>>405続き
上記野田氏の行為は公職選挙法違反に該るのかどうかを検討する。
まず、「1票も要りません」は公職選挙法第九十五条の二第六項より虚偽である。
したがって、この発言が公職選挙法第二百三十五条第二項に該るのかどうかが問題となる。
公職選挙法第二百三十五条第二項は目的犯であるが、野田氏は小選挙区のみ
での立候補であり、対立候補への投票を阻止する発言であることは明らかである
ので、「当選を得させない目的」はあったと解する。
さらに、本条は故意犯であるが、故意の成立には「虚偽の事項」であることの認識
が必要である。しかし、野田氏は今回の選挙が初めてではなく、閣僚経験者でもある。
小選挙区で得票数が有効投票総数の1/10に達しなかった重複立候補者は比例代表
選挙において当選人となれないことを知らなかったとは非常に考えにくい。
1/10といった詳しい内容までは知らなくとも、1票もとらなければ比例代表でも当選
できないといった認識はあったと考える。したがって、故意の成立に欠けるところはない。
以上より、野田氏の行為は公職選挙法第二百三十五条第二項違反の罪に該る。
次に、「こちらは自由民主党。そして私は、自民党の野田聖子でございます」と
街頭演説した点についてはどうであるかを検討する。
確かに野田氏は自由民主党の党籍は自体は失っていない。選挙に関係なく発言
したのであれば問題は生じないかもしれない。しかし、総選挙の公示を控え、
公職選挙法上は無所属であるにもかかわらず「自由民主党」と発言することは
明らかに虚偽の表示に該る。本人は支援者の前では「今回はこういった事情で
公認をもらえず、無所属での出馬となる」ような発言をしており、虚偽の認識は
あったと考える。当選を得る目的もあったと解する。また、「自民党岐阜県連」の
各種表示とも相俟って、有権者の誤認を誘発するには十分である。
以上より、当該行為は公職選挙法第二百三十五条第一項の罪に該る。
>>406続き
罪数についてであるが、上述の行為は同時になされたものではない。しかし、一連の
行為は対立候補を落選させ、同時に自己が当選するといった相互に補完し合う
目的でなされたものと解すべきである。したがって、併合罪とはせず、包括して
重い公職選挙法第二百三十五条第二項の罪で処断するのが相当である。
なお、公職選挙法第二百五十一条により、上記の罪で刑に処せられると、野田氏の
当選は無効となる。