『竹中平蔵 万死に値す!』 週刊現代12月7日号
この国をダメにしているのは誰か、ズバリ言おう
高杉良×佐高信
株価の急落、金融不安、リストラの嵐と、竹中大臣率いる日本経済はひどり迷走を繰り返してきた。この人の何が問題なのか。銀行経営者はなぜダメなのか。そして日本は、崩壊寸前の崖っぷちから引き返せるのか・・・。
政治と経済のウラオモテを知り尽くした二人が、この”腐食劣等”を一刀両断にする。
「ここはアメリカなのか?」
高杉 「竹中平蔵さん(経済財政・金融担当相)は、厳しい言い方をすれば、アメリカに
魂を売った人だと思います。僕は一年半前から、『竹中不況』という言葉で彼を
批判してきました。竹中さんはアメリカ流、アングロサクソン流の弱肉強食の
資本主義が刷り込まれている人です。そういう人物が政権の中枢で政策を
立案するのだから、アメリカの強い金融機関が日本の弱いところをズタズタに
していくだろう。その結果、『アングロサクソン・リセッション』と呼ぶべきひどい
不況に陥るはずだ、と予測した。」
佐高 「実際いま、その通りになってしまいましたね。」
高杉 「そうです。今年の9月中旬には、小泉首相とブッシュ大統領が会い、竹中さん
とハバード米大統領経済顧問委員会(CEA)委員会が会談した。そのとき
『日本は不良債権処理を急げ』と言われたでしょう。以後はもう、完全にアメリカ
の言いなりになってしまった。」
佐高 「その流れの中で、9月末の内閣改造で、竹中さんが経済財政担当相も兼ねる
ことになったわけですね。最悪の人事だ。
竹中という人は、小泉首相とよく似ているんです。二人とも『入口を入ったらすぐ
出口』という人。
つまり、奥行きがまったくない(笑)」
しかし経済というのは、奥行きが非常に大切なんです。」
高杉 「その通り。」
佐高 「とくに金融では、何かの政策を実行しても、すぐに答えが出てくるものではない
でしょう。上からザッと水を注ぎ込んでも、大手銀行から下のほうの中小企業に
流れていくまでには、いろいろなことがある。
高杉 「なのに、竹中さんはすぐに答えが出ると勘違いしているんですよ。竹中さんの
『金融分野緊急急対応戦略プロジェクトチーム』に入っている木村剛さん(金融
コンサルタント)も同じ。
高杉 「木村さんは日銀出身で、ニューヨークにいるときに、竹中さん同様アングロ
サクソン流を刷り込まれた人。『弱い会社は退場せよ』と言い続けている。相当
な金儲け主義で、彼自身もカネ持ちだと聞きます。アメリカに魂を売った人と言
わざるを得ません。」
佐高 「そういう人物が、いま日本の金融を動かしている。」
高杉 「だから日本経済はガタガタになって、株価の下落も含めて10〜12月の経済
指標は相当悪くなる。
実は、竹中さんは金融にあまり強くないんです。だから木村さんに任せっぱなし。
小泉首相が竹中さんに経済政策を丸投げしていると言われますが、竹中さんは
さらに木村さんに丸投げしている。」
佐高 「で、3人とも本質がまるでわかっていない(笑)
アメリカの言いなりという話しが出ましたが、小泉首相は本当にアメリカに弱す
ぎると思いますよ。たとえば、日本は米国債を持っているわけでしょう。これは
”暴力団アメリカ組”への上納金のようなものですが、日本の政府も銀行も生損
保もみんな持っていて、合わせたらかなりの額になる。
だったら、小泉首相はブッシュ大統領に『これだけ米国債をもって協力している
んですよ』と、なぜ言えないのでしょうか。そういうことを何もわかっていないの
か。」
高杉 「小泉さんが『経済オンチ』なのは間違いない。」
佐高 「だから、竹中さんや木村さんに丸投げした結果、今度は産業再生機構を作る
とかいう話が出てくる。これって、銀行の国有化だけではなくて、企業全部を
国有化することになりかねない話ですよ。なんてバカな・・・。」
高杉 「もう、社会主義みたいなことになる。しかも、銀行は社会主義のように国有化
して、一方で郵貯は民営化しようという。小泉・竹中ラインがやろうとしているこ
とは、まさに矛盾だらけです。そもそも、彼が言う『不良債権処理をしないと経済
はよくならない』という方針は大間違いです。まず、資産デフレを止める対策を
考えることが急務。そして需要を喚起して、企業を再生させなければならない。
しかし、竹中さんからはそういうメッセージが何も出ていません。」
佐高 「かつて、ある銀行経営者が宮沢喜一元首相を『この医者にかかって治らない
のなら仕方がないと思える人』と評したことがあります。それをもじって言えば、
竹中さんは『この医者だけにはかかりたくない』と言いたくなる人ですね。
いや、医者以前のインターンだな。」
高杉 「なるほど。」
佐高 「そんなインターンが、心の準備もできていない患者にいきなり『あんたはガンだ
』と告知してしまうわけです。それから手術を始めるのですが、なんと胃ガンの
患者から、悪いところのない肝臓を摘出してしまう(笑)。」
高杉 「それについては、植草一秀さん(野村総合研究所主席エコノミスト)が同様の
批判をしています。彼は現代12月号で、竹中さんの手法を『患者にまず断食を
させる。体力が弱ったところで血を抜き取り、息も絶え絶えになったところを見計
らい、輸血、点滴、麻酔なしで執刀する。
一般的にこれを手術と呼ばない。殺人ないしは障害である』と痛烈に評している。
実に正確な批判です。」
「竹中は株主総会を知らない」
佐高 「そもそも竹中・木村コンビは、経済の裏の実態を知らない。たとえば日本の
銀行は、高杉さんが、『金融腐敗列島』で書かれたように、多かれ少なかれ
総会屋に食い込まれてきたわけです。
だから、不良債権問題というのは、ある意味で闇の勢力と対決する問題にな
ってくる。総会屋スキャンダル後に第一勧銀の頭取を務めえた杉田力之さんは、
ボディガードに守られながら、必死になって闇勢力との関係を切ったわけでしょ
う。」
高杉 「当時は杉田さんがそうしなかったら、一観は取り付けが起こって危うくなってい
たかもしれない・・・。たしかに不良債権問題のそういう側面を、竹中・木村コンビ
は知らないでしょうね。」
佐高 「竹中さんが書いた『みんなの経済学』という本の、株主総会に関する箇所なん
かを読むと大笑いですよ。何もわかっていない。」
高杉 「竹中さんはニューズウィーク誌のインタビューで『大きすぎて潰せない銀行は
ない』と言いましたね。銀行株が急落して大騒ぎになり、彼は慌てて『あんな
発言はしていない。弁護士を通じて出版社に抗議し、訂正を求めている』と国会
答弁でシラを切った。それに対し、ニューズウィークは『あの発言は事実だ』と
反論した。そこまで自信があるのなら、インタビューの録音テープがあると考え
るのが自然でしょう。」
佐高 「ならば、仮定の話ですが、もしもそのテープが公表されれば・・・。」
高杉 「もちろん、竹中さんはおしまいでしょう。国会で虚偽の答弁をしたことになります
から。」
佐高 「考えてみると、竹中さんはとっくにクビになっていておかしくない話がいろいろ
ありますよね。住民票をひんぱんに外国に移して住民税を軽減っさせている
”徴税”疑惑とか、上場前に日本マクドナルドの株を譲り受けていた問題とか・・・。
ところが、”小泉バカ人気内閣”のおかげでクビになっていない。
高杉 「それについては、マスメディアの責任も重大です。
新聞も、竹中さんや彼の不良債権処理加速策を持ち上げてばかり。批判的な
のは読売くらいで、産経が賛成と批判と五分五分ですね。」
佐高 「あとはほどんど竹中案に賛成。」
高杉 「ジャーナリストや評論家にも、わかっていない人が多いですね。たとえば田原
総一郎さんは、新生銀行の八城政基社長が自分のテレビ番組に出席したとき、
『いま日本でいちばん輝いている銀行経営者です』などと紹介していた。
新生銀行は、ハゲタカファンドのリップルウッド・ホールディングスが、旧長銀の
営業権を10億円で買ってスタートした外資です。長銀の処理に、日本国民の
税金が7兆円も使われた。そんな銀行のトップである八城さんは、僕に言わせ
れば、やはりアメリカに魂を売った人ですよ。それを誉める田原さんの検証能力
はどうなっているのか。」
佐高 「田原さんは経済のことがわからないんだから、口を出さないほうがいいんです。
彼は以前も、野村証券の”大タブチ”こと田淵節也元会長を持ち上げていた。」
高杉 「竹中・木村コンビは、一方で『大銀行は中小企業にカネを回せ』と言う。が、もう
一方では『債権の査定を厳格化する』と言い出した。しかし、この二つは矛盾して
います。査定を厳格にすれば、銀行は当然、融資の回収に走る。」
佐高 「明日のソニーやホンダになり得る可能性を秘めた企業も消えてしまいますね。」
「あなたがいることが実害だ」
佐高 「ただ、竹中さんの政策もおかしいけれども、銀行にも大いに問題がある。『竹中
と銀行とどちらが悪いか』という議論がありますが、五分五分だと私は思います
。」
高杉 「いや、政策不況のほうが絶対に大きい。7対3か8対2で、竹中さんのほうに
罪があると思います。」
佐高 「10月25日、不良債権処理の加速策に不満だと言って、大手銀行のトップ7人
が竹中さんに抗議しに行ったでしょう。で、彼らはその後、ガン首並べて記者
会見をやった。その7人の中に、みずほホールディングスの前田晃伸社長を発見
して、私はびっくりしましたね。
前田氏は、あのみずほのシステムトラブル問題で、当然責任を取って辞めていな
ければならなかった人です。それが、『盗人にも三分の理』とでも言いたげに、
堂々と会見の席に座っていた。
高杉 「まったく同感。前田さんは、当然あのトラブルの責任を取るべきだった。なのに、
3月で辞めた3人のCEO(最高経営責任者)に責任をすべて押しつけました。
反省の色もなく、国会で『実害はなかった』と放言した。
佐高 「あんたがトップにいることがいちばんの実害なんだって(笑)」
高杉 「4月の入行式では、冗談のつもりか『上司の言うことは聞くな。上司に責任を
取らせろ』と言っていた。」
佐高 「バカだねえ。」
高杉 「巡り合わせで最策の人がトップになってしまったんです。前田さんが社長でいる
限り、みずほを応援する気にはなれません。」
佐高 「あのガン首並べた会見に話を戻しますとね、私は最初、『みんな揃って辞めま
す』と発表するのかと思ったんです。あるいは『退職金を全部返上します。』と
言い出すのかと。もちろん、これは皮肉ですけどね。
だいたい、なぜみんな揃って竹中さんに会いに行ったり、並んで会見をしなけれ
ばいけないのか。誰か一人が行けば十分じゃないですか。」
高杉 「そう。全銀協(全国銀行協会)会長をやっている、UFJ銀行の寺西正司頭取が
一人で行けばいいんですよ。」
佐高 「つまり、あの経営者たちは、一人立ちできない人間の集まりなんだと思う。」
高杉 「いや、それはちょっと違うでしょう。まず、現実に株価がどんどん下がる中で、
彼らはものすごい危機感を募らせていた。それで、竹中さんから最初、劇薬だか
毒薬の案を投げられて、慌てふためいてしまったんでしょうね。」
佐高 「逆に言うと、彼らは慌てふためくくらいしか能力がないということでしょう。さき
ほど、みずほの前田社長をダメだと言いましたが、彼は決して例外ではない。
ほかの銀行トップも、だいたい同じレベルだと思います。」
高杉 「いや、それはかなり異論がありますね。
これまで長年、護送船団に守られてきた人たちばかりでしょう。そこにどっぷり
漬かっていたから、なかなか頭が切り替わらない。それに橋本内閣時代、アメ
リカの侵略にハマって、十分な助走機関を設けないまま金融ビッグバンをやり
すぎた。それでここまで壊れてしまったという側面もあるんじゃないですか。」
佐高 「やはり銀行経営者は、退職金を返上するところから始めなければ、何を言って
も全然説得力がない。一緒に会見をやったあの経営者たちは、少なくとも退職金
を1億円は受け取るでしょう。それを返してもらう。それから、歴代頭取にも全額
返させる。たとえば、長銀元会長の杉浦敏介氏は退職金を9億円をもらったと
言われ、そのうち2億円を返したけれども、7億円はそのまま。これではダメで
すよ。」
高杉 「まあ、佐高さん、退職金ゼロというのはいくら何でもかわいそうですよ。彼らも
サラリーマンなんだから。たとえば、金額を3分の1くらいまで減らすのでも、
影響はずいぶん違うと思う。」
佐高 「あるいは、伊藤忠商事の丹羽宇一朗社長が数ヶ月給料を返上したことがあり
ますね。あれはスタンドプレーのように言われましたが、銀行が同じことをやった
ら大きいですよ。」
高杉 「4年前にそれをやったのが、西村正雄さん(興銀元会長、みずほホールディン
グス前CEO)です。彼は1年間給料を返上した。大蔵官僚へ過剰接待問題など
の責任を取ったわけです。実はあのとき、彼は周囲から袋叩きにあった。『あの
野郎、いいカッコしやがって』と言われてね。しかし、その給料返上のおかげで、
彼は相談役のクビを切れたんです。」
「終身雇用制こそ日本の強さ」
佐高 「ただそれは、普通の企業で見れば当たり前のことをやったということでしょう。
その当たり前のことが、全然銀行にはできていない。
銀行と単純に比較はできないけれども、北海道の北洋銀行に武井正直さんと
いう頭取がいたんです。現在は会長ですが、この人はバブルのときにバブルに
乗っかった融資をいっさいやらなかった。こういう経営者を私は評価したいです
ね。」
高杉 「そういうトップもいたんですね。」
佐高 「そうしたら、大蔵省銀行局の役人どもは『もっと融資を増やせ』と言ってきたそう
です(笑)」
高杉 「銀行の他にも、当たり前のことを忘れた会社や経営者が増えている。昔だっ
たら、社員をリストラなんかしたら、社長はその責任を取って辞めますよね。
ところがいまはそうじゃない。5000人、1万人のクビを切っても平然としている。
僕だったら自殺したくなりますよ。」
佐高 「最近は、社員のクビを切る経営者がいいかのような風潮になっていますね。
冗談じゃない。松下電器なんて、これまで終身雇用のモデルのように言われ
ていたのが、いきなり掌を返した。これはおかしな話ですよ。市場原理主義なん
て立派なものではなくて、経営者の使命というものを忘れてしまっただけ。」
高杉 「話は飛びますが、財界トップの奥田碩さん(日本経済団体連合会会長)の『二つ
の銀行は弱い』という軽率な発言は許し難いですね。メガバンクの国有化にまで
言及したようですが、その結果、みずほとUFJの株価が11月14日にストップ安
になった。銀行嫌いで知られている人が、負の波及効果をカウントできなかった
のでしょうか。産業界にまで及び、全面安になった。」
佐高 「おっしゃる通り、奥田さんに日本経団連会長の資格はない。結果責任は大きい
と思います。財界トップの地位がますます軽くなっていくわけですよ。」
高杉 「雇用を守ると宣言したトヨタのトップとしては、軽率きわまりない。
竹中さんのようなアメリカ流を信秦する人には、日本的経営のよさがわからない。
しかし、絶対に日本は終身雇用の旗を降ろしてはいけませんよ。」
佐高 「まぁ、竹中が悪い、木村が悪い、あるいは銀行が悪いといろいろ見方がありま
すが、いちばん悪いのは・・・。」
高杉 「もちろん小泉首相。小泉内閣は後世に『史上最低の内閣』と言われる可能性が
非常に高いと思います。
小泉首相は、『聖域なき構造改革』と言い続けてきたくせに、ほとんど何もやって
いない。ただ、北朝鮮問題は追い風になった。大相撲で貴乃花が優勝したとき、
『感動した!』と言ったけど、彼に点数をつけられるのはあのときくらいでしょう。
彼にはクリーンなイメージがありますね。」
佐高 「小泉首相は『クリーンなタカ』なんです。彼が一生懸命になるのは、靖国神社
参拝のような問題だけ。経済や国民の暮らしを守ることには、ほとんど熱意が
感じられがない。
ファジズムの特徴というのは、クリーンなことなんですよ。ナチスの民族浄化の
ように、純粋さを強調して、混じりっけを排除していく。」
高杉 「だったら私は『小泉ヒトラー』と呼びますよ。」
「いまならまだ引き返せる」
佐高 「竹中さんも含めて、小泉首相は人の選び方が間違っていますよ。小泉首相に
抜擢された竹中平蔵、田中直毅、猪瀬直毅の『側用人3人衆』って、みんな売り
込みの人でしかない。」
高杉 「だから人を代えなければダメ。首相の代わりがいないのなら、経済・金融担当
国務大臣の竹中さんを代えるしかありません。後任には、たとえば植草一秀が
いいんじゃないですか。」
佐高 「あるいは武井正直さん。」
高杉 「竹中さんにはただちに辞めてもらいたい。僕は、彼の最後の人間性に訴えたい
ですね。これまでさんざん日本を傷めたんだから、もう日本のために辞めて下さい
と。」
佐高 「竹中さんが望んでいる改革は、竹中さんが辞めることによってしか達成されな
い。これは確かです。」
高杉 「彼は、日本をアメリカような社会にして、弱者をどんどん切り捨てる。以前も
『530万人の雇用を創設する』などとデタラメを並べてITバブルを煽り、多くの人
を大損させた。その罪、万死に値します。
彼が辞めれば、この国はまだ引き返せる。しかし、このまま大臣を続ければ、
完全に破壊されてしまう。
いまわれわれは、そういう重大な岐路に立たされているんです。」