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人間七七四年:
遠江の、佐久間に伝わる話である。
とある合戦に敗れた肥田孫兵衛という侍が、下平に身を隠した。
侍は大怪我をしていたが、身を隠した農家の、お銀と言う娘の手厚い介抱で、
その傷もやがて癒えた。
その頃には孫兵衛とお銀の間に愛が芽生え、孫兵衛は武士を捨て、
秋祭りの日には夫婦になろう、そう約束した。
お銀は評判の機織上手であった。彼女は近づく秋祭りの日にむけて、
自分と孫兵衛の晴れ着を、寸暇を惜しんで織っていた。
ところが
ある日、落ち武者狩りの一団が村に現れた。
そして孫兵衛たちが見つかり、争いとなった。
孫兵衛は二度と使うまいと隠しておいた太刀を持ち出し、この一団を斬り伏せた。
が、このままではお銀や村に災いが及ぶと、どこかに姿を消してしまった。
その事を知ったお銀はあまりの悲しさに、孫兵衛の名を呼びながら一心に織った二枚の着物を抱きしめ
近くの滝へと行き、そのまま、身を投げた。
今もその滝壷からは、流れ落ちる水音にあわせるように、機を折る音が聞こえてくるそうだ。