何度も繰り返す愛の証。僕は彼女にキスをした。
僕が彼女に会ったのは、僕が20歳で彼女が12歳の時だった。
愛らしい笑顔にえくぼを浮べて、僕に微笑みかける。まるで花のように。
僕はすこし照れながら、彼女の前髪を掻き揚げた。
僕は彼女にキスをした。
次に会ったとき、僕は20歳で彼女は16歳になっていた。
ツンとした胸はすこしふくらんでいて、目のやり場に困る。
会うなり「キスして」と言われドギマギしたが、そんなこともお構いなく、
彼女は私のヒザの上に乗り、目を閉じて口をすぼめた。
僕は彼女にキスをした。
彼女が20歳になって、僕はやっと彼女に愛撫を教える。
くちびる、耳、首筋、エトセトラ、エトセトラ。
キャッキャとくすぐったそうにしたが、赤らげた頬は別の感覚を意味していた、
僕は彼女にキスをした。
他の被験者の中には、すでに妊娠させてしまったケダモノもいたが、無粋にもほどがある。
遂に、彼女は24歳、ぼくの年齢を超えてしまったが、これはあくまでも肉体年齢の話だ。
疑うことを知らない彼女は僕を『マスター』と呼んで敬愛してくれる。
とても甘えっ子だが、RNA学習法は成果を上げており、妊娠と出産のことはすでに知っていた。
「あなたの子どもが欲しいです」と言われ、思わず鼻血がでそうになる。
遂に彼女とオーラルでの交渉をした。お互いが果てたとき、思わず「怖くないの?」と聞いてしまった。
だが、彼女は答えず、僕に何度も、何度も、要求してきた。
僕は彼女にキスをした。
彼女はデバイス。
人間のDNAの一部を利用しコンピューターに変わる新たな”計算機”として、
宇宙空間用に開発された人間型アンドロイドだ。
電子的障害の多い宇宙空間において半導体ベースの演算機では誤動作が多く発生するため、
フォトニック・ネットワークで組まれた光子頭脳の中央処理装置として、
人間のDNAを利用して設計された人造人間の第一号たちだ。
提供者のDNAを受胎して、設計された”子供”を生むことを目的に作られた存在だ。
僕らはそのためのDNA提供者だ。わかっていた。わかっていたんだ。
彼女は28歳。お腹の中には僕たちの子どもを宿したが、出産まではまだ時間がある。
その日は行為のあと、たくさん話をした。僕のこと、彼女のこと。
「君には名前が無いんだったね?」
「はい、マスター。名前をくれるの? 」
・・・僕はすこし考えて、「ジニア」と名づけた。花言葉は”絆”。とても喜んでくれた。
こんなに喜んでくれるのなら、もっと早くに名前をあげればよかった・・・。感謝の印に、と、
彼女は僕にキスをした。
間違いない、僕は彼女を愛してる。だから、この計画の主任研究者に聞いたんだ。
「彼女を長生きさせることはできないんですか? 」と。すると、
「ダメね、あれは試験体だから。次世代型になれば成長の抑制も効くけど、あれには効果は無いわね」
「すると・・・。」
「そう、彼女たちは設計どおり、生まれて14日で死ぬわね。もしくは出産の際に」
そのババアはそう言うと満足げに微笑んだ。こいつが死ねばいいんだ。クソッ!
彼女は32歳。明日には出産だ。もうセックスはできない。
色んな話、たくさんの話をした。本も読んでやった、子どもの名前も決めた。「ナデシコ」だ。
花言葉は「いつも愛して」。男の子は出来ないのでこれでいい。
・・・彼女は知っていた。自分は、子どもの顔を決して見れないことを。
その日、別れるとき、彼女は遂に泣いた。
僕も泣いた。彼女の頭を掻きみだし、胸に抱きしめて泣いた。そして、
僕は彼女にキスをした。
何度も繰り返した愛の証。僕は彼女にキスをした。何度も、何度も。
でも、最後に自分の子供へのキスも出来ないまま、彼女は遠くへ行ってしまった。
彼女はどんな気持ちでいたんだろう?僕は彼女にどんな思いで居て欲しかったんだろう?
最後になにを望んでいたのだろうか?どんなことを思い出して往ってしまったんだろう??
出会いのキス?愛撫のキス?行為のキス?・・・それとも別れのキス?
生まれた子どもに会わせて貰った。
彼女はこの後、光子頭脳を内臓し人間をもっとも愛する従者として、人間と同じだけの寿命を生きることが出来るという。
結局、ロボットという形であっても。
「はじめまして、こんにちわ。わたしはあなたのパパですよ」僕はそう呼びかけて、
僕が望む唯一の愛の証、僕は彼女にキスをした。