選挙を銀河英雄伝説風に語るスレ

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17名無しは無慈悲な夜の女王

綿貫民輔衆院議長が小泉の部屋を訪れて、ある宣言を下のは8月5日の朝である。
「首相、私は自民党における最後の任務をこれからはたすつもりだ。貴方の許可をもらいたいのだが」
「どうなさるのです、綿貫さん?」
自分の洞察力と構想力の限界を思い知らされつつ、小泉は問うた。

綿貫の口調にわざとらしさはなかった。
「不平分子や動揺した連中を引き連れて、新党を立ち上げる」
小泉の心に一滴の冷雨が落ちた。自分は見限られたのだろうか。協力するに足りぬ人物と思われたのだろうか。
「ご決心は変わりませんか、綿貫さん。あなたがいらっしゃってこそ、自民党は与党として機能しますのに……」
数十年間、自民党の陰謀と暗躍の陰で、堅実に自己の責務を果たしてきた衆院議長は、重々しく首を振って見せた。

「いや、むしろ私がいないほうがいいのだよ。もう私がいて君の役に立つ事は何もない。自由にさせてくれんものかね」
綿貫の風貌に、歳月の刻印が押されていた。頭には肌色の部分が点在し、それを視認した小泉は、ことばを失った。

「それに、角栄氏が逝き、竹下や小渕もいなくなった。疲れもしたし寂しくもなったよ。
 私は自民党最大派閥にいたおかげで、才能や実績以上の地位を得た。ありがたい、と思っている」
淡々とした声に現在の境地が垣間見えた。

「いま私が反対を公言すれば、日和見を決め込んでいる連中は私の元に集まってくる。
 綿貫のような幹部でさえ反対するのだから解散はない、という形で自己正当化が出来るからな。
 私が何を狙っているか、わかってもらえるだろうか」

綿貫の心情を小泉はある程度理解しえたように思った。
自分の現在の支持率で、この人を引きとめておくのは不可能なことも確かだった。
これまで自民党のためにつくしてくれた事を感謝し、こころよく送り出すべきだ、と思った。
18名無しは無慈悲な夜の女王:2005/08/17(水) 18:59:57

「どうぞ議長のなさりたいようになさってください。お疲れ様でした。
 ほんとうに、いままでありがとうございました」

立ち去る議長の後姿に、小泉はもう一度頭を下げた。
冷静で、緻密で、常識と秩序を重んじ、礼儀や規則に口やかましい人だった。
あれほど肩が薄かっただろうか。直線に伸ばしていたはずの背中が、いつの間にか丸くなっていたのだろうか。
さまざまなことに気がついた小泉の背中は自然に下がったのだった。


小泉の部屋を出た綿貫は、安倍と行きあい、郵政民営化の採決で、反対票を投じる事を年少の同僚に告げた。

「私がいないほうが、君たちにとってはよかろう。思う存分改革を進めれて」
「否定はしませんよ。ですが、改革を推進する楽しみの半分は、抵抗勢力を踏み潰すことにあるのでね」
冗談以外の成分を声にこめて、安倍は右手を差し出した。

「世間はきっとあなたのことを悪く言いますよ。損な役まわりをなさるものだ」
「なに、私は耐えるだけですむ。君らと同行する苦労にくらべればささやかなものさ」

ふたりは握手をかわして別れた。
19名無しは無慈悲な夜の女王:2005/08/17(水) 19:00:33


郵政族の議員達が、1.5ダースほど顔と表情をそろえて小泉の元に現れたのは、その日のうちであった。
法案の採決を前にする党代表を前に、ことさら言い訳じみた嘆願がなされた。

「綿貫氏が反対票を投じるそうだが、それとは無関係に吾々も反対票を投じることにした。
 決定をいちおう知らせておこうと思ってね。本来、そんな義務もないのだが……」

「そうですか」
小泉の反応は温かみを欠き、郵政族の議員達は不快げに身じろぎした。
「悪くおもわんで欲しい。もともと郵政民営化法案自体、君の独走による部分が大きかったのだ。
 吾々は君のつくりあげた雰囲気に引きずられて旨みのない民営化運動に巻き込まれてしまった」

他人に責任を負わせようとする彼等の見えすいた逃避ぶりが、小泉の感性を、負の方向へ強烈に刺激した。
「私は独裁者でしたか?私に反対する自由が、あなた方にはなかったのですか」

郵政族の議員達は、羞恥心を仮眠させていたのだが、首相の声はそれらを揺りおこしかけた。
議員達のそれをねじ伏せようとする努力が声にあらわれた。

「とにかく、自民党支持率も党内支持率も、下降線をたどり始めた。
 小泉内閣は、世論でも党内でも支持を失ったわけだ。これ以上の改革と党内争いに何の意味があるというのかね」
「…………」
「もはや目先の改革にこだわるより、もっと大局に立って、アジアの平和と統一に貢献すべき時期だ。
 郵政民営化や靖国参拝は何物も生み出さない。君らも改革の夢想に固執して改革者を気取ったりせぬがよかろう」

忍耐力のすべてを小泉は動員した。
20名無しは無慈悲な夜の女王:2005/08/17(水) 19:01:08

「あなたがたが反対票を投じられるのを、私は制めはしません。
 ですから、あなたがたも気持ちよく採決にのぞんでください。
 何も今日までのあなた方自身を否定なさる必要はないでしょう。
 ご苦労様でした、と申し上げておきます。もうこれで終わりにしてよろしいでしょうか」

議員達が尊大に退出してくれたので、小泉は椅子に座り直した。
いま彼は綿貫の真意を知りえた。こういう連中を、綿貫議長は整理してくれるのだ。
自分たちだけでは、外聞や解散を恐れて、反対票を投じる勇気もない人々を、綿貫はいぶりだしてくれる。
造反者の汚名を切る事を承知の上で。
小泉は綿貫に感謝し、彼のような人を閣僚に選んだ自分の識見にあらためて感銘を覚えた。

このように揺れ動く人々の中で、微動だにしない人もいる。
かつて自民党の総裁であった河野洋平は、郵政民営化を見守る一方、
黙々と日中友好および日韓友好のための政策立案にしたがっていた。

「私はいままで何度も考えたことがあった。
あのとき、自民党総裁でありながら首相になれなかったとき、引退していたほうがよかったのかもしれないと……」

秘書(在日中国人)に向けて、彼はそう述懐した。

「だが、いまはそう思わん。70歳近くまで、私は権力を求める生きかたをしてきた。
そうではない生きかたもあることが、ようやくわかってきたのでな、それを教えてくれた人たちに、恩なり借なり、返さねばなるまい」

秘書はうなずいた。母国の利益にとって便利極まりない、この衆院議員の政治生命を、彼等は十年以上引き伸ばし続けているのである。
その選択が正しかったか否か、一度ならず彼らも苦慮したのだが、どうやら誤ってはいないようであった。
利敵行為続きであろうと、河野自身が選択した道である。それを止めようとは思わなかった。


8月X日、小泉純一郎は第87代内閣総理大臣の名において自民党解散を宣言し、正式な手続きに入った。
同時に、綿貫民輔衆院議長は新党立ち上げを宣言、自民党での政治生命を終えた。