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人間七七四年:
黒田如水、長政親子が豊前を与えられ、国内の国人一揆と戦っていた頃の事。
黒田親子が馬の丘と言う城にいたとき、城下に一揆軍が押し寄せた。黒田長政この時16歳。
一揆勢を蹴散らそうと近習を引き連れ飛び出した。如水は「やめとけ」と言ってた。
長政が出てくると一揆勢は撤退。これを追いかけ山中に入る。はい、もう解りましたね?罠です。
長政君、まんまとひっかかりました。
山中の深くに入った所で一揆勢、岩陰から一斉に現れる。真っ先に進んでいた黒田方の大野小弁、
一揆に取り囲まれ馬から突き落とされた!
これを見た後藤又兵衛、小河伝右衛門、久野四兵衛、馬の首を引き返し逃げる。長政を置いて。
長政、すっかり取り囲まれた。一揆はそこら変中の木陰や岩陰からワラワラ沸いてくる。
もうデッドライジングでゾンビがフィーバーしている状態である。長政は円形の陣を引いてじりじりと
退却するが、一揆は竹の鏃の矢を、雨のように降り注がせる。「狩場の鹿か俺達は!」
あまりの屈辱に長政、馬から下りて討ち死にしようとする色が見えたので、近習が必死になって抑える。
が、長政の馬が一揆の矢に当たり終に斃れ、一揆の接近を見て「もうここで自害する!」と叫んだ。
菅政利が「私の馬にお乗りください!」と言うも、そんなこと聞かずにすでに帯を解き始めている。
もう死ぬ事しか頭にないのだ。
その時三宅三太夫が走り寄り、「ここは大将が自害するような場所じゃないでしょ!」と、長政を
片手で持ち上げ、そのまま馬に乗り引き退いた。
菅はその馬の尻がいの所に手をかけ少しも離れず、木屋兵右衛門は長政の槍を持って
後に続いた。
三宅を中心として50人ほどが、円形の陣を保ったまま二里ほど逃げれば、そのあたりで一揆も
追うのをあきらめた。長政主従、どうにか危機を脱出したのだ。
この時後藤又兵衛、錯乱してお気に入りの、猩々緋の羽織を脱ぎ捨てて逃げていたらしい。
追いついた長政達が引き下がっている最中その羽織を見つけ、又兵衛に返してあげた。
ちなみに櫓より長政の敗戦を見ていた如水、大笑いしたそうだ。「だから言ったのに。」
しかし傍の者たちが「御加勢を!」と口々に言うのを、「円陣を保っているし、長政だから
大丈夫だろ。」と、ほって置いたとか。変な所で子を信頼もしている如水なのであった。