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人間七七四年:
有馬豊氏の家臣に、岡本清三郎という者がいた。
彼は常に神仏に「どうか悪事災難に合いますよう」などと、願を懸けていた。
そんな男だけに、何か事あったとき、先駆けしなかったと言う事は無かったそうだ。
この頃有馬家中では、近習の山崎半兵衛、津田主馬が、二つの派閥を作り、
何かにつけて武勇を争っていた。
しかし清三郎が山崎半兵衛の派閥に属していたため、いつも半兵衛方が勝っていた。
ある時のこと、とある足軽が人を殺して、城下の町屋に立てこもると言う事件があった。
有馬家中の者達がその町屋を取り囲んだが、事態はそのまま膠着し、埒が明かない状況になった。
さてこの時、最初に駆けつけ、取り囲んだのは津田主馬派の侍達であった。
そしてどういうことか、いつも真っ先に駆けつける清三郎が現れない。
主馬派の者達は
「おいおい、いつも俺たちに勝ってるって自慢している、山崎半兵衛派の衆は
何を油断していたんだい?あと、あの岡本清三郎は、どこに引っ込んじゃったのかなー?」
などと、半兵衛派の者達をここぞとばかりに馬鹿にした。
これに主馬派の者達の外から取り囲まざるを得ない半兵衛派の面々、屈辱に震える。
実は清兵衛、この日、自分の知行地を見に行っていたのだ。
その帰り、城下に人が群がっている所に出会った。そう、立て籠もりの現場である。
見物していた町人から話を聞いた清三郎、その立て籠もっている町屋の戸口に、
ツカツカと近づき、いきなり大声で
「おいお前!このように取り囲まれているのだ、いつまで立て籠もっているつもりだ!?
わしは岡本清三郎である!ここを開けよ!」
すると足軽「なんと?岡本清三郎か!それは良き相手だ高名の機会!こちらこそ願う所!」
と、戸を開け「さあかかってこい!」清三郎町屋の中に踏み入って、この足軽の攻撃を
避け、いなし、子供のようにあしらう、たまりかねた足軽が外に飛び出した所を踏み倒し、
腰の三尺手ぬぐい(これは清三郎のトレードマークである)で小手を縛り上げ、この足軽を
主馬派の侍どもの前に引渡し、一言、
「おいおい、あんたらは自分達で、この程度の者も取り押さえられなかったのかい?」
そんな事を言って、自宅へ帰っていったそうだ。