官僚によるマインドコントロール()捕鯨問題-9

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243N ◆5UMm.mhSro
http://www.wdcs-de.org/docs/Iceland_Corkeron_Report.pdf
Iceland, whaling and ecosystem-based fishery management.
Peter Corkeron Ph.D.
http://aleakage.blogspot.com/
1

Introduction
アイスランド人たちは海に頼っているし、いつもそうだった。彼らにとって漁獲はいつも
重要で、漁業を持続的に保つことについて、かれらは優れた経歴を示している。

アイスランドの水産相は2006年10月17日の声明で次のように述べている。
「アイスランド経済は全世紀を通じて海洋生物資源の利用に圧倒的に依存している。
したがってアイスランド人の長期的な幸福にとって、この持続的な利用が中心的な
重要性を持っている。こういう理由で、アイスランドは漁業の効果的な管理と、海洋
生態系(エコシステム)のすべての構成要素の科学的研究に重きを置いている。

世界中で多くの魚類系統群が減少し、枯渇さえしている現在、アイスランドの海洋
資源は一般的にいって健全である。それはこの重点政策によるものである。
漁業と捕鯨の年間捕獲枠は科学者たちの勧告によっており、彼らは恒常的に
系群の状態を監視している。それで生業の持続性が確保されるのである。」

漁業はアイスランドの商品サービス輸出額の約40%を占め、商品輸出だけに限ると
大雑把に言って3分の2になる。漁業および水産加工は国内総生産(GDP)の10%を
わずかに下回る水準で、これは1980年の15%強から低下してきた水準である。

2007年に30万人の人口を数えるアイスランドは、世界で178番目の国民規模だが、
2002年には世界で13番目の水産輸出大国だった。アイスランド経済は強く
水産分門に依存している(”圧倒的に依存”はやや大げさな表現だが)。
244N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 08:49:36 ID:AgkYjtIr
2頁
他の多くの国々、特に欧州連合の水産管理の貧しい成果に比べて、アイスランドの
漁業管理は悪くない。最近のICES(海洋探査国際評議会?)のアドバイスでは、
アイスランドの2系群(タイセイヨウタラとモンツキダラ)が歴史的に最高水準の漁獲高に
対する漁獲死亡率の査定で「過剰漁獲」と格付けされた。4系群が「不定」である。

この査定の直後、アイスランドのタイセイヨウダラ漁獲割り当ては相当に削減された。
これはすばらしい業績というふうには見えないが、北海の8系群「過剰漁獲」、5系群
「不定」あるいは「未知」に比べればたいしたものである。

アイスランド漁業は過剰漁獲ではなく環境問題に直面している。
デンマーク海峡(西グリーンランドとアイスランドの間)の海中が変動しているのであり、
ここ数年、温暖で塩分濃度の高い大西洋の水が以前よりはるかに北方へ動いて
いるのである。これがアイスランドの水域に生息するシシャモ(Mallotus villosus)個体群
に影響を与えているようである。

アイスランドの科学者たちにとって、シシャモの位置を特定し、生息数を推定することが困難に
なっている。そのため、アイスランドの科学者たちが出す漁獲量割り当てのアドバイスに影響が
及び、ここ数年のアイスランドのシシャモ水揚げ高の減少となっている。

英国の海洋保全協会はアイスランドのタイセイヨウタラ(Gadus morhua)漁獲割り当て
削減を賞賛し、英国消費者の持続的シーフードへの要求がこの削減の動機となったと
言及している。タラ割り当ての削減は持続可能性への良いステップだが、アイスランドの
タラ個体群サイズ(正式にはその繁殖ストック生物量ポイント推定という)が、50年前の
3分の1に過ぎないということも、思い起こしておく価値があるだろう。(see Figure 2.4.2.1 in the linked pdf)

改善の余地はあるものの、アイスランド人たちは、漁業管理に関して、国民としてヨーロッパ人
の中ではぬきんでた聡明な態度を示していると指摘しておくのが公平だろう。
しかし、上記の水産相の発言は、アイスランドの商業捕鯨再開の声明の一部として
おこなわれたものである。
245名無しさん@3周年:2009/01/04(日) 08:49:41 ID:5NppVsrU
日本は国家として商業捕鯨一時中止決議(モラトリアム1982年)に同意しています。(ツチ鯨、ゴンドウ鯨等を除く)
つまり商業捕鯨はできないのです。

で同じ組織・団体でもって調査捕鯨(科学捕鯨)へと移行したわけです。
開始当初の目的は(モラトリアム提言の根拠ともなった)「鯨の不確実性」を解明するための生態データを収集するためであったのです。
安全に商業捕鯨を行うためには「鯨の不確実性」を払拭する必要があるという考えの下で開始だったのです。
つまり調査捕鯨の目的はあくまでも「安全に商業捕鯨を行うためにはどうすれば良いのか」を探すことだったのであり
別に「鯨の自由研究」ではなかったのです。

で時代は流れ、「安全に商業捕鯨を行うためには」別段、生態データは必要としないよってことが分かってきた。
そう、RMP鯨資源管理方式が開発されたのです。(科学委員会における全会一致での合意1991年)

「安全に商業捕鯨を行うためには」別段、生態データは必要としない。
つまり調査捕鯨の科学的根拠がその1991年を境に喪失してしまったということなのです。

でも、科学的根拠が無いまま「科学だ!」と言い張り調査捕鯨を続けています。
これを「税金の無駄遣い」と言わずして何と言うのでありましょうか。
「無駄な公共事業」と言われる所以はここにあるというわけです。
246N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 08:51:08 ID:AgkYjtIr
3頁
2006年にアイスランドは1989年以来はじめての商業的な捕鯨を再開した。ナガスクジラ
(Balaenoptera physalus)商業捕鯨枠9頭に対して7頭が実際に捕殺された。
2007/2008漁期についてはもっと多数の捕鯨枠が考慮されている。

アイスランドで商業捕鯨が再開されたのは、これとは別の捕鯨プログラム、国際捕鯨
取締条約第8条に基づく捕鯨の後である(これを私は8条捕鯨と呼ぶが、通常は
「科学的捕鯨」と呼ばれている)。この8条捕鯨は2003年に制度化され、北のミンク
クジラ(B. acutorostrata)を捕獲している。このプログラムは今年(2007年)終了し、
捕殺総数は200頭であった。ミンククジラの商業捕鯨は2006/2007年にはじまり、
捕獲枠は30頭だった。

アイスランドのミンククジラ捕鯨とナガスクジラ捕鯨には技術的に重要な違いがある。
ミンククジラは小さな船で捕殺することができる。年間の一時期だけ捕鯨砲(ハプーン砲)
を装着する漁船でよいのである。ナガスクジラはこのような小型船で猟るには大きすぎる。

2006年アイスランドのナガスクジラ漁には、何年ものあいだレイキャビク港の風物と
なっていた古い捕鯨船のうちの一隻が使われた。

しかしこれらの捕鯨キャッチャーボートを、一年のほとんど漁獲のために出漁できるよう
にと改造することは不可能であるようだ。現役として残るためには捕鯨をしなければ
ならないのである。別の言い方をすると、これらの大型のクジラを2006/2007年
ナガスクジラ捕獲枠9頭よりも、基本的に多く採れるようにする必要があるのだ。

アイスランドの捕鯨者たちは昔も今も、大型ヒゲクジラ類の大規模商業捕鯨再開に
きわどく依存しているように見える。

アイスランドではナガスクジラ肉の需要に限界がある(アイスランドの人口は30万に
すぎないのだから)。そこで日本へ鯨肉を売るという動機が生まれる。しかしこの
文章を書いている現在(2007年10月初旬)、鯨肉販売の交渉は決着を見ておらず、
肉はアイスランドの倉庫に保存されている。
247N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 08:52:16 ID:AgkYjtIr
4頁
2007年8月24日、アイスランドの農水相は2007/2008年漁期(9月1日にスタート)
にナガスクジラの新たな捕鯨枠は発行しないと発表した。現在の鯨肉在庫が売り捌け
ていないからというのである。市場の見えざる手がアイスランドのハプーンを
永久的に引退させたのかどうかは定かではない。他の要因の役割、たとえば国際
世論、国内の異論などについてもはっきりしない。
現在のところの見解表明では、近い将来に契約が成立すれば捕鯨枠設定に余地を残し、
2007/2008年にはミンククジラについて商業捕鯨枠が発行されるだろうと見られる。

しかしアイスランドの水産業界からは、市場の動向とは無関係に捕鯨を求める声が
上がっている。クジラは間引く必要があるという声である。このような主張は海洋
哺乳類を猟っている国々から、近年日増しに、より一般的に聴こえてくるようになった。

このような主張は評価に値するのであろうか?この稿では「生態系ベースの水産管理」
の名の下に行われる鯨類の間引きという、捕鯨国の人々の主張を一般的に批判し、
アイスランドについて特に焦点を当てる。この主張をアイスランドでの別の動向、
生態系アプローチを漁業管理に利用するという試みと対比することによってである。
248N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 08:54:25 ID:AgkYjtIr
5
[Culling whales as fishery management.]
[水産管理としてのクジラの間引き]
アイスランドは2006年に国際捕鯨委員会(IWC)でサンキッツ&ネヴィス宣言を主唱した
国々のひとつである。この宣言のほとんどはIWC内部の問題に関する主唱国の受け止め方
を表現したものであるが、以下の言明も含んでいる:

「科学的調査が示した所によると、鯨類が大量の魚を消費していることが、沿岸国の食糧
安全保障にとって問題となっているという課題を受け止め、エコシステム管理ということが
国際標準になっている現在、鯨類ストック(資源/個体群)の管理という課題が、生態系管理
というより広い文脈で考察されねばならないということを受け入れ...」

海洋哺乳類の捕獲を行っている国々(およびその支持者たち)は次のように主張している。
(a)海洋哺乳類の個体数は商用魚の豊度に負の影響を与えている。
(b)海洋哺乳類の間引きは明白に漁業に有利に働き、「生態系ベースの水産管理(EBFM)」
の一部を形成する。

これをもっともどぎつく主張しているのは日本であり、ノルウェーは2004年以来間引きを
海洋哺乳類政策上の国策の一部と認めている。

さらに日本は、国連食糧農業機構(FAO)を通じてカリブ海地域での「調査」プログラムに
資金を供与している。これは「小アンティユにおける海洋哺乳類その他の最上位補食者を
含む生態系ベースの管理のための科学的基盤」と名付けられている。

アイスランドの報道のわずかな例からも、この見方、急増する鯨類個体数が「我々の」
魚を喰いすぎているという考え方が水産業界のメンバーや政治家に支持されているという
ことが見て取れる。
249N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 08:55:09 ID:AgkYjtIr
● 2007年7月2日、アイスランド漁船船主連合(LIU)は、最近のアイスランドでの
タイセイヨウダラ漁獲枠削減と捕鯨の継続のみならず増大に関する声明を発表した。
声明によると、「鯨類の大幅な増加はカラフトシシャモとタラの資源量に影響を与え..
.鯨類は100万から200万トンのカラフトシシャモを消費し、甚大な量のタラも
捕食している。」

● 2007年7月3日、ミンク鯨漁協会 (Felag hrefnuveidarmanna)はウェブサイトに、
「ミンクはタラ、スケトウで腹一杯」という表題の記事を掲載した。

● 2007年7月10日、Stod 2/ Visirのテレビインタビューでアイスランド水産相エイナール・
K.グドフィンソンは、新漁獲枠設定に際して捕鯨枠は与えないとした。インタビューは
アイスランド漁船船主連合(LIU)発言に触れて、彼らがクジラが魚を全部食べてしまう
という事実基づき、販売量とは無関係に捕鯨枠を増大すべきという主張をとりあげた。
グドフィソンはアイスランドの捕鯨は鯨肉が売れるかどうかによって決めると発言
していたにもかかわらず、この利害関心に同意を示した。
250N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:33:52 ID:NLLQhsym
● 2007年7月10日、Stod 2/ Visirのテレビインタビューでアイスランド水産相エイナール・
K.グドフィンソンは、新漁獲枠設定に際して捕鯨枠は与えないとした。インタビューは
アイスランド漁船船主連合(LIU)発言に触れて、彼らがクジラが魚を全部食べてしまう
という事実に基づき、販売量とは無関係に捕鯨枠を増大すべきという主張をとりあげた。
グドフィソンはアイスランドの捕鯨は鯨肉が売れるかどうかによって決めると発言していた
にもかかわらず、この利害関心に同意を示した。

水産業を保護するために海洋哺乳類を間引かねばならないという考え方は新しいものではない。
こういう主張は何十年も前からあるし、何世紀も前からあるのかもしれない。

たとえば1960年代末にノルウェーで春産ニシン (Clupea harengus)個体群が崩壊したとき、
これは大規模な乱獲の直接の結果だったのだが、政府はシャチ(Orcinus orca)の捕獲を決定した。

シャチがニシンを食うということは知られていた。1969年から1980年にかけて700頭の
シャチが捕獲された(?ien 1988)。

新しいことはといえば、生態系の相互関連を計算に入れた効果的水産管理で、海洋哺乳類の
間引きが第一の構成要素とされたことである。

どのようにしてこうなったのだろうか。
251N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:34:30 ID:NLLQhsym
7頁
[The effects of fisheries on marine ecosystems: a change in thinking.]
[海洋生態系に対する漁業の影響:考え方の転換]
この問題を文脈の中へ定置するために、世界の水産状況の非常におおまかな概観が必要になる。

国連食糧農業機構水産水耕部会((FAO Fisheries)の推定によると、2005年に世界の漁獲の25%が
過剰漁獲、枯渇あるいは枯渇からの回復の状態になっている。
52%が満限漁獲、20%が適度な漁獲、3%が低水準漁獲である。海洋の収奪型水揚げは現在、
1980年代よりも低い(Watson and Pauly 2001, Pauly et al. 2003)。水産は世界的に危機の状態に
あるのだ。危機の規模については科学上の議論があるが (たとえば Hilborn 2006)、(私の知る限り)
現状維持が受け入れ可能という議論は科学的文献(*査読学術論文)上には存在しない。

これとは別のことも起っている。水産の海洋生態系に対する影響に関するわれわれの
理解はこの数10年間ぐらいで大きく変化した。数多くの学術論文が古いものの見方に
挑戦し、新たなアイデアを導入した。産業的漁業が引き起こした問題は、単にターゲットと
した魚種資源に影響を与えたばかりではなく、漁獲が海洋生態系全般に大規模で有害な
影響を及ぼしたというのである(Watson and Pauly 2001, Pauly et al. 2003)。

直接の問題は過剰漁獲、目的魚種の過剰捕獲であり、また破壊的漁獲、すなわち底引き網のような
漁法である。底引きトロールは、その作動メカニズムからして、通過したあとの生態系に有害な
影響を及ぼさずにはおかない。
252N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:35:14 ID:NLLQhsym
8頁
同様に理解が深まっているのが、歴史的に人間が過剰な漁業を営んできたということ
であり、この歴史的過剰漁獲も生態学的な影響を及ぼしたということである (たとえば Jackson
2001, Jackson et al. 2001)。
現在われわれがともに生きている海洋環境は、多くの場合何世紀にもわたる人類の撹乱の
産物なのである。過去の時代、数々の海洋生態系は現在よりもはるかに高い生産性を
保持していた。アイスランドのタイセイヨウダラ個体数が現在では、50年前の3分の1
でしかないことを思い起こしてみよう。

漁業の管理者たちが、前世紀中頃個体数に近いところまで次第に戻してやろうと試みたら
どうだろうか。そのような個体群からの持続可能な漁獲は現在の水揚げ高よりも高くなる。

水産科学では海洋生態系を復元し、歴史的な生産性を取り戻す道を探る声が高まっている(たとえばPitcher 2001)。
より生産的であり、環境破壊がより少ない漁業という究極目標である。

こおれら最近の科学共同体におおける発展は、よりよく生態系に基礎を置いた漁業を
呼びかけている(Corkeron 2006)。この声は抽象的な科学利論を越えて、国際的な
官僚制度にも移行している。その一つの成果が2002年の持続可能な開発に関する
世界サミット(ヨハネスブルク・サミット)である。ここでは漁業について、「2010年
までに生態系アプローチを適用することを促進する」と呼びかけられた。

これらを総合してみると、この間の発展がわれわれの漁業による海洋生態系への影響についての
理解を大きくシフトさせたということがわかる。
これは同時に、以前のクラシックな水産管理への告発でもある。
253N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:35:47 ID:NLLQhsym
9頁
これらのアイデアを発展させた科学者たちは、傾向として北米の学術機関に基盤を
おいている。欧州諸政府は多くの水産学者を雇用しているが、彼らの学問的訓練は
クラシックな水産管理についてのものである。最近の新しいアイデアは、一般的に
言って確立した水産科学ではなかなか支持を得難い。

特にヨーロッパではその傾向が強く(たとえばICES Journal of Marine Science 
生態系指標特別号参照。 更に、Cury and Christiansen 2005, Daan 2005)、大学で
雇用されている生態学者たちとその受容に違いがある。

しかし、その違いは比較的微妙なもので、学術論文にあらわれる生態系ベースの水産と
捕鯨国の政府系(あるいは準政府系)研究機関に雇用されている科学者たちがイメージ
している生態系ベースの水産の違いに比べれば些細なものである。
254N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:37:33 ID:NLLQhsym
http://www.wdcs-de.org/docs/Iceland_Corkeron_Report.pdf
Iceland, whaling and ecosystem-based fishery management.
Peter Corkeron Ph.D.
http://aleakage.blogspot.com/[Opposing views of “Ecosystem-based fishery management”]
[『生態系ベースの水産管理』に関する対立した見方]

さてそれでは、水産への「生態系アプローチ」とは何なのだろうか。「生態系ベースの水産管理」
が必然的にもたらすものは何なのだろうか。

2004年のサイエンス誌で、ピキッチュと共同執筆者たちが<生態系ベース水産管理>を簡潔明瞭に
定義している。「生態系ベースの水産管理は管理上の優先順位をひっくり返した。生態系の構造と
機能を持続させるという目的が、水産収益を最大化させるという目的に取って代わったのである」
(Pikitch et al. 2004, p 1892)。

しかし生態系ベースの水産管理には別の見方もある。現在のノルウェーの海洋哺乳類「管理」ポリシー
がその例を提供している。この政策は「ノルウェーの海洋資源を生態系アプローチで管理してゆこう
というノルウェーの努力の一部をなす。」(これは政策導入の白書英語訳によるもので、以前の原稿
[Corkeron 2006]に引用したが、現在ノルウェー政府のウェブサイトでは消えている)
255N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:38:12 ID:NLLQhsym
10頁
政策は2010年までに生態系アプローチの水産を実現するというノルウェーの義務を満たすための
政府の取り組みの一部である。(ノルウェー語による)ポリシーの説明は「生態系ベースの管理は
資源−生態学の論拠を海洋哺乳類個体数サイズを決定するための目標確立の基礎として利用する。
これは生物学的に安全な枠組みと予防的水準の準拠リミットとして結果を出す必要がある」と
なっている。

これを私は「複数種一括/多品種一括水産管理(MSFM)」と呼び、上に説明した生態系ベースの水産管理
とは区別した(Corkeron 2006)。

その理由はこれが伝統的な管理優先順位を堅持しているからである。
産業的漁業による収穫量の最大化という目的が、生態系機能の維持よりも上位に置かれ、科学文献で
提起されている生態系ベースの水産管理基準には即応していないからだ。
256N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:39:42 ID:NLLQhsym
[How scientists make inference from data.]
[科学者はデータからどのように推論を導き出すのか。]
生態系ベースの水産管理実現にあたってひとつ、興味深いマナー、流儀のようなものがある。
アカデミックな科学と、各国政府に支持された科学、および国際機関へなされる科学的助言が
相互作用して、各国レベル、広域レベル、国際レベルそれぞれで、政策及び管理方針決定に
影響を与える様式、マナーのことである。

これらがどのように働くのかということを理解するためには、すこしその背景を理解しておく
必要があるので、応用生態学者たちが用いている概念的ツールを説明しておく。

生態学者たちはデータから推論を導き出す。しかしデータをどのように集めるかということが、
推論獲得の性能に影響を与える。

話を簡単にするために、野外データの集め方の3つの方法を説明しよう。非操作的研究、
実験、「自然」実験の3つの方法である。
257N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:41:13 ID:NLLQhsym
|● 非操作的:
|われわれは研究対象のシステムを撹乱することなく興味の対象動物を研究することができる。
|この研究は単純でもありうるうるし、洗練されたものでもありうる。

|コンセプトとして注記しておきたいのは、操作するというのが、生態系(エコシステム)
|について言っていることであり、個々の動物についてではないということである。

|「致死的サンプリング」、胃内容を見るために動物を殺す、ということは観察の一形態であり、
|科学者がシステムを撹乱し、その撹乱の影響を調査するというのでないかぎり、これは
|非操作的の部類に含まれる。科学者たちが大量の動物を殺したり(特に重要な動物の場合)
|取り除くことによって、たとえ撹乱を作り出すようなことがあっても、ここでは適切な研究
|デザインを欠いており、そこから理解を得ることは困難(たぶん不可能)であろう。

|この定義だと、致死サンプリングは特に複雑な研究デザインや分析能力を必要とせず
|(e.g. Haug et al. 2002, Mikkelsen et al. 2002)、極端に単純化されていると言いうる。
|それに対して写真照合による研究は、分析のために洗練された数学手法を用いるならば
|(e.g. Parra et al. 2006a, b)、洗練された研究でありうる。

|非操作的研究は関心対象のシステムに撹乱を与えないことから、因果関係については、
|ノイズから(因果性の)シグナルを漉き出すことによってのみ推論を得ることができる。

|この研究法は調査デザインの古典的な問題に悩まされることになる。
|相関関係は因果関係をあらわしているわけではないという問題である。
258N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:46:57 ID:3Ve5bAUz
|● 実験:
|研究対象のシステムに変化を与え、何が起るかを見ることで、より強い推論を得る
|ことができる。
|これは実験室ベースでも行いうる。たとえば消費モデルに入力するため、アザラシ類、
|イルカ類の生理学的研究を捕獲下で行うという場合である。
|野外では小規模な実験が行われる。たとえば最近カナダ水産海洋省が行った「アザラシ
|排除海域」の試験で、これは(a)アザラシ類を湾内から排除しておくことができるか、
|(b)これが漁業にとって認識しうる効果を与えるか、を見るためであった。

|● 『自然的』『実験』:(両方の言葉が括弧内に入っているが、これは必ずしも自然ではなく、
|本当に実験であるわけではないからだが)『自然的』『実験』というのもある。
|興味の対象となっているシステムにかかわる空間的変動、時間的変動、あるいはその両方が
|ある場合に、われわれは違いを見ることができる。

|たとえばゼニガタアザラシのヨーロッパでの個体群はこの20年ほどの間に2回の個体数崩壊
|を経験した。これは麻疹ウイルスによるものだった(e.g. Harding et al. 2002)。
|これは漁業的に関心のある魚種へのゼニガタアザラシの捕食の影響を調査するチャンスであった。
|ゼニガタアザラシの数(従って補食圧)が場所及び時間について劇的に変化したからだ。
|麻疹ウイルスが個体数に影響を与えなかった海域もあり(北部ノルウェー)これは『自然対照区』
|となる。私の最善の知識によるならば、誰もこのような研究を実際には行わなかった。(泣く)
___________________________________________
259N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:47:50 ID:3Ve5bAUz

もう一つのアプローチとして、ひとたびデータが得られたなら、関心のあるシステムのモデルを
つくるというやりかたがある。モデルはシンプルでもありうるし複雑でもありうる(データに
関するすべての統計的検定は実際にモデルである)。モデルはシステムに関する良いアイデアを
示す興味深い知的ツールと見ることもできる。これでリアリティーを模倣することもできる。

|● モデリング:われわれはコンピュータの中を走っている数学モデルを使い、関心のある
|システムをモデル化することができる。

|科学者はたとえば個体生息数モデルを使い、これに海洋哺乳類と魚類の生理学的モデルを組み
|合わせて、海洋哺乳類による捕食圧の強度を推定することができる。

|これらのモデル結果と実際の漁獲高を比較することにより、関心のある魚類の個体数状況に関して、
|海洋哺乳類の補食と漁業にかかわる相対的重要性についてのアイデアを得ることができる。
|(e.g. Hansen and Harding 2006, Trzcinski et al. 2006).

クラシックな水産学はほとんど非操作的観察に依拠してきた。
魚類生息数推定、そして持続可能な漁獲死亡率の推定である。
実験は(モデリングへインプットするためのパラメーターを得るため、実験室ベースで作業
すること以外)ほとんど行われない。
260N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:50:00 ID:3Ve5bAUz
すべての実験は、そのデザインの最も弱い局面以上に優れたものにはなりえない。
すべての数学モデルは、その最も弱い前提以上にはなりえない。
古典的水産学で用いられる個体数モデルは、モデルにインプットする観察データが貧しいもの
であっても、道理上の合理性として適度に信頼できる。

しかしわれわれが生態系ベースの水産管理へ移行したらどういうことになるだろうか。
観察されるパターンを正確かつ適切に叙述する必要があるだけではなく、これらのパターンが
生じてくることに責任のあるプロセスまで、われわれは理解しなければならないのである。

このプロセス、すなわち生態系がシステムとしてどのように機能しているかというのは、
定着している古典的水産モデルより複雑であり、理解もすすんでいない。
(漁獲の生態系効果を推論する最良の方法は、大規模実験アプローチで、漁業の存在あるいは
非存在を含み込むことである。これが生態系ベース水産管理で非漁獲海洋保護区
<漁業禁止海域>を設定することの<滅多に前面に出ない>正当化理由のひとつである [Corkeron 2006])
261N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:51:29 ID:3Ve5bAUz
プロセスを理解しようという試みはコミュニティー生態学(群集生態学)の焦点だった。
コミュニティー生態学者たちは野外ベースの実験をすることにより積極的であり、個体群
生態学者たちよりも大規模な実験を好んだ。個体群生態学者たちが大規模な実験アプローチで
破格の結果をもたらすということもあり得るが (たとえばSinclair and Krebs 2002, Sinclair and Byrom 2006)。

あまたの国家レベルの水産研究所は何十人という科学者を雇用しているが、そのほとんどは
古典的な水産生物学と生物学的海洋学の訓練を受けている。

漁業部門で生態系ベースの水産管理を制度化しようという時に、研究所は従来の人々を、
コミュニティー生態学の訓練を受けた人々で置き換えるということはしなかった。
制度的な惰性により、非操作的研究とモデル化の結合というやり方が日常的なものとして
残ったのである。

これは本当に問題なのだろうか。科学者たちが、彼らの政治的上司からの最新の指示に合わせて
彼らの古い手法を新たにパッケージし直したところで、誰が気にかけるだろうか。
私はこれが問題だと論ずる。そしてもしわれわれが人間の海洋生態系への影響を理解したいと
望むなら、われわれが出会う科学遂行プロセスの悪用をさらすことが必要だと主張する。
262N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:52:38 ID:3Ve5bAUz
ここではバレンツ海で商業的に重要な魚種個体群についてのノルウェーの研究を例として
挙げる。

私はこれを政治的には居心地がよいが、やり方が貧困な科学の代表例として示す。
ノルウェーの政官支配層は空虚な論点(海洋哺乳類による消費)に注目を集めるだけでは
なく、本当の論点である水産管理の失敗から焦点をはずしている。これにより、本当の
問題は増殖する。

この議論はバレンツ海でのノルウェーの研究を扱うもので、アイスランドの研究について
ではない。しかしプレイヤーは共通している。生物学的には魚類個体群と海洋哺乳類であり、
人的にはノルウェー、アイスランド両国の科学と水産管理エスタブリッシュメントで、
部分的には同一である。ノルウェーの研究のほうが長い期間進行しており、何らかの
教訓を得るには適している。
263N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:53:10 ID:3Ve5bAUz
[Background: fish and fishing in the Barents Sea]
[背景:バレンツ海における魚と漁業]
カラフトシシャモは小さな魚で北極圏海域のいたるところに分布し、バレンツ海生態系の
重要な構成要素である(しかしこの議論はバレンツ海のカラフトシシャモについてのもの
であり、アイスランド海域のカラフトシシャモとは別の個体群であることに留意されたい)。

カラフトシシャモは夏の日照が到来するとバレンツ海北部で大繁殖するプランクトンを餌
としている。後に彼らは南方へと回遊し、フィンマルク(北部ノルウェー)とコラ半島
(北西ロシア)沿岸で春に産卵する。

ロシアとノルウェーはカラフトシシャモを産業的に漁獲しており、共同で漁獲枠合意を
行っている。

カラフトシシャモのバレンツ海における産業的漁獲は比較的新しい。本格的に操業されだした
のは1970年代であり、漁獲高のピークは1977年の300万トン弱である。この当時、この漁は
単一種としては欧州最大の漁業であった。ノルウェーの1977年のカラフトシシャモ水揚げ高
は200万トンを越え(ロシアは漁獲高80万トンと報告している)、これは単一種世界最大の
漁獲高であった。

この漁獲圧にあってカラフトシシャモ個体群は崩壊し、オリジナル量の約20分の1となり、
1975年の最大推定量900万トン近くから、1987年の約10万トンへと減少した。
その結果、シシャモ漁は休漁となった。

1987年の最初の休漁から2006年までの20年間で、カラフトシシャモ漁が解禁されたのは
8年間であり休漁期間は12年間だった(すべて、情報はOctober 2006 ICES advice on capelinによる)。
これまでの20年間のうちで、休漁期間は操業期間の150%にのぼったのである。
解禁された二つの期間(3年間と5年間)それぞれの期間水揚げ高は1977年一年分の
水揚げに及ばない。2004年には再び禁漁となり、それ以来再開されていない。
264名無しさん@3周年:2009/01/04(日) 09:54:54 ID:3Ve5bAUz
16頁
なぜ大崩壊が起ったのだろうか。2004年に発表された論文 (Hjermann et al. 2004)が
いくらかの回答を与えている(これは最初の二つの大崩壊しか扱っていない)。
生態系と漁業の両者が役割をはたしている。

カラフトシシャモは寿命の短い魚であり、最長5歳で一度だけ産卵をすると死ぬ。
タイセイヨウタラは油ののったカラフトシシャモの成魚を食べる。若いニシンはカラフト
シシャモの稚魚を食べる。バレンツ海のニシン個体群は1960年代後期と1970年代初期に
ほとんど獲り尽くされたが、1980年代後期から回復をはじめた(Hjermann et al. 2004)。

バレンツ海のタイセイヨウタラは減耗しているにもかかわらず、生き残っている最後の
大タラ個体群であり、産卵個体群生物量は60万トンと推定されている(このpdf、Table 3.4.1.3 参照)。

カラフトシシャモの過剰漁獲が崩壊の発端をつくった。問題はタイセイヨウタラが、その
産卵場へ向かう回遊のために、油脂の多い成長したカラフトシシャモを食べてエネルギー
を備蓄する必要があるということである。カラフトシシャモの数が相対的に少なくなっても、
タイセイヨウタラはわざわざ彼らを捜し出すのである。このことがカラフトシシャモ個体群
の回復を遅らせた。
265N ◆5UMm.mhSro :2009/01/04(日) 09:55:47 ID:3Ve5bAUz
2回目の崩壊(1990年代初期)を駆動したのはニシン個体群の回復だった。これはカラフト
シシャモの稚魚を食べるニシンと、年長のカラフトシシャモとニシンの食物をめぐる競合という
複合になった。さらにふたたびタラのカラフトシシャモ捕食が回復を遅らせた。

「クジラが魚を食う」議論との関係で重要なのは、ヒルマン他(2004)論文は、カラフトシシャモ
の大崩壊を魚類個体群と漁業だけでモデル化していることであり、海洋哺乳類のカラフトシシャモ
捕食の影響は、もしあったとしてもトリビアルなものだということを示唆している点である
(漁業と他の生態系構成要因すなわち魚、との相対的関係においてということだが)。

データを満足に説明するモデルを構築するには、海洋哺乳類の捕食を取り入れる必要はなかった
のである。