597 :
ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :
小川一水「老人ヴォールの惑星」 7点
厨房なSFヲタの読み物かと思いきや、SF魂を感じさせるなかなか面白い作品集
であった。好評につき、以下に各話講評を記してみたく思う。
「ギャルナフカの迷宮」
投宮刑(表題であるギャルナフカの迷宮への幽閉)の刑期の終わりとは、
反社会的とされた囚人たちにより「社会」が構築された時だったというシニカルな
展開が面白いが、さらに娑婆(?)の世界のような圧制社会でなくても、
秩序がある社会構築が可能であったという2重の皮肉の面白さがある。
70年代のSF作家(小松御大、筒井堂等)であれば、迷宮社会の住人たちを突き放す
ような形でエンドとしたように思うが、街へと向かう主人公たちという
前向きなエンディングがこの作家らしい。
「老ヴォールの惑星」
タイトルは「老ヴォールの遺伝子」(メタファーとしての「遺伝子」というワード使用)
とした方が、その内容を良く伝えているやに思う。
まさに、「ヴォール死すともその精神は死なず」という感がある。
短い作ながら、人類と異星の知的生命体のFCの成功を描いて深い印象を残す。
「幸せになる箱庭」
若きエンジニア助手(日本人)と女性予備パイロットのカップル登場という
ジュブナイルまがいのOPには萎えるものがあったが、
後半のトランザウトをめぐる主人公(高美)とクインビー(知性体)との禅問答
のような論争は読み応え十分、G・イーガンを超え小松御大に迫るかのような
SOWに溢れるものであった。ラストは一応のハッピーエンディング。
「漂った男」
解説では星新一先生のS・Sを例に挙げた比較がなされているが、
やはりこの状況設定(図太いユーモアも含めて)は、小松御大に似たものがあると
言い得る。
全面海に覆われた巨大な惑星に不時着した戦闘機パイロットの運命は…
70年代の作品であれば、やはり主人公(タテルマ)には悲劇的なラストが待って
いたのではないかと思われるが…
「足が、踏んだ」の結びの一行が何気に感動的だ。
収録作品全作を通じての徹底したハッピーエンド志向は逆にすがすがしいものがある。