おまいら短編SF書いてください

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うちの学校のカオル先生はその頃、少し嫁き遅れてて焦ってた。
こんなことがあった。七夕の頃、学校の行事で竹に短冊を飾ったんだ。
俺と悪友のジョージとで、先生の願い事はなんかいな?って覗いてみたんだが、
こんなことが書いてあった。

         「恋のおまもりください。」

「うわ!マジだよ、本気と書いてマジだよ、先生。」
「しっかし、思いっきり神様迷惑だよな、そう思わない?」
と、俺がジョージの方を振り向くと、後ろでカオル先生が鬼の形相で立ってた。
そんなこんなでも、学校は楽しいところだった。

俺の両親は俺が11歳になるかならないかのとき離婚した。
その一年前からかなり険悪で、俺は少し人間不信気味で家に引き篭もりがちになりかけてたときに、
叔父さんが現れては嫌がる俺を外に連れ出してくれたんだ。かなり強引ではあったが。
俺は母方に引き取られることになったが母の実家のある区画はずいぶん遠いので、
学校を変わることになるのが嫌で嫌でたまらなくなり、叔父さんに相談すると、
「ほんじゃ、12歳になるまで俺と住んだらいい。」と糸も簡単に言う。
言うだけではなくって、ホントに両親を説得してくれた。かなり強引に。

叔父さんは、親父よりも10歳以上離れてるんだがもっと若い頃から軍隊にいたので
放射線被爆量がイエローゾーンに達してしまって退役した、って言ってた。つまりその頃には無職のプー太郎だ。
時々なんか変な仕事してるようだったが、基本的にヒマしてたようで、ツマンないことに凄い詳しかった。
子どもの俺にとって、そんな叔父さんは付き合っててもアキがこない、”ちょっと変わった大人”だったんだ。

叔父さんとカオル先生が初めて知り合ったのは、
学校の授業参観に叔父さんが真っ白なTシャツに時代はずれなジーンズと工事用の安全スニーカーという変な格好でやって来たときだった。
他の父兄はビシッと体にフィットした背広で決めてる中では鶴の中の掃き溜めだ。
俺は恥かしくってタマらなかったんだが、カオル先生はなんか気に入ってたようで、
その後、ヤケに叔父さんのこと聞いてくるようになった。
ジョージ曰く「あれだな、独身ってとこにだけ反応してんだな。」
非常に的確な意見だと思う。
月面都市統合政府の方針で”ツーリング”技能の授業が付加されているのは月面に住んでいる者の必然からだ。

叔父さんは軍隊上がりなだけに、俺とジョージの専門コーチとしてはこれ以上ない人だった。
月齢の読み、地球光の様子などから”昼”を暗算する方法や、重い宇宙服の種類と扱い方、
そして宇宙服を着たまま動き回るためのいろんな『ウラ技』。叔父さん曰く、
「”ツーリング”というのはこうゆう月面上でのサバイバル技術全般を指す。学校で教えてるのはハイキングだ、」と。
ジョージと二人一組で訓練したおかげで錬度の向上も早く、学校主催のツーリング大会で優勝出来たのは、
叔父さん直伝の”ウラ技”のおかげと言っていい。

ある日、事故が起こった。学校の行事で三重水素採掘施設跡地の見学に行ったときのことだ。
各コロニーにある核融合用の三重水素は月の主要生産品だ。どこの学校でも必ず見に行く代名詞といっていい。
ただ、その時に限ってめったに起こらない月震がおこったのが不運だった。
何年にも渡って掘られつづけた採掘場跡地は深いクレータ―状になっていたが、ちょうど俺たちのクラスを最後に採掘跡を登っている時、それは起こった。
突然の月震で歩いていたキャットウォークが揺れだし、ヤバイよ!、ヤバイよ!と思っているとカオル先生が落ちた。
他の生徒はパニックになったが、クラス委員長のモトコがその場所からみんなを引き揚げさせて他の先生に何が起こったのか説明すると、
「ともかく緊急回線も今の月震で磁場嵐が発生して繋がらないから、みんなをトレーラに乗せて避難所から有線で伝える。」
とのこと。助けに行かないのかよっ!!と俺は怒鳴ったが先生自体パニくってて話にならない。
先生の言うことを聞かないのが俺たちの信条だ。

俺は一人で助けに行くつもりになって目の届かないとこに隠れると、ジョージが後からついて来て言う、
「おまえにしては慌てすぎ。予備の宇宙服で身代わり作ってみんなにも口裏合わせて貰ったよ。
 あと、委員長通じておまえの叔父さんに連絡してもらう算段にしといた。これって、全部いつもきみの仕事ね?」
「よく、委員長がおまえの言うこと聞いたな?」「おまえの名前だしたの。あいつお前に気があるみたい。」
タチの悪い冗談も言うが、持つべきは悪賢い友人だな。
パクるっつてもパーツを細かく分解して組み立て直するだけだから
アホバカでも出来るんだけどね。感謝されるほどじゃないよ。
「もっとまずいことがある。ここは太陽の直下だぞ。しかもあと12時間で”昼”だ。」

先生を助け出して避難所に行くとすでに他の先生たちは逃げた後だったので、
いろいろ相談してみたが、どーも巧くなかった。
まず、有線がダメ。なぜか不通になってた。回線が壊れているというより相手側の問題らしい。
その所為でトレーラーで助けを呼びに言ったようだ。
次に、この避難所、空気を保持できるってだけの作りで放射線を防御が完璧じゃない。エアコンも効いてないし。
それに、先生の具合もかなり悪い。
一番近くの都市は俺たちの住んでるところだが、トレーラーで3時間掛かったので歩きだとその三倍だ。
いや、もっと分が悪いかもしれない。それでも「歩こう」と提案したのは俺だった。
「向こうが通信に対応できてないってのが凄い気になる。このままここにいても助けがこないかもしれない。」
「でもさ、先生歩けないぢゃん、」「俺たちで担ぐんだよ、」「先生をここに置いてあなたたちだけで助けを呼んできてください。」
先生の言うことを聞かないのが俺たちの信条だ。

「「1!、2!」」
と、言う訳でブツブツいう先生を引っ張り出すように出発した。右肩を俺が、左肩をジョージが担いで出発した。
俺たちには切り札がある。二人三脚だ。体が軽いので一歩ごとのジャンプの飛距離が伸ばせれば伸ばせれるほど速度は速くなる。
そこで、叔父さんの指導で俺とジョージは接地と同時に呼吸をあわせてジャンプすることで大人より早く走ることが出来るようになったのだ。
ジョージはこれを『パータッチ』と呼んでいた。
「・・・つまり、この間の大会であなたたちはズルをしてた訳ね」「いや〜〜そーなんすよ」「ジョージ五月蝿い」

「「1!、2!」」
「先生?先生!?寝ちゃダメですよ!!痛みを感じるようにしなきゃ死んじゃいますよ!!」
「・・・そーね。」「先生なんか歌ったらいいんすよ〜」
「・・・あなたたちはいっつも元気よね、あたしなんか・・・」あ、やな感じ。母さんのグチ思い出した。
「先生、恋のおまもり手に入りました?」「!?、あなたねぇ〜〜!!!」「無理無理。だって先生理想高すぎるもん」
一応、先生は元気を取り戻したが、小突かれた。
「「1!、2!」」
先生の声が小さくなってきた。「先生?!」「・・・もしね、もし先生になにかあったら。」
「「いっしょに担いでいくよ!!」」思わずジョージと声が重なった。
「もう一回歌ってよ!!今度叔父さんにおまもりもらってあげるからさ!!」
「どんなの?」「軍隊からなんか勲章いっぱいもらってるらしいからそれでいいでしょ!?」

《ザザッ、そーだな、やるからもうちょっと歌ってて欲しいな。てゆーか歌え》

「わ」「きゃ」「叔父さん!?今どこ!!」《そりゃこっちのセリフだ、歌って自分の位置を示せザッ》
みんな必死で歌いだした。

♪ 恋のおまもり ください ♪
上を見ると太陽光に照らされた真っ黒な攻殻兵がスラスターふかせたところだった。
「カックイー!!機動戦士だぁ!!」
ジョージはこーゆーのに結構うるさい。

♪ 恋のはじまり せつない ♪
間違いない、叔父さんあの甲殻兵、軍から盗んできたんだ。なんてことするんだ。
「叔父さん、それ銃殺刑だよ!!」
《さっきの月震で都市もたいへんでな。レスキューが出せないなんていいやがるから、軍のツテ使って借りてきた。黙って。》

♪ あなたと秘密の つながり欲しい ♪
「むちゃくちゃだよ・・・」「あっはっは♥」みんな歌うのも忘れて笑い出した。

Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi… Pi…♪

こーして俺たちは助けられた。
都市に帰ってから一悶着あったようだが、市長がゴリ押しで叔父さんの件は不問にしたようだ。
先生と叔父さんが結婚したのは、俺が小学校を卒業してからだった。
こんな古い話を日記につけるのは、
さっき先生・・いや、カオルおばさんから長距離通信で叔父さんが死んだって聞いたからだった。
俺が水星資源探査船に乗る前にはすでにガンだったから、結構もったほうだとおもう。
映像から見る限りでは、カオルおばさんは悲しそうだったけど泣いてなかった。
多分、3人の子ども達のおかげだと思う。イイことだ。

帰ったら叔父さんの遺留品からあのおまもりもらうことにしよう。