太陽系誕生から350万年後に生まれた小惑星に液体の水 - 東大が隕石を分析
東京大学は、新たに開発した分析技術を用いて、「炭素質コンドライト」隕石に含まれる
炭酸塩の正確な年代決定に世界で初めて成功したと発表。分析した隕石にはかつて
液体の水が存在した証拠があり、隕石の故郷である水を含んだ小惑星は太陽系誕生
から約350万年後に形成したことが判明した。東京大学大学院理学系研究科地球惑星
科学専攻の杉浦直治教授らの研究によるもので、「Nature Communications」(オン
ライン版)に1月17日に掲載された。
太陽系には小惑星が無数に存在する。小惑星イトカワから微粒子を採取して帰還した
「はやぶさ」の活躍はいまだ記憶に新しいところだ。「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルの解析
などにより、地球に飛来する多くの隕石は小惑星が起源であることが明らかになった。
炭素質コンドライトという一部の始原的な隕石は、水や有機物といった揮発性の物質を
含んでいる。小惑星内の水や有機物は地球の海や生命の材料になった可能性があるため、
水を含む小惑星の形成と進化過程の解明は生命誕生の理解に不可欠となっている。
なお、コンドライトは、球粒状組織「コンドリュール」を含み、太陽系最初期の状態を保存
していると考えられている始原的な隕石で、岩石が溶融する温度に達していない。化学
組成から炭素質コンドライトや普通コンドライトなどに分類されている。
炭素質コンドライトに含まれる「炭酸塩鉱物」(画像1)は、小惑星内に水が存在する状況下
で形成したと考えられており、放射性の元素である質量数53の「マンガン(53Mn)」を用いた
年代測定が適用可能だ。炭酸塩とは、「炭酸イオン(CO32-)」を含む化合物のことで、今回
の研究では「方解石(CaCO3)」や「苦灰石(CaMg(CO3)2)」が分析された。
http://news.mynavi.jp/news/2012/01/20/030/images/001.jpg 画像1。電子顕微鏡写真。中央のやや暗い色の鉱物が炭酸塩。視野は0.2mm×0.2mm
マンガン-53は半減期370万年で「クロム-53(53Cr)」に崩壊するため、炭酸塩にはマンガン-53
起源のクロム-53が過剰に存在し、クロムの同位体比(53Cr/52Cr)が大きくなる。また、その
過剰量はクロムに対するマンガンの量が多いほど(Mn/Cr比が大きいほど)大きくなる。この関係
を利用して、これまでに「二次イオン質量分析計」(試料表面に細く絞った一次イオンのビームを
照射し、その衝撃で試料から飛び出してくる二次イオンを分析する装置)を用いて炭酸塩鉱物
の年代測定が行われてきた。
しかし、Mn/Cr比を決定するところが、この分析の最大の難関であった。分析では、あらかじめ
Mn/Cr比がわかっている試料(標準試料)を用いて未知試料(隕石)の分析値を較正する必要
があるが、クロムを十分量含んだ炭酸塩が天然には産出しない点が問題となる。そのため、これ
までの研究では分析値に大きな不確定性があり、中には太陽系の年齢(約45億6820万年)
よりも古い年代値も存在するほどだ(画像2)。
http://news.mynavi.jp/photo/news/2012/01/20/030/images/002l.jpg 画像2。今回の研究で得られた炭酸塩の年代およびこれまでの研究との比較。これまでの研究
では太陽系の年齢と矛盾する炭酸塩の年代(点線の丸)が得られていたが、今回の研究でその
矛盾が解決。分析された隕石に含まれる炭酸塩の年代は45億6340万年付近に集中している
そこで研究グループでは、実験室内でマンガン、クロムの濃度が既知の炭酸塩を合成し、それを
標準試料として用いる新しい分析技術を開発した。さらにその技術を用い、4種類の「CMコンド
ライト」という炭素質コンドライトに含まれる炭酸塩の形成年代を、東京大学大気海洋研究所に
設置されている最先端の二次イオン質量分析計「ナノシムス(NanoSIMS)」(一次イオンを細く絞り、
極めて微小な領域(1000分の1mm以下)を分析するのに特化した装置)で分析したのである。
その結果、CMコンドライトの炭酸塩の年代は、現在より約45億6340万年前に集中することを
明らかにした(画像2)。これは、太陽系が誕生してから480万年後に相当し、これまでの研究で
得られていた年代と比べて若い年代となっている。
デイビー日高/マイナビニュース 2012/01/20
http://news.mynavi.jp/news/2012/01/20/030/ >>2辺りに続く