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人間七七四年:
ある夜、武田信玄が側近たちに工夫と思案は同じかと尋ねた。
その問いに長坂長閑は同じですと答えたが、信玄は違うと言った。
信玄はその理由を「例えば『工夫は天地の深遠に通じるものだが
思案は仏典にある好堅樹のように地上にあるもので、まったく違う』
という意味の古語がある」と説明した。
別の夜、信玄は側近に「人には大身小身に関係なくその身をまっとう
する術がある。それはなんだ?」と言った。
しかし誰も思いつかなったので信玄は「自分のやりたいことをしないで
嫌いなことをすればよい。さすれば身分に応じて、その身をまっとう
できよう」と言った。