家光「――友矩っ、友矩っ、予は、も、もう我慢ならんぞーっ。早う、早う来てくれっ」
友矩「まだでございまする。いま暫く御辛抱おなりあそばさのうては」
友矩「なりませぬ。まだなりませぬぞ、上様」
友矩「友矩は、まだこうしているだけで愉しゅうございますれば」
家光「予は、げ、げ、限界じゃ」
友矩「御意。――さりながら、幼名竹千代君とはよく仰せになられたものと、友矩、感心たてまつりまする。げにも見事な若竹ぶりでござりますなあ」
家光「と、と、友矩ーっ、予を愚弄いたすかっ」
友矩「わたくしめの竹など、上様の御物に較べますれば、幼竹に過ぎませぬ」
家光「よ、よし。されば、その竹、予が手ずから、いや口ずから育ててつかわす」
家光「――どうじゃ、友矩。おまえの竹も見事にしなったではないか。これ以上は、果てるばかりぞ」
友矩「畏れ入りましてございます」
家光「た、たたた、たまらぬぞーっ」
家光「今の口吸い、な、何たる術じゃ」
友矩「我が新陰流、右旋左転にございまする」
友矩「では上様、お望みのもの、友矩、これより存分にたてまつる所存」
家光「お、おう、突いて呉れ、貫いて呉れィ、そちの剛き槍もて、予を思うがままに貫いてくれィ」
家光「ああ」
友矩「謹んで――」
友矩「これはこれは……フフ、あさましゅうあそばします」
家光「つ、突けえっ」
友矩「されば友矩、上様と身をひとえになしたてまつりまするぞ――御免」
家光「友矩っ、友矩っ、友矩ーっ」
家光「よいぞっ、実によいぞっ、予は、予は、女になった心地ぞするっ」
家光「もうゆかぬ、友矩、予は、もう、もう、もうっ」
それが家光の最後の言葉だった。