独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ヒトの脳血管内皮細胞に、
神経細胞(ニューロン)と異なるユニークなアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)が発現していることを初めて発見し、
このAPPがアルツハイマー病と深いかかわりを持つ老人斑の主成分であるアミロイドβペプチド(Aβ)※1を産生することを明らかにしました。
理研基幹研究所(玉尾皓平所長)システム糖鎖生物学研究グループ(谷口直之グループディレクター)
疾患糖鎖研究チームの北爪しのぶ副チームリーダー、立田由里子テクニカルスタッフらと脳科学総合研究センターの西道隆臣チームリーダー、
福島県立医科大学の橋本康弘教授、本多たかし教授らとの共同研究による成果です。
アルツハイマー病は、最も代表的な老人性認知症疾患で、脳実質にAβが蓄積することが原因で発症すると考えられています。
一方で、実に9割近いアルツハイマー病患者で、脳血管壁にもAβが蓄積することが確認されています。
Aβは、APPが2種類のプロテアーゼで切断されて生じることが分かっていますが、
脳実質に蓄積するAβは、主にニューロンに発現するAPP(APP695)から生じると考えられる一方で、脳血管壁に蓄積するAβの由来は不明のままでした。
研究グループは、脳血管内皮細胞にニューロンと異なるAPP(APP770)が発現していることを発見しました。
APP770もAβを産生することが分かり、このAβが脳血管壁に蓄積し得ることを明らかにしました。
さらに、Aβの生成過程でAPP切断産物として生じ、血清やヒト脳脊髄液に分泌されるsAPPβも、
ニューロン型(sAPP695β)と脳血管内皮細胞型(sAPP770β)が存在し、相互識別が可能であることも見いだしました。
血管内皮細胞型APP770由来のsAPP770βは、血管内皮細胞が何らかの障害を受けて量的に変化することが考えられるため、
今後、アルツハイマー病や脳血管性認知症などの認知障害の新たな診断マーカーとなることが期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』の2011年1月号に掲載されます。
▽記事引用元 理化学研究所プレスリリース(リンク先に詳細あり)(平成22年10月21日)
http://www.riken.go.jp/r-world/research/results/2010/101021/index.html