■どこへ行く右派論壇 仮想的有能感
各種イベントの余興に大声コンテストというのがある。
日ごろ内にひめている感情や欲望を大声で叫ぶという他愛ない遊びである。
むき出しの本音という誘惑に身を任せ、過激な言説を競うという点で、
今の右派論壇は、まさに大声コンテストの趣である。
心理学者の速水敏彦氏は近著『他人を見下す若者たち』(講談社現代新書)で、
仮想的有能感という概念を使って若者の心の変容を説明している。
若者を中心として、厳しい競争に曝される現代の日本人は、
自己を肯定するために、すぐに他人を軽視したり否定したりする。
そして、そのことによって根拠のない有能感を持つ傾向があると速水氏は主張する。
また、ITメディアの影響を強く受けた人ほど仮想的有能感を持ちやすく、
「2チャンネル」をよく見る人において仮想的有能感が強いという研究もある。
私はこの本を読んで、なぜネット空間に
下品な右翼的言説がはびこるのかについての説明を得たような気がする。
広範囲の個人の心理に起こった変化は、当然世論にも波及するであろう。
日本は国全体として、激しい競争に曝されながら、またバブル崩壊以後の停滞の時期をくぐり、
隣国中国の経済的勃興を目の当たりにして、自己肯定感を欲している。
過去への反省や主体的努力によって自己評価を引き上げるのではなく、
甘い自己認識、世界認識の下で、手っ取り早く他国を見下して、
それによって仮想的有能感を得ようとしているのが右派論壇である。
政治的意味空間を豊かにするためには、現実感覚に支えられた論理性のある言説が不可欠である。
そのような条件を備えた保守言説の復活を祈るばかりである。(論座5月号)
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