北朝鮮の拉致・工作船、そして「核開発」危機のキャンペーンは、懸案の有事法制を成立させる
上で大きな効果を発揮した。そしていま、右派の中で「日本核武装」論があらためて浮上している。
その典型は、『諸君!』8月号特集の「是か否か 日本核武装論」である。同特集の中で
「日本核武装への決断」という論考で「日本核武装」を正面から主張しているのが中西輝政
(京大教授)である。
中西は述べる。東アジアに目を移せば「広大な中国大陸と朝鮮半島が一体となって日本列島に
『悪性のウィルス』を吹き込み、隙あらば、その『ウィルス圏』のなかに日本をも引き入れようと
虎視眈々と狙う、そういう危うい気配」が立ち込めている。「日・中・韓」の「北東アジア圏」構想
の中に、その「気配」は現れている。中国は韓国と結んで、日米の間に楔を打ち込もうとする。
「日米の間に楔を打ち込もうとするこの動きには、二〇一〇年代をにらんで東方アジアに覇を唱え
ようとする新たな中華帝国の『朝貢』システム構築をめざす欲求が潜んでいる」と。
中西は、こうした中国の影響力の拡大とアメリカの力の衰退を予測し、アメリカの東アジアへの
コミットメントが縮小していく事態に備えなければならない、と訴える。核拡散の流れを押し止めること
はできない。その中で日本国家が主体性をもって生き延びるための方策が「核武装」だというわけだ。
当面は「北朝鮮の核という差し迫った脅威に対処するため、核保有に先立って、とりあえずは
戦域ミサイル防衛(TMD)システムや、トマホークなどによる直前の先制対核兵力攻撃システムの
構築」が重要だが、それとともに「抑止」のための「報復核」が必要になるということだ。
アメリカの力の限界と中国の力の伸長に対する恐怖に満ちた危機意識が、保守支配層の一部の
中に次第に姿を取って現れていることに、われわれは注目する必要があるだろう。対象は「北朝鮮の核」
というよりは、二十一世紀の東アジアに覇をとなえる可能性を持った核大国・中国なのである。
http://www.jrcl.net/web/frame0391f.html