中学、高校の時の恋の話

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513大人になった名無しさん
小学6年生の頃から何となくお互いに好きなんだろうな、と思っている女の子がいた。
中2、3も同じクラスになったので、小中学校の同窓会ではいずれも顔を合わせること
ができる間柄になった。
中学校でも仲が良く、たまに数名と一緒に帰りながら、最後は二人で歩いたりもした。
僅か5分くらいのことだが、幸福感があった。朝も登校の途中で一緒になっていたが、
後々にわかったのだが、彼女は僕が学校付近の交差点に現れる時間を計って家を出て
いたらしい。
受験した高校は別々で、卒業の時も特にボタンを渡すとか、告白するようなこともな
いまま、穏やかで曖昧な付き合いのままだった。
高校に入ると生活が一変した。僕は朝7時前のバスに乗り、国鉄に乗り継いで地域ト
ップの進学校に通い、ライバル達と競う毎日になった。彼女は家から歩いて5分の高
校で楽しく過ごしていたらしい。
全く顔を合わせなくなったが、彼女の友人で僕と利用する駅が同じだった子からは、
彼女が凄くモテているとか、進んだ高校では成績が学年でもトップクラスだという話
を聞くことができた。これも後日わかったことだが、彼女は彼女でこの友人から僕の
噂を仕入れていたらしい。
お互いの接点が殆ど無いまま月日が過ぎ、夏休みにも全然会うような機会はないまま
で終わった。秋、たしか10月下旬で中間考査が終わって数日たった頃、帰宅のために
国鉄の駅からバス停に歩いていた僕は彼女とばったり再会した。彼女の横には会った
ことがない男子が立っていた。同じ高校のようだった。僕と彼女はちらりと視線を交
わしただけだった。僕の心に小波が立ったけど、だからどうしようという気持ちには
ならなかった。
次に会ったのは高2の春、4月だった。僕はある女子と一緒だった。この人は近くの
中学校から僕の通う高校に進んだ1年生で、入学早々僕に「つきあって下さい!」と
交際を申し込んでできたのだった。僕としては彼女のことをあれこれ思い悩んでも、
今は学校が異なり、会う機会も殆どない以上、どうしようもないと思ったし、告白し
てくれた後輩の態度が潔かったのと、可愛らしかったのもあり、交際をOKしたばかり
だった。このときも国鉄の駅からバス停の間を歩いていた。前回とは反対に彼女は一
人だった。そして視線をちらりと交わしただけだった。
共通の友人によれば彼女と一緒に歩いていたのは、彼女に交際を申し込んで、断られ
ても粘っている男子であるということだった。彼女がその情熱にほだされているみた
いだとも友人は言っていた。
たぶんお互いに縁がないのだ、と僕は思った。後輩との行き帰りの会話は楽しく、日
曜日にはたまにデートすることもあった。ああこれが青春だな、と思ったりもした。
こうして夏になった。
514大人になった名無しさん:2007/12/16(日) 17:02:26
夏休みは後輩と過ごす時間が急に増えた。彼女の部屋で額にキスをしたけれど、それ
以上には進まなかった。
秋、伸び悩んでいた成績が上昇し始め、地元の旧帝大合格圏内に入ることができた。
後輩は喜んでくれ、クリスマスイブには僕の胸に飛び込むように抱きついてきたけれ
ど、僕はくちづけをすることはなく、彼女を抱きとめるだけだった。
僕のそういう態度をつらく感じたのか、後輩は「●さん(僕)はわたしのことが本気
で好きじゃないみたい。きっと誰か他に好きな人がいるのよ」と言った。僕はそれを
否定した。が、否定していいのかどうか、実はわからなかった。後輩は「●さん自身が
気付いていないだけで、本当に好きな人が必ずいるんだわ。その人はずっと●さんの心
の中に住んでいて、それが当たり前なので●さんは気付けないんだわ」と泣き始めた。
僕は彼女をなだめることもできず、結果的に彼女から去っていった。友人達からは「可愛
かったのに、惜しいことしたな」と言われたが、自分ではよくわからなかった。
冬が過ぎ、高1の時に下位に沈んでいた僕は学年でも上位になった。余程の高望みをしな
い限りは受験にはあまり心配がないような気がした。
そんな時、バスの車窓から彼女を見た。雪がちらつく中、制服姿の彼女は急ぎ足でどこか
へ向かっていたが、声をかける術はなかった。もう2年近く喋っていなかった。
高3の春、高1の女子から交際を申し込まれた。この女子は僕が乗る電車に途中の駅から
乗ってくる子で、初めて見た時に可愛いな、と思った子だった。キリッとした顔立ちなの
だが、笑顔がとろけるようで、そのギャップがステキだと思っていた。5月にその子から
手紙を渡された時は驚いた。友人達は「オマエ、後輩殺しだな」と冷やかしてくれたが、
なぜその子が僕を好きなったのかを聞いて驚いた。僕は凄く虚無的で、人を見る目が冷や
やかだというのだ。そして何か空しさを抱えているのに、それを我慢して寡黙に生きてい
るような雰囲気があるという。
僕はそういうキャラクターではなかった。どちらかというとおちゃらけで、通学中の電車
でも友人達とゲラゲラ笑っていたつもりだった。
だが彼女によれば、そういうときに僕は心から笑っていないらしい。何かを諦めているよ
うな、それでいて何かを秘めているような感じがしてゾクゾクするというのだ。
実際に付き合ってみての彼女の感想は、思っていたよりも明るくて朗らかな人だったとい
う。「だけど満たされないものを抱えているわ」と15歳の彼女は僕の心を見透かしたよう
に言い放ち、大人びた笑顔を見せた。とろけるような笑顔とは別の大人っぽい彼女に僕は
クラクラするような気分を味わい、6月にはキスまで進んだ。
515大人になった名無しさん:2007/12/16(日) 17:03:15
この頃には彼女の噂は聞こえてこなくなり、共通の友人によれば地元の短大に推薦で進む
らしいということだったが、あまり詳しいことはわからないようだった。
夏休み、受験のために一応は懸命に勉強した。高1の後輩ともその息抜きにデートした。
彼女は素晴らしいスタイルの持ち主で、僕は彼女を性の対象とみなしていた。このまま進
めば、僕は彼女と関係するだろうと思った。たぶん彼女も拒まない。
8月の上旬のある日、僕と高1の彼女は街をぶらついていた。暑いので腕を組んだり、手
をつなぐことはなかったが、誰が見ても恋人らしかったと思う。彼女はボディラインが強
調された露出度の高い服装で、人目をひいたようだ。振り返る男性もいた。そんな時に限
って例の彼女と出会うのだ。一人で歩いてくる彼女に僕は気付いた。彼女も僕に気付いた。
なぜかお互いに立ち止まった。横にいる高1の彼女は怪訝そうに僕と見た。「知り合い?」
「ああ」再びお互いに歩き始め、すれ違った。視線を交わすことはなかった。
高1の彼女は勘がよかった。「●が昔好きだった人でしょ?」「まあね」「まだ気持ちが
残っているんじゃない?」「まさか」というような会話があった。
その日、僕達は彼女の部屋でキスをして、そのままベッドに倒れこんだ。彼女が僕に言った。
「絶対に私だけしか見てないよね。だったらいいわ」
僕は彼女から離れた。つい1時間前にすれ違った彼女の面影がちらついた。
高1の彼女が言った。「●の心が満たされていないのは、あの人のことに決着がついていな
いからじゃないの?そんなだったら、わたし、いやだから。もう会わない」
喪失感が大きかった。だが自分の心にウソをつくわけにはいかなかった。僕の心には、まだ
彼女が棲みついていた。
秋になり、すぐに冬が訪れた。友人達は高1の彼女のことを惜しんでくれたが、僕にはもう
自分の心に背いて新しい恋を探す気持ちはなかった。
受験が終わり、僕は志望校に合格した。3月下旬、もう春だというのに、その日は南岸を進
んでくる低気圧のせいで、雲が低く垂れ込め、雪になるという予報だった。
彼女の家の近くにある公園。公衆電話から僕は彼女に電話をかけた。彼女に電話をかけるの
は生まれて初めてだった。「今から会いたい」という僕に彼女は応じてくれた。
5分も待たないうちに彼女がやってきた。
「実は、ずっと言えなかったけど、僕は☆(=彼女)のことが好きなんだ」
「だったら何故ほかの人とつきあったの?」彼女の僕を見る視線はいつになくきつかった。
「わからない。だけど二人とも僕に同じようなことを言って去っていた」
「ふられたの?」
「ああ、ふられたよ」
「あははは。交際を申し込んだのは?」
「二回とも向こうから」
「モテるのね」
「そうかな」
「彼女達、わたし見たことあるよね、あの子たち、どう言ったの?」
「僕の心の中にはほかの人が棲んでいるとか、他に好きな人がいるとかさ」
「へえ、それがわたしなの?」
「ああ」
彼女が爆笑した。
「本当にダメな男ね。二回とも女の子から告白されたのに、最後には逃げられて。自分からはなかなか
言えなくて、何年も立ってから思い立ったように言いに来るなんて。笑いすぎて涙が出てきた」
だがどう見てもその涙は笑ったから出ているようではなく、どんどん溢れてくるものだった。
僕はためらわなかった。歩み寄ると彼女を抱き締め、いきなりキスをした。
そのとき空から季節はずれといってよい雪が落ち始めた。抱き合ったままの僕と彼女の回りに白いカー
テンが降りたように雪は激しくなった。
その状況に気付いた僕は「なんかカッコいいな」と言った。彼女は「せっかくいいムードなのに、バカね」
と応じたが、その顔はもう泣き顔ではなく輝くような笑顔だった。