131 :
ミステリ板住人 ◆hr24ALqEXE :
「地底旅行」と「失われた世界」
ジュール・ヴェルヌ「地底旅行」 (1864年)
コナン・ドイル 「失われた世界」(1912年)
後者の著者であるコナンの念頭に、ドーヴァー海峡を挟んだ隣国の
偉大な先人(ジュール)の手になる前者が無かったことは考えられない。
両作品における簡単に目に付く限りの共通点を列挙してみよう。
1 本格的な冒険(地底や秘境の探検)の開始に至るまでのプロローグが長い。
共に全体の半分近くの頁数を費やしている。
前触りは慎重におこない、後半への期待を高めて行くという
両巨匠のストーリー・テリングが見事である。
2 共に冒険もののヒーローらしからぬキャラである青年の一人称による物語である。
「地底・・」の主人公アクセルは、理科系な書生という趣、
気絶したり、迷子になったり、情無い感さえあるが人間臭い青年である。
「失われた…」の主人公マローンは、新聞記者という職業人らしく、アクセルよりは、
落ち着いた感じがあるが、マスコミ人らしい腰の軽さが目立つ人物である。
3 「地底・・」のリーデンブロック教授は屈強な大男、
「失われた…」のチャレンジャー教授は猿に似た小男、
容貌は大きく異なるものの、共に奇人だが天才的な学者という設定。
132 :
ミステリ板住人 ◆hr24ALqEXE :04/02/08 14:53
4 アクセルは地下の港に、マローンは秘境の湖に、それぞれ恋人の名を命名する。
しかし、物語の最後で2人の恋の行方は対照的な結末を迎えることになる。
5 主人公=語り手以外に、ヒーロー的な人物が存在する。
「地底…」の案内人ハンス、「失われた…」のロックストン卿である。
作品自体は、彼らと奇人の天才学者のコンビによる三人称の物語にしても
成立しそうである。
*3、4で挙げた異なる点は、後発だったコナンの工夫であろう。
6 地球空洞説、秘境アマゾン、いずれも死語と化した感がある。
しかし、両作品ともに法螺話としての面白さは、いまだに健在。
両作家の天才的筆力にはあらためて脱帽する。
(以上、 ジ・サイエンティフィック・マガジン誌 95年1月号より抜粋)