古代ギリシャの船はただワインを運んでいたわけではない―難破船から回収した瓶に付着したDNAが初期の
地中海交易市場に光をもたらす。
古代の貯蔵瓶のDNA分析により、ギリシャの船乗りがワインだけではなく様々な食物を交易していたことが
示唆された。 Journal of Archaeological Scienceに掲載された研究によると、地中海に沈んでいた難破船
から回収された9つの瓶の中から野菜、ハーブとナッツの証拠が発見された。 様々な時代の水中の遺物からの
DNA検査により、地中海でこのような複雑な市場がどのように発達したか明らかにする助けとなるだろう。
マサチューセッツ、ウッズホール海洋研究所(WHOI)の考古学者Brendan Foleyとスウェーデン、ルンド
大学の遺伝学者Maria Hanssonは紀元前5世紀から3世紀に沈没した船から回収した9つの古代の
貯蔵容器アンフォラからのDNAを分析した。
それによると、ワインの入れ物とされてきたアンフォラからぶどうのDNAが検出されたのは9つのうちの5つだけで、
オリーブオイルを貯蔵していた結果と考えられるオリーブのDNAが6つの瓶から見つかった。 他にもマメ科植物、
しょうが、クルミと西洋ビャクシン、ミント、タイム、オレガノのようなハーブのDNAも検出された。
アンフォラは地中海中のいたる所にある難破船から何千も見つかってきた。オリーブの種や魚の骨のような、
食物の残りカスが入っていたものもあったが、ほとんどは空で、印もない状態で発見される。
Foleyによると、歴史学者は主にワインを輸送するためにこれらの容器が使われたと想定する傾向があると言う。
彼が5860のアンフォラについて記述している27の査読論文を調べた結果、95%が飲み物を運んだと記述していた。
この仮定を検証するために、彼らはまずフランスのダイバーであり探検家であるJacques CousteauによってWHOI
に寄贈されたアンフォラを調査した。しかしそこからは1950年代のCarling Black Labelビール缶だけが見つかった。
そこで彼らは、およそ20年前に回収されアテネの収蔵庫で収蔵されていたアンフォラを調べる許可をギリシャ当局
から得た。 テストは今度は成功し、これは暗やみに保管されていたため、日光の与えるダメージからDNAが保護
されたためと考えられる。
それぞれの瓶から見つかった成分によれば、アンフォラは一般に再利用されており、そのためハーブの香辛料や
保存料を含む、以前に想像されたより多くの複雑な食料を貯えていた可能性が示唆された。
古代地中海交易の専門家、マニトバ大学ウィニペグ校のMark Lawallは、瓶がどのように使われたかについて、
歴史家がしてきた仮定は素早かったと言う。今回の結果はワイン、油やハチミツが、果物、魚、肉や樹脂と同様、
売買されたと他の考古学や文書が示唆することと符合すると述べた。
彼はDNAデータを船とその中身についての他の情報と組み合わることで、古文献にある難破船からのアンフォラの
中身に関する解析を進める上でかなり有望な手段を提供すると述べた。
実際研究チームはキプロス、キレニアの近くで見つかった紀元前3世紀の難破船から得られたサンプルの分析を計画
している。 Foleyはまた、異なった年代のアンフォラを調査し、古代の貿易がどのように発展したかを再構築し、それ
ぞれの農作物がいつごろ導入されたかを特定して行く構想を持っている。
アテネ、Ephorate of Underwater Antiquitiesの考古学者Theotokis Theodoulouら共著者は、「20年の間収蔵
庫にあったが、まだDNAは残っていた」と述べ、数千のアンフォラがギリシャの収蔵庫で検査を待っている状態だという。
水中遺物からのDNA研究はまだその揺篭期にあるが、理論上、海水の安定した温度とpHはDNAの保存に適して
いる、とイギリス、ヨーク大学の生物考古学者Matthew Collins。
Foleyは、このアプローチは必ずしもアンフォラに限定されるものではなく、食器や、化粧品あるいは薬を入れていたと思
われる小瓶などにも使うことができるという。 「これはこの初期の市場の研究に新しい視点を導入するもので、これで
実際に何が交易されていたかを記録し始めることができる」。
オリジナル記事
Jo Marchant
Ancient Greek ships carried more than just wine
http://www.nature.com/news/2011/111014/full/news.2011.594.html >>2辺りに続く