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人間七七四年:
家康の若い頃の家臣に、石川又四郎と言う者がいた。
この男、足が速く弓の上手で、ある時家康は馬場で、自身の早馬とこの又四郎を競争させた所、
なんと馬を追い抜きゴール地点で馬の来るのを待っていたそうだ。
そしてとある合戦で、徳川軍が城を囲んでいた折の事、
城兵の一人が塀の上で、毎日のように尻を出して叩き、徳川軍を小馬鹿にしていた。
これを見た家康、誰かあの憎い者を射落とせ!と言うと、又四郎がまかり出で、私がやります、と言う。
そして次の日、城兵がいつものように尻を出した瞬間、見事に射抜いた。
これに徳川軍はどっと沸いた、その時である、
城内より又四郎の咽めがけ矢が放たれ、射抜かれ、倒れた。
家康は運ばれてきた又四郎に刺さった矢を自ら抜き、早く小屋に下げ治療するように言った。
この時家康は大変動揺し、その夜も、「あの傷では又四郎の命は長くないだろう。」と嘆いた。
しかし周りの者達は何故か、「そんなに気にする事ないッスよ。」などと気楽に言っていた。
次の日、家康の使いが又四郎の様子を見に行った。そこで見たものは、
傷の痛みなどどこへやら、のんきに好きな将棋を楽しんでいる、又四郎の姿であった。
射抜かれたはずなのに。
そして使いの者に
「あんな矢傷なんてもうへっちゃらだから、明日からでも復帰出来るって言ったんだけど、
なんかここの医者とかがね、頼むからせめてもう一両日は休んでくれって言うんですよ。
平気なのにねえ。
とにかくそう言うことらしいんで、殿に申し上げておいて。」
これには家康も、あきれ果てたそうである。