若ハゲ38歳・独身、その半生を語る

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1若ハゲ 「第1章」
他人から指摘されるまで自分がハゲだとは誰も思わない。
最初はその指摘を否定する。
そして、他人と比べて、はっとする。
オレはハゲている。
テレビやマンガにでてくるハゲがオーバーラップする。
悲しくなる。世界が変わる。
オレの世界が変わったのが何年何月何日か、明確には憶えていない。
小学校の頃はハゲとは言われなかった。
中学時代は坊主頭だったが、この辺からが怪しい。ハゲと言われはじめ
たのがこの頃だった。
最初はまったく気にしなかった。ハゲは大人がなるものだと思っていた。
他人と比較して、薄いなとは思っていたが、髪を伸ばせばなんでもない
と気にも止めなかった。
昭和54年、高校進学。長髪が許され、ヘアスタイルも気になりだす。
リーゼントやトシちゃんカットが流行っていた。
ポマードをつけリーゼントにしてみた・・・・。
2若ハゲ 「第2章」:02/04/21 17:48
リーゼントにしてみた・・・というより、しようとした。
不可能だった。
中学卒業後、髪を伸ばし始めたが、長くなるにつれ、
普通と違うことに気づいた。
毛と毛の間隔が広すぎるのだ。
髪を洗った直後の乾いた状態で薄暗いところにいれば、
かろうじて何とか誤魔化せる薄さだ。
風が吹くと、地肌が丸見えになる。
整髪料をつけたり、汗をかいたりすると、髪と髪がくっつき、
明るい光の下では髪の毛が無いように見える。
だから、リーゼントにしようとしてもできなかった。
ポマードをつけて隙間だらけになった頭髪を見て、鏡の中の
顔はクシャクシャになり、涙をながした。
3若ハゲ 「第3章」:02/04/21 17:49
もちろん、トシちゃんカットはできない。
だいいち、真ん中分けというのは、髪の毛があるから真ん中分けというのだ。
オレの場合、地肌は隠すためだけにある。
15歳。
この時、1000人近い生徒の中で、地肌が見えているハゲはオレだけだった。
養毛剤の類を始めて買ったのもこの頃だった。
それは「カロヤン・ハイ」だったように記憶している。
それから、今日に至るまで、おそらく100種類近くの育毛・養毛剤を買った。
どれも期待はずれに終わった。いま思えば気休め程度にしかならなかった。
よく考えれば分かることだった。例えば、キズに薬をつければ治りやすいが、
キズでないところに薬をつけても無意味だ。
オレは人間関係を避けるようになった。
学校でクラスメートと話をしていても、必ず相手の視線は話と関係無くオレの
頭に注がれる。
教師からも「ハゲ」の指摘をされ、当てられたこともあった。
オレは常に孤独でいることにした。「ハゲ」というキーワードで他人とつながり
たくなかった。
木枯らしが吹きはじめると、外に出るのが憂鬱になった。
松田聖子の「風立ちぬ」が流行っていた。
4若ハゲ「第4章」:02/04/21 17:50
高校へは毎日かよった。
「ヒキコモリ」という言葉がなかったからかもしれない。
「金八先生」は毎週見ていた。
当時、「校内暴力」が社会問題になりつつあったが、暴れ狂う
生徒はいなく、どちらかというと「ゆうひが丘の総理大臣」に
出てくるような生徒が多かった。
高2のころ、隣のクラスに気になる女子がいた。
ムッチリ系のボイン(今でいう巨乳)だが、足首は細かった。
何を思ったか、アイパーをかけてみることを決心した。
アイパーをかける床屋を探した。
これまでに行きつけの床屋はなかった。何度か同じ床屋に行っては
新しい床屋を探す。どの床屋も最初はオレの頭を見ると不安そうな顔をする。
「これは・・・ハゲてるの?」と訊くオヤジもいた。
そういうとき、オレはいつも鏡に向かってニヒルな笑みを浮かべる。
アイパーをかける床屋が決まった。初めての床屋だ。
オレの頭をやるのはオバサンだった。
髪を濡らして、櫛で整えながら、そのオバサンはやはり言った。
「これって・・・・ハゲてるの?」
オレはいつもどおり対応した。そして何度も「アイパー」を連呼した。
オバサンは不安な目で納得した。
初めて嗅ぐパーマ液のにおい。温泉で嗅いだことのあるイオウのにおい
がする。
コテ先がオレの目の前を通過して、髪が焼ける音とにおいがした・・・
5若ハゲ「第5章」:02/04/21 17:50
「おまえ、増毛したのか!」
今のタモリのようなフワッとしたオールバックになったオレ
の頭をみて、クラスメートはそう言った。
アイパーは成功したのだ。
床屋のオバサンがオレの髪質を判断して、ゆるめにアイパー
をかけてくれていた。
整髪用アイロンといわれるアイパー用のコテで、髪を根元か
らはさんで毛先に向けてスライドさせると、髪の毛はきちん
と並んだ状態になる。そして、パーマ液と電熱によって髪の
毛は固定される。
だから髪の毛が少なくても、結果的にはそこそこあるように
みえるのだ。
タモリの頭は、アイパーによる功績が大きいとオレは踏んでいる。

だが、今のタモリより薄く腰のない当時のオレの頭は、
アイパーをかけても、そう長くは持たなかった。
一週間もすれば、オールバックにセットしても、徐々にサイド
から割れはじめる。
分け目が強い光を浴びるのはオレにとって死刑宣告に等しい。
それは分け目ではなく、広い地肌をさらけだすことになるからだ。
高校生の小遣いで毎週アイパーをかけるわけにもいかない。
オレの夢はワンハーフで終わった。

高校時代、オレはアイパーを3回かけたが、2回目以降は失敗に
終わり、結果的にはハゲ度を加速させた・・・・
6若ハゲ「第6章」:02/04/21 17:51
最後にアイパーをかけたのは卒業式の前だった。
最適な床屋を見つけるのは骨が折れる。
当時のオレは床屋の人と顔見知りになる前に別の床屋を探した。
10代の若ハゲの常連客がいることを噂されたくなかったからだ。
最適な床屋の条件は、客がいなく、散髪している光景が外から丸見え
にならない構造になっていることだ。
オレは見つかるまで、隣街や、そのまた隣街まで探しまくった。

床屋を見つけてアイパーをかけたのは、卒業式間近の2月の終わり
ごろだった。
客はオレの他には誰もいない。
パーマ液が塗られた髪に巻き付いたコテが煙りをあげながら音を
たてているとき、母親に連れられた子供が店内に入ってきた。
ソファーに座った子供は、しばらく興味深そうにオレの方を見ていたが、
そのうち、パーマ液でまばらになったオレの頭を指さしてギャーギャー
泣き出した。あんなにされるのはイヤだとわめいている。
何か悪いことをしたので髪の毛を抜かれ、熱く熱した鉄の棒で拷問され
ていると、子供の目には写ったに違いない。

結局、この床屋でかけたアイパーは失敗した。
コテの熱が強すぎたのか下手だったのか、ガチガチのオールバックに
されてしまい、しかも、額の生え際のセットがガサツで、500円玉
くらいの大きさの地肌がのぞいている。アイパーをあててしまった後
なので、そこを隠そうとブラシでセットしようとしても、なかなか隠れない。
オレは卒業式までの間、鏡を見ては鬱な気分でため息をついた・・・
7若ハゲ「第7章」:02/04/21 17:51
卒業式が始まった。
講堂は黒い制服と黒い頭髪で埋めつくされている。
その中で、今にも透けそうな頭に500円玉大の地肌を
のぞかせているのはオレだけだ。
祝辞を述べている校長の頭より薄いかもしれない。

オレは大学へは進学しなかった。
大学のパンフレットによくある、芝生の上に寝転がり、
談笑したり、ギターをひいたりしている写真の学生たちの
中にハゲはいない。
そういう同世代の中に加わって、いたずらにコンプレックス
を増大させるよりも、いろんな世代が同居する社会の中に
紛れ込んだほうが生きやすいと思った。
オレは既にあるところに就職が内定していた。

卒業式は終わった。
オレは雑踏を抜け、校門の外へ出た。
空は春色に染まっていた。
校門の前では、卒業生やその関係者たちが写真を撮ったりしていた。
オレはその中に、以前から気になっていた隣のクラスの巨乳の
ノリコが、フサフサでツヤツヤの髪の男と楽しそうにしゃべって
いる姿を発見した。
ふたりの顔は未来の希望に輝いてみえた。
オレはふたりの前を無言で通り過ぎることしかできなかった。
近くの家の軒先に赤いスイートピーが咲いていた。
オレは空を見上げ、未来を想った。
悲しいほど空は青かった・・・・
8若ハゲ「第8章」:02/04/21 17:52
ハゲに未来や希望などといったものはない。
あるのは絶望だけだ。

最後にかけたアイパーがきつかったせいか、
髪の毛がかなり痛んでいる。
以前よりも細く、量も少なくなったような気がする。
オレは18歳で老いの恐怖を感じていた。

髪のためにいいことは何でもやった。
育毛・養毛剤はもちろん、80年代の健康ブームの影響で、
ビタミン剤の容器がオレの部屋を占拠したこともあった。
マイケル・ジャクソンがベジタリアンだと聞けば、食卓からは
一斉に動物性タンパク質が消えた。
いま思えば無邪気な抵抗だった。

オレは今日まで一日たりとも髪の毛を意識せずに生きたことは無い。
しかし、思惑とは裏腹に時は容赦無くオレを飲み込んでいく。
1秒前のオレは今のオレではない。
一度無くなったものが新たに生まれ変わるだろうか?
ハゲがフサフサになるだろうか?
もし、それが可能なら、老いは恐怖でなくなる。
命あるものはいずれ終わりを迎えるという常識がひっくりかえる。
オレは無理だと思う。
教科書を書き換えることはできやしない。

19歳。
オレはズラにすることを決心した。
9若ハゲ「第9章」:02/04/21 17:52
線路のわきの建物がオレの職場だった。
窓から夕陽がみえた。
日が沈むのを見るのは好きだった。
オレンジ色の光の中を列車が通ると、そのシルエットがくっきり浮かんだ。
夕焼けのあと、空はコバルトブルーのグラデーションに染まる。
しかし、その空の色を見るといつも、何かを失ったものにしかわからない
世界の終わりにも似た絶望感が押し寄せてくる。

働きはじめてからのハゲに関する情報源は、職場のテーブルの上に
無造作に置かれているオヤジ雑誌やスポーツ新聞からだった。
そこにある情報の大半は、ハゲを戒め、蹂躙し、不安にさせるものばかりだ。
そのなかでもヅラメーカーの広告は最悪だ。
紙面いっぱいをヅラモデルのうつむいた顔写真で埋めつくしている広告
もある。
ハゲを小バカにしているとしか思えない。
モデルも顔立ちは整っているが、側頭部しか毛がないのでマヌケに見えるし、
うつむいている角度が絶妙で、この上なく哀れな感じがする。
だが、こんな人権侵害にも近い蛮行でも、毎日、毎週、メディアを通して
潜在意識に刷り込まれれば、サブリミナル効果は絶大だ。

ヅラメーカーのプロパガンダが、ハゲという現実に絶望する若ハゲを洗脳する
のに長い時間は必要としない。
オレの人差し指は受話器のダイヤル「9」に触れた。
そして、「6」・・・「9」・・・「6」・・・
10若ハゲ「第10章」:02/04/21 17:53
ヅラメーカーの支店のほとんどは駅前の雑居ビルの中にある。
あれは8月の白っぽい午後だった。
舗道から見上げるビルの上層階にはヅラメーカーの看板が見えた。
オレはとうとうここまで来てしまったんだと思った。
エレベーターがあった。
だがオレは階段を登ることにした。
もし、エレベーターに誰かが乗り合わせたら、オレの行き先が
分かってしまう。
ヅラにすることは、それほどまでに後ろめたいものなんだと、
今さらながら思った。

その階にはヅラメーカのテナントしか入っていない。
オレは階段の踊り場で、目の前にあるドアのノブに触れるのを
何度もためらった。
冷たい静寂に包まれているのを感じた。
ヅラにすることは両親も含めて誰にも告白していない。
世界が反転してホツンとひとりぼっちになったような気がした。
孤独は完璧で敵意に満ちていた。
だが、そのドアを開かなければオレに未来はやってこない・・・
11若ハゲ「第11章」:02/04/21 17:53
「二十歳前でヅラにした人っているんですか?」
唐突な質問に男の左眉がピクッと動いた。
「ん〜、確か大学生でいらっしゃいますよ」
オレは少しほっとしたが、すぐにやりきれない気持ちになった。
その大学生の秘められた日常を瞬時にイメージすることができたのだ。
荘厳な儀式めいた作法でヅラの着脱をおこなっている光景や、浴室で
ヅラをシャンプーしている姿、あるいは下から泡を吹き上げられて
プカプカ浮いているヅラを透明な洗浄容器ごしに眺めている沈鬱な表情
・・・。いずれも鮮明な映像となって脳裏に浮かんだ。
こんな誰にも言えない孤独な時間がオレの日常にも加わるのだ。

男は、サンプルとして何本か毛髪を採取したあと、半透明のやわらかい
膜が張られた四角い枠をオレの頭に押しつけて型を取った。
ヅラができるまでひと月かかるらしい。
バックアップ用とあわせて100万、3年ローンを組んだ。

外に出ると夏の日差しは圧倒的だった。
舗道を歩くオレの姿がショーウインドーに映っていた。
強烈な太陽の光が頭皮の上で砕け散っている。
オレは9月から生まれ変わるのだ・・・
12若ハゲ「閑話休題」:02/04/21 17:54
あ、ごめん。ハゲ・ヅラ板に書くところを
敢えてここにしてます。理由はのちほど…。
13ここですな:02/04/21 17:59
> 7 名前:若ハゲ「第7章」 投稿日:02/04/21 17:51

> オレは大学へは進学しなかった。
> 大学のパンフレットによくある、芝生の上に寝転がり、
> 談笑したり、ギターをひいたりしている写真の学生たちの
> 中にハゲはいない。
> そういう同世代の中に加わって、いたずらにコンプレックス
> を増大させるよりも、いろんな世代が同居する社会の中に
> 紛れ込んだほうが生きやすいと思った。
> オレは既にあるところに就職が内定していた。

気持ちわからんでもない
14名無し専門学校:02/04/24 08:14
ネタだろ
15名無し専門学校:02/04/24 11:23
     (ヽ、00  ∩
      ⊂ニ、ニ⊃ ⊂ ⊃
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16名無し専門学校:02/05/06 23:17
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