【心理】なぜ多くの人が気候変動の脅威から目を背けるのか?

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177名無しのひみつ
 ここにひとつ、目前にせまった危機を警告し、その危機を回避する方法を説く
新しい科学理論があると思ってほしい。その理論が予測する危機は頻繁にメデ
ィアで報道され、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、グラハム・ベルや
H・Gウェルズら各界著名人、ノーベル賞受賞者たちも支持にまわった。研究資金
はカーネギー財団やロックフェラー財団がバックアップし、ハーヴァード、スタン
フォード等の各大学も、この研究において重要な役割を担っていた。この説が唱
える危機に対応するための立法措置は多数の州でとられ、米科学アカデミー、
全米医師会、米学術審議会の支援をも受けた。イエス・キリストも生きていてい
たらこの研究を支援していただろうといわれたくらいだ。
 こんな調子で、この理論をめぐる研究、立法措置、世論の形成は、ほぼ半世紀
にわたって行われた。この理論に反対する者たちは批判の集中砲火で黙らされ、
反動的だの、現実に目を背けているだの、無知蒙昧だのと揶揄された。しかし、
いまの常識をもって顧みれば、この理論に反対した者がごく少数しかいなかった
ことには驚きを禁じえない。それどころか、この理論の名においてとられた行動に
よって何百万人もが死に追いやられた。
 この理論とは、優生学である。その歴史は恐怖に満ちているため―そして、巻き
こまれた人々にとっては、あまりにも理不尽なできごとであったため―いまではめ
ったに語られることがない。

地球温暖化理論が優生学と同類だといっているわけではない。だが、それぞれの
構図に見られる共通点は、けっして表面的なものにとどまらない。注意を喚起したい
のは、データと問題のオープンで率直な議論が抑制されていることである。

マイクル・クライトン
『恐怖の存在』付録1「政治の道具にされた科学が危険なのはなぜか」