指輪物語〜楯持つ乙女は『23』歳〜

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709名無しは無慈悲な夜の女王
友人に送ってもらったので遺稿集の記事。
7月9日の読売新聞より。

『瀬田貞二氏の遺稿集刊行へ
児童文学真髄語る

トールキン作『指輪物語』の名訳で知られ、日本で初めて子どもの本を体系的に
論じた戦後児童文学の父・瀬田貞二(一九一六−七九)。氏がファンタジーや昔話
の真髄を評した遺稿を集めた大著『童話論(仮題)』(福音館書店)が、ついに来年、
刊行の見通しとなった。
平凡社の編集者として『児童百科事典』を世に送り出して五十年。その後、瀬田氏
は『三びきのやぎのがらがらどん』や『おだんごぱん』などの西洋民話、『かさじぞう』
をはじめとする膨大な日本の昔話の採集に力を尽くし、さらに『ホビットの冒険』『ナ
ルニア国ものがたり』等、イギリスの長編ファンタジーの翻訳を手掛けた。その傍ら、
トールキン同様、博物学的な知識を生かして子どもの本の解説を雑誌に寄稿し、図
書館員らに請われて小規模の講演会を重ねながら、子どもの『文学』に独創的な定
義を与えていく。だが、自身では一冊の評論集も編もうとはしなかった。
「先生は無類の恥ずかしがり屋で、自分の痕跡をまったく残さない名人でしたから」。
瀬田氏の仕事と生の姿を戦後の出版史の中にたどった初の評伝『子どもと子どもの
本に捧げた生涯』(キッズメイト)を先月上梓した、元福音館書店の編集者で作家の
斎藤惇夫氏(62)は振り返る。
そのため『幼い子の文学』、『落穂ひろい』(毎日出版文化賞特別賞)、『絵本論』……、
すべての評論集は没後、斎藤氏ら後続の編集者らによって編まれた。
<一度だけであきられて捨てられるような商利主義とおろかな無駄づかいを断ち切
りましょう。その反対に、子どもたちを静かなところにさそいこんで、ゆっくりと深々と、
楽しくおもしろく美しく、いくどでも聞きたくなるようなすばらしい語り手を、私たちは絵
本とよびましょう>
『童話論』は、こうした励ましの言葉に満ちた帰還の『絵本論』と同格の評論集。「二
作併せれば、児童文学の全体をつかめるはず。二十年以上かかりましたが、時代の
要請は生前よりも高まったのでは」と、同社の荒木田隆子氏は話す。
柱となるのは「ファンタジー(空想物語)論」。「傑作には成熟した大作家の人生の知
恵が、想像力によって目に見えるようにリアルに表現されている」「それは隠喩や象
徴という方法によって錬金術を施された、美しい思想のいれもの」といったファンタジ
ーの要件が、そこでは明確に示されている。また、「児童文学の流れ」の中で取り
上げられているC・S・ルイスや宮沢賢治の作品、日本の民話などはどれも、石井桃
子氏(95)と瀬田氏を中心に企画出版された五〇-六〇年代の珠玉の名作。着実に
版を重ねている本ばかりで、これ以上確かなブックリストもない。
『ハリー・ポッター』シリーズなど、一見ファンタジー全盛の今、しかし子どもたちの活
字離れは止まらない。まずは大人が子どもの文学を学び直すためにも、瀬田氏の
残した未刊の『童話論』が待望される。 (尾崎 真理子記者)』