2009年新型インフルエンザの遺伝子変異を解析
−新タミフル耐性変異の発見など、インフルエンザ感染対策の基礎情報を提供−
平成23年4月26日
インフルエンザが猛威をふるう冬は過ぎましたが、新型インフルエンザの驚異が無くなった
わけではありません。20世紀には、1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、
1968年の香港かぜと、100年間に3回の世界的大流行(パンデミック)が起きました。
21世紀に入ってすぐの2009年には、メキシコで豚由来の新型インフルエンザが発生し、
世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言、このウイルスを「2009 pandemic A/H1N1」と
命名しました。インフルエンザウイルスは、その遺伝子を1本鎖RNA上に持つため変異が
極めて容易です。タイプにはA型、B型、C型と3つありますが、なかでもA型は変異が
生じやすいため、パンデミックを引き起こしやすいことが知られています。
このA型インフルエンザウイルスは、HA、NAなど8本のRNAを持ち、すでにHAで16個、
NAで9個の大きな変異が見つかっているため、理論的には9 X 16=144種類の亜種が
存在します。従ってパンデミック発生時には、迅速にインフルエンザウイルスを同定し、
その結果に基づく適切な治療方針の決定が、さらなるパンデミックを防ぐうえで非常に
重要と考えられています。
オミックス基盤研究領域は、関西・関東地区の20カ所の医療機関の協力を得て、
2009年〜2010年のインフルエンザ陽性の検体を444収集し、それら遺伝子の塩基配列を
解析しました。その結果、253検体が2009 pandemic A/H1N1であると同定、このウイルスが
多様な遺伝子変異を引き起こしていることを発見しました。これら変異を系統樹に分類
したところ、感染初期と感染ピーク時ではその起源が違っていたこと、感染ピーク時には
約20個の変異グループが存在し、そのうち12個が国内で新たに発生したこと、
タミフル耐性遺伝子変異が1.2%発生したこと、などがわかりました。また、わが国における
交通手段の発達を反映して、ウイルス感染が国内で急速に拡大した様子も明らかとなりました。
今後は、迅速・簡易に医療現場で遺伝子解析可能な手法を確立し、感染症対策へ貢献していきます。
___________________
▽記事引用元 理化学研究所
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2011/110426/ リリース本文(詳細)
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2011/110426/detail.html 図 A型インフルエンザウイルスの構造を示す模式図
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2011/110426/image/01.jpg