戦国ちょっといい話8

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82人間七七四年
ある時、板倉重宗の所に、旗本の長老、大久保彦左衛門忠教と横田甚五郎尹松(ただとし)の両名が
招かれた事があった。

よりにもよって。

戦乱の世はもはや遠くに過ぎ去っていた。徳川家の旗本の中で、戦国乱世を体験した長老である
両名の貴重な話を聞き届けようと言う、すばらしい試みであった。

両名が激しく仲が悪いと言う点を除けば。

最初に若い木村九郎兵衛が「大久保殿はどのような手柄で、旗奉行に取り立てられたのですか?」と、
無邪気な事を聞いてきた。それに彦左衛門

「なあに、旗奉行なんて、どうって事のない甲州者でも勤められるような役でござるよ。」

横田「…」←甲州者で元旗奉行

 さ あ 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た

さてそんなこんなで彦左衛門さん、いつものように一族自慢
「だいたい、わが大久保家ほど徳川家に忠誠を尽くした家は無い。
お家の敵になったものも一人もおりませぬぞ!」

それに今度は横田さん「ほほう?そう言うそなたは、権現様の御敵になられたではありませぬか?」

彦左激怒、何を言うか!それは一体どういうことだ!と問い詰めれば横田、
「法華宗は権現様がお嫌いになり、法度を仰せ付けた宗派でござろう。なのにその法華に
帰服されているそなたは権現様の敵ではないのか!?」
これに彦左驚くやら怒るやら、二人は止まらずヒートアップ

彦左「ふん、当代は高天神から逃げ出した卑怯な奴も、物頭になれるような嫌な世の中だ!」
横田「おう!皆様がた、高天神より逃げたと言うのはこのわしのことよ!
高天神より逃げたからこそ、徳川家において物頭にもさせていただいたのじゃ。
だいたいわしほど逃げっぷりの良い人間もおらぬだろうよ!」
「なんじゃと!?」「なにを!?」
双方、今にも取っ組み合いをしかねない空気。
ところがこの時亭主の板倉重宗、突然大笑い

「いやいや、聞いていたのとこんなに違うとは。実は大久保殿も横田殿も、もうすっかり年老いて
気力も弱り、ただ古い話を話して暮らしている。と、お聞きしたので、それならば私もそのお話を
お聞きしたいと思い、お呼びしたのです、

ところがいやはや、お二人のただいまの論争、若き者にも勝るものでございました。
あなた方がこのようにお元気なのは、実に今の公方様の宝と言うべきでしょう。
まったく、大慶とはこの事です。」

こう言われて二人も口論をやめ、その後は昔話などを、聞かれるままに話した、とのことである。