光の進行方向によって吸収量が変わるエレクトロマグノンを発見〜新しい機能を持つ高速通信用の素子の道を開く〜
独立行政法人科学技術振興機構(JST),東京大学(東大),独立行政法人
理化学研究所(理研)は2011年12月5日に,東大大学院工学系研究科の十倉
好紀教授らの研究グループがJST 課題解決型基礎研究の一環として,マルチフェロ
イックスと呼ばれる,磁石の性質(磁性)と電気分極(強誘電性)が共存する物質に
光をあてたときに,光の進行方向を反転させると光の吸収量が変化する方向2色性
という効果が巨大になることを発見したとのプレスリリースを行った.JST戦略的創造
研究推進事業 ERATO型研究,東大,理研,最先端研究開発支援プログラム
(FIRST)の共同研究によるもので,成果は英国科学誌Nature Physicsで公開された(注).
Maxwell方程式は,ある媒体内で時間変化する電場と磁場を結びつける.さらに,
スピン軌道相互作用を示す物質では電気分極(P)と磁化(M)が動的に結びつく電気
磁気効果が期待される.マルチフェロイックスと呼ばれる磁化と電気分極の共存する
物質では,電気磁気効果が強められるから,光学素子の開発における,光の電場と
磁場との相互結合の制御を可能にすると思われた.
研究グループは,代表的なマルチフェロイックス物質であるペロフスカイト構造のマン
ガン酸化物Eu0.55Y0.45MnO3において,円形状のスピン秩序による自発分極の揺動に
起因する,新しいエレクトロマグノンを観測した.このエレクトロマグノンは強誘電分極の
振動と,それと強く結びついた磁化の振動から成っていて,ギガヘルツからテラヘルツの
周波数帯に現れる.物質中で強誘電分極と磁化が直交すると,両者に対して垂直に
進む光は,進行方向の左右の違いでそれぞれ透過率が異なる.このような条件下で
-269℃において光の吸収係数を測定すると,0.2THzと0.6THzにピークが見られた.0.6
THzのピークは光の進行方向を逆にしても変らず,反強磁性共鳴によるもので光の磁場
成分にのみ応答する励起状態である.これに対し,0.2THzのピークは光の進行方向に
よって2倍以上吸収係数が異なる.この方向2色性を示すピークは誘電分極,磁化の
方向のどちらか一方を反転させることで,その光透過率の方向依存性が入れ替わる.
これは,電気磁気効果によって説明ができ,エレクトロマグノンによるものとされた.通常の
電気磁気効果は静的な分極と磁性の間の現象として観測されるが,本研究で発見
されたエレクトロマグノンは,マルチフェロイックスに特有の巨大な電気磁気効果をギガ
ヘルツからテラヘルツ帯での高速運動を示す動的過程に拡張したものであるという.
本研究で見出されたエレクトロマグノンは多くのマルチフェロイックス物質で観測することで,
ギガヘルツからテラヘルツ帯の新しい光学素子としての可能性が開拓されよう.また,光
領域の電気磁気効果には,さらに新たな機能性を持った現象が期待されるという.今回
発見された巨大な電気磁気効果を用いて,新規で特異な光学現象を探索するとのことである.
(注)Youtarou Takahashi, Ryo Shimano, Yoshio Kaneko, Hiroshi Murakawa, and Yoshinori Tokura
Magnetoelectric resonance with electromagnons in a perovskite helimagnet
Nature Physics (2011), doi:10.1038/nphys2161. Published online: 04 December 2011.
http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys2161.html 光の進行方向によって吸収量が変わるエレクトロマグノンを発見−新しい機能を持つ高速通信用の素子の道を開く−
科学技術振興機構プレスリリース 平成23年12月5日
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20111205/index.html http://www.jst.go.jp/pr/announce/20111205/icons/zu1.gif 図1 方向2色性
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20111205/icons/zu2.gif 図2 エレクトロマグノンの方向2色性のスペクトル
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