◇同じ距離を歩いても背が高い人は体重1kgあたりの消費エネルギーが少ない
人間が歩いたり走ったりするときに消費するエネルギーを古典力学でいう「仕事」としてとらえると、
強い追い風・向かい風や急な坂での重力など、外力の影響による違いは多少あるかもしれませんが、
基本的には消費エネルギーは「質量(体重)×移動距離」に比例するはずです。
単純に考えれば、同じ人が時速8kmで30分歩いても時速4kmで1時間歩いても移動距離は
同じなので消費エネルギーは等しく、重い荷物を持って歩けばその分消費エネルギーは増え、
身長150cmで体重50kgの人と身長170cmで体重50kgの人が同じ距離を歩けば、
体重と移動距離が同じなので消費エネルギーは等しいはず、ということになります。
しかし、実際には背が高い人と背が低い人では、背が高い人の方が体重あたりの消費エネルギーが
少ない「燃費のいい」歩き方をしていて、歩くことによる消費エネルギーを計算するには体重と移動距離
だけでなく身長もファクターとして取り入れる必要があることが明らかになりました。
詳細は以下から。
WHY BIG PEOPLE WALK MORE ECONOMICALLY THAN SMALL PEOPLE -- Knight 213 (23): i -- Journal of Experimental Biology
http://jeb.biologists.org/cgi/content/short/213/23/i なぜ背の高い人は燃費がいいのか?その秘密はストライドの大きさにあることが、南メソジスト大学の
臨床生理学と生体力学の准教授Peter Weyand博士らの研究により明らかになりました。
「脚が長いから効率がいい」と言われると当たり前のことのように思えるかもしれませんが、
歩く際の体重あたりの消費エネルギーの身長による違いを検証しその理由を解明した研究は
これが初めてです。
生物の代謝率(体重あたりの基礎代謝)は体重の3/4乗に比例するというクライバーの法則は
人間にも当てはまり、小さな子どもほどじっとしているときに1グラムの細胞、1kgの組織あたりが
使うエネルギーは大きくなっています。これには、若い個体では成長のためにエネルギーが
使われることや、大きな成体より小さな成体の方が体重に占める構造質量の割合が大きい
ことが関係していると考えられています。脂肪などの貯蔵質量はほぼメンテナンスコストが
かからないのに対し、構造質量に含まれるのは心臓や脳、消化器など機能を維持するのに
エネルギーを使う組織です。また、ほ乳類などの恒温動物では、大きな動物の方が熱容量が
大きく体重あたりの表面積が小さい(ベルクマンの法則)ため体温維持に使う体重あたりの
エネルギーが小さいとも言われています。
(
>>2以降に続く)
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▽記事引用元 GIGAZINE
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20101115_tall_people_walk_economically/ (
>>1の続き)
では、じっとしているときの基礎代謝でなく、運動に使われるエネルギーではどうなのでしょうか?
背が高い人は、小さな子どもや背が低い大人とくらべ、体重1kgあたりの消費エネルギーが少ない
「効率のいい」運動をしているということは、以前から経験則的に言われてきたことです。
これを検証するため、Peter Weyand教授はBaylor College of Medicineの研究者らと協力し、
5歳から32歳までのさまざまな体形(体重15.9kg〜88.7kg、身長107cm〜183cm)の男女の
歩行を分析しました。
Weyand教授らはまず、被験者が秒速0.4mから秒速1.9mの速度でトレッドミルの上を歩く様子をビデオ撮影し、
同時に酸素吸入量と二酸化炭素排気量も測定しました。呼吸した酸素と二酸化炭素の量により歩行中に
合計でどれだけの熱量を使ったかを計算でき、そこから基礎代謝(じっとしていても消費される熱量)を
引くことで、歩行に必要なエネルギーを求めることができます。
次に、歩幅やペース(時間あたりの歩数)、一歩あたりで足が地面に着いている時間の割合など、
被験者の「歩き方」を分析したところ、身長が違う被験者でも「歩き方」は変わらないということが
明らかになりました。これは、身長110cmの5歳児を身長2mに拡大すれば、身長2mの大人とまったく
同じ歩き方をするということで、水泳やマラソンなどのスポーツでは泳ぐのや走るのが「うまい」
アスリートは一般の人とくらべ消費エネルギーの少ない「無駄のない」動きをしているといいますが、
普通に歩く分には子どもと大人、背が低い人と高い人の間で「うまい下手」の違いはないということになります。
背が高い人は歩くのが上手だから燃費がよい、というわけではないのです。
Weyand教授らは次に被験者それぞれがもっともエネルギー効率のよいペースで歩いているときの、
一歩あたりのエネルギー消費量を比べ、身長に関係なく一歩あたりに必要なエネルギーは等しい
ということを発見しました。そして、被験者の身長とある距離を歩くのに必要な最小エネルギーを
プロットしたところ、傾度がほぼマイナス1の、きれいな直線の逆比例のグラフを得ることができたそうです。
つまり、A地点からB地点まで1000歩でたどりつくことができる人と、同じ距離を移動するのに
1200歩かかる人では、1200歩の人のほうが歩数が多い分だけエネルギーを消費することになります。
子どもと散歩していて、すぐに疲れて「抱っこ」と言ってくることがあるかもしれませんが、
甘えたくて疲れたふりをしているわけでも、無駄な動きが多いためすぐ疲れるわけでもなく、
同じ距離を歩いても大人より歩数が多いので疲れるのが早いとも考えられるようです。
この発見に基づきWeyand教授らのグループでは身長・体重・移動距離により消費エネルギーを
求めることができる等式を導き出したそうです。この式は現在のところそれぞれの人が最も
エネルギー効率のよい歩き方をした場合の消費エネルギー、つまりその距離を歩くのに必要な
最小の熱量を求めるものですが、今後あらゆる速さに対応できる計算式もつくっていきたいとのこと。
「医療の現場での臨床応用性もあり体重管理に役立つほか、代謝率は戦場での兵士の生理学的状態に
影響するため、軍も興味を示しています」とWeyand博士は語っています。
世界的に見ると日本は肥満人口が少ないと言われていますが、食習慣や生活習慣にくわえ、
日本人の脚の短さもわずかながら肥満率の低さに貢献していたりするのかもしれません。
(引用ここまで)