実験動物の寿命を延ばす“長寿の薬”。その長いリストに新顔が加わった。それは自然界に存在する分子で、過去に寿命延長の効果が認められたどの物質よりも効果が高く、場合によっては最大70%も寿命を延ばすという。
この化合物、アルファケトグルタラート(アルファKG)は「若さの内なる泉」だと、今回の研究を指揮したカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の分子生物学者チン・ホアン(Jing Huang)氏は述べる。
線虫の一種カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)を使った実験で、ホアン氏のチームは、代謝に関わる複数の異なる化学物質を餌に加えて与えた。
その中で唯一、寿命に有意な効果を示したのがアルファKGで、これを与えられた線虫は、標準的な寿命である15日を超え、平均約25日生きた。「素晴らしい当たりが出た」とホアン氏は述べる。
ホアン氏のチームは、カロリー制限がカエノラブディティス・エレガンスやマウスといった実験動物の寿命を劇的に伸ばすメカニズムを解明するべく、代謝化合物の研究を行っていた。
「何十年も研究されているのに、そのメカニズムはいまだ分子レベルで十分に解明されていない」と、
フロリダ州ジュピターにあるスクリップス研究所の生物学者マシュー・ギル(Matthew Gill)氏は述べる。同氏は今回の研究に参加していない。
◆成長を抑制
ホアン氏のチームは、代謝を遅らせるいくつかの細胞過程をアルファKGが引き起こすことを突きとめた。アルファKGは、細胞内でエネルギーを輸送する分子のアデノシン三リン酸(ATP)の活動を抑制する。
また、酸素消費量を低減し、オートファジー(栄養が不足したとき、細胞が自らの一部を食べること。自食)を促進する。
すなわちアルファKGは、細胞を成長モードからサバイバルモードに切り替えることで、老化を遅らせているとみられるのだ。
カロリー制限が寿命延長に効果を発揮するのも、これと同じメカニズムではないかとホアン氏は述べる。
だからといって、アルファKGの臨床使用の可能性に言及するのは時期尚早だとイギリス、リバプール大学の生物学者ジョアン・ペドロ・デ・マガリャンイス(Joao Pedro de Magalhaes)氏は述べる。
同氏は今回の研究には参加していない。「この物質が哺乳類に効果を発揮するという証拠はない。まして人間など先の話だ」。
しかし、ホアン氏はこの化合物に大きな期待を抱いている。ホアン氏の研究室での予備実験は、アルファKGがマウスの寿命にも同様の効果をもたらすことを示唆しているという。
いつかこの化合物を「臨床試験にかけるのがとても楽しみだ」とホアン氏は述べる。
◆サプリメントとしてのアルファKG
それでも、アルファKGにあまり期待をするのは、やはり時期尚早だろう。アルファKGは現在ダイエット用サプリメントとして販売されており、また一部では、筋肉増強や運動能力向上にも効果があると宣伝されている。
ホアン氏の研究の最も重要な成果は、アルファKGとATPの関連性を明らかにしたことだと、スクリップス研究所のギル氏は述べる。これら分子の相互作用を詳しく解明することで、
同じくATPの生成経路を標的とし、アルファKGの効果を模倣する他の化合物が発見される可能性もある。
しかしだからといって、今後アルファKGが「寿命を延ばす物質として、必ずしも人々がこぞって摂取するものになる」わけではないと、ギル氏は述べる。
シアトルにあるワシントン大学の分子生物学者で、今回の研究に参加していないマット・ケバーライン(Matt Kaeberlein)氏も、今回の研究は、誰もがアルファKGを摂取すべきだという根拠にはならないと述べる。
また皮肉なことに、今回の研究で明らかになったメカニズムが人間にも当てはまるとすると、「筋肉増強の目的でアルファKGを摂取しているような人たちには、かえって逆効果になっている可能性がある」とケバーライン氏は述べている。
今回の研究成果は5月14日付で「Nature」誌オンライン版に発表された。
http://www.nationalgeographic.co.jp/smp/news/news_article.php?file_id=20140515003 NATURE | LETTER
The metabolite α-ketoglutarate extends lifespan by inhibiting ATP synthase and TOR
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature13264.html