官僚によるマインドコントロール()捕鯨問題-10’
B. まず、彼女の最期について考えてみよう。『野生のエルザ』の著者が現地人に殺されたというニュースは当時世界的に報道され、ショッキングな出来事として受け取られた。加えて、夫ジョージも89年にやはり現地人三人の武装グループに射殺されている。野生動物保
護で世界的に名高いアダムソン夫妻がそろって現地人に殺されたという事実は、彼らの仕事の意味を考え直してみる契機として十分なものであろう。ジョージの殺害を伝える朝日新聞の記事で奥山郁郎記者は、彼と会った経験を回想しつつこう書いている。
印象的だったのは、自分のキャンプの将来について話が及んだ時だ。「私が死んだらキャンプを閉鎖するしかない」と、寂しげな表情をした。(…)後継者と思って育ててきた白人青年が現地のレンジャー(動物保護員)に何回も襲われ、キャンプを去っていったからだ。/
研究や動物保護を大義名分にしてアフリカに来ている白人に対し、現地の人びとの反発が少なからずあると聞いていた。このことが助手の襲撃になり、キャンプの閉鎖の方針にもつながったのではないか。ジョイ夫人の惨殺に続いて射殺されたジョージ氏の晩年を見ると、「
野生のエルザ」などで世界的に有名になったものの、現地の人びとの心はつかみ切れなかったのではないか、と思う。9) この推測が正しいかどうかはとりあえず措こう。ジョイの殺害について、ジョージの二度目の自伝の記述をもとに検討しよう。ジョージによれば、狩猟監
視官志望であるために夫妻と仕事をしていたザンビア人の青年ピーター・モーソンのテントから金が盗まれた。疑いはすべての使用人にかけられた。その直後、ジョイは仕事のことでツルカナ族の若い男ポール・エカイと言い争った。彼にも盗みの嫌疑がかけられていた。ジ
ョイは彼に賃金を支払って首にした。約一カ月後、ジョイが死体で発見された。警察が捜査し、当初はモーソンにも嫌疑がかけられた。彼はジョイと日頃から仲が悪く絶えず口論していたことが知られていたからだ。だがやがてエカイが容疑者として残り、逮捕され、自白した
。首にされたときに得られるはずの賃金全部をもらえなかったために恨み、その後彼女と会った際に抗議しようとして、彼女の方が立腹したので彼もかっとなって殺したという。 81年10月、裁判で殺人罪が確定したが、未成年らしい(年齢がはっきりせず)という理由で死刑