250 :
N ◆5UMm.mhSro :
2009/01/04(日) 09:33:52 ID:NLLQhsym ● 2007年7月10日、Stod 2/ Visirのテレビインタビューでアイスランド水産相エイナール・ K.グドフィンソンは、新漁獲枠設定に際して捕鯨枠は与えないとした。インタビューは アイスランド漁船船主連合(LIU)発言に触れて、彼らがクジラが魚を全部食べてしまう という事実に基づき、販売量とは無関係に捕鯨枠を増大すべきという主張をとりあげた。 グドフィソンはアイスランドの捕鯨は鯨肉が売れるかどうかによって決めると発言していた にもかかわらず、この利害関心に同意を示した。 水産業を保護するために海洋哺乳類を間引かねばならないという考え方は新しいものではない。 こういう主張は何十年も前からあるし、何世紀も前からあるのかもしれない。 たとえば1960年代末にノルウェーで春産ニシン (Clupea harengus)個体群が崩壊したとき、 これは大規模な乱獲の直接の結果だったのだが、政府はシャチ(Orcinus orca)の捕獲を決定した。 シャチがニシンを食うということは知られていた。1969年から1980年にかけて700頭の シャチが捕獲された(?ien 1988)。 新しいことはといえば、生態系の相互関連を計算に入れた効果的水産管理で、海洋哺乳類の 間引きが第一の構成要素とされたことである。 どのようにしてこうなったのだろうか。
251 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:34:30 ID:NLLQhsym
7頁 [The effects of fisheries on marine ecosystems: a change in thinking.] [海洋生態系に対する漁業の影響:考え方の転換] この問題を文脈の中へ定置するために、世界の水産状況の非常におおまかな概観が必要になる。 国連食糧農業機構水産水耕部会((FAO Fisheries)の推定によると、2005年に世界の漁獲の25%が 過剰漁獲、枯渇あるいは枯渇からの回復の状態になっている。 52%が満限漁獲、20%が適度な漁獲、3%が低水準漁獲である。海洋の収奪型水揚げは現在、 1980年代よりも低い(Watson and Pauly 2001, Pauly et al. 2003)。水産は世界的に危機の状態に あるのだ。危機の規模については科学上の議論があるが (たとえば Hilborn 2006)、(私の知る限り) 現状維持が受け入れ可能という議論は科学的文献(*査読学術論文)上には存在しない。 これとは別のことも起っている。水産の海洋生態系に対する影響に関するわれわれの 理解はこの数10年間ぐらいで大きく変化した。数多くの学術論文が古いものの見方に 挑戦し、新たなアイデアを導入した。産業的漁業が引き起こした問題は、単にターゲットと した魚種資源に影響を与えたばかりではなく、漁獲が海洋生態系全般に大規模で有害な 影響を及ぼしたというのである(Watson and Pauly 2001, Pauly et al. 2003)。 直接の問題は過剰漁獲、目的魚種の過剰捕獲であり、また破壊的漁獲、すなわち底引き網のような 漁法である。底引きトロールは、その作動メカニズムからして、通過したあとの生態系に有害な 影響を及ぼさずにはおかない。
252 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:35:14 ID:NLLQhsym
8頁 同様に理解が深まっているのが、歴史的に人間が過剰な漁業を営んできたということ であり、この歴史的過剰漁獲も生態学的な影響を及ぼしたということである (たとえば Jackson 2001, Jackson et al. 2001)。 現在われわれがともに生きている海洋環境は、多くの場合何世紀にもわたる人類の撹乱の 産物なのである。過去の時代、数々の海洋生態系は現在よりもはるかに高い生産性を 保持していた。アイスランドのタイセイヨウダラ個体数が現在では、50年前の3分の1 でしかないことを思い起こしてみよう。 漁業の管理者たちが、前世紀中頃個体数に近いところまで次第に戻してやろうと試みたら どうだろうか。そのような個体群からの持続可能な漁獲は現在の水揚げ高よりも高くなる。 水産科学では海洋生態系を復元し、歴史的な生産性を取り戻す道を探る声が高まっている(たとえばPitcher 2001)。 より生産的であり、環境破壊がより少ない漁業という究極目標である。 こおれら最近の科学共同体におおける発展は、よりよく生態系に基礎を置いた漁業を 呼びかけている(Corkeron 2006)。この声は抽象的な科学利論を越えて、国際的な 官僚制度にも移行している。その一つの成果が2002年の持続可能な開発に関する 世界サミット(ヨハネスブルク・サミット)である。ここでは漁業について、「2010年 までに生態系アプローチを適用することを促進する」と呼びかけられた。 これらを総合してみると、この間の発展がわれわれの漁業による海洋生態系への影響についての 理解を大きくシフトさせたということがわかる。 これは同時に、以前のクラシックな水産管理への告発でもある。
253 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:35:47 ID:NLLQhsym
9頁 これらのアイデアを発展させた科学者たちは、傾向として北米の学術機関に基盤を おいている。欧州諸政府は多くの水産学者を雇用しているが、彼らの学問的訓練は クラシックな水産管理についてのものである。最近の新しいアイデアは、一般的に 言って確立した水産科学ではなかなか支持を得難い。 特にヨーロッパではその傾向が強く(たとえばICES Journal of Marine Science 生態系指標特別号参照。 更に、Cury and Christiansen 2005, Daan 2005)、大学で 雇用されている生態学者たちとその受容に違いがある。 しかし、その違いは比較的微妙なもので、学術論文にあらわれる生態系ベースの水産と 捕鯨国の政府系(あるいは準政府系)研究機関に雇用されている科学者たちがイメージ している生態系ベースの水産の違いに比べれば些細なものである。
254 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:37:33 ID:NLLQhsym
http://www.wdcs-de.org/docs/Iceland_Corkeron_Report.pdf Iceland, whaling and ecosystem-based fishery management.
Peter Corkeron Ph.D.
http://aleakage.blogspot.com/ [Opposing views of “Ecosystem-based fishery management”]
[『生態系ベースの水産管理』に関する対立した見方]
さてそれでは、水産への「生態系アプローチ」とは何なのだろうか。「生態系ベースの水産管理」
が必然的にもたらすものは何なのだろうか。
2004年のサイエンス誌で、ピキッチュと共同執筆者たちが<生態系ベース水産管理>を簡潔明瞭に
定義している。「生態系ベースの水産管理は管理上の優先順位をひっくり返した。生態系の構造と
機能を持続させるという目的が、水産収益を最大化させるという目的に取って代わったのである」
(Pikitch et al. 2004, p 1892)。
しかし生態系ベースの水産管理には別の見方もある。現在のノルウェーの海洋哺乳類「管理」ポリシー
がその例を提供している。この政策は「ノルウェーの海洋資源を生態系アプローチで管理してゆこう
というノルウェーの努力の一部をなす。」(これは政策導入の白書英語訳によるもので、以前の原稿
[Corkeron 2006]に引用したが、現在ノルウェー政府のウェブサイトでは消えている)
255 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:38:12 ID:NLLQhsym
10頁 政策は2010年までに生態系アプローチの水産を実現するというノルウェーの義務を満たすための 政府の取り組みの一部である。(ノルウェー語による)ポリシーの説明は「生態系ベースの管理は 資源−生態学の論拠を海洋哺乳類個体数サイズを決定するための目標確立の基礎として利用する。 これは生物学的に安全な枠組みと予防的水準の準拠リミットとして結果を出す必要がある」と なっている。 これを私は「複数種一括/多品種一括水産管理(MSFM)」と呼び、上に説明した生態系ベースの水産管理 とは区別した(Corkeron 2006)。 その理由はこれが伝統的な管理優先順位を堅持しているからである。 産業的漁業による収穫量の最大化という目的が、生態系機能の維持よりも上位に置かれ、科学文献で 提起されている生態系ベースの水産管理基準には即応していないからだ。
256 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:39:42 ID:NLLQhsym
[How scientists make inference from data.] [科学者はデータからどのように推論を導き出すのか。] 生態系ベースの水産管理実現にあたってひとつ、興味深いマナー、流儀のようなものがある。 アカデミックな科学と、各国政府に支持された科学、および国際機関へなされる科学的助言が 相互作用して、各国レベル、広域レベル、国際レベルそれぞれで、政策及び管理方針決定に 影響を与える様式、マナーのことである。 これらがどのように働くのかということを理解するためには、すこしその背景を理解しておく 必要があるので、応用生態学者たちが用いている概念的ツールを説明しておく。 生態学者たちはデータから推論を導き出す。しかしデータをどのように集めるかということが、 推論獲得の性能に影響を与える。 話を簡単にするために、野外データの集め方の3つの方法を説明しよう。非操作的研究、 実験、「自然」実験の3つの方法である。
257 :
N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:41:13 ID:NLLQhsym
|● 非操作的: |われわれは研究対象のシステムを撹乱することなく興味の対象動物を研究することができる。 |この研究は単純でもありうるうるし、洗練されたものでもありうる。 |コンセプトとして注記しておきたいのは、操作するというのが、生態系(エコシステム) |について言っていることであり、個々の動物についてではないということである。 |「致死的サンプリング」、胃内容を見るために動物を殺す、ということは観察の一形態であり、 |科学者がシステムを撹乱し、その撹乱の影響を調査するというのでないかぎり、これは |非操作的の部類に含まれる。科学者たちが大量の動物を殺したり(特に重要な動物の場合) |取り除くことによって、たとえ撹乱を作り出すようなことがあっても、ここでは適切な研究 |デザインを欠いており、そこから理解を得ることは困難(たぶん不可能)であろう。 |この定義だと、致死サンプリングは特に複雑な研究デザインや分析能力を必要とせず |(e.g. Haug et al. 2002, Mikkelsen et al. 2002)、極端に単純化されていると言いうる。 |それに対して写真照合による研究は、分析のために洗練された数学手法を用いるならば |(e.g. Parra et al. 2006a, b)、洗練された研究でありうる。 |非操作的研究は関心対象のシステムに撹乱を与えないことから、因果関係については、 |ノイズから(因果性の)シグナルを漉き出すことによってのみ推論を得ることができる。 |この研究法は調査デザインの古典的な問題に悩まされることになる。 |相関関係は因果関係をあらわしているわけではないという問題である。