官僚によるマインドコントロール()捕鯨問題-10’

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270名無しさん@3周年
古来、動物に対する人間の見方には一定の価値観や偏見がつきまとってきた。近年そうした方面の研究が進んでいる。例えばハリエット・リトヴォ『階級としての動物――ヴィクトリア時代の英国人と動物たち』1)は英国における動物の種々なランク付けの歴史をたどり、
それが英国人の階級や差別意識、植民地主義と関わりを持っていることを明らかにしたし、ボリア・サックス『ナチスと動物』2)は、ナチスが動物保護に関してきわめて先進的であり、それがユダヤ人を虐殺した彼らの世界観と矛盾するものではなかったという事実を解明
したのである。ここでは藤原英司がイルカや鯨をどう見ているかを、彼の著書『海からの使者イルカ』3)を中心に分析してみたいと思う。最初に、なぜそうした分析をここで行うのかを書いておこう。 1982年、国際捕鯨委員会(IWC)は商業捕鯨の無期限モラトリアム(一
時休止)を決定した。しかしそこには、単に鯨資源が減少したからという客観的理由だけでは済まない要因があった。資源量とは無関係に鯨は捕獲してはならない特殊な動物、高度な知性を持つ動物、或いは神聖な動物、とする見方が混じり合っていたのである。4) つまり
、捕鯨問題とは、単に資源量やその科学的測定の問題なのではなく、鯨という動物をめぐる世界観の問題でもある。文化的な価値観とは無縁なはずの自然科学専門誌においてすら、鯨をめぐる価値観の相違は顕在化している。5) こうした問題に光を当て考察を加えるのは、
人文系の学問に属する仕事である。 藤原英司の経歴を簡単に述べておこう。 1933年東京生まれ、慶応大学卒。動物心理学専攻。野生動物に関する多くの著書や訳書で知られ、WWF日本委員会の創設にも携わるなど、自然保護運動に大きな足跡を残してきた。6) 捕鯨問題
に関しては、1993年6月12日付け朝日新聞の「論壇」欄に「環境科学文化研究所長」の肩書きで、「捕鯨活動は根本的な見直しを」を寄稿している。彼のイルカ観を分析することは、野生動物保護を訴える人間一般の思考法を分析することにもつながるであろう。
1.藤原英司と『野生のエルザ』
A. 藤原英司は、野生動物や未開地滞在を扱った洋書の邦訳者として出版界に登場した。記録に残る限りでは、マーチン・ジョンソン『シンバ 百獣の王国タンガニカへ』(白揚社、1958年6月)が最初の出版である。しかし彼の名が広く知られるようになったのは、ジ