今日読んだSF/FT/HRの感想 4冊目

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489 ◆GAcHAPiInk
「なつかしく、謎めいて」
Modern&Classic
著)アーシュラ K.ル・グウィン, 訳)谷垣 暁美
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309204503

通して読めば分かるが、非常に高度な筆致による「キノの旅」のようなものか。
自分は本を読むうちにいろんな夢想に邪魔されることが多いんだが、
特にル=グィン女史の作品には影響を受けやすい。ので、「オールウエイズカミングホーム」なんか
一回読んだだけでは簡素が書けないのだ。これも同じなので読後感だけを一気に紹介してみたい。

・シータ・ドゥリープ式チェンジング・プレーンズ
 シータって女性が「発見」するくだり。日本人だったら多分同じ環境でも
通勤電車で座る技術なんかを見出そうとするだろう。
どうでもいいが、自分が直訳したら「カンナを取り替える」になる。

・玉蜀黍の髪の女
 この小説は、いくつもの短編で構成されている、その冒頭作品、ということが
よく分かる一章。遺伝子改変ネタはこの作品全体で扱われるネタである。

・アソヌの沈黙
 「もし仮に、しゃべる機能を失う人類があれば、彼らはどんな文化を有するだろうか?」という主題。
鰯の頭にも信心を見出す人と、主人公の現実的な感覚のギャップが素敵。

・その人たちもここにいる
 自分に似た人たちが自分とまったく異なる者である、とはどうあるべきか?という主題。
魂ではなく、情報としての多重人格なんだな、と拙い読者は感じた。

(続く)
490 ◆GAcHAPiInk :2005/11/14(月) 02:27:08
>>489の続き
・ヴェクシの怒り
 怒りそのものの衝動によって大局的な破壊行動を伴わない世界について。
一人一人が世界を滅ぼすスイッチを持った世界を描いた漫画が昔あったが、そんなのを思い出した。
ヴェクシ人の異形の創造にも唸った。

・渡りをする人々
 これはもう文字通り。自分的にはマイフェイバリットのひとつ。せつなさ、悲しみ、そして喜びが
語りの中に漂うさまに浸るべきだろう。

・夜を通る道
 これはネタバレになりかねんので主題については説明できないが、まあサトラレか。
ただし、あっちは主に言語に極限した機能だったが、これは…。ひとつの現象に対して
様々な立場の人の意見を描く、という女史の特徴がよく現れてると思う。

・ヘーニャの王族たち
 笑うところですよ、奥さん。でもさ、この章読んでひとしきり大笑いしたあと、ふと気づいた。
日本の皇族って…。まあそれはともかく、あちらでも語尾に「にょ」だとか「へーちょ」だとか「ポン酢」とかの
音に面白さを感じるんだな。

・四つの悲惨な物語
 マイフェイバリットのひとつ。特にブルトとターヴの夫婦神のやり取りは絶妙。無論、大笑いするところです。

・グレート・ジョイ
 「シリの海」思い出した。

(さらに続く)
491 ◆GAcHAPiInk :2005/11/14(月) 02:27:55
>>490のさらに続き
・眠らない島
 この辺から文化人類学的な考察が増えてくる。哲学者とイモリの違い。

・海星のような言語
 言語学ではどうしてもレムには適わないだろうに…なんて斜交いな見方をしながら読んでたんだが
どうしてどうして、レムは言語に情報理論的な構造を目指したのに対して、あくまでも女史はコミュニケーションツールとして
言語を構築していて、実に驚いた。それにしてもどうしても分からないのは、日本語で
「星明りの下でコオロギが鳴いている」と「交差点でタクシーが渋滞に陥っている」をひとつの語でどう表すのか?ということで。

・謎の建築物
 「ヴェクシの怒り」「渡り〜」そして「夜を通る道」と基本的に同じスタンスで別の衝動を描く。世界観構築技術は凄い。

・翼人間の選択
 マイフェイバリットNO.1。っていうかこれを読みたいがためにこんな夜中までぶっ通しで読んでたんですはい。
自分も人間が飛ぶためのどんな設定が必要かかなり考えた時期がありましたよ…。

・不死の人の島
 この作品群のなかではもしかしたら一番普通の作品かもしれない。昔のホラーなんかでありがちなオチだった。

・しっちゃかめっちゃか
 途中から女史がマジブチ切れるわけだけど、その辺踏まえてこれは大阪弁に翻訳すると面白かったと思う、残念。

 全体的に訳者の頑張りにエールを送りたくなった。よくよく読むと、この訳者、女性で”まだ”40代だというのに
脳医学関係の翻訳かなりこなしてるわけね、納得。総じて思うにこのタイトルで正しかったようです。

(クドイくらい続く)
492 ◆GAcHAPiInk :2005/11/14(月) 02:28:19
>>491の終わり

 SF作家というのはどうにもいい加減な輩が多くって、大局的なエクソダスだとかハルマゲドンだとかを描くだけ描いておいて
そのあとその世界がどうなったかってーと、一様に「皆滅んだ」か「助かった」か「めでたしめでたし」で終わりがちなんだけど、
ル=グィン女史は、その後のその世界を描くことにしたんだと思う。他の作者たちの無責任を引き取って。
その姿勢は大人だと思う。
ユートピアの限界点を常に突破しようとする姿勢は「オールウェイズ~~」にも通じるものがあるけど、時々失敗してる世界にも
優しい視点で見つめる彼女が素敵だ。決して彼女はあきらめないんだな。

無論10点