選挙を銀河英雄伝説風に語るスレ

このエントリーをはてなブックマークに追加
449名無しは無慈悲な夜の女王

「先生、どうぞおすわりください」

会長に対する敬称で、神崎は呼びかけた。全身で恭謙の意を表しているが、
それは洗練された演技であって、心のうちから自然に湧き出るものではない。
池田大作は傲慢というより、礼節というものに無関心な態度で、進められた椅子に腰を下ろした。

「昨日、そなたが言ったことは真実か」

挨拶の必要も認めないらしく、冷ややかに糾問する。

「さようで。選挙支援活動その他について、自民党に対する協力および援助の比重を重くします。
 急激にではありませんが」

「すると、自民党と民主党との勢力の比が崩れよう。それをどう利用するのか」

「ですから、小泉純一郎首相に民主党を潰させ、しかる後に彼を抹殺して
 その権益をすべて手中に収める。それでよろしくはありませんか」

公明党代表の言葉を聞く教祖の顔に、まず驚きの顔があらわれ、
次いで疑惑が音もなく翼をひろげていった。

「……うまい考えではあろうが、いささか虫がよくはないか。
 あの小僧はそれほど甘くないし、安倍とかいう曲者もついている。
 そうやすやすとこちらの思惑に乗るとも思えぬが」

「なかなか情勢に精通していらっしゃいますな」

神崎は愛想がよい。
450名無しは無慈悲な夜の女王:2005/09/05(月) 22:53:32

「しかし、小泉首相にしても、安倍幹事長にしても、全知全能というわけではありません。
 乗じる隙はありますし、なければ作ることもできるでしょう」

小泉が全能であれば、昨年、参院選で民主党の躍進を許すことはなかったはずではないか。

「利権にしろ権力にしろ、集中すればするほど、小さな部分を制することによって全体を支配することができますからな。
 来たるべき新内閣において小泉の出身派閥である森派──いや、小泉本人を陥れ、内閣の中枢を押さえれば、
 それがすなわち政権の支配に直結するというしだいで……」

「だがな、民主党の執行部たちが、我々の手から遠くにいるわけではない。
 我ら創価学会の集金力によって頸を押さえられているし、元経世会系の扱いやすい議員も多い。
 自民党に加担するのはよいが、せっかくの民主の手駒を無為に失うことになりはせぬか。
 我らの用語で言えば、お布施が無駄になる。そうではないか」

教祖の指摘は鋭かった。精神のバランスはともかく、けっして知的に劣悪なわけではないのである。

「いやいや、そうはなりません、閣下。民主の執行部は、民主党それ自体を内部から崩壊させる腐食剤として使えます。
 およそ、組織内が強固であるのに、外的の攻撃のみで滅亡した組織というものはありませんからな。
 内部の腐敗が、外部からの脅威を助長するのです。そして、ここが肝心ですが、組織というものは、
 下から上へ向かって腐敗が進むということは絶対にないのです。まず頂上から腐り始める。ひとつの例外もありません」

力説する神崎を、教祖は皮肉な光をたたえた瞳で見やった。

「公明党も、我が創価の組織などと称しているが、形式上は一政党だ。
 民主党のように頂上が腐り始めてはおるまいな」

「これは手厳しい……創価の先鋒の責任、肝に銘じておきましょう。
 ところで、硬い話はこのくらいにしておきませんかな」

饗宴の用意がある、と、代表が言うのをすげなく謝絶して教祖が出て行くと、
入れ替わって一人の中年が現れた。神崎が昨年秋に任命した幹事長、冬柴である。
451名無しは無慈悲な夜の女王:2005/09/05(月) 22:54:10

「それにしても、チェスの駒は動く方向が定まっていますが、人間はそうではありません。
 彼らを思いのままに動かし、ものの役に立てるのは、なかなか困難なことだと思いますが……」

「いいところを突くな。そう、人間の心理と行動はチェスの駒よりはるかに複雑だ。
 それを自分の思い通りにするには、より単純化させればよい」

「と言いますと?」

「相手をある状況に追い込み、行動の自由を奪い、選択肢をすくなくするのだ。
 たとえば民主党の岡田克也だが……」

岡田の立場は今微妙である。民主党の幹部たちは、岡田に対して愛憎並存ともいうべき精神状態にある。
岡田がその金脈を持って首相の座に立った時、利権を独占されるのではないか、と言う不安。

そして、冬柴を通じて神崎が扇動したことだが、岡田が旧社会党勢力に染められ、
閣僚名簿から旧自民勢力を排除するのではないか、という恐怖。

この両者があれば、民主党幹部としては岡田の存在を抹殺してしまいたいところだろう。

だが岡田の選挙戦のイメージは、民主党にとって必要不可欠である。
岡田がいなくなれば、戦わずして民主党は瓦解しかねない。
皮肉なことだが、自由民主党総裁・小泉純一郎の存在こそが、岡田を救っているともいえるのだ。

小泉がいなくなれば、民主党の幹部たちは狂喜乱舞し、もはや不要となった岡田を抹殺するだろう。
議員職まで奪うとは限らないが、政治的あるいは性的スキャンダルをでっち上げて名声を失墜させ、
党執行部から追放する程度のことは、平然とやってのけるだろう。

一流の権力者の目的は、権力によって何をなすか、にあるが、二流の権力者の目的は、
権力を保持し続けること自体にあるからだ。そして現在の民主党執行部は明らかに二流である……。
452名無しは無慈悲な夜の女王:2005/09/05(月) 22:54:41

「岡田は、いま細い糸の上に立っている。糸の一端は民主党に、もう一端は自民党にかかっているのだが、
 このバランスが保たれているかぎり、岡田はとにかく不安定でも立っていられる。しかし……」

「われわれ公明党が、その糸を切るというわけですか」

「切らなくともよい。より細くけずっていけばよいのだ。そうすれば岡田の選択肢はどんどん減っていく。
 もう二、三年もすれば、岡田は二つの道のどちらかをとるしかなくなるだろう。
 ひとつは、民主党の執行部によって粛清される道。
 もうひとつは、現在の執行部を追放して、自分の派閥を確立する道だ」

「その前に、小泉純一郎との選挙戦で敗北するという可能性もありますが……」

執拗に幹事長は問題提起をする。

「そこまで小泉にいい思いはさせられんな」

神崎の口調は淡白なものだったが、その底に不透明なものがひそんでいた。
いなされたような思いが、幹事長をとらえた。

「また、逆に、岡田民主党が小泉自民党を選挙で打倒することもありえます。そのときにはどう対処なさいますか」

「幹事長……」

党首の声が微妙に変化していた。
453名無しは無慈悲な夜の女王:2005/09/05(月) 22:55:16

「私はしゃべりすぎたようだし、君は聞きすぎたようだな。
 ここで哲学を語る以外にも、我々のやるべきことは多い。
 第一、この計画で綿貫を盟主としてかつぎ出すのは当然として、
 実行部隊の長をまだ人選していないのだ。まずそれをすませてもらおう」

「……失礼しました。近日中に人選を済ませて報告にあがります」

幹事長が部屋を出て行くと、神崎は中肉中背の体を深々と椅子に沈めた。
この計画が実現すれば、小泉体制下の自由民主党と、民主党とは、不倶戴天の敵同士となるだろう。
識見の高い政治家が出て、両勢力間の和平共存を図ったりする前に、実行に移す必要があった。

公明党の党首は、たくましいあごの付近に食肉獣めいた微笑をたたえた。

気づかせてはならないのだ──
二大政党制における野党の役割は、従来のような批判オンリーではいけない、と言う事実に。
日本の国益を第一の目的として意識するとき、民主党と自民党の政策は一部妥協が可能である、と言う事実に。
気づかせてはならない。

無党派層を公明支持に向けるため、民主党の無益な批判戦術は、いま少し続行させねばならない。
永遠に、ではない。あと三年か四年くらいのものだ。
そしてこの政争が終息したとき、議会と、それらを支持する大衆とを、何人が支配しているか、
想像力の貧困な輩には考えもつかないだろう……。