超伝導人工原子を組み込んだ新量子光学デバイスを開発
-単光子増幅器、人工原子を並べた量子メタ材料、光スイッチなどへの応用も-
◇ポイント◇
* 量子コンピューターの基本回路である「超伝導量子ビット」を人工原子として使用
* 巨大な人工原子を1次元伝送線に結合した固体電子素子で、自然原子と同効果を実現
* 「量子計算・量子暗号」を含む量子コンピューター、量子情報処理などの素子へ応用
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、巨大な人工原子となる超伝導量子ビットと、
マイクロ波が通過する伝送線(導波路)を強く結合させて、固体電子素子上で新たな量子光学
デバイスを実現しました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)巨視的量子コヒーレンス研究
チームの蔡 兆申(ツァイ ヅァオシェン)チームリーダー(日本電気株式会社グリーンイノベーション
研究所主席研究員兼務)、日本電気株式会社(遠藤信博 代表取締役 執行役員社長)量子計算
チームとの共同研究による成果です。
「自然原子」は、その種類によってそれぞれ異なった量子準位を持っており、レーザー、電磁誘起
透明化、光速度の遅延などを実現する基本原理になっています。一方、集積回路の微細加工技術
が飛躍的に発展した結果、「人工原子」と呼ぶ巨大な原子が固体電子素子上で開発されています。
この人工原子は、自然原子と同様に量子準位を備えるとともに、ほかの電子素子と微細加工技術
によって強く結合させることができるため、外部から直接、人工原子を制御することが可能となります。
研究グループは、たった1つの超伝導量子ビットを直径約1μm(マイクロメートル:1μmは10^-6m)
もある巨大な人工原子と見立て、アルミニウムでできた伝送線に結合するだけという極めて単純な
固体電子素子を作製し、自然原子と光子が引き起こす相互作用と同様の量子光学現象を観測する
ことに成功しました。具体的には、この人工原子が自然原子と同様に光子を散乱させる「巨視的
量子散乱」を引き起こし、入射したマイクロ波領域の光子をほぼ完全に反射する現象や、単一光子
レベルでの誘導放出と増幅(メーザー)を観測しました。さらに、この固体電子素子の外部磁束バイ
アスの条件を変化させた結果、外部からの光(マイクロ波)の照射によって人工原子が光スイッチ
として動作し、伝送線を伝播する光が通過・遮断(オン・オフ)することを発見しました。この光スイッチは
エネルギーの損失が無く、現在注目を集めている光子を量子ビットに用いた量子計算機などへの
応用が期待できます。
これら一連の研究成果は、米国の科学雑誌『Science』(2月12日号)および米国の学術雑誌
『Physical Review Letters』オンライン版(5月6日号)に掲載されるとともに、近く『Physical Review Letters』
オンライン版に掲載予定です。
理化学研究所プレスリリース
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2010/100510_2/detail.html Ultimate On-Chip Quantum Amplifier
Phys. Rev. Lett. 104, 183603 (2010)
http://prl.aps.org/abstract/PRL/v104/i18/e183603 Resonance Fluorescence of a Single Artificial Atom
Science 12 February 2010: Vol. 327. no. 5967, pp. 840 - 843
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/327/5967/840