<淀川水系に医薬品残留物 京大教授ら検出 藻類実験で毒性も>2009年6月22日
大阪、京都、滋賀の3府県にかかる淀川水系で、解熱剤や抗生物質など医薬品類の残留物質が77種検出され、
藻類を使った実験で一部の物質に強い毒性が観察されたことが21日、京都大の田中宏明教授(環境工学)らの
研究グループの調査で分かった。医薬品物質の水環境への混入は厚生労働省などの調査で判明しているが、
生物への実験結果が明らかになるのは初めて。食物連鎖による生物濃縮で人体への影響も予想されるため、
田中教授らは早急な対策を訴えている。
調査は、淀川水系の本川、支川、下水処理場付近の計33地点で採水し、京大付属流域圏総合環境質研究センター
(大津市)で分析した。河川水からは、強心剤や高脂血症剤、抗不整脈剤、胃酸抑制剤など77種の物質が検出され、
調査地点でほぼまんべんなく医薬品物質が出たという。
さらに、生態系への影響を調べるため、藻類のミカヅキモを使い、淀川水系で検出されたものと同じ医薬品物質を与えて、
それぞれ成長のスピードを調査。その結果、解熱鎮痛剤や抗生物質など5物質が、藻類の成長を阻害する強い毒性を
持っていることが判明した。
中でも薬用せっけんなどに含まれる物質「トリクロサン」が、除草剤と変わらないほど強い毒性がみられたという。
現段階では、ミカヅキモのみの生態調査しか実施していないため、他の水生生物への影響は不明。
田中教授によると、病院や家庭で日常的に使用される医薬品は、主に屎尿(しにょう)として下水に排出。
従来の下水処理技術ではほとんど除去できず、河川にそのまま流入する。
畜産業や水産業でも、感染症防止や肉質向上などの目的で多くの医薬品が使用されており、
処理されず直接環境中に放出されている可能性があるという。
“見えない汚染”対策後手 食物連鎖 人体に影響も
医薬品物質の水環境への混入は、欧米では“見えない汚染”として実態調査や対策が進んでいるが、
日本国内ではまったく対策が取られていない。医薬品の副作用など、人体への直接的な影響にばかり目が向けられ、
体外へ排出されたときの影響については見過ごされてきた。
英国では1990年代後半、下水処理場の下流域で魚の奇形化やメス化する現象が問題となった。
水質調査の結果、女性が使用する「避妊薬」が下水処理場で除去しきれずに河川に流入した可能性が強いことが判明。
このため、欧州連合では2006年、新薬の開発で環境への影響評価を行うことを指針で定めた。
一方、日本では水道の浄水場で医薬品物質はほとんど除去できており、飲み水には問題はない。
しかし、下水処理技術が未整備のため、食物連鎖による生物濃縮の結果、
医薬品に汚染された生物を人が食べ続けることへの危険をはらむ。
例えば、抗がん剤はがん細胞の増殖を食い止めるために細胞分裂を抑制する作用がある。
胎児の場合、母体内で細胞分裂を繰り返すため、母親が医薬品に汚染された生物を摂取す
れば、胎児への影響も考えられる。
また、新型インフルエンザの流行で治療薬「タミフル」の効果が注目されているが、タミフルが人間の体内で
分解されるのはわずか5%でしかない。その大半はそのまま環境中に放出されるため、水鳥がタミフルの
混入した河川の水を飲み、体内にある鳥インフルエンザウイルスが、タミフルに抵抗力を持つウイルスに変異する危険性もある。
環境省によると、医薬品物質は水溶性が高いことから、分離が難しく従来の機器では検出されなかった。
分析技術の進歩により微量物質が測定できるようになったことで、ここ数年急速に研究が進んでいるという。
しかし、河川については国土交通省、飲み水については厚生労働省、環境評価については環境省が管轄するなど、
縦割り行政の弊害があって対策は進まない。現状でも「特に指針を策定するなどの検討の動きはない」(環境省環境管理技術室)という。
(2009年6月22日 08:11)
▽記事引用元:産経関西(
http://www.sankei-kansai.com/)
http://www.sankei-kansai.com/2009/06/22/20090622-011406.php