「名は体を表す」というが、このごろは「名は体を隠す」ような横文字が氾濫(はんらん)してい
る。政治家が使う「マニフェスト」はその典型で、政策綱領などと訳されるが、「公約」とどこが違う
のかよくわからない。
▼もとはイタリア語で宣言とか声明文という意味。「共産党宣言」の「宣言」はmanifestoである。
英国では政党が「数値目標」などで使ってわかりやすい選挙公約を掲げる。それを日本でも実現
しようと民主党などが熱心だ。菅代表は党首討論で「バラバラの自民党にはマニフェストを出す
資格がない」と主張、これに小泉首相は「名前は変わっても公約のことだろう」とかわした。
▼産業廃棄物について排出事業者などを伝票に記載することが義務づけられているが、これも
また「マニフェスト」制度という。ただし、こちらは積荷目録などを意味するmanifest。カタカナにす
ると同じになってしまい、どちらを指すのかわかりにくい。美しい言葉を持つ日本で、なぜ横文字
ばかり横行するのか。
▼「公約」が「破って当然」の同義語のようになってしまったためか、政界ではあっちでもこっちで
も「マニフェスト」論花盛り。ついに自民党までマニフェストの準備に入るという。「真似(まね)フェ
スト」(民主党岩國哲人氏)ばやりだが、守らないならどちらでも同じ。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20030702MS3M0201M02072003.html
【主張】イラク特措法 政権担う資格ない民主党
イラク復興支援特別措置法案は、与党と民主党との修正協議が決裂したことから、与党の賛成多
数で四日に衆院を通過する見通しとなった。イラクへの自衛隊派遣を可能にする重要法案で修正協
議が結実しなかったのは残念である。
しかし、民主党の対応には疑問を抱かざるを得ない。民主党が示した修正案は、政府がイラク戦争
支持の根拠とした国連決議の削除や、自衛隊の活動を削除して文民の活動だけを認めることなどを
柱にしたものだ。いずれも法案の根幹にかかわるものだけに与党が拒否したのは当然である。
そもそも民主党は、「戦争に正当性がなくても、イラク国民のための復興支援に日本が貢献すること
は必要だ」(菅直人代表)との立場を示してきた。そのため、法案の賛否については明確にせず、反
対を鮮明にした自由、共産、社民の三野党と一線を画した。与党との修正協議についても話し合いの
余地があるとしてきた。
ところが、その民主党が、会期末まで残り一カ月を切った一日になって、ようやく与党側に示した修
正案は、事実上の「ゼロ回答」だった。同党内では、修正案をまとめきれたのは政権担当能力を示す
ものと、自画自賛している向きもあるようだが、国民から「何でも反対党」とみられることを避けるため
に、体裁を繕ったに過ぎないのではないか。
民主党内には保守系議員を中心に自衛隊の活用を求める意見も少なくなかったが、結局、自衛隊
派遣反対を決めた。解散・総選挙をにらみ、選挙協力を進める自由・社民両党との共闘を重視したと
いうのが本音だろう。
イラクには国連の求めに応じ、すでに米英を除く十三カ国が軍隊を派遣し、治安維持や医療活動、
被災地施設の復旧などに取り組んでいる。ほかにも二十数カ国が派遣する方針だ。
日本が国際社会の共同行動に協力していくことは当然の責務である。現地の治安は不安定である
ことは事実だろう。だから文民ではなく、訓練を受けた自己完結型である自衛隊の派遣が求められる
のである。ただ、派遣隊員の安全に最大限の配慮をすべきなのは言うまでもない。
民主党は、このありさまでは政権を担う資格なしと言わざるを得ない。
http://www.sankei.co.jp/news/030703/morning/editoria.htm