔色はさえなかった。
彼は、衆議院選の敗北によって、民主党が反対野党化する危機は遠のくと考えていたのだ。
だが実際はそうはならなかった。
自分の若さ、あるいは甘さを思い知らされる結果となったのである。

会議が始まると、本日の進行役である人物が口を開いた。

「今回の国会は、わが党結党以来の政権奪取の壮挙であると信じます。
国対本部参謀としてこの戦いに参加させて頂けるとは、
政治家としての名誉、これに過ぎたるはありません」

抑揚に乏しい、原稿を棒読みするような声の主は、永田寿康である。
血色の悪い顔は肉付きが薄く、実際の年齢よりも幼く見えさせる。
ぎょろりとした目と、いつも薄ら笑いを浮かべてるような口元が
彼に対する印象をやや暗く不気味なものにしていた。

永田が延々と政権奪取の壮挙――つまり、自分自身が立案した計画を、
美辞麗句を並べ立てて説明した後、続いて発言したのは馬渕だった。

「我々は議員である以上、ゆけと命令があればどこへでも行く。
まして、国民を苦しめる自民党政権を倒すと言うのであれば喜んで戦おう。
だが、いうまでもなく雄図と無謀はイコールではない。
今回の政局の戦略上の目的が奈辺にあるのか、迂遠ながらお聞きしたい」

「全疑惑を追求し、国会の審議を妨害する。
それだけで、与党の心胆を寒からしめることができましょう」

それが永田の回答であった。
781名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/18(土) 03:43:48
「では、情報源の確かさは論じないわけか」

「それは高度の柔軟性を維持しつつ、
臨機応変にすることになろうかと思われます。」

馬渕が眉をしかめて不満の意を表した。

「もう少し具体的に言ってもらえんかな。あまりに抽象的すぎる」

「要するに行き当たりばったり、ということではないのかね」

皮肉のスパイスが永田の表情を歪める。発言したのは小沢一郎だった。

会場内が重い空気に包まれる。
永田は、さすがに重鎮に対する遠慮もあるのか、丁重に無視をした。
前原はややためらった後に、質問をした。

「今回の国会を政権交代の機会と定めた理由をお聞きしたい」

「政局には、機というものがあります」
永田は、前原に向かって教えを説くようにとくとくと語りはじめた。

「その機を逃しては、運命そのものに逆らうことになります。
あのとき政権を取れておればと、後日になって悔やんでも、
時すでに遅しということになりましょう」

「つまり、現在こそが自民党から政権を奪う、攻勢の時だと言いたいのか」

「 『大』攻勢 です 」

永田が訂正した。
782名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/18(土) 03:44:37
「耐震偽装問題、牛肉輸入問題によって、自民党は狼狽してなすところを知らないでしょう。
まさにこの時機、空前の規模の民主党の牛歩が長蛇の列をなし、
堀江メールのコピーを掲げて進むところ、勝利以外の何物がありましょう」

永田の楽観論を前原は制した。

「相手はあの小泉自民党だ。彼の政局の強さは想像を絶するものがある。
もう少し、情報の正確さや世論を考慮に入れて、
いま一度、慎重な国会対策計画を立案すべきではないのか」

大前提として、党の構想そのものが間違っている、と前原は言いたかった。

だが、永田は居丈高に反論した。

「敵を過大評価し、必要以上に恐れるのは、指導者として最も恥ずべきところ。
まして、それが味方の士気を削ぎ、その決断と行動力を鈍らせるとあっては、
意図すると否とにかかわらず、結果として利敵行為に類するものとなりましょう。
どうかその点、注意されたい」

会議用テーブルが激しい音とともに揺れ、怒気をはらんだ空気が室内に流れた。
小沢一郎が、掌を叩きつけたのである。

「永田くん、君の今の発言は礼を失しているのではないか」

「どこがです?」 永田は黒い目を小刻みに左右に震わせながら返した。

「君の意見に賛同せず、慎重論を唱えたからと言って
それを利敵行為呼ばわりするのが節度ある発言と言えるのか」
783名無しは無慈悲な夜の女王:2006/02/18(土) 03:46:53
「わたくしは一般論を申し上げたまでです。
一個人に対する誹謗と取られては、はなはだ迷惑です」

永田の薄い頬肉がヒクヒクと動いている。
その様子を見た前原は、腹が立つ気にもなれなかった。

「・・・そもそも、今回の国会は利権政治の暴圧に苦しむ日本国1億3千万の民を
解放し、崇高な民主党の大義――政権交代を実現するためのものです。
これに反対する者は、結果として自民党に味方するものと言わざるを得ません。
わたくしの言うところは誤っておりますでしょうか」

声が甲高くなるにつれて、会議の場は鎮静していった。
感動したのではなく、白けきったのであろう。

「たとえ敵に与党の強みあり、創価学会の支援あり、
あるいは想像を絶するわが党のスキャンダルネタがあろうとも、怯むわけにはいきません。
わが党が民主・博愛・友愛の大義にもとづいて行動すれば
無党派の民衆は歓呼して我々に応え、進んで支持率を上げるでしょう・・・」

永田の演説が続く中、前原は胸中に暗い影が落ちるのを感じていた。

自民党の政局運営などというものを前原は恐れない。
恐れるのは、小泉の人気がいまだに無党派を惹きつけていることと、
民主党自身の錯誤――日本の有権者が、まともな論理展開よりも
なにがなんでも与党を批判することを求めている、という考え――
であった。それは勝手な期待であって、予測ではない。
そのような要素を計算に入れて政局運営を考えてよいわけがなかった・・・。