嫦娥三号、月到着から半年 玉兎号は衰弱するも未だ健在 June 15 - 2014
http://www.sorae.jp/030905/5205.html (本文)
中国の月探査機「嫦娥三号」が月に到着してから半年が経った。探査車(ローバー)の玉兎号はすでに車輪が
動かず、保温のために太陽電池パドルを折り畳むこともできない状態だが、運用は続けられており、自身の状態
や月の探査結果などのデータを送り続けている。
嫦娥三号は昨年の12月2日、長征三号乙ロケットに載せられ、四川省にある西昌衛星発射センターから打ち上
げられた。9日に月を周回する軌道に投入、そして14日に月の「雨の海」と呼ばれる地域に着陸した。
嫦娥一号、二号に続く、中国にとって3機目となる月探査機として送り込まれた嫦娥三号は、ソ連のルナ24以
来37年ぶりに月に着陸した探査機となった。さらに月にローバーが送り込まれたこととなると、同じくソ連のル
ノホート2以来、実に40年ぶりとなる。
嫦娥三号は、着陸地点に留まって科学観測を行う着陸機(ランダー)と、その着陸機から発進し、月面を走り
回って探査する探査車(ローバー)の2つから構成されている。
着陸機は質量1,200kgほどで、月面をいくつかの波長で撮影できるカメラが搭載されており、月面天文台とも
呼ばれる。
玉兎号は質量140kgほどの機体で、カメラによる光学観測や、レーダーを使った月の内部構造の調査、またア
ルファ粒子X線分光計や赤外線分光計を用いた土壌の調査などを実施。設計寿命は約3ヶ月、走行可能距離は3平
方kmの想定で造られている。「玉兎」という名前は、中国に伝わる「月には不老不死になるための仙薬を作るウ
サギが棲んでいる」という伝承に由来する。日本では「お餅をつくウサギ」として親しまれているが、どちらも
インドの『ジャータカ』という古い物語が発祥であるとされる。
玉兎号は着陸の約7時間後に着陸機から発進、走行や機器の試験を行い、本格的な探査活動に入った。
12月26日には、月に夜が訪れるのに伴い、着陸機と玉兎号は共に休眠状態に入った。月はおおよそ2週間ごと
に昼と夜が訪れ、昼の温度は120度、夜は-180度にもなる。そのため月面の探査機とってはこの夜を越える技術
(越夜技術)が必要となる。玉兎号の場合、夜を越える際には太陽電池の一つを太陽が昇る方向へ向け、またも
う一つの太陽電池は蓋のように折り畳まれ、内蔵しているヒーターで温め続けられる仕組みになっている。
約2週間後、着陸機と玉兎号は起床し、探査を再開した。しかし2度目の月の夜を迎える直前の1月25日、玉兎
号の太陽電池パドルやマストを折り畳むための制御回路が故障、越夜に備えた体制になれないまま、月の夜を迎
えることになる。その状態では夜を乗り切れる保証はない。一時、復帰は絶望的とさえ言われていたが、2月12
日の午後に玉兎号は再び起床。故障を抱えたままではあったが、観測機器は動くため、探査は再開された。
そして2月22日、3度目の眠りに突入。再び復帰が危ぶまれたが、3月14日に無事目覚め探査を再開した。その
後も月に夜が訪れる度に眠りに就き、日が昇れば起床する運用を続けており、依然として故障を抱えたままでは
あるものの、自身の状態や月の探査結果などのデータを地球に送り続けている。一方着陸機は問題なく生きなが
らえており、設計寿命の1年を目指し、今後も運用が続けられる。玉兎号と地球との通信も、着陸機を経由して
行われている。
玉兎号の設計寿命は3ヶ月で造られており、やや不完全ではあるものの、玉兎号のミッションは成功したと言
えよう。だが同時に、設計寿命を超えたということは、故障している制御回路以外にも、今後不具合が発生する
可能性がある。運用を担当している関係者は、完全に通信ができなくなるまで運用を続けると表明している。
中国は嫦娥三号の運用を通じ、月面での活動に必要な技術を会得しつつある。
また、2010年に打ち上げられ、月を周回して探査した嫦娥二号は、探査終了後に月軌道を離れ太陽と地球間の
ラグランジュ2点に移動し、宇宙を航行する技術と、150万km離れた探査機との通信技術を実証。さらにその後、
L2点を出発して小惑星トータティスに接近、探査を行うという芸当を見せつけた。
中国は今後、2016年に嫦娥三号を改良した嫦娥四号を打ち上げ、再び着陸機とローバーによる月面探査に挑む。
さらに2017年と19年には、嫦娥五号と六号で月の石を持ち帰るサンプル・リターンを、さらに有人の月探査を行
う計画も持っている。嫦娥三号の成功により、こうした将来ミッションへの道が拓きつつある。