258 :
N ◆5UMm.mhSro :
2009/01/04(日) 09:46:57 ID:3Ve5bAUz |● 実験: |研究対象のシステムに変化を与え、何が起るかを見ることで、より強い推論を得る |ことができる。 |これは実験室ベースでも行いうる。たとえば消費モデルに入力するため、アザラシ類、 |イルカ類の生理学的研究を捕獲下で行うという場合である。 |野外では小規模な実験が行われる。たとえば最近カナダ水産海洋省が行った「アザラシ |排除海域」の試験で、これは(a)アザラシ類を湾内から排除しておくことができるか、 |(b)これが漁業にとって認識しうる効果を与えるか、を見るためであった。 |● 『自然的』『実験』:(両方の言葉が括弧内に入っているが、これは必ずしも自然ではなく、 |本当に実験であるわけではないからだが)『自然的』『実験』というのもある。 |興味の対象となっているシステムにかかわる空間的変動、時間的変動、あるいはその両方が |ある場合に、われわれは違いを見ることができる。 |たとえばゼニガタアザラシのヨーロッパでの個体群はこの20年ほどの間に2回の個体数崩壊 |を経験した。これは麻疹ウイルスによるものだった(e.g. Harding et al. 2002)。 |これは漁業的に関心のある魚種へのゼニガタアザラシの捕食の影響を調査するチャンスであった。 |ゼニガタアザラシの数(従って補食圧)が場所及び時間について劇的に変化したからだ。 |麻疹ウイルスが個体数に影響を与えなかった海域もあり(北部ノルウェー)これは『自然対照区』 |となる。私の最善の知識によるならば、誰もこのような研究を実際には行わなかった。(泣く) ___________________________________________
259 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:47:50 ID:3Ve5bAUz
もう一つのアプローチとして、ひとたびデータが得られたなら、関心のあるシステムのモデルを つくるというやりかたがある。モデルはシンプルでもありうるし複雑でもありうる(データに 関するすべての統計的検定は実際にモデルである)。モデルはシステムに関する良いアイデアを 示す興味深い知的ツールと見ることもできる。これでリアリティーを模倣することもできる。 |● モデリング:われわれはコンピュータの中を走っている数学モデルを使い、関心のある |システムをモデル化することができる。 |科学者はたとえば個体生息数モデルを使い、これに海洋哺乳類と魚類の生理学的モデルを組み |合わせて、海洋哺乳類による捕食圧の強度を推定することができる。 |これらのモデル結果と実際の漁獲高を比較することにより、関心のある魚類の個体数状況に関して、 |海洋哺乳類の補食と漁業にかかわる相対的重要性についてのアイデアを得ることができる。 |(e.g. Hansen and Harding 2006, Trzcinski et al. 2006). クラシックな水産学はほとんど非操作的観察に依拠してきた。 魚類生息数推定、そして持続可能な漁獲死亡率の推定である。 実験は(モデリングへインプットするためのパラメーターを得るため、実験室ベースで作業 すること以外)ほとんど行われない。
260 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:50:00 ID:3Ve5bAUz
すべての実験は、そのデザインの最も弱い局面以上に優れたものにはなりえない。 すべての数学モデルは、その最も弱い前提以上にはなりえない。 古典的水産学で用いられる個体数モデルは、モデルにインプットする観察データが貧しいもの であっても、道理上の合理性として適度に信頼できる。 しかしわれわれが生態系ベースの水産管理へ移行したらどういうことになるだろうか。 観察されるパターンを正確かつ適切に叙述する必要があるだけではなく、これらのパターンが 生じてくることに責任のあるプロセスまで、われわれは理解しなければならないのである。 このプロセス、すなわち生態系がシステムとしてどのように機能しているかというのは、 定着している古典的水産モデルより複雑であり、理解もすすんでいない。 (漁獲の生態系効果を推論する最良の方法は、大規模実験アプローチで、漁業の存在あるいは 非存在を含み込むことである。これが生態系ベース水産管理で非漁獲海洋保護区 <漁業禁止海域>を設定することの<滅多に前面に出ない>正当化理由のひとつである [Corkeron 2006])
261 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:51:29 ID:3Ve5bAUz
プロセスを理解しようという試みはコミュニティー生態学(群集生態学)の焦点だった。 コミュニティー生態学者たちは野外ベースの実験をすることにより積極的であり、個体群 生態学者たちよりも大規模な実験を好んだ。個体群生態学者たちが大規模な実験アプローチで 破格の結果をもたらすということもあり得るが (たとえばSinclair and Krebs 2002, Sinclair and Byrom 2006)。 あまたの国家レベルの水産研究所は何十人という科学者を雇用しているが、そのほとんどは 古典的な水産生物学と生物学的海洋学の訓練を受けている。 漁業部門で生態系ベースの水産管理を制度化しようという時に、研究所は従来の人々を、 コミュニティー生態学の訓練を受けた人々で置き換えるということはしなかった。 制度的な惰性により、非操作的研究とモデル化の結合というやり方が日常的なものとして 残ったのである。 これは本当に問題なのだろうか。科学者たちが、彼らの政治的上司からの最新の指示に合わせて 彼らの古い手法を新たにパッケージし直したところで、誰が気にかけるだろうか。 私はこれが問題だと論ずる。そしてもしわれわれが人間の海洋生態系への影響を理解したいと 望むなら、われわれが出会う科学遂行プロセスの悪用をさらすことが必要だと主張する。
262 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:52:38 ID:3Ve5bAUz
ここではバレンツ海で商業的に重要な魚種個体群についてのノルウェーの研究を例として 挙げる。 私はこれを政治的には居心地がよいが、やり方が貧困な科学の代表例として示す。 ノルウェーの政官支配層は空虚な論点(海洋哺乳類による消費)に注目を集めるだけでは なく、本当の論点である水産管理の失敗から焦点をはずしている。これにより、本当の 問題は増殖する。 この議論はバレンツ海でのノルウェーの研究を扱うもので、アイスランドの研究について ではない。しかしプレイヤーは共通している。生物学的には魚類個体群と海洋哺乳類であり、 人的にはノルウェー、アイスランド両国の科学と水産管理エスタブリッシュメントで、 部分的には同一である。ノルウェーの研究のほうが長い期間進行しており、何らかの 教訓を得るには適している。
263 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:53:10 ID:3Ve5bAUz
[Background: fish and fishing in the Barents Sea] [背景:バレンツ海における魚と漁業] カラフトシシャモは小さな魚で北極圏海域のいたるところに分布し、バレンツ海生態系の 重要な構成要素である(しかしこの議論はバレンツ海のカラフトシシャモについてのもの であり、アイスランド海域のカラフトシシャモとは別の個体群であることに留意されたい)。 カラフトシシャモは夏の日照が到来するとバレンツ海北部で大繁殖するプランクトンを餌 としている。後に彼らは南方へと回遊し、フィンマルク(北部ノルウェー)とコラ半島 (北西ロシア)沿岸で春に産卵する。 ロシアとノルウェーはカラフトシシャモを産業的に漁獲しており、共同で漁獲枠合意を 行っている。 カラフトシシャモのバレンツ海における産業的漁獲は比較的新しい。本格的に操業されだした のは1970年代であり、漁獲高のピークは1977年の300万トン弱である。この当時、この漁は 単一種としては欧州最大の漁業であった。ノルウェーの1977年のカラフトシシャモ水揚げ高 は200万トンを越え(ロシアは漁獲高80万トンと報告している)、これは単一種世界最大の 漁獲高であった。 この漁獲圧にあってカラフトシシャモ個体群は崩壊し、オリジナル量の約20分の1となり、 1975年の最大推定量900万トン近くから、1987年の約10万トンへと減少した。 その結果、シシャモ漁は休漁となった。 1987年の最初の休漁から2006年までの20年間で、カラフトシシャモ漁が解禁されたのは 8年間であり休漁期間は12年間だった(すべて、情報はOctober 2006 ICES advice on capelinによる)。 これまでの20年間のうちで、休漁期間は操業期間の150%にのぼったのである。 解禁された二つの期間(3年間と5年間)それぞれの期間水揚げ高は1977年一年分の 水揚げに及ばない。2004年には再び禁漁となり、それ以来再開されていない。
264 :
名無しさん@3周年 :2009/01/04(日) 09:54:54 ID:3Ve5bAUz
16頁 なぜ大崩壊が起ったのだろうか。2004年に発表された論文 (Hjermann et al. 2004)が いくらかの回答を与えている(これは最初の二つの大崩壊しか扱っていない)。 生態系と漁業の両者が役割をはたしている。 カラフトシシャモは寿命の短い魚であり、最長5歳で一度だけ産卵をすると死ぬ。 タイセイヨウタラは油ののったカラフトシシャモの成魚を食べる。若いニシンはカラフト シシャモの稚魚を食べる。バレンツ海のニシン個体群は1960年代後期と1970年代初期に ほとんど獲り尽くされたが、1980年代後期から回復をはじめた(Hjermann et al. 2004)。 バレンツ海のタイセイヨウタラは減耗しているにもかかわらず、生き残っている最後の 大タラ個体群であり、産卵個体群生物量は60万トンと推定されている(このpdf、Table 3.4.1.3 参照)。 カラフトシシャモの過剰漁獲が崩壊の発端をつくった。問題はタイセイヨウタラが、その 産卵場へ向かう回遊のために、油脂の多い成長したカラフトシシャモを食べてエネルギー を備蓄する必要があるということである。カラフトシシャモの数が相対的に少なくなっても、 タイセイヨウタラはわざわざ彼らを捜し出すのである。このことがカラフトシシャモ個体群 の回復を遅らせた。
265 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:55:47 ID:3Ve5bAUz
2回目の崩壊(1990年代初期)を駆動したのはニシン個体群の回復だった。これはカラフト シシャモの稚魚を食べるニシンと、年長のカラフトシシャモとニシンの食物をめぐる競合という 複合になった。さらにふたたびタラのカラフトシシャモ捕食が回復を遅らせた。 「クジラが魚を食う」議論との関係で重要なのは、ヒルマン他(2004)論文は、カラフトシシャモ の大崩壊を魚類個体群と漁業だけでモデル化していることであり、海洋哺乳類のカラフトシシャモ 捕食の影響は、もしあったとしてもトリビアルなものだということを示唆している点である (漁業と他の生態系構成要因すなわち魚、との相対的関係においてということだが)。 データを満足に説明するモデルを構築するには、海洋哺乳類の捕食を取り入れる必要はなかった のである。