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人間七七四年:
蒲生氏郷が伊勢松ヶ島城にいた頃の話。
ある時、氏郷の家臣、蒲生主計と粟口美濃が口論をしたことがあった。
ただの口論である。が、この当時の口論である。当然、口論から斬りあいになることも
珍しくもない。そのためであろう
主計の後ろでは、その家来の山中大運が、美濃の後ろではその家来東某がそれぞれ、
いつの間にやら脇差を手に、主人の傍に備えた。
「事あれば、斬る。」
山中も東も、傍目からでもはっきりわかる、その覚悟だ。
口論をしていた当の主計と美濃、途中で、自分の家来達の異様な殺気に気がつく。
「おいおい、こいつらに剣を抜かせたら、人死にが大量に出るぞ。」
その日は冬の寒い日であったが、この時主計と美濃、大汗を流したそうだ。
そして早々に口論をやめた、と言うことである。
殺る気満々の忠誠心に、熱くなって口論していた当人達の方がほうがドン引きしたお話。