怪奇小説家 都筑道夫

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42ミステリ板住人 ◆hr24ALqEXE
都筑道夫氏の代表的なホラー・ミステリの講評を紹介しておきましょう。
「七十五羽の烏」を読んだ。
この作品の構成の巧いところは、第2、第3の事件(この表現が正確)が第1の殺人の
見事なミスディレクションの役割を果していることである。
ミステリを読み慣れた読者なら、第1の事件発生時に、通常ではない行動をとったと
主張する人物に着目し、消去法を用いれば比較的簡単に犯人を指摘し得るかと思う。
しかし、第2、第3の事件の発生により、第1の事件の犯人を確知し得たと思った読者もその確信が揺らぎ迷妄の世界へ入ってしまうのである。
探偵役物部太郎の浮世離れしたキャラクターは、凄惨な事件をあくまで絵空事の推理
ゲームの世界であると読者に認識させる点で、十分な効果を上げている。
しかしながら、最後に探偵が事件の関係者一同を集めて、
全ての謎を快刀乱麻に解決し、犯人を指摘する展開こそ、本格ミステリの醍醐味だと思うのだが、この点で、物語中盤で第2の事件の謎解きだけ先行してなされてしまい、
探偵とその助手が謎解き後にコソーリと退場してしまうことは、カタルシスを欠き、
不満が残るものとなっている。
地方の旧家(と言っても茨城県だが)を舞台にした怪談仕立てでありながら、
横溝正史作品のようなサスペンスを盛り上げる効果が出ていないこと。
作者の歴史に関する薀蓄がくど過ぎてかったるい感を受けること。
この辺も、本作の主たる欠点になるかと思う。
43ミステリ板住人 ◆hr24ALqEXE :04/01/07 23:30
「七十五羽の烏」に続くホラー・ミステリ「最長不倒距離」の講評をお届けします。
「最長不倒距離」
物部太郎シリーズ第2弾だが、前作「七十五羽の烏」にも遠く及ばない駄作である。
ほとんど欠点しか目に付かない作品だが、それを以下に列挙してみることとしよう。
1 幽霊の正体が「覗き見出来る部屋だったから」というのはあまりに粗末な設定に
  過ぎる。
2 ワトスン役の片岡直次郎が犯行現場を工作したり、線香で作ったメッセージで
  犯人を挑発したり、やり過ぎである。
  本来、探偵役と同様にニュートラルであるべきキャラをこのような形で使用する
  のは読者に対してアンフェアの極みであるといえる。
3 ガイシャと犯人は知り合いであり、うまい具合にガイシャの本来の面会の相手である
  片岡と遭遇することもなく、野天風呂で偶然に出会い凶行が発生する。
  この第1の殺人に至る偶然を何重にも積み重ねた展開には、完全に萎えるものがある。
4 第2の殺人は第1の殺人よりは、理詰めに構成されているとは思う。
  椅子とリーフレットの位置から犯人を推理して行く過程はなかなか読ませる。
  しかし、スキーを突っかえ棒にした密室とはあまりにアホ過ぎないだろうか?
5 素人の女性が死体に「死化粧」を施すシーンは、あまりにリアリティを欠くものが
  ある。いくら浮世離れした推理ゲームの世界であるとはいえ、もう少し説得力がある
  設定にする必要がある。
6 スノーモービルを利用した第3の殺人は、偶然性に頼り、あまりに強引に過ぎる。