独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、独自の薬剤プロテオームプロファイリングシステムを
活用して、新規抗がん剤候補物質の作用を解明することに成功しました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)
ケミカルバイオロジー研究基盤施設の長田裕之施設長、川谷誠研究員と、京都大学医学部附属病院の
木村晋也講師(現佐賀大学医学部教授)、前川平教授らとの共同研究による成果です。
2005年、木村晋也講師らは、ブラジルの熱帯雨林に自生するオトギリ草※2の成分の1つに抗がん作用が
あることを発見しました。その後、この成分を基に60種類以上の誘導体を化学合成して、より強力なBNS-22の
創製に成功しました。しかし、その抗がん作用の仕組みは長らく不明のままでした。
研究グループは、細胞が薬剤の作用に応じて固有のタンパク質変動を誘導する性質を利用して、作用既知薬剤の
膨大なプロテオーム情報を基に、作用未知薬剤の効果をプロファイリングにより予測する
プロテオームプロファイリングシステムを独自に構築し、長年蓄積してきた成果を2010年に
データベースとして公表しました(2010年5月28日プレスリリース)。
このシステムを利用して、BNS-22を処理したヒトがん細胞であるHeLa細胞※4のプロテオームデータを、
抗がん剤やシグナル伝達阻害剤を含む40種類以上の既存薬のプロテオームデータベースと統合して
プロファイリングした結果、BNS-22がDNAトポイソメラーゼIIと呼ぶ酵素を標的にしていることを予測しました。
実際に、試験管や細胞レベルでこの予測どおりBNS-22が、酵素の働きを特異的に阻害していることを
見いだしました。
DNAトポイソメラーゼIIは、がん治療の有望な創薬ターゲットの1つであるため、今回の成果を応用することで
BNS-22が新たな抗がん剤になると期待されます。また、このプロテオームプロファイリングシステムを
用いることで、薬剤の作用標的・作用機序を迅速かつ高精度に予測できることから、
創薬研究に広く活用されると期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Chemistry & Biology』(5月27日号)に掲載されます。
▽記事引用元 理化学研究所プレスリリース(平成23年5月27日)
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110527/detail.html