30年来の常識を覆し、植物に新たなステロール生合成経路を発見
- 動物と同じステロール生合成経路が植物にも存在 -
ステロールは、生物に広く共通して存在し、細胞膜の構成成分や、ステロイドホルモンの前駆体として
生命活動に必須な化合物ですが、動物と植物の間でその生合成経路が異なるとされていました。
動物ではラノステロールという生合成中間体を経て動物ステロールが生合成されるのに対し、植物では
シクロアルテノールという生合成中間体を経て植物ステロールが生合成されます。この反応が、動物と
植物でのステロール生合成の分岐点であると、教科書にも記載されています。しかし、研究チームは
2006年、オキシドスクアレン閉環酵素(OSC)の一種であるシクロアルテノール合成酵素(CAS)遺伝子に
加えて、ラノステロール合成酵素(LAS)遺伝子が植物にも存在することを明らかにしました。
研究チームは、LASが実際に植物で機能してラノステロールを合成し、ラノステロール経由で植物ステ
ロールが生合成されているのかを解析しました。具体的には、シクロアルテノールとラノステロールの
形成機構が異なることに注目し、重水素で標識したメバロン酸(MVL)の追跡実験を行いました。
その結果、植物ステロールがシクロアルテノール経路に加えて、ラノステロール経路でも生合成される
ことを発見し、さらにこれらの経路の寄与率がそれぞれ99%、1%程度であることを明らかにしました。
植物におけるラノステロール経路の寄与は、通常の生育条件ではわずかですが、病気や傷害などの
緊急事態には多く働くことが分かってきました。今後、2つの経路を植物がどのように使い分けている
のかを明らかにすることで、有用なステロイド化合物の生産性の向上や病傷害に強い植物の育成に
貢献できると期待されます。
理化学研究所プレスリリース
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2009/090113/detail.html PNAS
Dual biosynthetic pathways to phytosterol via cycloartenol and lanosterol in Arabidopsis
http://www.pnas.org/content/early/2009/01/12/0807675106.abstract