パーキンソン病新薬に光…神経細胞受容体を解析
パーキンソン病に関係する神経細胞の「受容体」というたんぱく質の構造解析に、京都大学などが成功した。
この受容体に結合する物質が見つかれば、新薬開発が可能になる成果だ。英科学誌ネイチャー電子版に
30日、発表した。
パーキンソン病は、脳内の神経細胞の異常で発症する難病で、手足の震えなどの動作障害を引き起こす。
神経細胞表面にある特定の受容体に、神経伝達物質などが異常な形で結合すると、神経細胞の働きが
狂ってパーキンソン病が起きるとみられる。この受容体の構造が分かれば、神経細胞の異常を抑える薬の開発に
つながるが、受容体を人工的に作ることは難しかった。
京都大学の岩田想教授や千葉大学の村田武士特任准教授らはまず、酵母の遺伝子を操作するなどして、
受容体と結合できる「抗体」を大量に作製した。この抗体が受容体の部品となるたんぱく質に結合すると、
これらのたんぱく質同士がくっつきあい、受容体全体の結晶ができあがった。
読売新聞 2012年1月30日14時32分
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120130-OYT1T00685.htm 抗体を用いて創薬標的膜たんぱく質の結晶構造を得ることに成功 −全く新しい阻害機構を持った薬剤の設計が可能に−
科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、岩田想 医学研究科教授、日野智也
同研究員(現 鳥取大学大学院工学研究科 講師)、小林拓也 同講師、村田武士 千葉大学大学院
理学研究科特任准教授、浜窪隆雄 東京大学教授、岩成宏子 同特任助教らは、抗体を用いることで、
最も重要な医薬品標的分子ファミリーである「Gたんぱく質共役型受容体(GPCR)」の結晶化を促進する
方法(立体構造を認識するモノクローナル抗体の作製法)を開発し、GPCRと抗体の複合体の立体構造を
X線結晶構造解析によって解明しました。またこの複合体の構造を原子レベルで明らかにすることで、新たな
GPCRの阻害機構を明らかすることにも成功しました。
近年、新規医薬品開発においては、薬剤の標的となるたんぱく質の立体構造に基づいた合理的な薬剤
設計が有効であることが示されています。しかし、細胞膜に埋まった構造を持つGPCRでは、結晶化における
糊代となる親水性表面が少ないため、質の良い結晶作製が困難であり、ヒトのGPCRの立体構造もこれ
までに数個しか解析されていません。
本研究グループは、GPCRを効率よく結晶化するために、標的分子と特異的に結合する抗体を結晶化に
おける糊代とすることに着目し、まず抗体の高効率作製法を開発しました。その結果、パーキンソン病の薬剤
標的であるアデノシンA2a受容体に対する抗体を多数取得し、この抗体を用いることでアデノシンA2a受容体と
抗体の複合体の結晶化に成功し、その立体構造をX線結晶構造解析により決定しました。
この複合体の立体構造解析からは、抗体分子がアデノシンA2a受容体の細胞内側表面の「くぼみ」に深く
突き刺さることにより、受容体の活性化に伴う構造変化を抑制し、機能を完全に阻害していることが明らかに
なりました。この「くぼみ」はGPCRの活性を制御することができる新規の薬剤結合部位であり、全く新しい阻害
機構を持った薬剤の設計が可能になると期待されます。(略)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/images/120130_1/01.jpg 図1 抗体フラグメントによるGPCR結晶化の促進法
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/images/120130_1/02.jpg 図2 アデノシンA2a受容体と抗体の立体構造
京都大学研究ニュース 2012年1月30日
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/120130_1.htm G-protein-coupled receptor inactivation by an allosteric inverse-agonist antibody
Tomoya Hino, Takatoshi Arakawa, Hiroko Iwanari, Takami Yurugi-Kobayashi, Chiyo Ikeda-Suno,
Yoshiko Nakada-Nakura, Osamu Kusano-Arai, Simone Weyand, Tatsuro Shimamura, Norimichi
Nomura, Alexander D. Cameron, Takuya Kobayashi, Takao Hamakubo, So Iwata & Takeshi Murata
Nature (2012)|doi:10.1038/nature10750
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature10750.html Protein Data Bank
http://firstglance.jmol.org/fg.htm?mol=3VG9 http://firstglance.jmol.org/fg.htm?mol=3VGA >>2辺りに続く