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人間七七四年:
高力小隼人は若年の頃岡崎で、徳川信康に使えていた。
ある時信康が近習達を前に殿守にて
「この中に猛敵の前にあえて出る者はいても、この殿守から飛び降りる者は居ないだろうな。」
と言った事があった。
その殿主、地面から相当な高さにあった。
これを聞いた小隼人、
「ここから飛び降りることなど簡単ですが、敵前での働きは、功を立てご褒美をいただくことが出来ます。
しかしここから飛ぶのは、体を損なうばかりで功になりませぬ。だから飛ばないのです。」
と、申し上げた。
これに信康
「お前の言う事は確かに尤もだが、やはり臆病が出て飛ばないのではないか?」
と、この”臆病”の言葉が聞こえるや否や小隼人、走って殿主より飛びおりた!
大怪我をした。
そして回復まで1年間ほども、かかったと言う。
信康もこの時、骨身にしみて知っただろう。若年のものであっても、三河者にうかつなことは
言えないのだ。そんなお話。